Side:なのは
季節は春、4月からは私達も進級して5年生!――準最高学年になる訳だから、その辺の自覚を持ってないとだよね。
加えて、アレ以降大きな事件やら何やらは起きていないから、平和そのものなんだけど、其れで居て、今日は何の用ですかアリアさん、ロッテさん?
「近々、お父様が『闇の書の彼是』に関する事を纏めた、公聴会を開く予定なのよ。
その中でね、貴女達の事を『闇の書の呪いを砕いた英雄』として、そして『今代の夜天の主とその仲間』として発表する心算なの。出来れば、黙ってい
たい事ではあったんだけど、局の内部から『闇の書はどうなった?』って言う意見が多くてね……其れを何とかする為にって言う訳よ。」
そうなんですか……と言う事は、私達もその公聴会に出るようにと言う事を言いに来たって言う事ですよね?
「分かり易く言えばそう成るね?と言うかだな、アンタの決意を勝手な事言ってる連中にガツンとぶつけてやって欲しいのさ。
まだ幼い少女が、覚悟を決めて夜天の主となったと言う事を示せば、誰も何も言えやしないさ――それが闇の書の呪いを砕いた者なら尚更ね。
もっと言うなら、此の公聴会が闇の書に本当の意味での終焉を齎す事になるかも知れないんだ――協力してくれるかな高町?」
是非もありませんよアリアさん。
そう言う事なら喜んで行かせて貰います!―――えっと、シグナム達も連れて行っていいんですよね?
「勿論だよ――寧ろ来てくださいってレベルだからね。
だけど高町、多分会場には、闇の書に恨みつらみのある連中も来てる――そいつ等の罵倒なんかに負けないように、アンタの意思を見せてね?」
言われなくても分かってますよアリアさん。
いずれ来るとは思って居た事ですから、元より覚悟の方はしていましたから――
魔法少女リリカルなのは〜夜天のなのは〜 夜天82
『愚者に訪れる終焉の時』
と、言う訳でやってきましたミッドチルダ!魔法文化がある事以外は、技術レベルそのものは地球と同じ位のレベルだね?
車が空飛んでる訳でもないし、高架橋の道路は東京の高速道路みたいな感じだし、あんまり別の世界に来たって言う実感は湧かない感じがするの。
其れは其れとして、現在私達の目の前には、溢れかえらんばかりの人、人、人!!!!
一体何処から此処に集まって来たのかな?――其れだけ、闇の書の彼是は、管理局の人達にとって重要な事なのかもしれないけど、此れは幾ら何
でも凄すぎないかなぁ?日本武道館が満席になりそうなくらいの人が此処に集まってる訳だからね――此れだけの人を前にすると流石に緊張するね。
「大丈夫ですよ、主なのは。何があろうとも、我等守護騎士は貴女と一緒です。」
「そうよ、シグナム達だけじゃなくてアタシ達も居るんだから大丈夫だって♪
アタシ達は、何があろうともアンタの味方なんだから、安心しなさいよなのは!」
シグナム、アリサちゃん……うん、そうだよね!
皆が一緒なら何も怖いものは無いよね!!――うん、大丈夫!!
「静粛に……此れより、闇の書事件、及び其れの黒幕に付いて。此処に集まって頂いた皆様に真相を明らかにしようと思う。
此れから語られる事には、一切の嘘偽りはないと言う事を此処に宣言する――此れは、正しき者の戦いの記録であると言う事を認識するように!!」
始まった……気合入ってるなぁグレアムさん。
アリアさんとロッテさんが近くにいるのは、万が一の場合の護衛だよねきっと。
「さて、ではまず闇の書とは何であるかを正しく知って頂くとしましょう。
闇の書の正式な名は『夜天の魔導書』であり、元々はあらゆる技術や知識を収集・記録する為の無害な魔導書だった――が、何代目かの持ち主が、
その力を自分だけの物にせんと書に手を加えた事から悲劇が始まった。
悪意ある改変を施された夜天の書は、後付けされた機能によって壊れ、狂い、そして暴走し、最終的には主すら食い殺す『闇の書』へと変貌し、此れ
まで多くの人々を犠牲にして来た――記憶に新しい所では、11年前の暴走だろう……優秀な局員が犠牲になってしまった。
そして、去年の春先に第97管理外世界にて、闇の書は再び覚醒を果たした……」
「そうだ、其の筈だ!!何故それを野放しにしておくのか!!アレは即時封印の必要のある危険物だろう!!」
グレアムさんの話に、集まった人の中の誰かが声を上げる……うぅ、此れは思ってたよりも、相当に『闇の書アレルギー』は強いのかもしれないね。
だけど、絶対に折れないよ……此処に居る人達に、せめて存在を認めて貰わないとだからね。
「野放しにしているのではないよ?封印の必要がなくなっただけの事だ。」
「なに?」
「去年の暮れに、闇の書は呪縛から解き放たれ、本来の姿である無害なるストレージデバイス『夜天の魔導書』へと戻ったのだよ。
そして、其れを行ったのが他でもない今代の『夜天の主』――此処に居る高町なのは君と、守護騎士、そしてその仲間達だ。
彼女達は、闇の書の呪いを超えるためにあらゆる手を尽くして、そしてあるべき姿で書を完成させ、呪いを跡形もなく消し去る事に成功したのだよ。」
「書を完成させた?……ふざけるな!其れはつまり、他者からリンカーコアを蒐集したと言う事だろう!
