遊哉達が神殿で激戦を行っていた頃、童実野町でのモンスター殲滅戦も激化の一途を辿っていた。
「ちぃ…喰らい尽くせイビルジョー!」
「焼き散らせオロチよ!」
チームレックスの善次郎と、チームYAMATOの撫子を中心に、童実野町のデュエリスト達とWRG1参加者が協力してモンスターを殲滅している。
だが、如何せん数が多い。
倒しても倒してもひっきりなしに湧いてくるから休む間もない。
それでも誰1人へこたれず戦いを続けているのは単に神殿に突入したチーム遊戯王が有るからだ。
元凶を止めに行った連中はきっと自分達よりもキツイ戦いをしている。
ならば自分達だってへこたれる事など出来ないと――殆ど意地で戦っているのだ。
「…凄い数じゃな…善次郎殿、やれるかこの数?」
「あと1体増えたらキツイかもな。」
「ふむ…ならばその1体はワシが倒すとしよう。」
「…なんだ、アンタもまだ戦うのか?」
そして善次郎と撫子は軽口を叩くほどには余裕がある。
「当然じゃ。あやつらも頑張っておる…ワシ等が退けるか!」
「退けないよな!とことんまでやってやるぜ!!」
童実野町の殲滅戦は、善次郎と撫子が健在である限り大丈夫だろう。
遊戯王デュエルモンスターズ New Generation Duel89
『Libera Me From Hell』
――神殿内部・最上階天空デュエルフィールド
雪花を撃破した後に変形して現れたこのデュエルフィールド。
其処で遊哉達は目の前の光景をただ黙ってみていた。
この天空デュエルフィールドが出来ると同時に現れた漆黒のカード。
その禍々しい瘴気を放つ漆黒のカードに闇が集い形を変えていく。
「気色悪いにも程があるぜ…オイコラ、まだるっこしい事してねぇでさっさと姿を見せやがれ!」
その闇に向かって遊哉は一発怒鳴りつける。
この闇が黒幕だとしたら=それは雪花を操っていた外道。
許す事のできない相手ゆえに怒鳴りつけるのは仕方ないだろう。
遊哉の身体から真紅の炎の如きデュエリストオーラが立ち昇って見えるのは多分見間違いでは無い。
――くくく…素晴らしいデュエリストの闘気だ。
其れに呼応したかの様に不気味な声が響き、闇の形が鮮明になっていく。
其れは間違いなく『人型』。
身の丈で言えば、鬼柳よりも少し大きい位だろうが?
横幅については分らない。
闇の瘴気で形作られた身体は漆黒のローブに覆われているから。
だが、そのローブの袖から覗く手は人の物だが――肉が無い。
人の手の骨その物が見えている。
如何考えても人間が相手では無いだろう。
――此処に我は復活する…
そして極めつけは頭。
闇が集い、其れが晴れて現れたのは――山羊の頭蓋骨。
しかも眼孔の部分が不気味に光っている……其処が目なのだろうが…
「山羊の頭蓋骨に人の身体……まるで欧州の神話に出てくる『デーモン』そのままね…」
シェリーが言うように、その姿は欧州の神話に出てくる悪魔『デーモン』そのもの。
光る目と黒いローブ、そして骸骨の身体の組み合わせが何とも不気味極まりない。
「何が出てくるかと思えば骨かよ馬鹿くせぇ。骸骨ボスは使い古されてるからお呼びじゃねぇ、大人しく墓場に帰れボケ!」
だが、そんなものは遊哉にはマッタク持って関係ない。
相手が誰だろうと思ったままに毒を吐くのはお約束だ。
「大体、人の心のトラウマに漬け込んで乗っ取るなんざ在り来たりな手使いやがって。
テメェみたいなのが一番ムカつくぜ、ハラワタ煮えくり返りそうなぐらいにな!」
――轟!
