星空兄妹と別れたマナは、襲来してきたモンスターを破壊しつつ先へ進んでいた。
 今のところは難なく処理できているものの、いつ手強いのが出てくるかわからない状況である。

 ―敵もそろそろ厄介になってくるころか…って、あれは?

 道を進んでいると、不安そうな顔をしてここを彷徨っているさっきのなのはよりもだいぶ小さい幼稚園児くらいの年齢の女の子の姿が見えた。
 恐らく親あるいはそれに近い方から離れてしまい、迷子になってしまったのだろう。
 お人好し気質のマナにはそれを見捨てる事ができず、声をかけてみた。


 「ねぇ、こんなところでどうしたの?」
 「お、おかあさんとはぐれちゃったの…でも、おねえちゃんだれ?」

 案の定母親からはぐれてしまった子であった…仕方がないとはいえ、マナのことも警戒しているようだ。

 「おっと…あたし、プリキュアの一人でキュアハートと言います」
 「プリキュア…おー!」

 とりあえず、自身がプリキュアである事を話すとその子は一瞬で歓喜の表情となる。
 プリキュアのような存在は女児層にはあこがれだからである。
 もっとも女児たちが支持しているのはあくまで架空の存在でしかないはずではあるものの。

 「ありがとう…だけどここはモンスターが湧いてきて危ないから、とりあえずは落ち着くまで安全な場所へ避難しよう?」
 「わかったの…でもおかあさんが…」
 「でも、お母さんを探そうとしてモンスターに襲われて死んじゃったら元も子もないでしょ?だから、まずは避難…」

 しかし、マナがその女の子の相手をしている間にも脅威がやってきた。
 巨大な一眼レフカメラのような『No.25 重装光学撮影機フォーカス・フォース』である。
 その襲来に気がつかない二人を横目にそれはレンズを合わせると…



 ――パシャッ!



 眩いばかりの強烈な光を放った。


 ―うっ、突然眩しい光が…それに、動けない!?


 光が収まった時、まるで写真が現像されたかのように二人は体を動かせない状態となってしまう。
 プリキュアであろうとまったく動けず、次も来るであろう攻撃をよける事ができなくなって絶体絶命の危機に陥ってしまった。










 遊戯王デュエルモンスターズ New Generation ×ドキドキ!プリキュア 中編
 『プシュケローネとの邂逅』










 そしてフォーカス・フォースのレンズに光が収束し、二人を攻撃する準備は整いつつあった。

 ―拙い…このままだとやられる!…早く、動いて!!

 しかし、いくら動かそうとしても一向に身体が動く気配は無い。
 フォーカス・フォースの光の収束が終わり、二人に向かって巨大なエネルギー砲が無慈悲にも放たれてしまう。


 ―駄目だ、一向に身体が動かせない…六花、それにみんな…ごめん…


そのエネルギー砲が二人に迫り、マナも諦めかけたが…









 「二人を護れ、ホープ!『ムーンバリア』!」

 機械の羽を持つ金色の装飾を身に付けた白い戦士が動けない二人を護るようにフォーカス・フォースの前に立ちはだかり、大きな光の障壁を発生させてエネルギー砲をかき消した。
 救援に駆け付けたこのモンスターは『No.39 希望皇ホープ』といい、これを召喚したのはまるで海老をイメージしたような奇抜な髪形が特徴的な少年であった。

 「かっとビングだ、オレ!!ホープに『ZW−風神雲龍剣』を装備!行けぇ、ホープ!『ホープ剣・トルネード・スラッシュ』!」
 『トゥオォォォォォ!!』


 
 ――ズシャァァ!!



