Side:なのは


ふぅ……多分、ほんの数時間なんだろうけど、なんだかものすごく長い時間眠ってた気がするよ。
だけど、シグナム達のおかげで私は戻ってこれた――そして、ヴィータちゃん達もね♪


「主なのは…」

「なのはちゃん――!」

「なのは……!!」


ゴメンね、不甲斐ない主のせいで、皆に辛い思いをさせちゃって――だけどもう大丈夫!!私は絶望から帰って来た、もう二度と闇には捕らわれないの!
まぁ、色々あるだろうけど、今は――お帰り、皆。


「あ…うあぁ……なのは!なのはぁ!!!」

「っと……よしよし……大丈夫だよ、ヴィータちゃん、私は此処に居るから――



――トンッ……



「「なのはちゃん!!」」

「「「なのは!!」」」

「なのはさん!!」


「主なのは……よくぞ戻って来てくださいました――


はやてちゃん、すずかちゃん、アリサちゃん、フェイトちゃん、アリシアちゃん、お市さん……そしてシグナム!……うん、ただいま!戻って来たよ!!
――って、シグナム凄くボロボロ!?…だ、大丈夫なの!?


「月並みですが、この程度の傷、貴女を助ける為ならばホンの掠り傷に過ぎませんよ――戻って来てくれてよかった……」


掠り傷なんて……騎士服はあちこち吹き飛んでるし、身体のあちこちに裂傷や擦り傷が出来てるのに……私を助ける為に一杯頑張ってくれたんだね…
ありがとうシグナム……


「騎士として当然の務めです……と、此れをお返ししておきます。
 状況打開の為に借り受けましたが、此れは矢張り貴女の相棒でしょう?」

『お帰りなさいませMaster.再び貴女と共に戦える事を嬉しく思います。』


レイジングハート!……うん、未だ此れで終わりじゃないから――全てに決着を付ける為に、貴女の力をまた私に貸して貰っても良いかな?


『是非もありませんよMaster……全力全壊をぶちかましてやりましょう!!』


だよね!
……夜天の魔導書を闇の書と呼ばせた、後付けの異常防衛プログラム『リヒティガルード』――永劫の時を超えて、今こそ完全に粉砕する時だよ!









魔法少女リリカルなのは〜夜天のなのは〜  夜天56
『猛攻による鎮圧!闇を砕け!!』











そう言えばシグナム、髪と目の色が変わってない?
レイジングハートを返して貰ったら騎士服も何時もの形態に戻ったけど、カラーリングが今までと違うし……えっと、何かあった?


「此れが私の調停者としての本来の力を全開にした姿です。
 騎士服のカラーリングは……恐らく無意識とは思いますが、主なのはの防護服のカラーリングに合わせたのだと思います。
 力の解放と共にこの色になりましたが、通常状態に戻っても騎士服の色はこのままになるかと。」

「って言う事は、私とシグナムの防護服はカラーリングに限ってはお揃いって事だね♪」

「黒地に蒼の組み合わせ、確かにお揃いですね。」


前の蒼も良かったけど、こっちの方がシックでよりシグナムには似合ってるかも。
其れよりも、ヴィータちゃん、シャマル、ザフィーラ、身体に違和感とかは感じないよね?

管理者権限で守護騎士システムの破損を修復したんだけど、ちゃんと修復出来てるかなぁ?


「いんや、何も問題ねぇ!バリバリ元気だぜ!」

「それどころか、以前よりも身体が軽いように感じる気が……」

「リヒトと書が切り離された影響かもしれませんね♪」


巧く出来てたなら良かった♪
そっか、リヒトを切り離したから皆も完全に本来の力を取り戻すに至ったんだね。





「スマナイ、水を注してしまうようなんだが。」


クロノ君!!


