Side:シグナム
ふぅ、穏やかなモノだな。
季節が季節だけに、少しばかり空気は冷たいが、日中のこの日差しは実に心地が良い――こんな平穏も悪くないだろう、リイン姉さん、ナハト姉さん?
「悪くないどころか最高だよシグナム。
まさか、再び本来の姿で、これ程までに穏やかな日々を過ごす事が出来るようになるとは思っても居なかったからな。」
「全てはお前達と、我が主の頑張りが引き起こした奇跡だ――この穏やかな日々を大切にしなくては……心底そう思っているよ。
其れに、主の家族と友人も実に温かい人達ばかりだ……此処まで自身の覚醒を嬉しいと思った事はないよ将。」
ならば良かった。
だけどなリイン姉さん、私を『将』と呼ぶのは如何なんだ?
確かに様々な時代で、私はそう呼ばれていたみたいだが、今私も記憶を取り戻しているんだ、昔みたいに呼んでくれてもいいんじゃないか?
それ以前に、暴走状態の時は私の事を名前で呼んでいたと思ったが?
「……そうだな、私とお前は、もう管制融合騎と調停者の関係ではなくなったのだからね。――色々と教えて貰うかもしれんが、頼むぞシグナム?」
「任せておけ姉さん。
少なくとも、主なのはの元で覚醒してからの生活で得た経験は、姉さん達の役には立つと思うからな――」
――ズズッ……
ふぅ……熱い日本茶が美味いな。
そう言えば、桃子殿がこの間電話で何かを注文していたみたいだが――多分、若しかしなくても姉さん達と市のウェイトレス衣装だろうな。
私は矢絣袴で落ち着いたが、果たして姉さん達と市はどんな衣装になるのやら……まぁ、桃子殿のセンスならば、多分変な物にはならないだろう。
ん〜〜〜……さてと、そろそろ出かける準備をするか。プロフェッサー・グランツから姉さん達のデバイスが完成したとの連絡が今朝方入ったらしいからな。
魔法少女リリカルなのは〜夜天のなのは〜 夜天59
『A's Portable Start up!』
Side:なのは
今朝方、グランツ博士から『市君の武器のデバイス化と、リインフォース君とザフィーラ君のデバイスが完成したから取りに来て欲しい』って連絡があった。
確か、依頼したのって2日前だったと思うんだけど、ドンだけの速さで造り上げたのかなグランツ博士は。
更には、その時にメンテナンスの為に預けた私達のデバイスもメンテナンスが終わってるらしいし、グランツ研究所のスタッフは能力高すぎなの!!
まぁ、高い能力は悪い事じゃないけどね。
「いらっしゃ〜〜い、待ってたわよ〜〜ん♪」
「ようこそおいでくださいました!先ずは、メンテナンスを行っていた皆さんのデバイスをお返ししておきます♪」
アミタさん、キリエさん!ありがとうございます。
闇の書事件の時には結構無理しちゃいましたけど、レイジングハート達は大丈夫でしたか?
「全然全く問題ないみたいですよ?
ただ、なのはさんの2機目のデバイスである『シュベルトクロイツ』に関しては、長年リヒティの影響を受けていたせいでもう少し時間が掛かりますけど…」
そうですか……まぁ、其れは仕方ないと思いますよ。
「てか普通に考えたら、1000年近くバグに曝されておきながら、中度の破損で済んでる方が驚きでしょうに!
闇の書の闇があんな状態だったのを考えると、下手したら跡形もなく無くなってたかもしれないわよね、シュベルトクロイツは……」
「ほんまやぁ……そうなったら少しばかり『夜天の主』としては、威厳に掛けてまうかも知れへんかったね姉やん。」
言えてるかも……シュベルトクロイツ――剣十字は夜天の主の証その物らしいからね。
だけど、其れがなくたって私とシグナム達の関係はきっと変わらないと思うよ?
