Side:信長


「兄様……!!」


よもや、介入した直後に心の臓を貫かれるとは……ククク、何とも『尾張の虚け』に相応しい幕引きであるな?
だがしかし、このままで終わるワシではないぞ?……この身は此処で朽ちるが、我が魂は不滅にして不敗!!そして、朽ちた肉体もまた無駄にはならぬ!


「兄様……?」

「市よ、こやつを恨むではないぞ……この娘もまた苦しんで居るのだ――自分ではどうしようもない凶暴な力の暴走にな。
 ――だから助けてやれ………我が身は一度妹を護る盾となり、そして此処からは、妹と共に戦う刃となる!!」

神魔化身術を会得した者の最終奥義を見せてくれよう!!
この術を身に付けし者の命が散る時、その魂と肉体を術者の思い描いた無機なる物に変える事が出来る――!!

その術を使い、ワシはこの身と魂を、市が戦う為の一振りの刃と化す!!


「まさか…そんな事が!!」

「兄様……!!」


ふ……泣くな市よ。
本来ならばワシの命は本能寺で散っていたのだ――其れがこうして生き長らえ、そして今度は意味のある形で命を使う事が出来るとなれば、真に本望だ。

この『第六天魔王』の力はお前に託す……逆境を切り開いて見せよ市――我が最愛の妹よ……!!










魔法少女リリカルなのは〜夜天のなのは〜  夜天53
『絶望を転じて希望とすべし』











Side:シグナム


市に襲い掛かった姉さんを止めるように割って入った信長殿は、文字通りその身を盾にして市の事を護ったか――貴方もまた真の武人だったのだな……
武人であるならば、戦場で命を散らす覚悟はあったのだろう――ならば私達はその覚悟を受けとり、何としても姉さんを止め、主なのはを目覚めさせねば!

「市よ、実の兄を喪ったばかりで酷だとは思うが、行けるか?」

「……大丈夫ですよシグナムさん――
 兄様は戦国の武将ですから、戦場で散る覚悟位はしていた筈です――ならば、その覚悟をしていた者の死を哀しみ、落ち込むのは逆に無礼ですよ。
 其れに兄様は、私を護ってくれただけじゃなくて、私に新たな力を与えてくれた……この小太刀『第六天魔王』を!!」


なんと……!!
何やら強大な術を使っているように見えたが、まさか己自身を刀剣へと変えるとは……貴方は死して尚、戦場にその身を置くと言うのだな信長殿よ……

ウム、その武人の心、確と受け取った……私は騎士として、其れに応えるだけだ!!


「信長……アンタの思いは無駄にはしないわ!!」

「その魂の誇り、私達にも少し分けて貰いますね!」


その心と魂は、如何やらバニングス達にも伝わったようだな?



いや、此れもまた当然か?人の嘘偽らざる魂の思いは、他の者の魂に直接響くものだからな――其れを感じ取ったのだろう……マッタク見事なモノだ。



だが、だからこそ頼りになる。
魂に直接響くものだろうと、武人の其れを感じ取る事が出来るのは同じ武人か、或は戦士の魂を持つ者だけだ。

そして、この子達は幼いながらも戦士としての魂を持ち、同時に優しき心も持っている。
何よりも、この歳で『力を持つ者の責任』と『力の使い方』を理解していると言うのだ――共に戦う仲間として、これ以上頼りになる者も存在しないだろうさ。


「僅か10歳そこそこでこれ程とは、戦乱の世ならば女児であっても重宝されたかもしれませんよ?」

「この子達は、純粋に戦士として評価しても高い能力を有しているからな。」

その筆頭が、我が主なのはな訳だが――その主は、今この時は眠っておられるから、先ずはその目を覚まして差し上げねばなるまい。
尤も、其れは此れまでの幾星霜の年月の中で、一度も成し得なかった事だが、私が真の力に目覚め、そして此れだけの仲間が居るのならばきっと――!



「あぁ、確かにお前がその力を取り戻し、そして我が主には僅かに劣るとも此れだけの精鋭魔導師が揃えば大概の事は如何にか出来るだろう。
 だが、我が主は『障害は全て取り除け』と願ってしまった……暴走したこの身にとっては、お前達もまた取り除くべき『障害』に他ならない……!!
 そして目的のためには手段を選ばないのがリヒトの基本行動だ。
 相手が手強く、障害を取り除くのに時間が掛かると言うのならば、其れを解消する……術……をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」



――ゴォォォォォォォォ!!



「んな!?な、何よアレ!?」

「子供サイズの……夜天の魔導書さん……!!」


此れは……魔力で造り出した分身!!……数の利を潰しに来たか……!!


