Side:シグナム


闇の書の闇を砕き、何とか全てが終息したか。
主なのはは疲れ果てて眠ってしまわれたが、その寝顔の何と穏やかな事か……貴女の不屈の心が聖なる夜に奇跡を呼び寄せたのかもしれませんね。

だが、其れは其れとして、病室に戻って来た私達は石田先生に説教される羽目になった。
連中の結界に捕らわれたとは言え、入院中の患者が行き成り消えたとなれば、其れは確かに慌てるだろう。

しかも、1時間経ったら今度は患者を含め、その関係者が病室に集まってたと言うのだから驚くのも無理はないか。
流石に本当の事を話す訳にも行かないので『雪が降り始めたので、其れを共に見ようと主なのはを連れ出した』と言う事にしたが、其れが説教の原因にな。

まぁ、病人を病院側の許可なく連れ出したとなれば当然か。
だが、石田先生も若しかしたら気付いていたのかそれ程キツイ説教ではなかったかな?……『無茶だけはしないでね?』と言って居たしな。

――善処するが確約は出来そうにないな。
主なのはの為ならば、我等はどんな無茶でも買って出る。その先に主なのはの望む未来があるのならば尚の事な。


「そう……なのはは、良い臣下に恵まれたのね……」

「其れが我等の意思であり、そして主なのはへの忠義の証ですよ桃子殿。
 ですが、心底このように思ったのは、主なのはが初めてです――我等こそ、永き時を超え、漸く仕えるべき真の主と出会えた。」

病室には桃子殿達も戻って来ている――如何やらプロフェッサー・グランツが連絡を入れてくれたらしい。
当然、何があったかを包み隠さずに伝えたが、誰一人として怒る事はなかった――其れ所か、我等の頑張りを労い、主なのはの頑張りを讃えてくれた。

其れがドレだけ嬉しかった事か……私達は呪われた存在ではないと、自ら証明し、そして認めてくれる人が居たのだからな。
――どうだ、こんな世界ならば生きてみても良いとは思わないか姉さん?


「そうだな……折角解放されたのだ、この温かき世界を堪能するのも悪くない。」

「まさか、こんな世界を体験できるようになるとは思わなかったけれどね――まぁ、僅かな時間だけでも堪能させてもらうさ。」


?……僅かな時間だと?如何言う事だ、リイン姉さん?此れからは穏やかな世界が待っているのではないのか!?









魔法少女リリカルなのは〜夜天のなのは〜  夜天57
『真なる夜天の歩みの始まり』











「ナハトは大丈夫だが、私は些か破損が大きすぎたようだ。
 先刻の戦いでリヒトは砕かれたが、私とリヒトは相当に深く結びついていたらしく、リヒトの崩壊と共に私の機能もその多くが失われてしまった。
 特に再生能力の損失は何よりも大きい――私の破損は再生されず、時と共に消滅していくしかないからな……」


なんだと!?
じ、冗談ではない!!闇の書の闇を砕いたにも関わらず、リイン姉さんだけが消える等と、そんなふざけた事があってたまるか!!
何よりも1000年もの間、一番辛い思いをして来たのは姉さんだろう!その姉さんが消えてしまうなど……そんな残酷な仕打ちを認める訳には行かない!


「そうや!そんなふざけ腐った事があるかい!
 闇の書の闇砕いて、万事解決ハッピー・ハッピーやったら、リインフォースかて生きとらな意味は無い!消えずに済む方法が何かある筈や!!」

「そうよ!大体にして、アンタが消えたらなのはが悲しむじゃない!!
 夜天の魔導書の管制融合騎って言うなら、主であるなのはを悲しませんじゃないわよ!!」

「きっと、きっと何か方法がある筈ですよ夜天さん!!」

――!!……私とて消えたくはない!許されるなら、心優しきこの主と共に未来を歩みたい!
 だが、私に私の崩壊を止める手段は無い……だったら、せめて僅かな時間でも――!!」





「心配ご無用!!」




「「「「「「「「「「へ?」」」」」」」」」」


プロフェッサー・グランツ!!何故ここに!!


「いや〜〜、来ないとならないと思って来てみたんだけど、如何やら僕の勘も馬鹿に出来ないみたいだ。
 え〜〜〜と……リインフォース君だったかな?君が消える必要はないはないよ?
 君が消えると言うのはつまり、リヒトと共に機能が砕かれた事による機能不全だろう?なら、この『プログラム正常化ワクチン』を使えば万事解決だ。」


な、何ですかそれは?


「夜天の魔導書の不具合を修正する為に開発したワクチンプログラムさ。
 ありとあらゆることを想定して、夜天の魔導書の不具合やバグを取り除くプログラム――尤もリヒトの鎮静化が絶対条件にはなるんだけれどね。」

「いやいやいや、其れだとしても凄すぎやろグランツ博士!?」

「1000年もの間、誰も治せなかったバグを治すプログラムを開発するなんて……」


「んふぅ〜〜ん、やっぱりパパの技術力は世界一〜〜〜!PGS!」

「流石はお父さんです!!素晴らしいプログラムです!!」


姉さん、グランツ・フローリアンはトンでもないワクチンプログラムを開発してくれたみたいだ。
此れを使えば、消えずに済むんじゃないか?と言うか、消えると言う選択肢そのものが消えて無くなるだろう?


