Side:シグナム


我等の前に、再び現れたシュテル……少なくとも敵ではないようだが、取り敢えず主なのはを此方に渡して貰っても良いだろうか?
お前を疑う訳ではないが、主なのはは此方に居て貰った方が安心できるというモノだからな。


「其れは勿論ですよ剣騎士。
 幸い、催眠ガスで眠っているだけですので、高町なのはの身体生命には全く問題は有りません……ガスが強かった事も有りますが、あと1時間程すれば目を覚ま
 のではないかと思います。……マッタク、姑息な手を考えたモノですね、クリザリッド。」


寝ているだけか……ならば安心だな。

だが、主なのはの複製を大量に生み出し、あまつさえ其れを兵器として利用とした貴様を許す事は出来そうにない……覚悟は出来ているな、クリザリッド!!!


「……馬鹿な……何故クローン風情が私に逆らう!!
 貴様等クローンは、全て私に絶対服従だった筈だ!!それが、何故!?如何して私に逆らう!!……一体如何言う事だぁぁぁ!!!!!」


む?……何やら荒れているようだが、若しかしてシュテルの登場が予想外だったのか?

だが、そうだとしても、明らかに驚き、狼狽し過ぎだぞクリザリッド?――貴様が其れほど戦慄するとは、其処までに凄まじい事だったのか?シュテルの登場は。


「馬鹿な……こんな事は有り得んぞ……こんな、クローンに別の人格が宿る等、そんな事は絶対に!!!!」


ふむ……如何やらのっぴきならない理由が有りそうだな?
ならば、其れを詳しく聞かせて貰おうか?――主なのはと私に倒された筈のお前が、どうして今また現れたのか、詳しく知っておきたい所なのでな。













魔法少女リリカルなのは~夜天のなのは~  夜天92
『星の復活と、愚者の終焉』












「クローンに人格が宿る事は無い……其れは確かに真理でしょう。現実に、私が此処に存在している事が奇跡に近いのですからね。
 ですが、高町なのはと剣騎士のタッグに敗れた私の魂は、霧散する事なく残り、そして高町なのはのクローン体に取り込まれ、今の状態になったようですね。
 復活できるとは思って居ませんでしたが、予期せずして訪れた2度目の生は、精々楽しむ事にしようと思います。」


成程、あの時主なのはと私とで砕いた貴様の魂が、主なのはのクローン体の1つに宿り、新たな個体となったと、つまりそう言う訳なのだろうな。
理論上は有り得ないと言いきれないが、現実でとなると相当な低確率でしか起きない事だろうに……その奇跡に立ち合えたというのは、とても幸運なのかもな。



「グゥゥゥ……まさか、こんな土壇場で計画が狂うとは……だが、次元世界の各地に配置したクローンを動かせば!!!」

「確かに何とかなるかも知れませんが、其れもまた無駄な事ですよ。」


各地に配置された、主なのはのクローンが一斉に稼働したとなれば、確かに脅威なのだが――シュテルが言う『無駄な事』とは一体如何言う事なのだろうか?
クローンの稼働が無駄なのか、或はそれ以前の問題なのか……まぁ、コイツ自体は既に詰んでる状態ではあるがな。


『く、クリザリッド隊長!!た、只今配置した、高町なのはのクローンが、次々と自ら頭を撃ち抜いて自殺行為を始めました!!
 此方の命令コードを一切受け付けずに次々と自殺を……あぁ!……我が部隊に配属された『高町なのは』は全滅…!馬鹿な、こんな事ってあり得るのか!?』



そう思って居たら、如何やら主なのはのクローンが暴走し、自ら命を絶つ事態が発生しているようだな?
兵器として利用するならば、自傷行為不可能の設定位はしてあると思うのだが、其れすら超えての自殺とは、到底見過ごす事は出来ないが――原因は一体……



「クローンが暴走して壊滅!?……何故こんな事が……!!!」

「……此処に来る前に、管制ルームのコンピュータを使って、各地のクローンと、培養中のクローンに対して、あるプログラムをインストールしただけに過ぎません。
 私が、クローンにインストールしたのは、動植物を問わず、全ての命が持つ自己崩壊因子『アポトーシス』の電子情報です。
 確固たる『私』という人格を持っている私には、此れは只の情報に過ぎませんが、己の意思は無く、与えられた命令を機械的にこなすクローンには果たして……」