「何とか間に合ったようだが、時間が無いから簡潔に状況を把握したい。
 あそこに見える黒い淀みは、闇の書を闇の書たらしめていた防衛プログラムで、あと数分で暴走を開始する――間違いないか?」

「うん――後付けの異常防衛プログラム『リヒティガルード』!」

暴走は、周辺の物質を浸食してリヒトの一部にして行く――臨界点が訪れなければ、この星くらいは飲み込んでしまう可能性がある。



!!其れは何とも凄まじいね、リインフォース――


「矢張りか……とは言え、停止のプランは用意してある。
 管理局の執務官としては、後は此方に任せてほしいと言いたい所だが、クロノ・ハラオウン個人の意見を言わせて貰うならば、戦力は多い方が良い。
 なのはと守護騎士の皆は闇の書の呪いを終わらせるために、フェイト達はこの街とこの世界を護る為に力を貸してほしい――お願いできるか?」



「断る筈がありません!!寧ろ全力で協力させていただきます!!」

「世界の危機は皆の危機〜〜〜!寧ろ皆で協力しなきゃダメダメよ〜〜〜ん?」

「アタシの事も忘れんなよ〜〜〜!」


アミタさん、キリエさん!!それにアルフさんまで!!
三人とも来てくれたんですね?ありがとうございます!!


「何を仰います!親友が頑張っているならば、そのお手伝いをするのは当然の事じゃありませんか!!」

「アミタの言う通りよ〜〜?
 大体にして、皆が頑張ってるのに、私達だけ何もしないなんて満足できない不満足のMDHじゃな〜〜い?やっぱり、やる事はキッチリやらないとでしょ?」

「其れにフェイトとアリシアが頑張ってるのに、使い魔が何もしないってのもアレだしね?」


にゃはは、確かに言えてるかも知れませんね。
だけど、アミタさんとキリエさん、アルフさんがが加わった事で、私達の戦力は更にアップしました!
此れなら例えリヒトの暴走体が相手でも負ける事なんて万が一つにも有りません!!





――ん?



「うお〜〜い、クロスケ〜〜!」

「皆、大丈夫!?――って、戻って来たのか高町!」


ロッテさんとアリアさんまで!!……はい、高町なのは、この通り戻ってきました!


「あの状況から戻って来るなんて、ホントにアンタは良い意味で予想を裏切ってくれるわ。
 まぁ、戻って来た事は喜ばしい事なんだけど――クロスケ、ヴォクシーの奴を見なかった?」

「ヴォクシーを?」

「あんにゃろう、闇の書の暴走体が一発放った後で逃げやがったんだ。
 どうやら防音と認識障害の魔法を自身に掛けて逃げてたみたいなんだけど、ついさっきこの辺りでアイツの魔力反応があったからな。」


ヴォクシー……夜天の魔導書を暴走させた張本人がこの近くに!?
でも、私達は誰も見てないですよ?シャマル、この付近に私達以外に誰かいるかなぁ?


「居ないわねぇ?猫耳の御二人が感じたって言う魔力反応もキャッチできない……ううん、ちょっと待って!!」

「何かあったの?」

「あそこ!あの淀みから、僅かに、極めて微量だけどヴォクシーの魔力反応をキャッチしたわ!
 凄く小さくて、クラールヴィントでもギリギリキャッチできるレベルだけど、だけど確実にあそこにはヴォクシーが居る!!」

「まさか――夜天の書を歪めていた力に目を付けたのか!?
 いや、夜天の力を掠め取ろうとしていたアイツならば、闇の書を闇の書たらしめていた力を取り込もうと考えてもおかしくはないが、如何せん無謀すぎだ!」


無謀どころの騒ぎじゃないよ!
リインフォースとナハトヴァールですら、浸食されて抗う事すら出来なかったって言うのに、其れをたった1人の魔導師が従えようなんて土台無理な話なの!

あの淀みから反応があったって言う事は、恐らくは取り込もうとして逆に取り込まれたんだろうね。
だけど、あの人の持つ閃光の書には隼人さん達が捕らわれてる!!せめて閃光の書だけでもあそこから取り出さないと!!


心配無用です我が主。
 私とリヒトを切り離した時のように、リヒトの暴走体を砕く事が出来れば捕らわれた者をあそこから解放する事は可能です。


そうなの?……なら、尚の事あの淀みから現れるだろう、最後の敵は砕かないとならないね!!








