「ははは…こいつ、自滅しやがった!」
「どういうことだよ…?」
「本家より厄介な自壊デメリット持ち…」
レッド・デーモンズ・ザウラーが炎に包まれ自壊した事に唖然している者は多い。
ランク6といえど効果持ちで3000もの攻撃力の高さはデメリットなしでは許されるものではないということだろう。
「無論、それが例えザウラー自身だろうと例外ではない…これで俺は一見丸腰になったようなものだが、キングはこのピンチをも利用しチャンスを掴むものだ」
「く、そうか…そういうことか!」
―例えば、自壊などで破壊されなければ出せないモンスターといったところか!
だが、ジャックはこの自壊も計算に入れていたようであり、さらに闘気が増大しているのが伺える。
何か新たなモンスターが特殊召喚されるのだとしたら、Gの効果でドローできるマナにとってはこれが最後のチャンスとなるだろう。
「察したようだな…とくと見るがいい。荒ぶる魂よ!滅びゆく肉体を凌駕し、真紅の悪魔の力を糧に究極の姿へと転生せよ!レッド・デーモンズ・ザウラーが効果により破壊された時に手札から特殊召喚!天地でも逆らえぬ燃え滾る魂『スカーレッド・デモン・ザウラー』!!」
『グルル…バォォォォォォォォォォ!!』
スカーレッド・デモン・ザウラー:ATK3500
レッド・デーモンズ・ザウラー自らを自滅へと追いやった炎からザウラーの容姿をより悪魔的に、より強靭に強化されたような姿の究極の赤の意味の名称を持つ真紅の魔恐竜が姿を現した。
その迫力は進化前より遥かに凄まじく、相対する者を絶望へと追いやるにふさわしい存在であった。
遊戯王デュエルモンスターズ New Generation×ドキドキ!プリキュア f1-5
『折れたハート』
マナ:LP400
ジャック:LP2500
「こいつが出てきてしまったからには、本当に終わりね」
そう呟いたのは狂気の笑みを浮かべていたレジーナだ。
黒白の祭典で3枚ドローしたあの時からこうなる事はわかっていた模様である。
「おいおい、ここでこんな化物がおでましかよ…」
「普段なら敬遠されるデメリットを上手く利用したのですか…悔しいですが、流石としか言いようがありませんね」
「感心してる場合、れいか!?これってマナがピンチってことよ!」
恐れおののいている者もいれば、そのプレイングを素直に称賛するものいた。
しかし、このモンスターの効果次第ではマナにとっては死神となるということだ。
これはジャックがマナに引導を渡すつもりで出したモンスターのはずなため、その可能性は高い。
―あのカードを引けなければマナは…
「どっちにしろ、Gの効果によるマナのこのドローで全てが決まる!」
「まずはGのドローするがいい!貴様のゆくべき道を切り拓いてみせろ!」
―ここでこのモンスターの効果を阻害するカードが来たらそれはそれで光栄だ…勝負といこうか!
二人の言うとおり、このドローでマナの命運が決まる。
―このドローに全てがかかっている…今引くべきカードはあのカード1枚。例え僅かな望みだろうと恐れることはない、引いてみせる!
「…Gの効果で…ドロー!」
マナは目を瞑り、迷うことなくデッキトップのカードを一気に引き抜いた。
―お願い…来て…!
六花を始め、他のクラスメイトたちはマナがあのカードを引き当てるのを祈るのみ。
緊張した雰囲気の中、マナの目が見開かれ…ドローしたカードに目線を移した。
「…が…な…」
―ここでドローしたのは2枚目のエフェクト・ヴェーラー…来るのが一足遅かった!
「会長があの状態ということは…」
「いくらマナでも…引き当てられなかった!?」
マナはそのドローしたカードを見た瞬間…ついに膝をついてしまう。
ドローしたエフェクト・ヴェーラーは相手のメインフェイズ中にしか発動できないため、この局面でドローしてもあまり役に立たないからだ。
「どうやら望みのカードは…引けなかった様だな。ここでスカーレッド・デモン・ザウラーの効果を発動!このカードが特殊召喚に成功した時、2つの効果から1つを選んで適用でき、俺は2つ目の効果を選択する」
スカーレッド・デモン・ザウラーの効果はエンドフェイズ時だろうと出た時に発動し、しかも選択式の効果であるようだ。
「その効果はお互いの墓地のレベル5以上のモンスターを全て除外し…その数の500倍のダメージを貴様に与える!」
その一方は水城たちが懸念した通り…バーン効果だ!
