場所はお馴染み霧恵のコンドミニアム。
遊哉が置手紙だけ残して、何にも言わずに武者修行に出てからそろそろ1ヶ月が経とうとしている。
遊哉は毒舌八丁、毒舌上等の『悪役』だが嘘は言わない。
1ヶ月経ったら連絡するとのことなのでそろそろ何かしらの連絡は来る頃だろう。
が…
「…………」
霧恵はそろそろ限界点。
まぁ、1ヶ月も彼氏から何の連絡も無く、殆ど放置状態だったのだから仕方が無いだろう。
遊星やアキ達とデュエルする事でガス抜きが出来ていたから良いような物の、そうでなければとっくにパンクしていたかもしれない。
「そ、そろそろヤバイんじゃないかしら?」
「遊哉が居ない事による不満足が限界点突破は近そうだな…」
「アノ2人は本当に仲がいいからな。」
…遊星に色恋沙汰云々が理解できる日は来るのだろうか?謎である。
何にせよ霧恵の限界は近い。
だが、世の中よくしたもので、限界ギリギリの土壇場で事が起こるものである。
遊戯王デュエルモンスターズ New Generation Duel96
『Silly-Go-Round!』
――Pipipipipipipipipi!!!
突然霧恵の携帯端末がけたたましい音を立てて着信を知らせた。
それに霧恵は超反応!
殆ど亜音速で操作し、電話に出る。
確認するまでも無い…ディスプレイに表示された相手は『緋渡遊哉』だった。
『ウィ〜〜ッス!1ヶ月経ったから約束通り連絡入れたぜ!元気か霧恵?』
「……」
『霧恵?お〜〜い霧恵〜〜?迦神さんちの霧恵ちゃ〜〜ん?
……反応が無い、只の屍のようだ…って、マジで大丈夫か霧恵!?具合でもワリィのかよ!!』
「んの…」
『はい?』
「こんのアホンダラケ!!何でアンタはイッツも手紙一枚とか、前日に行き成り言うとかで修行の旅に出るのよ!
此の1ヶ月アタシがドレだけ心配して寂しい思いしたか分ってるの!?
4年前にアメリカに武者修行行った時も『明日からアメリカに行くから』とか言って行き成り居なくなるし!
その時はまだ只の幼馴染だったけど、今は違うでしょ?1ヶ月も彼女ほったらかしとくとか何考えてるのよ!!」
そして霧恵は爆発!
当然だろう、1ヶ月も放置状態だったのだから。
『わ、ワリィ……ソレについては弁解の余地はねぇな…マジで悪かった…』
遊哉も素直に謝るより他は無い。
如何に自己研鑽のためとは言え、恋人1ヶ月放置は少々いただけないだろう。
「ふぅ…まぁ、良いわ――無事が確認できただけでも良しとしないと。
で?連絡してきたって事は武者修行が取り敢えずは終ったのよね?………今何処?」
霧恵も爆発したとはいえ、必要以上には追求しない。
この辺の匙加減が、此の2人が巧く行っている理由だろう。
『何処って…童実野町に居るぜ?より正確に言うなら中央スタジアムに。』
「スタジアムに?」
そして場所を問えば、もうお馴染の『童実野中央スタジアム』。
何故にそんなところに居るのか?
童実野町に戻ってきているならストレートに、此のコンドミニアムに戻ってくればいいはずだが…
『つーか、此処にいる事こそが俺の武者修行の集大成ってか?
…霧恵、其処にチーム遊戯王の面子はいるんだろ?』
「レンと氷雨達以外はね――けどソレがどうかした?」
『全員居るなら願ったりだぜ――今すぐスタジアム来てくれ。つーか来い。』
どうもそうでは無いらしい。
自分を除いたチームメンバー全員の召集とは中々に大それた事をしてくれる。
遊哉が何を考えているかは分らない。
だが、中央スタジアムに居ると言う事は、デュエル関係の何かが有るのは間違いない。
「…アンタ、若しかしてトンでもない事考えてない?」
『さぁ、どうだろうな?けどまぁ、態々俺が呼び出したんだから何もない筈ねぇだろ?
つーか有るに決まってる!なんたって俺は『悪役』で『悪者』だからなぁ!!』
「自分で言ってれば世話無いわ…」
果たして何を企んでいるのか?