シュテルが、何かやってくれのか。
よもや、聞いたとしかない自殺因子『アポトーシス』を利用するとは思っても居なかったな。

確かに、命令を忠実にこなすだけのクローンに、アポトーシスのインストールは劇薬だろう――『自殺しろ』との命令を受けたにも等しいのだからな………成程、それ
ならば、自ら命を絶つ行為をしたクローンと言うのも納得できるというモノだが、そんな方法で稼動しているクローンを始末するとはな……


加えて、まだ稼働にすら至っていないクローンは、其れをインストールされたその瞬間に崩壊を始める、か。


実に気分は悪いが、クローンは始末する心算で居たからな……直接手を下す必要がなくなった事には感謝すべきなのだろう――主殺しをせずに済んだのだから。


「貴様……クローン風情が、生意気な!!!!」

「喚くな下郎が。コイツは主なのはのクローンなどではなく、『シュテル』と言う確固たる『自分』をもった1人の人間だ。
 意思なきコピーと同じに扱うのは、無礼が過ぎるぞクリザリッド。」

「なにぃ!?」


シュテルの復活は、成程奇跡と言うより他に無いのだろうが、今のコイツからは敵意や闇の波動のような物は、マッタク持って感じ取る事は出来んのでな、特に敵対
する理由もなさそうだ。
元より、私達にとって今現在『倒すべき敵』は、貴様だけだがなクリザリッド。


「ん……うぅ……あ、アレ?此処は……私は…確か――

「お目覚めになりましたか、主なのは?」

加えて、主なのはがお目覚めになり、我等のチームは完全な状態を取り戻した。――其れでも、まだやるのか、クリザリッドよ?
ザフィーラとの戦いで、既に貴様は満身創痍な上に、頼みの綱のクローンは全滅し、援軍も期待できそうにはない。大人しく投降して、お縄に成るべきだと思うが?


「ふっふっふ、姉やんを兵器として利用しようとした腐れ悪党、アンタに残された道は2つに1つや!」

「ブッ飛ばされてお縄に成るか、お縄になってブッ飛ばされるか……さぁ、どっちにするのかしら?
 拒否した場合は、氷漬けになった後で燃やされて、全身ずぶ濡れの所に電撃って素晴らしいコースも待ってるけど、さて如何する?」

「投降などせん!!その選択も拒否する!!
 最早勝つ事が出来ぬと言うのならば、貴様等も纏めて道連れにしてくれる!精々瓦礫の中に埋もれるが良い!!!」


――カチッ!!!………ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


!!コイツ、苦し紛れに施設の自爆装置を作動させたのか!?
拙いぞ、此処は地下だから施設が崩れたら生き埋めになってしまう!!恐らく、施設の崩壊が始まったと言うならば、地上へのリフトも動かなくなって居る筈だ!!


「大丈夫!レイジングハート!!」

『私をMasterに返却願えますかシュテル?』

「……そう言えば返却して居ませんでしたね。はいどうぞ。」

「ありがとう。……って、シュテル!?若しかして、あの足音はシュテルだったの!?って言うか、復活したんだね!」

「はい、色々あって、復活できたようです。
 して、貴女は奴等の手駒になって良いような人物ではありませんので、救助させて頂きました。」

「そっか、復活したんだ……その辺は、後でゆっくり聞かせて貰うとして――行くよレイジングハート!!」

『All right.』


うむ、主なのはもシュテルの復活には驚いたようだが、一体何をする心算なのですか主なのは?


「出口がないなら作れば良いんだよシグナム。
 リフトのレールは閉じられちゃったけど、恐らくここは地上と地下の隔壁が下りただけだから、其れを吹き飛ばせば地上への直通トンネルが開通するからね。」

「……と、言う事はつまり?」

「地下の隔壁と、地上の隔壁を、私の砲撃で吹き飛ばすだけなの!!全力全壊、ディバイィィィィィィン……バスターァァァァァァァァァァァァ!!!

『Divine Buster.』


――ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!



成程『道がなければ作れば良い』と言うやつですね?マッタク、何時見ても惚れ惚れするような、実に見事な砲撃です。
だが、此れで地上への道は確保出来た。後は、奴を引っ張って行くだけだが、クロノ執務官殿!!


