『全員俺とデュエルしろ。』

 聞き間違えでなければ、遊哉は確かにそう言った。

 否、聞き間違いなどでは無い。
 目の前の遊哉のデュエルを挑む者特有の眼光の鋭さと、発せられるデュエリストの闘気がソレを示している。

 「全員て…アンタ私達5人を相手にするつもり?…本気なの?」

 「俺が意味のねぇ冗談言うと思ってんのか霧恵?
  至って本気だぜ――俺の武者修行は、お前等とのデュエルをファイナルって決めてたからな。」

 矢張り間違いでは無い。
 遊哉は本気で霧恵達5人と1人でデュエルするつもりらしい。

 確かに今のデュエルを見ても遊哉のレベルアップは可也のものだろう。
 しかも雪花とフレディが言うには、今のデュエル以前に4人を瞬殺しているという。

 いっそ恐ろしいまでの強化。


 だが、如何に遊哉が強くなろうとも、ソレに怯みはしない。
 寧ろ強くなった遊哉とのデュエルには心が躍る部分が大きい。

 「アタシ達がファイナルとは光栄ね……OK、相手になるわ遊哉。
  1ヶ月の武者修行の成果、是非見せてもらおうじゃない。」

 だからデュエルは受ける。
 さて、このぶつかり合いは一体何を生み出すのだろう?











 遊戯王デュエルモンスターズ New Generation Duel97
 『全力でデュエルだ!』











 「流石霧恵だぜ、そう来なくちゃな!」

 霧恵がデュエルを受けると言えば、遊哉も嬉しそうだ。
 遊星達も何も言わずに、霧恵の決定には従うらしい。

 デュエリストたるもの、デュエルを挑まれたら逃げてはいけない。
 受けるこそが最大の礼儀であり、拒否するのは最大の無礼なのだ。


 「俺達5人を相手にするとは言ってくれるな……随分強くなったみたいだが、満足させてくれるんだろうな?」

 「ったりめーだろ?…満足しすぎて腹壊すなよ京介!」

 デュエル前の軽口も、仲間相手だと遠慮がないから容赦もない。
 されど嫌味も何も無いのは、敵同士では無いからだろう。


 だから自然と火花が散る。
 遊哉と霧恵達のデュエリストオーラが、瞬間的に昂揚した証しだ。


 「…炎龍皇に聖水霊魔導師…それに星屑と煉獄の龍…!」

 「みぃえるのくぁ、簪ぃ?」

 「うん…精霊達も昂ぶってるわ。」

 「すうぉれはぁ、実に楽しみどぅあぁぬぁ。」

 雪花はその身のサイコパワーの影響で精霊を目視出来るらしい。
 精霊はやる気充分、雪花とフレディもこの戦いが楽しみらしい。


 そして其れはスタジアムに来ている一般デュエリストや、一般人も同様。
 WRG1の優勝チームが勢揃いし、しかも今からデュエルをするとなればテンションは上がるだろう。

 携帯で仲間に連絡する者も見受けられる。

 きっとあっという間にスタジアムの観客席は埋め尽くされるだろう。



 それだけのデュエルなのだ、遊哉が申し込んだのは――本人に自覚は無いだろうが…



 「だが緋渡、俺達5人を相手にするといっても…デュエルのルールはどうするんだ?」

 「基本的にはWRG1と同じで良いんじゃねぇか?
  フィールドとスピードカウンターは継続で、俺のライフはその都度リセットってルールで。
  ただ、俺が負けるか引き分けの場合でもお前等は次のデュエリストにバトンタッチ。
  で、その場合俺のデッキはフィールドのカードを残してリセットで如何よ?
  当然ライフは自動的に4000に復活するし、これなら全員とデュエルできるだろ?」

