――童美野町・噴水広場




 「11時まで自由行動デス、遅れないようにしてくださいね」
 「おお…ここが決闘者たちの聖地、童美野町か」

 ここは決闘者たちの聖地ともいえる『童美野町』の噴水広場。
 この場所に大貝第一中学校2年生一行は校外学習で訪れていた。
 赤紫の髪色で襟足の左右に癖があり、短いポニーテールの髪型が特徴の少女『相田マナ』もその生徒の一人である。

 「つい先日、この町のスタジアムでWRG1の決勝戦が行われたばかりなんだよね。そんな場所に来た以上はあたしも決闘者の端くれだから、すごく胸がキュンキュンするよ!」

 彼女が語るとおり、童美野中央スタジアムではWRG1の決勝戦が行われ、激戦の結果『チーム遊戯王』が優勝を果たしたのである。熱気が冷めやまぬ中、この場所に来たものだからつい興奮してしまうのも無理はないのかもしれない。
 周りにも機皇帝や龍皇がかっこよかったとか、坊主頭のド変態が気持ち悪かったとかそういった話をしているところもあるのだ。

 「会長にしては珍しくジコチュー気味だと?これは中々いいものだ」
 「マナ、興奮するのもわからなくはないけど少し落ち着きなさいよ」
 「おっと、これじゃ生徒会長としての示しがつかないね」

 一人変態らしいのがいるが気にしてはいけない。
 軽く叱咤された事で生徒会長であるマナは少し気を引き締める。
 彼女を注意したお嬢様結びの少女は生徒会書記の『菱川六花』といい、マナとは幼馴染の関係である。


 しかしながらこの辺は割と気温が高い。

 「会長!大変です、水城君が体調を崩しました!」

 そのため案の定というべきか、体調を崩した生徒が出てきてしまった。
 マナはすぐに向い、体調を崩した生徒である彼(?)を日陰になっているベンチで休ませる。

 「バスの中も暑かったし、気温も高いから体調を崩しちゃうのも無理ないよね」

 そしてマナは持っているタオルで彼の汗をぬぐい、休ませる。

 「ここなら空気もいいし、少し休んでよっか!」
 「あり、がとう…マナさん」

 そう促すと、彼はベンチに寄りかかって眼を閉じた。
 ―ふと思ったけど、水城君ってこうしてみると男の子とは思えないな。

 「何だこのタコ、コラァ!」
 「何がコラだ、お前よぉ!」
 「げぇっ!会長、二階堂君がよその学校の生徒と喧嘩してます!」

 一方、別のところでは二階堂という男子生徒と他校の生徒がいがみ合っていた。
 このままでは殴り合いでのけんかに発展しかねない。
 二木の看病を終えたマナはすぐに喧嘩の現場に向かう。

