Side:闇の書の意思


うぐ……く……矢張り、主の心が闇に傾いた今、リヒトを制御するのは難しい……だが、今の段階ならばまだ抑え込む事も可能かもしれない。
とは言え、其れも成功率は五分五分……主の心が完全に絶望の闇に堕ちてしまったら、リヒトの暴走は最早止められん――!!


「夜天さん、私に出来る事は何かありますか!?」

「悪いが市、現状でお前が出来る事は何もない………だが最悪を想定して、お前の事を騎士達と同じプログラム生命体として書の外に出す。
 リヒトの暴走に対処しながら故に、書の外に顕現するのはある程度の時間が必要だろうが――顕現したら主の友と共に結界の外に逃げろ……!!」

可能な限り抑えてはみるが、リヒトが暴走したら誰の手にも追えない。
其れこそ全てを喰らいつくし、エネルギーが尽きるまで破壊の限りを尽くさねば止まらない……そうなる前にお前達だけでも逃げてくれ……!!


「!!い、嫌ですそんなの!!
 逃げるって事は、なのはさんと夜天さんを捨て置く事になっちゃいますから……そんなのは絶対に嫌です!!」

「だからと言ってどうする!!リヒトが暴走する度に私は自分では抑えきれない破壊衝動に飲まれ、ナハト共に数多の世界を滅ぼして来た。
 此度は主の為に可能な限り抗っては見るが、暴走を抑えられる可能性はどんなに高く見積もっても50%……普通に考えたら30%にもならない!!
 そして、さっきも言ったが一度暴走すれば、私もナハトも止まらない……親しい者でさえ破壊衝動に駆られるままに殺してしまうんだ……!!」

その為に、私は此れまで何度将を、我が妹を手に掛けて来たか数えきれないくらいだ。
だから頼む……もしも私に真の友情を感じて居るなら、私の願いを聞いてくれ!!

其れでももし逃げないと言うのならば、せめて暴走した私を完膚なきまでに破壊してくれ……望まぬ破壊を行うのは、流石にもう疲れたよ………
何方の道を選ぶかはお前に任せるが……頼む市、私の願いを聞いてくれ!!


「夜天さん!……きゃぁぁぁぁぁぁっぁぁ!!!」


……これで、少なくともお前を取り込まずに済んだ。
私の願いを聞いてくれ……そして、この事を主の仲間達に、将に伝えてくれ………そして願わくば私とナハトを完全に消し去ってくれ。
この心優しい主を喰らい殺すくらいならいっそ――………何故、こうなってしまうのだろうな………もう沢山だよ。










………誰か、助けてくれ……!!










魔法少女リリカルなのは〜夜天のなのは〜  夜天50
『Emergency Holly Night』











Side:シグナム


覇ぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ!!烈火一閃!!


――ズバァァァア!!


如何した、我等が主に害成す賊共よ?威勢だけ良くて中身はからきしの口だけか?
既に50人以上をレヴァンティンの錆としてやったが、私はマダマダ息の一つも乱れてはいないぞ?……其れとも思った以上に相手が悪かったかな?


「「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」」」

「この程度の安い挑発に乗って特攻か?
 所詮は我等の模倣と雑兵の集まりに過ぎんか……その程度の実力で夜天に集う雲を払おうなどとは片腹痛い!!飛燕一閃!!



――ドゴォォォン!!



瞬刃烈火、迷いはない!

マッタク、プロフェッサー・グランツには感謝してもしきれんな?
強化改造で、新たに斬裂能力を高めた日本刀形態の『ヤマトフォーム』と、高速戦闘用の二刀流『デュアルフォーム』を追加してくれたのだからな。

ヤマトフォームは通常状態よりも、より居合に向いている故に、紫電一閃以上の高速抜刀攻撃が可能だ。
そしてデュアルフォームはリーチこそ短いが、その分他の形態よりも素早く振る事が可能で、手数ならば誰にも引けを取る事は無いだろう。

そして私自身が、恭也殿や美由希殿と日々の鍛錬を重ねる事で、この2つの新形態を完全に使いこなせるようになっている――故に隙は無い!!!



「確かに、見事な強さだ闇の書の剣騎士よ。
 だが、我等にかまけて少しばかり本質を見抜けなかったようだな――試合には負けるだろうが、勝負に勝ったのは私達の方だ!!」


なんだと!?――まさか主なのはに何か!!



――ヴォン……




え?……な、なんだ此れは!!……いや――お前は!!!!