 彼が追加で召喚した胴長の龍が剣に変形し、それを装備したホープがフォーカス・フォースを一刀両断して爆発四散させるのであった。

 「あ、やっと動ける…」
 「こ、こわかったよおお」

 フォーカス・フォースが破壊された事で二人も拘束から解放されたのであった。


 「ありがとうございます、助かりました…」
 「困った時はお互い様だろ?オレは九十九遊馬、よろしくな!」
 「あたしはキュアハートと言います。そうだ、危なかったところを助けてくれたから…」

 ホープ使いの少年がそう名乗ると、それに合わせてマナも自己紹介する。
 そしてマナは1枚のカードを取り出すと、それを遊馬へと手渡した。

 「こ、このカードは…」
 「助けてくれたお礼といったところ…使えるかどうかはあなた次第だけれどもね」
 「ありがとな!大切に使わせてもらうぜ」

 遊馬はマナからそのカードを受け取ると、早速自身のデッキに投入したようである。



 「後はこの子をどのようにして避難させるかだけど…うっ、流石にこいつらから守りながら闘うのはしんどいような…」
 「あわわわわ…」

 埠頭へ続く道を見ていると、今度は金色の装飾を纏った人型のゴキブリ剣士『インヴェルズ・ローチ』が大量に迫っていた。

 「いくらなんでも多すぎる…後ろはどう?」
 「くっ…駄目だ!前だけじゃなくて後ろからもぞろぞろと…」

 どうやら後方からもやってきており、挟み撃ちにされた格好となってしまったようだ。
 しかも前方、後方ともに100体はいるのではないかという数である。

 「キュアハートのおねえちゃん…」
 「大丈夫、あなたはあたしたちが守ってみせるから」
 ―とは言ってみたものの、この数をこの子を守りながら体術で戦うのは無理がある…まだ力を温存しておきたかったけどアレを使うしかないか…いや、後ろから何かが来る!?

 「イビルジョー!あのGどもを喰らい尽くせぇ!!」
 『ガァァァァァ!!』


 しかし、マナがカードを取り出そうとした瞬間…後方から唸り声が聞こえてきた。
 女の子の事も考えると少し危険を感じたため、マナは女の子を抱き寄せて近くの建物の入口に隠れる。

 そこで彼女が見たのは太古の世界で生態系の頂点に君臨していたであろう『暴虐竜−イビルジョー』がローチの大群を貪り喰らう瞬間だ。
 力の差が違いすぎるためか、いくらローチの物量が多くてもまるで相手になっていないようだ。
 そしてそれに続くように戦車のようなD・ホイールも姿を現すのであった。


 ―あれはイビルジョーに戦車のようなゴツい重量級のD・ホイール…といったらWRG1で素晴らしいチームプレイを見せてくれたあの人ですね。



 ――ドカッ、バキッ!



 ローチの大半は喰われているものの、流石に僅かに喰い残した分がまだ残っていた。
 しかし既に数体程度しかおらず、マナは女の子を抱きかかえつつ蹴りでそれを殲滅する。
 そしてその重量級D・ホイールが停止したため、乗っているD・ホイーラーに話しかけてみた。
 ちなみに遊馬の方もホープで応戦している模様である。

 「あなたは…チームレックスの石垣善次郎さんですよね?」
 「見ない顔だが、知ってくれていてありがとな!それに俺だけじゃねぇ。キョウヤにマイカ、チームYAMATOの連中も別の地区でのモンスター掃討に乗り出しているぜ!」
 「あたしはキュアハートといいます。チーム遊戯王とのデュエルは最高でした!…それは置いておいて、ここの救援に駆けつけてくれてありがとうございます」
 「オレは九十九遊馬!…まさかあの善次郎さんが来てくれるなんて!」

 やはり彼はチームレックスの善次郎で、他の二人に加えてチームYAMATOの者たちも殲滅戦に参加してくれているようである。
 彼はWRG1にて出すことが困難なイビルジョーをチームの作戦により見事に召喚し、クリムゾン・ノヴァVSイビルジョーという好カードを見せてくれたため、チームレックスの善次郎の名を知るものは童美野町の住人でなくても多いのだ。
 ちなみに遊馬も自己紹介しつつ、彼の登場に歓喜の表情をしていた。

 「へへっ、とにかくここは俺が引き受ける!」

 ローチの大群をあっさり喰らったイビルジョーの使い手である善次郎…この方がいる限りここは安泰だろう。

 「すみません、任せました!…あ、遊馬?モンスター掃討以外にそっちに用事ってある?」
 「え…特にねぇけど?」

 「それじゃあ…ごめん!あたし埠頭の方でやるべき事があるんだ。この子を安全な所まで誘導してくれないかな?」
 「お…おう、別に構わないぜ…それにあのカードをくれたしな」

