Side:市
………無事…みたいだけど何で?夜天さんのあの一撃は、私が耐えられる範囲をずっと超えているのに……
『何とか間に合ったようですね……流石にマスター不在で魔導を行使するのは骨が折れましたが……』
貴女は……確かなのはさんの相棒のレイジングハート!!――貴女がとっさに防壁を張ってくれたおかげで、私達は消し飛ばずに済んだと言う訳ね……
とは言っても、如何したモノかな?……なのはさんは恐らく取り込まれてしまったんだろうし、夜天さんだって普通じゃない気配をヒシヒシと感じるわ。
なのはさんを助け出す事が出来れば或は、夜天さんの暴走も止まるかも知れないのだけれど――
「最悪の状況になったわねロッテ……此れじゃあ……!!」
「だな……だけど諦めるにはまだ早い――少なくともアイツが活動している内は高町は死んでない!
だったら、完全に暴走する前に高町の意識を呼び戻す事が出来れば、未だ可能性はある……0%じゃない可能性があるうちは諦めない……だろ?」
「そうね……まだ終焉の幕が上がっただけで、其れが全てじゃない――高町を救う事が出来れば!!!」
未だなのはさんを助け出す事が出来る可能性がなくなった訳じゃない………!!
なのはさんが目を覚ませば、夜天さんの暴走だって止まる――だったら、本当にダメになっちゃうその瞬間まで足掻くのが最上の策なのは間違いない!
足掻いて、足掻いて、足掻き倒した末になのはさんと夜天さんを救う事が出来たら、これ以上の事は無いもの。
正直な事を言うなら、私がどれだけ出来るかは分からない…
だけど、救いの可能性が残されてる友を見捨てるなんて事は、例え女と言えど戦国武将の名折れ――それじゃあ死んでも死にきれないわ。
ダメもとなのは分かりきってるけど……だけど、其れでも私は退く気はない。
第六天魔王・織田信長の妹が市――友の為に全力を尽くして戦います!!!
魔法少女リリカルなのは〜夜天のなのは〜 夜天51
『暴走の使徒、闇の書の意志』
Side:闇の書の意志
……市と、将達は何とか今の一撃を防いだか。
願わくば、そのままこの場所から離脱し、可能な限りの人々を率いてこの星から脱出してほしいのだが――其れは無理な相談か。
我が主の友人も、そして市も友を捨て置く事など出来ぬ性格だし、将は我が主に絶対の忠誠を誓っているが故に、此処から引く事は先ず有り得ない……
だが、だとしても、貴様等だけは滅さねば気が済みそうにないな……騎士達を模した偽騎士と、その主たる魔導師よ…………
「いやぁ、実にお見事。
もしも結界内部でなかったら、今の今の君の一撃で海鳴とか言う街は跡形もなく吹っ飛んでいただろうね〜〜………お世辞抜きに素晴らしい力だ。
だが、だからこそ、その力は僕が持って然るべきなんだ――半身不随の小娘が持つよりもずっとその力を使いこなす事が出来る筈さ。」
………貴様、我が主を愚弄するか?
それ以前に、貴様如きが私を使いこなす?――馬鹿と冗談は休み休み言うが良い。
貴様程度の矮小な存在が、我が身を意のままに操れると思ってか?
「操れるさ。
君の機能を一時的に低下させれば、其処を突いて配下とするのは訳ないからな?――その為に『閃光の書』は造り出したも同然だからねぇ?
強化された騎士達は、最早君では対処できないレベルに居る!!精々美しく散ってくれよ!?」
呆れて物も言えんな?
その形だけの騎士擬きが、私を凌駕する力の持ち主だと?――寝言は寝てから言え、この程度の使い手ならば古代ベルカには掃いて捨てる程居た。
――バガァァァァン!!
「「「「!?」」」」
「所詮は造り上げられたプログラムに過ぎん存在か………とっさの事態に対応する能力が此処まで低いとはな……」
死角からの射撃が来る事も予想できなかったか?
其れとも自らの攻撃は必中であるとでも妄信していたか……何れにしても貴様等への裁きは此処からだ……縛れ、封縛!!
――バシィィィ!!!
「!?……ば、バインドだって!?」
「しかも堅い……此れは外せない……!!」
一切の自由が効かずに、最大級の攻撃を喰らうと言うのはどんな気分だ?………どんな気分であれ、其れは私には一切関係がない事ではあるがな。
だが、貴様等の撃滅は我が主が望んだ事であるが故、先ずは其れを果たさせてもらう。
「せめてもの手向けだ、我が主の最大の一撃で逝くが良い……!!」
――キィィィィン………
「こ、此れは!!!」
「し、集束砲だと!?」
如何にも………そして貴様等を冥府へと誘う、破滅の光だ……精々己の愚行を悔いるんだな。
「咎人達に滅びの光を。星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ。貫け閃光!スターライト………ブレイカァァァァァァァァァァァァァァーー!!」
――キュゴォォォォォォォォ……ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッァァァ!!!!!!
