「キリがないが…奴らを切り刻め!ブレード・ハート、神速の暗黒剣士!

 「雑魚どもを焼きつくせ!スティグマ、ヴァールハイ・ブレイザー!


 喫茶店のある通り道でも実体化したモンスターとの掃滅戦が続いていた。
 少し前に一度途絶えた後、また湧いてきた時から休みなしだ。

 「…モンスターが一度途絶えた時に埠頭側から来た、ここでは見慣れない制服を着た女の人が心配だな」

 「今にも闇に落ちそうな感じでしたからね。それに埠頭の方へ行ったはずのプリキュアの人と少し雰囲気似ていましたけど、大丈夫かな?」

 とはいえ、彼らは自分たちよりも他人の心配をしているようだ。
 その少し前に出会ったプリキュアと似ていたことがどうも気がかりなようだ。
 モンスターの掃討自体はまだまだ余裕が残っているのは幸いだろうか。

 「無事を祈るしかないな…だが、少なくとも埠頭の方はチーム遊戯王の面子がどうにかしているはずだ。俺たちは今できる事をするまで。まだまだやれるか、なのは?」

 「当然でしょう?近くで戦っているだろう遊馬には負けてられないからね!」

 どちらもやる気は十分で余裕綽々。
 少なくともこの星空兄妹は乗り切れるだろう。










 遊戯王デュエルモンスターズ New Generation×ドキドキ!プリキュア f1-3
 『絶対王者君臨!』










 「俺はトランプ王国のキング…ジャック・アトラスだ」

 場面は元に戻る。
 掃滅戦が繰り広げられ、レジーナとの決着がつくと突如として衝撃波が発生し、その直後にキングを名乗る青年がこの場に降り立った。
 その青年―ジャックの威圧感は先だって現れたレジーナのそれを軽く凌駕している。
 伝説の戦士『プリキュア』であるマナでさえ、感じてしまった格の違いに体が恐怖で震え上がっていた。


 「そ、そのキングが…ど、どうしてこんなことを…?」

 「愚問だな、挨拶代わりのつもりだ」

 「なっ…!」


 マナと六花を除くクラスメイトたちや実体化したモンスターたちを一瞬で戦闘不能にさせたあの衝撃波をあろうことか挨拶代わりだと言ってのける。
 しかも絶妙に死者や重体な者を出さないあたり、なんとも末恐ろしい存在だろうか。


 「フン、それで奴は健在か…レジーナ、どうやらお前には荷が重かったようだな」

 「うっ…ごめん、ジャック。かくかくしかじかで」

 流石のレジーナもジャックの前ではたじたじのようであり、先ほどのデュエルのことなどを正直に話すのであった。


 「ほう?面白い。どこの凡人かは知らんが、このレジーナを倒した事ご苦労だったな。誉めてやろうではないか」

 「く、舐められたものですね…この様では仕方ありませんが」
 ―ぼくが負傷してまともにデュエルさえできないことをいいことに…言ってくれますね!

 若干の貶しも混ぜつつジャックは誰かもわからない者を称賛しつつも、当の水城は倒れ伏せたまま彼を睨みつけつつ自嘲も混ぜて毒づくことしかできなかった。

 「…そこのお前か。中々いい目をしているではないか。しかし、悪いがお前の相手をしている暇はないのでな」

 「こんなことになってなければすぐにでもあなたに挑みたかったくらいですがね…」


 ジャックは自身に睨みを利かせた視線を送る水城の事を見やると少し興味を示したが、どうやら他に優先することがあるようだ。
 水城は悔しがる理由がいかにもデュエリストといったところだろう。

 「そこでだ、俺がここに来た理由の一つを教えてやろう…我がトランプ王国の裏切り者を始末しに来た」

 「「「「「「「「はぁ?」」」」」」」」

 「何を言っているの…いったい?」


 するとジャックはとんでもないことを口にする。
 この中にトランプ王国を裏切った者がいるとのことだ。
 その発言にクラスメイトの皆はわけもわからず困惑する。
 それはマナと六花も例外ではない。