 「二階堂君、喧嘩の原因は何?」

 彼女はいきなり注意せず、原因から聞くことにする。
 事情を知らないまま注意したりすると、余計に事態が悪化するかもしれないからである。

 「こ、こいつがいきなりぶつかってきたんだ!」
 「何だと!お前らの方が!」
 「はいはい、速攻魔法発動『我が身を盾に』!」
 「「い゛」」

 すぐにでも暴力沙汰に発展しかねないと判断したのか、彼女はそれを体を張って止めさせた。

 「あなたたち、暴力はダメだよ?それにそんな小さな事でいがみ合ってたら…この童美野町の高層ビル群に笑われるよ?」
 「「お、おう…」」

 二人は困惑するも、うち他校の生徒の方が不満そうな顔をしてこうつぶやく。

 「でもなぁ…」
 「納得できないか、う〜ん…あ、そうだ」

 マナは一瞬口がどもるもすぐにある解決策が思いつき、腕に装着されたデュエルディスクを挙げてみた。
 これは二人の腕にも似たようなものが装着されていたからである。

 「ねぇねぇ、二人は今すぐここでデュエルできる?」
 「「…あ」」

 二人は同時にしまったと言いたげな顔をすると、すぐにデュエルの準備に入る。
 セリフがシンクロしていたため、案外悪くない関係かもしれない。



 「早速だけど、デュエルが始まるみたいだよ!みんな、気になったら見てみて!」
 「おお、いきなり聖地でのデュエルが見られるのか!会長のじゃないのは残念だけど」

 マナは一行を呼び掛けると、ぞろぞろと集まって行く。
 なんだかんだで聖地でのデュエルを見物したい方が多いのだろう。

 「ああ、もう!マナったら…本当にデュエル脳なんだから
 「六花、何か言った?」
 「な、何でもないわよ!」

 六花はマナの行動に呆れたのかぼやくも、当の本人にはよく聞こえていないようである。

 「地元のデュエリストとのデュエルか…腕試しにはもってこいだ!」
 「フン、どこの馬の骨か知らねぇが、返り討ちにしてやる!」

 そう言っているうちに二人は準備が終わったようだ。
 お互いに挑発しつつもデュエルが開始される。


 「「デュエル!!」」


 二階堂:LP4000
 他校生:LP4000









 遊戯王デュエルモンスターズ New Generation ×ドキドキ!プリキュア 前編
 『参戦!キュアハート!』









 「これでトドメだ!『イグニション・ホワイト・ドラゴン』でダイレクトアタック!!」



 ――ボオォォォ!!



 「ぬおおおお!?」
 他校生:LP1300→0


 デュエルは決着がつき、勝ったのは二階堂の方である。
 すると、他校生の方から二階堂に詰め寄ってくる。

 「ぐ、負けちまったか…その、ぶつかってしまって悪かったな」
 「いいさ、俺の方もよそ見してたし悪かった」

 デュエルが終わるとお互いに自分の非を認めて相手に謝罪した。
 すると彼はマナの方に向いて…

 「で…何モンだ、お前?」
 「おっと、自己紹介遅れちゃった。はじめまして!あたし、大貝第一中学生徒会長の相田マナです!よろしくね!!」
 「声でか!?あ…いい方法示してくれてありがとな」

 マナは相手から催促されるとすぐに自己紹介すると、他校生は感謝の意を示した。

 「昨日の敵は今日の友、一度デュエルをすればみんなお友達ってね!…そう上手くはいかない事も多いけどね
 「お、お友達!…げふん、俺は内藤だ。二階堂といったか、機会があればまたデュエルしていこうぜ!その時はお前に負けないくらい強くなってやるからな!」
 「ああ!その時は俺もまた強くなっているからな!」

 こうして喧嘩騒動は無事に丸く収まったのである。

 「すぎょい…いとも簡単に丸く収まった…」
 「もうマナったら…愛をふりまきすぎよ」
 「さすが俺たちの生徒会長!そこにシビれる!あこがれるゥ!」

 周りからも称賛(?)の声が上がる…マナは憧れの存在ということだろうか。
 一方でマナはそんな声を気にせず、二階堂の方に向く。

 「二階堂君、また腕上げたね。あのイグニションの効果の使い方、上手かったよ!」
 「そうだろ!相田、今度デュエルする時こそお前に勝ってみせるからな!」
 「ふっふー、そう簡単には負けないゾ!…あれ?」



 ――ざわ…ざわ…



 二人は仲良くデュエルの話題で語り合っていると、周囲がざわつき始める。
 童美野刑務所に服役中だったカードの強奪などの犯罪行為などを行っていた組織『ノーバディ』のリーダー『アギト=アルツベイン』が脱走したという情報がたった今発表されたからである。

 「だだだ、脱走だってー!?」
 「そ、そんな…折角の童美野町訪問の時にこんなことが起きるなんて」
 「ヤダ、どうなっちゃうの…」


 その一報を聞き、周りの人々が恐慌状態に陥る。
 ノーバディのしてきたことを考えれば、今度は自分たちに危害が及ぶかもしれないと考えているためである。



 「アギト…ね…」
 「何か言いたげだけど…どうしたの、マナ?」
 「話してなかったけど、今だからこそ言うね…半年か1年くらい前にね、あいつの組織『ノーバディ』のレアハンターにデッキを奪われた子と会ってね…あたしが見たその子はまさに身も心もボロボロだった」