デュエリストのオーラがまるで嵐の様に吹き荒れる。
此れは遊哉の怒りがそうさせているのだろう。
いや、遊哉だけでは無い。
霧恵も、遊星も、アキも、シェリーも、鬼柳も、そしてブルーノも相当に怒っている。
遊哉の闘気の昂ぶりは、仲間6人の闘気をも共にしたものの様だ。
「…ほう?私を見ても恐れぬか……如何やら遊城十代並みに肝の据わったデュエリストのようだな?」
「『アノ』遊城十代と同格とは光栄だぜ。つーかよ、テメェ誰だ?名前くらい名乗れよ骨!」
一応は名を聞くつもりらしい――ちゃんと呼ぶかどうかは知らないが。
「我が名は『ダークネス』……世界を破滅に導くもの…」
現れたものの名はダークネス。
遊哉達は知る由も無いが、このダークネスは今から5年前にも出現していた。
当時のデュエルアカデミア島に現れ、人々を闇に取り込み世界を破滅させようとしたのだ。
だがその時は、唯一闇に捕らえる事が出来なかったデュエリスト『遊城十代』に敗北し消えた。
其れが今又、今度は次世代のデュエリストである遊哉達の前に現れたのだ。
「ダークネス…闇か。」
「名前も在り来たりな上に世界の破滅とか……厨二病発症中かオイ?」
「見た目骨で名前がダークネス……もう少し捻ってくれないと満足できないぜ…」
チーム遊戯王の野郎3人にはそんな事は余り関係ないようだが…警戒は解いていない。
見た目と名前は兎も角として、相手は人の心の闇やトラウマに巣食う下方者なのだ。
今この時も何をしてくるか分ったものでは無い。
「厨二病発症してるかどうかは兎も角として…世界の破滅?…出来ると思っているの?」
そんな中で霧恵が問う。
世界の破滅など普通に考えて出来る事では無い。
事実ダークネスは過去に一度『全ての人間を闇に落して世界を破滅させる』事に失敗しているのだ。
「出来る。」
だが、それでもダークネスは言い切る。
纏う闇の力は、嘗て遊城十代と戦った時よりも強くなっているようだ。
「人の心に闇がある限り私は不滅だ……そして心の闇は私に力を与えてくれる。
全ては私が完全に復活する為、そして破滅を誘うだけの力を手にする為に起こした事だ…そいつを操ってな。」
雪花が封印されたクリスタルを見やり、『万事巧く行った』と言わんばかりだ。
「…彼女は、自分の心の闇がお前に住処を与えてしまったと言っていた…それに人造サイコデュエリストとは一体…
彼女がサイコデュエリストの研究機関『超能力開発機構』に居た事は調べてあるが…
其れに、何故彼女を選んだ?心の闇が=負の感情ならば、ディックにDホイーラー生命を絶たれた時の私だって恰好の獲物だった筈だが…」
だが、其れがブルーノには少しばかり解せない。
もし心の闇をエネルギーとし、其れに巣食うならと言うのならば自分に巣食ってもおかしくないと思ったようだ。
「ブルーノと言ったか…確かにお前の心の闇も強かったが、お前は心そのものも強かった。
心の闇を生み出しつつ、其れに飲まれず、不屈の闘志で身体を機械化してまで再起した――そんな者には巣食えぬ。
だが、ソイツは違う……『超能力開発機構』は爆発事故を起こし、研究員も皆その事故で死んだが…其れを起こしたのはソイツだ。」
「「「「「「「!?」」」」」」」
「超能力開発とは名ばかり、実際には薬物投与や脳への過剰刺激で『無理やり』サイコデュエリストを作り出す組織。
サイコデュエリストの資質がありそうな者を手当たり次第に拉致して実験をする違法組織がその実体。
ソイツもそんな憐れな実験体の1人だが……多くの実験体が廃人や死んでしまった中でソイツは少ない成功例だった。
…が、度重なる違法実験による苦痛と望んでも居なかった力の覚醒にソイツの心は疲弊し…遂に限界を迎えた。
怒り、憎しみ、絶望…それらでどす黒く染まった心の闇が爆発し、植えつけられたサイコパワーが暴走……