 「解せぬといった表情だな…ならばはっきりと教えてやろう」

 すると、ジャックはある人物に指をさした。
 その指をさされた人物に、皆は驚愕を隠せないようだ。

 「「「「「え…」」」」」

 「嘘でしょ?」

 「貴様のことだ、キュアハート

 「あ、あたしが…?」

 なんと指をさされたのはキュアハート…つまりマナだ。
 しかし当のマナはそのような覚えはないようで、呆然としていた。


 「会長が…どういうことだよ…?」

 「いなくなっていた時って、トランプ王国を救うために闘ってきたんじゃないの?」

 「なのにそれを裏切ったって…どういうことだよ?」

 驚愕しつつも、そのことを皆は信じられない。


 「で、出鱈目を言うなッ!プリキュアになったあたしたちはみんなを…世界を守るためにジコチューたちと闘ってきた!それはここもトランプ王国も同じ!」

 「そうよ!マナがもしも裏切ったなら、あたしたちの今はないはず!だってあたしもプリキュアなのだから!」

 マナや六花も当然のようにジャックにそう反論する。
 しかし、ジャックはその反応は当然のように見ていたようだ。

 「だろうな。だがな、キュアハート…貴様は1つ、誰にも話していないだろう隠していることがあるはずだ」

 「!?…いったいなんのことなの?」
 ―確かにある、言えないことが…だけど、どうして奴がそれを?

 マナは後ろのゼンマイ状に丸まっている髪の部分を触りつつ表面上はとぼけてみせるが、内心ではひどく動揺しており、図星を突かれているようである。

 「マナが後ろの方の髪をつまんでる…隠しごとがあるのは確かみたい」

 「そりゃ相田だって隠したいことの一つや二つはあるわな…けどよ」

 「あいつめ…いったい何を隠してやがる?」

 その動揺ぶりといつもの悪い癖から周りのクラスメイトにも隠し事がある事が見抜かれてしまっているようである。

 「とぼけても無駄だ、貴様の事はトランプ王国でしばし拝見していたからな」

 「な…に…?」
 ―見られていた…まさか、あの時に!?

 そしてマナはキングジコチューを倒した時の事を思い出す。
 その時にマナが引き連れていたのはプリキュアではなく、別の異世界であるバリアン世界の方々だ。
 つまり、その時点で少なくともマナはバリアン世界と接触していたことになる。

 ―けれど、一つ腑に落ちないことがある。その時点では、トランプ王国の住人の殆どはジコチュー化されていたはず…どういうことだ?


 マナはとあるトランプ王国出身のプリキュアから住民の殆どがジコチュー化したことを聞かされており、疑問に思う。

 「困惑しているようだな、面白いことを教えてやろう。ジコチュー発生の事だが、あれは我々トランプ王国の計画のうちなのだよ」

 「あ…が…なっ!?」

 「え…どういうことよ?」

 そしてジャックはまたしてもとんでもないことをのたまう。
 何とジコチューが発生した事件がトランプ王国の計画のうちだと言うのだ。
 他のクラスメイトたちは話についていけていないようだが、当のプリキュアの六花…そしてマナにとっては衝撃的な話であった。


 ―だとしたらさっきの事も納得がいく。けど、それじゃまるで自作自演…何が目的かはわからないけどそのためにこの世界を巻き込んでまであたしたちプリキュアは利用されていたというの?

 その事を聞き、マナはひどく不快感を覚えた。
 自分含むプリキュアと自分の身の回りがそのトランプ王国の自作自演に利用されていたからだ。
 自分だけならまだしも、わけのわからないもののために他の大勢を巻き込んだことは彼女にとって許せるものではない。
 マナの身体は震え、静かに理性ではどうにもならないほどの怒りへと変わっていた。


 「こ、こんな茶番のために皆を巻き込みつつ、あたしたちが利用されていたなんて…ざけんな」

 「「「「「!?」」」」」

 怒りに震えあがるマナを見て、他の人は悪寒が走る。

 「ふざけるなぁぁぁぁぁぁ!!」

 「ダメ!落ち着いて、マナァ!」

 マナは自分を見失っており、正気をなくしているようだ。
 六花の制止も聞かず、弓形のラブハートアローにラビーズをはめると柄の部分をなぞる。


 ――トゥルルルン!