「ダメだ、僕達が出た瞬間に、部屋の入口は瓦礫に閉ざされてしまった。
 砲撃で瓦礫を吹き飛ばして奴を確保しようとすれば、僕達も危ない……此処は脱出を最優先だ。恐らくは、アイツもまた無事ではいないだろうからな………」


結果としては確保出来ず、か。
だが、この崩壊する施設から奴が逃げ果せる可能性はゼロだろう……本音を言うならば、この手で奴を断罪してやりたかったのだが、奴も此れで終わりという事か。

ある意味では、外道に相応しい末路だったのかも知れんな――精々、あの世で己の愚行を悔いると良い。其れがお前に残された、唯一の運命だろうからな。








――――――








Side:クリザリッド


クックック………ギリギリの、本当にギリギリのハッタリだったが、如何にか巧く行った様だ。
このスイッチはダミー、仮初の施設崩壊を起こしながらも、この部屋だけは崩れずに残り、内部の人間は全く持って無事で居られるのだ……何とか生き延びたか。

今回は失敗したが、幸い高町なのはの遺伝子データはまだ有るし、今回の件で、奴等の仲間のデータを取る事も出来た――それらを駆使すれば、もう一度――!


『……失敗したな、クリザリッドよ?』

「……今回はな。
 だが、次は失敗はない……データバンクに残っているデータと、今回新たに採取したデータを使えば――!!」

『無駄だ、各地のクローンは自害し、クローンの培養施設も、全て管理局に押さえられてしまった。新しいデータを持ってしても、今直ぐの再起は不可能だろう。
 なので、君には今回の失敗の責任を取って貰おうかクリザリッド………失敗は、其れ即ち『死』だ。』


な、そんな馬鹿な……!!



――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………



まさか、最初から最高評議会にとって、私は捨て駒に過ぎなかったと言うのか?………そんな、馬鹿な――


――グシャァァァァァァァァァァァァァァ!!!



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



「おぉ、気が付いたぞ!!奇跡的に生きていたらしい!!」

「おい、私の言う事が聞こえるか?聞こえたら、返事をしてくれ。」


?……此処は?――お前達は一体……誰だ?


「私達は時空管理局の者だ――お前、名前は何と言うんだ?」

「な……まえ?」

名前?……私の名前?………分からない。私は誰だ?――私は……一体、何者なのだ……?分からない……ありとあらゆる事、全てが分からない……私は――









――――――








Side:リンディ


クロノから連絡を受けて、現場に来たのだけど、此れはまた随分と派手にやったモノだわ。
報告では、なのはさんが地下から地上への通路を直射砲で強引に作ったとの事だったけど、実際に目にすると凄いわ此れ……ホント、稀有な才能だわなのはさん。

尤も、此れのおかげで現場に入る事が出来るのだけど――如何?何かあった?


「リンディ提督、瓦礫を撤去した先の部屋に、今回の事件の首謀者と思われる人物が倒れていました。」

「事件の首謀者?……其処に横たわっている男性かしら?」

「はい、既に致命傷を負っていたようで、数分前に死亡を確認しましたが、如何やら記憶を失っていたようです。」


記憶を?……という事は、生きていたとしても今回の事件に関しての有力な情報は得られない可能性の方が高かったという事ね……其れじゃあ仕方ないわ。
各員、可能な限りの証拠品を押収して頂戴。データバンクに残ってるデータから、通信履歴に至るまで、証拠になりそうなモノだったら何でも構わないから。


首謀者と思しき男の、記憶喪失と死亡……それを考えると、今回の件は此れで終わりとは思えないもの――或は、此れは始まりに過ぎないのかも知れないしね。


今回の件は、結果的には失敗だったのだから、直ぐに次を仕掛けて来るとは思わないけれど、私の勘が正しければ、今回の件の裏には『最高評議会』が関わってる
と見て、先ず間違いないでしょうね……。

此れは、出来るだけ早期に、嘗てレティやプレシアと一緒に画策していた『管理局の改革』に、もう一度本格的に乗り出す必要があるかも知れないわね………








――――――








Side:なのは


と、言う訳で、事件も一段落して、只今シュテルを交えて、家族会議中なの。
あの後、シュテルから色々聞かせて貰ったんだけど、私のクローンの1体に、シュテルの魂が宿って一個体の人になったなんて、正に奇跡としか言いようがないよ。


「……と、そう言う訳で、私はこうして存在して居る訳です。」

「う~~~む……なのはのクローンに、なのはをベースとしたプログラム生命体の魂が宿って、新たな命となるとは、何とも不思議な事もある物だとしか言えないね。
 どうしたモノか判断に迷うところなんだが、君は一体如何したいんだい、シュテル?」


で、シュテルが自分に起こった事をお父さん達に話して、さて如何しようと言う所だね。
今のシュテルからは、以前の様な『闇』は感じられないから、私としては此のまま『人』として生きて欲しいと思うんだけど……シュテルは如何したいの?


