始まったデュエルはマナの手が尽く通用せず、ジャックの優勢だ。
そして、ヴァイス・コカトリスは両目からの怪光線をハート・アース・ドラゴンに浴びせて石化させ…
――バキィィィィィィン!
すかさず、それを勢い付けての強烈な飛び蹴りで粉々に粉砕したのであった。
「そんな…会長のエースがこうもあっさりと」
「攻撃力にはあまり頼っていないけど、相手を圧倒するこの様はまさにパワープレイ…マナにとってはもっとも戦いにくい相手の1つかもしれない」
「ダメ…完全に相手のペースに飲まれてるよ、マナ」
マナが召喚したランク9ものエクシーズモンスターでさえここまであっさりと処理されてしまったことでこのデュエルの行く末を不安視する声が聞こえてくる。
いずれにしろ、六花の言うとおり相手のペースに乗せられている印象を受けるものであった。
遊戯王デュエルモンスターズ New Generation×ドキドキ!プリキュア f1-4
『マナの決意と王者の魂』
キュアハート(マナ):LP2800
ジャック:LP4000
鱗鶏王 ヴァイス・コカトリス:ATK1500
―効果を無効化されて破壊されたとはいえ、流石に墓地で発動する効果までは阻止はできないはず…かといってそうしてしまうとこのカードが発動できなくなる。けど…
一方でマナはエースが破壊されたこと自体はそこまでは悲観視していない。
ハート・アース・ドラゴンは素材を使った大量除外効果が使用できなくなるとはいえ、素材のあるこのカードが破壊された時にすぐさま自己再生できる効果をもっている。
それは墓地で発動するため、フィールド上で効果が無効になっていても問題なく効果は適用できる。
とはいえ、そうしてしまうと手札のある強力なカードが発動できず、かといってその手札のカードはマナにとってこの場で使うのには抵抗があるようで迷いが生じてしまっているわけである。
「フン、何を迷っているのかは知らんが…いずれにしろ貴様に残されるのは敗北の二文字にすぎん。せいぜい足掻いてみせることだな」
「くぅっ…」
―単に蘇生させただけでは容易に突破されかねない…かといってこれを使うとみんなを余計なことに巻き込んでしまうかもしれない…どうすれば?
マナはジャックに煽られたことでさらに決断を迷ってしまい、手が震えていた。
「会長さん…何か迷っているみたい」
「マナ…余計な心配をかけさせたくないことくらいわかる。でも何も知らないあたしたちは余計にもやもやしちゃうよ」
マナが切る札を迷っていることに六花たちも不安を隠せない。
その姿を見て、水城はある決意を心に決める。
―倒れ伏せたままだから、滑稽で格好悪いけど…よし!
「マナ、いつまでぐずぐずしてるの!そんなのマナらしくない!」
「え…ちょっ」
水城が突然大声でマナに対してそう言ったことで当のマナは困惑の声を上げる。
しかしそれに構わず続ける。
「ここはしゃきっとすぐに決断できるのがいつものマナでしょ!もしもぼくたちに遠慮してるならそんなのはもうやめて!」
「水城、人の気を知らずいったい何がわかるというの…」
「わからないよ!自分のことは結局、自分にしかわからない!何を考えて隠していることの意図とかそういうものも!でもこれだけは言わせて…どんなことがあってもぼくはマナを信じてる。だから、マナもぼくたちの事を信じてください」
震えたような声でマナは『知ったようなことを聞くな』と言わんばかりにそう吐き捨てるも、結局はわからないのが答えのようである。
しかし、『信じてる』と言った時の水城の表情は少女らしい優しいものであった。
とはいえ、倒れ伏せたままというのはしまらないものがある。
「み…ううん、遥…ありがとう…ごめん、みんな!本当に黙っていたことがあるの!」
「「「「「…!」」」」」
水城のその表情と言葉から安心できたマナは隠していたことを話す決心がついたようだ。
他の皆は固唾を飲んでそれが語られる時を待っている。
「こればかりは知られたくはなかったからね。そして多分これが彼の言っているあたしがトランプ王国を裏切ったとされる理由。念のため聞くけどみんな、大丈夫?」
「「「「「「「「…」」」」」」」」
「けっ、勝手にしやがれ」
