Side:なのは


新しい年が明けて早10日。平行世界からの渡航者の人達が来たりした(クロスオーバー参照)けど、それ以外は至って平和そのものの日々だったね。
まぁ、新学期が始まった時に、はやてちゃんが『高町姓』になってた事には予想通りクラス中が騒然となって、私とはやてちゃんは質問の雨霰だったけど。

だけど、其れも事情を話したらクラスメイト全員が納得してくれたし、その事を取り上げて何かするって言う子も居ないから、其れは有り難かったね。


そして、年が明けて10日目の今日、私は毎月の定期検診で海鳴大学病院に来ていたりします。
付き添いはシグナムと、今日は午前の講義のないお兄ちゃん……現在の『高町家暫定最強剣士コンビ』が一緒に来ています。凄く安心できます。


其れは其れとして、如何ですか石田先生?……なにか、私の病状について進展は有ったのでしょうか?


「えぇ、有ったわよなのはちゃん。
 なのはちゃんの麻痺だけど、去年最後に診た時と比べると格段によくなってる。此れだったら、今月の半ばくらいからリハビリを行う事も出来るわね。」

「本当ですか!?」

「介抱に向かっているとは……なのはの足は良くなるんですね?」

「足の麻痺は目に見えて減っていますから、後はリハビリ次第で完全回復も夢ではありません。
 尤も、完全回復には相当に厳しいリハビリが必要でしょうが……其れを乗り越える事が出来たら、間違いなく歩けるようになります。保証します。」


まさか其処まで回復してるなんて思ってもみなかったの。
だけど、完全回復には辛いリハビリが必要だって――寧ろ上等です!!自分の足で立って歩けるようになるなら、どんな苦難だって超えて見せますから!


「なのはちゃんならそう言うと思いました。
 まぁ、来週もう一度診せて頂いて、その時の感じでリハビリメニューも考えて行くとしましょう……あまりに無茶なリハビリはかえって逆効果ですから。」


無茶のない範囲で頑張ります♪
でも、リハビリが巧く行けば自分の足で歩く事が出来るようになるんだね?……だったら、どんな辛いリハビリでも、耐えて、そして超えて見えるの!!












魔法少女リリカルなのは〜夜天のなのは〜  夜天66
『取り止めのない日常の幸福』











Side:はやて


1月も半ばを過ぎた頃、姉やんのリハビリが開始された。
平日は、家でのリハビリやけど、土日は病院のリハビリテーションを使って、しかも石田センセがつきっきりでリハビリを行ってくれとる。
で、当然のように付き添いが必要な訳で、今日は私とナハトヴァールが付き添いや。


「5……6……7……」

「そう、その調子、頑張ってなのはちゃん。」


私は詳しい事は分からんけど、このリハビリが相当にハードなモノや言うんは良く分かる………あの姉やんが、額に汗浮かべて頑張っとるからね。


「18……19……20!!!……はぁ、はぁ……た、単純な動きとは言え、今まで動かなかった足を動かすのは、思ってた以上にハードな事なんですね…
 た、たった20回の足の上げ…下ろしで、こ、此処まで疲れるだなんて、正直思っても居なかったです……」

「まぁ、此れまで動かなかったものを動かそうとしているんだから仕方ないわ。
 でもねなのはちゃん、僅か1週間でこの運動が20回も出来るようになったなんて言うのはとても凄い事よ?普通は1ヶ月はかかるんだから。」


せやけど、姉やんはそんな辛いリハビリを泣き言一つ言わんでこなしとる。
そして、其れはリハビリ効果に直に現れてるみたいやな?……なんてったって、リハビリ始めて僅か一週間で、脚力強化の運動を20回やってもうたしね。