 「ちょ、おま…」

 「お、落ち着くシャル!」

 「いくらなんでもそれは拙いよ、マナ!」

 水城たちがマナに対し、必死に制止を呼びかけようとするもマナの耳には入らない。
 そうして弓をひきしぼり、ジャックに狙いを定めた。

 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 そして制止もむなしく、凄まじい叫びとともに少し禍々しく輝くハートの矢『プリキュアハートシュート』が打ち出されてしまう…。
 
 「フン…」


 ――バシュゥゥゥゥン!


 そのハートの矢がジャックに命中すると、眩い光で視界が見えなくなる。



 「うおっまぶしっ!」

 「いったい、どうなっちゃったんだ…?」



 そうして光が収まっていき、視界が明けていく。

 「プリキュアにもかかわらず、ここまで愛の力が感じられぬとはな…所詮、今の貴様の力はこんなもの…プリキュアとしては三流がいいところだ


 そこには無傷のジャックの姿があった。
 マナのプリキュアとしての渾身の技がまるで効いていないということのようだ。

 ―成程、確かにそういうことならこの技が弱体化して効かなかった可能性もあるか…
 「三流とはね…くっ、わかりきっていたはずだけど、こうも通用しないのは…悔しいところか」

 当のマナは多少の冷静さは取り戻せたものの、歯ぎしりしているその様から悔しさが滲み出ているようだ。
 愛の力がないというのは、プリキュアとしての在り方を忘れ半端な正義感と(主にアギトに対する)憎悪でこれまで戦ってきたというのがあるのだが。
 心の中では自分でもその部分を自覚していただけに余計悔しさを掻き立てられる。


 「あーあ、ざまぁねぇなぁ!会長さんよぉ!」

 「はは…どうなってしまうの?」

 頼みのマナの攻撃でさえ通用しないとなると、この状況を乗り越えるのは非常に難しいということだ。
 他のクラスメイトたちは負傷している中、不安と疑念が高まりつつあった。
 一部、煽り立てる者がいるもののそっとしておこう。


 「だが、これでは面白くはない。貴様には俺とデュエルしてもらおう」

 「デュエル…」
 ―奴にとって非常に有利なこの状態で何を?…少し光明が差してきたのはありがたいけど


 ここでジャックはマナに対してデュエルを申し込む。
 ジャックほどの力の持ち主であればマナを実力行使でねじ伏せる事ができるだろうにもかかわらず、デュエルを仕掛けるようだ。
 この状況ではマナはデュエルでならまだ希望があるかもしれないと考えているため願ってもいないことだろうが、相手の思惑通りになってしまうのは気に食わないだろう。

 「別に尻尾を巻いて逃げてもいいのだぞ…貴様の仲間がどうなってもいいというのならな」


 さらにジャックはそのように挑発しにかかる。
 どちらかといえば自分より他人の事を優先するマナにとっては、拒否権がないのも同然の事だ。

 「どうりであの衝撃波で俺たちを…姑息な真似を」

 「わたしたちはまんまと人質にされた形になってしまいましたね」


 他のクラスメイトたちにはこのことで先ほどの衝撃波の本来の意図がようやく掴めた。
 逃げられないようにする事と他の邪魔が入らないようにするためにしたのだろうことが想像できたようだ。

 「皆を置いて逃げる事なんてできない…受けてたつよ!」
 ―相手はこちらより格上…だからといってもうさっきのように怖気づくわけにはいかない!

 「そうだ、貴様には最初から選択する権利などありはしない!まずは戦う舞台を整えてやる。それと安心するがいい、貴様以外の者どもの安全は保障しようではないか。貴様とは違う奴とはいえレジーナに勝った褒美だ」


