神殿の最上部――雪花が居る玉座。
その巨大な扉の前には、霧恵とシェリー、アキと鬼柳が既に到着していた。
夫々タッグで立ちふさがる相手を粉砕しての到着である。
「来た道は戻れないか…満足できない王道展開だな。」
霧恵達からフレディの言っていた事を聞いた鬼柳は『ヤレヤレ』と言ったところだ。
まぁ、来た道を戻れないとなれば当然だろう。
となれば、この部屋の奥に居る雪花を倒してどうにか脱出するしかないのだ。
「しかも負ければ消滅…とんでもないわ。」
「そうね…それにしてもこの扉……だめね、開かないわ。」
話しながら目の前の巨大な扉を開けようとするが、びくともしない。
アキがサイコパワー使って押してもだ。
「案外、全員揃わないと開かないとかかもな。」
「となると、遊哉達の到着を待つしかないわけか……同じに発進して此れだけ差が有るって事は内部構造もルートによってバラバラだったのね。」
霧恵の考えは当たりである。
この神殿の内部構造は兎に角滅茶苦茶で最下層からのルートなどは一貫性皆無!
それこそ直線距離で最大3km程の差が有るくらいだ。
「まぁ、到着待つしかないか。あの3人が負けるとは…誰も思ってないよね?」
「「「思ってない。」」」
一行は最終戦の前にしばし休息の様だ。
遊戯王デュエルモンスターズ New Generation Duel84
『到着、最終決戦地!』
――キィィィィン…
程なくして通路からDホイールの滑走音が聞こえてきた。
確認するまでも無く遊哉達だ。
「スマナイ、遅くなったな。」
「全員無事か…流石だな。」
「まぁ、俺等がファントムなんぞに負ける訳ねぇだろ?」
これで全員が揃った。
「負けるとは思ってなかったけど…遅かったじゃない?」
「みょ〜に道が曲がりくねっててよ…直線にしたら相当長ぇ距離走った気がする。
まぁ、アレだ――主役は遅れて現れるって奴だ!世界の真理だ真理!!」
「相変わらずの絶好調ねアンタは…」
「俺はいつ何時でも絶好調だ!!」
遊哉達が合流した事で、何時もの空気が戻ってくる。
最終決戦を前に緊張感が無いと思うだろうが、寧ろチーム遊戯王的にはこっちのほうが良い。
肩肘張らずに、心に余裕を持ってデュエルに臨む。
それが最終的には最上の結果を残しているのだ。
特に遊哉と霧恵のやりとりは皆の精神から無駄な力を抜いてくれる。
最終決戦を前に、全員が最高の精神状態を手に入れたのだ。
「それじゃあ行こう。…だがこの扉はどうやって開けるんだ?」
が、矢張り問題はこの扉。
アキのサイコパワー行使でも開かなかった巨大な扉を開く術があるのだろうか?
全員で押しても動くかどうか非常に怪しい部分がある。
「あぁ?どうやってなんぞ愚問だぜ遊星。開かない扉はこうやって開けるに限る!
……たのもー!!道場主出てこいや、ゴルァア!!!」
――メッキィ!!!
デュエルもしてないのに悪役全開。
『道場破りか?』と突っ込みいれたくなるようなセリフと共に遊哉が扉にヤクザキック一発!
普通に考えれば開くはずが無い。
無いのだが、蹴りかましたのが遊哉だ。
そうなると『アレ?若しかしたら開くんじゃね?』と霧恵や鬼柳は思うわけで…
――バッガァン!!