如何に書を元に戻したとは言え、そいつ等のやって居た事は此れまでと同じ事じゃないのか!!闇の書の持ち主は、欲に捕らわれた犯罪者だ!!」
「――――!!」
!!だめ、落ち着いてヴィータちゃん!!此処で暴れたらだめだよ!!
「だけどなのは、アイツ等!!
アタシ達には過去の事が有るから、何を言われても仕方ねぇ……だけど、なのはの事を悪く言うのは許せねぇ!!」
「その気持ちは嬉しいよ……だけど、今は堪えて。此処で暴れたら、あの人達に良い攻撃材料を与えかねないから!」
「――……分かったよ。」
でも、そう言う風に言われるのはやっぱり堪えるなぁ……
「――そう言った事実はないよ?書に魔力を与えたのは、他でもない彼女の仲間達なのだよ。
高町なのは君は、書の浸食で足が動かない。其のままだと麻痺は内臓にまで至って、死の危険すらあったそうだが――其れを知っても尚、彼女は『
誰かに迷惑を掛けるのは良くない』と言って、蒐集を禁じようとしたそうだ……果たして、同じ状況に陥った時、君達は同じ選択が出来るかね?
人は誰しも『死』が近づいた時は形振り構わなくなるモノだが、そんな状態にあっても彼女は自分よりも他の誰かの犠牲を嫌ったのだよ。
だが、彼女の家族も、友人も、そして守護騎士達も彼女の死は容認できない……其処で、リンカーコアを有する彼女の友人達は、自ら魔力を差し出す
事を決めたのだ――蒐集の苦痛は想像を絶すると言われるが、彼女達は友を助けるためにその苦痛を受ける覚悟をしたのだよ。
此れに付いても、君達は同じ事が出来るかな?……少なくとも、私は此の何方も出来ないよ……結局は、自分の事が可愛いのが人間の本質だ。」
「「「「「……………」」」」」
ぐ、グレアムさん凄い!
リーゼさん達が私の事を監視してたらしいから、其処から得た事なんだろうけど、其れで会場を黙らせちゃったよ……此れが、格の違いなんだろうね。
………ん?
「………♪」(ニッ)
何だろう、最前列に居る白髪のオジサン?なんだか、友好的な笑みを向けて来たけど……誰かな?
と、其れよりも今は、演説に集中集中!
「だが、私が幾ら言葉を並べたてたところで君達は納得しないだろう。
だからこそ私は彼女を連れて来た、夜天の主である高町なのは君を!!彼女の覚悟と決意を、直に聞き、其れが如何程の物か知って欲しい!!」
……如何やら出番みたいだね……流石に緊張して来るけど、頑張らないと!
――ギュ……
ほえ?シグナム?
「私も共に……我が身は、常に貴女と共に在ります――貴女にかかる負担も、2人ならば半分になりますから。
ヴォルケンリッターを代表して、烈火の将の同伴を許していただけますか?」
「寧ろ、こっちからお願いしたいくらいだよ……皆が一緒なら、何も怖いものは無いからね。」
おかげで、気分が落ち着いたの――此れなら、大丈夫だよ。
マイクの前に出た私とシグナムには、物凄い数の視線が突き刺さる……闇の書に対する恨みや怒りを多分に含んだ視線が……でも、私は屈さない!