 遊馬はマナのそのお願いに少し困惑しながらも了承する。

 「おねえちゃん…いっちゃうの…?」
 「ごめんね、あたしにはやらなきゃいけないことがあるの。お母さんはそのお兄ちゃんが探してくれるみたいだから大丈夫だよ!」
 「そうだ、任せとけ!」
 「わ、わかったの…でもたすけてくれたとはいえだいじょうぶかな、このひとで

 マナは遊馬にその女の子を託す。
 しかしながら、その子が失礼な事をのたまっているのは気のせいだろう。

 「アンタのやるべきこと、上手くいくといいな!今度会う時があればデュエルしようぜ!」
 「ありがとう、その時はよろしくね!あたしはこれで!」
 「おう!かっとビングだぜ!」

 そうしてマナは彼らに別れをしつつ、先へ進んでいくのであった。
 ちなみに『かっとビング』とは一種のチャレンジ精神の事らしいのだが、マナにはその意味がよく伝わってはいないだろう。









 ―――――――――――――――――










 場面は変わって、埠頭へ続く道。
 ここでは先行していたチーム遊戯王の不動遊星の前に甲虫のような印象を持つ黒い外装を纏い、ムカデのような兜を身に付けた謎の魔女が立ち塞がっていた。

 「くっ、障壁か…ここはそう簡単には通してくれないようだな」

 どうやら遊星は彼女の杖から発せられた障壁のせいで、足止めをされているようである。

 「うふふ、先へ進めなくて歯がゆいでしょう?ここから先へ進みたければ貴様の持つスターダストとレッド・デーモンズを渡すことね…」

 彼女が要求するのは遊星のエースモンスターである『スターダスト・ドラゴン』と『レッド・デーモンズ・ドラゴン』のようだが、いったい何を企んでいるというのか。
 どういった目的にしろ、遊星にとっては大切な仲間であるそのカードたちを『はい、そうですか』と渡すわけにはいかない。

 「ふざけるな!お前などに俺の仲間は渡さない!」
 「そう…ならば、ここで我が禁術の糧となっていただくだけよ…」

 二人は今にも激突せんとばかりに臨戦態勢に入った。










 ―――――――――――――――――










 ―先へ進むにつれ、いわゆる闇の瘴気が増えている気がする…

 遊馬たちと別れて先へ進んでいたマナは、今まで感じたものと比べ物にならないほどの瘴気を感じていた。
 その瘴気に嫌な予感を覚えつつ先へ進むと、赤いD・ホイールに乗った青年こと不動遊星とムカデのよう な兜が特徴的な魔女が対面しているのを見て取れた。

 ―あれは…デュエルモンスターズの世界での知られざる物語においての最重要人物『ノエリア』…しかもよりによってインヴェルズの骸を利用した儀式により、心も体の両面からインヴェルズによる侵喰が完了した時の姿『イビリチュア・プシュケローネ』!!


 あの魔女はデュエルモンスターズのカードとしては下級の儀式モンスターであるため、単体のスペックはそこまで高くはない。
 しかしながら異様なまでの闇の瘴気は彼女から発せられ、その出自からも今までに遭遇したどのモンスターよりも驚異となる存在である事がマナには感じ取れた。

 その世界において様々な所業を引き起こしたノエリアであるが、それはトリシューラに代わる戦力を求めようと親友であるナタリアとともに『インヴェルズ』の召喚儀式を行ったものの失敗…それが原因でナタリアは死亡し、ノエリアもインヴェルズの思念に取りつかれた事がきっかけであり、彼女も根は善人なのだ。