 覚悟を決めてマナがデュエルを受諾し、その直後にジャックは上からの物言いをしてから指をパッチンとさせると、この辺り一面が禍々しい瘴気のフィールドに包まれる。


 「なんだこれ…あれ、案外普通だな」

 「これで、ぼくたちの安全を保障するってどういうこと?」

 この禍々しいフィールドとさっきの言葉の因果関係はこの場にいる者にとってはこの状態では理解できるものではない。
 そこでジャックは親切にも説明を続ける。

 「このフィールドなら、外部から実体化したモンスターが襲い掛かる心配は無用だからな…これで貴様は周りを気にせず思うがまま戦えるだろう?」

 「あたしにとっては多少空気が苦しいけどね。それとこのフィールドはいわゆる闇のゲームのためのものだよね?」

 「無論だ、このデュエルではダメージが現実のものとなる。覚悟しておけ、貴様の命の保証はできん」


 これが本当ならば、確かにこのフィールドが展開されている限りはマナ以外のクラスメイトに実体化したモンスターによる被害が及ぶことがないだろう。
 しかし、マナには闇のゲームということもあり危険な戦いが強いられることである。
 いくらプリキュアに変身しているとはいえ、油断できるものではない。

 「わかった。皆の安全は保障してくれたみたいだし、とやかく言うつもりはないよ」


 とはいえ、これくらいのことはマナには最初から承知のことである。
 先ほどまで正気をなくすほどの怒りをためこんでいたとは思えないほど冷静だ。
 そして、デュエルディスクを構えデュエルの準備を整える。

 「何とか調子は取り戻せたみたいだけど、相手は恐らく緋渡さんや遊星さんたちと同格…気を付けて!」

 「お願い、負けないで…マナ!」

 「「「「「行けぇ!会長!」」」」」


 水城は彼がその雰囲気からチーム遊戯王の二人と同格ではないかと思い、マナに注意を呼びかける。
 もっとも、実際にそうであるかどうかはデュエルしてみなければわからないのだが。
 そしてクラスメイトの皆はマナを必死に応援していく。


 「ありがとう、みんな!…ジコチュー極まりないそこのお兄さん!このキュアハートがあなたをデュエルで倒してみせる!」

 「やれるものならこのキングを打ち破ってみるがいい!…覚悟は決まったようだな。早速始めようではないか」

 マナは両手をハートの形にしつつそう啖呵を斬るも、ジャックは決して動じることない。
 お互いの緊張が高まりつつある中…


 「「デュエル!!」」


 キュアハート(マナ):LP4000
 ジャック:LP4000



 とうとうデュエルが始まる。

 「先攻は貴様にくれてやろう」

 「ありがたい限りだね。それでは遠慮なく…あたしの先攻、ドロー!」
 ―舐められているかもしれないけど、何かありそうかな。


 先攻はジャックに譲られる形でマナとなる。
 何か思惑のようなものを感じたとはいえ、マナは早速動き始める。

 「まずは手札からレベル1モンスターのポルン・ミツバチを捨て、チューナーモンスター『慈愛の調星師』を手札から特殊召喚!」
 慈愛の調星師:DEF2100

 「墓地へ送られた『ポルン・ミツバチ』の効果を発動!デッキからレベル2以下の植物族モンスター『フェザーシード・エイサー』をサーチし、そのまま通常召喚!」
 フェザーシード・エイサー:ATK0


 マナの場には早速チューナーとチューナー以外のモンスターが揃いシンクロ召喚の準備ができたのだが、まだ止まらない。

 「ここで慈愛の調星師の効果を発動!1ターンに1度、このカードのレベルを4つ上げ、そのレベルを9にする!」
 慈愛の調星師:Lv5→9


 「合計レベル11のシンクロがくるか…見せてみるがいい!」

 レベル変動を利用し、1ターン目からレベル11ものシンクロ召喚の準備が整う。

 「レベル2のフェザーシード・エイサーにレベル9となった慈愛の調星師をチューニングし、シンクロ召喚!」

 ――ピキ…ピキ…
 シンクロ召喚特有の光が収まると、突如として空間にヒビが入る。

 「現れろ、強靭な大顎で強き獲物を亜空間へと誘う異界からの刺客…亜空間(あくうかん)地獄(じごく)!!」
 ――ピキッ…パリィィン!
 『ギシャァァァァァァ!』
 亜空間地獄:ATK2600



 そしてヒビの入った空間が割れて出てきた亜空間の中から刺々しいフォルムのアリジゴクの如き巨大な虫が姿を現すのであった。
 非常に高レベルの割にはレベル7・8帯のシンクロなどとさほど攻撃力は変わらないものの、プリキュアが使うとは思えないような容姿で中々に迫力のある虫の怪物だ。