「よし、開いた!」
「此れは砕けたと言うんじゃないか?」
「色んな意味で凄いな君は…」
本当に扉が開いた…もとい砕けた。
悪役モードの遊哉は常識すら突破するようだ。
「まぁ、ぶっ壊しても問題ねぇだろ? 元々ラスボスブッ飛ばしてこれ壊す予定なんだからよ?」
「…うん、否定はしない。」
霧恵も霧恵で突っ込みながらも会話成立。
兎も角、雑談をしながら一行は玉座の奥に進む。
進むたびに空気が重くなっていると感じるのは気のせいではないだろう。
玉座には雪花のみ。
いや、正確には1人ではない。
クリスタルに閉じ込められたアギト、フレディ、ディックの姿が。
如何見たって普通じゃない。
「ようこそチーム遊戯王。誰1人欠ける事無く此処まで辿り着くとは流石と言っておこうかしら?」
「テメェに褒められたって嬉かねぇよボケ。」
「デュエルに負けた者をクリスタルに閉じ込めるなんて正気を疑うわね…」
いっそ闇のオーラが具現化しているのかと見紛うほどに邪悪で暗く歪んだ雪花。
それこそWRG1の時とは最早別人といっても過言ではない位にだ。
「敗北者に情けはいらない。そいつ等がデュエルで勝つ必要は無かったのだけれど…
本当に欲しかったのはデュエリストの魂…」
「デュエリストの魂?」
「そ、敗者の肉体はクリスタルに閉じ込められ、魂は……こうなる。」
言いながら3枚のカードを遊哉達に見せる。
アギト、フレディ、ディックの魂が封印されたあのカードをだ。
「まさか、そのカードに3人の魂を…!」
「信じられないわ…!」
あまりにも衝撃的だろう。
デュエルの敗者が、目の前で消滅しただけでも驚きだったというのに更には肉体と魂の封印とは…
しかも其れを行った雪花はまるで平気な顔。
それこそ人の魂など生贄コストとしか考えていないかのようだ。
「人の魂まで抜き取って、貴女は一体何を企んでいるの?」
「いい加減聞かせてもらいましょうか?」
神殿の最上部のこの部屋に居るのが雪花1人という事は、これが最後の相手で間違いない。
ならば、せめてデュエルの前に一体何の目的でこんな事をしたのかいい加減聞きたいものだ。
雪花もそう来るのは予想の範疇だったのだろう。
口を三日月型に歪め、語りだす。
「そうね…折角此処まで辿り着いたのだから教えてあげようか。
目的はシンプルで簡単…この世界を闇で覆いつくし、この世の全てを深く暗い負の感情で満たす事。
一切の光が差し込まない真なる闇をこの世界に具現する事よ、闇の神を復活させてね。」
「うわぁ…滅茶苦茶小者くせぇ!帰れ厨二、脳に沸いた蛆を害虫駆除業者に除去してもらえアホンダラ。」
が、目的を言った瞬間に遊哉のカウンター毒舌が炸裂。
明らかに『馬鹿かコイツは?』と言った顔をしている。
「なに?」
「使い古されたテンプレ思考曝してんじゃねぇ。
往々にして、そういうセリフ吐いた奴は負けるって相場が決まってんだ!
大体俺に、俺達『チーム遊戯王』+ブルーノに挑んで勝てると思ってんのか?
暫定だがブルーノも入れて、俺達は今現在の『世界最強デュエルチーム』だぜ?理解してんのかラスボス未満!」
相変わらずの言いたい放題。
特に考えもせずに、これだけのセリフが吐けるのは大したものだろう。
「つーか質問!そこのクリスタル漬の趣味悪いオブジェになってる3人が勝つ必要はないたぁどう言うこった?
勝つ必要ねぇなら、態々俺達の前に現れる必要ねぇだろ?寧ろラストダンジョンへの直通希望だし。
テメェの目的云々よりも、そっちの方の説明プリーズ!割と本気で!」
そしてサラッと疑問をぶつけている。
まぁ、これは遊哉だけの疑問ではない。
霧恵とシェリーはフレディ戦後から気になっていたし、遊星とブルーノ、アキと鬼柳も同様だ。
態々部屋で待ち伏せてデュエルを仕掛けてきたのに『勝つ必要は無い』と言うのは如何にも解せない。
「まぁ、此処まで来て隠す事もないから教えようか。
デュエリストが本気でデュエルをする時には凄まじいまでのエネルギーが発生する。
嘗て『ユベル』と言うカードの精霊が、自身の復活の為にそのエネルギーを利用したくらい高濃度のね。
そのエネルギーが目的達成の為に必要…其れを得る為のデュエルだったのよ。
付け加えるなら、この神殿も辻デュエルとWRG1のデュエルで発生したデュエルエネルギーを使って呼び出した。」
「つまり、デュエル事態が目的達成の為の鍵…勝敗は関係なかったって事ね?」
「正解。まぁ、お前達が負けるなら負けるで僥倖ではあったけれど……でも矢張り目的達成の最後のピースは自分で集めないとねぇ?」