すると大半の方は無言でうなづいた。
一人だけ嫌そうながらも了承したものもいるのだが。
「話は纏まったようだな…少し待ちくたびれたぞ?」
「それはどうも。破壊されたハート・アース・ドラゴンの効果は…発動しない!」
「ハート・アースの蘇生効果をあえて使わないか…面白い!」
一方のジャックの方は律儀にも待ってくれていたようだ。
そしてマナの方はハート・アースの蘇生効果を使わない選択肢を取ったことでもう後には引けなくなった。
「ハート・アースの効果を発動させなかったということは…何か来るわね」
「いったい何が起こるというのだろうか」
皆にはいったい何が始まるのかわからない不安が残るもマナはとうとう動き出す。
「あたしは手札から『
「とうとう本性を現したわね、キュアハート!」
「そうだ…貴様の使うそれが我がトランプ王国の敵であるバリアン世界の者と接触した証!我がトランプ王国の敵になったというわけだ」
―もっとも、これは建前にすぎんがな…
マナが発動させたカード…ジャックたちの反応を見ると、やはりこれがマナがトランプ王国を裏切ったとされる根拠であるようだ。
もっとも、ジャックには何か別の思惑があるようだが。
「マナが得体の知れない者と接触していた…あ!」
「六花、心当たりがあるの?」
「実はジコチューの一人に落とされて異次元空間を移動している時に、マナってばあろうことか次元の壁をパンチで破壊しちゃってその穴に吸い込まれて少しの間行方不明になってたのよ…その時に助けてくれた方々と接触したというのならただの事故じゃない!」
「お、おう…」
それを聞き、六花にはある心当たりがあったのだ。
そうはいっても次元の壁を破壊してしまうというのは中々に無茶苦茶なことである。
「ただし、この効果で出したカオスエクシーズの攻撃力は0になるけどね。あたしは墓地のハート・アース・ドラゴンをエクシーズ素材としてオーバーレイ・ネットワークを再構築!カオス・エクシーズ・チェンジ!!」
墓地から姿を見せたハート・アースが紅いエネルギー体に変化し、上空に突然現れた黒い渦に吸い込まれるとその渦が爆発し、再構築されたハート・アースが次第に姿を現していく。
「宿命の紅き星の輝きを受けし時、最強のナンバーズが偽りの骸を脱ぎ捨て新たな姿へと生まれ変わる!円環を司る神の如き龍よ、今ここに降誕せよ『
『ゴォォォォガァァァァァァ!!』
CNo.92 真骸神龍 Heart-eartH Uroboros:ATK1000→0
ただでさえ長かった体長がより長くなり禍々しくも美しい紅き鎧に身を包んだこれがハート・アース・ドラゴンの新たな姿…ハート・アース・ウロボロスである。
オーバーレイ・ユニットは菱形の物体であるカオス・オーバーレイ・ユニットに変化している。
「エクシーズモンスターのランクをランクアップさせただと…?」
「すごい…こんな方法で出るモンスターなんて見たことありません」
「カオスエクシーズ…ふふ、マナってばいつの間にかぼくたちの知らない遠いところへ行ってたんだね」
マナの見せたカオスエクシーズ…エクシーズモンスターの新たな可能性に皆は驚きを隠せないようだ。
「こいつが貴様の切り札か。攻撃力こそは低いがこいつは素晴らしいではないか。こうでなくては潰し甲斐がないというものだ」
一方のジャックは賞賛を送る…まるでいい踏み台ができたかのようにではあるが。
―この闇のゲームのダメージは相手にも及ぶはず。このカオスナンバーズの一撃ならもしかしてノックアウトできるかも…
「先に行っておきますが、ハート・アース・ウロボロスは戦闘でもカード効果でも破壊されず、このカードの戦闘で発生するあたしへのダメージを相手に与えるよ!」
「成程、低い攻撃力をわざわざ下げるだけの価値はあるというわけか」
ハート・アース・ウロボロスはただでさえ召喚の難しいハート・アース・ドラゴンをランクアップさせただけあってか完全破壊耐性を備えており、ダメージ反射までこなす強力なモンスターのようだ。
「バトル!ハート・アース・ウロボロスでヴァイス・コカトリスを攻撃!カオスナンバーズの渾身の一撃を喰らえ!『ハート・ブレイズ・ジャッジメント』!!」
――ボォォォォォォォ!!
ハート・アース・ウロボロスの口から放たれた強烈な紫炎が鱗鶏王ごとジャックを包みこむと、その姿が一時見えなくなる。
「ライフはまだまだ残るとはいえ、やったか?」
「カオスエクシーズといっても、そう上手くいくとは思えませんが…」
炎で包まれた相手を見てこれで決まったと思いたい者、そうは思わない者に分かれていく。
「馬鹿ね、ジャックがこのくらいでやられるわけないじゃない」
とはいえ、これはいわゆるフラグになりかねない。
一方のレジーナはジャックがこの程度で倒されるわけがないと確信しているようだ。
「ちっ…!」
その炎が収まろうとしたとき、マナは舌打ちをしつつ苦々しい表情を浮かべる。
「凄まじい力だ、流石にカオスナンバーズの名は伊達ではないか…もっとも、このキングを倒すのには程遠いがな」
ジャック:LP4000→2500
その炎が収まった時、そこにはライダースーツに僅かな黒ずんだところが見える以外はほぼ無傷の状態のジャックが立ちはだかっていた。
攻撃は通ったためライフこそは減ってはいるものの、当のジャックはこの闇のゲームで生じるダメージをまるでものともしていないという事である。
当然のことながらジャックが操りしヴァイス・コカトリスも健在のままだ。
マナの場にはハート・アースしかモンスターがいないため攻め手はここまでとなる。
「…カードを1枚伏せてターンエンド」
―ハート・アース・ウロボロスにはまだ見せていない効果がある…それにこの伏せカードならまだチャンスはあるはず…
マナは手札を1枚伏せてターンを終了したことで手札はなくなり窮地に立たされただろうか。
それにこの闇のゲームによるダメージや度重なる疲労もあり、肉体的及び精神的に非常に辛い状態だ。
それでもマナの目には諦めは感じられず、目の前のジャックを見据える。
「その眼は諦めてはいないようだが、身体の方は限界が近いようだな。最早貴様には敗北から逃れる術はない。俺のターン、ドロー!」
しかし、マナの身体に限界が近づいていることを見抜くことはジャックには造作もない。
そうして、ジャックのターンとなる。
「まずは互いに手札を補充しようではないか…魔法カード『黒白の祭典』を発動。このカードは貴様の場にエクシーズモンスターが存在し、そして俺の場にシンクロモンスター1体のみが存在する場合に発動でき、お互いにカードを3枚ドローする!さあ、貴様もドローするがいい」
―まさか、ここでこのカードをドローするとはな…!
「これで後悔しても知りませんよ…ドロー!」
―ドローしたのは…よし、これなら!
このターンの初めにジャックは手札補充カードを発動させてきた。
とはいえ、お互いにカードをしたことで運よくマナはこの時点で欲しいカードを引けたようであるが…
「ふん…いいカードを引けたようだが、そろそろ頃合だ。このターンで貴様に引導を渡してやろう」
「なっ…?」
ここでジャックは事実上の勝利宣言。
これにはマナはもちろん、他のクラスメイトの顔が引きつる。
「野郎…相田の墓地にはライクリボーが落ちているというのによ」
「マナの反応を見るに恐らくは都合のいい手札誘発を確保できたはず…それをどうするつもり?」
先ほどのドローに加え、墓地には戦闘ダメージを打ち消すライクリボーが存在し、さらに場にはまだカオス・オーバーレイ・ユニットを使っていないハート・アース・ウロボロスがおり伏せカードも1枚ある。
この状況を考えて、このターンで削りきられることはないだろうと考えている者が多いようだが…
「ここで速攻魔法『皆既日食の書』を発動!このカードのよりお互いの場のモンスターを全て裏側守備表示にする。どんなモンスターであろうと、裏側にさえしてしまえば恐るるに足らず!さあ、どう出る?」
―ここで裏守備にしてくるか!それなら、ここで…
「ただで寝かされるわけにはいかないよ!ここでハート・アース・ウロボロスの効果を発動!このカードのカオス・オーバーレイ・ユニットを1つ使い、相手フィールド上のカード1枚を除外する…対象はヴァイス・コカトリス!『ハート・ブレイク・バニッシュメント』!!」
するとハート・アース・ウロボロスの身体から紅い波動が発せられ、それがヴァイス・コカトリスに襲い掛かるのだが…
「誘発即時効果による除外とはな…強力な効果のようだが覚えておけ、キングのデュエルは常に貴様の二歩先を行く!対象となったヴァイス・コカトリスをリリースし、罠発動『ナイトメア・デーモンズ』!この効果により、貴様の場にナイトメア・デーモン・トークン3体を攻撃表示で特殊召喚する!」
「リリース・エスケープ…しかもあたしの場にトークンを3体も!?」
ジャックはその対象となったモンスターをコストにする事で上手く躱す。
とはいえ、ジャックの発動させたその罠は攻撃力が高めのトークンを相手の3体も呼び出すという自らを窮地に陥らせかねないカードである。
「何を考えているのかは分からないけど、その効果利用させてもらうよ!その効果にチェーンして手札から『増殖するG』を捨てて効果発動!このターン、相手がモンスターを特殊召喚する度にあたしはデッキからカードを1枚ドローする!」
―ここで警戒すべきはレジーナが使ったあのカードだけど…ここでどうでるか。
「よし!トークンを送りつけると言っても、これは相手が特殊召喚したことに変わりはないからこれでもドローできる!」
さらにマナは先ほど水城も使用した強力な手札誘発である、増殖するGをここで差し込んできた。
トークンを相手の場に特殊召喚する効果であろうと相手が特殊召喚したことに何ら変わりはないため非常に有効な上手い手といえよう。
もっとも、マナには別の意図があるようであるが…
「よかろう。それでこそ己のピンチを演出でき、キングのデュエルはエンターテイメントとなる!ナイトメア・デーモンズの効果により貴様の場に『ナイトメア・デーモン・トークン』を3体特殊召喚する!」
『ケケケケケ』
ナイトメア・デーモン・トークン:ATK2000(×3)
―あのカードを発動しなかった…手札にないのか、それとも…?
「っ!?…Gの効果により1枚ドロー!」
Gの効果は結局成立するも、マナの表情は呆然としていた。
逆の立場なら状況次第で大量のドローを許し、更なる手札誘発を手札に加えさせる危険性のあるこのカードはなんとしても止めたいからだ。
それをジャックはあっさりと通したことに拍子抜けしたからである。
もっとも、この時マナたちは気が付かなかった…変化したマナの表情であるものが見透かされていたことに。
「どうした、呆けているようだな?そして皆既日食の書の効果でフィールド上の表側表示モンスターは全て裏側守備表示となる…もっとも裏側表示の概念を持たないトークンの場合は表側守備表示になるがな」
CNo.92 真骸神龍 Heart-eartH Uroboros:ATK0→裏側守備表示
ナイトメア・デーモン・トークン:ATK2000→DEF2000(×3)
そうしてトークン含めてマナの場の4体のモンスターが守備表示にされてしまう。
「この状況で特に活躍するモンスターがあったな…確かアレだ」
「知ってるよ『レッド・デーモンズ・ドラゴン』だよね」
「ああ。だけど、あれは不動遊星のみが持っているはずのカードではあるのだけれどもね」
すると、クラスメイトたちの脳裏にはレッド・デーモンズ・ドラゴンの影がちらついた。
その効果によりダメージ計算後に守備表示モンスターを一掃できるからだ。
もっとも不動遊星のみが持っているはずのカードである以上、出てくるのは普通に考えればありえないのだが。
「相手フィールド上にのみモンスターが存在する場合、このカードは攻守を半分にし手札から特殊召喚できる。来い『バイス・ドラゴン』!」
バイス・ドラゴン:DEF2400→1200
「サイバー・ドラゴンと同様の手段で出せる上級モンスター…Gの効果で1枚ドロー」
ここでジャックは手軽に展開できる上級モンスターを展開する。
「そして、このバイス・ドラゴンをリリースし『デーモンの将星』をアドバンス召喚!」
『グォォォォォォォ!』
デーモンの将星:ATK2500
「来たのはレベル6ながら高めの攻撃力を誇る上級モンスター…か」
―よし、これであのカードでの射程圏内に入った。
ここで現れたのはあの武藤遊戯も使用した伝説のモンスター『デーモンの召喚』を髣髴とさせる悪魔であり、同様にレベル6でありながら2500もの攻撃力を誇る上級だ。
そして、こいつには…
「デーモンの将星がアドバンス召喚に成功した時、己の墓地よりレベル6のデーモンを守備表示で復活させる!対象はライダー・デーモン!」
―狙いは高ランクエクシーズか!増殖するGを防がなかったことが気がかりだけど、ここでエクシーズ召喚のための素材を増やさせてたまるか!
「この時、手札から『エフェクト・ヴェーラー』を墓地へ送って効果発動!デーモンの将星の効果をエンドフェイズ時まで無効にさせてもらうよ!」
蘇生効果があり、高ランクエクシーズにつなげることもできる。
しかし、マナはここぞとばかりにエフェクト・ヴェーラーを差し込む。
ここでランク6エクシーズを出されるわけにはいかないようだ。
「やはりそのような姑息なカードを握っていたか。だが、このキングがこの程度のことを想定していないとでも思っているのか!この瞬間、手札から速攻魔法『スキルクラッシュ』を発動!俺のメインフェイズ中に発動したモンスター効果の発動を無効にする!」
「そんなっ!?どうして…」
「あれはレジーナが使ってたカード!?Gの時に使わず、ここで使ってくるなんて…」
しかし、差し込んだヴェーラーは速攻魔法により軽く対処されてしまう。
Gの時には発動しなかったこともあり、ここで阻止されることはマナにとっては精神的にくるものがあるようだ。
「ふはははは、伝わるぞ!キュアハート、貴様の揺れが!言ったはずだ、キングのデュエルは常に二歩先へ行くと!大凡このカードの発動を誘発させるための囮としてGを撃ってきたのだろうが、残念だったな。それに俺は相手に全力を出させ、観客のカタルシスを掴むためのデュエルを少しは心がけているのでな…ここでのGの効果など、通すに決まっているだろう」
―もっとも、貴様の表情からGの効果を発動させる際にはヴェーラーを握っていることは察していたがな…
「…あ、あ」
案の定、エフェクト・ヴェーラーを握っていたことは想定済みだったようだ。
つまり読み合いはジャックが一枚も二枚も上手だったということだ。
そして、ジャックにとってGの効果を端から防ぐつもりはなかったのはマナにとって誤算だろう。
「将星の効果処理に入ろう。蘇れ『ライダー・デーモン』!」
ライダー・デーモン:DEF1800
「くっ、Gの効果で1枚ドロー。レベル6のモンスターが2体…!」
ライダー・デーモンが蘇ったことでジャックの場にはレベル6のモンスターが2体となった。
そして、Gの効果でドローする際のマナの声色はどこか弱々しいものであった。
「時は満ちた!キングの本領を見せてやろう!レベル6のデーモンの将星とライダー・デーモンをオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築し、エクシーズ召喚!」
ここでジャックがエクシーズ召喚の宣言をすると2体のモンスターが紫色に輝く球体となり、赤い渦に入り込んでいくとその渦が弾ける。
「この姿を前に力無き弱者は恐れ慄くがいい!天地をも跪かせる絶対王者、君臨せよ!我が魂『レッド・デーモンズ・ザウラー』!!」
『バォォォォォォォォォ!!』
レッド・デーモンズ・ザウラー:ATK3000
「「「「「「「「!?」」」」」」」」
これがジャックが呼び出したのはランク6としては最高クラスの基礎攻撃力を誇るエクシーズ。
このモンスターの姿に周りは驚愕を隠せなかった。
「おい、マジかよ!?」
「筋肉の逞しさなどの細部はドラゴンというより恐竜寄りですが、あの姿から滲み出る雰囲気はまるで…」
「『レッド・デーモンズ・ドラゴン』そのものじゃないか!!」
そう、皆が驚くのも無理がない話であった。
ここに現れたのは恐竜寄りの強靭な肉体などの細部の違いはあるものの、破壊の力を秘めし紅き魔竜『レッド・デーモンズ・ドラゴン』に酷似した雰囲気のモンスターであるからだ。
「あ〜あ、やっぱり出ちゃった。もう勝負はついたも同然ね…可哀想に」
そして、レジーナはぼそりとそう呟くとマナに憐みの視線を送る。
そう決めつけるのにはいささか早計のように思えるのだが、このモンスターには何か恐ろしい秘密でも隠されているのだろうか。
「とくと見よ!禍々しくも勇ましい、我がレッド・デーモンズ・ザウラーの姿を!」
「レッド・デーモンズ…だと?…Gの効果で1枚ドロー」
―っ…駄目だ、2枚目のヴェーラーが来ない!
マナは夢の中でレッド・デーモンズ・ドラゴンに襲われていたのだが、細部は違えどいかにも予知夢のようであったのだ。
しかも、ドローした手札の具合が悪いようでマナの顔はさらに険しいものとなる。
「レッド・デーモンズ・ドラゴン…いずれ我が手中に収めるにふさわしい存在だ。だが、我が魂もそいつに勝るとも劣らん!しかし、その前にだ…ライダー・デーモンを素材としたエクシーズモンスターが攻撃する場合、貴様はダメージステップ終了時まで魔法及び罠カードを使えないことは最初に言っておこう」
―そんな!これじゃ、伏せていた『魔法の筒』が発動できない…
「くっ…!」
さらにはライダー・デーモンの副次効果によりザウラーの攻撃時にマナの魔法・罠カードの発動が封印されてしまう。
ザウラーの効果次第だがマナの伏せは攻撃に反応するものであったため、このターンは碌に返し手が撃てないということだ。
「おい、会長の顔色が悪すぎるんじゃないのか?」
「頼みの綱の2枚目以降のヴェーラーが引けなかったみたいですね…会長はポーカーフェイスが少し苦手みたいですから」
「だとしたらもう打つ手は…もう…ないの?」
マナの手札に来てほしいカードが固定ないことは周りにも見透かされていた。
六花でさえ、一貫の終わりさえ思ってしまうようになる。
「まだだよ…耐えられればワンチャンスあるかも…」
―あれが本家と類似した効果なら、ナイトメア・デーモンズのダメージのみだからライフは辛うじて残るはず…闇のデュエルのダメージが気がかりだけどお願い、耐えて…
「バトル。レッド・デーモンズ・ザウラーでナイトメア・デーモンズ・トークンのうち1体に攻撃!極限の業火を喰らうがいい『アブソルート・ヘル・ファイア』!!」
――ズガァァァァン!!
ここでとうとうザウラーの攻撃宣言!
紅炎を纏いしザウラーの強靭な拳がナイトメア・デーモンのうちの1体を殴り倒す。
遊星の持つレッド・デーモンズ・ドラゴンは守備表示モンスターに攻撃したダメージ計算後に相手の守備モンスターを全て破壊する効果を持っているのだが…
「攻撃が成立したな…このモンスターの素晴らしい効果を披露しようではないか!…相手モンスターを攻撃したダメージ計算後、レッド・デーモンズ・ザウラーの効果を発動!このカードのオーバーレイ・ユニットを1つ使い、相手の守備表示モンスターを全て破壊する!」
レッド・デーモンズ・ザウラー:ORU2→1
「くっ…予想はできていても!ダメ、対処できない…しかも今は関係ないにしても発動条件が緩い分、レッド・デーモンズ・ドラゴンのものより性質が悪いじゃない!」
そう、類似したこれは効果そのものは攻撃対象のモンスターの表示形式を選ばない分だけより強力なものとなっていた。
「闘志見せぬモンスターなどこのレッド・デーモンズの前にはただ殲滅されるのみ!貴様のモンスターの終焉とともにナイトメア・デーモン・トークン3体が破壊された時の2400ものダメージをその身に刻むがいい!『デモン・インフェルノ』!!」
――ドゴォォォォォォォン!!
