Side:はやて


――ピッピッピッピッ………


規則正しい心電図の音……乱れはないから大丈夫やと思うんやけど、――石田先生、なのはちゃんは大丈夫なんやろうか?


「検査の結果だけを言うなら身体に異常はないわ……恐らくは突発的な発作だと思うのだけれど、最近は症状が安定していただけに少し解せないわ……
 取り立てて無理をしたわけでもないでしょうけれど、だとしたら尚の事発作の原因が分からないのよ……」


原因不明か……尤も発作自体は2年間にも起きとるんやけど……やっぱし何でいま発作が起きたのかは分からへんなぁ?
大体にして昨日までなのはちゃんはバリバリ元気だったんやで?さして無理をしてる訳でもないし、発作が起きる理由はないやろ?…なのに何で……?


「大事は無いと思いますが、一応万全を期して1週間の検査入院をして貰う方が良いのだけれど……」

「……1週間……クリスマスに掛かってしまうが、なのはの身を考えれば仕方ないのか………」

「士郎さん……だけど、なのはが無事なら来年のクリスマスを家族で祝う事は可能よ?
 なのはには辛い思いをさせてしまうけれど、今はあの子の未来の為に……」


士郎さんと桃子さんも……いや、恭也さんと美由希さんも辛いやろなぁ……何よりもクリスマスを一番楽しみしてたなのはちゃんが一番辛いか……

「何でこないなことになるねん!!
 なのはちゃんは充分すぎるほどのハンデを背負ってるのに、其れなのに何でこんな仕打ちを受けなアカンの!?
 楽しみにしてたクリスマスを病院で何て――そんなのあんまりやん………!!神様はなのはちゃんの事が嫌いなんか……!!!」

どうして……如何してこないな事になってまったんや……










魔法少女リリカルなのは〜夜天のなのは〜  夜天47
『The Countdown〜Dead Prelude』











Side:シグナム


発作……2年前にも起きたとの事だが、昨日までの主なのはの様子を考えると、些か解せん部分があるのは否めないな。
無論今日行き成り発作が起きたと言う事も考えられるが……主なのはの病状を考えると、2年ぶりの発作が発生するその理由が見当たらない、か……

シャマル、主なのはから異常は?


「見当たらないわ……上げるとすれば精々リンカーコアの経度萎縮だけれど、身体の不調に呼応してリンカーコアが委縮するのは珍しくない。
 だけどなのはちゃんの身体は下半身不随を除けば健康そのもの……其れだけに不気味なのよ……なんで行き成り発作が起きてしまったのかがね。」


確かに姿が見えぬ敵と言うのは厄介極まりない……主なのはの発作の原因が正にそれなのだがな。
まぁ、分からん事をいくら議論しても仕方のない事――寧ろ大事なのは、入院中の主をどう御守りするかだろう。


「なのはの護衛と言う事かい?」

「えぇ、主と夜天の魔導書を狙う輩が居るのは以前にも話したと思いますが、連中が入院中の主を狙う可能性はゼロではないと思うのです。」

流石に白昼堂々襲って来る事はないと思いますが、人が少なくなった夜だとその限りではないかと…


まして夜中は病院スタッフも夜勤者以外は居なくなる状況ですし、何より転送魔法で病室に直接乗り込まれたら手遅れではすみません。

ですが、我等や士郎殿達が何日も病院に泊まり込んでと言う訳にも行かないでしょう?
ヴィータとはやて嬢は学校がありますし、店の方だって何日も休業と言う訳には行きません。

日替わりでと言っても限界と言うモノは有りますし……せめて、護衛を専門に行ってくれる者が居ると助かるのですが……




「なれば高町なのは護衛の件は我等に任せよ。」

「!!!」

お前は………隼人!!何故ここに居る?


「久方ぶりだなシグナム殿、ジュエルシードの時は世話になった……この場に居るのは自分だけではないぞ……?」


「よぉ、元気だったか優男!」

「ドーモ、お久しぶりです!」

「いやいや、コイツは美人さんが勢揃いだ…福眼福眼♪ゴフゥ!?」

「伊吹、お前は黙ってろ!」

「桜花……み、鳩尾に入れる奴があるか……!!」

「ヤッホー、皆元気に……なのはちゃんはそうでもないみたいね……」

「此れは……少々心配でございます……」


お前達も……信長の戦力が一堂に集ったと言うところか?……だが、改めて聞くが何故に……


「え〜〜〜と、シグナム達のお知り合い?」

「其方の大柄の方は恭也とも面識があるみたいだねぇ?」


……そう言えば桃子殿達は彼等と会うのは初めてだったな?
彼等が、以前に話したジュエルシード事件の時に織田信長の部下として私達と戦った者達です……その実力は恭也殿にも引けを取りませんよ?


「あら、そうだったの〜〜〜♪」

「ハイ!ドーモハジメマシテ桃子=サン!織田信長配下の狙撃専門ステルス忍者の大和デス!」

「此れは此れはご丁寧に…ハジメマシテ大和=サン、なのはの母の桃子です♪」


……ふ、普通に対応してのけただと!?……桃子殿の適応能力恐るべしだな……
まぁ、桃子殿の適応能力の高さは何時もの事だとして、主なのはの護衛とは如何言う事だ?確かに此方としては助かるのだが……


「先日、プレシア女史が我等の本部を訪れてお頭に要請したのだ。
 そしてお頭もなのは殿と夜天の魔導書が狙われていると言う事で此れを快諾……そして我等の派遣と相成った。
 何よりも、夜天の魔導書にはお頭の妹君の魂も存在している故に、其れを付け狙う悪党が居ると言う事態は見逃せるはずもない故な。」


成程な……やってくれたなプレシア女史も。
確かに彼等ならば実力的には申し分ないし、恐らくは我等同様ジュエルシード事件の後でも鍛錬を続けてあの時よりも強くなって居る筈だろう。


ならば、あの襲撃者達に後れを取る事だけは有り得ない――護衛としてこれ以上の増援はないな!


士郎殿、我等が主をお守りできない時間帯は彼等に護衛の任を任せようと思うのだが良いだろうか?


「構わないよ?
 シグナムが其れだけの評価をするならば彼等の実力は本物だろうしね?……恭也と顔見知りが居ると言うのも信頼に値するさ。」


富岳か……って、お前何をしてるんだ?


「優男に獣耳……次は負けねぇぞ?」

「私とて負けぬ……守護の拳に敗北は許されん!!」

「俺とて負けないさ………尤も、前と同じ戦法で倒せるとは思わないけれどな」


再戦の約束か……まぁ、其れ位ならば良いだろう。




「ん……んん……」


!!主なのは!!


「ほえ?……此処は……病院?」

「お気づきになられましたか……」

「シグナム………お母さん達も……そっか、私は発作を起こして……」


はい、緊急搬送されてこの状態に……よもやこんな事が起こるとは……


「うぅん……大丈夫。
 最近は落ち着いてたけど、発作が起こる可能性はゼロじゃなかったし………だけど、発作が起きたって言う事は私は検査入院なんだよね?」

「……えぇ、そうなるわ。
 期間は1週間………残念だけれどクリスマスは……」

「そっか……だけど此れも仕方ない事なの……発作が起きちゃったら皆が心配するからね。
 私は大丈夫………なんだけど――えーと、なんで信長さんの部下の人達が居るのかなぁ?確か次元航行要塞で生活してたんじゃ……?」


彼等は信長の命を受けて貴女の護衛の任に付いてくれたのですよ。
我等と士郎殿達が四六時中ここに居るのは如何考えても不可能――我等が護衛に当たれない時間は彼等が貴女の護衛の任に付いてくれると……

普通ならばこれ程の護衛は必要ないのでしょうが、貴女と夜天の魔導書が狙われている事を考えると、此れだけの護衛でもやり過ぎにはなりません。


「あの騎士達だね?……確かに入院中を襲われたらどうしようもないかも…」

『まぁ、いざとなったら魔力爆発で連中もろとも吹き飛ばすと言う手もあるにはあるのですが……』

「其れは関係ない人達にも迷惑が掛かるから絶対にダメだよレイジングハート!?」

『分かっていますよMaster、ホンの小粋なジョークと言う奴です。』


……レイジングハートが言うと冗談に聞こえないのは果たして私だけなのだろうか?
ともあれ、彼等と我等で貴女の事は必ず御守りいたしますので、ゆっくりと養生してください……貴女が元気で居てくれるのが我等の願いです。


「うん♪
 それと、宜しくお願いしますね隼人さん達♪」

「無論……自分は只任を果たすのみ。」

「任せな嬢ちゃん!
 お頭を倒した嬢ちゃんを付け狙うなんて不届き者は残らず叩きのめしてやるからよ!!!」


ふふ、頼りになるな?
彼等ならば大丈夫だろうが……如何にも嫌な予感が拭いされん――まるで主の発作は前触れに過ぎないと……杞憂であればそれでいいのだが……








――――――








Side:アリア


高町なのはの発作……如何にもきな臭い感じがするけど、ロッテは如何見る?


「推測だけど、魔導的な何かが関係してるのは間違いないと思う。
 騎士達が気付かないのは、其れの影響が大きくないからじゃないの?……つってもアタシ等も何も分からないんだけどね?」


まぁね………だけど面倒な事になったのは間違いないでしょ?
クロスケがまとめたデータを見る限り、犯人は闇の書の力を欲してるみたいだから、その目的の為には何をしでかすか分からないもの。

もっとも私達に出来る事は限られているけれど、だからと言って高町なのはを見捨てるって言う選択だけは絶対にNGよ。




此れは監視を続けつつ、場合によってはもう1度戦闘に介入する事も念頭に置いておかないとならないわ……








――――――








Side:ヴォクシー


高町なのはに植え付けた種が発芽したか……全ては予定通りだね。
この分ならクリスマスには全ての仕込みが終わる……そして君達が闇の書の騎士達とやりあって来れば何をせずとも書は力を求める。
己の完成の為の力を欲する……そして其れが成れば主が死ぬ……正に呪われた魔導書だよ。

そして此度の主は人柱としても申し分ない。


書の呪いを受けて半身不随となった少女……その犠牲があれば彼女は悲劇のヒロインとして認識されるだろう。
そして、その幼き命を奪った書を封印したとなれば僕は英雄――大いなる力と地位を持つ事が出来る……彼女はその為の礎に過ぎない。


そうさ、地位と力があれば何だって出来る――逆に言えば其れがなければ何も出来ない。
もしも僕にもっと力があったのなら……僕は家族を失わずに済んだんだからね……どれだけ綺麗事を並べても、最終的にモノを言うのは力だ。


なら僕は、その力を手にしてこの世界の新たな王になる!


その為にも君は人柱になって貰わないと困るんだよ高町なのは。

闇の書に抗い続けたいたいけな少女と言うのは、其れだけで高評価の対象になるのは確実だからね?
その少女がやられたとなれば誰も文句は言えない筈だ――僕にはあまり関係ない事だがな……


仕掛けるは12月24日――聖夜とやらの中で葬ってくれる……
最後のクリスマスを楽しめよ?……君が来年のクリスマスを迎える事は無いんだからな、高町なのは!!!








――――――








Side:アリサ


なのはが発作を起こして入院ねぇ?
検査入院て事だけど、1週間ともなれば流石に退屈なのは否めないわよねぇ?


「せやなぁ……日中は隼人さん達がなのはちゃんの相手をしてくれてるけど、それかて無限の時間言う事やないからなぁ?
 1週間とは言え、少しばかりの精神的癒しが必要なのかも知れへんねぇ…」


でしょ?

其れで物は相談なんだけど、今年のクリスマスパーティはなのはの病室でやらない?
普通の病院だったら難しいかもしれないけど、なのはは個人部屋で、しかも主治医は石田先生でしょ?……頼み込めば多分何とかなる筈よ!!


大体にして病室でクリスマスなんて味気ないほどにも程があるわよ!
クリスマスケーキは桃子さんが手作りするだろうからアタシ達が何をする事もないけど――そうね、プレゼントは大事よね?


「確かにクリスマスにはプレゼントが付き物だね?」


でしょフェイト?
やっぱり美味しいご飯やケーキも魅力的とは言え、日本のクリスマス的にはプレゼントって必要不可欠だと思う訳よ?
特別な日に貰う特別な贈り物……その包みを開ける時のドキドキ感と、プレゼントを貰った際の心からの感謝はその身で感じてなんぼでしょ!!

「と、言う訳で今日の放課後はなのはへのクリスマスプレゼントを選びに行くわよ!
 異論があるなら言いなさい?……言ったと言う事と、其れを採用するかって言うのは全く持って別問題だけれどね!!!」

「OKアリサちゃん、端っからこっちに意見を叩き潰す心算満々やな?
 まぁ、私とて反対する理由は無いんやけど……やけど、アリサちゃんに売られた喧嘩は買ってなんぼ!買わねば損損やろうが!!」



「えと、2人とも喧嘩はダメだよ?」


分かってるわよフェイト。
此れはあれよ、気心の知れた仲間との遠慮不要のコミュニケーションって言う奴だから、アタシもはやてもガチでやり合う気はないからね?

そもそもここでやりあったら、1年の時になのはとやりあった時の再現になっちