Side:なのは
シュテル改め、なたねが私の妹になって数日。本日、私達はグランツ研究所に来ています。
理由は言わずもがな、グランツ博士に頼んでいたなたねのデバイスが完成したらしいから、そのお披露目にね――僅か数日で作り上げたグランツ博士は、相変わら
ず流石なの。……多分、徹夜はアミタさん達が阻止したんだろうけどね。
ともあれ、グランツ博士が開発したデバイスなら、性能の方は折り紙付きだから安心して良いよなたね♪
「姉さんがそう言うのならば間違いありませんね。
尤も、姉さんの相方である『レイジングハート・エクセリオン』も、グランツ博士が改造したとの事ですので、其れを踏まえると私専用のデバイスは期待できますね。」
「きっと期待以上の物が出来てると思うよ?
私とレイジングハートをベースにしてるだろうから、砲撃能力に秀でたデバイスに成る事は予想できるだろうけど、なたね用に調整されてるのは間違いないから。」
「其れはまた何とも……期待に胸が膨らんでしまいますね。」
やっぱり自分のデバイスって言うのはワクワクするよね!――なたねも其れを感じ取ってくれてよかったの。
もしも、自分用のデバイスが出来たって聞いても、何も感じない様な状態だったら、其れこそ本気で如何したモノかと迷う事だったからね――反応は薄くても、なたね
は確固とした『自己』を持ってるみたいで安心したよ♪
それに、よ~~~~~く見れば、極小さいながらも、微細な表情の変化は見て取れるからね。
「私のデバイスは、恐らく見た目は姉さんのレイジングハートの色違いと見て間違いないでしょうが、果たして如何様なカラーリングに成るのでしょうか?
レイジングハートが金なので、私のは白銀が妥当でしょうか?……或は、夜天の空を思わせる紫も捨てがたい物です……待つのもまた、楽しみな事ですね。」
なたねは、すっかり自分のデバイスに興味津々だね?
なら、そろそろご対面と行こうか――この扉の向こう……グランツ博士の部屋である『所長室』に、なたねのデバイスは有る筈だからね!!
失礼しますグランツ博士!――高町なのはです、なたねのデバイスを頂きに来ました!!
魔法少女リリカルなのは~夜天のなのは~ 夜天93
『夜天と炎星で全力全開』
「いらっしゃい、よく来たね――と言うか、なたね君のデバイスが出来たから、僕が呼びつけた訳なんだけど、思った以上に大所帯で来てくれたね?
なのは君とはやて君、ヴォルケンリッターの面々になたね君……総勢9名か――此れはまた、何とも賑やかな、新デバイスのお披露目会になりそうだよ。」
にゃはは……成り行きで、思いがけずに大所帯になっちゃいました。
まぁ、なたねのデバイスがどんな物に成るのかって言うのは、其れは相当に気になりましたからね――出来れば、アリサちゃんとすずかちゃんにも来て欲しかったん
だけど、2人とも今日は習い事が有るから、残念な事に今日は居ないんだよねぇ……
まぁ、其れは後でメールなりで連絡するとして、なたねのデバイスは一体どんな物なんですか、グランツ博士?
「基本的な構造は、なのは君のレイジングハート・エクセリオンをベースにしたインテリジェントデバイスけど、細かな性能は僕の方で設定させて貰ったよ。
基本性能は射撃・砲撃特化型だけども、必要に応じてクロスレンジでの戦闘にも対応できるように設定しているから、汎用性は可成り高いと自負しているよ♪」
「それって、可成りのチートデバイスの可能性が否めませんよグランツ博士!!誰が如何考えても、オーバースペックの魔改造デバイスですよ其れ!!」
「そうかも知れないと思ったんだけど、やり始めるとトコトンやらないと気が済まない性質なんだよね僕って。
何よりも、デバイス開発は僕の十八番だから、其れを徹底的にやる事が出来るって言うのは、この上ない幸福だよ?――やっぱり作ってる時が一番楽しいしね。」
其れを言われたら、何も言えないですよグランツ博士。
まぁ、グランツ博士が味方であって良かったって事で納得するとして、なたねのデバイスは?
「此れだよ。待機状態もレイジングハートを意識してみたんだけど、気に入ってくれたかいなたね君?」
「……此れは、シンプルながらも美しいデザイン――実に見事です、グランツ博士。」
待機状態の形状はレイジングハートと同じ小さな球体と金属パーツで構成されたネックレスだけど、赤と金のレイジングハートと違って、こっちは青と銀……完全に逆
のカラーリングになってる。私となたねのバリアジャケットみたいだね。
「言われてみれば、確かに其の通りですね。
もしや、博士も其れを考えてデバイスのカラーリングを施してくれたのでしょうか?」
「まぁ、2人のバリアジャケットのカラーリングが対照的な部分からヒントを得たのは確かだね。
最初は、去年の闇の欠片事件の時に現れた君が使ってたって言うデバイスと、同じ色にしようかとも思ったんだけど、其れじゃあ余りにも味気ないし『高町なたね』
って言う魔導師に贈るデバイスとしては、如何かと思ったからね。」
マテリアルの『シュテル』と、『高町なたね』は同じ魂ではあっても異なる存在だって言う事なのかな?
確かにマテリアルの時のシュテルと、今のなたねは、私から見ても、容姿は兎も角として全くの別人の様に見えるからね?一度消えて、闇が浄化されたのかもね。
「ただ、そのデバイスにはまだ名前が付いていないんだ。
此れからの君の愛機に成る訳だし、マスター認証も兼ねて、名前は君が付けてあげてくれるかな、なたね君?」
『宜しくお願いいします、Master.』
「勿論です。そう来るだろうと思って、デバイスの開発を依頼した時から、私の相棒の名は考えていました。今それを披露しましょう。
マスター認証『高町なたね』。術式は近代ミッドと古代ベルカのハイブリット。デバイス名称登録『ヘブンズハート・アクシズ』、通称『ヘブンズハート』。
ヘブンズハート……セットアップ。」
『All right Master.Standby ready Set up.』
――カッ!!!
デバイスが起動して、なたねがバリアジャケット姿に!
マスター認証と、デバイス名称登録は巧く出来たみたいだね♪……ヘブンズハート、とてもいい名前だと思うよ?ヘブンズハートは、如何思うかな?
『このような素敵な名前を付けて頂き、光栄の極み。改めて、宜しくお願いします、Master.』
「喜んでいただけたのならば幸いです。
此方こそ、此れから宜しくお願いしますねヘブンズハート。」
なたねとデバイスの相性も良いみたいで良かったの。
其れは其れとして、グランツ博士、此れから訓練施設の方を使う事って出来ますか?もし出来たら、使わせてほしいんですけれど……
「ん?其れは大丈夫だよ?特に使用予定も入ってないし、アミタとキリエも今は外出中だからね――だけど、突然どうしたのかな?」
「えっと……デバイスを受け取って、マスター認証とデバイス名称の登録だけじゃなくて、性能のチェックを兼ねた模擬戦も如何かなって思いまして。
もっと言うなら、デバイスが完成した今なら、なたねがシュテルだった頃にした『再戦の約束』も果たせますし……何よりも、なたねがやる気になってるよね?」
「流石は姉さん、察していただけましたか。
えぇ、私は今直ぐにでも新たな相棒であるヘブンズハートの力を試したいのです。……そして、その為の相手が姉さんであるならば、何も言う事は有りません。」
と、つまりこう言う訳です。
「成程ねぇ……まぁ、実戦での性能チェックは大事だし、そう言う事なら遠慮なく使ってくれていいよ。
君達2人が全力で戦っても大丈夫なように、訓練室のシールドレベルをMAXに設定しておくし、更にシャマル君の結界で強化して貰えば大丈夫だと思うしね。」
「ありがとうございます!……そう言う訳で、思いっきりやろうかなたね?」
「無論です姉さん。
貴女のコピーであることを超え、私は私としての『高町なたね』としての力を得ました……焼滅の力、受け止めて頂けますか?」
「良いよ、本気でやろう!」
あ、でも非殺傷設定は使ってね?
それから、互いにフルドライブとブレイカーは使用禁止で。幾らシールドレベルをMAXにして、更にシャマルの結界で強化したって、ブレイカーを使ったら研究所が冗談
抜きで吹っ飛んじゃうから。
「承知しました。では、そのルールの中で全力を尽くすとしましょう。」
そうだね。
行くよレイジングハート、性能テストを兼ねた模擬戦とはいえ、負ける訳にはいかないからね?
『勿論承知して居ますよMaster.
Masterの妹と、私の妹とも言えるデバイスが相手でも負けてやる気は有りません。寧ろ、Masterと私のコンビの年季と言うモノを、ルーキーに教えてあげましょう。』
にゃはは……確かに、先輩魔導師として、そして姉としても、華を持たせる訳には行かないかな?
取り敢えず、貴方の力を見せて貰うよなたね――マテリアルだった時とは違う、『魔導師・高町なたね』としての、貴女の力って言うモノをね!
――――――
Side:なたね
私用のデバイスが完成し、その性能テストも兼ねて姉さんと模擬戦とは……此れは期せずして願いが叶いましたね。
私がシュテルであった時から、姉さんとは何れもう一度戦いたいと思っていましたし、あの時からドレだけ姉さんが強くなったのかにも興味がありましたので、此れは
ある意味で好機ですね。
「行くよ、レイジングハート!」
『All right Master.』
そして、訓練室に入るや否や、姉さんはレイジングハートを起動して戦闘モードになった訳ですが……此れは、以前に対峙した時とは比べ物に成らない程に力を増し
ているようですね……恐らくは、あの後もストイックに自分を鍛えて居たのでしょう。正に夜天の主と言うに相応しい威厳を感じますから。
ですが、だからこそやりがいが有ると言うモノです。……では、行きますよ姉さん。
「うん、行くよなたね!」
「いざ、尋常に勝負。」
――ビー!!
模擬戦開始を告げるブザーが鳴り、此処に戦闘開始です。
私も姉さんも、射撃と砲撃を得意としているので、恐らくはミドルレンジ~アウトレンジでの撃ち合いになるでしょうが、絶対に退きません!パイロシューター!!
「アクセルシューター!」
――ドガガガガガガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!
先ずは互いに牽制の意味での誘導弾ですが、此れは互角の様ですね?
尤も、誘導性では私が、最大展開数では姉さんの方が勝っているようですが、総じて戦えば五分でしょう――ならば次は、砲撃で勝負です!!
殲滅……ブラストファイヤー!!
『Blast Fire.』
「砲撃勝負!!……なら受けて立つよなたね!ディバイィィィィィン……バスターーーーーーーーーーーーーー!!!」
『この砲撃に撃ち抜けぬ物など存在しませんよ。』
――バガァァァアァァァァァァァァァァン!!!
く……結果だけを見れば相殺ですが、僅かに押し負けました――流石は姉さん、砲撃に関しては誰にも負けないと言う事ですか。
「砲撃は私の代名詞だからね……だけど、其れだけじゃないよ!!」
「!!!」
砲撃を放った姉さんが何時の間にか後ろに!?……フラッシュムーブで回り込んだという事ですか……流石に、こう来るとは思って居ませんでした…実に見事です。
「相手の意表を突くのも大事な戦術だから、覚えておいた方が良いよなたね。」
「覚えておきましょう。――ですが、態々間合いに入って来てどうするのです?姉さんは、其れほどクロスレンジは得意ではなかったと記憶して居ますが?」
「其れは、あくまでも以前の私でしょ?
今の私は、お兄ちゃんとお姉ちゃんの指導を受けて、其れなりにクロスレンジでの戦闘だって行えるんだよ、なたね!」
なんと、其れは予想外です……早起きしての朝練でも、その様子は見受けられなかったので余計です――ですが、此れは私の予想の範疇を遥かに超えています。
まるでバトン運動の様に、絶えず私に襲い掛かるレイジングハートを使っての、まるで舞うが如き連続攻撃は、クロスレンジ不得手の魔導師が出来る事ではない。
私とて、クロスレンジは出来ますが、此処までの息つく暇も与えない程の連撃が出来るかと問われたら、其れは間違いなく否でしょうね……実に見事ですよ姉さん。
――ガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!
ですが簡単にはやられません!
レイジングハートを使用したクロスレンジラッシュを持ち堪えれば、其処に付け入る隙が出来るでしょうから、其処に最大級のブラストファイヤーを喰らわせれば……!
「何とかできると思ってる?……だとしたら、少し甘いよなたね!」
――バキィィィィィィィィィィィ!!!
ガハッ……く……まさか、横蹴りを使ってくるとは――完全にしてやられましたよ姉さん……よもや、こんな方法で間合いを崩すとは、正直思っていませんでした…!
ですが、態々間合いを外しに来たという事は――
「此れで終わりにするよなたね……私の全力全壊を受けてみて!」
――キュゴォォォォォォォォォォォォォォ……!!
し、集束砲ではないと言っても、あの魔力の集中は凄まじい物が有ります……ならば、其れには全力で応えましょう!!
「行くよ……ハイペリオンスマッシャー!!!」
「燃やす……ディザスターヒート!」
姉さんの最強レベルの砲撃と、私の三連直射砲が激突しましたが、此れは、如何やら持ち堪えるのは難しいかもしれません。
三連の砲撃とかち合ったにも拘らず、姉さんの砲撃は全く威力を落とす事なく、三連砲撃を飲み込んで私に迫っている……残念ながら、初陣は敗北の様ですね……
――ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!
「ぐ……不覚……!!」
「夜天の翼と不屈の心は絶対に砕けないよ!!」
絶対に砕けぬとは……言いますね姉さん?
ですが、姉さんが言うと其れが真理に聞こえるから不思議です……或は此れが、真の夜天の主が持つ『カリスマ性』と言うモノなのかもしれませんがね。
何れにしても、良き戦いでした。
負けた事は悔しいのですが、それ以上に心が滾る戦いでした……機会が有れば、何れまたお手合わせ願えますか姉さん?
「勿論だよなたね♪模擬戦だったら幾らでも付き合うから、遠慮しないで言ってほしいの。
あ、だけどお店の手伝いをしてる時は、模擬戦の呼び出しは無しの方向でお願いね?」
「了解ですなのは……ですが、店の手伝いをするのは私もなので、その時は流石に呼び出したりはしませんよ?」
「分かってるけど一応ね。
でも、なたねの力は、シュテルだった頃とは比べ物に成らない程に上がってるよ?……正直な事言うと、砲撃からのゴリ押しは通じないって思ってたからね。」
ですが、姉さんは其れをも超えて、私を制した……矢張り、貴女は最高にして最強の魔導師ですよ姉さん。
そして、最後の夜天の主の力、この身をもって味わわせて頂きました……そして納得しました、姉さんこそが真の夜天の主に相応しいと言う事を。
ならば私は、貴女の妹としてサポートをして行きましょう。
はやて姉さん共々、夜天の主たる姉さんをバッチリ確りサポートしていかせて頂きますとも。――異論は有りませんよね、はやて姉さん?
「あると思てんのなたね?
姉やんを全力でサポートするなんて事は、正式に高町家の一員となる前から決めとった事や!!今更それを覆すかい!!其れは既に決定事項や!!」
成程、そう言う事ですか……態々、私が言うまでも無いと言う事でしたか。――――其れは何とも素晴らしい事です。
期せずして『高町なたね』としての新たな生を受けましたが、此れは思った以上に心が躍る日々を過ごす事が出来るようですね?
其れを考えると、姉さんのクローンを作っていたクリザリッドには感謝すべきかもしれません――姉さんのクローン体が無かったら、私の復活は無かった訳ですから。
いずれにせよ、私は私として此処にいる訳ですから、此れからの人生を全力で生きねば、蘇った意味もないので、新たな生を思いきり謳歌するとしましょう。
――――――
Side:シグナム
なたねのデバイスが完成して2日後、グランツ研究所の訓練室には、私とバニングスとなたね、そして主なのはとアミタとキリエが居る……如何にも模擬戦のようだが
私と、なたねと、バニングスが一緒のチームとは、此れは炎熱系で纏めたという事でしょうか、主なのは?
「その通りだよシグナム。
今回の模擬戦は『同属性の変換資質チーム』と『砲撃と射撃特化型チーム』の組み合わせにしてみたんだよ。――ある意味で、此れは燃えるでしょシグナム?」
マッタク持って、主なのはも人が悪い。
こんな組み合わせを見せられたら、ルールがあるとは言え本気になる他ないでしょうに……ですが、そう言う事ならば手加減なしで行かせて頂きますよ、主なのは!
「望むところだよシグナム!――手加減抜きで本気でやろう!!」
「御意に!」
思えば、主なのはと本気で戦う事などは今の今まで無かった事だな?
主に刃を向けるのは抵抗がないとは言えないが、此れもまた訓練と割り切るべきだろう―――だからこそ、私に迷いはない!……行きますよ、主なのは――!
「全力でやろう?――行くよ、シグナム!!」
如何に主が相手とは言え、手を抜いたら、其れは最大級の侮辱になりかねない故に、全力で行かせて頂きます!
ヴォルケンリッターが烈火の将シグナム……いざ、参ります!!
――ガキィィィィン!!!!
「此れは、本気で手加減なしだねシグナム?」
「手加減などと言うモノは、私の肌に合わないモノの様ですからね――本気で行かせて頂きます!!」
「望むところだよシグナム!!」
こうして始まった模擬戦だが、結果だけを言うならば引き分けだったな――生き残ったのが、私と主なのはだけだったのだから、ある意味で妥当な判定なのだろう。
だが、この模擬戦で主なのはの力と、なたねの力を直に感じる事が出来たから、其れを考えればやって良かったのだろうな。
此れだけの仲間や友を得た夜天の主が、この先どんな道を進むのか――夜天の調停者として、其れを見届けねばならんのだか、主なのはならば道を誤りはしない。
近い将来、正しき夜天の光が世界を包み込む事は、恐らく間違いない事だろうな。
To Be Continued… 
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