レッド・デーモンズ・ザウラーの周りにある紫色に輝く球体の1つが右腕に吸収されると、勢いはそのままにナイトメア・デーモンを攻撃したその腕で地面を殴りつける。
そして、その地面から噴き出した地獄の業火がマナの場の全てのモンスターを焼き払うとその炎にマナは襲われ吹き飛ばされてしまう。
ハート・アース・ウロボロスも裏側の状態では成す術がなかった。
「あぁぁぁぁぁぁぁ…がはっ!!」
マナ:LP2800→400
その衝撃でプリキュアの変身が解けてしまい、煙の中から現れた生身のマナは服が焼け焦げており、肌の部分が多く露出してしまっている。
さらには吹き飛ばされた後に地面を転がっていたためか至る所で出血しており、倒れ伏せてしまう。
しかも妖精シャルルも別の場所に吹き飛ばされており、気絶してしまっていた。
「「「「「「会長…?」」」」」」
「相田…」
「嘘、こんなことって…マナ、マナァァァァァ!」
プリキュアの変身が解除され、明らかに酷い傷を負っている。
そんな有様のマナを見た皆にひしひしと伝わる絶望感。
目を背ける者もいれば、六花のように悲痛な叫びをあげる者もいる状態だ。
「お願い、こんなところで死んじゃったら嫌だよ!ね、マナ…」
水城は目を瞑りつつ、マナの無事を祈る事しかできない。
一方のジャックは無表情の状態で倒れ伏せたマナを見据えているのみだ。
「あ〜あ、キュアハートも結局つまんなかったわね」
「ふん、この様では奴もここまでか…」
そしてレジーナとジャックがそうつまらなそうにつぶやくが…
「…がっ…まだ、終わって…たまるかよ」
か細い声であるが、そう反論の台詞が出てきた。
満身創痍ながらも倒れ伏せていたマナがなんとか立ち上がったようである。
「「マナ!…あ」」
「「「「「「会長!!」」」」」」
「相田…無茶しやがって…」
六花と水城の表情は少し晴れ、マナがなんとか立ち上がったところで同時に声をあげてしまう。
とりあえずは他のクラスメイトとともに今のところは無事であることを喜ぶ。
「あの状態から立ち上がってくるか…流石だな」
「はぁ、はぁ…こんなところで倒れ伏せるわけには…いかないのでね!」
とはいえ、マナは頭から血を流しており危険な状態なのには変わりはない。
悠長にしていると本当に倒れてしまうだろう。
「だが、満身創痍ではないか。そんな状態で何ができる?俺の要求を呑み、サレンダーすれば命まではとるわけにはいくまい」
血まみれの彼女の身を案じているのか、余裕からくる台詞なのかジャックは降伏を勧告していく。
「へっ、攻撃が終わっていわゆるファイナルターン宣言が上手くいかなかったからってこれはねぇだろ、まったくよ?」
「見たところこれで彼の攻撃は終了し、さらには会長の手札は5枚もある…これで諦めるとは思えませんが」
周りの人は戦闘が終わってしまった事でジャックの宣言がノックアウトではないかと解釈し、その発言は聞き入れようとはしない。
仮に何らかの追撃方法があったとしても墓地のライクリボーに止められてしまうだろう。
しかし、彼は攻撃を終えたのみでターンは終わっていない。
―けど、何か引っかかる…あの発言がただのノックアウト狙いとは思えない…そういえばマナは手札誘発でバーン対策のカード、殆ど入っていなかったような…!?
そう。水城が考えている通り、バーン効果ならいくら戦闘が終了しようとこのターンで終わらせるのは造作もない。
―あのレモンのパチモンには本家のように何かデメリットがあるはず…それに白黒の祭典の効果でドローした時のあいつのカードと表情からは普通じゃない何かを感じた…なっ、これは!?