「…ははは」
―確か合計は7体…デーモンの将星の効果を止められなかった時点で、ヴェーラーを引いてもダメだったのか。
上級モンスターの数はマナの墓地には慈愛の調星師、亜空間地獄、ブロッサム・ウィードの3体。
ジャックの墓地にはライダー・デーモン、ヴァイス・コカトリス、バイス・ドラゴン、デーモンの将星の4体が存在している。
その合計7体が除外されることにより生じるダメージは3500…これで終わりだ。
つまり、万が一レッド・デーモンズ・ザウラーの効果が成立しなかったとしてもこのカードのダメージ量のみでマナのライフは削りきられてしまったのだ。
要はオーバーキルであり、それをすぐに理解できてしまったマナの眼は虚ろなものとなり、苦笑いしかでてこなかった。
「嘘でしょ…そんな、そんなことって…マナ、マナァァァァァ!」
「あっ、もう…ダメ…」
「やべぇ、水城が気を失っちまった…けど、嘘だと言ってよ会長ぉぉぉぉぉ!」
「嘘だ…俺が見てるこれは、夢だろ…夢に決まってる…!」
「ところがどっこい…酷な事ですが、これは嘘でも夢でもありません。現実です…!これが現実…!現実っ…!」
その絶望的な状況に六花はただ泣き叫ぶことしかできず、水城もまた心が折れたのか気を失い、現実は非情であることを各々理解せざるを得なかった。
特に味方であるはずの先ほどれいかと呼ばれたクラスメイトの女子が、この状況が残念ながら現実でしかないことを3回も強調しているほどだ。
―手札にも場にも墓地にも対処できるカードは、ない…オワタ\(^o^)/
「…なんだかすごく眠い…みんな、ごめん…」
一方のマナの眼は焦点が合っておらず、今にも倒れ伏せそうだ。
もはや心が折れ、自らの終わりを覚悟したようだ。
「これが現実だ、相田マナ…中々楽しませてはくれたが、これで終わりにしてやろう!『バーニング・アルマゲドン』!!」
――ドォォォォォォォン!!
スカーレッド・デモン・ザウラーが地面に向かって紅蓮の炎を纏いし腕を振り下ろすと辺り一面が見えなくなるほどの爆風で包まれ、それをマナは成す術もなく受け、吹き飛ばされた。
「が…がはっ…」
―嗚呼、これが…あたしの、終わり…なの?
マナ :LP400→0
このデュエルはジャックの圧勝で終わりを迎えた。
そして、爆風が晴れると…マナのいた場所には2枚のカードしか残っていなかった。
跡形もなく焼かれ散ったのか、それとも外部の超常の力などで消えたのだろうか?
「会長が…消えちゃった」
「そんな…マナ…っ…この人殺し!」
マナが消えてしまった事でこの先どうなるのか不安になったり嘆くものもいれば、六花のように仇を見るような目でジャックに対し憎悪を露わにするものもいる…本当に死んだのかわからないのにもかかわらずだ。
「なんとでも言え…だが、消えた奴もこのことは覚悟していたはずだ。もっとも、お前たちを人質にしたことはすまなかった。いかなる卑劣な手段を用いてでも奴を闇のゲームに誘い込んでデュエルで倒す必要があったからな」
意外と素直に謝罪しつつ卑劣だと自虐する様はある意味潔い。
そうして、ジャックはマナのいたところの近くに歩いていき、その辺に転がっていた妖精シャルルと2枚のカードを拾っていく。
―これは『No.111 キングジコチュー』と『RUM−バリアンズ・フォース』か…前者は予定調和だが、後者は思わぬ収穫ではないか…奴らを敵に回すかもしれんがもう構わん。
「そう、このカードを奴から取り戻すためにな。特にキュアダイアモンド…これはお前には見覚えがあるだろう?」
「嘘…これは…」
そのカードを見た六花は信じられないとばかりに驚愕していた。
何故なら自分たちが倒すべきだった敵、キングジコチューだったからだ。
何者かに倒されていたことは知っていたものの、どうしてマナがそれを落としたのか理解できていないようである。
「所詮キングジコチューといえどもデュエルモンスターズのモンスターの1体にすぎん。ただし、力を蓄えたこいつはあるものの起動キーとなるがな」
「力を蓄えた…まさか、あたしたちは…!?」
「利用されていたわけだ。トランプ王国側としてはジコチューを発生させることでこいつに力を蓄えさせ、それはプリキュアに処理させていたわけだ。本来ならキングジコチューもあの時、お前たちプリキュアに倒させるつもりだったわけだ」
「そんなこと、マナだってキレて当然よ!…あれ」
つまりジコチュー関連の事件は全てトランプ王国側の自作自演だったという事実をあっけらかんと話すジャック。
六花はそのことに憎悪を覚えるも、あることに気が付く。
「つもりだった…ということは…」
「察しがいい…キングジコチューを倒したのは相田マナとバリアン世界の住人たちだ。そして奴がキングジコチューを己の力として取り込んだ事でこちらの計画が台無しになった…そして闇のゲームで奴に勝てない限りは剥がす事はできないということになった」
「そのために…よくもマナを!」
「そうだ。だが、このデュエルで思わぬ副産物を手に入れた…こいつを利用すれば、トランプ王国の計画のようなこの世界を利用したまわりくどい手段を取る必要など不要…一つ言っておくが、奴は死んだとは限らんぞ?あの攻撃が炸裂した瞬間に次元の歪みが感じられたのでな」
―そうでなくては奴が消えてあの2枚のカードだけが残ったとは思えんからな。
どうやらキングジコチューを倒したのはマナのようであり、しかも自分の力としてそれを吸収したため、今回のような手段を取らざるを得なかった様だ。
しかし、もう1枚の副産物を手に入れたことで今後はこの世界を巻き込まずに済む手段を編み出せるという。
「そんなこと…信じられるわけないでしょ?」
「ふん、信じる信じないはそちらの勝手だ。しかし、どの道このフィールドを解除しなければならないが…そうすればお前たちは実体化したモンスターに成す術もなかろう?」
「うっ…」
「「「「「それは…」」」」」
マナの安否についてはジャックもよくはわからないようである。
しかし、一方でジャックの言うとおりクラスメイト一同は酷い有様でありこのままでは実体化したモンスターに簡単にやられてしまうだろう。
「だが、俺がやらかしたことだ。このまま放置しておくのは忍びない。悪いが、お前たちをトランプ王国へ転移させることにする…さらばだ」
「「「「「「ちょ、おま…」」」」」」
ジャックがそう言うと、クラスメイト達のいるところに異次元へつながる穴が開き…
「「「「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」」」」」」」
あえなくトランプ王国へとつながっていると思われるその穴に皆は落とされてしまった。
「…あそこには俺とは違って心優しい奴らが多いはずだ。モンスターの実体化が止むまではあちらで精々休んでおくことだな」
―この計画を考えついたうるさいババアどもは違うがな…
だいぶ強引ではあるが、一応ジャックにとって退避させるつもりで落としたようだ。
「これで今回の目的は果たした。だが…」
そう言うとジャックは埠頭側を見る。
「奴は恐らくあの神殿のところか…」
ジャックの頭に思い浮かんだのはチーム遊戯王の不動遊星…レッド・デーモンズ・ドラゴンの持ち主だ。
そう考えていると、放置気味だったレジーナが話しかけてくる。
「ねぇ、この辺ぶらついてていい?」
「構わんが、どこの馬の骨とも知らぬ奴にデュエルで敗れたからな…これから俺は神殿の方へ向かうが、お前は罰として別の方へ行き実体化したモンスターの掃滅でもしておけ。それとここの住民どもにあまり迷惑をかけるなよ」
「うっ、まぁいいけど」
―ちょっと前には思い切り迷惑かけてたあんたが言うなと言いたいけど、何をされるか…
レジーナは不満そうながらも拒否したら何をされるかわからないため、しぶしぶ了承して埠頭側とは違う方向へ足を進めていった。
一方のジャックは自身のD・ホイールに搭乗し、フィールドを解除する。
すると、解除した外では実体化したモンスターがジャックに襲い掛かってきた。
「やはり実体化したモンスターが大勢いるか…だが、このキングの前では無力!!」
――ズドォォォォォォォン!
ここでジャックは、衝撃波で実体化したモンスターを大量に殲滅していく。
ジャックにとってはこの程度のことなど造作もない。
――キュィィィィィィィン!!
そしてD・ホイールが動きだし、そのままジャックは埠頭の神殿の方へ向かっていった。
――――――
「ん…うーん、知らない天井…って、空じゃない!」
―あいつの言ったことが本当ならここはトランプ王国…前来た時とは違って綺麗なところだけど。
六花が目を覚ますと、そこは見知らぬ綺麗な場所であった。
ジャックによる情報が正しければここはトランプ王国のはずだが、キングジコチューがいた時はひどく荒れ果てていたものだったのだ。
「よかった…気が付いたみたいだね、そこのお嬢さん?」
「それと、みんなも無事…ってうわっ、格好は違うけどもしかしてキュアラビーズをくれたお兄さん!?」
他のみんなは気絶しているものの無事だったようであるが、突然金髪の髪を後ろで纏めたような騎士の格好をした青年に話しかけられ驚いた。
思い違いでなければその人はどこか胡散臭い行動と気障な台詞で六花たちを煙に巻きつつ、一方でキュアラビーズを彼女に渡し、プリキュアになる切欠を与えた青年だったからである。
「そうだったね。いきなり大勢の方々がここに降ってきて驚いたけど、その中に君もいたんだね。もしよければ事情を聞かせてくれないかな?」
「やっぱり…っていきなり何聞いてるの!?あなたのこと信用したわけじゃないのに!」
その青年は名乗る事もせずいきなり六花たちの事情を聞いてきたため、六花は思わずツッコミを入れる。
「ああ、ごめん。僕はジョナサン・クロンダイク…ただのトランプ王国の騎士だよ」
―うわ…やっぱり胡散臭いわね。
「どうみてもただの騎士には見えないけど…とはいってもこのままだと埒があかないしいいわ。実はかくかくしかじかで…」
他の人は気を失っている上、他に頼れそうな人はいなさそうなので止むを得ず一応は知り合いである彼にこれまでの経緯を話す事にした。
するとジョナサンは頭を抱えだして…
―ジャックの奴、いったい何を考えてこんなことを…
「そんな…マイ・スイート・ハートがいなくなってしまうなんて。それと僕の知らないところでそんな大変なことになっていたのか…いや、本当ならそんな思惑があったとも知らずキュアラビーズを渡したことを考えると僕の責任も大きいはず。本当に申し訳ない!」
ちなみにマイ・スイート・ハートとはマナのことである。
それを聞いたジョナサンの表情はどこか悔しそうで申し訳なさを感じさせるものであった。
そう言うと六花たちに向かって頭を下げる。
「そんな、頭を上げてください…マイ・スイート・ハートって所が少し気になるけど」
「「「「「う…うーん」」」」」
すると、他のクラスメイト達も気絶から覚めたというところであった。
「どうやら他の方たちも起きたみたいだし、僕の方で宿や診療所を手配しておくよ…状況を聞く限り、少なくとも今日は君たちの世界には戻らない方がよさそうだからね」
六花が小声で突っ込んだ事は聞かれていないようである。
確かにモンスターの実体化があったりと不可思議な事象がまだ起こっており、手負いの彼女たちはまだ戻らない方が安全だろう…中学生児童神隠し事件として騒がれることは覚悟しなければならないだろうが。
「そうですか…お言葉に甘えます」
「「「「「いったい何がどうなって…」」」」」
何がどうなっているのか目覚めたばかりで理解できていない皆に説明しつつ、ジョナサンの提案に甘えることにするのであった。
この時点で水城など数名はまだ目覚めておらず、二階堂達で運ぶ羽目になった。
ちなみに数日後、無事に彼女たちは本来いる世界へ帰還できたようだ。
しかし、マナは…帰ってこない。
――――――
「実体化したモンスターなど、このキングとザウラーの前にはただ殲滅されるのみ!『アブソルート・ヘル・ファイア』!!」
――ズガッシャァァァァン!!