此れには石田センセも吃驚しとるわ。
普通に考えたら、完全に麻痺しとる足が、こんな短期間で劇的な回復をする事は考えられへんもん。



でも、姉やんの場合は夜天の書の不具合が齎した浸食が身体を蝕んでたから、其れがなくなれば回復が早いのもまた道理なんやろうね。


「そうなんですか?でも、目標の100回まではマダマダと遠いみたいです。」

「焦らず慌てず、ゆっくりと、でも確実に前に進んで行くようにすればいいわ。
 さて、10分間休憩したら、今度は自力で立つ訓練と歩行訓練に入りましょうか?」

「はいっ!」


加えて、石田センセの考えたリハビリメニューも、姉やんの体力でこなせるようになっとるから、其れもまたリハビリの効果を大きくしとるんやろなぁ。
運動の回数もあくまで『目標回数』としとるだけで、何が何でもその回数こなさなアカン訳やないし、あくまでその回数を目標に頑張る言う事やし。


「あぁ、石田ドクターもマイスターなのはの事を考えているからね。
 流石は、マイスターの事を昔から診ているだけの事はあるよ。……或は彼女は親兄弟の次に、マイスターの事をよく知っているのかも知れないね。」

「かも知れへんなぁ。」

姉やんと石田センセの付き合いは、私と姉やんが出会う前からの事やモンね。
ま、其れは其れとしてや、

「なぁ姉やん、姉やんは歩けるようになったら何をしてみたい?」

「ほえ?……そうだなぁ……先ずは皆と一緒に河川敷の桜並木を自分の足で歩いてお散歩してみたいかな?
 あと、学校の体育の授業で皆と一緒に運動したいし、出来れば新年恒例の海鳴マラソン大会にも出場したいし……やりたい事を上げたらキリがないよ?」


そやろなぁ〜〜〜。
せやけど、そんだけやりたい事が有るから、厳しいリハビリも泣き言一つ言わずにこなせるんやろうね――否、或は姉やんの『不屈』がそうさせるんかな?

まぁ、何にせよ、多分姉やんは小学校卒業までには普通に歩けるようになるんと違うかなぁ?
そうなって欲しいなぁ?そうなるとえぇなぁ……ううん、きっとそうなるわ。


「さて、自力で立つ訓練と歩行訓練を始めましょうか?」

「はい!頑張ります!!」


だって姉やんは、あんなに一生懸命頑張っとるんやからね。


ファイトやで姉やん!姉やんやったらきっと、いんや絶対に歩けるようになるからな!!私も、お母さん達も、みんなそう信じとるからね。








――――――








Side:アリサ


突然だけど、アタシは現在ひっじょ〜〜〜〜に頭に来てる。
何でかって……それはねぇ……


「メスガキが……碌に動けねぇ分際で街に出てくんじゃねぇ!
 テメェのせいで、俺様は足を怪我しちまったぜ?如何してくれんだオラ!!」


この目の前の馬鹿のせい!
学校からの帰り道、態とぶつかっておいて因縁付けて来るなんてどんなチンピラよ!?てか、小学生に因縁つけるなんて小者も良い所じゃない!!

それ以前に、アンタがぶつかったせいでなのはの車椅子の方に不具合が出てるんだけど、其れは如何してくれるつもりなのかしらね?
幾らリハビリを始めたとは言え、まだ自分で立って歩く事が出来ないなのはにとって、この車椅子はなくてはならないモノなんだけど?


「あぁん?そっちの不注意でぶつかって来たんだから知るかよ。
 其れよりも、俺様の足の怪我と、破けた一張羅は如何してくれんのかねぇ?まさか弁償しないとか言わないよな?弁償しないってんなら――

「如何するってんだい?」


――ミシィ!!!


「へぎゃぁぁぁ!?」

「ったく、子供に因縁つけてんじゃないよアホタレが。
 アンタの方こそ、車椅子の修理代払ってさっさと帰りな………さもないと、このままアンタの頭蓋を粉砕する事になっちゃうんだけどねぇ?」


アルフ!?これまたいいタイミングで来たわねぇ?如何したの?