 一方でマナとしては思うところがあるようだ。
 普段は明瞭な彼女にしては珍しく張りつめた表情で過去の事を語る。

 「涙を流して息が荒くなっていたその子の話を聞くと、黒フードの男に襲われたと言っていた。そして近くにそれらしき男がいたから、声をかけてみたら案の定そいつがあの子のデッキを奪って大ケガも負わせたレアハンターだった。そこでその子のデッキを巡ってデュエルを挑もうとするまではよかったんだけど…」
 「え…マナ?」

 そう語った途端に彼女の表情は怒気が混じったものと変わっていく。
 聞いていた六花は不安そうに彼女を見つめた。

 「何を血迷ったのかその男は、デュエルする前からあたしとその子の眼の前で奪ったデッキのうち1枚カードを抜き取った後、残りをすべて破り捨てやがった!!…その瞬間あの子は卒倒し、あたしはまるで殺された娘の仇を見るかのような表情になっていたみたい」
 「!?」

 そう口悪くも怒りを吐き語った彼女は、自嘲めいた表情になる。

 「気がついたらあたしはデュエルでその男を完膚なきまで打ちのめしてた。そうしたら、その男は操り人形のように生気をなくして、声が別の男のもの…今思えば多分『アギト』のものになっていた…そして言いたい放題言った後、その男は意識をなくして…それでもあたしはそいつに掴みかかろうとして近くで見ていた人に止められたよ」
 「嘘、そんなことが…」
 「嘘じゃないよ…詳しい事情は話せなかったけど、少し荒れていた時期があった事はご存じでしょ?」

 六花は自分が知らないそんな事件があったことに衝撃を覚えた。
 そして、恐る恐るふと気になった事を聞いてみた。

 「その子は…どうなったの?」
 「…ダメだった。大怪我とショックが大きかったのかもう息を引き取ってた。そうしてあたしの心の中にやるせなさ、憎悪、悲しみといったものが残った…あと、その男は逮捕されたけど、奴も今はもうこの世にはいなくなったみたい…あの時は話せなくて、ごめんね」
 「…そんな事があったら、そう簡単に話せないわよね」

 六花の問いに辛く悲しそうな表情でそう話すマナ。
 当の六花も辛そうながらも納得した表情を見せた。


 「大変だ!ここからはわずかだけどデカイ建造物が見えるぞ!!」
 「「「「「!?」」」」」

 アギト脱走の件も束の間、埠頭の方に神殿のような巨大建造物が出現してきたのである。
 この2つの情報が僅かな間で流れる事は恐らく何か関係してくるのだろう。

 『い、今入ってきたニュースです!たった今童美野埠頭の沖合に謎の建造物が出現したと…?』

 放送も流れ、いよいよ緊迫した状況になってくる。
 いったい何が起きようというのだろうか。

 「おっと、重苦しい事ばかり言ってられる状況でもなさそうだね…あのこととも無関係じゃなさそうだし」
 「どういうこと?」
 「昨日の大会の決勝戦で決着直後にチームEXALのメンバーが一瞬で消え去った事だよ」

 マナも辛そうな表情から一転して気を引き締めていく。
 彼女の言うとおり、決勝戦決着直後にラストホイーラー、ピットいずれにもチームEXALのメンバーが姿を消す事案が発生したのである。
 その中でアギト脱走事件、謎の巨大建造物出現と不可解な事が続けて起こっており、これらは偶然と片付けるには些か不自然であり、何かよからぬ事が起こる前兆である事は想像がつくだろう。


 「それで噂だけどチームEXALっていうのは…ってあれは『発条機甲ゼンマイスター』!?」
 「しかも実体化してる!?あ、ありえないんですけど…」

 何か話そうとした途端、彼女らは空中からここに近づいてくるある存在に気がついた。
 デュエルモンスターズのエクシーズモンスターの1体、ゼンマイスターである。
 そのモンスターが、ベンチに向けてマジックハンドのような手でパンチを放ってきた。

 「あの攻撃の狙い目はあのベンチ…危ない、水城君!!」

 このままでは眠っているはずの彼が危険であるが、今の彼女らの位置から少し離れており、とてもじゃないが間に合うのは難しいと思われる。
 もう駄目かと思われたその時…彼の目が見開かれ、その腕に装着しているデュエルディスクへあるカードを置いたのだ。

 「現れろ『シェルアーマー・ドラゴン』!バトル、ゼンマイスターを殴り倒せ!『スプラッシュ・ハンマー』!!」
 『フゥーッ、ハアァァッ!!』



 ――ズガアアアアン!!