「……ご紹介に預かりました、高町なのはです。――闇の書の過去は聞いていましたけど、まさか此処まで恨まれているとは思っても居ませんでした。
此れは既に夜天の魔導書となったから闇の書ではないと言っても、誰も納得はしないでしょう……だけど、其れで良いと私は思って居ます。
闇の書と呼ばれていた頃に起こした事は消せない事実ですから――だけど、ならば私は、最後の夜天の主として、書の犯した咎も背負って生きて行く
覚悟です。だから、どんな罵倒でも、恨み言でも、私は全て受け入れます……其れが、夜天の主となった私の責務でもあると思いますから。
許してくれなくて良い、恨んでくれも構わない………だけど、守護騎士の皆の存在は認めて下さい。
守護騎士の皆は、私にとって大切な友達であり、そして家族なんです……許さなくても良いから、皆の存在を認めて下さい。
其れを認めてくれるなら、私はどんな罰でも受け入れる覚悟です!!」
そうだよ、皆の存在が認められるなら私はどんな事でもする!!――此れが、今代の夜天の主の覚悟だよ!!
――パチパチパチ
ほえ?拍手?……アレは、さっきの白髪のオジサン?
「ハッハッハ!良いねぇ、良い啖呵だったぜ嬢ちゃん――このゲンヤ・ナカジマ、嬢ちゃんの心意気に打たれたぜ!!その歳で見事なもんだ!!!
齢10歳の嬢ちゃんが、そんだけの覚悟を決めるってのは並大抵の事じゃなかった筈だからな……アンタの覚悟、確かに俺の心に刻んだぜ!!
つーかだなぁ、テメェ等もさっさと小人の恨みつらみは捨てろってんだ、此のスットコドッコイが!!
こんだけの覚悟と決意を示した嬢ちゃんに対して、テメェ等は未だ恨みつらみをぶつける心算で居んのか、あぁ?
ケツの穴のちいせぇ事言ってんじゃねぇ!こんだけの覚悟と決意を示してくれた嬢ちゃんなら大丈夫だって、任せるのが大人の仕事だろうが!!
何より、なのは嬢ちゃんは此れまでの咎も背負うって言ってんだ……だから、此処で分けにするべきだろ?テメェの我を通し過ぎたらいけねぇよ。」
ゲンヤさんて言うんだ、あの人……会場が一気に静まり変えちゃった――ゲンヤさんの一喝が効いてるみたいなの。
「うむ、強烈な一言をありがとうゲンヤ君。――聞いた通り、彼女は齢10歳の少女とは思えない覚悟を決めているのだ……ならば、其れを信じよう。
彼女ならば、夜天の力を間違った事に使う事は無い筈だからね……いや、そもそもにして11年前と、今回の暴走は第3者によって引き起こされた。
補足説明になるが、高町君達は書を正しく完成させようとしていたが、すんでの所で横槍が入り、書は暴走へと至った……結果的には鎮圧したがね。
だが、その暴走を誘発させた人物こそ、11年前の事件の真犯人であり、そして此度の闇の書の暴走の黒幕――ヴォクシー・エスクードだ。
彼は愚かにも、闇の書の力を得んとして、意図的に暴走を引き起こし、その力を掠め取る心算だったようだ………その為に、あらゆる事をしたようだ。」
此処で、あの人の事を持ち出しますか!?
確かに、最悪の相手だったのは間違いないよ――偽物とは言え、目の前でお母さん達が殺される様を見せられたわけだしね……
「己の障害となるモノの暗殺に加えて、違法な魔導行使など犯罪歴はあげれば幾らでも出て来る者だ……そう、彼こそが黒幕だったのだ!!
調べてみたら、夜天の魔導書を狂わせたのは『エスクード家』である事が分かった……彼の家計は代々夜天の魔導書を狂わせてきたのだよ!!
さぁ、見るがいいよ……此れが闇の書を闇の書として手にしてた者の姿だ!!!」
――ギィ……
扉が開いて出て来たのは……此れは、若しかしてヴォクシー?
車椅子で、頭髪は殆ど抜け落ちて、右腕が無い……多分、信長さんが食いちぎったんだろうね――
だけど、猿轡をしてたら何も言えない――それどころか、目も虚ろで、今自分が何処にいるかも認識できていないのかもしれないの。
「彼が――彼の家系が、代々の闇の書の暴走に係わっていたのだよ。
闇の書の力を我が物としようとし、そして失敗して来た……其れのなれの果てが彼だ……彼が居なければ、闇の書は無害なままだった筈だからね。
そう、彼と彼の家系こそが、夜天の魔導書を闇の書と呼ばせた最大の原因なのだ――彼等は代々意図的に闇の書の暴走を引き起こして来たのだ!
真に裁かれるべきは夜天の主ではなく、彼なのだ!!彼と、彼の家系が居なければ、闇の書の彼是は如何にか出来たかもしれない訳だからね!!