 その証拠に魔轟神による戦争の終結時には身寄りのいなくなった孤児を引き取ったり、その後もヴェルズの邪念から世界を守るべく降臨した星の騎士団セイクリッドの一人『セイクリッド・カストル』の捨て身の特攻によってインヴェルズの邪念から解放された彼女が今までの所業を悔い改めて自身の魂を生贄とした術で娘のエミリアを蘇生した後、儀式の力に引き寄せられた絶対捕食王のなれの果て『イビリチュア・ジールギガス』から娘のエミリアと親友の息子アバンスを護るために最後の力を振り絞ってこれを倒し、自身の儀水鏡の杖を二人に託して息を引き取ったということがあるからだ。

 とはいえ、あの彼女の姿はインヴェルズにより完全に支配された時の姿であるプシュケローネ。
 しかもデュエルモンスターズのモンスターとして実体化したものだから、マナの予想が正しければ実際はファントムたちの手中にあるはずである。
 そうなると、根がお人好しなマナには放ってはおけない。

 ―遊星さんの場合は倒すことはできても救ってあげられる可能性は低い…奴との因縁の前にやらなきゃいけないことができたみたいだね…

 するとマナは勢いを付けて飛び、プシュケローネに向けてとび蹴りを放つことで臨戦態勢となった二人の前に乱入を試みた。

 「はぁっ!」
 「そうして貴方の…誰だ!



 ――ドシュッ!



 そこでマナの放ったとび蹴りはプシュケローネの障壁により止められたため、その勢いを利用し後方宙返りして二人の前に姿を現した。
 

 「みなぎる愛、キュアハート!!」
 「お前はあの時、星空たちと一緒にいた…どうやら敵ではないみたいだが」
 「あ、一瞬通りがかっただけなのに覚えてくれて光栄です」


 敵の前なので、とりあえずポーズをとりつつも名乗るマナ。
 突然の乱入者に遊星は少し驚いた態度をとるが、マナは動じずにプシュケローネの方を見る。


 「遊星さん…本来なら埠頭の建造物に用があるのですが、それより先にやるべきことができました。ここはあたしが引き受けます!」
 「…願ってもないことだが、いいのか?」
 「…あの人をファントムとインヴェルズから解放させてあげたいですから」

 すると遊星はある事に気がついた。

 「インヴェルズということはあの魔女はノエリア…いや、この姿はプシュケローネだったか。俺には彼女を倒す事ができたとしても救うことは難しそうだな…」
 「二人で話しているところ悪いけど、私の障壁を超えられるのかしら?」


 放置気味だったことに業を煮やしたのか、プシュケローネは二人を挑発していく。
 確かに遊星は彼女の発する障壁のせいで足止めされていたのだから。


 「くっ、確かにその障壁に足止めされていたのは否定できない…どうする気だ?」
 「そこであたしが突破口を作ればいいだけです」

 ―流石に出し惜しみして結果的に彼の邪魔になるようなことは避けたいから、ここでモンスターを出させてもらうよ。
 
 「ほぅ?そこの小娘に何かできると?」
 「一時的にでも障壁を破ります…遊星さん、話し終えてから3秒後にエースモンスターをお願いできますか?」
 「…成程、そういうことか。試してみる価値はありそうだな」
 

 マナは彼女に対し『壁を破る』宣言をしつつ、遊星に手短に作戦を話して1枚のカードを取り出す。
 遊星はすぐに察したようで、D・ホイールに乗りつつカードを1枚取り出した。


 そして3秒後…


 「いくよ、ハート・アース・ドラゴン!『ハート・ブレイズ・キャノン』!!」
 『ゴォォォォォ!!』
 「頼んだぞ、スターダスト!『シューティング・ソニック』!!」
 『キョァァァァ!!』



 ――ポフュゥゥゥ!!