 その瞬間甲殻類の殻のようなもので身を包んだ竜が現れ、水を纏った腕の大きなハサミでゼンマイスターを殴り、爆散させた。

 「み、水城君!?体調不良の方は大丈夫なの!?」

 マナが心配そうに声をかけるも、彼は首を横に振る。

 「はぁ、はぁ…マナさん、すごく辛いよ。だけど、今は意地でも頑張らないと…この危機は乗り越えられないと思う!」
 「そんな、無理しなくていいんだよ!あたしがどうにか…」

 マナは後ろ髪をいじりつつ彼の発言に反論しようとするが、彼は鬼気迫った表情になり…

 「この状況でも一人でぼく達を護ると?ふざけんな!相田マナ…いや、キュアハート!!」
 「「!?」」
 「いつもいつも他人に愛をふりまいてばかりで、自分をすり減らしていりゅ!それでいて…はぁ、はぁ…笑顔の裏ではいつも苦しそうに見えて、自分が本当にやりたい事をできていないようにしかおみょ…思えないよ!」

 マナと六花は秘密を知られている事に驚愕するも、彼はそんなことはお構いなしに彼女を激しく叱咤していく。
 ただし、時々噛んでいるためちゃんと言えていないのが玉に瑕ではある。

 「アンタが本当にやりたいことは…こんなところでぼく達を守って足止めを食らう事なんかじゃなくて、僅かな望みでも埠頭の方へ行ってじ、自身のモヤモヤした心にケジメをつけることじゃないの?違う?…ついでに道中での人助けもしたいだろうし
 「あっ…!?」
 「ちょっと、水城君!言いたいことも分からなくはないけど、それより」

 返す暇もなく言葉を浴びせてくる彼に対し、六花はそれを止めてある事を問い詰めようとする。
 しかし、今度はそれをマナが制した。

 「いいよ、六花…彼の言っている事はもっともだから。それに…もうプリキュアのことは隠しても無駄そうだね?」
 「…そうだよ、だいたいが知らないふりしてただけ。そうだよね、みんな!」

 マナはその事を認めると、彼は他の生徒に呼びかけた。
 ちなみにプリキュアとは異世界で語り継がれる伝説の戦士のことである。

 「いやぁ…めんご、実は会長がプリキュアだってこと知ってたわ…ついでに書記もね」
 「そもそも会長たちがいなかった時に、ジコチューとかいうよくわかんない奴が来てバラしちゃったからなぁ」
 「ま、仕方ないからモンスターを召喚して渡り合ってた」
 「「そうだったんだ…」」

 ここで生徒たちはマナたちが知らなかった事を次々と暴露していく。
 どうやらプリキュアが敵対していた勢力がバラしていたようだ。
 何故かデュエルモンスターズのモンスターで、ある程度そのジコチューたちと渡り合えていた事実も明らかになった。
 ついでに書記…つまり六花もプリキュアだったことがバレていた模様だ。
 その事実に二人は苦笑いを残す事となった。

 「ここは俺たちで切り抜けるさ!相田には別にやらなきゃならないことがあるんだろ?」
 「いつも会長頼りではわたしたち堕落しちゃいますからね…」
 「んんwww会長氏ばかりにいい顔させることはありえないwww」
 「俺もいるぞ!」

 草生やしてロジカル語法を駆使する者もいるが、気にしてはいけないだろう。
 二階堂を筆頭に殆どの生徒がマナ抜きでこの状況を切り抜ける決意をしたようである。
 ついでに他校生である内藤もやる気満々である。