 「相田はまずは順当にこいつをだしてきたか…効果の都合上ガガガガンマンやムズムズリズムとかに弱いのがキツいが」

 「とにかくこれで相手の高打点のモンスターは動きにくくなりましたね。相手はどうでるのかしら?」

 マナが出したこのモンスターだが、どうやら先攻なら順当なモンスターではあるらしい。
 しかし、この瞬間をもジャックは見逃してはいないようだ。


 「フェザーシード・エイサーがシンクロ素材に使用されたことで効果を発動!」

 「最初から高レベルのシンクロ召喚か…流石だがその程度、決して読めないことはない。貴様のその効果にチェーンする形で手札から『ブライト・リゾネーター』を捨て、その効果を発動する」

 「ここで手札誘発か…!」
 ―いきなり出鼻をくじかれたか…!

 「相手のシンクロ召喚時に発動するこの効果で俺はデッキからカードを2枚ドローする。だが、安心するがいい…この効果はこのデュエル中1度きりだ」


 ここでジャックは相手の行動を逆手に取った形でカードをドローする。
 増殖するGに比べると、こちらはシンクロ召喚をトリガーにして1度だけ一気に2ドローでき、チェーンに乗らない特殊召喚に対応しやすいのとチューナーであることが強みだろうか。
 
 「だけど、エイサーの効果によりあたしも1枚ドロー!カードを1枚伏せて、ターンエンド」
 ―亜空間地獄なら相手が高い攻撃力のモンスターを出しても自身とともに一時的にそのモンスターを除外できる…けど

 まずは手札誘発によりジャックに牽制されてしまったマナ。
 モンスター効果により損失を最小限に抑えて高レベルのモンスターを展開できたものの、その能力が発揮できるのか不安が残るところだ。

 「へぇ…でも、そんな布陣でジャックに通用すると思っているの?」

 帰ったわけではないため、当然のことながらレジーナもこのデュエルを見ており、ジャックならこの布陣を容易に突破できると確信しているようだ。


 「貴様にキングのデュエルを見せてやろう。俺のターン、ドロー!まずはその伏せカードには退場していただくとしようか。魔法カード『ナイト・ショット』発動!これはセットされた相手の魔法・罠カード1枚を破壊する…このカードを発動する際、対象となったカードは発動できないオマケ付でな」


 ――パリィィン!


 ジャックが最初に取った手は魔法・罠除去だ。
 相手の伏せは1枚であり、チェーン不可のこのカードなら相手の伏せを空にできるのは大きいと言える。
 
 「『禁じられた聖衣』が…」


 「フン、仮にガガガガンマンのようなモンスターを相手にしても返り討ちにできる算段だったとの事のようだが、残念だったな」

 聖衣は1体のモンスターに対し、効果破壊耐性と攻撃力ダウン…そして発動後の効果の対象にならない耐性を付けられる便利な速攻魔法だが、ナイト・ショットで破壊されたがために発動さえ許されなかったのはマナにとって痛いところだろうか。


 「続けるぞ。貴様の場にのみモンスターが存在する場合、こいつは手札から特殊召喚できる…来い『ライダー・デーモン』!」
 ライダー・デーモン:ATK1300


 ジャックが最初に出したモンスターはバイクに搭乗したデーモンの一種だ。
 攻撃力が低いレベル6のモンスターであるものの、自身の効果により展開は容易なので便利だ。

 「そしてチューナーモンスター『ブースト・リゾネーター』を召喚!」
 ブースト・リゾネーター:ATK600

 「ここでチューナーとチューナー以外のモンスターが揃った…けど、この亜空間地獄なら」
 ―そう、大抵のシンクロモンスターは元々の攻撃力が高い。亜空間へ引きずりこめればチャンスは十二分にあるはず…