『闇の書の起動を確認――ストレージの完成を優先……鉄槌、湖、守護獣の3基の守護騎士を破棄………』


ナハトヴァール!!
まさか……暴走したと言うのか!?そんな…何故!!



「……思い出した……全部、鮮明に!!
 そうだよ……コイツが居たから……コイツのせいで、アタシ達は此れまで!!!」

「待てヴィータ!!!」

「お前が居たからァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」



――ガキィィィン!!!



「んな、無傷だと!?――!!が……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


『Sammlung.(蒐集。)』


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

「むおわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


ヴィータ、シャマル、ザフィーラ!!

貴様等……主なのはに何をした!言え、言わねばこの場で斬り捨てる!!!


「好きにすればいい……だが一つだけ言えることは、最早貴様等に救いなどはありはしない……精々終焉の時まで無様に足掻くが良い。
 そしてその後に、貴様等は全てが我が主の力となる……此れはもう確定した、変えようのない運命だ!!!」

「貴様ぁぁぁぁぁぁ!!!」


――ギュルリ……



!!!此れは……!!く……この黒蛇は…!!
私の事は蒐集しない代わりに、蒐集の邪魔にならない様に動きを封じる心算か……!!


「うわ!?な、何や此れ!?」

「黒蛇って……気持ち悪いから絡みつくな〜〜〜〜!!!」

「てかこれドンだけ堅いのよ!?……全然、外れないじゃない!!」

「く……これじゃあ、シャマルさん達を助けられない……!!」

「この……外れろ!!!」


はやて嬢に、月村にバニングス……其れにテスタロッサ姉妹も捕らわれてしまっただと!?……此れは良くない状況だな――


「よもや己の本体とも言うべき物に拘束されるとはな……精々、終焉の時をその目で見届けるが良い……」


貴様!!待て!!!


――ギュン………



!!……此れは……捕縛結界!?
まさか、徹底的に私達を封じ込める心算なのか!?……拙い、身動き取れないこの状況では……く……うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!








――――――








Side:レイジングハート


Master、Master。確りしてください。気を確かにもってください。
今し方殺されたのは、マスターの家族ではありません、奴等が用意した偽物に過ぎません――だから大丈夫です、絶望に捕らわれないでください。


「………………」

『Master?』

「ククク……随分と人間臭いインテリもあったモノだ――その主への思いはある意味で見上げた物だと褒めてやる。
 だが、幾ら語り掛けても無駄だぞ?万が一を考え、その娘には『防音』の魔法を使った……貴様の声など届かんさ。」


この腐れ外道、悪逆非道も大概にしなさい。
今直ぐMasterを元に戻さないと、最強最大の全力全壊をぶちかましますよ?


「そんなハッタリが通用するとでも?
 貴様は所詮はデバイス……使い手が居なければなんの力も発揮できないビー玉に過ぎん……精々主が死に行く様を拝むが良い。」


ち……幾ら何でも今のは苦しすぎましたか……ですがこれは相当に拙いのは間違いないでしょう。



お願いですMaster、心を強く持ってください………貴女が死んでしまうなんて……そんな事は、絶対に嫌です………








――――――








Side:なのは


如何して……如何して……如何して!!如何して!?何でお母さん達が死ななきゃならないの!?
夜天の魔導書が狙いだって言うなら、私を襲えばいい!私一人をターゲットにすれば良い!なのに……如何して無関係なお母さん達を………!!

何時も優しかったお父さんとお母さん。
口数は少ないけど、何時も私の事を気に掛けててくれてたお兄ちゃん。
少しドジなところもあるけど、何よりも私の事を考えて、一番面倒を見てくれたお姉ちゃん………其れをあんなにあっさりと……絶対に許さない!!


「ならば如何する?」

「仇を取る………貴方達の事は――この手で葬り去る!!」

「へっへっへ……良い答えだな闇の書の主?
 なら喜べよ、そいつを叶えてくれるモンが現れたみたいだぜ?」


……え?


『闇の書の再起動を認証。』


な、何この黒い蛇の塊は?
其れにあれは――!!

「ヴィータちゃん、シャマル、ザフィーラ!!!!」

妙な蔦に絡めとられて、一体何があったって言うの!?……返して!!今直ぐ皆を返して!!解放して!!!


『……Jawohl.(了解。)守護騎士プログラムを破棄し、リンカーコアに還元します。』


――ズン


え?……ま、待って………何をする気なの!?
止めて………やめてぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇえぇ!!!!