 「二階堂君…それにみんな!」

 マナは皆がそのことに驚きつつも歓喜の表情を見せた。
 この間にも別のモンスターが出現しているものの、生徒たちがモンスターを召喚して迎撃を始めているところである。

 「会長おおおおお!いっけええええええええ!!」
 「ここはぼく達に任せて行って!キュアハート!!…あ、六花さんは残ってください
 「!?」
 「ありがとう!…いくよ、シャルル!!」
 「気がつかないうちにバレていたシャルか…わかったシャル!」

 マナは制服からウサギみたいな妖精シャルルの顔があるスマートフォンらしき物体『ラブリーコミューン』を取り出すと、髪を結んでいた部分に付けていたキューピッドの弓矢のような模様の描かれた謎の物質『キュアラビーズ』を外す。


 「シャルルぅー!」
 「プリキュア!ラブリンク!!」

 マナはそのコミューンにラビーズをセットすると、画面にLOVEの字を一文字ずつ指で描く。

 「L・O・V・E」

 すると、マナの身体が眩い光で包まれ…光が明けると赤紫からレモン色に髪色が変化してぜんまいのように先がくるりとしたポニーテールと4つに分かれた後ろ髪が目立ち、ピンクを基調とするいわゆる変身ヒロインのような衣装で身を包んだ彼女こと『キュアハート』が姿を現した。
 なお、左腕のデュエルディスクは妖精の羽を思わせるデザインに変化している。

 「みなぎる愛!キュアハート!!」

 登場とともにポーズをとりセリフを言ってしまうのは変身ヒロインゆえの性なのだろう。
 そして彼女はその禍々しさがうかがえる緋色の瞳に己の決意を込めて皆の方に向いてこう言う。

 「改めて聞きます。あたしはここから心のモヤモヤを晴らすための自己中な戦いへ一人で向かおうとしているの。そんなあたしのわがまま、許してくれませんか?」
 「「「「「「はーい!」」」」」」

 大体の人はマナのこのわがままは問題ないようである。

 ただし、一人納得できない方もいるようだ…六花である。

 「こんな危険なことに一人で行くというの!?どうして、マナ!あたしもついていっちゃいけない?」

 六花はそう言うも、当のマナは首を横に振り拒絶の意を示した。

 「ごめん、例え六花の頼みでもこればかりは聞けないよ。ここから先はあたしともういなくなったあの子だけの問題だと考えてるから…そう手出ししないでほしいんだ。だから、六花には念のためみんなの護衛をお願いしたいな…それに水城君から行くなと言われてるでしょうが」
 「そう…絶対に、帰ってきて…くれるよね?」
 「うん、どんなことがあっても帰ってくるよ、六花…行ってくる」

 そう言い残すとマナは埠頭の方へ走り去って行った。
 六花は泣きそうな顔をしながらも彼女を見送った。

 「あれ、相田の奴…死亡フラグ立ててね?」

 「「「「「いやいや、大丈夫でしょ?…あの会長だし」」」」」
 「「「「「ですよねー!」」」」」

 一方で他の生徒たちはモンスターを討伐しつつも、マナの事は大して心配していないようだ…どうやら、緊張感がログアウトしたようである。










 ―――――――――――――――――










 『グォォォォォ!!!』



 ――ドゴォォォォォォン!!




 キュアハートに変身したマナは皆と別れた後、埠頭の方へ向って街を駆けていくのだが、彼女の眼には割れた地面やモンスターの攻撃による黒煙が映っており、自身もあるモンスターと相対する事となった。
 そのモンスターは隼のような頭部を持つ、渋みのある黒いボディが特徴の機械竜『ダーク・ホルス・ドラゴン』…カードではあの『青眼の白龍』と並ぶ攻撃力3000という高いステータスを持っているのだ。

 「出てきたのはカードのスペック上では高ステータスを誇るダーク・ホルス、早速大型か…それでも討伐するだけだよ!はあっ!!」



 ――バキィィィ!



 彼女は全身のバネを駆使してその機械竜のもとへ飛び上がり、勢いよく拳を叩きこんだ。
 しかし、その機械竜は想像以上に脆くすぐに爆発四散した。

 ―スペックの割には脆かった。守備力があまり高くはないせい?…それとも?

