Side:信長
…!隼人達の気配が消えただと?……只事ではないな。
高町なのはの騎士達には及ばぬとも、隼人達とて相当の手練れ――その気配が消えたとあっては、何か捨て置けぬ事態が起こった事は間違いない…。
まして、あ奴等は高町なのはの護衛に付いているのだからな。
隼人達の気配が消えたと言う事はつまり、あの娘と騎士達に何かあったと見て先ず間違いなかろうな。
「ふ……『第六天魔王』を名乗るワシが戦と無縁になる筈もないか。
どんな敵が待っているかは分からんが、だからと言って尻込みしては『尾張の虚け』の名を威勢の良さとする事も出来ぬ……!!」
そうとも、幾年月を重ねようともワシは永劫『尾張の虚け』よ。
ならば虚けは虚けらしく、眼前の事に集中し、そして未来へと道を繋ぐが真の花道と言うモノだ。
まして時代を担う娘達――その中心となるであろう高町なのはに何かあったのを無視して何が天下人か……!!
我が遺志を継ぎ、この時代での天下を取って覇を成すのは、ワシを正面から撃ち破ったあの娘以外には存在せん……あ奴こそ真の天下人よ。
だが、戦国の世を渡っただけに分かる――ワシの命はこの冬空に散るとな。
だからと言って退く気はない……所詮は人生50年!!ワシの命が新たな世代の未来を紡ぐための礎となるのならば本望よ!!
何れにしても此れがワシの生涯最後の戦だ……全力全壊で挑もうではないか!!
……ふむ、少しばかり高町なのはの影響を受けてしまったようだなワシも……
魔法少女リリカルなのは〜夜天のなのは〜 夜天52
『希望と絶望、其れは表裏一体』
Side:シグナム
……この力、貴女には分かるだろう姉さん?
此れこそが私の『調停者』としての真の姿にして、主なのはとの絆によって取り戻した我が真の力――書の全てを制圧する『絶対的な存在』だ。
まぁ、後付けのプログラムに侵された姉さんとは此れで漸く互角と言うところだろうが、私には共に戦う仲間が居る――何方に利があるかは分かるだろう?
「確かにその力が完全覚醒したお前ならば私とも対等に渡り合えるし、主の友人達も加わればその戦力は相当なモノだろう。
だが、其れでも尚この身の暴走を止められるかと言われれば其れは否だ…一度暴走したが最後、蓄えた魔力と主の命が尽きるまで暴走は止まらない。
そしてその凶悪な力は、ドレだけの魔導師や騎士が集まっても止める事は出来なかった。
お前が幾ら真の力に覚醒しても其れは変わらない……抗いきれない破壊衝動に呑まれた私の無茶苦茶な攻撃は、ありとあらゆるものを破壊する。
其れこそ相手がドレだけの魔導師や騎士であっても、破壊衝動に駆られるまま相手の命を奪う……もう、救いはないんだ。」
確かに状況は相当に悪いやもしれんが、生憎と私達は諦める心算など皆無でな。
それ以前に、主なのはの友人は……引いては私も目の前に困難が現れたからと言って、其処で足踏みするような性格ではない――突き進むだけだ!!
「あくまで退く気はないか……お前達を殺さずに済ます事は出来ない……精々恨んでくれ……」
誰が誰を恨むんだ姉さん?
其れに私達を殺してしまうだと?……誰も死にはしないさ。
私に限って言うならば、仮に此処で一度消えたとしても、主なのはがお目覚めになれば直ぐに戻ってこれるからな?
大体にして今までとは違い、私1人で姉さんに挑む訳では無いんだぞ?
「自分の力だけで如何にも出来ないからって諦めてんじゃないわよこの馬鹿チン!!」
「せや、自分だけでどうしようもなかったら他の誰かを頼れば良いだけやで?」
「幸いにして、此処には頼ってくれていい人が7人も居るんだから!!寧ろ頼ってくれないと!!」
「貴女を救ってなのはも救う……私達の目的は其れだけ。」
「必ずなのはちゃんは目を覚ます……私達で覚まして見せる!!」
「詳しい事は分からないけど、友が苦しんで居るならば其れを救うのが、友としての務めです!!此処で貴女を止めて見せる!!」
守護騎士に引けを取らない魔導師が5人に、戦国と言う乱世を生き抜いた姫武将が居るんだ――諦めて退くなどと言う選択肢があるか!!
今度こそ、この負の連鎖を断ち切らずに如何して主なのはに……我等守護騎士に『心』を下さった主に顔向けが出来る!?
「お前の言う事、分からなくもない……だが、一度幕が上がった終焉は止まらないのはお前が一番知って居る筈だ。
この身の破壊衝動は、もう止まらぬ……主の命尽きるその時まで破壊行動は終わらない!!……退かぬなら、闇に沈めシグナム!!」
――ドドドドドドドドドドドドドドッドドオドドオッドドド!!!!
