Side:なのは


春の足音も聞こえ始めた3月。明日は年に一度の『女の子のお祭り』であるひな祭り。
我が家でも、明日の為に七段飾りの雛人形を設置中……流石に七段飾りともなると迫力があるよね?あ、ヴィータちゃんその人形は一つ下の段に置いて。


「こっち?良く分からねぇけど、なんだか物凄く豪華なモンだよな『ひな人形』ってのもさ。」

「人形夫々が繊細に作られているので、芸術的な価値も高い物なのでしょうね。
 しかし、主なのは、ひな祭りとは一体どのようなモノなのでしょう?別名『桃の節句』と言うそうですが、如何なる意味合いを持った物なのですか?」


え〜っとね……確か、女子の健やかな成長を祈る節句の年中行事で、起源は平安時代の貴族の子女の雅びな『遊びごと』だったみたい。
最初は遊び事だったんだけど、平安時代には既に『流し雛』があって、雛人形には『厄避け』の『護り雛』として祀られる習慣が出来てたらしいよ?

其れが江戸時代に女子の『人形遊び』と節物『節句の儀式』と結びついて、全国に広まり、飾られるようになって今の『ひな祭』の原型になったらしいんだよ。
まぁ、色々難しい事が有るけど、単純に『女の子の健やかな成長を願ったお祭り』って思っておいていいと思うよ?


「健やかなる成長ですか……確かに、其れは女児を持つ家族にとっては当然の願いであるでしょうね。
 しかし、平安時代に起源があるとは驚きです――つまりは1000年以上の歴史があると言う事ですから……成程、大切な年中行事であるのですね。」


うん、春先の大事なイベントなの♪


1年に1度の女の子のイベントだもん、やっぱり毎年楽しみなのは否めないよ。
其れに、ひな祭ならではの御馳走もあるし、シグナム達には初めてのひな祭を思う存分楽しんでほしいな♪



そう言えばお母さんが『今年のひな寿司は凄いのにするわよ♪』って言ってたけど、どんな物になるんだろう?――其れも含めて楽しみだね♪












魔法少女リリカルなのは〜夜天のなのは〜  夜天69
『Today is a fun Girl's Festival』












で、ひな祭当日。
ひな壇に飾られた桃の花が、何ともいい香りを漂わせて春の足音を実感させてくれるの。



「何て言うか新鮮ですねこう言うのも。
 私が生きていたのは戦国時代だったので、こんな物を楽しむ余裕はありませんでしたから――思えば人生初のひな祭かもしれません。」

「そうなん?せやったらお市さんも、目一杯ひな祭楽しまなアカンて♪」

「はい、勿論その心算です!」


お市さんにとっても、人生初のひな祭だったんだ……なら、はやてちゃんの言うように目一杯楽しんでほしいの。
そうだはやてちゃん、折角だから定番の『ひな祭の歌』と行かない?って言うか、行くべきでしょ?ひな祭にアレを歌わないなんて絶対に有り得ない事だよ。


「せやなぁ?……此処は一つ、姉やんとのデュエットで披露するとしよか?
 確かに、此れを歌わんと、何となくひな祭言う感じがせぇへんからね――ほな行くで?」

「せ〜〜〜の……!!」



あかりをつけましょ ぼんぼりに  お花をあげましょ 桃の花
五人ばやしの 笛太鼓   今日はたのしい ひな祭り

お内裏様と おひな様  二人ならんで すまし顔
お嫁にいらした ねえさまに  よく似た官女の 白い顔

金のびょうぶに うつる灯を  かすかにゆする 春の風
すこし白酒 めされたか 赤いお顔の 右大臣

着物をきかえて 帯しめて  今日はわたしも はれ姿
春のやよいの このよき日  なによりうれしい ひな祭り




……やっぱり、ひな祭りにはこの歌だね。


「穏やかなテンポの良き歌ですね……心に染み渡ります。」

「やろ?せやけどな、この元歌をぶち壊す程の碌でもない替え歌が存在しとるのも、この歌の特徴なんやで?」

「碌でもない替え歌?」

「せや……え〜と、私が知っとるのは確かこんなんや。
 
 あかりを付けましょ 爆弾に お花をあげましょ毒の花
 五人囃子の首ちょんぱ 今日は恐怖のひな祭

 
 ……どや、碌でもないやろ?この替え歌の恐ろしい所は、細部に差異がありながら、似たような歌詞のモンが全国的に無数に存在しとる事やと思うんよ。
 誰が初めに作ったか知らんけど、此れはある意味で物凄く恐ろしい事やで………」


ホントに碌でもない歌詞だよね其れ。
何だって、女の子のお祭りがスプラッター直行のモノになるのやら……あ、此れはあくまでも替え歌だから、変に覚えないでね?


「覚える必要ねーだろ、こんな碌でもないモン。
 つーか、本気で最初に誰が考えたんだよ此れ?下手したらひな祭そのものが嫌いになりかねねぇんじゃねぇのか?」

「でしょ?だから、ひな祭以外の日に冗談としてなら兎も角、あんまりね?」

で、何を考えているのかなレイジングハート?


『……回避不可能なシューターと 当たれば即死のバスターと
 全てを消し去るブレイカー 素敵すぎますMy Master.』


「……レイジングハート?
 内容だけを聞くと、私の魔導の質の高さを言ってるようにも聞こえるけど、聞く人が聞いたらドンだけ私が危険人物かに聞こえるよねこれ?」

『そうですか?私としては、Masterへの最大限の敬意を込めての替え歌なのですが。
 と言うかですね、多分ではありますがMasterは管理局の一部では『歩くロストロギア』認定されていると思いますよ?夜天の書の正式な主と言う事で。
 それと、此れはこの間クロノ執務官から聞いた事なのですが、局員の中には畏怖の念を込めて『夜天の魔王』『黒衣の覇王』と呼ぶものも居るとか。』



えぇ!?歩くロストロギアって、其れは幾ら何でも酷過ぎない!?
其れに『黒衣の覇王』は兎も角、女の子に対して『魔王』は酷過ぎるよ〜〜〜〜〜!!


「こう言っては何ですけれど、なのはさんなら兄様が名乗って居た『第六天魔王』を継いでも良いかもしれません。
 カリスマ性を備え、更に戦の実力も高い上に状況判断力にも優れて、人望もあり、常に未来を見据えている……見事に天下人の条件満たしてますね。」


いやいやいや、継ぎませんからねお市さん!!
ほら、其れよりもぼんぼりのスイッチ入れてはやてちゃん。明かりが点かないと様にならないから!


「無理矢理話題変えよったね姉やん……せやけど、確かにぼんぼりが暗いままやと様にならへんし、ほなスイッチオンや♪」


――カチリ……ボウ……


「お〜〜〜〜……」

「ほう………此れは……」

「柔らかい光が、ひな壇に柔らかな華やかさを与えてくれますね……」


やっぱり明かりが灯ると、其れだけでひな壇の印象は大きく変わるね。
春らしい、柔らかな光……見てるだけで心が落ち着くなぁ。


「良いモノですねこう言うのも。
 ところで主なのは、ひな祭りについては昨日聞きましたが、このひな飾りは何かを模したモノなのでしょうか?
 最上段の二人が特別なのは分かるとして、五人囃子や三人官女を見る限り、何か特別な催し物を模したモノでないのかと思うのですが……」

「え〜〜っとね、確か平安時代とかその辺の時代の『結婚式』をモチーフにしてるって聞いた事が有るかな?
 つまり、お雛様とお内裏様は『新婦と新郎』で、以下の段に飾られたひな人形は結婚式のスタッフって言った感じだと思うの。
 其れの影響か『ひな人形はひな祭が終わったら直ぐに片付けないと娘が行き遅れる』何て言う迷信めいた言い伝えもあるみたいだよ。」

「そうなのですか?……ですが、その言い伝えでは娘を溺愛する父親が居る家庭では大変な事が起こりそうですね?」


確かに。
って言うかそれは、娘を溺愛してるを通り越して『娘に依存してる』って言う、終わってるお父さんの姿だよ?……家のお父さんは大丈夫だけどね。


さて、そろそろリビングの方に行こうか?
『ひな祭の宴』の準備も出来てるだろうし、兎に角今日は、シグナム達に目一杯『ひな祭』を楽しんでほしいからね♪








――――――








Side:シグナム


凄い……!
果たして目の前に現れた絢爛豪華な御馳走を前に、これ以外の感想を述べる事が出来るモノが居るのならば是非とも会ってみたい――そう思う位に凄い。

唐揚げに、タラモサラダに、各種野菜のグリルに――何よりも目を引くのが『寿司ケーキ』だ。
遠めに見れば豪華なケーキだが、その実態は酢飯と生魚や錦卵で作った『ちらし寿司』と言う、芸術的で見事な逸品!桃子殿が『凄い』と言う訳だ。


「其れでは、今年も良きひな祭を迎えられた事と、我が家の女子の更なる発展を願って……乾杯!」

「「「「「「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」」」」」」


そして、士郎殿の乾杯の挨拶から始まったひな祭の宴。

こうして、皆と賑やかに楽しむと言うのも良い物だな。クリスマスや正月の時も思ったが、こう言うモノを心底楽しむなど一体何百年ぶりだったのだろうか?
最後が何時だったかを思い出す事は出来んが、其れだけに今の世界で其れを楽しむ事に、何とも言えない幸福を感じるな。

「美味い!……流石は桃子殿、料理に関してはマダマダ学ぶべきところが多いようです。」

「あら、私に言わせれば、シュークリームの仕込みを任せられるようになった時点で、シグナムは免許皆伝の腕前なんだけど?」


免許皆伝など恐れ多い。
私の腕前など、桃子殿と比べればマダマダ月と鼈ほどの開きがあります……何より、この寿司ケーキの再現は今の私では不可能ですからね。

絶妙な酢加減のシャリに、具として使われた魚介もまた秀逸で、トップを飾る錦卵は正に黄金の輝きを持った逸品ですので――極の道はまだ遠いようです。



ん?如何なされましたか、主なのは?