 マナは不可解な顔をしながらも先へ急いでいった。

 「ふっ!はぁっ!!」



 ――ドカッ、バシィ!



 先へ進んでいくにつれモンスターが増えていくものの、マナは技もモンスターも使わずに殴り、蹴りなどの体術で破壊していく。
 これは技やカードの発動にやや時間がかかる上に精神的な疲労があり、後の事を考えて温存しておきたいためである。

 ―流石に数が多くなってきたけど、まだまだ!…

 そうして先へ進んでいくと、鳥のような機械型モンスター『A・O・J クラウソラス』に10歳くらいの女の子がまだ気がつかないまま襲われそうになっているのを見つけてしまった。
 なんだかんだでマナはお人好しであるため、その女の子に襲いかかるその機械を壊すために駆け飛び、殴りかかっていった。

 ―くぅっ、間に合ええええええ!!!










 ―――――――――――――――――










 ――童美野町のとある喫茶店前



 時はほんの少し遡る。
 WRG1の優勝チーム『チーム遊戯王』のメンバー『不動遊星』がかつて訪れたこの喫茶店付近にも、実体化したモンスターたちが襲いかかっていた。
 そのモンスターたちに対してその喫茶店の店長の息子で黒づくめの青年『星空恭也』、その妹で不動遊星と決闘した経験のある幼い少女『星空なのは』が立ち向かっていった。
 ちなみにWRG1に出場したチームレックスにもキョウヤという名のデュエリストがいるが、別人であることは留意しておきたい。

 「この程度で俺たちの平穏を壊そうとは笑止!切り刻め『神速の暗黒剣士』!」

 恭也が召喚した黒づくめの剣士が両手の持つ小太刀でバッサバッサとA・O・Jの機械軍団を切り倒していく。

 「あはは、この雑兵どもを殲滅するのは気分がいいですね!焼き払え『災星海龍ヴァールハイ・ブレイザー』!」

 なのはが召喚したジンベイザメの頭部を持つ人型に近い海竜のようなモンスターがその手に持つ二振りの大槍から紅き閃光を発し、A・O・Jの機械軍団を焼き払っていった。
 これで視認できる範囲でモンスターはいなくなり、二人はこれで討伐できたように思えてほっと息を吐いた。

 「ふうっ、これで一息つけるか。まずは父さんに報告…!?拙い、なのは!!!

 恭也は討伐を報告しようと携帯電話を取り出そうとした時、上空から襲いかかる脅威『A・O・J クラウソラス』に気がつき、叫んでなのはに危険を知らせた。

 「はっ…取り逃がしていたというの!?」
 ―しかも、背後からだと!?しまった、間に合わない!!

 しかし、その脅威はなのはにとっては虚を突かれた形となったために当の本人は気がつくのが僅かながらも遅れてしまった。
 だが、僅かな遅れもこの状況では致命的となる。
 その機械の足の爪が近づいていき、なのはの命を…






 ――バキィィィィ!!






 「「!?」」

 奪うことはなかった。
 クラウソラスがなのはの命をむしり取るより先に駆け付けたキュアハートの拳が届き、その撃墜に成功した。
 キュアハートことマナの救援は間に合ったのである。

 「何とか、間に合った…」
 「た、助かりました…でも、貴女はどうしてわたしを?」

 なのはは自分を助けてくれた事に感謝しつつも、一方で見知らぬ誰かに助けられた事に驚いているようである。

 「人助けに理由なんていらないでしょ?それに…特に幼い子の命が尽きるのを見てしまうのは嫌だったんだ…」
 「なるほど。何か別の事情があるようだが、なのはを救ってくれた事は感謝する。しかし…その派手な格好や素手で実体化したモンスターを破壊する人外じみた力といい、貴女はいったい何者だ?」

 マナは憂いを秘めた表情でそう答えるも、今度は恭也がもの静かな声で、かつ鋭い目つきで彼女を問いただす。
 彼女は答えにくそうな顔をしながらも、彼の鋭い目つきに観念してこう語った。