 ここでジャックもシンクロ召喚ができる状態になるが、一方のマナにはある思惑があるようであるようだ。
もっとも、それはジャックにとっては甘い考えであるようだが。

 「駄目だなぁ、シンクロ召喚で出てくるモンスターがどいつもこいつも高い攻撃力などと思わないことだ。レベル6、ライダー・デーモンにレベル2のブースト・リゾネーターをチューニング!王者の眼に睨まれし弱者が砕け散るその様を見届けるがいい。これがエンターテイメントだ!シンクロ召喚、白鱗の王者鱗鶏王(りんけいおう) ヴァイス・コカトリス』!!」
 『ガァァァァァァ!!』
 鱗鶏王 ヴァイス・コカトリス:ATK1500



 ここで現れたのは純白の羽毛と鱗を纏い、ニワトリと蛇を合わせたような姿の巨大なコカトリスの如き怪物だ。
 マナはそのモンスターに対し、思わず冷や汗が出るほど衝撃を受けていた。

 「な…そいつは!?」
 ―出てきたモンスターの攻撃力が低くて亜空間地獄の効果が発動できない!?

 そう、亜空間地獄の効果が発動できないほどにジャックの出したシンクロモンスターの攻撃力が低かったからだ。

 「大凡その蟻地獄風情の効果でしのごうと思ったのだろうが、その甘い考えがやがて己の破滅を招く。ヴァイス・コカトリスはシンクロ召喚に成功した時、自身に魔石カウンターを2つ乗せる」
 鱗鶏王 ヴァイス・コカトリス:魔石カウンター0→2


 「さらに、ブースト・リゾネーターがシンクロ素材として墓地へ送られた場合、デッキから同名モンスターをこのデュエル中1度だけ手札に加えさせてもらう」

 やはりジャックにはマナの考えていることが見抜かれていたようだ。
 しかもチューナーの効果でシンクロ召喚の損失を補っている辺り、抜け目がない。
 しかも、乗せたカウンターが魔石カウンターなのが少々気味が悪いだろうか。


 「その程度のモンスターへの対処など他愛もない。バトルだ!ヴァイス・コカトリスで亜空間地獄を攻撃!」

 「…だ、だけど攻撃力はこちらの方が上だよ!」
 ―とはいえ間違いなく、奴は打点増減の手段を握っている…駄目だ、止められない!

 ここでジャックは攻撃力の低いヴァイス・コカトリスで攻撃してきた。
 マナは言葉ではそう言うも声が震えている辺り、頭では結果が分かってしまっているようだ。

 「ならば超えてしまえばよかろう。ダメージステップ時…手札から『ブースト・リゾネーター』を捨て、効果発動。俺の場の攻撃力1500以下のシンクロモンスターの戦闘時にこいつを手札から捨てる事で、エンドフェイズ時までその攻撃力を元々の2倍にする!」
 鱗鶏王 ヴァイス・コカトリス:ATK1500→3000


 先ほどのブースト・リゾネーターは手札誘発の効果も持っており、その効果は1500以下の攻撃力のシンクロモンスターの攻撃力を元々の2倍にするものであった。

 「猛毒の炎に焼かれ、喘ぎ苦しむがいい『ポイズンフレア』!」

 そのコカトリスの口から禍々しい紫色の火炎放射が吐き出されると、亜空間地獄は抵抗するまもなく焼き払われてしまう。


 ――ボォォォォォ!



 「うっ…がぁぁぁぁッ…!!」
 キュアハート:LP4000→3600


 ダメージが実体化する闇のゲームのため、その余波でマナはその身を焼かれてしまう。
 数値上では僅かなダメージ量にしては、服が所々焼け落ちてしまっておりプリキュアに変身しているといえども身体へのダメージも大きいようだ。

 「おいおい、400ポイントのダメージのリアクションとは思えないぞ…しかも会長の服が所々焼け落ちててエ…」

 「言わせませんよ…だけど大丈夫かな、マナ…?」

 「わからないよ。でも、マナならきっと…」

 マナの身を案じてか、クラスメイト達は心配の声を上げる。
 一部、何かふさわしくないことを言いかけた人がいるもののそれは水城が阻止したようだ。


 ―こ、これは…受けたダメージにしては苦痛がプシュケローネやパラドックスとデュエルした時より遥かに大きい!プリキュアになっているとはいえ、ライフが0にでもなったら…一貫の終わり!