――――――








No Side


やる事は決まった、と言うか初めから一つしかない。
この場に集まった最強クラスの魔導師と騎士達は、一旦淀みから距離を取り、適当な石柱で待機する。


「ほな作戦やけど、先ずはリヒトの展開する多重防御を皆で破壊!」

「其の後で、本体に許容量を超えるダメージを与えてコアを露出。」

「そして、リーゼさん達の長距離転送で地球軌道上で待機中のアースラ前に運ぶ!!」


既に現場と、地球軌道上で待機するアースラとの間にはオープンチャンネルが開かれ、互いに通信が可能となって居る。
この作戦も、当然アースラのブリッジには届いていると言う訳だ。



「でもって、アルカンシェルで砲撃!消滅!!」

その作戦を聞いたオペレーターのエイミィも抜かりなしとばかりにコンソールを叩き、アルカンシェルの出力その他を調整している。
いや、調整などと言う生易しいモノではない、次元航行可能なエネルギーを残し、その他のエネルギーを全てアルカンシェルに注ぎ込んでいるのだ。

だが、誰も其れを咎めない――其れは必要な事だから。

そんなエイミィの働きに、艦長のリンディは満足そうに頷き、

「アルカンシェル、チャージ開始!!」

「「了解!!」」

クルー全員に指示を飛ばす。切り札の方は、着々と準備が進んでいるようだ。




そして地上でも、そろそろ作戦開始だが――


「そうだ!シャマル!!」

「あ、はい♪皆さんの治療ですね?」

その前に、なのはがシャマルに皆の治癒を言い渡していた。
暴走した闇の書の意思との戦いを続けていたアリサ、すずか、アリシア、フェイト、市、そしてシグナムが負ったダメージは決して軽くない。
特に、闇の書の意思と限界突破のガチバトルを行っていたシグナムは被ダメージと消耗が著しい――故に、此処で回復しておくに越した事は無いのだ。

「クラールヴィント、本領発揮よ♪」

『Ja.(了解です。)』

「風よ、癒しの恵みを運んで。」

癒しの力が風に乗り、シグナム達の傷を癒し、同時に失われた体力をも回復していく。
更に其れだけにとどまらず、破損したバリアジャケットと騎士服も修復していくと言うのだから、シャマルの治癒騎士としての能力の高さは疑いようがない。


「す、凄い!此れがシャマルの本気!!」

「相変わらず、見事なモノだな。」

「ふふ、湖の騎士シャマルと、風のリングクラールヴィント、癒しと補助が本分ですから♪」


これで、最早不安要素は微塵もない。



そして、淀みの周囲には、ザフィーラ、アルフ、リーゼ姉妹がその淀みを取り囲むようにして陣を組んでいた。


「コアの露出まではアタシ等がサポートだ、巧い事動きを止めるよ!」

「此処が正念場……やりきらないとね!!」

「あぁ、そうだな……!」

「んじゃまぁ、一丁頑張りますか!!」

陣形を組んだと同時に、其れは始まった。
海中から何本もの暗黒の魔力柱が天を突くように伸び、淀みがその力を増して膨張していく――リヒティガルードの最終暴走が今正に始まろうとしていた。


「始まる……」

「夜天の魔導書を、呪われた闇の書と呼ばせた後付けの異常防衛プログラム、リヒティガルードの浸食暴走体――闇の書の……闇。」


『ウガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアァァァァァァアァァァァァァァ!!!!!』


淀みから現れた其れは、果たしてどう表現したモノか心底迷う物だった。
全体像そのものは、神話や伝説でよく聞く『魔獣ベヒーモス』に酷似しているが、その顔に在るのは、まるで蜘蛛を思わせる様な8つの眼球だ。
更に背には鳥とも蝙蝠ともつかない不気味な翼が左右5対、計10枚生え、四肢の他に身体の彼方此方から蟲を思わせる触手が生えている。

此れだけでも生理的嫌悪感を催しそうなものだが、此れに加えて、全身に目玉が現れ、丁度首の辺りには肉塊に鎮座した女性の上半身と人の腕が!!
人の悪意、欲望と言う物を体現したような闇が其処にはあった。

或は、ヴォクシーと言う最大級の悪意を取り込んだが故に、此処まで歪んだ存在となったのか……だが、何れにしても此れを砕かねば如何しようもない。


「来たな?喰らいな、チェーンバインド!!

「「シルエットロック!」」


先ずはアルフとリーゼ姉妹が、バインドでその動きを封じ込める。
圧倒的な質量を誇る相手ではあるが、オーバーAランクの魔導師のバインドはそう簡単に解けるモノではない。

縛れ、鋼の軛!

