Side:なのは


桜舞い散る4月、晴れて私達は5年生に進級しました♪
今年も、はやてちゃんとアリサちゃんとすずかちゃんとは同じクラスで、フェイトちゃんとヴィータちゃんも今年もまた同じクラスに成れたのは嬉しい事だね。


「うおぉぉぉぉぉぉ!今年は、高町達と同じクラスか!!何て運が良いんだ俺は……神よ、貴方に感謝します!」

「海聖美少女6人衆と同じクラスか……燃えて来たぜ!!」

「なの×はや、なの×アリ、なの×すず、なの×ヴィ、なの×フェイ……カップリングはより取り見取りね……ジュルリ……」



えっと……何かクラスが騒がしいような………って言うか、何となく危ない思考の持ち主が居る気がしてならないんだけど、アレは如何したモノかな?


「全力で無視すんのが妥当な所じゃねぇか?
 あのヤバめの思考は、アイゼンでぶっ叩いた所で治るとは思えねぇし、下手したらぶっ叩いた衝撃で更に悪化しかねねぇだろ?」

「てか、小学生の分際で何を妄想してんのやら……事と次第によっては、全力で燃やした方が良いかもしれないわね……勿論、手加減無しの方向で!」


にゃはは……やっぱりそうなるんだね?
まぁ、私としても勝手に彼是妄想されるのは良い気分じゃないし、私の相手はシグナムただ一人な訳だからね……事と次第によっては全力全開なの。


『不埒な輩は撃滅推奨ですよMaster.
 寧ろ、MasterやMasterの友人を己の欲望を満たす妄想の題材にする輩など、Starlight Breakerで吹き飛ばすべきです。寧ろそうするべきですよ。』



其れは流石にアレだよレイジングハート、スターライトブレイカーかましたら、学校そのものが吹っ飛んじゃうから使う事は出来ないよ。


『其れは残念。』


レイジングハートも相変わらずだね。
……そう言えば、そのシグナムだけど、最近何か考えてたみたいだけど、如何かしたのかな?
何か悩んでるって言う感じでもなかったから、特に聞きはしなかったんだけど――何をあんなに真剣に考えていたんだろうね?













魔法少女リリカルなのは〜夜天のなのは〜  夜天83
『トップパティシエ・烈火の将』












Side:シグナム


ふむ……シュー生地はクッキー生地と二層にすればボックス型で作る事も出来るが、生地の配分を考えないと独特のサクサク感を維持する事は難しいか
も知れんな?だからと言って、クッキー生地を薄くすると、ボックス型が崩れかねない……うぅむ、中々に難しいな此れは。


「シグナム、如何したのうんうん唸って?」

「桃子殿……いえ、僭越ながら、翠屋の新メニューを考えて居まして、其れで少し煮詰まってしまったのですよ。」

「新メニューを?参考までにどんな物か聞かせて貰って良いかしら?」


勿論。
翠屋の看板メニューであるシュークリームのアレンジなのですが、シュー生地をボックス型に成型して、其処に生クリームとフルーツ類を盛り込んだら、タル
トとはまた違った食感の新しいスウィーツになると思ったのですが、シュー生地をボックス型にする良い方法が、中々思いつかなくて……


「成程、確かに其れは美味しそうだし、タルトとも違った食感のスウィーツになるわね。
 でも、シュー生地を四角いボックス型に成型するのは簡単じゃないわ……四角い型に流し込んでも、形を維持するのは難しいでしょうし……」


なにか、骨組みになるようなものでもあれば、其れほど難しくないと思うのですが……


「骨組?……骨組………そうだわ、閃いた!
 あらかじめ、ボックス型のクッキー生地を作っておいて、其れの表面にシュー生地を塗った上で焼いたら如何かしら?
 クッキーならシューよりも堅さがあるし、シューとクッキーの二層の歯応えも楽しめるし、案外行けるかも知れないわよ?」

「其れだ!流石は桃子殿……その発想の多様性は、見習うべきモノですね。」

「あらあら、そうでもないわよ?」


御謙遜を……では、早速その方向で試作品を作ってみたいのですが、宜しいでしょうか?


「全然OKよ♪
 シグナムの料理の腕は確かだし、貴女は今や翠屋にはなくてはならないパティシエールになりつつあるんだから、自信を持って作ってみると良いわよ♪」

「身に余る光栄なお言葉ですね。私が此処まで上達できたのも、貴女の指導が良かったからですよ桃子殿。
 まぁ、守護騎士と化す前から、日常的に料理はしていたので其れなりに得意であったと言う部分は否定しませんが……」

「下地があればこそ、伸びるモノなのよ?
 逆に下地も才能もないと、何をどうやっても伸びない物もあるでしょう?……こう言ったらアレだけど、シャマルの料理の腕は……ね?」


アレは最早、救済不可能な代物ではないでしょうか?普通、電子レンジで温めるだけのピザを失敗する者など居ないと思いますよ?
シャマルは料理下手のレベルでは済まないでしょう普通に……と、言うか桃子殿の指導の下であっても全く改善がみられない時点でダメな事確定です。
序に言うならば、リンディ提督の特殊な味覚も矯正は不可能でしょう。


