「これがデルタ・アクセルシンクロ…!」

 「3体のシンクロモンスターを使った…」

 「究極のシンクロ召喚…!」

 「そして、その力で現れた究極の星龍『コズミック・クェーサー・ドラゴン』…凄い…」

 限界の先の進化を見せた遊星に、デルタ・アクセルを知らなかった鬼柳、アキ、シェリー、霧恵はタダタダ驚くばかり。
 遊哉とブルーノと共に声援を送ったが、これ程のモンスターが出てくるとは思わなかったのだろう。
 呼び出された銀の星龍の迫力は存在しているだけで見るものを圧倒するようなのだ。

 「ガチでやりやがったな…流石遊星だぜ!」

 「あぁ、彼のデュエリストの腕と心は間違いなく本物だ。」

 だが、其れを知っていた遊哉と、可能性を示したブルーノは感心するばかり。
 この土壇場での新たな力の覚醒は賞賛ものだ。

 「何にせよ、こうなった以上は遊星の勝ちは絶対だ!
  葬滅神だかなんだか知らねぇが、打ちのめせ……最強の星龍でファントムに止めを刺しちまえ、遊星!!」

 仲間の声援に応える様に、遊星のDホイールがスピードを上げる。
 遊星と雪花のデュエルも終りの時が近づいているようだ。











 遊戯王デュエルモンスターズ New Generation Duel88
 『Rhythmic Hallucination』











 「ふ…」
 遊星:LP2600   SC7
 コズミック・クェーサー・ドラゴン:ATK4000
 クリムゾン・ノヴァ・ドラゴン:ATK6200



 「く…馬鹿な、こんな事が…!」
 簪:LP4300   SC1
 葬滅神−アンラ=マンユ:ATK10800
 掃滅龍−ジェノサイド:ATK3000
 掃滅鬼−グレンデル:ATK3000




 「更に、俺の墓地のチューナーが増えた事で、クリムゾン・ノヴァの攻撃力もアップする。」
 『バオォォォォ!!』
 クリムゾン・ノヴァ・ドラゴン:ATK6200→6500



 「く…目障りな…!」

 遊星が開いた進化の道を目の当たりにし、雪花は思わず唇を噛んだ。
 自分の方が圧倒的に有利な状況で有ったにも拘らず、遊星は諦める事がなかった。

 状況の悪さに悩みはしたが、それでも仲間の声援を受けて打開策を見出してきた。

 そしてその結果が此れ。
 限界の更に先を突き進み、『究極のシンクロ召喚』を体得。

 最強進化を遂げた星龍『コズミック・クェーサー・ドラゴン』まで従えて来たのだ。

 其れはつまり、自分が遊星を屈服させる事が出来なかったという事。
 アレだけの状況においても心を折る事が出来なかったなど到底信じられないのだ。


 「……だからどうした…」

 それでも低い声で威嚇するように言う。
 或いはこうしなければ自分が保てないのか…其れは分らないが…

 「3体のシンクロモンスターによる究極のシンクロ召喚……あの土壇場から見事と言っておくわ。
  だけどコズミック・クェーサー・ドラゴンの攻撃力は4000――葬滅神には遠く及ばない!」

 確かにその通りだ。
 葬滅神の攻撃力は10800ポイントと、コズミック・クェーサーの2倍以上もある。

 如何にデルタ・アクセルシンクロモンスターと言えど、此れでは勝てる筈は無い。

 「ふ…其れは如何かな?」

 「なに?」

 しかし、遊星は冷静だ。
 攻撃力が10000を超える葬滅神を前に、恐れも何もなりはしない。

 信じているからだ――限界を超えた先で見つけた、新たな仲間の事を。

 「コズミック・クェーサーの力はお前の葬滅神の上を行く!…スピードスペル『Sp−死者蘇生』を発動!
  俺のスピードカウンターが5個以上ある時、墓地のモンスター1体を特殊召喚する!蘇れ『スターダスト・ドラゴン』!」
 『キュゥァァァァァァ!』
 スターダスト・ドラゴン:ATK2500