故に、私は彼に然るべき裁きを下す……其れに異存のある者は、今直ぐ此処で名乗りを上げたまえ!!」
「「「「「「…………」」」」」」
異論はなし………皆が了承したって言う事だね。
ヴォクシー・エスクード……リインフォースとナハトヴァールと苦しめ、リヒティが望まない覚醒を成し、あまつさえお母さん達の死を私に見せた人……絶対
に許さない……大人しく、此れから言い渡される沙汰を受け入れると良いの!!其れが、貴方の果たすべき責務なんだからね!!
「異存なしと取る……よって、ヴォクシー・エスクードは、第一級犯罪の犯人として、死刑となるだろう。真の咎人には相応しい末路だよ。
だが、此れで分かって貰えただろう?高町なのは君とその友人たちは、恨みを向けるべき相手ではない――寧ろ称賛すべき者達だと言う事が!!」
「「「「「わぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」」」」
凄い歓声だね此れは!?……此れは、認めて貰ってとってもいいのかな?
今までにない大きな歓声だから期待しちゃんだけど……大丈夫、だよね?
「天晴!高町なのはを許せ!彼女こそ、真の夜天の主だろう!!
齢10歳にして其れほどの覚悟を決めたのは見事也!!寧ろ本当の敵は、其のヴォクシー・エスクードであった!!この、愚物が……恥を知れ!!」
「ヴォクシー……思い出した、11年前のあの時に、クライドさんと共に未帰還だった奴だ!
死んだと思って居たけど、まさか生きていたとは……しかも書の暴走を引き起こしていたとは――コイツこそが真の外道じゃないか!!!」
どうやら、大丈夫みたいだね?
まぁ、皆の恨みやらなにやらがヴォクシーに向かったって言う事もあるかも知れないけどね……だけど、此れは割といい結果に落ち着いたかもね?
「かも知れません……ですが、この結果も貴女が勇気を振り絞ったからこそですよ主なのは。
貴女が覚悟と決意を示さなかったなら、この結果は有り得なかったでしょう――貴女の言葉が、人々の心を動かしたのです……其れは誇って下さい。
貴女のおかげで、我等守護騎士の存在を多くの人々に認めて貰う事が出来た。貴女は立派に役目を果たしましたよ、主なのは。」
其れなら良かったよ……物凄く緊張したけど、結果が良ければ問題ないの。少し緊張はしたけど、私の意思と覚悟を示した甲斐は有ったね♪
――――――
Side:ヴォクシー
僕は、一体何処で間違えたんだろうか?……闇の書の力を手にし、僕は真の王となる筈だったのに、其れなのにこの様は何だ?
見るも無残な姿になり果て、死刑宣告を受けて、今は死を待つだけの存在………ふざけるな!!僕は真の王となる存在だ、こんな所で終わる事など!
『いいや、君は此処でお終いだよヴォクシー・エスクード……』
だ、誰だ!!
『誰だとは御挨拶だな……君が暴走させたリヒティガルードの残滓さ……君の命を貰いに来たよ。』
僕の命を!?……じょ、冗談じゃない!!
それに、僕が居なかったら君は目覚める事が出来なかったんだぞ!感謝こそされ、君に殺される道理は何処にもない!!あぁ、何処にもないとも!!
『愚かだね……僕は、僕の覚醒なんて望んでいなかったよ……今度こそ消える事が出来ると思って居たのに余計な事をしてくれたよ。
だから、君は罪に対する罰を受けなければならない……永遠の闇が、君を待って居るよ。』
目の前の奴がそう言った瞬間、僕の前には凄まじい大きさの大蛇が居た……そして分かってしまった、僕は此処で死ぬのだと言う事が。
『しゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
そして、大蛇が巨大な口を開けて僕に迫って来る………其れが、僕がこの世で見た最後の光景だった。
妙にスローモーションな其れを見た次の瞬間、僕の意識は完全に途絶える事になった――因果応報とは、きっとこう言う事を言うんだろうね……
――――――
Side:なのは
あの公聴会から数日後、私達は相変わらずの日常を過ごしています。
公聴会での私の演説は、如何やら録音されてたみたいで、後日アリアさんが持って来たんだけど、其れを聞いたお母さん達は、何て言うか感涙爆裂で
思いっきり抱きしめられて撫でられたなぁ……うん、愛されてるんだね私って。
勿論、色々聞かれたけど、あの覚悟と決意は私の本音だから、誰にも文句は言わせないの!
夜天の主・高町なのはは、例え茨の道であっても其れを突き進むよ?……守護騎士と仲間が居れば、どんな困難だって超えられるからね♪
私は、歩みを止めずに進んで行くよ……それが、最後の夜天の主の務めであるとも言えるからね。
To Be Continued… 
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