「私は夜天の主で、シグナム達は夜天の守護騎士だからね。
シグナムも、ヴィータちゃんも、シャマルも、ザフィーラも、リインフォースとナハトヴァールも、皆が私の大切な人達だから、証なんてなくたって――ね?」
「おうよ!剣十字があろうとなかろうと、アタシ等の主はなのはだ!其れは絶対に変わらねぇ!!変わる筈がねぇ!!!」
そうだね、私が生きてる限りはきっと変わらないと思うんだ。
これからも頼りにしてるよ、皆♪
「「「「「「は!!」」」」」」
「ん〜〜〜……なのはさんは戦国時代だったら、若しかしたら天下を統一した姫武将となっていたかもしれません……」
「あ、微妙に否定できないかも……」
いやいやいや、流石に其れはないと思うよ!?
仮に私が戦国時代に生まれてたとして、同じように夜天の魔導書の持ち主だとしても天下の統一なんて――
「如何なされました、主なのは?」
・夜天の魔導書の守護騎士=並の戦国武将50人分の戦闘力。(足軽相手なら1000人分)
・姫武将なら家臣が居る事になるから、戦力的には既にチートレベル
・多分信長さんと同盟結んでるだろうな〜〜〜
「……や、やろうと思えば出来ちゃうかも……」
「でしょう?」
「出来そうですね〜〜〜……まぁ、其れは其れとして本題と参りましょう。
お市さんの小太刀と種子島のデバイス化は済んでいますし、リインフォースさんとザフィーラさんのデバイスも出来上がってますから博士のラボの方に。」
はい。
あの、其れでつかぬ事を聞きますけど、あれから2日で仕上げたって、グランツ博士ちゃんと寝てますよね?
まさか突貫作業の2徹とかはやってない……ですよね?
「其れに関しては大丈夫です。
この2日間は、日付が変わると同時に全てのシステムが自動バックアップを行ったうえでオートシャットダウンするように設定しておきましたので。」
「更に翌朝6時までは再起動不可能で、しかもパパでも設定を変えられないように2日間限定の超強固なプロテクトを外部からかけて貰ったしね〜ん♪」
「お母さんが何かやってたのって其れだったんだ……」
まぁ、グランツ博士にも突破されないプロテクトの構築なんて、プレシアさん以外には出来る筈がないだろうけど――プレシアさんもお疲れ様です。
フェイトちゃん、アリシアちゃん、お土産に翠屋のシュークリーム持って行ってあげて。
「うん、そうする。」
「じゃあ、後でお母さんに包んでおいてくれるように連絡しとくね。
で、やっぱりこう言う建物は珍しいですか、お市さん?」
「えぇ、昨日テレビで見た“えすえふ映画”にこんな様な建物が出てきましたけど、現実に存在しているのには驚きですよ。」
ですよね。
だけど此れからもっと驚く事になると思いますよ?――さてと、到着!此処がグランツ博士専用の開発ラボなの。
「あ〜〜、其れは私とキリエのセリフですよ!」
「えへへ、ちょっぴり横取りです♪」
「まぁまぁ、良いじゃないアミタ?此処は夜天の主様の顔を立ててあげましょ♪
もしも〜し、パパ〜?キリエだけど、なのはちゃん達来たわよ〜〜〜?入っても良い〜〜?てか入るから〜〜♪」
「……結局返事聞く前に入るってんなら、確認の必要はねーだろと思ったのはアタシだけか?」
「正直言うと、アタシも思ったわよヴィータ。」
まぁ、こっちの方がキリエさんらしいとは思うけどね。
こんにちは、グランツ博士!何時も何時もありがとうございます!
「いらっしゃい。
いやいや、僕も好きでやってる事だし、魔法技術と言うのは知れば知るほど奥が深いモノだからデバイス開発なんかも発見の連続で驚きが尽きないよ。
寧ろ僕の方こそ、こんなに素晴らしいモノと関わらせて貰っているんだからなのは君達に感謝しないといけないくらいだ。」
そんな……博士が居なかったら、若しかしたらリインフォースは消えてたかもしれないんですから、やっぱりありがとうですよ。
「ならその感謝は有り難く受け取らせてもらうよ♪――さて、其れじゃあ早速だけど本題と行こうか?