ジャックはD・ホイールで走りながらレッド・デーモンズ・ザウラーを召喚し、モンスターを大量殲滅!数の多さなどものともしていないようだ。
なお彼が走った道では明らかにモンスターが少なくなってきており、近くで見ていた者は「ありがたいけど、何が何だかわからない」との感想を漏らしたという。
そうこうしているうちにジャックは神殿のある埠頭へと到着した。
「これは…中々面白いことになっているではないか」
その神殿は最上部が変形してライディングデュエル用のサーキットと化しており、現在進行形でこの世界の命運をかけたデュエルが行われているようだ。
もっとも一般の人が埠頭から見れるようなデュエルではないはずであるのだが…
「あの男、緋渡遊哉といったか…奴からは凄まじい闘気と熱い魂を感じ、このデュエルの中で進化し続けているようだ。ライフ差は絶望的なのにもかかわらず相手の骸骨らしき悪神を毒舌など心理戦で圧倒しつつ、攻撃力馬鹿の一面がありながら高いプレイングスキルを持ちその様は迷いがなく余裕綽々とはな」
どうやらジャックは異世界のキングを自称するだけはあり、どうしてか埠頭からでもデュエルの様子がわかり見物しているようだ。
その片方であるチーム遊戯王の緋渡遊哉をデュエリストとして高く評価している。
事前に調べていたのか彼らの事は頭に入っているようだ。
「正直、今のままの俺では勝ち目は薄い…それどころかデッキの性質上、先ほどのデュエルで倒した奴の方がまだ勝ち目はあるだろうが、いずれデュエルしてみたいものだ」
さらに、遊哉には相田マナの方がまだ勝ち目はあると評しており、意外と自らに対する評価は厳しいようである。
「それに比べ、なんだあれは!あの骸骨は使用カードこそどれも強力無比かつ悪疎な効果ではあるが…プレイングは稚拙、己のライフポイントに無駄に固執し、悪神でありながら心理戦で相手に圧倒され、己の札にすら振り回される始末。勝負は見えたも同然ではないか!」
それに比べ遊哉と相対する骸骨…ダークネスに対する評価は最悪と言ってもいい。
使用カードこそは反則極まりない強力なものばかり使用しているが、主にそのプレイングに問題があり、心理的に相手に圧倒されてしまっているためだ。
それに例えライフ差がとんでもないことになっていようと、遊哉のような優れたデュエリストならばそれをどうにかしてしまうことを確信していた。
数分後、そのデュエルは大詰めを迎えていた。
遊哉がとあるとんでもない方法で召喚したシンクロドラゴンの攻撃力を一気に増加させてきたのだ。
「よもや攻撃力1468800をたたき出すとはな。日々進化を追い求めていた者だからこそ成せる技ということか…」
――キィィィン……ゴォォォォォォォォォォォ!!!
そして、そのモンスターから放たれた究極的な一撃が93万程度あったダークネスのライフを削りきったのだ。
「成す術もなく倒されたか…所詮、過ぎた力に溺れた者などこんなものだ」
―あのババア…それに俺も奴みたくならないよう善処せねばな…
その一撃を前に何もできなかったダークネスに呆れつつ、神殿のサーキットで観戦中の不動遊星の方に目を向ける。
「だが、ここで俺が標的に定めるのは不動遊星唯一人…奴の手から『レッド・デーモンズ・ドラゴン』を我が手中に収めておきたいわけだが、さて…」
やはり本来の狙いは遊星の持つレッド・デーモンズ・ドラゴンのようだ。
そうして、ジャックは次にとるべき行動を考えていくのであった。
――――――
「アン王女、お茶をお持ちしました」
「いつもありがとう、キュアソード」
ここはトランプ王国にある城で一見優しそうな雰囲気の若い王女である『マリー・アンジュ』とスペードをモチーフとし菫色の短めのポニーテールが特徴のプリキュア『キュアソード』が会話しているところだ。
「失礼ですが、王女様…一つお聞きしたいことがあるのですが」
「はい…なんでしょう?」
「どうしてわざわざキングジコチューというナンバーズにトランプ王国を支配させたのですか?住民を危険にさらしてまでしなければいけないことなの?」
キュアソードがその質問を投げかけた途端、場の空気が一変した。
彼女にとって一時的でもキングジコチューに支配させていた事には疑念を抱かざるを得ないようだ。
「…ごめんなさい。今はまだあなたにも教えられないことなのです。いずれ語る時まで待ってくれますか?」
「そうですか…一旦失礼しますが、気が向いたら話してください」
―その隠し事が善からぬ事でなければいいのですが…ううん、今は王女様を信じよう。
マリーは隠している事は教えるわけにはいかないものの、一応キュアソードは表向きでは納得してこの部屋から退出していった。
もっとも本心では王女様への信頼と疑念との間で揺れているようであるようだ。
そして、マリーはキュアソードが部屋から出ていった途端、表情を黒さを感じさせるものに一変させた。
「そう…キングジコチューに溜め込んだ力を使いあの世界においてナンバーズの秘められし力を開放させ、それを収集してからバリアン世界を滅ぼし…いずれは世界の運命を全て決めるとされる『ヌメロン・コード』を掌握する…アストラル世界の者と共謀したこの計画を話すわけにはいかないもの…特にクールで正義感の強い彼女にはね」