事の真相を話しながら指を鳴らすと、途端に部屋全体が明るくなり全容が明らかになる。
其れは凄まじく広い空間。
ディックが居た部屋よりも更に倍はあろうかと言う広大な空間。
この玉座もまた『圧縮空間』だったらしい。
更に広だけではなく…
「これは…サーキット?」
「らしいな。」
複雑なコースの室内サーキット。
ご丁寧に観客席まであると来た。
「計画の完遂はこのデュエルで成る…私が勝とうが負けようがそのデュエルエネルギーを吸収してね。
でも、断る事は出来ない…私を倒さなければ、暴れまわる実体化したモンスターは止まらない。
チームレックスとチームYAMATOの面々を中心にデュエリストが頑張っているけれど何時まで持つかしらね?」
そして、断れないようにデュエルを仕掛ける。
本よりチーム遊戯王とブルーノに断る気など皆無。
どうせ倒さねばこの神殿は消えないだろうと思ってたし、目的を聞いたなら尚更。
仮にデュエルをする事で計画が発動したとしても、その時は復活した闇の王とやらを倒せばいいと考えていた。
「ハッ!上等だ、やってやるぜ!!」
「お前の目的は俺達が食い止める!!」
中でも遊哉と遊星はヤル気が更に凄い。
先程のディックの部屋で、ブルーノにデュエルを一任した故にデュエルしてないせいかもしれない。
「そう来ないと…では、先ずは不動遊星、お前から相手になってもらうわ!」
雪花も其れに笑みを深め、遊星を相手に指名。
アギトやフレディとは違い、タイマンデュエルを望んでいる様だ。
遊星とて、態々指名されて拒否などしない。
「良いだろう。お前は此処で倒す!」
「頼むぜ遊星!」
「誰に挑んだのか、思い知らせてやれ。」
遊哉と鬼柳もエール。
口にこそ出さないがブルーノと女性陣も同じ気持ちだ。
タイマンデュエルとくれば残った面子は応援するしか出来ないがそれでも充分だ。
別に、相手のいう事を聞くことなど無いと思うだろうがこれはデュエリストのプライドの問題。
タイマン挑んできた相手に、複数で相手をするなど恥知らずも甚だしい。
だから遊星以外の面子も応援に回るのだ。
「俺の準備は何時でも良い。」
「そう?ならスタートラインに着きなさい。私のマシン用意できているから。」
着々とデュエルに向かう。
遊星と雪花はスタートラインに、遊哉達は観客席に移動。
自然とデュエル特有の緊張感が高まってくる。
「Dホイールが違うな?」
「WRG1で壊れたからね。まぁ、今回は合体はしないわ。」
スタートラインに着き、雪花も自身のDホイールに搭乗。
WRG1の時とは違う、スマートな機体だ。
「遊哉、どうなると思う?」
「遊星の勝ち一択意外にねぇだろ?つーかあんな厨二馬鹿に遊星が負けるなんてありえねぇ。」
「だよね。」
客席は客席で遊星の勝ちを微塵も疑ってなかった。
「準備は出来た…始めようか?」
「ふふふ…精々頑張りなさい。勝とうと負けようと結果の変わらないデュエルをね…」
「変わらないかどうかはやってみなくちゃ分らないさ。」
エンジンは全開。
ブレーキを解除すればたちまち飛び出すだろう。
ディックの時とは違い、この部屋にはスタートシグナルもある。
シグナルはレッドを点灯。
計4つのシグナルが等間隔で点灯しスタートの合図が近づく。
――ピッ、ピーーーーーーー!!
シグナルグリーンが点灯!
「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」
同時に飛び出す2人。
マシン性能は略互角。
互いにファーストコーナーを制すべくデッドヒート。
全く譲らない直線勝負だ。
「先攻は貰う!」
その勝負でファーストコーナーを制したのは遊星。
機体を限界ギリギリまで倒しての超高速コーナーリングで鋭く切り込んだのだ。
「流石のテクニックね…そう来なくては…」
「一切の手加減はしないぞ簪!」
「「デュエル!!」」
遊星:LP4000 SC0
簪:LP4000 SC0
始まったデュエル。
先攻を取ったのは遊星だが、今は2人は略並走状態だ。
「俺のターン!自分フィールド上にカードが存在しない時、手札の『アサルト・シンクロン』を特殊召喚できる!」
アサルト・シンクロン:ATK0
「そして『スターブライト・ドラゴン』を召喚!」
スターブライト・ドラゴンATK1900
手加減無しの宣言通りに速攻でシンクロ素材を揃える。
様子見などは不要、初っ端から全開だ。
「スターブライト・ドラゴンは召喚に成功したときモンスター1体のレベルを2つ上げる!
