Side:なのは
まさか、落とし穴なんて言う古典的なトラップに引っ掛かるなんて、少し油断してたのかも知れないね。シグナム達とも分断されちゃったし。
尤も、穴から出るのが間に合わなかっただけで、飛ぶ事は普通に出来るから、奈落の底目掛けて真っ逆さまって事にはならずに、無事にゴールに到着出来ました。
結構降りて来たから、此処は多分地下室だと思うんだけど――
『Master.』
「如何したの、レイジングハート?」
『如何やらここは、トンでもない場所の様です……周囲をご覧ください。』
周囲って……え?えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?
こ、此れは……所狭しと設置された培養ポッドの中に居るのは……私!?ううん、此れが私のクローン……其れもこんなに!!
「流石に此れは、見ていて気分の良いモノじゃないね……」
『では、如何しましょう?』
あんまり気は進まないけど、此処の培養ポッドを全て破壊しようレイジングハート。
この私達は、多分まだ完成してないと思うから、培養ポッドが壊れたら生きて行く事は出来ないと思うんだ……『自分殺し』って言うのは、凄く嫌な気分だけどね……
『Master……』
「だけど、やらなきゃならない!
此れが全て完成して、兵器として利用されたら、そっちの方が私は後悔するから!!そんな思いをするくらいなら、いっそ此処でその芽を摘み取るだけなの!!」
――ブシュゥゥゥゥゥ!!!
へ?こ、此れはガス!?…しかも只のガスじゃなくて、此れは若しかしなくても『催眠ガス』……か、完全にやられた……私を此処に来させる事が相手の目的……
だ、ダメ……もう、耐えられないよ……
――ヒタ…ヒタ…ヒタ…
……え?足音?
「まさか、この様な形で貴女と再会するとは思いませんでした……」
誰?……凄く聞き覚えのある声なんだけど……逆光で顔が見えない。……それ以前に、催眠ガス…の効果で目が霞…んで……誰…だか、分から…ない…や……
魔法少女リリカルなのは~夜天のなのは~ 夜天91
『Vereiteln Sie den Chef』
Side:シグナム
ふぅ……大分奥まで進んできたが、まさか此処で行き止まりか?道は、此処で途絶えて居る上に、扉らしきものもないのだが…
「此処で行き止まりってのは考え辛いわよね?
幾らなのはを分断したって言っても、アタシ達を行き止まり程度で足止め出来る筈がないってのは、多分相手だって分かってると思うわ……って言う事は――!」
――ガクン!ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!
床が!!……此れは床そのものがリフトになっていたのか!
「やっぱり地下に通じるリフトになってたわね!!」
「ちゅー事は、着いた先で待っとるのは、黒幕!分かり易く言うならラスボス!!
つまりは、ソイツを倒せば万事問題なしで、姉やんも無事でいてくれるって言うことやな?……まぁ、場合によっては姉やんが既に倒しとる可能性もあるけどな…」
分断された主なのはが、単身黒幕の下に乗り込んで撃滅……確かに、あり得ないとは言い切れないな。
だが、その可能性は極めて低いだろう――態々分断したのだ、主なのはは、黒幕に辿り着けないルート上に分断された可能性の方が高い。と言うか間違いない。
其れでも、主なのはが如何にかなってしまうと言う事は、全く持って想像すら出来んのだがな。
何れにせよ、主なのはの複製を生み出し、其れをあまつさえ『兵器』として利用しようと画策した愚物には、相応の裁きを下してやらねば成るまい?
「分かり切った事言うなよシグナム……なのはを利用しようとした奴なんて、問答無用でぶっ潰すだけだ!!」
「うん……なのはちゃんを、兵器として利用するなんて、そんなの絶対に許せないからね!」
「デュランダルで、少し頭を冷やしてやった方が良いかもしれないな……」
いっその事、丸ごと氷漬けにして貰っても構いませんよ、クロノ執務官殿。
――ゴウゥゥゥン
そして、如何やらラストステージに到着したようだ……いざ、黒幕と対面だな。
――ウィーン……
ドアが開いて、その先の部屋に居たのは……褐色肌に銀髪、そして羽根飾りのついたロングコートを羽織った長身の男――コイツが黒幕なのだろうか?
「よくぞここまで来たな……いや、此処まで辿り着く事は、想定の範囲内だったがね。
だが、此処まで辿り着いてもらわねば、其れこそ困った事に成るところだった――最終データの採取が出来なくなってしまうからな。」
「貴様が、主なのはのクローンを作り出し、其れを兵器として使おうとしている外道か?
せめて名を名乗れ、外道と言えど、レヴァンティンの錆にしてやる以上は、名を知らぬと言うのは、存外気分が悪いモノだからな。」
「強気だな、ヴォルケンリッターの将?まぁ、良い。冥土の土産に聞かせてやる。我が名はクリザリッド。この世界を真の意味で統括・支配する者だ。」
クリザリッド……世界の統括と支配とは、随分思い切った事を言うな?
クローンとは言え、主なのはの力を配下に置けば、其れもまた夢物語ではないかもしれんが――貴様、最終データの採取とは、如何言う意味か説明して貰おうか?
「良いだろう。高町なのはのクローンは、確かによく出来たが、あのままでは『良く出来た人形』であり、大凡兵器としての役には立たん。
既に、この施設内での高町なのはの戦闘データは転送してあるが、其れだけではまだ足りんのだ……最後のピースである『トリガーデータ』を入力せねばな。」
「トリガーデータ?なんだ其れは?」
「ククク……トリガーデータとは『人を殺す』為のデータだ。
今、この場で貴様等を殺し、そのデータを私のボディスーツを通して、各地に配置したクローンに転送する……それで、私の目的は果たされる。
加えて、オリジナルの高町なのはも、我が手中に堕ちた――そう、此れからは兵器としての『高町なのは』を、そう、無限に作り出す事が出来るのだからなぁ!!」
狂っているとは思ったが、まさか此れまでとはな。
よもや、私達を殺し、そのデータを転送する事で、主なのはのクローンを兵器として稼働させようとは……最早、呆れ過ぎて怒る気にもならん。
怒る気にもならんが、だからと言って貴様を許すかと言われれば断じて否だがな。
良いだろう、貴様の言う『最終データの採取』とやらに付き合ってやる――だが、貴様がそのデータを手にする事は無いぞ?
「貴様は、今この場でレヴァンティンの錆となるのだからな。」
「私に勝つ気で居るのか?……身の程知らずが。
如何に守護騎士の将と言えど、貴様等如き、私からすればカビの生えた骨董品に過ぎん。所詮は滅びた古き時代の遺産に閉じこめられていた者達だからな。」
ほう、言ってくれるな?
ならば見せて貰おうか、お前の力とやらを。まさか、カビの生えた骨董品に一太刀入れられたりはしないのだろう?
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!シグナム、アンタ1人でやる心算!?」
「コイツ1人に全員で掛かる必要もないと思ってな――それとも、私では不安が残るかバニングス?」
「そ、そうじゃないけど!!」
「……お前は、先刻のゲームで主の操作する『キャラクター』として戦って居た時のダメージが残っているのではないか?」
「そう!アタシも其れを言いたかったのよザフィーラ!!
特にファイナルラウンドで喰らったあのダメージは相当だった筈よ!?しかも、常に先陣切って戦って、疲労だって溜まってるでしょうに!!」
「バニングスの言う通りだ……お前は少し休んで居ろシグナム。――コイツとは、私が戦おう!」
ザフィーラ?
確かに、ゲームで受けたダメージは残っているし、疲労は……まぁ、少しは溜まってはいるが、まだまだ大丈夫だ。選手を交代する程ではないのだが………
「そうかも知れんが、今のお前を戦わせて、万が一の事が有れば主が悲しむ上に、私もまた『守護獣』としての責務を果たせなかった事に成るのでな。
主を、そして仲間を護ってこその盾の守護獣。……先程の主の事もある故に、此処でお前に無理をさせる訳にはいかぬのだ……分かるだろう、シグナムよ……」
そう……だな。
先程、主なのはを落とし穴の罠から護れなかった事を、誰よりも悔やんでいるのは『守護獣』であるお前だった事に、もっと早く気付くべきだった――スマナイ。
ならば、私は此処は下がるとしよう。
――任せたぞザフィーラ。主なのはを、兵器として利用しようと考えている愚か者の誇大妄想を、夜天の守護獣の爪牙と拳脚で粉々に砕いてやれ!
「心得た……楯の守護獣ザフィーラ……いざ、参る!!」
「フン……犬風情が相手か。まぁ、トリガーデータを採取するならば、殺す相手は誰でも良いのだがな。
だが、粋がって出て来た事を後悔するが良い犬が。私の圧倒的な力を……目に焼き付けて、死ぬが良い。」
――ボウ!!
炎!!コイツも炎使いだったのか!!
紅蓮の炎で、纏って居たコートを燃やし、現れたのは………ちょっと待て。何と言うか、戦うのは良いんだが兎に角待て。
「貴様、一体何だその袖のない全身タイツ的なバトルスーツは!其れだけならばまだしも、何なんだその所々に張り付いている、プレート(?)のような物は!!」
「胸とか、腹とか、足のはまぁ良いとして、股間の其れは色々大問題や!!いや、服着てても何か卑猥やわ其れ!
デザイン主出てこい!!その、色んな意味で無駄にセクシーなバトルスーツについて、小一時間ほど問い詰めたるわ!!ホンマ脳味噌煮えとるんかアンタは!」
「問題ない、このバトルスーツこそがデータをリアルタイムで高町なのはのクローンに転送する物だからな。
其れと、股間の此れは……タイツだと流石にアレで目の毒だと思ったので、最大限の配慮として此処にデータ転送プレートをファールカップ代わりに配置してな…」
そんな配慮はしなくて良いから、寧ろさっきのコート姿のまま戦って欲しかったぞ……矢張り、誇大妄想の悪人のやる事は理解出来そうにないな。
――――――
Side:ザフィーラ
コイツの妙な戦闘服のせいで、何やら場が混沌として来たが、私のやる事は変わらぬ……貴様を倒す、其れだけだ。
「やってみろ、犬風情が。」
「犬ではない、狼だ。」
随分と己に自信があるようだが、犬狼を相手にする場合は相当に注意をした方が良いぞ?犬狼の爪牙は、容易く貴様の喉笛を噛み千切る事が出来る位に鋭く、そ
して強い上に、我が拳は、主や仲間に仇なす者の攻撃を受け切り、そして砕く守護の拳だからな。
「ならば、その守護の拳とやら、試してやろう……テュフォンレイジ!」
む……鋭い蹴りで、竜巻を起こすか……だが、そんなモノで私を止められると思うとは、盾の守護獣も甘く見られたモノだ。
その程度の攻撃、我が拳の敵ではない!!ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……烈鋼牙ぁ!!!
――ギュル……ドゴォォォォォォォォォォォォン!!
「な……テュフォンレイジを受け止め、其れを魔力弾に変換して打ち返して来ただと!?……やるじゃないか、犬の分際で!
だが、だからと言って、私に勝てるとは思わんがな……ムン!!!」
「そう言う事は、私を倒してから言う物だ……ぬぅうん!!!」
――ガシィ!!
今度は手四つの力比べか……中々に力も強いようだが、純粋なパワーと言う事を言うならば、ヴィータの方が断然強い!
そして、そのヴィータですら、純粋な腕力に限れば私には及ばない……つまり、お前では、力比べで私に勝つ事は出来ないと言う事……だ!!!
――ドゴォォォォォン!!
「手四つの力比べの末に、力任せに相手を地面に叩き付けるとか、初めて見たわ~~~。」
「見た目に違わず、ザフィーラさんは格闘戦が強いよね♪」
武器を使わぬ徒手空拳が、私の戦い方なのでな。
ともあれ、力比べで競り勝っただけでは終わらせぬ!……我等が主を、兵器として利用しようとした、その愚行を心の底から後悔しろ!!
――ベキィィィィ!!
「うわ、ワンハンドネックハンキングで持ち上げて、そのまま地面に叩き付けるブルドックプレスに繋げるとは……中々、見事な連続技を見せてくれるじゃない!」
「このまま一気に行っちゃえ!!」
無論だ……む?
「調子に乗るなよ犬が……どりゃぁぁぁ!!」
!!……私の腕を取り、カウンターの合気投げか!!
私の投げの勢いを利用したのだろうが、即座に此れを行うとは、流石に黒幕を名乗るだけあって、只の誇大妄想の阿呆ではないと言う事か……
「今度は此方の番だ……ぶっ潰れろぉぉぉぉぉぉ!!!」
――ゴォォォォォォォォォ……ドゴォォォォォン!!!
更に、投げられた私を空中キャッチして、其のまま壁に叩き付けるとは……此れは、流石に少し効いたぞ……!
だが、コイツの反撃が此れで終わる筈が―――
――ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!
ないか矢張り。
息つく暇もなく飛んで来たのは無数の拳………奴の連打である事は間違いないが、これ程の高速連射を可能にしているとは思わなかった。
此れだけの高速連射を、一般的な魔導師や騎士が喰らえば、確かに非常に拙いのかも知れないが……
「うりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
――ドゴォォォォォォォォン!!……ガシィ!!
私には通じぬ!
「ば、馬鹿な!!貴様、如何して私の『デスぺネトレーション・オーバードライブ』を喰らって平然として居られる!?
全ての拳が、的確に貴様に突き刺さった筈!其れなのに、何故無事で……其れも生きているのだ貴様は!!あり得ない、あり得ないぞこんな事!!!」
「我は盾の守護獣……例え、幾万の刃と矢をその身に受けようとも倒れる事は出来ぬ故、貴様の温い拳を何発浴びようとも、蚊に刺された程度も感じぬ。
尤も、威力だけは高かったので、受けた衝撃は大きいが……其れでも貴様の拳は軽い故、決定的なダメージにはならなかったという事だ!!」
「馬鹿な……一撃必殺の私の攻撃が、まるで無力だと!?」
相手が悪すぎたなクリザリッドよ……此れが貴様の言う『カビの生えた骨董品』の実力だ――貴様程度の使い手などは、戦乱期のベルカには幾らでも居た。
それこそ、掃いて捨てる位にな……貴様は、所詮相手との力量差を見極める事が出来なかった二流と言う事だクリザリッド!
そして、今の一撃が一撃必殺を謳うなど烏滸がましいにも程がある。
真の必殺とは、こう言う物だ!!ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……牙獣裂破ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
――バキ!ベキ!!ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!
「ブフオアァァァァァァァァァァァァァァァ!!……ば、馬鹿な……たった3発、たった3発の打撃のコンビネーションで……そんな、こんな事が……!!
「だが、此れが現実だ。
己が『カビの生えた骨董品』『犬風情』と言った相手にすら、貴様は勝つ事が出来なかったのだからな……」
「ふざけるな……私が負けた?認められるかそんなモノ!!
……だが、私が負けたところで高町なのはのクローンが稼働するのは止められないぞ……私が負けたその時は、この施設を爆破する事でトリガーデータの採取を
行い、別途用意した転送装置で、其れをクローンにインストールするのだからな!!
勝とうと負けようと、高町なのはのクローンを止める事など出来はしない!!精々、奴のクローンに怯え乍ら過ごすと良い……もしも生きて居れば、な!」
コイツは……!!
そのスイッチは、絶対に押させぬぞ!ぐぬ……間に合えぇぇぇぇえぇ!!!
――――――
Side:シグナム
コイツ、苦し紛れに自爆して目的を果たそうとは……何処までも迷惑な奴だ!!
如何にザフィーラでも、私達全員を無傷で護る事は不可能に近い!!……それ以前に、此処が吹き飛んでしまったら、主なのはも!!!!
――ドォォォォォォォォォォォォォン!!!
「がはぁ!?……な、何者だ!?」
だが、ボタンを押そうとする刹那、真紅の砲撃がクリザリッドを打ち据え、自爆その物を妨害してくれたのだが、今の砲撃は一体誰が放ったモノなのだろうか?
威力は、主なのはのディバインバスターと遜色ないが、其れだけの砲撃を撃てるだけの魔導師とは、一体何者なのだろうな……
――コツ、コツ、コツ……
足音?
「愚かだ愚かだと思って居ましたが、よもや此処までとは……呆れて物が言えません。」
誰だ?恐らくは、クリザリッドを攻撃した者なのだろうが―――って、現れたのは、主のバリアジャケットを白くしたバリアジャケットを纏い、主なのはを脇に抱えた、主
なのはに瓜二つの少女!?しかもその手にはレイジングハートが手に……何が一体どうなっている!?
「剣騎士……まぁ、彼方達が居たのは、ある意味で僥倖ですか。
其れよりもレイジングハート、真の主ではない私の願いを聞いてくれてありがとうございます……感謝して居ますよ。」
『お気になさらずに……私とて、Masterに仇なしたズべ公は、この手で引導を渡したいと思っていたので、全く持って無問題です!!!』
だが、この特徴的な話し方には覚えがある。
何処かで……そう、主なのはと共に倒した相手に似ているのだ……まさかとは思うが、お前は若しかして―――シュテル、なのか?
「その洞察力には敬意を表しましょう……如何にも私は星光の殲滅者ことシュテル……お久しぶりですね、皆さん」
当たりか……あの日で終わりだと思っていたのだが、よもや再びシュテルと邂逅する等と言う事は、全く持って考えても居なかったよ。
だが、クリザリッドを攻撃したと言う事は、少なくとも私達の敵ではない可能性が高い……主なのはの事もあるし、ここは少しばかり成り行きを見守るとするか………
一体何がどうなって、消えた筈のシュテルが、再び我等の前に現れたのか……考えても、答えは出そうにないな――
To Be Continued… 
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