「お前達は強い、其れは認めよう。
 だがしかし、私を抑えるのならば数の利で攻めるのが最上であるのもまた事実――ならばその利を潰せば、お前達はもう何も出来はしない。
 そしてこの分身は、小さくとも私の分身だ、簡単に撃破できるようなモノではないぞ?」


流石によく考えているな姉さん、暴走しても聡明なのは変わらずか。
確かに数の利を潰されたのは痛いが、其れを知って敢えて言おう――其れが如何した!!

「確かに数の利は潰されたが、その分身の力は私には及ばない……つまり私の相手は姉さん本人と言う事だろう?
 そして、私に及ばないのであればバニングス達は多少の苦戦はしようとも、必ず分身を撃破するに決まっている!!――この程度で我等は揺るがん!」


「そうね……数の利を潰されたってんなら、逆に速攻でそのアドバンテージを取り返せば良いだけの事よ!!」


そう言う事だ。
姉さんの相手は私がする……分身達の相手は任せたぞバニングス、月村、テスタロッサ姉妹――そして市よ!!


「任されたわ!!こんな分身なんかに後れを取るアタシじゃないわよ!!」

「全てはなのはちゃんと夜天の魔導書、そして取り込まれたはやてちゃんを助ける為……此処からが本当の全力全壊だから!!」

「まぁ、お姉ちゃんが此処で諦めたら格好付かないしね〜〜?」

「友達の為に全力を尽くすのは当然の事……『友達は大事にしなさい』って母さんも言ってたから――!」

「何が何でも貴女を止めて見せます、夜天さん!!」


つまりそう言う事だ姉さん!!



――ガキィィィン!!



「皆が貴女を救おうと必死になって居る。………もう、これ以上貴女に破壊の業を背負わせはしない!!!」

必ず成し遂げて見せるぞ!……これ以上、姉さん達が苦しむのは沢山なんだ!!
もう充分だろう?……1000年近い時を苦しみと共に生きて来たんだ、もう平穏な世界で生きても誰も文句は言わない――苦難は此処で完全に絶ち斬る!



そして、平和な世界で共に暮らそうじゃないか?
主なのはだって、真なる願いはそうである筈だろうから―――








――――――








Side:はやて


――ゴゴゴゴゴゴゴゴ……



「む……外で本を読むのは至福の時だが、雨雲が出てきよったか……夕立的な通り雨だろうと思うが、一応は屋内に入って居た方が良いだろうな。
 戻るぞ小鴉、雲行きが怪しい故、屋内で待機するのが上策であるからな。」


……もう少し此処に居るわ――姉やんだけ戻ったらえぇよ。
それに雨が降って来ても、此れだけ大きな木の下やったら濡れる事も有らへんしな………


「そうか?……ならば我ももう少しばかり此処に居よう――共に雨宿りと言うのも、偶には悪くなかろう?」

「そうやね……」

小さい頃、公園で遊んでて行き成り夕立が来た時でも、姉やんは一緒に雨宿りをしてくれてたからモンな。
でも、その記憶があるからこそ敢えて言わせてもらうで姉やん――此れは……この風景は間違いなく『夢』やろ?……夢に決まっとるよね?


「!!……おかしな事を言う奴だ……夢の筈がなかろうが……」

「いや、夢や。
 私と姉やんは5歳も年が離れとるから、私が10歳やったら姉やんは15歳の筈やろ?……其れなのに此処での姉やんは私とそれ程変わらへんやろ?
 其れに、この大きな木やけど――この木は、もう存在してへん……私が高町家に引き取られた直後に家共々除去されてもうたからね。」

せやから此れは夢や…夢やないとオカシイやろ!!


「……あぁ、確かに此れは夢――お前の願望を最大限に再現した夢に過ぎん。
 だが、夢でもいいではないか!!此処でなら、我はお前の姉で居られる!!お前が欲しかった物が全てここにはあるのだぞ!?
 お前の手から零れ落ちてしまった、お前が欲してやまなかった幸福を全て与えてやる事が出来る……だから、此処に居ろ小鴉………!!」


!!
そうか、此処に居れば私の欲しかった物が全て手に入るんか……やったら其れも悪ないような気はするわ。

せやけど、だとしても私は―――!!!








――――――








Side:シグナム


「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「あぁぁぁぁぁあぁぁぁっぁあっぁ!!!!」




――バキィィィィィィィィン!!!