……赤い短剣――恐らくは射撃魔法なんだろうが、此れはまたものすごい数だな?――ざっと見て100発は下らないだろう。
機動力に優れるフェイトや私ならば兎も角、月村やバニングスは全弾回避は不可能だろう……まして市に至っては、余りにも分が悪すぎるか……
「穿ち貫けぇぇ!!」
「!!」
……だが、誘導性の低い攻撃等恐れるに足らん!!
この程度の魔力射撃など、主なのはが本気を出した『アクセルシューター』にも及ばない――だから全て叩き落とすぞ、レヴァンティン!!
『Jawohl Schlangebeissen.』
――ガチャ……ブオォォォォォォオォォォォォォォ!!
「あ、アレだけの数を1人で捌いたと!?……いや、本来の力を取り戻したシグナムならば此れ位は造作もない事だったな……」
この程度の攻撃ならばな。
だが、よそ見をしている暇はないと思うが?
「アイスバインド!!」
「不動金縛り!!」
――バキィィィン!!!
「!!二重のバインドだと!?………お前が1人で私の攻撃を叩き落したのは、意識を其方に向けてこのバインドを確実に決める為だったと言う事か…!
く……予想外に堅いな此れは……!!!」
市の方は初見故に分からんが、月村の氷のバインドはおいそれと外せるものではないぞ?
パワーだけならば守護騎士の中で最強のヴィータですら、月村のバインドを外すのは苦労していたからな――少なくとも数秒は動けまい!!!
「バニングス!フェイト!!アリシア!!!」
「みなまで言うなってのよ!!火力最大のセカンドシュート!!」
「まっかせなさ〜〜い!!ライトニングショット!!」
「吹き飛ばす……プラズマスマッシャー!!」
「く………はぁぁぁぁあぁぁっぁあぁぁぁ!!!!
――バキィィィン!!バシィィィィィィィィ!!
!!……直撃ギリギリでバインドを砕いてシールドで防ぐとは見事だ――だが、戦場に於いては攻撃は常に二段構えで行うのは鉄則だ!!
脇が甘いぞ姉さん!!烈火一閃!!
「もろたぁぁ!!スティンガー!!」
「砲撃と射撃は見せ技だったか……見事な連携だが、私がこの程度の攻撃に対処できないと思ったか?」
「思ってはいないさ。
だが、流石に砲撃を防いだのとは違って、クロスレンジでの攻撃を防御すれば、ガード硬直は当然大きくなるのは分かるな?」
盾で防げばいいだけのロングレンジ攻撃とは違い、クロスレンジの攻撃は寧ろ防いだ後の対処の方が重要だ。
防いだのならば、防いだ状態で押し返すのか、それとも点をずらして攻撃者のバランスを崩すかで大きく状況は変わって来るモノだからな?
まして、一対一の戦いではなく、今の様に一対多の戦闘に於いては攻撃された側の対応は『防御一徹』に限定される…下手に点をずらす方が危険故な。
だからこそ、私とはやて嬢の攻撃を受け止めた状態で引くか押すかの二択に限定される!!
幾ら姉さんでもこの状況で、其れを一瞬で決める事は出来ないだろう?
否が応でもコンマ数秒動きが止まる………其れが私達にとっては絶対の好機に他ならない!!
「皆を護る……破ぁぁぁぁぁぁぁぁ……連昇!!!!」
「此れで……ダイヤモンドダスト!!!!」
市と月村の同時広範囲攻撃は流石に避けられまい?
そして此処からが私のターンだ!!……姉さん達を苦しめている後付けのプログラム――貴様を斬刑に処す……!!
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「!!!……に、二刀流での連続斬撃だと!?……剣士としての力はまるで衰えていないなシグナム!
こんな状況でなければ諸手を上げて喜んでいるところだが、今はそうも行かない……其れに衰えてないとは言っても攻撃の太刀筋は既に承知だ!!」
「……本気でそう思うか?」
「何?……ごほぁぁぁ!?……ち、超高速の横蹴りだと!?」
この世界で私は己を鍛え直し、そして恭也殿から徒手空拳の格闘術も教えて頂いた……今の私に死角はない!!
今の横蹴りも挨拶代わりに過ぎん……本番は此処から――鍛え抜いた我が剣技を受けきれるなら受けてみろ姉さん!!飛竜一閃!!
「何と言う……だがこの程度ならば!!」
「大した事は無いだろうな……だが飛竜一閃は囮だ!
私の二刀流を見たお前ならば私の体術を見切るなど造作もない事だろう……そして今の飛竜一閃ですら布石に過ぎん!!」
この状態で仕損じる事はあるまい?……思い切りぶちかましてやれ!!
「うおりゃぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「上から!!」
常に戦場では二重三重に網を張り巡らすべしとは正に至言としか思えん――打ちかませ、はやて嬢!!