 「信じてくれないと思いますが…あたし、伝説の戦士『プリキュア』の一人でキュアハートといいます」
 「…伝説の戦士『プリキュア』だと?そんなオカルトじみたことなど認めたくはないが、先ほどの身体能力から一概に否定はできんな」
 「あの噂は本当だったんだ…あ、憧れてしまいます…」

 彼女は自身がプリキュアである事を言うのに対し、恭也はやや懐疑的ながらも納得そうに…なのはは少々上の空気味なっているようである。
 そして恭也はさらに問い詰めていく。

 「まあいい…そのプリキュアが何故こんなところに?」
 「実は埠頭の建造物の方へ向かっている途中でして…あたしと間接的に因縁のあるアギトが脱走した件と何か関係ありそうですし」
 「あ、キュアハートさん。そのアギト脱走の件だけど、ここらの事件とつながってそうで…恐らくチームEXALことファントムの仕業だと思うの」

 ここで上の空だったなのはが正気に戻り、アギト脱走の件といったここ最近の事件がファントムの仕業であるのではないかとの考えを言う。

 「それはあたしも思ってたかな…噂ではファントムが活動し始めたのはアギトが逮捕された事でノーバディが壊滅した直後だから、よく考えたらアギト率いるノーバディはファントム管下の組織だった可能性が高そうだね」

 マナは己の持つ情報となのはが語った情報を整理し、そのような考えを導く。

 「それにチームEXALが昨日の決勝戦では機械と合体したり、決着後すぐに消えているのはご存じだろう?…すると間違いなく奴らはオカルト的な何かを持っているか」
 「いわゆるサイコパワーだね。逃げる時に使ったのが瞬間移動能力とすると、刑務所へ侵入ということもできるだろうから…何かの目的のためにアギトを連れていったということか…」
 「だろうな」
 「そう思います」

 アギトが脱走したのはチームEXALの仕業であることがここでは総意となった。

 「それと情報が流れるようになってきたのか、チームEXALの正体がファントムであることがほぼ確実になってきたからな…だが、気になるのは野心の塊といえる奴が大人しくファントムにつき従うかということだが…」
 「別の組織の方がやってきて、いきなり部下になれって言われてもそう簡単にうんと頷くとは思えません。これはやっぱり…あれは!?」

 なのはがアギトが普通の状態ではない事を言おうとしたその時、エンジン音とともに埠頭の方へ向って赤いD・ホイールのようなものが通り過ぎるのが見えた。
 一瞬で通り過ぎたため、細部までは分からなかったようであるが…。

 「むぅ、今通り過ぎたのは…いや、奴なら当然か」
 「あのD・ホイールは、まさか…チーム遊戯王の不動遊星!?」

 『不動遊星』といえばWRG1にて優勝したチーム遊戯王のメンバーで超有名人と言える程の凄腕デュエリストである。
 その超大物である彼も埠頭の方へ向かっている事に驚いているマナだが、一方で星空兄妹の二人は大して驚いておらず、むしろ当然といった表情であった。

 「遊星さんはファントムを追っているようですから、埠頭の方へ向かうのは当然だと思いますよ…実は一度わたしの父さんが経営している喫茶店でデュエルさせていただいた時に、少し話をしましたので」
 「なるほどね。だけど、あの遊星さんとデュエルか…羨ましい限りかな」
 「あはは、実はあと一歩の所まで追い詰めました…ただ、その時使っていたデッキは別のものだったみたいで、デッキの調整相手にされた感は否めなかったけどね…あの時はやっちゃったなぁ、色々と」

 なのははマナに遊星がファントムを追っていることを話すついでにデュエルした当時の事を苦笑いしながら語るのであった。
 得意げに少しゲスな感じでデュエルしていたのが今になって恥ずかしくなったのかもしれない。

 「…そろそろあたしは埠頭へ急ごうかと思います。まだまだモンスターが湧いてくる気がしますが、お二人ともお気をつけて」
 「はい、この度は助けてくださりありがとうございました!また会う機会があればデュエルを申し込みたいところです」
 「どういたしまして、その時はよろしくね!」