「いんや、プレシアに今晩のご飯の買い出し頼まれてさ、商店街に行こうと思ったらアンタ等を見かけてね?無視も出来なかったからさ。
 てか、この程度の奴、デバイス起動すればなんて事ないだろうに……フェイトとアリシアもヴィータも何だって何もしなかったのさ?」

「いや、そいつをブッ飛ばすのも良いかと思ったんだけど、街中でデバイス起動するってのは如何かと思ってな?」

「あまり大騒ぎになるのも問題だしね?」


幾ら何でも、街中でデバイス起動してコイツを吹っ飛ばすわけにも行かないでしょ?
最悪の場合には、最終手段として其れをやるけど、其れはあくまでも最終手段に過ぎないわ……そう言う意味では、良いタイミングで来てくれたわアルフ。


「成程ね……だったら仕方ないね。
 取り敢えず……オイ、チンピラ此れから如何する?車椅子の修理代払って謝って立ち去るか、其れともアタシに頭蓋を粉砕されるか、どっちを選ぶ?
 悪いけどこれは脅しじゃない……アタシが本気を出せば、アンタの頭をビスケットみたいに粉々にする事なんざ訳ない事だからね?」


――ミシッ………


「スンマセン、スンマセン!調子こきすぎました!
 その嬢ちゃんの車椅子の修理代は払うんで、如何か命だけは!!!命だけはご勘弁を!!!!」



「おう兄ちゃん、その言葉に嘘偽りはねぇんだな?」


あらら……泣きを入れたチンピラに、今度は商店街の魚屋のオジサンが出てきちゃたわ。
海鳴商店街『最恐』と言われる、魚屋のオジサンに睨まれるとは自業自得とは言え、このチンピラには同情しちゃうわね……憐れとは一切思わないけど。


「へぇ!?」

「嘘偽りがねぇかって聞いてんだよ兄ちゃん!!
 嘘偽りがねえってんなら、なのは嬢ちゃんの車椅子の修理代を、今此処で払って早急に立ち去りな!!
 だが、もしテメェの言った事がその場凌ぎの嘘だったらその時は――漁師歴40年の、俺の剛腕が兄ちゃんをブッ飛ばすからその心算で居ろや!!!」

「嘘じゃないッス!!本心っす!!だから此れでご勘弁をォォォ!!!」


流石はオジサン、迫力がハンパ無いわね。
まぁ、三下風情のチンピラじゃ、アルフの闘気と、魚屋のオジサンの迫力に耐えられるはずもないか。


取り敢えず諭吉さん5枚を確保で来た訳だけど、よくよく考えたら、この程度の破損だったら、博士の研究所で充分直せるレベルよね?其れも無料で。
って事は、この諭吉さんは……


「貰っちゃっていいんじゃない?
 少なくとも迷惑料って事には出来るだろうし、アイツは逃げちゃたし、まぁ、ちょっとしたお小遣いって事にすれば一切問題ないって!そう思うでしょ?」

「おうよ、全ての非はアイツにあるからな。
 其れは嬢ちゃん達で分けちまって問題ないぜ?……戦利品と思ってもらっけや。」


戦利品か……だったら貰っとくとしましょうか。
と、大丈夫なのは?


「何とかね。
 壊れたのはフレームの一部だけだから、動かす分には問題ないし、何よりもアルフのお蔭で面倒な事にならないで済んだからね?」

「確かに、良いタイミングだったよアルフ。ありがとう。」

「アタシはフェイトの使い魔で、そんでもってなのは達のダチ公だから此れ位は当然さ。
 ま、何にせよ面倒な事にならなくて良かったよ――んでさ、その代わりと言っちゃなんだけど、少し買い物付き合ってくれないかねぇ?
 買うモノ結構多くて、アタシだけじゃ迷っちまいそうなんだよ?出来れば手伝ってほしんだけど、ダメかい?」


ダメな筈ないでしょ?そう言う事なら手伝うわよ、助けて貰ったしね。
フェイトとアリシアだって、まだ海鳴の事は分からないだろうし、商店街を回るって言うなら海鳴を熟知したアタシ達に任せなさいって!


「悪いね、助かるよ。」

「此れ位ならお安い御用よ!!」

それじゃあ、買い出しに繰り出すとしましょうか!!


あ、其れとその前に、逃げたチンピラの事、取り敢えずおまわりさんに届け出ておくべきだわね。――さっさと捕まっちゃえばいいわ、あの腐れチンピラは!