先ず市君の小太刀二振りは、カートリッジシステムの搭載以外は特に弄らず、シグナム君達のようなアームドデバイスとして仕上げさせて貰ったよ。
それで、種子島の方なんだけれど、流石に種子島のままでは性能が大幅に現代兵器には劣るから、思い切って大胆な改造を施させて貰った。」
赤の勾玉の付いたイヤリングと、黒の勾玉の付いたイヤリングが2本の小太刀の待機状態だよね多分。
そして、1つだけ形が違う、織田の家紋を模ったエンブレムが付いたネックレス、此れが銃だね――大胆な改造ってどうなったんだろう?
「ポンプアクションタイプの大型狙撃銃に改造してみたんだ。デバイス名は『ヴァルキリーズ・デュエル』。
全長がアリサ君の身長ほどもあるから、取り回しは難しいかもしれないけど、その代り魔力弾の射程と破壊力は保証する。
更に、マガジンの交換で『直射弾』『拡散弾』『徹甲榴弾』『砲撃弾』等々、様々なタイプの魔力射撃が出来るようにしてみたよ。」
「其れは凄そうですね――使うのが楽しみです♪」
相変わらず博士は凄いなぁ。
しかも銃の方のネーミングも良いね?ヴァルキリーズ・デュエル――戦乙女の決闘なんて、姫武将だったお市さんにはピッタリなの♪
「続いてはリインフォース君のデバイスなんだけれど、此方も基本的にはアームドデバイスになるねぇ。
基本形態は薙刀だけど、様々な戦局に対応出来るように三節棍や、金砕棒なんかに変形する機構を加えてみた。
同時に、なのは君とユニゾンした際には、レイジングハートもそれらの武器の形態を取る事が出来るようにシステムを同期させてみたよ。」
「「「「「「「「何それ凄い。」」」」」」」」
思わず子供全員がユニゾンビックリです!
ユニゾン中は、レイジングハートに機能付与って幾らなんでも凄すぎますよ!?流石は博士と言うか何と言うか……
「感謝するよグランツ博士。正直、徒手空拳と魔法だけでは、戦いの幅が限られてしまっていたからね――存分に使わせてもらうよ。」
「そうして貰えると開発者冥利に尽きるね♪
さて、最後はザフィーラ君のデバイスだが、此れはもう変化球なしで、直球勝負の籠手と具足のセットにしてみたよ。
只、流石の其れじゃあ面白みに欠けるから、ザフィーラ君が相手の攻撃を防御した分だけ、デバイスに魔力が溜まって行くようにしたんだ。
相手の攻撃に耐えた分だけ、反撃の一発が強力になる――ザフィーラ君にはピッタリの機能だと思ってね。」
「ウム……我は守護獣ゆえ、幾千幾万の刃や矢を受けようとも倒れはせぬ。
その機能は、確かに我が守護の拳をより強き物としてくれるだろう――感謝しよう、プロフェッサー。」
お見事、としか言いようがないの。
あれ?そう言えば、お市さんの銃と違って、リインフォースとザフィーラのデバイスには名前がないんですか?
「うん、付けていないよ。
市君の銃は改造だったし、自然と名前が思い浮かんだから付けさせて貰ったけど、其の2つは全く思いつかなかったんだ。
多分、持ち主が付けた方が良いって事なんだろうなと思って、其のままにしておいたんだよ。」
「成程……じゃあ、名前を付けてあげなくちゃだね、リインフォース、ザフィーラ?」
「はい、我が主。」
「共に戦う相棒に、名を送らねばな……」
2人ともどんな名前を付けるんだろう?
「祝福の名の下に、汝に名を与える。我が主を護る為に、お前の力を私に貸しておくれ――汝が名は『峰白雪』。」
「我が守護の拳と共に、主に対する全ての攻撃を防ぎきるぞ!我が相棒よ、お前の名は『ギルガメス』だ!!」
峰白雪とギルガメスか――良い名前だね♪
――――――
Side:シグナム
姉さんもザフィーラも良い名を付けたな。
この後は機能テストの為に、フローリアン姉妹と主なのはが、姉さんとザフィーラ、そして市のチームとの模擬戦だったか?――楽しみな戦いだ。
総合力では略互角の戦いになるだろうが――
――キィィィィン……
「「「「「「「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」」」」」」」
「此れは、魔力反応?術式は――ベルカとミッドのハイブリット!」
行き成りの魔力反応!しかもミッドチルダ式とベルカ式のハイブリットだと!?