俺はこの効果でアサルト・シンクロンのレベルを2つ上げ、レベルを2から4に変更する!」
アサルト・シンクロン:Lv2→4
更にレベル変動効果でチューナーのレベルを変動。
これでレベル合計は8。
自身のエースを呼ぶ準備は完了だ。
「全力で行く!レベル4のスターブライト・ドラゴンに、レベル4となったアサルト・シンクロンをチューニング!
集いし願いが、新たに輝く星となる。光射す道となれ!シンクロ召喚、飛翔せよ『スターダスト・ドラゴン』!!」
『クォアァァァァァァァ…!』
スターダスト・ドラゴン:ATK2500
舞い降りるは白銀の翼を持った星龍。
その咆哮は、遊星の闘気に呼応したかのように力強い。
或いは1ターン目からの登場に、カード自身が喜んでるのか…
何にせよ、初手からエースを呼び出し戦線を作り上げて行く。
「先攻1ターン目は攻撃できない――カードを2枚伏せてターンエンドだ。」
エースを呼ぶだけでなくリバースもセットして磐石の体制を作る。
抜かりは無い。
「私のターン…」
遊星:SC0→1
簪:SC0→1
「手札を2枚捨て、チューナーモンスター『ハイ・ボルテージ』を特殊召喚。」
ハイ・ボルテージ:ATK1200
「そして墓地の『ロー・ボルテージ』はフィールド上にハイ・ボルテージが存在する時に墓地から蘇る!」
ロー・ボルテージ:ATK300
雪花も遊星に負けない速さでシンクロ素材をそろえてきた。
矢張り実力は可也高い。
「レベル1のロー・ボルテージに、レベル7のハイ・ボルテージをチューニング。
暗き情念を宿す闇の住人よ、漆黒の闇…今こそ解き放て!シンクロ召喚、現れよ『掃滅龍−ジェノサイド』!!」
『ガァァァァァァァ!!!』
掃滅龍−ジェノサイド:ATK3000
雪花が呼び出したのは、遊星のスターダストとは真逆と言って良い漆黒のドラゴン。
凄まじい咆哮を上げ、遊星とスターダストを威嚇しているようだ。
遊星は揺るがないが。
「掃滅龍−ジェノサイドはカード効果では破壊されず、戦闘で破壊された場合フィールド上のモンスターを全て破壊するわ。」
「…恐ろしい効果だな其れは…」
「ふふ、その効果は何れ発揮されるだろうけど、先ずはお前のエースたる星龍を血祭りに挙げるとするわ。
バトル!掃滅龍−ジェノサイドで、スターダスト・ドラゴンに攻撃!『滅殺暴虐波』!!」
すぐさまバトルを仕掛ける。
攻撃力はジェノサイドのほうが上だが、相手は遊星。
単調な攻撃を受けるなどは無い。
「トラップ発動、『スター・エクスカージョン』!
シンクロモンスター同士がバトルを行うとき、互いのモンスターは除外され、3回目の相手のバトルフェイズ終了時に夫々のフィールドに戻る!」
トラップで、戦闘を行う2体を除外する事で戦闘回避+スターダストの破壊回避。
実に巧い。
「早々簡単にやらせはしないぞ簪!」
「小癪な手を…まぁいいわ。カードを2枚伏せてターンエンド。」
攻撃は捌かれたが、メイン2で出来る事は有る。
確りとリバースセットでターンエンド。
デュエルは始まったばかりだ…
To Be Continued… 
*登場カード補足
スター・エクスカージョン
通常罠
シンクロモンスター同士が戦闘を行う場合に発動できる。
戦闘を行う互いのシンクロモンスターをゲームから除外し、バトルフェイズを終了する。
このカードを発動してから3回目の相手のバトルフェイズ終了時に、除外したシンクロモンスターを夫々のフィールド上に戻す。