其処に追撃として、ザフィーラが鋼の軛を発動!
海中から伸びた無数の杭と、空から降り注いだ無数の槍が、暴走リヒトを貫き、その場に固定せんとするが――其処は流石に凶悪な暴走体だ。

無理矢理拘束を引き千切り、無数の触手から砲撃を放って全てを破壊尽くさんとする。

だが、今この場に集まった面子は、其れを超えて前に進む事のみを考えているが故に、リヒトの砲撃なんぞ何のそのだ。
すぐさま待機場所から離脱し、そして此処からが本番だ!


「先陣突破!アミタさん、キリエさん、アリサちゃん、ヴィータちゃん!!」

参謀格のシャマルが支持を飛ばし、第一陣であるヴィータとアリサとフローリアン姉妹が突撃!


「手加減なんぞ必要ねぇ!力の限りブッ飛ばす!!!」

「「「勿論!!」」」

「やるぞ、アイゼン!!」

『Jawohl.(了解。)』

其れに合わせるように、ヴィータはグラーフアイゼンをギガントフォルムにし、一撃必殺の一撃をぶちかますための準備を整える。
アリサもまた、同様にフレイムアイズに力を込めているようだ。

と言う事は露払いがフローリアン姉妹の仕事であるのだが――

「せぇぇの!スラッシュ・レイブ・インパクト!S・R・Iーーーーー!!!!

「無限の運命、今此処で終わらせます!!
 エンド・オブ・デスティニー!この一撃で、全てを貫いて!!!

物の見事に、その任を果たしてくれた。無差別に他者を襲う触手を完全に沈黙させて見せたのだ。
そして、此れはヴィータとアリサにとっては最大級の好機に他ならない。

「轟天爆砕!!」

『Explosion.』

「終りにするわ…!!」

『燃やし尽くす!』



ギガントシュラーク!!!!

ヒートドライブ!!



ヴィータの一撃とアリサの一撃が、第一の障壁を砕き切ったのだ!――ならば次の第二隊がより重要になってくる。


「シグナム、フェイトちゃん、はやてちゃん、お市さん!!」


「やるぞ、フェイト、はやて嬢、そして市よ。」

「はい!」

「まぁ、全力全壊をぶちかましたるで!!」

「任せて下さい!!」

その第二陣は、シグナムとフェイト、はやてと市と言う組み合わせだ。
先陣と比べれば些か地味かもしれないが、だが其れだけに、一度波に乗ったら手が付けられないと言う、ある意味での最強の組み合わせと言えるのだ。


「「覇ぁぁぁ!!」」

其れに呼応するが如く、はやてとフェイトが外壁に一発かまし、その防御力はさして高くないと言う事を看破していた。

その間に、シグナムはレヴァンティンに新たに3発のカートリッジをロードし、切り札とも言える『ボーゲンフォルム』を展開していた。
迷いはない――後は厄災を砕くのみ!!単純ではあるがこの精神は後々にまで伝わって行くようだ。


翔けよ、隼!!

『Sturmfalken.』


――轟!!



貫け、雷神!

『Jet Zamber.』


――バチィ!!!



「ほな、一発決めよか!!」

『一刀両断だぜ!!』


――ドォォォン!!



シグナムが放った矢は音速を超え、更に炎を纏った隼を形作り、闇の書の闇を貫く!
更にフェイトとはやてが必殺の斬撃で障壁を破壊し、其れのみならず本体のより深い場所にもダメージを与えて行く。


虚空の咢!!

其処に追撃とばかりに、市が空間断裂によって発生した力場での攻撃を敢行し、闇の書の闇に着実にダメージを与えて行く。


矢継ぎ早の攻撃に、流石の闇の書の闇もグラつくが、だがしかし一切の致命傷は負っていない。
それどころか、飛翔を始めながら障壁を展開し、周囲の魔力素を集めているようだ――が、そうは問屋が卸さない。


「大人しく、地面に這いつくばっていろ!」

「ぬおぉぉぉぉ……でぇりゃぁぁぁぁ!!!」

ナハトヴァールの斬撃とザフィーラの鉄拳が、上昇を始めた闇の書の闇を再び地面に縫い付けたのだ。


「諦めが悪いッたら……此れで大人しくなれ!サンダーレイジ!!