 マナは二人に別れの挨拶をし、この場を後にしようとした。
 しかし恭也はまだ何かあるようで彼女を呼び止めた。

 「待て。一つ聞き忘れていたが、アギトと間接的とはいえ因縁があると言っていたな?奴を何のために追う?」

 恭也が厳しい口調でそう彼女に問う。彼としては返答次第では通すわけにはいかない心算なのだろうか。

 「帰らぬ人となったあの子の仇討ち…と他の方からそう取られたら否定はできないでしょう…だけど!あたしはあいつにあの子と関係者の他、ノーバディの被害者への誠意をこめた謝罪をさせたい!…今はそう考えて追っています」

 恭也のその問いに対し、マナは誠心誠意を込めて嘘偽りなくそう答えた。
 彼女をよく知るものであれば、隠し事や嘘をついている時には髪をいじる癖がある事はご存知であるが、 今はいじっていないことからもそれが伺える。

 「そうか、悪い答えじゃないな…ここは俺たちが引き受けている!ここは気にせず、進め!この先は任せたぞ、キュアハート!!」
 「ありがとうございます!ここは任せました!!」

 マナの回答に対して言葉とは裏腹に満足そうな顔をしつつ、激励を送る。
 それを受けて彼女は、足早にこの場を後にするのであった。


 彼女が去った直後、上空から攻撃力5000をもつ超大型ドラゴン『F・G・D』が襲来してきたが、二人は既に臨戦態勢に入っていた。

 「上から来るぞ。今度は不覚を取られるな、なのは!」
 「この星空なのは、同じミスを2回も繰り返すとでも!」

 例えどんなモンスターがこようとも、この付近は大丈夫だろう。
 今のこの二人がいるかぎり…。








 中編へ続く 








 登場カード補足


 イグニション・ホワイト・ドラゴン
 エクシーズ・効果モンスター
 ランク4/炎属性/ドラゴン族/攻2100/守1600
 ドラゴン族レベル4モンスター×2
 1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、
 フィールド上のエクシーズモンスター以外のモンスター1体を選択して発動できる。
 エンドフェイズ時まで、選択したモンスターの攻撃力は
 500ポイントアップし、効果は無効化される。
 この効果は相手ターンでも発動できる。



 シェルアーマー・ドラゴン
 シンクロ・効果モンスター
 星8/水属性/ドラゴン族/攻2600/守1900
 チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
 このカードがシンクロ召喚に成功した時、
 自分の墓地の水属性のエクシーズモンスター1体を選択し、
 装備カード扱いとしてこのカードに装備する。
 相手のレベル8以下の効果モンスターの効果が発動した時、
 このカードの効果で装備したモンスター1体を
 墓地へ送る事で、その発動を無効にする。
 また、このカードが戦闘によって破壊したモンスターは
 墓地へ送らず持ち主のデッキに戻す。



 神速の暗黒剣士
 デュアルモンスター
 星8/闇属性/戦士族/攻2700/守1900
 このカードは闇属性のデュアルモンスター1体を
 リリースして表側攻撃表示でアドバンス召喚できる。
 このカードは墓地またはフィールド上に表側表示で
 存在する場合、通常モンスターとして扱う。
 フィールド上に存在するこのカードを通常召喚扱いとして再度召喚する事で、
 このカードは効果モンスター扱いとなり、以下の効果を得る。
 ●1ターンに1度、手札からデュアルモンスター1体を捨てる事で、
 モンスターの召喚・特殊召喚を無効にし破壊する。



 災星海龍ヴァールハイ・ブレイザー
 融合・効果モンスター
 星11/炎属性/海竜族/攻1500/守2800
 海竜族シンクロモンスター+魚族エクシーズモンスター
 このカードは融合召喚でのみエクストラデッキから特殊召喚できる。
 このカードが融合召喚に成功した時、
 デッキから「星海」と名のついた魔法カード1枚を手札に加える事ができる。
 このカードの攻撃力は自分の墓地の魔法カードの数×200ポイントアップする。
 また、相手の魔法・罠カードが発動した時、
 手札から魔法カード1枚を墓地へ送る事で、その発動を無効にし破壊する。
 この効果は1ターンに1度しか使用できない。