「そうなのよね?
 まぁ、其れは其れとして、シグナムが翠屋に無くてはならない存在だって言うのは本当の事なのよ?
 パティシエールとしても、ウェイトレスとしても、貴女は此れまで翠屋で雇ったどんなアルバイトの子達よりも優秀――ううん、そんな言葉じゃ片付けられな
 い位に、翠屋のスタッフとして活躍してくれているのよ?
 シグナムは真面目で、だけど咄嗟の事に対処できる機転も効く、だから私は貴女を買ってるの。……いっそ、翠屋の2代目になってみる?」


其れは、魅力的なお誘いですが、其れは主なのはが継がれるのではないでしょうか?
主の足は直に良くなるし、そうなれば此れまで以上に色んな事が出来るようになるので、翠屋の2代目だって見事にこなしてくれる筈ですよ?
勿論、主なのはの意思が一番大事ではある事なのですけれども。


「小さい時は、後を継ぐって言う事も言ってた事が有ったんだけど、今や完全に『魔法少女』になっちゃってるから、そっち関係に進むんじゃないかってね?
 其れこそ、時空管理局とやらに就職する可能性だってあるでしょう?」

「……その可能性だけは有りませんよ桃子殿。」

「あら?そうなの?」


リンディ提督や、この間の公聴会で声を上げたナカジマ殿の様な御仁は居ますが、魔法技術のある世界に於いて『闇の書』のアレルギーは、今も未だ残っ
ていますし、逆に『夜天の主』の名を利用しようとする輩が居ないとも限らないでしょう?

其れに夜天の力は極めて強力極まりない物です。
主の力に加えて、我等守護騎士が集えば、冗談抜きで世界を敵に回しても互角に戦う事が可能となるのですよ?其れだけの戦力が、特定の組織に居た
ら如何なるか……間違いなく、所属する組織に勝利を齎してしまうでしょう。

主なのはも其れを理解して居るので、管理局の正規局員となる事は無いでしょう。まぁ、リンディ提督と個人的な付き合いでの『嘱託』程度は有りですが。
尤も、プロフェッサー・グランツが魔法的な組織を起ち上げたその場合には、力を貸すかもしれませんけれどね。


「成程ねぇ……アニメや漫画と違って、魔法少女って意外とシビアな世界なのねぇ。」

「ですが、主なのはもはやて嬢も、そしてバニングス達も、自らその世界に足を踏み入れて今を生きています――本当に強い子達ですよ。
 そして、その姿を見るたびに、私もまた守護騎士としての務めを果たさねばと思いますよ。」

「ふふ……此れだけの騎士様が居るなんて、凄いわねなのは♪
 ともあれ、新作スウィーツは期待してるわよシグナム?出来が良かったら、お店のメニューに追加するからね?」


店頭に並べられるように精進しますよ。箱の形が出来て来た事で、更にイメージも広がりましたからね。早速、試作品の製作に取り掛かってみますよ。








――――――








Side:なのは


ふぃ〜〜〜……今日も一日お疲れ様なの。5年生になったら、益々男子のアプローチが激しくなってきた気がするの。
参考までに、今日受けた告白の回数と、ラブレターの枚数は皆どれ位かなぁ?


「告白3人、ラブレター13通やで姉やん……」

「告白5人、ラブレター8通ね。」

「告白1人、ラブレター16通……」

「告白4人、ラブレター11通だ………ったく、うざってぇ!!!」

「えっと、告白5人、ラブレター10通かな?……これ程までとは吃驚だよ。
 因みに、なのははどれくらいだったの?」


告白3人、ラブレターは……明らかに靴箱に入りきらない量がドサドサと落ちて来たよ――私は、シグナムって言う心に決めた人が居るんだけどなぁ…?
だけど、そんな事言ったところで分かって貰えないだろうし……小学校卒業までは丁重にお断りしていくしかなさそうだね。

うん、其れは其れとして思考の外に捨てとこうか。
取り敢えずは、放課後の恒例と化してる翠屋でのお茶でしょ?フェイトちゃん、アリシアちゃんは来れそう?


「ちょっと無理みたい。
 やっぱり中学校と小学校じゃ、授業時間や時間割が違うから、今までみたいにはいかないかも――『お土産宜しく』だってさ。」


アリシアちゃんは一緒じゃないんだ……ちょっと残念だけど、仕方ないね。




で、話してる間に翠屋到着〜〜♪


「「「ただいま〜〜〜〜〜♪」」」

「「「おじゃまします♪」」」


「は〜〜い、いらっしゃい♪何時もの席、空いてるわよ。」


うん、ありがとうお母さん♪


「「それでは、席までご案内します、こちらへどうぞ。」」


リインフォースとナハトヴァールも、ウェイトレスが大分板について来たね?初めの頃の堅さが大分なくなって来たよ。


「光栄です……して、飲み物は如何なされますかマイスターなのは?」

「私は、ビターのカフェオレで。」

「あ、私も姉やんと一緒で。」

「アタシは、ミルクココアかな。」

「アタシは、アイスレモンティーで。」

「私は……抹茶ラテを。」

「私は、アイスコーヒーのミルクなしで。」



「はい、ご注文を承りました。」


其れに、自然な笑顔が出て来るようになったからね――貴女達を解放する事が出来て、本当に良かったって心の底から思えるよ。
些細な事かも知れないけど、何気ない日常を過ごす事が出来るって言うのは、ある意味でこの上ない幸福な事であるのかも知れないからね?


