Side:なのは
5年生に進級してあっと言う間に時が進んでソロソロゴールデンウィーク、私も11歳になって――そして、今日も今日とてリハビリの日々です。
「っしょ……よいしょ………はぁ……はぁ…ご、ゴール……」
「だ、大丈夫ですか主なのは!?」
だ、大丈夫だよシグナム……ちょっときつかったけど、此れ位は何ともないから――寧ろ、歩けるように成る為には此れ位のハードなリハビリは必須だよ。
なんせ、10年も動かなかった下半身を動かす訳だから、歩行訓練に筋力トレーニング……やる事はいっぱいあるんだからね。
「その通りよなのはちゃん。――まぁ、僅か5ヶ月ほどで、伝い歩きとは言え100m以上歩けるようになるとは思っても居なかったけれどね。」
「あ、石田先生!……それはまぁ、頑張りましたから♪」
「えぇ、よく頑張って居るわねなのはちゃんは。シグナムさん達のサポートも大きいのかもしれないけれどね。」
「我等は、我等に出来る事をしているだけですよ石田医師。
如何に我等がサポートしたところで、主なのはの意思がなければリハビリは続かないでしょう?――この回復は、主なのはの努力の現れですよ。」
だけど、皆のサポートがなかったら挫折してたかもだから、やっぱりシグナム達が居てくれた事は大きいよ?
勿論、何時も私を励ましてくれたお母さんとお父さん、お兄ちゃんとお姉ちゃんとはやてちゃんにアリサちゃん達にも感謝感激――私は環境に恵まれたよ♪
「なのはちゃんの努力は、医師の私から見ても目を見張る物がありますからね……この分だと、そろそろリハビリの最終段階に入れるかもしれないわね。」
リハビリの最終段階?
其れって何なんですか、石田先生?
「全長30kmをゴールまで徒歩で歩き切る、過酷なリハビリハイキング――其れをクリアすれば、なのはちゃんは車椅子とはおさらば出来るわ。」
全長30qのリハビリハイキング!!
確かに其れは過酷かも知れないけど、其れを乗り切った暁に、車椅子なしの生活があるなら――是非もありません、そのハイキングをやってみます!
「なのはちゃんならそう言うと思ったわ……其れなら、今度の大型連休に、其れに挑戦してみましょうか?」
はい、頑張ります!!
「我等も、出来る限りのサポートをいたしますよ、主なのは。」
うん、宜しくね♪
最大級にきついリハビリになるだろうけど、そのハイキングは必ずやり遂げて見せるよ!!
魔法少女リリカルなのは〜夜天のなのは〜 夜天84
『全長30kmの超ハイキング!』
で、あっという間にゴールデンウィークに入って、只今私は海鳴の郊外に来ています。
如何やら此処がスタート地点で、此処から30km先のゴールである海鳴大学病院を目指す過酷なリハビリハイキングが、いよいよ始まる…少し緊張なの。
流石に一日で走破出来る筈もないから、寝袋と缶詰なんかの食糧を持っての、一大ハイキングだよ此れ。
因みに、不測の事態を考慮して、補助が付く事になってて――えっと、ゴールまで宜しくねお姉ちゃん、シグナム?
「任せなさいなのは♪大事な妹の大一番に、出来るだけの手助けをしない姉は居ないでしょう?
歩行の手伝いとかはしないけど、ご飯や簡易テントの用意はちゃんとするから、頼りにしなさいな♪」
「無論です。
無用な手出しはしませんが、貴女が道中無事に進めるように、尽力させて頂きますよ――貴女なら、此の過酷なハイキングをも熟せると信じています。」
「うん、ありがとうお姉ちゃん、シグナム!なら、其れには応えないとだね♪」
半分人間辞めてるお姉ちゃんと、最強の筆頭騎士様がサポーターに居てくれるなんて、これ以上に安心できることは無いの♪
「半分人間辞めてるって、何か微妙な感じよね?
って言うか、私で半分なら私よりも強い恭ちゃんは一体如何なる訳?参考までに聞かせてくれないかしら、なのは?」
「お兄ちゃんは完全に人間辞めてますから。」
「恭ちゃん、人間外生物説!?」
純粋な剣術のみとは言え、シグナムと数十合打ち合って、息一つ乱れない時点で充分人間じゃないよお兄ちゃんは?って言うか、普通あり得ないからね。
加えて、ザフィーラと手四つで力比べしても、最終的には負けると言っても5分以上は膠着状態が続く訳だし、さて此れが純然たる人間だと言いますか?
「言わない。絶対言わない。
でもそうなると、シグナムと押され気味でも打ち合える私は半分人間辞めてる評価になる訳か〜〜……果たして喜ぶべきか、凹むべきか悩むわね。」
一応褒めてるんだよ?ねぇ、シグナム?
「えぇ、魔法なしとは言え、私と真面に打ち合える剣士が此の世界に居るとは思っても居ませんでしたからね。そう言う意味では嬉しい誤算でしたよ。
もっと言うならば、美由希殿も恭也殿も、主なのは同様に成長が非常に速いので、私も追い抜かれぬように己を鍛える事が出来ていますから、そう言う
意味では、御二人の存在は、私にとってもプラスであるのかも知れませんね。
特に、二刀流での戦闘に於いては、私が御二人から学ぶ事も多いので。」
「そう言う事なら……まぁ、素直に喜んでおくわ。
――さてと、出発前に日程の確認をしておくけど、此のハイキングの予定は5日で30kmを走破する――詰まり、1日6km歩く事になる訳なんだけど、此れ
は結構過酷な日程よ?私なら、1日で6kmを歩くのは難しくないけど、今のなのはには相当にハードな運動になるわ……今更だけど、大丈夫なの?」
確かにキツイかもしれないけど、だからって止める気はないよお姉ちゃん。
其れに、どんなにキツクても、私なら出来るって思ったから石田先生だってこのリハビリハイキングを提案して来たんだと思うの……だから、大丈夫だよ!
「そう言うと思ったわよ、なのはならね。
ならこれ以上は何も言わないわ、ゴールを目指して!」
「ゴールを目指して……」
「ゴールを目指して――頑張って!」
「「「行きまっしょい!!!」」」
さて、世界で最も過酷で遣り甲斐のあるハイキングのスタートだよ!!
――――――
Side:シグナム
と言う訳で、始まったリハビリハイキングだが、石田医師も中々に人が悪いな?
効果的と言う事なんだろうが、このコースは海岸沿いのカーブと、緩やかなアップダウンの多い国道を通って、最後に海鳴大学病院への坂道とはな………
主なのはが諦めると言う事だけは絶対に無いだろうが、此れは流石にキツイと言わざるを得ない。
恐らくは、道中何度も主なのはの大変な姿を見る事になるだろうが、手出しは厳禁だ――もしも其処で不必要な手助けをしてしまったら、此れまでの主の
努力は無になってしまうのだから……今回ばかりは、只見守る事が騎士としての務めだろう。
……尤も、足の不自由な主なのはに対して、よからん事をする輩が現れたその時は、問答無用で撃滅するがな。
私も美由希殿も、その場合を考えて木刀を一振りずつ持って来ている……主なのはは、魔法の力を借りないようにとレイジングハートを置いて来たから、
もしもの場合には自らの身を守る術がない故、我等が頑張らねばな。
それにしても――
「歩き始めて、ドレくらい経ちましたか美由希殿?」
「ソロソロ2時間半ね……距離にして、大体2kmって所かな?
健常者だったらノロノロペースだけど、なのはの足の事を考えたら寧ろハイペースって言っても過言じゃないかもしれないわよ?
杖を突きながらとは言え、此れだけの距離を歩くなんて相当にきつい筈だけど、なのはは止まる心算は無いみたい……マダマダ休憩は無しみたいね。」
もうそんなに経って居たのか……ゆっくりと、一歩ずつではあるが、確実に前に進んでいるからな主なのはは。
1日のノルマの1/3とは言え、主なのはにとって此れだけの距離を歩くのはドレだけ大変な事なのだろうか……其れは、我等には想像出来ない事だ。
恐らく、このリハビリハイキングの苦痛は想像を絶するモノだろうが、始まったばかりと言え、主なのはは苦悶の声すら漏らさない――強いお方だ。
本日のノルマの1/3を熟しましたが、如何ですか主なのは?何処か身体の御加減の悪いところなどは………
「はぁ……はぁ……大丈夫だよシグナム………流石に、少しきついけど、大丈夫。
それに……きついのは確かだけど、私は今、物凄く充実してる気分なんだよ……魔法を使わないで歩く事が出来る……それが、凄く嬉しいんだ……
正直な事言うとね、凄くきついから休もうとも思ったんだけど、だけど私はもっと歩きたい……もっと自分自身の力だけでこの大地を踏みしめたいんだよ。」
「主なのは……ならば、私が言う事は何も有りません。歩けるだけ、歩きましょう。無理のない範囲で。」
「そうそう、無理だけは厳禁だからね?