其処にアリシアの雷撃が炸裂し、闇の書の闇は完全に動きを封じられてしまった――己の意識で動く事などは到底不可能だろう。


「なのはちゃん!」

そして更なる一撃は、待機中のなのはが放つ。

「彼方より来たれ、宿り木の枝…」

銀月の槍となりて撃ち貫け!

「『石化の槍、ミストルティン!!』」

遥か上空から放たれた石化の槍は、闇の書の闇を撃ち貫き、刺さった場所から石化し、遂には飛行能力ですら奪うに至った。
だが、其れでもまだ終わらない。

闇の書の闇は石化した部分を自ら切り離し、そして新たに生体部品を再構築して現れたのだ。


そのしぶとさにはある意味で敬意を払うが、しかしながら矢張り相手が悪い。
空間の一角にて、クロノとすずかは其処に陣取っていたのだ――最大級の一撃を放って闇の書の闇の動きを完全に封じ込める為に!!


「クロノ君、すずかちゃん、やっちゃえーーー!!!」


アースラでも、エイミィが叫びに呼応するが如く、最大級の凍結魔砲が炸裂!!


「ふぅ……凍てつけぇ!!!」

『Eternal Coffin.』


「全てを凍らせて!!」

『Freeze!!』


クロノとすずかと言う最強クラスの氷結魔導師が放った一撃は凄まじく、闇の書の闇のみではなく海上をも完全凍結させてみせたのだ。
そして、此れこそが最大の好機!


「なのは、フェイト、はやて!!」


クロノに呼ばれた3人は、既に最大の一撃を放つ準備を完了していた。


『Sunlight Breaker.』

「此れが私の全力全壊や!!」


『Plasma Zamber.』

「雷光一閃、プラズマザンバー!!」


「もう良いでしょ?……そろそろ眠る時間だよ――響け終焉の笛、ラグナロクノヴァ……!!」


「「「ブレイカーーーーーーー!!!」」」



はやてもフェイトも、そしてなのはにも一切の迷いはない!
放たれた、3種類の性質の異なる砲撃は、氷漬けになった闇の書の闇を問答無用でブチ砕き、生体部品を破壊していく。

同時にシャマルは『旅の鏡』を発動して、リヒトのコアを探る。
如何にシャマルと言えども、其れは簡単な事ではないだろうが、クラールヴィントの最強レベルのサポートがあれば造作もない事だろう。


「!!捕まえた!!」

モノの数十秒でコアを探り当て、そして分離する。


「長距離転送!」

「目標、軌道上!!」


同時にアリアとロッテがコアを転送し、アースラ前に送る。




其れに対し、アースラの対応は迅速極まりない。


「コアの転送、来ます!」

「転送されながら、生体部品を修復中……は、早い!!」

転送されながらも修復を続ける闇の書の闇に戦慄するが、しかしオペレーションには一切の乱れが無いのだ。


「アルカンシェル、バレル展開!!」

「ファイアリングロックシステム、起動!」

アルカンシェルの発射準備が整ったところで、転送されたコアがアースラの前に現れる。


衛星サイズにまで巨大化した其れは、既に生物の形は残っておらず、醜悪な肉塊となり果てていた、人の闇と欲望その物と言うに相応しい姿形だった。
故にリンディは、此れを滅する事に一切の迷いはない。――まして、此れで夫の仇を取れるとなれば尚更の事だ。


「アルカンシェル……発射!!」

万感の思いを詰めた一撃が闇の書の闇を打ちすえ、そして激しいエネルギーの高まりが起こり、そして――


――バガァァァァァン!!!