――ドスゥゥ!!!………シュゥゥゥ……


『リンカーコアへの還元完了。』



……そんな……お母さん達に続いて、今度はヴィータちゃん達まで……嘘……こんなのは絶対嘘!!
いや……いや……いやぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!



――ドォォォォン!!!



なんで……どうして……どうして……


『ユニゾンイン……闇の書――完全起動………』


許さない……あの人達の事は絶対に許さない………あの人達ごと消えちゃえ。
お母さん達やヴィータちゃん達が消えちゃった世界なんて……そんなのは全部悪い夢……そんな悪い夢は、全部消えてしまえばいいんだーーーー!








――――――








Side:市


「きゃぁ!!」

く……此処は魔導書の外の世界?夜天さんは!?


――ゴゴゴゴゴゴゴ……



居ない?其れとこの黒い塊は一体?


「「む〜〜〜〜〜……!!」」

「!!此れは……失礼します!!!」


――バシュン!!


蜘蛛の糸に絡めとられるとは……大丈夫ですか、猫耳さん?


「何とかね……って言うか貴女は誰?行き成り現れたけど……」

「夜天の魔導書に寄生(?)させていただいていた市と言います。
 書が暴走するからと、夜天さんが私の事を騎士の皆さんと同じ存在に作り変えて外に出したみたいなんですが――一体何がどうなっているんです?」

「状況は最悪だ……高町の心が闇に捕らわれて闇の書が暴走した――!!」


そんな……其れじゃあ夜天さんとなのはさんは!!


「滅びの運命しか残されていない。
 だが安心しろ、闇の書の力は全て我が主が取り込みその力と成して下さる。闇の書の主の命も、有効に使わせてもらう心算だ。」


貴方は……!!
人の命をなんだと思ってるの!?

……兄様も天下統一の為に多くの命を奪ったけれど、全ては天下を統一して万民が平和に暮らし、諸外国と対等に付き合う国を作るためだった。
そして兄様は、その過程で自らの手で奪った命を生涯背負う覚悟で居た……だけど、貴方達にその覚悟はあるの!?


「死人に口なしと言うのはこの国の言葉だったか?
 死者の言葉など誰の耳にも届かん……精々勝者の糧になるに過ぎん――そうでしょう、我が主よ?」

「その通りだ。
 まさかこれ程巧く行くとはね……後は暴走した闇の書を取り込めばそれでお終いさ。」


貴方が彼等の!!
そうはさせない!なのはさんと夜天さんを苦しめるような事をした貴方の事は絶対に許さないわ――今、此処で斬り捨てる!!


『その必要はない………』


え?



――ドドドドドドドドドド……轟!!



「夜天……さん?」

「……また、全てが終わってしまった……全ての責は、弱い私にあるのだろう。
 だが、そうであっても、あの優しき主の心を傷付けた貴様等だけは絶対に許す事は出来ん………!!
 何よりも我が主は、この悲劇が夢で有って欲しいと願い、矛盾しているが、愛すべき家族と騎士達を殺したモノを絶対に許さないと強く思った――
 ならば、私は真なる終焉が訪れるその時まで、主の最後の心を護り、そしてその望みを叶えるだけ――何よりこの身の破壊衝動は最早止められん!」


待って!!そんな事しても意味は無いですよ夜天さん!!
未だ全てが終わった訳じゃないんです、だから早まらないで――


「深き闇に沈め――!!」

『Diabolic Emission.』


く……あ……きゃぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁ!!!!








―――――――








Side:シグナム


クソ……こうなってしまっては最早仕方ない、多少荒っぽいが強引にこの空間を粉砕する!!

「覇ぁぁぁぁ………火竜爆砕!!


――バガァァァン!!



はぁ、はぁ……何とか外に出れたが――


「ちょ、何よアレ!?」


バニングス?――アレは……姉さん!?


「深き闇に沈め――!!」

『Diabolic Emission.』


アレは――!!く、皆私の後ろに下がれ!!
アイツのアレは回避不能の空間攻撃――防御で防ぐより他に軽減する手段はない……急げ!!



――バガァァァァァッァアン!!


く……ぬ……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ!!



防御の上からでもこれほどとは………!!


如何やら盤面は最悪の状況になってしまったようだな………。


だが負けん!今度こそ調停者としての務めを果たし、お前と主なのはを救い出して見せる!!!――今度こそ、絶対にな!!













 To Be Continued…