―うふふ、キュアハート…いや、現世に転生したアルクの持つキングジコチューの回収を命じたジャックは今どうなっているのかしらね…
そして、自らの目的を彼女にのみしかいなくなった部屋で呟いた。
残念ながらキュアソードの疑念は当たっていたようだ。
随分とスケールの大きい野望であるが、地球のある世界において『No.』の秘められし力を開放するためにキングジコチューの力が必要なようだ。
ジャックたちも彼女の差し金のようだが、実際は彼は彼女のことを心の底では『ババア』呼ばわりしており、恐らくは彼女の思惑通りに動くタマとは思えない。
とはいえ、マナの前世であろう存在を(聞いただけかどうかはわからないが)ご存じのようでその底は計り知れないところもまた恐ろしいところだろう。
そして、彼女の部屋のテーブルには『No.96 ブラック・ミスト』というエクシーズモンスターが置かれていた。
これが何を意味するのかは定かではない…。
――――――
「フン。往生際の悪い骸骨だったが、大量のモンスターの一斉攻撃ではなくあの蹴りらしきものがトドメとは屈辱的で奴らしい最期だったな…」
ダークネスが遊哉による前代未聞の超攻撃力で倒された後にジャックがとった行動は…傍観であった。
とはいえ、その成れの果ての黒い塊が何か企んでいるためにチーム遊戯王に恩を売ろうと移動して加勢しようとしたのだが、高さがあり海を隔てているほど場所が離れている上に動こうとした途端、チーム遊戯王の者たちが大量のエース級モンスターでダークネスを迎え撃ったためである。
いくらキングを自称する彼でもあの状況で手を出すのは自殺行為になりかねない上、もしも自分が彼らの立場である事を考えると流石に気が引けたようだ。
そしてダークネスが消滅した途端、突如として神殿が崩壊し始めた。
「成程…あの骸骨がいなくなり支える力がなくなったからか。しかし拙いな、あのままでは奴らも海の藻屑になるだろう…いや、あれは?」
――バババババババババババババ!
すると、上空には軍用輸送ヘリらしき飛行物体が見えたのだった。
恐らく、チーム遊戯王たちの帰還手段だろう。
「どうやら帰還手段はあるようだな。流石に無理やりあそこまで乗り込むほど俺は野暮じゃない。今は勝利の余韻に浸るがいい」
―まぁいい、たまにこの童美野町の道路を走っていればいずれ不動遊星とデュエルできる機会もあろう。今はトランプ王国に戻るが…後、レジーナは放置してよかろう?
どうやら今回は不動遊星へ挑むことは諦めたようだ。
そしてジャックの前方に異世界へ通じるであろう空間の穴が開くと、ジャックはD・ホイールに搭乗してその穴に入っていった。
ジャックが入ると同時にその穴は消失した。
ちなみに違う場所で掃滅戦の手伝いをしていたレジーナはジャックに放置されたことに気付かぬまま、実体化したモンスターの消えた童美野町をしばらく探索していたようだ。
とはいえ、彼女も自力でトランプ王国に帰れるため大した問題ではないだろうが。
――――――
「う…ここは」
禍々しく輝く真紅色の空に赤い鉱石のようなものが辺りに散らばっている奇妙な世界…そこで倒れていたかつて相田マナだった者の成れの果てが目を覚ましたところだ。
もっとも今の彼女の姿は人間のそれではなく色々と装飾のついたマゼンタ色の全身タイツみたいなものに腰布を身に着け背には竜のような羽が生えており、そして顔面の部分は仮面をつけたようなお世辞にもダサいとしかいえないような姿と化してしまっているのだが。
すると、フードを被った同じような種族であろうと思われる者に話しかけられる。
「気が付いたみたいですわね」
「あなたは…メラグ姫!?ということはここは…バリアン世界か」
―それによくみたらあたしの姿が…
フードを被った者に見覚えがあるようでさらに周りを見渡すと、ここがバリアン世界であることを理解できたようだ。
それに自分自身の姿が変わってしまった事に気が付いたようだ。
「よく御存じで。そういうあなたは…私を庇って命を落としたはずのあの人にそっくりですわね。違うとしたらどうして私の事を知っていたのかしら?」
「それは…信じられないと思いますが、キュアハートとしてあなたたちと接触していました」
マナがメラグ姫を知ったのは、キュアハートとして接触していた時のことのようだ。
すると、彼女の声色が少し変わる。
―成る程、今の姿を考えますと…とするとこれは拙いことになったみたいですね
「あの時のですか…すみませんが、あなたの持っているデッキを確認していただけますか?」
するとマナは言われた通りに自らのデッキを確認する。
しかし、仮面のようなもので顔部が覆われ表情が隠れていても、動揺がみてとれた。
「デッキですか…メインデッキは無事。エクストラデッキは…嘘、ない!」
―よりにもよって全ての『No.』が無くなっている!?特にキングジコチュー…あの時に奪われたか!?…拙い、これは非常に拙い!