 「…う、戦闘ダメージを受けた事で手札からこいつを特殊召喚!我が生き血を養分とし、咲き開け『ブロッサム・ウィード』!」
 ブロッサム・ウィード:DEF1600


 とはいえ、ただで受けるマナではない。
 戦闘ダメージを利用して手札からレベル9もの高レベルのモンスターを展開したのだ。

 「ほう?ダメージを利用して展開してくるか…これくらいしてもらわねば倒し甲斐がない。カードを1枚伏せてターンエンドだ」
 鱗鶏王 ヴァイス・コカトリス:ATK3000→1500


 ジャックは傷ついてもなお展開をするマナの姿勢を称えるも、余裕綽々の表情でターン終了を迎えた。


 「げほ…あたしのターン、ドロー!」
 ―う…ここでこのカードが手札に来てしまったか…!

 先ほどのダメージの影響により咽びながらターンを開始するマナであったが、そのドローカードを見て少し困惑した表情となってしまう。
 引いてしまったら都合が悪いカードでも引いてしまったのだろうか。

 「会長さん、困ったような顔をしてますね…」

 「なにか都合が悪そうなものでも引いてしまったのでしょうか」

 その姿に周りのクラスメイトは心配の色を隠せない。

 ―拙い、みんなのことを心配させてしまってる…とりあえず、途中まではやってみよう。
 「手札から魔法カード『調律復号』を発動!800ライフポイントを払い…ぐぁぁぁぁ!!」
 キュアハート:LP3600→2800


 ここでマナは苦しそうに悲鳴を上げてしまう。
 例えライフコストであってもダメージが実体化してしまっているのだ。

 「マナ!?大丈夫なの?」

 「なんの…これしき!これにより墓地からチューナー1体を蘇生する!蘇れ『慈愛の調星師』!その後、デッキトップ1枚を墓地へ送る!」
 慈愛の調星師:DEF2100

 傷ついていくマナの身を案ずる六花だが、当のマナは苦痛を堪えて展開を進める。


 「自らを傷つけることを厭わずに展開してくるか…その勇気を誉めてやろう」

 ―墓地へ送られたのはライクリボーか…よし、これなら戦闘ダメージを1度だけ防げる。
 「そしてチューナーモンスター『コピー・プラント』を召喚!」
 コピー・プラント:ATK0

 「コピー・プラントの効果発動!ターン終了時まであたしの場の植物族モンスター、ブロッサム・ウィードのレベルと同じにするよ!」
 コピー・プラント:Lv1→9

 「さらに慈愛の調星師の効果を発動し、レベルを4つ上げる!」
 慈愛の調星師:Lv5→9

 それぞれのモンスターのレベルを効果により上げていき、これによりマナの場にはレベル9のモンスターが3体揃った。


 「これでレベル9のモンスターが3体…会長の十八番がくるか!

 「ふーん、そう上手くいくと思う?」

 クラスメイトの一人がマナの切り札が出てくることに期待をかけ、一方のレジーナは逆にそう上手く事は運ばないだろうと考えていた。


 「いくよ!レベル9のブロッサム・ウィードとコピー・プラント、慈愛の調星師をオーバーレイ!」

 ここで3体のモンスターが黄緑色に輝く球体となると、宇宙を思わせる黒い空間に入り込んでいく。

 「3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築し、エクシーズ召喚!宿命の心が重なりし時、運命の炎が最強のナンバーズを呼び覚ます!君臨せよ『No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon(ハート・アース・ドラゴン)!」
 『グォォォォォォォォ!!』
 No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon:ATK0



 ここで呼び出されたのは攻撃力0を生かした戦闘ダメージ反射などの効果を持つ、マナのエースといえる禍々しい東洋の龍のような長大なドラゴンである。

 しかしジャックはそのドラゴンをみると、目を見開き…

 「フン、その程度で最強を名乗るとは片腹痛いものだ。そう、キングとこの鱗鶏王の前ではいかに無力かを思い知らせてくれる!この瞬間、ヴァイス・コカトリスの効果を発動!」