皮肉にも研究員達と開発機構の所長は自分達が作り上げたサイコデュエリストに殺される形になってしまった訳だ。」
「アノ爆発事故にそんな裏があったとは…」
思ってもみなかった事実だ。
ブルーノが調べてみてもそう言った事は一切出てこなかった……何らかの政治的圧力で隠蔽されたのだろう。
「そして、暴走したとは言え人の命を奪った事で、ソイツの闇は更に増幅し――其処に私が入り込み支配した。
後は簡単だった、路頭に迷っていたソイツを保護したフレディを闇で操り、ディックの誘いに乗ってやればよかった。
ファントムの起こした事件で発生した心の闇も、私の復活の糧になってくれた…実に良く動いてくれたモノだ。」
「…マジに腐れ外道だな…!」
「最低最悪だわアンタ…」
聞いているだけで反吐が出そうになる位の最低な所業だ。
遊哉に続いて霧恵も沸点突破しそうな勢い――或いは全員がそうかもしれない。
「最低か…だが迦神霧恵、お前もまた私の復活に貢献してくれたのだぞ?」
「何ですって?どういう事!?」
「まさか忘れた訳では無いだろう――霊魔導師達を焼失したときの事を。」
「!!」
それでもダークネスは止まらず、今度は霧恵の心の傷を穿り返してきた。
霊魔導師達はシンクロモンスターとして復活し、ヴェルズに捕らわれたアリオスの思念すら自らに取り込んだ霧恵だが、
確かにあの時の絶望は考えられないほどに深かった――再起できたのが不思議なほどに。
その時の霧恵の『悲しみ』と言う心の闇すら食い物にしていたのだ。
「テメェ…」
「あれは偶発的な事だったが、私の力を満たしてくれるには充分な心の闇だった。
更にあり難かったのは、精霊界のヴェルズがこの世界に進出しようとした事だ。
ヴェルズは人の邪念に取り付き、具現化する種族――その邪念の増幅も使わせてもらった。」
正に何でもありだ。
自らの復活の為ならば、人の心だろうが精霊の力だろうが何でも利用したと言うのだ。
「そしてデュエルによって発生するデュエルエネルギー…心の闇とデュエルエネルギーの2つを吸収し私は復活した。
だが……復活はしたものの世界を闇で覆い尽くして破滅させるには未だやらねばならぬ事がある…」
そして極め付けにデュエリストが己の魂を賭して戦うデュエルで発生するエネルギーまでも…
更には此処までしておきながら、まだやる事があるというのだ。
「これ以上何をするつもりだダークネス!」
「デュエルだよ不動遊星。私の目的を達成する為に闇のデュエルで葬らねばならぬ者が居る――お前だ、緋渡遊哉。」
「ハッ、俺かよ!光栄だなオイ。」
其れは闇のデュエルで遊哉を葬る事だった。
言われた遊哉は既にやる気だが、霧恵たちからすれば『何で遊哉が?』と言った所だ。
確かに遊哉は強いが、其れはこの場に集まった全員に言える事。
遊哉1人だけと言うのは余りにも解せない。
「お前は…何故か闇そのものとも言える『黒い心』を持っているのに闇に落ちない…心に闇が巣食わない。
お前を生かしておけば、龍皇と共に私の最大の敵として立塞がる事は明白…今の内に倒しておかねばな。」
理由は遊哉の存在の特異性だった。
ダークネスの言う事が本当ならば、遊哉の心には黒い部分があるのに闇に喰われ無いと言うのだ。
人は誰しも心の闇を持っているものだが、遊哉には黒い部分があっても闇が無い、そして闇が巣食わないという事になる。
「何故お前には闇が巣食わない…アレだけの黒い心を持っていながら…」
「あぁ?決まってんだろンナモン………俺が究極最強にして純粋な悪役だからだ!!」
「「「「「「成程。」」」」」」
其れを問うダークネスへの答えは何とも遊哉らしいトンでもないものだった。
トンでもない答えだが、仲間一同はブルーノまでもが納得している辺り多分そうなのだろう。
「ふざけているのか?」
「ふざけてなんざ居ねぇよボケナス!