「……えへ♪シグナム、大好き♪」

「……はい?」


――ぎゅむ〜〜〜〜〜〜


って、行き成り何抱き付いてるんですか主なのは〜〜〜!!
と言うか、抱き付かれて初めて気付きましたが、こう言ってはアレですが『酒臭い』ですよ主なのは!!


「って〜〜〜、白酒の瓶が7割方空になってる上に、今姉やんが飲んでた此れって『缶チューハイ』やないか〜〜〜!!
 此れはアレか?あまりの口当たりの良さにハイペースでグビグビ行って、あっという間に手の付けられんへべれけさんになってもうた言う事!?」


何だ其れは〜〜〜〜!!
あの、主なのは流石に此れは恥ずかしいので、取り敢えず離れて欲しいのですが……


「ヤダ……シグナムと離れるなんて絶対に嫌!
 其れとも、シグナムは私とこうしてるのは嫌?……如何しても嫌だって言うなら離れるけど……」

「!!!」

く……幾ら何でも此れは反則ではありませんか主なのは?
貴女から『潤んだ瞳での上目づかい』でお願いされたら、幾ら何でも断る事など出来る筈がない。――貴女が其れを望むなら、私は最大限応えましょう。


――ぎゅ……


此れで宜しいですか、主なのは?


「…………」

「主なのは?」

「Zzz………」


なんとまぁ、白酒に酔った末に眠ってしまわれたか。
だが、これ以上の主なのはの暴走がないと考えれば、悪い事でもないだろうが――何か言いたそうだなはやて嬢?


「………ま、まさか私の与り知らんところで姉やんとシグナムが『キマシタワー』な関係になっとたとは思ってなかったで……
 まぁ、姉やんがシグナムを好きなのは知ってたけど、よもや此処までの関係になっとるとは完全に予想外の大スクープや!!!」

「……はやて嬢、如何やら貴女は日本人であるにも拘らず『好奇心猫を殺す』と言う言葉を知らないらしい。
 最早隠しても無意味であるが故に言うが、確かに主なのはと私は互いに好き合っている……あぁ、其れこそ接吻まで交わした仲だ。
 だが、その根幹にあるのは私の主に対する忠誠と、主なのはが私に対して向けている信頼だと私は思って居る。――私は其れに応えるだけさ。」

「ぐはぁぁ!!甘!激甘!!!
 最早此れまで……我が人生に、一辺の悔いなしや……!!」


此処で堕ちたか……私の勝ちだな。



まぁ、其れは其れとして、つまりこう言う事なのですが、認め下さいますか士郎殿、桃子殿、恭也殿、美由希殿?


「「「「了承♪」」」」

「1秒了承か!!不認証されなくて良かったと思いつつ、敢えて言おう『其れで良いのか高町家』!!」

「「「「全然OK♪」」」」



……速攻で異議なしか!!
まぁ、私に抱き付いて眠っている主との関係を認めて貰ったのだから、これ程嬉しい事も有るまい――フフ、確かに『思い出に残るひな祭』ではあった様だ。








――――――








Side:アミタ


え〜〜〜……今日は桃の節句、所謂『ひな祭』なんですが――此れは一体何ですかお父さん?


「ん?いやぁ、ひな祭に合わせてひな人形のスケールを1/1で再現した『超ゴージャスひな壇』を作ってみたんだよ。
 研究所のスタッフにも手伝って貰って……いざ御開帳!!」


って〜〜〜!蓋を開ければ、本気で1/1で作ったお雛様!?
しかも、お雛様がなのはさんで、お内裏様がシグナム、三人官女や五人囃子に関しても此れはアリサさん達であるのは間違いないと思います。

大層時間をかけて作ったのだと思いますけど、ひな祭が終わったらどうするんですか此れ?


「……如何しようか。其処まで考えてなかったよ。」


幾ら何でも適当過ぎですよ!!
まあ、ひな祭が終わったら元の鞘に収まるでしょうけれど――しかし『何かが起こる』予感を拭う事が出来ません。


私の杞憂であれば、其れで良いんですが、そうでなかった場合は……闇の書の意思との戦い以上にきつい戦いになるかも知れません。





……何も起きないと良いんですけどねぇ〜〜〜……














 To Be Continued…