 「何…!」

 それを一蹴し、ここですかさずヴァイス・コカトリスの効果を発動させてきた。


 「このカードの魔石カウンターを1つ取り除き、相手が召喚・特殊召喚した攻撃力1800以下の弱者を効果を無効にし破壊する!この力で砕け散るがいい!『ペトラクラッシャー』!!」
 鱗鶏王 ヴァイス・コカトリス:魔石カウンター 2→1


 その瞬間、ヴァイス・コカトリスは両目から放たれた怪光線をハート・アース・ドラゴンに浴びせて石化させてしまった。
 攻撃力さえ低ければ、例え場持ちのいいモンスターであろうと簡単に処理できてしまうこの効果は中々恐ろしいものがある。


 果たして、即座にエースモンスターを無力化されてしまった彼女の運命はどうなってしまうのか?










  続く 










 登場カード補足



 フェザーシード・エイサー
 効果モンスター
 星2/風属性/植物族/攻 0/守1100
 このカードを風属性モンスターのエクシーズ召喚に使用する場合、
 このカードはレベル5モンスターとして扱う事ができる。
 このカードがシンクロ召喚の素材に使用され墓地へ送られた時、デッキからカードを1枚ドローする。
 「フェザーシード・エイサー」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。



 亜空間地獄
 シンクロ・効果モンスター
 星11/地属性/昆虫族/攻2600/守2200
 チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
 このカードはシンクロ召喚でしか特殊召喚できない。
 相手が攻撃力1800以上のモンスターを召喚・特殊召喚した時、
 その攻撃力1800以上のモンスター1体とこのカードをゲームから除外できる。
 この効果で除外したモンスターは、エンドフェイズ時にフィールド上に戻る。
 この効果でゲームから除外したモンスターがエクシーズモンスターだった場合、
 このカードの攻撃力は、そのエクシーズモンスターを
 ゲームから除外した時のエクシーズ素材の数×300ポイントアップする。



 ブライト・リゾネーター
 チューナー(効果モンスター)
 星3/光属性/悪魔族/攻 400/守1100
 相手がシンクロモンスターのシンクロ召喚に成功した時、このカードを手札から捨てて発動できる。
 デッキからカードを2枚ドローする。
 この効果は相手ターンでも発動できる。
 「ブライト・リゾネーター」の効果はデュエル中1度しか使用できない。



 ライダー・デーモン
 効果モンスター
 星6/闇属性/悪魔族/攻1300/守1800
 相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、
 このカードは手札から特殊召喚できる。
 また、このカードをエクシーズ素材とする場合、闇属性モンスターのエクシーズ召喚にしか使用できない。
 フィールド上のこのカードを素材としてエクシーズ召喚したモンスターは以下の効果を得る。
 ●このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。



 ブースト・リゾネーター
 チューナー(効果モンスター)
 星2/炎属性/悪魔族/攻 600/守 100
 このカードが攻撃力2000以下のモンスターのシンクロ素材に使用され墓地へ送られた場合、
 デッキから「ブースト・リゾネーター」1体を手札に加える事ができる。
 「ブースト・リゾネーター」のこの効果はデュエル中1度しか使用できない。
 また、自分フィールド上の攻撃力1500以下のシンクロモンスターが
 戦闘を行うダメージステップ時、このカードを手札から墓地へ送って発動できる。
 そのモンスターの攻撃力は、エンドフェイズ時まで元々の攻撃力の倍になる。



 鱗鶏王 ヴァイス・コカトリス
 シンクロ・効果モンスター
 星8/闇属性/鳥獣族/攻1500/守2600
 チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
 このカードがシンクロ召喚に成功した時、このカードに魔石カウンターを2つ置く。
 相手が攻撃力1800以下のモンスターの召喚・特殊召喚に成功した時、
 このカードに乗っている魔石カウンターを1つ取り除いて発動できる。
 そのモンスターの効果を無効にし破壊する。
 この効果は1ターンに1度しか使用できない。



 調律復号
 通常魔法
 800ライフポイントを払い、自分の墓地のチューナー1体を選択して発動できる。
 選択したモンスターを特殊召喚する。
 その後、自分のデッキの上からカードを1枚墓地へ送る。
 「調律復号」は1ターンに1枚しか発動できない。