 「…そうだな。」

 デュエルルールの方もちゃんと考えていたらしい。
 確かに此れならば勝敗に関係なく全員とデュエルができるだろう。


 「つー事で、お前等は誰がどの順番で出るかを決めてくれ、つーか決めろ。決まったら即刻始めっぞゴルアァ!!」

 既に遊哉は悪役である。
 つまりは最強モード――要するに本気という事。

 最強状態の遊哉が相手と成れば、其れは逆に願ったり。
 どうせやるなら強い方が良いと思うのもまたデュエリストの本能だ。


 「悪役モード全開ね?……OK、どうせならそうじゃないと面白くないわ!
  少しばかり待ってなさい遊哉、直ぐにオーダー決めるから。」

 「おう!決まるまで腹ごしらえでもさせてもらうぜ!」

 「牛丼弁当80個……相変わらず凄いな。」

 強化されたのはデュエルの腕だけではなく、あの異常な胃袋も同様らしい。


 兎も角オーダーだ。
 とは言っても、此れは本気とは言え仲間内でのフリーデュエル。
 大会の時の様にチームで戦う為のオーダーとは又違う。

 早い話『誰が一番最初に遊哉と戦いたいか』なのだが、其れは全員がそう。
 なのだが、此処は鬼柳がチームリーダーとしての手腕を発揮してくれた。

 「取り合えず副将は遊星で、大将は霧恵だな。
  ライバル兼親友とライバル兼恋人は最後の方に出てきた方が盛り上がるだろ?」

 「そう言う物なのか?」

 「まあ王道パターンでは有るわね。うん、アタシはそれで良いわよ?」

 「あぁ、俺も構わない。」

 見事な理論(?)で遊星と霧恵を後半に。
 残るは先鋒から中堅。

 此れも順番は、正直どんな順番でもいいのだが――ふと、観客席の方に目を向けた。
 さっきよりも人が増えている。

 いや、今この時もドンドン増えている。
 きっと、今まで観客席に居たギャラリー連中がこれから始まるデュエルの事を知り合いに教えたのだろう。
 そして其処から又別の人に………と言った感じで増えているのだ。


 「人が増えたな……よし、なら先鋒は十六夜で次鋒はシェリーだな。
  先ずは見目麗しいデュエリストが出てった方が観客は満足するぜ。」

 これまた独自理論で決定。
 果たして観客が居なかったらどんなオーダーにしたのか少し知りたい所である。


 「見目麗しいって……そんな理由で私が一番でいいの?」

 「ふぅ…京介の独自理論には、対抗意見出すだけ無駄よアキ。
  それに、一番最初なんて少し羨ましいわよ?」

 「…それもそうね。分ったわ、そのオーダーで行きましょう。」

 「決まりだな。」

 満足の満足による理論でオーダーは滞りなく決定。
 所要時間僅かに5分と見事なものだ。


 「決まったみてぇだな――丁度俺も喰い終った!」

 「一番手はアキよ……5分で80個完食とか、相変わらず非常識な食欲だこと…」

 そして遊哉の胃袋も見事なものだ。
 霧恵達はすっかり馴れたものだが…


 「因みに80個分のエネルギーは、全部俺のデュエルパワーに変換されてるので問題なし!」

 「…なにそのチート体質怖い。」

 全くである、今更だが。


 「ま、なんにせよ準備は出来てんだ――始めようぜ、最高のデュエルをなぁ!」

 「えぇ、お相手するわ!」

 若干コント染みた遣り取りが入ったが、準備ができればデュエルである。
 遊哉と、一番手のアキは揃ってスタート地点に。



 それだけで空気が変わる。
 此処からはデュエルの空気。

 決闘者と決闘者のぶつかり合いの聖域。
 そしてそれに熱狂する者達にとっての聖地。


 シンッと静まり返るスタジアム。
 聞こえるのはスタートシグナルの点灯音と、Dホイールのアイドリング音のみ。



 ――ピーーーッ!



 「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」

 シグナルグリーンが点灯し、両者一斉にスタート!
 略並走状態だが、機体強度を犠牲にしている分トップスピードに乗り易いのはアキの機体の方だ。

 いや、そうである筈だった。

 「先攻はわたさねぇぇ!!」

 ハンドルを絞った途端に遊哉のDホイールが一気に急加速!
 そのままドンドンスピードを上げアキを引き離して行く。

 ダークネス戦で見せた『気合による急加速』だ。
 しかもあの時よりも強化されているように見える。


 「そんな…!本当にトンでもないわ……!」

 「俺に一般常識は通じねぇ!行くぜ十六夜!」

 「えぇ、先攻は取られたけど負けないわ!」


 「「デュエル!!」」


 遊哉:LP4000   SC0
 アキ:LP4000   SC0



 そしてデュエル開始!
 此処に来て漸くスタジアムも音を取り戻し、観客の声が沸きあがってくる。


 更に…


 さぁ、始まったこのデュエル!何で教えてくれないんだチーム遊戯王!
  こんな面白そうなデュエルを、私が実況しないで一体誰が実況すると言うのだ〜〜!!
  最強のデュエリスト達よ、最高のデュエルを見せてくれ〜〜〜!!