「あ、あぁ……まさか、こうなるとは思わなかったけれどね……」

「リインフォースが消えずに済むなら、どんな方法でもいい――漸く、解放されたのだから。」


あぁ、そうだな。
我等が夜天の魔導書となって1000年――其れだけ掛かって漸くだ。

しかしだ、其れとは別に新たに3人も増える事になるのだが、家の方は大丈夫だろうか士郎殿?


「一切問題ないよ?増改築は直ぐにでも可能だし、家族が増えると言うのは良いモノだからねぇ?」

「父さん……まぁ、その意見には俺も同感だがな。
 だが、まさか戦国時代の人物と、こうして対面する事が出来るとは夢にも思っていなかったぞ?」

「ホント吃驚!
 しかもお市さん、『戦国一の美女』って謳われただけあって、物凄い美人さん!!」

「そんな、照れますよ。
 其れよりも、此れからお世話になります♪」


全然全く問題なかったな。

しかし、今更ながらどんな家だ高町家は?
家主は謎権力の喫茶店経営者で、長男と長女は武芸の達人で、次女は夜天の主で、そのほかに我等とはやて嬢と、戦国時代の姫武将とは……
恐らくこの国をどこを探しても、高町家以上に濃い一家は見つからないだろうな―――ん?如何したはやて嬢?


「えと…あの、士郎さん!桃子さん!!大事な話があr「あふぁ〜〜〜〜〜〜……むにゃ……おはよう……」………お約束やな、なのはちゃん!!」

「ほえ!?」


お目覚めですか、主なのは……ですが、はやて嬢の話に被る形でと言うのは、流石に如何かと思いますよ?


「え〜〜と、若しかして起きるタイミング最悪だった?」

「ある意味ではなぁ……せやけど今回は多めに見るわ、今日一番頑張ったんはなのはちゃんやからね。」


確かに……おはようございます、主なのは。とは言ってもあれから30分程しか経っていませんけれどね。


「うん、おはよう皆♪」








――――――








Side:なのは


あれから30分程度しか経ってないなんて、自分でも呆れた回復力だね。
此処は私が居た病室、其処に皆が、お母さん達が、アミタさん達が、アリサちゃん達が、お市さんが……そして、シグナム達が居る。

夢じゃ、ないんだよね?


「夢じゃないわよなのは?私達は此処に居る……どんな時でも、貴女のそばに居るわ……」

「お母さん……」

本当のお母さんだ……良かった……やっぱりあれは偽物だったんだ……お父さんも、お兄ちゃんも、お姉ちゃんも……無事でよかったの。
ごめんなさい、心配かけて。


「確かに心配はしたが、こうして無事でいるんだ、結果オーライさ。」

「そうそう!それに新たな家族が増えるんだから、寧ろ問題ないって!」


そっか、リインフォースとナハトヴァールとお市さんも此れからは一緒なんだね。

と、そう言えばはやてちゃん、何か言おうとしてなかった?


「そや、大事な事言おうとしてたんや!!
 オホン……改めて、士郎さん、桃子さん……前々から持ち掛けて貰ってた養子縁組の件なんやけど――その話、受けさせてもらおと思います。
 ずっと悩んどったんですけど、夜天の魔導書に取り込まれた世界で、姉やんに会って決心が付きました。
 何時までもずっと悩んどったら、姉やんは私の事がずっと心配で何時まで経っても天国には行かれへん――せやからキッパリ決断しました。
 お話もろたんは結構前やから今更かもしれへんけど……えぇでしょうか!!」

「是非もない、大歓迎だよ♪」

「やっとその気になってくれたのね〜〜、待ってたわよ〜〜〜♪」


勿論OKだよはやてちゃん!
お兄ちゃんとお姉ちゃんも良いよね!!


「もっちろん!はやてちゃんが妹になるなんて願ってもないわ――まぁ、今までも妹みたいに思ってたけどさ。」

「俺も異論はない。」


と言うわけで、全く問題なしだよはやてちゃん!


「えと、せやったら……改めてお願いします――お父さん、お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん……でもって『なのは姉やん』♪」

「へ?私がお姉ちゃんなの!?」

「だって姉やんの方が誕生日先やん!せやったら私が妹やろ!!」


確かにそうかも知れないけど……まぁ良いか♪
でもお父さん、はやてちゃんの事は良いとして、リインフォースとナハトヴァール、其れにお市さんの事は如何するの?やっぱりシグナム達と同じ?