「やはりそうでしたか。その様子だと我々の敵の手に渡ってしまったそうですね…何という取り返しのつかないことをしてくれたのですか、あなたは!」
「あ…謝って済む問題ではないかもしれませんが、ごめんなさい!」
キングジコチューはどうやら奪われては拙い代物であり、それを奪われた責任は大きい。
鬼気迫ったメラグの剣幕に押され、思わず謝ってしまうマナ。
しかし、メラグにとっては薄々このようなことになってしまう事は覚悟していたようだが。
「謝るくらいなら行動で…とはいったものの今までのあなたでは荷が重すぎたのも事実」
―荷が重すぎた、か…カオスエクシーズを使ったのにもかかわらずあいつに成す術もなくやられてしまったからね…。
「そうですか…だけど、あなたたちとの約束を果たせず、頼りにしてくれたみんなの期待を裏切ってしまった!無様すぎて悔しいよ…そんな情けないあたしが何より許せない!」
メラグがマナに対し「荷が重すぎた」とマナの力量不足を指摘し、それに対してマナは悔しそうかつ険しい声で先ほどのデュエルでの己の不甲斐なさを悔いた。
―それにこの姿でこの世界に戻ってきてしまった以上、もはや今までのままではいられない…覚悟を決めろ…!
「…今までのあたしはもう終わりだ。奴を倒してあのカードを取り戻し、自らの運命にけじめをつけるために…覚悟を決め、生まれ変わる時!あたしは…俺はバリアンの戦士『アルク』だ!」
マナ改めアルクは今までの自分を捨てて、新たな名前でバリアンとしての覚悟を決めたようだ。
もっとも今の彼女には知る由もないが、マリーが語っていたマナの前世であろうものと同じ名前である。
―覚悟を決めたようで今後どのように成長するか見物です。しかしながらこの名、どこかで…?まぁいいでしょう…
「これからはそう呼ばせて頂きますね…アルク、これからどうされるのでしょう?その様子ですとあなた自身の
「ああ…だから、この世界を旅しながらまずはそれを探しに行く。 一旦ここでお別れだよ」
「そうですか、あなたの幸運をお祈りいたします」
まずはバリアン世界を巡る旅にでるようだ…あるカードを探しにいくために。
一方のメラグは彼女のその名に覚えがあったようだが、今は心に押しとどめ、旅立つ彼女を見送った。
―首を洗って待っておけ、ジャック!それにアギト…あんたのことも忘れたわけじゃないからな、覚悟しておけ…!
もしも、六花たちがアルクと名を変えた今のマナの変貌ぶりを見たら卒倒ものだろう。
外見だけでなく一人称が変わって言動も荒くなり、心の中でいずれ倒すべき者を思い浮かべながらバリアン世界を歩き進んでいく。
彼女が進む道にはいったい何が待ちかまえているのだろうか…?