「な…馬鹿な!!」
「俺達が……こんな所でぇぇぇ……!!」
「まさか………そんな、馬鹿な………」
「いや〜〜〜〜〜〜〜〜………!!!」
他愛もないな?一撃で塵と消えたか――尤も黒幕だけは、ギリギリ転移魔法で逃げたようだが。
だが、だとしても偽騎士は二度と現れる事は無い、今の集束砲で構成情報、リンカーコアその他全てを跡形もなく吹き飛ばしたからな――
「逃げやがったなアイツ!!」
「逃がすもんですか……追うよロッテ!!」
「応とも、アリア!!」
彼女達は……別に追わずとも、直に奴も滅びる――こうなってしまった以上、滅びの道を回避する術などありはしない……
「ナハト、矢張り我等には救いの道は幻想でしかなかったのだな。私が不甲斐ないせいで、お前にはまた辛い思いをさせてしまう……
リヒトに捕らわれたお前を誰も責めたりはしない、全ては私の責だ………」
自動防衛一時停止、此処からは暫し、私が主の事を御守りする――真の終焉が訪れるその時までな……
――ギュルリ……
またしても、お前を武器として扱う姉の事を、如何か許してくれ………終焉の、幕開けだ――
「未だだ!!」
「未だです!!」
将…其れと市?……いや、この2人だけではない……
「な〜〜〜〜〜に、勝手に諦めてくれちゃってんのよ夜天の魔導書!!」
「アンタが出て来た言う事は、未だなのはちゃんは生きとるんやろ!?
暴走は蒐集した魔力と、捕らえた主の命を燃やし尽くすまで続く……やったら、未だなのはちゃんは助けられる!」
「なのはちゃんを助ける事が出来れば、書の暴走も止まる……そうだよね?」
「諦めるのはまだ早い……ううん、絶対に諦めない!!」
「そう言う訳だから、終焉の始まりはキャンセルして、此処からは救済を経ての新章の始まりって言う事で!!!」
主の友も……!!
予想はしていたが、矢張り結界の外に逃げてはくれなかったのか……
――――――
Side:ヴォクシー
クク……クハハハハッハハハハハハ!!!まさか、僕が作り出した騎士達が一撃の下に葬られてしまうとは、予想以上の強さだよ闇の書と言うのは!
或は、今回の主が高町なのはだからこそ此処までなのか……何にせよ11年前に暴走させた時とは比べ物にならないね。
これ程となると真正面から挑むのは愚の骨頂だが、だが闇の書と高町なのはの仲間達がぶつかれば必ずどこかで隙が出来る筈だ。
其れを突いて、あの力を僕のモノにする。
「もっともその為には、鬱陶しい駄猫姉妹を如何にかしないといけないが――」
何とも奴等は、猫が素体と言うのが厄介極まりないな?
猫と言えば極めて視覚と聴覚が鋭い動物だ――この暗がりでも簡単に見つかるだろうし、微かな物音でも速攻でばれるのは間違いないだろう。
……チャンスが来る時まで、認識障害と防音の魔法を掛けて行動しておくのが吉だな。
まぁ、この程度の窮屈な思いもアレを従える為の下準備と思えば何と言う事は無い――アレを従えれば、僕は全ての次元世界の『王』となるのだから!
――――――
Side:シグナム
「なぜ結界の外に逃げなかった?
一度暴走したが最後、私はもう止まらない……結界の外に逃げ、そして管理局に要請すれば、せめてこの星から離脱する事だって出来ただろうに…」
「我等が其の道を選ぶと思っているのか姉さん?
私も、そして主なのはの友人達も自分だけがのうのうと生き長らえる道を選ぶ事などしない……自分だけが逃げて助かる等、クソ喰らえな選択肢だ!」
「そうですよ夜天さん……まだ終わってないんです!!!」
……そう言えばお前は――若しかして信長公の妹君か?書の中に居ると聞いていたが……
「暴走が始まる刹那の瞬間に、夜天さんが外に出してくれたんです――シグナムさん達と同じ存在に作り変えて。」
プログラム生命体になったと言う事か?……まぁ、今の局面に置いて戦力は多いに越した事はないがな。
信長公の強さは、ジュエルシードの一件での主なのはとの一騎打ちで知っているが、お前も腕に覚えはあると見た――力を貸してくれるのだろう?
「勿論です!
偶然とは言え、私は夜天さんと友達になりました……だったらその友が苦しむのを黙って見ている事など絶対に出来ません!!」
「おぉ?お市さんが味方とは、こら頼もしいなぁ?」
「『男児だったら良き武将になって居た』って言う信長の評価……期待してるわよ!!」
ふ……士気は充分のようだな?