 下準備として、先ずは墓地からエースモンスターであるスターダストを蘇生させる。
 これで遊星のフィールドには3体のシンクロモンスターが揃った事になる。

 ただ其れだけならば何と言う事は無い。
 だが、スターダストがフィールド上に舞い戻った瞬間、雪花のモンスターに異変が起きた。


 『『『―――――!!』』』

 「!?」

 3体のモンスターの力がコズミック・クェーサーが発する光に掻き消されるように霧散したのだ。
 更に…


 『!!!』
 葬滅神−アンラ=マンユ:ATK10800→4000


 「馬鹿な…攻撃力が!!」

 葬滅神の攻撃力が元々の4000ポイントに戻っていた。


 「これがコズミック・クェーサー・ドラゴンの力の一端だ!
  俺のフィールド上にコズミック・クェーサー以外のシンクロモンスターが2体以上存在するとき、相手フィールド上のモンスターの効果は全て無効になる!」

 「なん…ですって!?」

 其れはコズミック・クェーサーの力だった。
 自身以外にクリムゾン・ノヴァとスターダストと言う2体のシンクロモンスターが揃った事で発揮された力。

 凶悪なまでの雪花の葬滅神と、2体の掃滅モンスターの力は無効になったのだ。

 「モンスター効果が無効になった事でグレンデルの戦闘破壊耐性とジェノサイドの効果破壊耐性も消滅する!
  更に、コズミック・クェーサー・ドラゴンは俺のフィールドのシンクロモンスター1体につき攻撃力が700ポイントアップする!
  俺のフィールドのシンクロモンスターは3体!攻撃力は6100ポイントにアップする!」
 『クェェェェェェ!』
 コズミック・クェーサー・ドラゴン:ATK4000→6100



 「攻撃力6000超のドラゴンが…2体…!!」

 「これで終りだ簪!クリムゾン・ノヴァ・ドラゴンで、葬滅神−アンラ=マンユに攻撃!『クラッシュ・オブ・バーニング・フォース』!」
 『バオァァァァァァ!!!』


 ――バガシャァァァン!!



 最強とも言える布陣をそろえた遊星はデュエルのフィナーレを宣言し、その先駆けとなる一撃を放つ。
 紅き魔龍が紅蓮の炎を纏った拳で葬滅神を貫き、粉砕爆滅!

 「ぐぅぅぅ…!」
 簪:LP4300→1800


 「クリムゾン・ノヴァの効果発動!戦闘を行ったダメージ計算終了後デッキトップのカードを1枚墓地に送る!
  …墓地に送ったカードは、モンスターカード『スピード・ウォリアー』
  モンスターカードを墓地に送った場合、相手のモンスターを全て破壊する!『スーパー・ノヴァ』!」
 『オォォォォ!!』


 ――ゴォォォォォ!!



 更に追加効果で掃滅龍と掃滅鬼も焼き尽くす。
 効果を無効にされた2体のモンスターは、破壊の魔龍の前には余りにも無力だった。

 「これでお前のフィールドにはカードは無い!
  シューティング・クェーサー・ドラゴンでダイレクトアタック!『天地開闢撃 ザ・エヌマリエシュ・バースト』!」
 『クォォォォォォォォ…』


 コズミック・クェーサー・ドラゴンの両の掌に力が集中し、眩い光の球体が出来上がる。
 其れは宛ら『世界の始まり』を思わせる光――開闢の輝き。


 『クァァァァァァ!』


 其れが一気に放たれ、光の奔流となって雪花を襲う。
 攻撃力6100の一撃は、雪花の残りライフ1800を簡単に奪う威力だ。

 「く…ダイレクトアタックを受ける時、手札の『バトル・フェーダー』を特殊召喚してバトルフェイズを終了する!」

 それでも未だ防ごうとする。


 だが、其れも無駄だった。

 「無駄だ!コズミック・クェーサー・ドラゴンの効果!
  魔法・罠・モンスター効果が発動したとき1ターンに1度だけそれらの発動と効果を無効に出来る!『ギャラクシー・フォース』!」


 ――ゴゥ!!