――バキィィィン!!
「ぐぬぬ……ドンだけの反応しとるんや自分!?……ほぼ真上からの落下速度がプラスされた兜割を防御するってドンだけやねん……」
「此れもまた、お前達が分け与えてくれた魔力故にだ――だがまさかお前がとは……
お前の心にも闇がある、求めてやまないモノがある……お前もまた安らかな夢の中で眠りに就くが良い……」
『Absorption.』
――シュゥゥゥゥン……
な……はやて嬢を取り込むと言うのか!?……止めろ、これ以上無用に命を奪うな!!!
「な、何や此れ……あ…あ…うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「「「はやて!!」」」
「はやてちゃん!!」
「はやてさん!!!」
――!!はやて嬢が取り込まれてしまうとは、流石に予想外に他ならん………しかも彼女の離脱は余りにもありがたくない事だ……状況が状況だけにな。
「アイツもまた私に取り込まてしまった………もう、終わりだ。」
確かに、状況は相当に悪くなったのは間違いないだろうな――だがだからと言って退く気は一切合財有り得んがなぁ!!!
――――――
Side:はやて
ん……んん?……何や眩しいな…カーテンの隙間から光が流れ取ったんかい……完全遮光カーテンにしろや先ずはな。
って、そうやなくて、私は夜天の書の管制人格に捕らわれて……気付いたらこんな所に居るとは意味不明やなぁ……まるで夢みたいや。
「朝餉の準備が出来たぞ小鴉!!さっさと着替えてリビングに来るが良い!!」
「え?」
この不遜な態度と『俺様最恐』とも言われるこの話し方は――
「姉やん…?」
「やっと起きたか……マッタクとんだ寝坊助が居た者よ……!!」
やっぱり姉やん!!……お父さんとお母さんと一緒にお星さまになってもうた姉やんが……如何して此処に……!!
「?……何を神妙な顔をしている?我の顔になんかついているとでも言うのか?」
「いやいやいや、何も付いとらんよ姉やん!」
とは言っても懐かしい感じは否めへん………本来なら、こうして二度と会う事はなかったやろうからね……
「そう、はやても90点を取ったのね!!」
せやけど此れは……仲睦まじい家族の姿は――ずっと、ずっと私が望んどったものや……欲しかった幸せや………私は……!!!
「ぬおぉぉ!?如何した小鴉!?……寝ぼけているのか!?」
「分からへん……せやけど今だけはこうさせてや、姉やん………そうやないと私……自分の感情を抑える事が出来そうにないんや……
せやから……お願いや姉やん……落ち着くまでこのままで居させて――は流石にダメやろか?」
「……好きにするがいい……抱き着かれたとて減る物は一切ない故な……」
……間違いない……此れは夢や。
私と姉やんは二度とこうやって触れ合う事は出来へん……せやけど、夢でも今だけは……
「怖い夢でも見たのか?……我に抱き付く事で其れが緩和されるならば好きにせよ……妹を思わぬ姉など居らぬからな………」
ちゃう!!……受け入れたらアカン!!
此れはあくまでも夢……幾ら私が望んで居た物だとしても此れは夢で偽物や…!!……其れは分かっとる……分かっとるのに!!!!
もう二度と会う事が出来ないと思ってた家族との再会に――涙を堪える事は出来そうにないわ………
――――――
Side:市
まさか、はやてさんが取り込まれてしまうとは……この局面での戦力減衰は正直言ってきつい事に他ないわ。
しかも夜天さんの暴走はドンドン強くなるばかり――恐らく取り込んだはやてさんの力も使っているんだろうけれど、それでもあの暴れっぷりには脱帽です。
もしも夜天さんが戦国の世に居たら、その武力で天下を統一していたかもしれません。
まぁ、現状はそんな事は如何でも良い状況ですが……すずかさんの氷の拘束を躱して、夜天さんはこっちに!!!
しかも左腕と一体化してる攻防自在のデバイスの杭が私に向かって……!!
だけど多分、迎撃は間に合わない!!!
「友を手に掛ける私を、如何か許してくれ……!!」
「!!?」
は、早い!!此処まで速いだなんて……迎撃どころか回避すら不可能――そんな、此処まで……
――ドスゥゥゥ!!
「!!お前は!!!」
え?何時まで経っても何もない?それ以前に夜天さんは何に驚いて――
「ククク……如何やら間に合ったようだが、此れはまたトンでもない貧乏くじを引いてしまったモノよ……
其れは兎も角、久しいな市よ………隼人達の気配が消えたと思って来てみれば、よもやこれだけ派手なドンパチをしているとはな……!!」
「兄様……!!」
兄様が、私と夜天さんの間に入って攻撃を止めてくれたんだ……!!
だけど兄様は…身体を貫かれてる……しかも胸を貫かれてるから如何考えても……!!!そんな……兄様……!!
To Be Continued… 
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