「そうなるねぇ?
 シグナム君達と同様に、戸籍上は高町家の養子と言う形を取るのが一番じゃないかな?と言うか、それ以外にはないだろうしね。」


だよねぇ?
と、まぁそんな訳なので、改めて宜しくねリインフォース、ナハトヴァール、お市さん♪


「はい、宜しくお願いします、我が主。」

「宜しくね、マイスターなのは。」

「宜しくお願いします、なのはさん♪」


うん!……って、そう言えば隼人さん達はどうなったの!?
閃光の書とやらに取り込まれた隼人さん達は!!無事なの!?……それと、信長さんは!!!


「詳細は分かりません……闇の書の闇を砕いた以上、ヴォクシーは排出されたでしょうが、それ以上の事は……其れに信長は――!」


……うん、信長さんの事はリインフォースから聞いた。
普通に考えれば生きてるとは思えないけど、あの『第六天魔王』の信長さんがそう簡単に死んじゃうなんて思えないの!だから若しかしたら………




――ヒィィィィィン……



ふえ!?此れは、転移魔法!?


「うむ……如何やら、皆無事なようだな?」

「無事であったか、高町なのは殿。」


隼人さん!其れに桜花さん達も……戻って来たんですね!!


「あぁ、君達が頑張ってくれたおかげだ、礼を言う。」

「そんな……私達は私達のすべき事をしただけです。
 其れに、其れが出来たのも皆のおかげですから………で、そちらの漆黒のライオンは若しかして――信長さん、だったりしますか?」

「ほう?こうも見た目が変わってもワシであると見切るか?……見事なモノだな高町なのはよ。」


何となく、信長さんの雰囲気を感じましたから。
それにしても信長さん、生きてるとは思いましたけど、随分とモフモフになっちゃいましたねぇ?……鬣をモフモフしても良いですか?


「別に構わんが………」

「じゃあ遠慮なく!………あぁ〜〜〜、堪らないモフモフ感なの〜〜〜〜♪」

「ほんまモッフモフやな〜〜〜。」


毛並みも良いし、此れは最高の触り心地なの〜〜〜!……あぁ、癒される。


「兄様………モフモフしていますね?」

「うむ、モフモフしてるな?」


お市さんもノリノリですねぇ♪
其れで信長さん、如何して真っ黒なライオンなんかになっちゃんたんですか?


「うむ、此れは全くの偶然であり、ワシもこの姿で生き続けられるとは思ってもみなかった……言うなれば幸運と言うのだろうな。
 神魔化身術を身に付けた者は簡単に死ぬ事は出来ず、死後は何らかの姿で即時転生するらしい。ワシの場合は黒獅子だったと言う事よ。
 だが、この転生は有り難いことだった……殺すに値せぬ愚物に対してワシなりの裁きを下す事も出来た故にな。」


そうですか……あの、其れで此れから信長さん達は……


「この姿では人前に現れる事も難しい。
 ワシは此れから、隠居生活に入る予定よ……人生50年と謳いながら、その実随分とワシも生きた――お前達の進む道を、静かに見させて貰う心算だ。」


なら見ていて下さい!
私達はもう迷いません!きっと素晴らしい未来を、造り出して見せますから!!


「うむ、その意気や良しだ!其れでこそ、この第六天魔王の意思を引き継ぐに相応しい!吼えた以上はやって見せろ高町なのはよ!」

「勿論です!」

「良い返事だ――其れは其れとして、市よ、お前も高町なのはと共に暮らせ……お前にも平穏を享受する権利はあるのだ……」

「言われずともその心算です兄様……私は、私としてこの時代を生きていきますから!!」


お市さんも!
……そう言う事だよ信長さん、私達に迷いはない!掴み取るべき未来に向かってただ真っ直ぐに邁進するだけなの!――不器用な方法かもだけどね。


「くくく……ふはははは!ハ〜ッハッハッハッハ!!!!素晴らしい!実に素晴らしいぞ高町なのは!
 ワシの目に狂いはなかった……お前こそ、この世界に未来を導く者よ!……ならば、止まらずに突き進んでいくが良い!
 これ以降、もう会う事はないだろうが……だがワシは、お前が歩む覇道をいつ何時でも見守っているからな!!」


はい!夜天の主、高町なのは!未来の為に、此れからも研鑽を積んで邁進していきます!
夜天の主の名に誓い、輝ける未来を作り出して見せるから!!だから、お手伝いお願いねシグナム、皆!


「ハッ!勿論です!!」

「おうよ、任せときな!!」

「勿論よ、なのはちゃん♪」

「我等守護騎士、常に主と共に。」


進む先に闇はない……光射す道を突き進んでいくよ――此れからもずっとね!!








――――――








Side:???


……此処は何処でしょうか?
闇の書の中?……にしては粗が目立つうえに、周囲に残る魔力も少ない……尤も私が動くには充分とも言えますが。

現状を確認………成程、リヒトは砕かれたと言う事ですか――つまり私は闇の書の残滓と言うところでしょう。


ですが、私は残滓で終わる心算は毛頭ありません……貴女と戦えば、或は私は自分が何者であるかを確立できるのかもしれません。




貴女との邂逅を楽しみにしていますよ――最後の夜天の主、高町なのは………!!











 To Be Continued…