プロフェッサー・グランツ、ベルカ式の詳しい術式は!?古代ベルカか、其れとも近代ベルカか?
「ちょっと待って……此れは、古代ベルカ式だ!」
古代ベルカとミッドチルダ式のハイブリット等、主なのはとはやて嬢以外には使い手などいない筈だ。
それ以前に、この世界の魔導師と騎士は略全てが、今此処に集まって居るのだ――そうであるにも拘らず、この魔力反応は一体……
――ヴン……
『ゴメンなさい、なのはさん、少しいいかしら?』
「リンディさん?――若しかして、アースラでも魔力反応を?」
『と言う事は其方でも?
えぇ、魔力反応をキャッチしたのよ――そしてその反応の中に古代ベルカの物があったから若しかしてと思ったのだけれど……』
「私もシグナム達も、今はグランツ博士の所に居て、誰も魔導の発動はしていませんよ?」
『そうなの?……なら、尚の事謎ねぇ……』
その事なのですが、少しばかり調べて来ても宜しいでしょうか主なのは?
魔力反応そのものからは危険な感じを受けませんでしたし、仮に戦闘になった所で今の私ならば早々やられる事も有りません――許可して頂けますか?
「……分かった、シグナムに任せるの。
だけど無茶と無理だけはしないでね?危険と判断したら、即時離脱して戻って来る事――約束できる?」
「はい、我が剣と、貴女への忠義に誓って!」
「それじゃあ、お願いするよシグナム!」
御意に!
あ、其れと私の事は気にせずに、姉さん達のデバイスの性能調査の為の模擬戦は行っておいてくださいね?動作確認は大事な事ですので。
「分かってるって♪――気を付けてね、シグナム。」
はい!!
さて、謎の魔力反応は鬼が出るか蛇が出るか――或は其れすら生温いほどの何かが出て来るのか……何れにしても気は引き締めておけねばな。
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さてと、反応があったのはこの辺りだと思うが――一見すると何もないな?
其れこそ繁華街の遥か上空であるだけだが、グランツ研究所とアースラの感知器が、同時に誤作動する事は考えにくい故、此処に何かある筈だが……
「ほえ?シグナム?」
「!?」
この声は、主なのは!?
そんな馬鹿な、主は今グランツ研究所で模擬戦を行って居る筈なのに!!
「良かった〜〜〜……シグナムが一緒なら百人力だね♪
もうすぐ半分になるんだけど、ジュエルシードがなかなか見つからなくて困ってたの――探すのを手伝ってもらっても良いかな?」
「ジュエルシード?」
そんなモノはとっくに集め終わっているが……此れは偽物なのか?
だが、其れにしては余りにも容姿だけでなく、纏う雰囲気も話し方も、全てが主なのはとまるで同じすぎではないか!?
「シグナム?」
「あ…いえ、大丈夫で――」
――ゴゴゴゴゴッゴゴゴゴゴゴゴゴゴッゴゴゴゴゴッゴ……
!!?
な、何だこの威圧感は!?目の前の主から感じるこの異常なまでの闇の威圧感には覚えがある……そうだ、暴走した姉さんが放ってたのと同じだ!!
其れはつまり、リヒティガルードが宿していた闇の波動と言う事にもなる。
「まさか、そんな事が起こり得るのか?」
私の目の前に現れた主なのはは――砕かれたリヒティガルードの残滓が再生した幻影であるとでも言うのか!?
だとしたら、私1人で如何にか出来るモノではないな――マッタク、忙しない年の瀬に、何とも面倒な事が起きてくれたものだ。
何か対策を練る必要はあるだろうが、先ずは、この幻影の主なのはをあるべき所に帰してやらねばななるまいな!!
「シグナム?」
少しばかり荒っぽくなりますが、暫しお付き合いいただきますよ、主なのは――その幻影よ!!
To Be Continued… 
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