 コズミック・クェーサーから発せられた衝撃波で雪花が発動を試みた『バトル・フェーダー』は霧散。
 逆境から開眼したデルタ・アクセルシンクロの力は想像を絶する力だった。

 「馬鹿な…!!」
 ――…これ程とは…だがこれで良い。これだけのデュエルエネルギーならば申し分ない…


 「行け、コズミック・クェーサー・ドラゴン!!」
 『クァァァァァァ!!』


 放たれた光は今度こそ雪花を飲み込み、残りのライフを削り取って行く。


 ――ふふふ…これで私の復活は成る…ご苦労だったな……この身体を操る為の疑似人格も、最早必要無いな。


 ――シュゥゥゥ…


 その光に飲まれる中で、雪花の身体から『黒い何か』が抜け出した。
 尤も其れは遊星にも、観戦している遊哉達にも認識はされなかったが…


 「……!!…待ちなさい…ダーク……!…体の自由が…利かない!!く、最後まで…う…あぁぁぁぁ!!」


 ――ドォォォン!!!


 「きゃぁぁぁぁぁ…!!」
 簪:LP1800→0


 臨界点を迎えた光が弾け、雪花のライフを文字通り消しとばし、更に衝撃が雪花そのものをDホイール毎吹き飛ばす。


 機体制御を失ったDホイールは大きくスピンしそのまま転倒。
 転倒と同時に、雪花も機体から放り出され、その身を床に叩きつけられる。

 クラッシュと言うにも余りにも凄まじい。

 おまけに叩けつけられた雪花はピクリとも動こうとしない。


 「!!簪!!」

 「オイ、大丈夫か雪花!!」


 其れを只事では無いと思い、遊星も観戦組も思わず駆け寄る。

 「確りしろ。……少し威力が強すぎたか…?」

 ヘルメットを外しながら、攻撃の威力が強すぎたかと思う遊星だが――違う。

 「ち、違う……体の自由を奪われた状態で…身体の所有権を…返された……」

 「「「「「「「!?」」」」」」」

 『身体の自由を奪われた』『身体の所有権を返された』と言う意味不明な一言。
 だが、それ以上に雪花の態度が今までとマルで違う事に7人は驚いている。

 大凡目の前の女性は、あの凶悪で冷徹かつ非情な『ファントムのリーダー』とは思えない。

 「雪花?いや、オメェは…?ってオイ、身体が消えかけてんぞ!?」

 「く……デュエルに敗北したものの末路は…私も同じか……散々私を…使ったくせに…」

 遊哉が問うが、同時にその身体が光の粒となって消えていく。
 これまでのデュエルの敗者…アギト、フレディ、ディックと同じ現象が雪花にも起きているのだ。

 「簪…まさかお前は…!」

 「流石に…察しが良いわね…不動遊星……今まで彼方達…と、デュエルをしてきたのは…私に取り憑いて居た者…
  より正確に言うなら…『ソレ』が……私を居のままに動かす為に…作り出した……邪悪な疑似人格…!」

 「そんな!!それじゃあアンタはソイツに乗っ取られて…操られて居たって言うの!?」

 余りにも衝撃的な事実だ。
 もしこれが本当だとするならば、雪花には罪は無い――それどころか寧ろ被害者だ。

 誰もがそう思ったが、雪花は首を振って否定する。

 「操られたのは…事実…だけど……根本の咎は…私に…私の弱い心にある…。
  人造サイコデュエリストの…実験体に…されて、望まない力を与えられた時の…怒りと…絶望……
  その時に生まれた…私の『心の闇』…が……アイツに…格好の住処を…与えてしまった…
  もしも…私の心がもっと強かったら……怒りと絶望に…飲まれなかったら……きっとこんな事にはならなかった…」