何れにせよ行ってみれば分るだろう。
『兎に角スタジアムで待ってるぜ〜〜。んじゃな!』
「ちょっ、遊哉!?………切れた。」
言うべき事は言ったのだろう、電話通信終了である。
そうなると、霧恵は皆に会話内容を伝える訳で……
「スタジアムで待ってるか……何をしようってんだ?」
「態々呼び出して…デュエルか?」
「まぁ、その辺が妥当でしょうね。」
聞いた面々も、遊哉の狙いは分らないがデュエル関係だとは思っているようだ。
そして、デュエル関係なら黙ってられない。
それに連絡してきたのが遊哉なら、少なくとも危険な事は無いだろう。
「後は行ってのお楽しみというところかしら?」
「かもね。直接本人から聞いたほうが良さそうだわ――取り合えず、行ってみましょうか。」
霧恵の決定に異議は無い。
全員即刻着替えて準備完了。
直後、5台のDホイールが中央スタジアムに向けて発進していった。
――――――
――童実野中央スタジアム
指定の場所に到着した霧恵達だが、スタジアムの外に遊哉の姿は無かった。
Dホイールも指定の駐輪場に無い所を見ると、どうやらスタジアム内部で待っているらしい。
「スタジアムの『何処』で待ってるとは言ってなかったわね…」
「Dホイールも見当たらないから、コースの方か。」
ともあれ、呼び出された身としては遊哉を見つけなければならない。
尤も、直ぐに見つかるだろう。
此処はスタジアムで、Dホイールが止めて無いと言う事は、スタジアム内部で誰かとデュエルしているのかもしれないのだ。
そしてその予想は大当たり。
Dホイール専用の入り口から中に入れば、デュエルの真っ最中だった。
先行するDホイールは遊哉。
アグニとヴァリアスを従え、デュエルの主導権を握っているようだ。
アグニの攻撃力が上昇している所を見ると、効果を発動したのだろう。
「永続トラップ『竜の逆鱗』!コイツでドラゴンは貫通効果を得る!
更にスピードスペル『Sp−ファイナルアタック』を発動し、アグニの攻撃力を倍にするぜ!!」
『さて、此れで終いだ!』
炎龍皇−アグニ:ATK5700(フェルグラントドラゴン吸収)→11400
相変わらずの速攻攻撃力上昇で一気に決めるつもりらしい。
相手のライフは殆ど減って居ないが、守備表示の『守護神エクゾード』が1体のみ。
強化され、貫通能力を得たアグニの敵では無いだろう。
「ブチかますぜ、バトル!炎龍皇−アグニで、守護神エクゾードに攻撃!『インペリアル・ストライク・バスター』!!」
『焦土となれい!!』
――ゴォォォォォォ!!
守備力4000を誇る守護神も、攻撃力が1万を超えた龍皇の敵ではなかった。
一瞬で燃え尽き蒸発し、更に貫通効果を得た事で発生した熱風が相手のライフを直撃!
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
LP3700→0
差分ダメージ7400で一撃滅殺!
高攻撃力による爆発力は健在――否、より強くなっているかもしれない。
「むぅぅ…相変わらずの強さどぅあぁ…」
「えぇ…私の疑似人格やダークネスを倒した時よりも更に強くなってる。」
「フレディ!?」
「簪?もう動いて大丈夫なのか?」
更に其処には先客が居た。
車椅子に乗った雪花と其れを押すフレディだ。
此の2人もまた今の遊哉のデュエルを見ていたのだろう。
「すっかり毒気が抜けたな?今のアンタ等とのデュエルなら満足できそうだぜ。」
「ライディングは無理だけど、普通のデュエルならできるわよ?」
此の2人との間に確執と言うか、そう言う物は一切無い。
全てはダークネスの手引きで、雪花もフレディも無実――寧ろ被害者なのだ。
霧恵も遊星達もそんな雪花達を責めるようなことはしない。
謝罪こそあったが、それだけだ。
今では『仲間』と呼べる間柄になっている。
「むわぁ、お前達とのデュエルはぁ、まぁた別の機会に取っておこう〜〜。
今大事なのはぁ、緋渡遊哉どぅあぁ……簪の気晴らしぬぃ此処に来たら奴がデュエルをしていたのどぅあがぁ…」
「明らかに前よりも強くなってるのよ。
今の勝利で5人目……しかも此の5戦全てを自身の3回目のターンまでに決めてるの。」
「「「「「!!」」」」」
その雪花達から聞かされたのは驚く内容だった。
もし其れが本当だとするなら、霧恵のコンドミニアムから此処に来るまでの間に、遊哉は4戦ものデュエルを消化していた事になる。
しかもその何れもが短期決戦とは恐れ入る。
1ヶ月の武者修行は相当に遊哉を鍛えたのだろう。
「アタシ達が此処に来るまでに約10分…その間に4戦をこなして、しかも今の5戦目も含めて秒殺ですって?