心の闇を塗り潰すほどの悪役としての強さが無きゃ遊星の対極の悪ヒーローなんざ務まるかアホンダラ。
大体なぁ、人の心のトラウマに漬け込むとかやる事がセコイ上にみみっちいんだよテメェは。
テメェみたいな奴はワイヤーで括りつけられてお化け屋敷の天上から吊るされてるのがお似合いだぜ!」
其れを皮切りにお得意の毒舌が炸裂。
こうなってはもう止まらない。
「そもそもお前馬鹿だろ?最大の敵を態々自分の方に招いちまったんだからな。
せせこましく復活して少しずつ地道にやってきゃ、或いは俺達だってどうにか出来たかも知れねぇのに。
其れなのに自分から敗北の道選んでんだから面白すぎて笑えねぇ、その頭蓋骨の中身は空っぽだな豚骨!…いや、テメェ山羊か。」
「言わせておけば…緋渡遊哉…貴様…!」
「『さん』を付けろよ骸骨野郎!」
「…絶好調だな緋渡。」
「まぁ、ブチキレてるからね遊哉。…アタシもプッツン寸前だったけど。」
で、霧恵達は毒舌八丁、悪役全開の遊哉に一瞬にして沸騰しかけの感情が治まったようだ。
遊哉がアノ状態ならば何の問題も無い。
とっくに遊哉は霧恵達の怒りを自分に取り込んでいることだろうから。
「まぁ、何でもいいや。テメェの事は打ちのめすって雪花に啖呵切ったからよ…望み通りデュエルしてやるぜ!」
『人の心を食い物にする愚物が…我が炎で塵と化してくれる!』
『人は誰しも心の闇は持つものです…が、人には其れを乗り越える強さもある。
その乗り越える強さを封じ込め、闇のみを増幅するお前の所業は許されざるものです…覚悟しなさいダークネス!』
遊哉の怒りの啖呵切りに呼応するようにアグニとエアトスが現れダークネスを睨みつける。
矢張り精霊達にとってもダークネスの所業は大凡許せるものではないらしい。
「ほう…最強の炎の龍皇と守護の天使か……だが、私に勝てるかな?」
「あ゛?勝つに決まってんだろ……つーか、テメェが俺に勝つ確率は0なんだぜ?」
「なに?」
「テメェは一番やっちゃならねぇ事をしやがった……人の心を食い物にした事は勿論許せる事じゃねぇ…
けどな、それ以上にテメェは霧恵の心を利用しやがった!俺は何より其れが許せねぇ!!」
「…遊哉…!」
更に挑発めいたダークネスの言葉にも揺るぎもしないで『勝率0』を宣言。
何よりも霧恵の心を利用された事が許せないようだ。
「霊魔導師達はシンクロモンスターとして復活して霧恵と一緒にいる。
だがな、ずっと一緒に戦ってきた相棒達を失った時の霧恵の悲しみはとんでもなく深かった!
下手したらデュエリストとして二度と再起出来ない位に!
其れをテメェの下らねぇ目的の為に利用しやがって……ぜってぇ許さねぇ!!
ただ倒すだけじゃ済まさねぇ、テメェの存在そのものをこの世から消し去ってやるぜダークネス!!」
遊哉は口が悪く悪役だが仲間思いだ。
その遊哉が自分の彼女である霧恵の心を利用されたとあっては黙っていられる筈が無い。
そして怒りMAX、悪役全開の遊哉は、遊星をして『アノ状態の緋渡に勝つのは難しい』と言うほどに強い。
皮肉にも、ダークネスは自らを復活させる為に行った事が、己の最大の障害を『最強の状態』にしてしまったのだ。
「く…其れだけの怒りを見せながらも闇が生まれぬ…矢張り貴様は危険だな…必ず葬ってくれる!」
「やってみろよ骨格標本!ラーメンの出汁にしてやるぜ!!」
最早どちらも退かない。
本より退く心算など毛頭無いが、このデュエルは間違いなく只では済まないだろう。
因みに…
「顔が紅いぞ迦神?」
「…普段の態度からはあんまり分らなかったけど…アタシって思ってた以上に愛されてた///?」
遊哉の怒り爆発の最大のトリガーが、『自分の心を利用された事』だった事に霧恵が少しばかり照れていた。
何にせよ、この世界の運命を左右するデュエルが始まろうとしていた。
「行くぜ、アグニ、エアトス!あのクソッタレな骨格模型を打ち殺す!」
『うむ、全力を持って滅してくれる!』
『えぇ、これまでの所業の報いを受けてもらいましょう。』
To Be Continued… 
*登場カード補足