無理して、無茶して、その結果元も子もなくなったら意味ない訳だし、6km歩き切ったら、其処で強制終了するからね?」
「にゃはは……それはまぁ、しょうがないかな?
やり過ぎて効果が無くなったら意味ないし……無理して取り返しのつかない事態になったら、石田先生にも顔向けできないもん。」
左様ですか……ならば是非もない、歩けるだけ歩きましょう。
ですが、歩く事だけに集中せずに、周りの景色に目を向けてみてはいかがでしょう?春から夏に変わろうとしている季節の変わり目は、中々に美しい。
「言われてみれば、新緑の季節に入ったんだよね。
右手に青い海で、左手に新緑……此れを見ながらって言うだけでも、癒しになるかも知れないね?……このハイキングが、より良い物になりそうだよ♪」
「なれば僥倖。」
さて、話しているうちに3qを走破しました、今日のノルマの半分を達成しましたから、今日はあと3qです――頑張っていきましょう。
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そして、ハイキングが始まって4日が経過した。主なのはは、確りと毎日6kmを歩き、今のところは順調に進んで来ているらしいな。
まぁ、其れも美由希殿が1日の終わりに作ってくれる夕餉が主なのはの体力回復に一役買って居る訳だが――昨日のカレーは本当に美味だったからな。
今日も今日とて、既に4km歩いているから、1日のノルマは達成できるだろうが――
「私の妹に手を出すとは、良い度胸してるわね彼方達……」
「我が主に手を出したその蛮行に対する罰は貴様等の身体で払ってもらおうか?……まぁ、返答を聞く気など更々ないがな!」
最大に危惧して居た事態――主なのはが、不埒な輩に襲われたのだ。
そろそろ水分補給が必要だろうと、スポーツ飲料を買いに行った隙に、不埒な輩が来たらしい――もしも、後一寸到着が遅かったらと思うとゾッとするな。
幸いと言うか何と言うか、主なのははシャツの肩口の辺りを破かれただけで大事には居たらなったようだが……我が主に手を出した事に対する代価を払う
覚悟は出来ているな?………と言うか、主なのはに手を出した時点で、貴様等は滅殺確定だ!!
「私の妹に手を出した……覚悟は良いわね?」
「貴様等に慈悲は無い……Sterben!(死ね!)」
まぁ、本当には殺さずに、地獄のような体験をして貰うだけだがな――精々、己の行為の愚かさを知ると良いさ。
――主なのはを襲った馬鹿を、美由希殿と粛清中故に少しだけ待っていてくれ。
「Es wird das Aufwarmen auch nicht……Ein Grunschnabel.(準備運動にもならんな……雑魚が。)」
「If I challenge us put on the suitable power.(私達に挑むなら、相応の力を身に付けてからにしてほしいわ。)」
「「「「「にゅきゅ〜〜〜〜ん………」」」」」」
そして、危なげなく撃滅だ――所詮は粋がっているだけのチンピラ如き相手にもならないさ。
時に、御無事ですか主なのは!!御怪我などは?
「シャツの肩口が破れて、其れと軽い擦り傷がある以外は大丈夫だよ――だけど、杖が折れちゃったのは、流石にきついかなぁ?
幾ら何でも、杖なしで此れを歩き切るのは……」
ならば此れを使ってください、主なのは。
木刀ならば杖の代わりにもなりますし、強度は杖よりも高いですからね?残り僅かであるとは言え、貴女の支えになってくれる筈ですよ。
「其れは……だけどそうなるとシグナムの武器がなくなっちゃうよ?」
「心配無用ですよ主なのは。
あの程度のチンピラが相手ならば、無手でも充分に対処する事が出来ますから、木刀を貴女に献上したところで、大した事にはなりませんよ。
大体にして、私も美由希殿も、主のゴールを信じていますからね……其れの足しになるならば、己の武器とて喜んで差し出します――其れが忠義です。」
「そっか……じゃあ、有り難くこの木刀は使わせて貰うね?