――――――








Side:なのは


1月もそろそろ終わりだね……年が明けてから、結構色々な事が有ったなぁ。
平行世界からの渡航者が来たり、私のリハビリが始まったり、妙なチンピラのオジサンに絡まれたり……普通の小学生なら体験し得ない事だらけだったね。


「主なのは、此処に居られたのですか。」

「シグナム………うん、あまりにも月が綺麗だったから、つい外に出たくなっちゃったの。」

「確かに見事な満月ではありますが、夜は冷えますので、あまり外に出ない方が宜しいかと……」


其れは分かってるんだけ……もう少しだけね?
折角だから、シグナムも一緒にどうかな?


「……マッタク、困ったお方だ。
 ですが、主と共にこの満月を楽しむもまた一興ですのでお供いたしますが……少しばかり失礼を……」


――ギュム……



ほへ?シグナム!?


「こうすれば少しは寒さも和らぐでしょう?貴女が風邪でもひいたら大事ですからね。――嫌でしょうか?」

「嫌な筈がないよ……こうしてシグナムに抱きしめられてると凄く温かいしね。」

其れに何より安心できるもん。
お母さんやお姉ちゃんに抱きしめられた時とは違う安心感を感じる事が出来るよ……或は、此れが夜天の主と、守護騎士の絆故の事なのかもしれないね。


「もしそうであるならば騎士冥利に尽きます――私は本当に良き主に恵まれたと、胸を張って言う事が出来ますよ。
 我が身は、主を護る一振りの剣です。此れから先の未来、如何なる困難が立ちはだかろうと、我等は其の困難を撃ち砕いて、貴女の道を開きましょう。
 主なのは、我が魂は永久に貴女の騎士であると誓います!」


なら、私の魂は永久に守護騎士の主である事を誓うよ。
人の命は有限だけど、魂の絆は決して切れる事はないから――だからシグナム、此れからも一緒に居てくれるかな?


「是非もありません……その誓いを立てましょう。」


――ちゅ……


ほへ?へ?えぇぇぇぇっぇぇぇぇぇぇぇぇぇっぇえぇぇぇぇ!?あの、此れってもしかしなくてもシグナムにキスされてる!?
まさかまさかのファーストキスが同性!?いや、嫌じゃないけど何で、如何してこうなったの〜〜〜〜〜〜!?


「……誓いの口付け……確かに誓約いたしましたよ主なのは。」

「誓いの口付け?……つまりは儀式的な何かって言う事?」

じゃあ、あくまでもその様式に乗っ取ったって言う事で、形式的な事だったって事?……だとしたらちょっとショックかも……


「まさか。古式な儀式の儀礼ではありますが、貴女以外とは誓約の口付けを交わす心算は毛頭ありません……主なのはだからこそ、させて頂いたのです。
 ですが、それが貴女の気に障ったのならば謝ります。」


ううん、私だからこそって言うなら安心したの……でもねシグナム、流石にさっきのは不意打ちだったと思うんだ?
だから、もう一度ちゃんと誓いの口付けをしてほしいかな?


「も、もう一度ですか!?……あの、流石に其れは少しばかり恥ずかしいと言うか照れると言うか……」

「ダメ?」

「……ダメではありません。ですが、その上目づかいは反則です。
 では改めて……烈火の将・シグナムの魂は、何時如何なる時でも、夜天の主である高町なのはと共に在る事を此処に誓い、主にその誓約を立てる。」

「夜天の主・高町なのはの魂もまた、何時如何なる時でも守護騎士と共に在る事を此処に誓う――烈火の将に、その誓約を立てる。」

故に、我等が魂は永遠に不滅。
誓いの口付けを持ってして、その魂は繋がった……私達の絆は、もう絶対に切れる事はないね。


「絶対に有り得ません……我等が貴女を思い、貴女が我等を思ってくれて居る限り、この絆が切れる事だけは有り得ませんよ。」


だよね。
少し恥ずかしかったけど、誓いの口付けを交わした事で、私とシグナムの絆は更に強くなったのかもしれない…うぅん、間違いなく強くなったって言えるよ。



ふふふ、此れからも宜しくね烈火の将さん?
夜天の主は、貴女の事を何よりも頼りにしていて居るからね♪













 To Be Continued…