「些細だからこそ、大事な事なんじゃないかしら?
 そんな、些細な幸せを護る為にアタシ達は居る――そうでしょう、夜天の主様?」

「そうだね……その通りだよアリサちゃん♪」

だからこそ迷わない……私は、夜天の主としての責務を全うするだけだからね。



「お待ちどう様でした。」



なんて事を考えてる内に、全員分の飲み物と、本日のおやつが登場!
しかも、シグナムが持って来てくれるなんて、予想外のサプライズだったよ……似合ってるね、その矢絣袴。


「お褒めに預かり光栄です。
 本日の一品は、試作品ではありますが、翠屋の新メニューになるかも知れない物です、是非ともご賞味ください。」


新作……ボックス型のシューに、クリームとかチョコレートとかフルーツが詰まった一品、此れは確かに新しいかもしれないね?
見た目だけでも美味しそうなのは間違いないけど……では、いただきます!!



――サクッ!サクサク―――………パリィィィィィィィィン!!



こ、此れは……凄く美味しいよシグナム!
クッキーとシューの二層の箱に、クリームやフルーツを詰め込んだ此れは、実に見事な味なの!食感も心地よくて、とっても美味しいの♪
其れに、クッキー生地もプレーンとココアに分けて、夫々に違った詰め物をして、正に『美味さのビックバン』とはこの事だよ!此れは商品化必須だと思う!


「其れじゃあメニューに追加ね♪」


のわぁぁぁああ!?お、お母さん!?一体何処から現れたんですか!?……お母さんの隠密能力って、若しかしなくてもお兄ちゃんを超えてるかもだよ。
だけど、メニューに追加って……此れはお母さんが作ったんじゃないの?


「違うわよ〜?此れを作ったのはシグナムなの♪
 多少のアドバイスはしたけど、最終的に完成させたのはシグナムよ?」


ほええぇぇ!?こ、此れはシグナムが作ったの!?
凄いよ!言われなかったら分からないよ!!てっきりお母さんが作ったのだとばかり思ったの……お母さんに追いつくとは、凄すぎるよシグナム!!!


「こう見えて、色々頑張りましたので。
 ですが、私の考案した新作が御口に有って良かったですよ――試行錯誤した甲斐がありました。」


試行錯誤……確かにその甲斐はあったかもしれないよ。この味はお母さんのシュークリームに負けるとも劣らない感じだからね♪
寧ろ、シュークリームじゃ絶対に味わえないこの異なるサクサク感は、正に大食感のスウィーツだよ!此れは、翠屋の新しい定番になるかも知れないの♪


「客の反応次第ですがね……新しい定番となれるように、頑張りますよ。」

「うん、頑張ってねシグナム♪」

思っても居なかった、シグナムの新作スウィーツ、本当に美味しかったの♪
此れからも、翠屋の押しも押されぬエースウェイトレス兼パティシエールとしての活躍を期待してるからね♪








――――――








Side:シグナム


ふぅ……今日も一日ご苦労様と言う所だな。
翠屋の営業が終わり、皆で夕食を済ませ、風呂を貰って、気が付けばあっと言う間に22:00を過ぎてしまったか……まぁ、忙しくとも充実した日々だがな。

そして、此れも最早日課になって居るが、風呂上がりに2階のバルコニーから夜空と夜の海鳴の街並みを眺めるのも密かな楽しみだったりする。

「今宵は、いらしていましたか主なのは。」

「良い月夜だし、折角だからね。」


こうして、主なのはも時々バルコニーに出て来てくれる――今日はまた最高のタイミングであったかな?
夜空には雲一つなく、星が瞬き、見事な満月が夜天を照らしているからな……正しく、主なのはの為に演出された世界と錯覚してしまうくらいだ。


「うん……本当にきれいだよ…本当にね。
 特に今晩は、特別『月が綺麗ですね』、シグナム?」


!!!?そ、そのフレーズは……不意打ちすぎますよ主なのは。
ですが、其れには応えましょう。

「此れだけの月夜を貴女と共に出来たのならば、私はもう『死んでも良いわ』。」

「……あう///……其れって本心?」


当然です!
例え1000年経とうとも、私の貴女への忠義と愛は変わりません。――烈火の将は、何があっても夜天の主と共に在る……其れだけは間違いありません。

この身が朽ちるその時まで、一緒ですよ主なのは。

貴女以上の夜天の主は、きっと存在し得ない……貴女の騎士に成れたと言う事を心の底から誇りに思いますよ。














 To Be Continued…