く……流石に一対一でとなると姉さんは手強いな……有効打を狙っても即時に対処されてしまうからな。


と言うか、そもそも私の方が圧倒的に不利なのは分かり切っているがな……
クロスレンジならば僅かに私が上回るが、私には姉さんの様な空間攻撃の手段は無い上に、ロングレンジにおける攻撃手段にも乏しいのは否めない事だ。

辛うじて姉さんとの『略ゼロ距離』を維持できているから拮抗しているが、間合いを外されたら一気にジリ貧は否めんな。


「将、お前ももう眠れ……」

「何れは眠る時も来るだろうが、其れは今じゃないので聞き入れる事は出来んな。」

何よりも、主なのはと姉さん達と、取り込まれてしまったはやて嬢を助け出さずに眠る事など出来んよ。
それ以前に、この程度で退く烈火の将ではない事は姉さんが一番よく知って居るだろう?……可能性が0でない限り、退く事も諦める事も絶対にせん!!



――ガキィィィン!!



「く……何故こうも抗うのだ将よ!!……この身の暴走を止める事が叶わぬと言う事は、お前が一番よく知って居るだろう!!」

「あぁ、知っている――だが、知っている故にな!!」

こんな事は、もう止めにしなくちゃいけないんだ!
其れ以上に、姉さん達にあの心優しい主を喰らわせてなるモノか!!……もしも其れが出来なかったら、私は絶対に永久に後悔するだろうからな……!!

紫電一閃!!

「無駄だ……!!」


!!神速の居合いを見切るとは……だが此れでは私が無防備に――!!



「終りだ将……ナイトメア・ハウル!!


カウンターの直射魔法!!……此れは避け切れん………!!
く……これしきで私は――!?だがしかし、此れを防ぐ手立ては一切ないのが事実………如何すれば良いと言うのだ――!!


『Protection.』



――ガイィィィィン!!



「!!お前は……!!」

『これ以上はやらせんませんよ……My Masterを救う手立てがあると言うのならば、私は其れに乗らせていただきます。』



!?……れ、レイジングハートが防いでくれたのか……スマンな、おかげで助かった。


『此れ位は如何と言う事有りません……全てはMasterを救い出すためですから。
 ですが、現状ではジリ貧になる事は明白――なのでシグナム、今この時に限り、私の全てを貴女に託します。
 私を使えば、貴女の最大の弱点である『ロングレンジでの攻撃手段に乏しい』は解消されるでしょう?……何よりもMasterの為にも……!!』



お前を私が……?



いや、ある意味では利に適っては居るか?
レイジングハートが力を貸してくれるのならば、確かに私の最大の弱点である『ロングレンジ戦闘』も補う事が出来るだろうからな?



……分かった、その提案は受け入れる!!
主なのはと、そして我が姉と、取り込まれてしまったはやて嬢を救い出すためにも、お前の力を貸してくれ!!


『All right.(勿論です。)
 序に、マスターの為に設定されていた隠し玉もお披露目するとしましょう!!』


「隠し玉だと?」

『Excellion Mode……Drive ignition.』



――轟!!




此れは……力が溢れて来る!!
調停者として真の力を取り戻した私ですら戦慄するほどだ――だが此れなら、この力ならば姉さん達を止める事だって夢物語じゃない!!


「将、その姿は――!!」

「どうやら、此処からが正真正銘の本気の戦いらしい――覚悟は完了しているよな姉さん!!!」

レイジングハートが、私に対してエクセリオンモードを発動してくれた故の事だが――それ故に私の気合も十分なのでな……一気に行かせてもらうぞ!!








――――――








Side:闇の書の意志


外では将達が頑張っているな……ドレだけ頑張ろうと、私の分身である融合騎プログラムを超える事は不可能だろう……だからこそ私は……


「あれ?……まだ夢?」

「きっとお疲れなのでしょう……もう少しだけ眠りに就いていて下さい……」

「うん……きっとそうだね……」


我が主と運命を共にする覚悟だ……唯一其れだけが、私に出来る全ての事なのだから……ですから、せめて優しき夢に心をゆだねて下さい。
そうすれば、痛みも苦しみも感じる事はありません……貴女を傷付けるような不埒な輩だって存在し得ない。


さぁ、もう一度お休みを、我が主………


「うん、そうだね……お休み……」


そう……眠って下さい――そうすれば、貴女の望む物は夢と言う形で全て手にする事が出来ます……真なる終焉が訪れるその時まで……


「…………」

「眠ったか……」


……本音を言うならば、私もナハトもこの心優しき主を喰らう事などしたくないが……だが、自分では如何する事も出来ん。
もしも、もしも本当に私を止める事が出来ると言うのならば、何としてでも止めてくれシグナム――!!


世界を破壊するなんて言う事は、もう充分だ……これ以上はしたくない!!



――だからどんな方法でも良い、この姉の愚行をどうか止めてくれ、我が妹よ……!!















私とナハトを……助けてくれ――














 To Be Continued…