聞いた通りだ姉さん、私も彼女達も退く気は一切ない……己の全身全霊を持って貴女を止める!そして主なのはを救う!!
もう、此処で終わりにしなくてはならないんだ、こんな無意味な『負の連鎖』は!!――故に、一切の手加減はしない……覚悟は良いな姉さん……!!
「……無駄だ……其れはお前が一番分かっているだろう将――シグナムよ。
お前は父さんのプログラミングにより、書に何らかの不具合が生じた際に私とナハトを抑えて書の機能を元に戻す『調停者』となった。
だが、リヒトの存在がナハトを狂わせ、私を狂わせ……結果として、調停者であるお前でも私を止める事が出来なくなった事を忘れた訳じゃないだろう?
今回も今までと同じ――寧ろもっと悪い。
善意で差し出された魔力は何れも強く、主の魔力も極めて強い――そのせいで私の力は此れまでとは比べ物にならないレベルになってしまった。
今まで何度も私を止めようとして出来なかったお前では、今回は更に止めるのが困難だと言う事は分かるだろう?……もう、止まらないんだ!!」
確かに、私は此れまで何度も貴女を止めようと挑み、そしてその度に敗北して来た。
だが、今回だけは違う!!
確かに蒐集した魔力と、主なのはの力によって姉さんの力は此れまでとは比べ物にならないだろう。
だが、主なのはとの絆は私の力をも増幅してくれた。
主の優しき心が、私の『調停者としての本来の力』を取り戻してくれた………だからこそ、今回こそは止めて見せる!!
貴女も、ナハト姉さんも、そして主なのはも必ず救う!救ってみせる!!!!
「覇ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
――轟ォォォォォォォォォォォォォォォ!!!
――バチィィィィィィィィィィィィィィ!!!!
「んな!?し、シグナム!!アンタ、其れ………」
「シグナム……その姿は…!!髪と瞳の色が変わったその姿は――まさかお前!!!」
あぁ……此れこそが『調停者』としての力を全開にした私の姿だ。
リヒトの影響でこの力は抑えられていたが、主なのはが我等ヴォルケンリッターを『人』して扱い、そして触れ合ってくれた事でこの力を取り戻せた……!
調停者としての本来の力を取り戻したならば、此れまでの様には行かんだろう?
其れに、世界を滅ぼすのはもう充分だろう?……姉さん達も主なのはとの穏やかな日々を過ごしてほしいんだ。
「……良く出来た妹と言うのはお前のような者の事を言うのだろうな。
この身がリヒトに侵されて居なければ、お前の事を抱きしめて頭を撫でてやりたい所だが、破壊衝動に呑まれたこの身では其れすら出来ん……
本音を言うなら、私だってまだ終わりたくはない……この心優しき主を喰らい殺したくはないし、お前達の事だって滅したくはない…したくないんだ!!
だが、身体が言う事を聞いてくれない……リヒトの暴走に駆られるまま、私は全てを破壊しつくす……そうする事しか出来ない……だから――!!」
……其れが如何した!!
私が本来の力を取り戻し、そして主の友人達が集い、市も力を貸してくれると言うのだ――此れだけの戦力が集って出来ない事など有るモノか!!
其れに何より、私は主なのはをこの身が朽ち果てるまで護ると誓った。そして姉さん達の事も救うと誓った!!
騎士の誓いは絶対!!……其れを破ったら私は二度と主なのはに顔向け出来ん……だから、もう終わりにしよう姉さん……今こそ呪いを断ち切る時だ!
――――――
Side:なのは
………此処は………
「何時もの夢です、我が主………其のままお休みを………」
夢……なのかな?
なんだかものすごく怖い――ううん、絶対に認める事が出来ないモノを見たような気が……アレはやっぱり夢だったのかな……?
「全て夢です……辛い記憶も、悲しい出来事も全てが夢……
……眠って下さい、さすれば全ては夢と消え、貴女の願望も叶うでしょう………さぁ、目を閉じて………」
そっか……やっぱり夢だったんだ。
そうだよね、あんなのは夢に決まってる……目を覚ませばきっとシグナム達が笑顔で居てくれる………ヴィータちゃん達だってきっと……
大丈夫……アレは夢……只の有り得ない悪夢。
起きればきっと何時も通り――お父さんとお母さんが居て、お兄ちゃんとお姉ちゃんが居て、そしてシグナム達が居る……そうに決まってるよね?
「えぇ……貴女が其れを望むなら………」
「そっか……なら大丈夫だね……」
なら尚の事朝にならないかなぁ?……上手に焼けるようになったオムレツを、騎士の皆に食べてほしいからね………あぁ…眠いなぁ………
「申し訳ありません…我が主……!!」
何で謝るのかなぁ?………大丈夫だよ?……私は大丈夫………眠りから覚めた時にはきっと、温かい世界が待っててくれると思うから………
そうでしょう?……其の筈だよね……ねぇ、シグナム……
To Be Continued… 
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