 毎度お馴染みMCさん!
 知り合いから連絡が来たのだろう、毎度の如くテンション上げての実況開始!
 此れはなんとも嬉しいサプライズだ――観客にも、そして遊哉達にも。

 「MCのオッサン!……いいねぇ、やっぱあの実況が有るとテンション上がるぜ!
  行くぜ、俺のターン!手札の『ダイヤモンド・ウィング』を捨て、『ライジング・パワード・ドラゴン』を特殊召喚!」
 ライジング・パワード・ドラゴン:ATK2400


 「カードを3枚セットしてターンエンドだ。」

 先ずは毎度お馴染みの上級モンスターの速攻召喚。
 シンクロはしなかったが、それでも初手からの大型モンスターはアドバンテージに繋がるだろう。

 「私のターン!」


 遊哉:SC0→1
 アキ:SC0→1



 「手札を1枚捨て、チューナーモンスター『薔薇聖人』を特殊召喚。」
 薔薇聖人:DEF1400


 「そして、私のフィールド上にチューナーが存在する時、墓地の『黒薔薇の苗竜』を特殊召喚出来る。」
 黒薔薇の苗竜:DEF300


 対するアキは初手からシンクロを狙ってきた。
 手札を捨てて特殊召喚出来るチューナーと、チューナーが居る場合に蘇生するモンスターを合わせた見事なコンボだ。


 「手加減はしないわ!レベル2の黒薔薇の苗竜に、レベル5の薔薇聖人をチューニング。
  清廉なる花園に芽吹きし孤高の薔薇よ、青き月の雫を得て咲き誇れ。シンクロ召喚!現れよ『月華竜 ブラック・ローズ』!」

 『シャァァァァァァァ!!!』
 月華竜 ブラック・ローズ:ATK2400



 降臨したるは華麗なる月華竜。
 アキが操る薔薇龍の一体だ。

 「月華竜……ソレがお前が神殿で得た力ってか?」

 「えぇ、そしてその力をお見せするわ!
  私は『夜薔薇の騎士』を通常召喚し、その効果で手札の『ロード・ポイズン』を特殊召喚!」
 夜薔薇の騎士:ATK1000


 『何時もDEATHゲ〜〜イム、今日もDEATHゲ〜〜イム、正にDEATHゲ〜〜イム』
 ロード・ポイズン:ATK1500



 新たなシンクロ素材を揃えてきた。
 そしてロード・ポイズンは今日も元気である。

 「今日もまた 絶好調だぜ ロード・ポイズン(字余り)」

 「偶には普通に出てきてほしいのだけれど……でも此れで行けるわ!
  レベル4のロード・ポイズンに、レベル3の夜薔薇の騎士をチューニング!
  冷たい炎が世界の全てを包み込む、漆黒の華よ開け!シンクロ召喚、咲き乱れよ『ブラック・ローズ・ドラゴン』!」

 『キョォォォォォォ!』
 ブラック・ローズ・ドラゴン:ATK2400



 毎度の謎現象はさておいて、降臨した2体目の薔薇龍。
 そしてこの展開は、月華竜を得たアキの最強速攻戦術に他ならない。

 「フィールドにモンスターが特殊召喚された事で月華竜の効果発動!
  フィールドにモンスターが特殊召喚された時、フィールド上のカード1枚を持ち主の手札に戻す。
  この効果でライジング・パワード・ドラゴンには御退場願うわ。奏でよ月華竜、退華の叙事歌(ローズ・バラード)!」

 『ショォォォォ!!』


 月華竜の巻き起こした花嵐で、ライジング・パワード・ドラゴンは遊哉の手札に。
 此れで遊哉を護るモンスターは0だ。

 「一気に決めるわ、バトル!ブラック・ローズ・ドラゴンでダイレクトアタック!『ブラック・ローズ・フレア』!」

 その機を逃さず、速攻決着を狙っての攻撃。
 だが…早々簡単に遊哉はやられはしない。

 「良い速攻じゃねぇか十六夜……だが甘いぜ!
  俺がダイレクトアタックを受けるとき、手札の『シールド・ワイバーン』を特殊召喚出来る!」
 シールド・ワイバーン:DEF1500


 プレイヤーの危機を救うモンスターを呼び出して壁とする。
 月華竜の効果もこのターンはもう発動しないので良い手だろう。

 「そんなモンスターを…けど、守備力1500ならブラック・ローズの敵じゃないわ!蹴散らしなさい『ブラック・ローズ・フレア』!」

 だが、上級モンスターに太刀打ちできるステータスでは無い故に一時の壁にしかならないのも事実。
 アキも先ずはこのモンスターを消し去る攻撃を選択し、攻撃の手は緩めない。


 「ま、当然そう来るよな?だが、ソイツが俺の狙いだ!トラップカード魂の交換(ソウル・バーター)
  俺の場のモンスターをリリースする事でバトルを終了させ、その後リリースしたモンスター以外のレベル4以下のモンスター1体を墓地から特殊召喚する!
  シールド・ワイバーンをリリースしてバトルを終了し、墓地から『ダイヤモンド・ウィング』を特殊召喚する!」
 ダイヤモンド・ウィング:DEF500