f1 END
登場カード補足
スカーレッド・デモン・ザウラー
効果モンスター
星11/闇属性/恐竜族/攻3500/守3000
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上の「レッド・デーモンズ・ザウラー」が効果によって
破壊され墓地へ送られた時のみ手札から特殊召喚できる。
このカードは特殊召喚したターンには攻撃できない。
このカードは1ターンに1度だけカードの効果では破壊されない。
このカードが特殊召喚に成功した時、以下の効果から1つを選択して発動できる。
●フィールド上に表側表示で存在する全てのモンスターを破壊する。
●お互いの墓地の全てのレベル5以上のモンスターをゲームから除外し、
除外したモンスターの数×500ポイントダメージを相手ライフに与える。
No.111 キングジコチュー
エクシーズ・効果モンスター
ランク11/闇属性/悪魔族/攻4200/守3600
レベル11モンスター×3
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。
相手フィールド上の攻撃力が1番高いモンスター1体を破壊し、
破壊したモンスターと同じ攻撃力を持つ「ジコチュートークン」
(悪魔族・闇・星5・攻?/守2000)1体を自分フィールド上に特殊召喚する。
このカードがフィールド上を離れる場合、
代わりにこのカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、手札を1枚墓地へ送る事ができる。
後書き座談会
yatume(以下Y)「というわけでまさかのドキプリクロス続編のf1シリーズを無事終えることができました…ちなみにタイトルのfは未来のfutureの頭文字から取っており、前回一度ENDとしてしまったために便宜上付けたものです、ごめんなさい」
六花「あぁ…まさかマナがあんなことになってしまうなんてね。ところでマナの前世とされる『アルク』の名前の由来って何なの?」
Y「それは北斗七星を形成する2等星の一つ、ミザールの脇の4等星『アルコル』が由来です。バリアン世界の住民の名前の由来が北斗七星関連ということに倣いました」
水城「成程…それと、前世設定ってまさか…?」
Y「はい、ZEXAL本編でバリアン世界の住民の謎が解明したことの煽りを受けた設定変更の結果です、ごめんなさい」
六花「あはは…それはそれとしてマナがラブハートアローを光剣のように使っていたけどドキドキ!プリキュア本編ではあんな使い方してないのよね…キュアソードですら」
Y「そうなんだよね。特に彼女の場合は仮にも剣の名を持つプリキュアなのにそこが解せないところです。今回マナに使わせたのは本編で王子に例えられていたことで、王子様と言ったら個人的に何故かレイピア振るってそうなイメージがあったのでこうなりました」
水城「なお、プリキュアボーパルストライクはどこかのライトノベルの『ヴォーパル・ストライク』という技から拝借した模様」
Y「すみません、仰る通りです。なお、マナがジャックにプリキュアとして三流として言われたのにもかかわらず前の話でグレズに対してプリキュアとしての技が効いたのは奴が消滅寸前だったからです」
六花「流石に弱ってたら効くわよね。それとどうしてこの話で『New Generation』本編に出ていなかったジャックを登場させたのか気になるところね」
Y「これに関しては色々と魔が差しました。もし遊哉たちの世界の出身なら作中のどこかで話題になっていたと思いましたし、キングとジャック繋がりでトランプ王国という異世界出身なら知られてないのも無理はないと勝手に判断した結果こうなりました」
水城「ちなみにぼくは彼のプレイをパワープレイと評したけど、ヴァイス・コカトリスなどの存在から実際にはパワーデッキというより相手の戦術を抑制・妨害するのが得意なコントロールデッキに近いかな?」
Y「決して本家レモン以上にデメリットのきついザウラーありきではなく、様々なカードを駆使して自他ターン問わず相手を妨害し、最終的に勝利を掴みとるスタイルです。OCGのカードですとヴェルズ・ナイトメアのような例えステータスが低くても相手にすると面倒なカードを好みます…とはいえ、エンターテイメント優先で増殖するGのようにわざと見逃すカードもある模様」
水城「そこが隙となりえると思います。とはいえ、アニメ版や漫画版の彼とは別ベクトルで強いのは間違いありません。しかし、遊星の持つ本家レモンを狙っている目的って何だろう?」
Y「ザウラーと似てるから?(適当)」
六花「ちゃんと答えそうにないし、それは置いておきましょ?ドキドキ!プリキュアから登場したマリー・アンジュ王女だけど、本編とは違ってこちらは善からぬ事を考えているみたいね。ブラック・ミストも意味深だし」
Y「まぁ、操られているのか本心なのかどっちともとれますね。ちなみに六花が名前で呼んでたれいかというモブの女子だけど、f1-1でムーラングレイス出してた方です。なお、スマイルプリキュア!に同じ名前のキャラがいてそれが由来ですね」
水城「後、レジーナやジョナサン・クロンダイクまで出てきているのにキュアロゼッタは結局出番なかったね。それはいいとして長くなってきたし、そろそろお開きとしましょう」
六花「今回あまり役に立てなくて歯痒い思いしたから、デュエル始めようかな…こんなものですが、読んでくださりありがとうございました!」
Y「一旦これで終わりですが、もし次の機会がある時まで…またいつか」
座談会終了