よし、余計な邪魔が入ったけど、その分頑張らないとだね!!今日のノルマは、残り1km!そして、其れが終われば明日はいよいよ……」
ハイキングの最終コースになります。
其れだけに、きついでしょうが、貴女ならきっとやり遂げるでしょう主なのは?――ならば最後の一頑張りと行きましょう、ゴールはもう目の前ですよ。
――――――
Side:なのは
リハビリハイキング5日目……つまり最終日……漸く、此処まで来たね?この坂を上り切れば、ゴールの海鳴大学病院だからね。
道中色々あったけど、私が今こうして最終関門に挑む事が出来るのは、お姉ちゃんとシグナムのサポートがあったからこそだよ……多分一人じゃ此処まで
来る事なんて出来なかったと思う――昨日みたいな事が有れば、尚の事ね。
だから、ありがとうお姉ちゃん、シグナム。
「何言ってるの……当然の事をしたまでよ。」
「その通りです。
其れに、まだハイキングは終わっていません――礼の言葉を言うには、些か早いですよ。」
其れも、そうだね?
確かに、此の坂道を登り切ってゴールしないと、やり遂げた事にはならないモン――可成りきついかもしれないけど、最後の関門だって突破してやるの!
って、そう思ってたんだけど、此れは予想以上にキツイ坂だね――ゴッソリと体力を持って行かれたの……普通なら大した事ないのかもしれないけどね。
だけど、だけどこんな所でくじける事なんて出来ないの!!
もう少し……もう少しで……病院の門に――辿り着いた……ん?
「姉やん!!こっちや、こっちがゴールやで!!」
「アンタならやり切ると思ってたわ!!さぁ、最後の一踏ん張りよ!!」
「最後の頑張りだよなのはちゃん!!」
アレは……はやてちゃんとアリサちゃんとすずかちゃん!?
ううん、其れだけじゃなくお父さんとお母さんにお兄ちゃん、シグナム以外の騎士の皆に、グランツ研究所の人達とテスタロッサ家の皆さんと、石田先生を初
めとした海鳴大学病院のスタッフの人達!!――若しかして、私のゴールを待っていてくれたの!?
しかも態々『祝・ハイキング達成』の横断幕と、ゴールテープまで用意して……なら、此処はもうラストスパートなの!!
――ダッ!!
正直な事を言うなら、もう足は棒みたいだし、今直ぐにでも止めてしまいたい……だけど、此処で止めたら私は絶対に後悔するだけだもん!
だったら、辛くても最後までやり切らないと、私は私を許せない!!だから――
「はぁ……はぁ……ゴール……!!」
やり切ったよ私は……全長30kmを歩き切ってやったの!!――頑張ったよ、私。
「うん、うん……凄いで姉やん……アカン……涙止まらへんわ……」
「良くやり切ったわなのは……貴女は、私の自慢の娘よ。そして、美由希とシグナムもお疲れ様……」
――ぎゅ
にゃはは……こうしてお母さんに抱きしめられるなんて何時ぶりかな?……少し恥ずかしいけど、今は良いよね?
「お疲れ様なのはちゃん。此の過酷なリハビリハイキングをよくやり遂げたわ。
今は疲れているだろうからゆっくり休んだ方が良いけど、このリハビリハイキングを熟した事で、貴女の足の筋肉と神経は相当に回復して強くなった筈。
流石に歩行の際には杖は要るけど、もう車椅子は必要ないわ……貴女は此れから自分の足で歩く事が出来る――頑張ったわね、なのはちゃん。」
石田先生………はい、頑張りました!
「なのはーーーーー!!スゲェ、スゲェよなのは!!」
「ヴィータちゃん……うん、頑張ったモン♪」
だけど1人だったら絶対に無しえなかった事だからね此れは――この結果は、皆が居たからこその結果だと思うの。ありがとう、皆♪
で、翌日なんだけど――
「まさか、小さな市街地での出来事が一面を飾るとはね……」
「カメラのフラッシュが異様に多いと思ったが、マスコミ関係者が押し寄せていたのか……」
朝刊には『絶望を乗り越えた奇跡の少女』の見出しと共に、ゴールした瞬間の写真がデカデカと一面に!!……あうぅぅ…此れは流石に恥ずかしいよぉ…
学校に行ったら間違いなく質問攻めにあうだろうし……此れはもう、覚悟を決めておくべきだね。
面倒な事後処理が残っちゃたけど、此れで車椅子を卒業できた訳だから、今は其れを素直に喜ばなくちゃ罰が当たるって言うモノだよね♪
だけど、取り敢えず、あの過酷なリハビリハイキングを熟した甲斐はあったみたいなの――きつかったけどやって良かったよ♪
To Be Continued… 
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