 「お前……ちぃ…何処のドイツだそんな事しやがったのは!人を操るなんて不満足にも程がある!」

 余りの事実に怒りが募る。
 打ちひしがれたボロボロの心を利用するなど、外道・非道極まりない。

 雪花が自身の咎と考えてしまうのは、自身に巣食っていた『何か』がそう思わせるだけの事をしたからだろう。

 「今のデュエルで発生したエネルギーと……私と…他の4人の…魂を使って…アイツは復活する…
  こんな…事を…頼めたギリじゃないのは…分ってる……けど…アイツを……止めて…おね…がい…」

 雪花の身体は、もう胸から上しか残っていない。
 その残った部分も、ドンドン光となって消えている……消滅までは僅かだ。


 「んな腐れ外道は言われなくても完膚なきまでにブチのめす!
  だから教えろ!テメェを乗っ取ってやりたい放題やったクソッタレのタコは何処のドイツだ!」

 『止めてくれ』…その願いに、誰よりも早く遊哉が反応した。

 怒りのメーターが振り切れたのだろう――そもそも沸点は恐ろしく低いから当然だろうが…

 既にヤル気満々、雪花を操っていた『誰か』を叩きのめす気満々だ。

 「ふふ…実際見ると…凄い迫力ね……彼方なら…きっと………倒せるわ…私に巣食っていた……ダークネ…」


 ――シュゥゥゥン…


 ソレを見た雪花は薄く笑いながら、自分に巣食っていたものが誰かを言おうとしたが――タイムオーバーだった。
 全てを言い切る前にその身体全てが遂に消えてしまったのだ…



 同時に部屋には4体目のクリスタル――雪花が中に入った水晶柱が現れ、雪花の姿が描かれたカードも一緒に出現。
 其れは『雪花の身体と魂も封印された』証だった。


 そして…



 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…



 「「「「「「「!!?」」」」」」」

 雪花封印の証が現れたと直後、神殿が唸り壁や天井が動き始めた。
 床が持ち上がり、天上は開いてどんどん上に昇っていく。

 其れに合わせる様にして部屋の壁も上に上に伸びる。


 「此れは一体…」

 「どうやらマジの『最終ステージ』みてぇだな……上等だぜこの野郎…!」

 どれ位昇ったか、漸く上昇は止まり同時に壁が無くなり、その景色が見えるようになる。

 遥か遠くに見える『童実野町』の街並み。
 どうやら相当な距離を昇ったらしく、眼下には神殿の入り口付近がとても小さく見えている。


 「ラストステージは天空デュエルか?…凝った事だなオイ!
  つーか何処に居やがる!隠れてねぇで出てきやがれ、人の心を喰いモンにしやがったド外道野郎!!」

 そんな事はお構い無しに遊哉の『悪役モード』は既に発動。
 いや、これでもまだ抑えている方だ。

 「遊哉の言う通りよ!出てきなさい!」

 霧恵も同様に叫ぶ。
 他の面子も、『何処に居る』とばかりに見渡すが……誰も居ない。


 いや、居ない筈だったのだが…



 ――…………



 突然、1枚の黒く塗りつぶされたカードが7人の前に出現した。
 禍々しい『闇の瘴気』を纏いながら。

 「…んだ此れ?」

 其れに答える者は無い。

 変わりにそのカードは、雪花、フレディ、ディック、アギトのカードとその身体が封印されたクリスタルを闇の瘴気で包み……消した。

 「何だと!?」

 「吸収…したって言うのか!」

 恐らくはその通りだ。
 吸収したのだ、4人の身体と魂を。


 ――ドクン、ドクン…!


 それらを吸収したカードはより強い闇の瘴気を纏いながら脈動する。






 只ならぬ雰囲気だけが、その場を支配しているかのようだった――













   To Be Continued… 






 *登場カード補足



 Sp−死者蘇生
 スピードスペル
 自分のスピードカウンターが5個以上ある時に発動できる。
 自分か相手の墓地のモンスター1体を選択し、選択したモンスターを任意の表示形式で自分フィールド上に特殊召喚する。