 ここでマナが召喚したのはハートつながりなのか胸部から心臓部が露出し、黒い東洋の龍を彷彿とさせる禍々しいモンスター『No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon』である。
 遊星も同時に『スターダスト・ドラゴン』を召喚すると、ハート・アース・ドラゴンは口から火炎砲、スターダストは音波の光線を吐き、それらが混ざり合い障壁を打ち砕いた。

 「何、障壁が!!」
 「今です!先へ進んでください!!」
 「すまない、ここは任せたぞ!!」



 障壁が破られるとすぐに遊星の乗ったD・ホイールは発進し、二人を残して埠頭の方へ進んでいった…ちなみにここからだともうゴールは近い。
 遊星と別れ、マナとプシュケローネの二人が対峙する事となった。
 すると、マナは両手をハートの形にしつつ…

 「…愛を無くした、悲しい魔女さん!このキュアハートが、あなたのドキドキ取り戻してみせる!!」

 このように決め台詞をプシュケローネに対し言い放つ。


 「二人がかりとはいえ私の障壁を破壊したのはお見事よ…だけど、私のドキドキを取り戻してみせると?笑わせてくれるわ」


 一方でプシュケローネは歪んだ笑みを浮かべて障壁を破壊した事には称賛を贈りつつも、その決め台詞を一蹴する。
 ファントムとインヴェルズにより二重に侵喰されているためか、一層不気味に感じられる。


 「それによくもまぁ、折角の供物を…まぁいいわ、貴方もそれに負けないほど供物として捧げるのには上質そうだからね…捕獲して差し上げようか、デュエルでね」

 どうやら遊星の2枚のエースモンスターは供物としてささげるために要求したもののようであり、邪魔された事により対象をキュアハートことマナに変更したようである。
 そして闇の瘴気が彼女の腕に集まってきて、それは虫と魚を合わせたような何かをイメージしたような生物感の強いデュエルディスクとデッキとして実体化していった。

 「デュエルとは願ったり叶ったりだね!でも、思い通りにはさせません!このデュエルに勝利して、ファントムとインヴェルズの魔の手からあなたを救ってみせる!」


 一方でマナの方もここはデュエルで決着をつける事を望んでいた。
 一見分からないものの、あの時のハート・アース・ドラゴンの召喚と攻撃で少し疲労していることもあってか、いくら自身がプリキュアとはいえこのままプシュケローネとまともにやりあっても五分五分かそれ以下。勝利を手にしたとしても、その後あの建造物に乗り込む体力が残せるとは思えないためである。
 そして、二人とも既にデュエルができる状態となった。
 それと同時に辺り一面が闇の瘴気で包まれる…いわゆる『闇のゲーム』状態となったようである。

 ―いわゆる闇のゲーム…プリキュアなら多少は負担が軽減されるとはいえ、油断は禁物かな…そもそも気圧されるつもりはないけどね。


 一方のプシュケローネは闇のゲーム状態になっても動じないマナに感心したような表情になるも、それはほんの一瞬ですぐにデュエルへと気持ちが切り替わる。


 「「デュエル!!」」


 キュアハート(マナ):LP4000
 プシュケローネ(ノエリア):LP4000




 「先攻は私がもらうわ、ドロー…ふん、モンスターをセット、カードを2枚伏せてターンエンドよ」


 最初のプシュケローネのターンはモンスターと魔法・罠をセットしたのみで終わる。
 初手ではまだ準備段階といったところで実にセオリー通りの動きともいえる。


 「あたしのターン、ドロー!」
 ―まだアレを出せる手札ではないけど、相手の伏せカードと手札を考えるとここは…

 「まずは手札からレベル1モンスター1体を捨て、レベル5チューナー『慈愛の調星師』を特殊召喚!」
 慈愛の調星師:DEF2100


 「ここで捨てられた『ポルン・ミツバチ』の効果を発動!デッキからレベル2以下の植物族モンスター『イービル・ソーン』を手札にサーチ、そしてそのまま召喚!」
 イービル・ソーン:ATK100


 「そしてイービル・ソーンをリリースして効果発動!まずは300ダメージを受けてもらうよ!」

 「ふん、この程度のダメージなど大したことはないわ…」
 プシュケローネ:LP4000→3700


 最初にダメージを与えたのはマナの方だが、このダメージが後の展開に影響を与えるのかはまだ分からない。
 とはいえ闇のゲームでダメージが実体化するのにもかかわらず、まったく動じないのは流石だろうか。