闇の書の闇は爆発四散!!
疑いようもなく完全爆砕し、アースラの観測機でも、再生の兆候はない事が明らかになっていた――遂に闇の書の闇はこの世から姿を消したのだった。




その結果は地上にも伝えられ、全員の顔に笑みが浮かぶ。

当然なのはの顔にも笑みが浮かぶが……


――ヴォン……


「え?…我が主、今融合を解かれては……」


――グラ……


なのはとリインフォースの融合状態が解除され、其れと同時になのはがグラついて空中から落ちる。

其のまま落ちてしまったら只では済まないが、其処は筆頭騎士であるシグナムが超反応し、なのはを抱き留め事無きを得る。


「シグナム、なのはは大丈夫なの!?」

「大丈夫、只眠っているだけだ。
 書に捕らわれ、そして目覚めてすぐに此れだけの大義を成されたのだ……疲労が限界を迎えたとしても何ら不思議ではないさ。」


なのはでも流石に疲れたのが原因だったようだ、融合の強制解除は。
確かに、心身ともに疲れ切ったのは間違いないだろう――だがしかし、シグナムの腕の中で寝息を立てるなのはの寝顔は、この上なく満足そうであった。








――――――








さて、状況が終息した裏では、かの外道に終焉の時が迫っていた。


「クソ、クソ……なぜ、如何してこんな事に!!」


闇の書の闇が砕かれた事で、取り込まれたヴォクシーもまた解放されていたが、その姿は悲惨極まりなかった。
右目は潰れ、左腕は消し飛び、頭髪は半分以上が抜け落ちてしまっている――だが其れは、分部不相応な力を求めた者の末路としては相応しい姿だった。

「だが、閃光の書はまだ無事だ…此れがあれば僕は!!」

だが、この期に及んでまだ懲りてないと言うのはある意味では尊敬に値する。
しかし、他者を道具の様に見て来た外道の悪運は既に尽きていた。


「この期に及んでまだ悪巧みとは…呆れた物だな。」

「!?」

何とか身を隠した路地裏に、突如聞こえて来た声――同時に暗闇から現れた漆黒の獅子。

「お前は……誰かの使い魔か!?」

「使い魔?……違うな――いや、コソコソ逃げ回りながらもあの戦いを見ていた貴様ならば分かるのではないか、ワシが何者であるのか。」

「何だと?……
ま、まさか!!」

その正体を考え、ヴォクシーは戦慄した――其れは普通なら有り得ない事だったから。


「ククク、よもやこんな姿になるとは思わなんだが、化身の術を身に付けた者は早々簡単に死ぬ事は出来んらしい。
 そうよ、貴様の考え通りだ!ワシは、第六天魔王こと織田上之介信長よ!!」

獅子の正体は、闇の書の意思の一撃で絶命した筈の信長だった。
その身を一振りの小太刀に変えた信長だったが、魂は死なずにそれどころか、漆黒の魔獅子としての身体を得ていたのだ。

「貴様は殺すにも値しない愚物だが、だがワシの部下たちは返して貰うぞ?」


――ブチィ!!


「ギヤァァァァァァァァァァアァァァ!!!」


言うが早いか、信長はヴォクシーの右腕を噛みちぎり、そして閃光の書を爪でズタズタに引き裂いて行く。
こうなっては、閃光の書も只のガラクタだが、其れが壊されたと言う事は、捕らわれた者達が解放される事に直結する。

書が細切れになったその瞬間に、隼人達、織田の配下は現実世界への帰還を果たしていた。


「うむ、良く戻って来たな……ご苦労だった。」

「その声はお頭!……勿体なきお言葉、我等は結局何も出来なかった……」

「ククク…そう卑下するな。
 確かに戦闘では役に立たなかったかもしれぬが、お前達の存在が高町なのはに安心感を与えた事は間違いないのだから、其れは誇るが良い。」


主君と配下の再会もまた穏やかなモノである。


だが、外道の未来はもうない。


「良い様だなヴォクシー……他者を利用しようとした奴にはお似合いの姿じゃないか。」

「アンタは王にはなれない……此れからアンタに待ってるのは、暗い牢獄と数えきれない糾弾と罵声だ。
 高町を殺そうとしたそのペナルティを甘んじて受けるんだね――序に、アンタにはここ数十年に起きた闇の書関係の事件の一切の罪を背負って貰うから。」

何時の間にかアリアとロッテがヴォクシーをバインドで拘束し、事実上の死刑宣告を下す。


だが、あまりのショックにヴォクシーの耳には届いていないだろう。

こうして、此度の事件の黒幕は、誰に知られる事もなく、その身柄を管理局へと送られる事になった。


同時に其れを持って、真の意味で後に『闇の書事件』と呼ばれる事になる一件は、聖夜に見守られながら、その幕を静かに下ろすのだった。













 To Be Continued…