「私は――もし許されるのならば、人として生きてみたいと思って居ます。
 幸いにして、この身体は高町なのはの複製なので、私の魂との相性も良く、既に殆ど魂が肉体に固着して居ますので……私は、生きていても良いのでしょう?」

「勿論だよシュテル!!悪い筈がないの!!!」

寧ろ生きるべきだよ!!
貴女は、私のコピーを超えて、シュテルって言う1人の人間になったんだから、生きなきゃダメだよ?


「そうですか……ですが、そうなると生きる為の戸籍やら何やらが必要になるのですが……」

「あ、その辺は大丈夫よ?
 明日にでも、貴女はなのはの双子の妹としての戸籍が出来上がってる筈ですから♪」


……うん、大体予想はしていたけど、速攻で戸籍を作り上げるって、本気でお父さんとお母さんは行政に対して、ドレだけの権力を持ってるのか気になってくるかな。
だけど、シュテルが私の妹って言うのは、案外悪くないかもしれないね。


「双子の妹……という事は、なのはは私の姉となる訳ですね?……宜しくお願いしますね、姉さん。」


!!!……其れは不意打ちだよシュテル。だけど、此方こそ宜しくねシュテル。


「はい。……ですが、姉さんの妹ならば『シュテル』と言うのは少々オカシイ感じがしますね。
 元よりシュテルはマテリアルとしての私の識別名なので、姉さんの妹となるなら、私に新たな名を付けて頂けませんか?」


い、言われてみればそうかも知れないけど……此れは責任重大だね?
だけど、適当な名前を付ける訳にはいかないの……え~~と、私がなのはだから、其れの双子の妹となると……なたね。なたねって言うのは如何かな?


「なたね……良き名ですね、気に入りました。では、私は今日この時より『高町なたね』となったのですね?
 では、改めて宜しくお願いします……姉さん、父さんと母さん、兄さんと美由希姉さん、はやて姉さん、そして夜天の守護騎士……高町なたね、此処に誕生です。」


うん、改めて宜しくね、なたね♪

だけど、此れは週明けの月曜日、また私達のクラスは荒れそうだね~~~……まぁ、其れもまた通過儀礼として慣れるしかないだろうね。


其れから、なたねにもリンカーコアは有るから、デバイスは絶対必要になるだろうから、明日にでもグランツ博士に打診しておいた方が良いかもしれないなの。


何はともあれ、もう一度貴女と会えた事は嬉しい事だよ♪


「其れは私もですよ、姉さん。」


此れからは家族だから、遠慮しないで何でも言ってね?


マッタク持って、予想外だったけど、シュテルが――新たに『高町なたね』として、家族の一員になったって言う事は嬉しい事なの。

近い内に再戦の約束を果たさないとなんだけど、その再戦だって、前と違って純粋に己の魔導をぶつけあう『競技戦闘』になりそうだから、一切問題は無さそうだよ。



私のクローンが作られてた事は頭に来るけど、そのお蔭でなたねが存在出来た訳だから、その一点については感謝しないとだね。



ふふ、此れからは、更に賑やかで楽しい日々になりそうだね♪








――――――








Side:???


グランツにメールを送ったのは正解だったようだね……マッタク、此処まで見事な勝利を収めてくれるとは思わなかったよ……詰めの甘さが出たみたいだけどね。


だが、クローン体にマテリアルの魂が宿るとは、流石の私でも予想は出来なかった事態だったよ!
しかも、其れが高町なのはの双子の妹に成るとは、マッタクも持って、夜天の主様は、良い意味で私の予想を裏切ってくれるものだよ。


とは言え、あの老害共が此処で終わるとは思えない……此れは、出来るだけ早い内にグランツに連絡を取った方が良いかもしれないな。


彼と夜天の主ならば、或はあの老害共を完全に滅する事が出来るかも知れないからね。


ふぅ、こんな事なら、大学卒業時に君の誘いを受けておくべきだったなグランツ……君との共同研究の道を選んでいたら、私はもっと満ち足りていたのだろうね。


だが、過去は取り戻せないのだから、今の私達に出来る事をしなくてはね。


私の予想が正しければ、革命の時は8年後――夜天の主が19歳になったその時に、革命の炎が上がるのは間違いないだろう。
その時に備え、あらゆる事態を想定して動けるようにしておかねばな……あの老害共を、これ以上生かしておくなどと言う事は出来そうにないからね―――!!














 To Be Continued…