 「更に、ダイヤモンド・ウィングが墓地から特殊召喚された事で、俺はカードを2枚ドローする!」

 「魂の交換…なるほど、このコンボを狙っていたのね――見事だわ。
  私はカードを2枚伏せてターンエンド。」

 アキの1ターンキルを阻止し、手札も増強。
 このターンは遊哉の戦術勝ちだが状況は今はアキが有利だ。


 「俺のターン!」


 遊哉:SC1→2
 アキ:SC1→2



 「チューナーモンスター『ジェム・ウィング』を召喚!」
 ジェム・ウィング:1500


 だが、今度は遊哉も己の真骨頂であるシンクロの素材を揃えてきた。
 レベル合計は8……言うまでも無く龍皇のお出ましだ。

 「今度はこっちから行くぜ十六夜!
  レベル4のダイヤモンド・ウィングに、レベル4のジェム・ウィングをチューニング!
  吹き荒ぶ疾風(かぜ)を制する翼よ、天を切り裂き嵐を起こせ!シンクロ召喚、烈風の化神『嵐龍皇−ルドラ』!」

 『さて、疾風に舞おうか!
 嵐龍皇−ルドラ:ATK2500


 現れたのは吹き荒ぶ風を操る嵐龍皇。
 その身の力は凄まじいが…

 「甘いわよ遊哉、月華竜の効果発動!龍皇には御退場願うわ!『退華の叙事歌』!」

 月華竜の効果がある。
 再び花嵐が遊哉のモンスターを戻そうとする。


 だが!

 「何度も同じ手を喰らうかよ!トラップ発動『ドラゴンプラウド』
  俺の場にドラゴンが存在する時に発動!相手のカード効果の発動と効果を無効にする!
  コイツで月華竜の効果は無効になるぜ!」

 「!!」

 其れは無効となる。
 対策はキッチリ……己のパワーデュエルを生かす為の技巧は最大に凝らしているのだろう。

 破壊されないとは言え効果を無効にされては龍皇を退場させる事はできない。

 「此れで龍皇は退場しねぇ!更にジェム・ウィングの効果で俺はカードを2枚ドローする!
  そして、手札のクイン・ドラグーンを捨ててルドラの効果発動!
  このターン、ルドラは2回の攻撃が可能になるぜ!!」

 『風に導かれし我が攻撃…受けてみるか?

 更に効果発動で連続攻撃を可能にする。
 一気にアキのフィールドを吹き飛ばす心算だろう。

 「2回攻撃…!」

 「だけじゃないぜ!更にトラップ発動『シンクロン・デストラクター』
  このターン俺のシンクロモンスターが相手モンスターを戦闘で破壊した場合、相手に破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える!」

 「何ですって!?」

 追撃のバーンカード。
 只の殲滅のみならず、このターンで終らせる心算らしい。


 「行くぜ、バトル!嵐龍皇−ルドラで、月華竜 ブラック・ローズに攻撃!『エアソニック・シュート』!」

 『吹き飛ぶが良い!

 1発目の烈風のブレスが月華竜を塵と吹き飛ばす。


 「くぅ…!」
 アキ:LP4000→3900


 「更にシンクロン・デストラクターの効果で、月華竜の攻撃力分のダメージを受けてもらうぜ!!」

 「く…きゃぁぁぁ!!」
 アキ:LP3900→1500


 追撃のバーンダメージも有り一気に大ダメージ!
 そしてそれだけでは無い……ルドラにはもう1度の攻撃が残っているのだ。

 「コイツで終いだ!ルドラでブラック・ローズ・ドラゴンに攻撃!『エアソニック・シュート』!!」

 『此れにて終幕だ!!


 ――バガシュゥゥ!!!


 「ぁぁあぁ!!」
 アキ:LP1500→1400


 「シンクロン・デストラクターの効果で追加ダメージだ!!」

 「そんな……あぁぁぁぁ!!!」
 アキ:LP1400→0


 第1戦目決着!
 僅かに3ターンでの決着――どうやら遊哉のパワーアップは本当に相当なものらしい。



 後続のシェリー、鬼柳、遊星、そして霧恵はこの遊哉と如何戦うのか?
 デュエルはまだ1回戦が終ったに過ぎない…

















   To Be Continued… 






 *登場カード補足



 魂の交換(ソウル・バーター)
 通常罠
 自分フィールド上のモンスター1体をリリースする事で相手の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。
 その後、墓地からリリースしたモンスター以外のレベル4以下のモンスター1体を選択して特殊召喚する。



 ドラゴンプラウド
 カウンター罠
 自分フィールド上にドラゴン族モンスターが表側表示で存在する場合に発動できる。
 相手が発動したカード効果の発動と効果を無効にする。