…流石と言うか、アタシを放って修行してきただけの事は有るって言う所ね…」
瞬間、霧恵の――否、チーム遊戯王全員の目に闘志が燃え上がった。
遊哉のデュエリストとしての強さは誰もが知っている。
だが、其れが更に強くなっていると言うのだ。
デュエリストとしてその事実を見逃せるだろうか?
否!断じて否!!
仲間であり好敵手であるデュエリストが強くなったとなれば黙ってられない。
デュエルしたいと思うのはデュエリストの本能だ。
恐らく遊哉に秒殺された5人も、デュエリスト故の『疼き』を抑えられなかったのだろう。
結果は秒殺だろうと、彼等は満足したはずである。
「よう、来たな!待ってたぜ――1ヶ月ぶりだなダチ公共!!」
其処に、デュエルを終えた遊哉がピットイン!
デュエル後にコースを1週してきたというところだろう。
「そして…1ヶ月ぶりの生霧恵だ〜〜!!」
「へ?」
で、Dホイールを降りるなり霧恵に近づいて抱き締めた。
そりゃもう『ガバッ』と!
「テメェで勝手に修行に出たとは言え、1ヶ月だからな〜…霧恵分を補充せねば!!」
「ちょ!?なんか電話の時とキャラが…!」
「気にすんな!気にしたら負けだ!!」
「待てこら、衆人環視の真っ只中で〜〜〜///!!」
――只今遊哉が霧恵分を補充中ですので少々お待ち下さい。
「うし、補充完了!」
「…///」
霧恵は真っ赤である。
霧恵は真っ赤である。
大事なことなので2回言いました。
まぁ、衆人環視の中で、抱き締められて頬ずりされてをやられればこうもなるだろう。
それに当てられてアキとシェリーも赤面状態。
鬼柳は何かに満足しているらしいし、フレディと雪花は何か感心している。
何も影響が無いのは遊星くらいのものだ。
「何を補充したかは知らないが……お前は1ヶ月間、武者修行として何処に行っていたんだ?」
少々おかしくなった空気を戻すのは流石の遊星。
武者修行で何処に行っていたのかは気になる所だろう。
「何処って…日本起点にアジア圏に色々と。
取り合えず、中国、韓国、タイ、インドネシア辺りのプロチャンピオンは野デュエルで倒してきた!」
「マジかよ…相変わらずトンでもねぇ…」
「そ、その成果は有ったの?」
日本を基点にアジア圏に色々足を伸ばしていたらしい。
其れを踏まえると再起動した霧恵の質問は当然だろう。
それだけ…其れこそ各国のチャンピオンレベルを非公式デュエルとは言え叩きのめしたとなれば相当だ。
それだけの事をやってのけたのだ、成果もあるはずである。
「おうよ、思った以上に成果はあったぜ?
序でに言うなら。今のデュエル5戦で更に成果を確かめられた――此れならお前等を呼び出した甲斐もあるってもんだぜ。」
成果はあるようだ。
だが、其れが霧恵達を呼び出した事とは何の関係が有るのだろうか?
「アタシ達を呼び出した理由?……電話でも言ったけど、アンタ何を考えてるの?」
「何って…難しい事じゃねぇ。
つーか寧ろ、俺達デュエリストには世界のどんな事よりも分りやすくて簡単なことだぜ。」
関係は大有りらしい。
少なくとも遊哉にとってはそうなのだろう。
「お前等全員……俺とデュエルしてもらうぜ?」
そして発せられたのはトンでもない爆弾発言だった…
To Be Continued… 
*登場カード補足