ここで水城はある事に気が付いてしまう。
ジャックから溢れ出る闘気がみるみる内に増大していたことに。
―あれはいくらなんでも危険だよ、今のマナが受けたら…
「だめっ!逃げて、マナ!!このままだと殺されちゃう!」
その闘気に危機感を抱いたのか、思わずマナに逃げるように…鬼気迫った表情でサレンダーを勧告してしまう。
「おい水城てめぇ、空気読めよ!」
「待ってください、六花さんの様子も変です」
「あ…あ…こんなの無理だよ、マナ!」
その発言をした水城に糾弾するクラスメイトがでてくるものの、プリキュアである六花も増大するジャックの只ならぬ闘気に気が付いてしまう。
しかし、当のマナは首を振る。
―確かに、バーンのようなものが来たらこの手札じゃ逃げ切れないだろうね…でも
「…嫌だ。負けを認めてみじめに逃げることなんて…みんなを置いて逃げたくないし、何よりあたしのデュエリストとしてのプライドが許さない…例えこれでこの身が滅びたりなどどんな結末が待っていようとも、あたしは…最後まで諦めない!」
「「マナ…」」
満身創痍で今にも倒れそうでありながら、本来なら虚ろな瞳や表情を最大限熱く奮わせながらこのように言い放つマナ。
彼女としては正直分が悪い賭けと考えてはいるものの、デュエリストとしての誇りゆえにそうすることを決めたようだ。
マナがそう決意を決めた以上、六花や水城は何も言えまい。
「ふふふ…あはははははは!!素晴らしい、満身創痍であろう中よくぞ言った!貴様はプリキュアとしては三流もいいところだが、デュエリストとしての誇りは中々のものではないか!よかろう、今の俺の力の真髄を見せてやろうではないか!覚悟はできているな?」
「……」
マナのその決意を聞き取り、高笑いをしながらも彼女の事を彼なりに認め本気を見せることを宣言するジャック。
彼のその問いに無言で頷くマナ。
何が起きたとしても、二人が決めてしまった事だ。
デュエリストとしては行く末を見守るしかない。
「まずはこのままエンドフェイズに入ろうではないか」
「な…!?」
ところがここでジャックのとった行動はメインフェイズ2に入る事もなくエンドフェイズに移行する事だった。
とはいえ、敢えてエンドフェイズを宣言していることもあってかただで終わるとは思えない。
「エンドフェイズ時にレッド・デーモンズ・ザウラーが表側表示でいる時、俺の場でもっとも脆弱なモンスターは破壊されてしまうことになる…」
「え…つまりそれって…」
本家と同じくエンドフェイズ時のデメリットを持っているようだ。
ただし、こちらは1体とはいえ必ず破壊しなければならないためデメリットとしてはキツい部分がある。
しかも、ここでジャックの場にいるモンスターは…レッド・デーモンズ・ザウラーただ1体のみである。
――ゴォォォォォォ!!
『グオォォォォォォォ…』
そう、ザウラーは自らの力を抑えきれず、全身から発火し炎に包まれて自滅するのであった。
いったいジャックは自らの魂を自壊させ何を考えているのだろうか。
いずれにしろ、このデュエルの幕引きは…近い。
続く
登場カード補足
RUM−ロスト・バリアンズ・フォース
通常魔法
自分の墓地のエクシーズモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターと同じ種族でランクが1つ高い「CNo.」または「CX」と名のついたモンスター1体を、
エクシーズ召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚し、
選択したモンスターを下に重ねてエクシーズ素材とする。
この効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力・守備力は0になり、エクシーズ素材にできない。
CNo.92 真骸神龍 Heart−eartH Uroboros
エクシーズ・効果モンスター
ランク10/炎属性/ドラゴン族/攻1000/守1000
レベル10モンスター×4
このカードは戦闘及びカードの効果では破壊されず、
このカードの戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは代わりに相手が受ける。
また、このカードは「No.92 偽骸神龍 Heart−eartH Dragon」を
エクシーズ素材としている場合、以下の効果を得る。
●1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。
相手フィールド上のカード1枚を選択してゲームから除外する。
この効果は相手ターンでも発動できる。
黒白の祭典
通常魔法
相手フィールド上にエクシーズモンスターが存在し、
自分フィールド上のモンスターがシンクロモンスター1体のみの場合に発動できる。
お互いにデッキからカードを3枚ドローする。
「黒白の祭典」は1ターンに1枚しか発動できない。
レッド・デーモンズ・ザウラー
エクシーズ・効果モンスター
ランク6/闇属性/恐竜族/攻3000/守2000
レベル6モンスター×2
このカードが相手フィールド上のモンスターを攻撃した場合、
そのダメージ計算後にこのカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。
相手フィールド上に守備表示で存在するモンスターを全て破壊する。
自分のエンドフェイズ時にこのカードがフィールド上に表側表示で存在する場合、
自分フィールド上の攻撃力が一番低いモンスター1体を破壊する。