 「そうだね、あたしもそう思うよ…さらに、デッキから『イービル・ソーン』2体を攻撃表示で特殊召喚!」
 イービル・ソーン(×2):ATK100


 マナは皮肉で返しつつもさらに展開し、場はこの時点でレベル7シンクロなどを出せる状態だ。


 ―ここまで展開しても何も発動しないのはかえって気味が悪いけど…

 「ここで慈愛の調星師の効果を発動!1ターンに1度だけ自身のレベルを4つ上げるよ!」

 「それは邪魔させてもらうわ…レベル5以上のモンスター効果が発動した事でトラップ発動『邪念の斥候』。その発動した効果を無効にし、デッキからカードを1枚ドローさせてもらうわ…」

 ここでノエリアは不穏な気配を感じたのか、罠を使ってレベル上げを無効にしつつ自身は1ドローをする。
 対してマナは大して動じず、次の一手を考えていた。


 ―ここで無効にして『星態龍』の召喚を阻止してきたか…ここで『シャイニート・マジシャン』を出して固めるにしても、手札のアレとの兼ね合いを考えると微妙。だったら…

 「それならレベル1のイービル・ソーン2体にレベル5の慈愛の調星師をチューニングし、シンクロ召喚!風を操り聖杯と心を司る王子がここに君臨!現れろ『心王子シャルマーニュ』!」
 『ふっ…!』
 心王子シャルマーニュ:ATK1900


 ここで呼び出されたのはハートのスートを意識した赤を基調とした衣装に身を包み、聖杯のような柄の細身の剣を装備した中性的な王子様だ。
 レベル7のシンクロにしては攻撃力が少し頼りなさそうだが…


 ―セットモンスターは予想通りなら碌でもなさそうだけど、場に残すよりはマシかな…
 「バトル!シャルマーニュでセットモンスターに攻撃『ブラスティ・ハート』!」


 「攻撃されたのは『リチュア・エリアル』よ…リバース効果を発動し、デッキからリチュア・アビスを手札に加えるわ」



 ――バシュゥゥ!



 戦闘が成立しシャルマーニュの剣から発せられた突風により水色のストレートの髪の少女、エリアルはなす術もなく吹き飛ばされた。


 ―案の定、相手のデッキはリチュア…けどあの伏せカードは今まで発動しなかったことを考慮すると魔法・罠除去かもしれないから、この手札を考えると…
 「メインフェイズ2に入り、カードを1枚伏せてターンエンド」

 「待ちなさい。エンドフェイズ時、速攻魔法発動『サイクロン』!伏せたばかりのそのカードを破壊させていただこうかしら!」

 ここですかさずサイクロンを放つプシュケローネ。
 エンドフェイズ時にサイクロンのようなカードで伏せたばかりのカードを割る戦術は通称としてエンドサイクと呼ばれる。
 これは伏せたばかりのカードは次のターンにならないと使用できないため、その前のタイミングで破壊すれば、チェーン発動が可能な魔法・罠カードを発動させずに破壊できるという利点が大きい。


 ―よし、予想通りここでサイクロンが来た!
 「…リ・バウンドが破壊されました。ですが『リ・バウンド』が相手のカード効果で破壊され墓地へ送られたため、墓地から効果を発動し1枚ドロー!」

 「ちっ、破壊される事で効果が適用されるタイプの罠か。小賢しい真似を」


 しかし、このように破壊される事で効果が適用される罠にはそのセオリーは通用しにくい。
 見事、マナは相手のサイクロンを自身の損失なしに使わせることができたのである。
 とはいえ、マナの場には現時点で伏せカードはないことになる…

 
 「私のターン、ドロー…『リチュア・アビス』を召喚し効果発動。デッキから守備力1000以下のリチュアと名のついたモンスター『シャドウ・リチュア』を手札に加えるわ」
 リチュア・アビス:ATK800
 

 「くっ…」

 リチュア・アビスの効果を苦い顔をしながら通したという事は、恐らくマナは『エフェクト・ヴェーラー』のようなカードは握っていないということだろう。

 「そして手札から『シャドウ・リチュア』を捨て、効果発動。リチュアと名のついた儀式魔法カード『リチュアの儀水鏡』を手札に加え、発動!手札からイビリチュア・リヴァイアニマを生贄にし、リリースしたモンスターのレベルは8。儀式召喚DT(ダークチューナー) イビリチュア・ゴストローグ』降臨!」
 『イィーヒヒヒヒヒ!』
 DT イビリチュア・ゴストローグ:DEF0



 「儀式モンスターのダークチューナー…!?」

 ここでプシュケローネが儀式召喚したのは儀式モンスターでありながら闘いの王国においてアギトが使用した闇のシンクロ召喚『ダークシンクロ』を行うのに必要な『ダークチューナー』である。
 儀式モンスターのダークチューナーにより、どのような恐ろしいモンスターを呼びだすというのだろうか。

 「ゴストローグが儀式召喚に成功した時、墓地の儀水鏡と名のついたカード『リチュアの儀水鏡』を回収するわ。アハハ…見せてあげるわ、異界の邪神をね!レベル2のアビスにレベル8のゴストローグをダークチューニング!!」

 ゴストローグから8つの星が出てくるとアビスが苦しみながらそれに侵喰され、6つの黒い星と化す。

 「深淵に潜みし異界の邪神よ、現世の肉体に侵喰し世界を宵闇に染めよ。ダークシンクロ、降臨せよ『イビリチュア・クリトルアム』!」
 『オ…グオォォォォォォォ…!』
 イビリチュア・クリトルアム:ATK2600(レベル−6)




 ここでタコのような頭部、イカのような触腕を無数に生やした顔に蝙蝠のような翼など、いかにもクトゥルフ然とした禍々しく不気味な異形の存在が気味の悪い唸り声を出しつつ現れた。


 「こ、こいつは…」


 果たしてこのデュエルの行く末はどうなるのか……?










 後編へ続く 










 登場カード補足



 セイクリッド・カストル
 エクシーズ・効果モンスター
 ランク4/光属性/戦士族/攻1700/守 600
 光属性レベル4モンスター×2
 このカードがエクシーズ召喚に成功したターン、
 自分は通常召喚に加えて1度だけ、光属性モンスター1体を召喚できる。
 また、このカードが相手モンスターに攻撃したダメージステップ開始時、
 このカードのエクシーズ素材を全て取り除いて発動できる。
 ダメージ計算を行わずそのモンスターとこのカードを破壊し、
 破壊した相手モンスターの元々の攻撃力の半分のダメージを相手ライフに与える。



 慈愛の調星師
 チューナー(効果モンスター)
 星5/風属性/サイキック族/攻 0/守2100
 このカードは手札からレベル1モンスター1体を捨てて、手札から特殊召喚できる。
 1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動できる。
 このカードのレベルを4つ上げる。



 ポルン・ミツバチ
 効果モンスター
 星1/地属性/昆虫族/攻 600/守 100
 このカードが手札から墓地へ送られた場合、
 デッキから植物族・レベル2以下のモンスター1体を手札に加える事ができる。
 「ポルン・ミツバチ」の効果は1ターンに1度しか使用できない。



 邪念の斥候
 通常罠
 相手フィールド上のレベル5以上のモンスターの効果が発動した時に発動できる。
 その発動した効果を無効にし、デッキからカードを1枚ドローする。
 
 
 
 心王子シャルマーニュ
 シンクロ・効果モンスター
 星7/風属性/魔法使い族/攻1900/守1400
 チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
 このカードは1ターンに1度だけ戦闘では破壊されず、
 このカードの戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは代わりに相手が受ける。
 このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
 デッキからカードを1枚ドローする。
 


 DT イビリチュア・ゴストローグ
 儀式・ダークチューナー(効果モンスター)
 星8/水属性/悪魔族/攻 0/守 0
 「リチュア」と名のついた儀式魔法カードにより降臨。
 このカードが儀式召喚に成功した時、自分の墓地の「儀水鏡」と名のついた
 魔法・罠カード1枚を選択して手札に加える事ができる。
 1ターンに1度、手札を1枚捨てて発動できる。
 このカードのレベルを2つ上げ、デッキからカードを1枚ドローする。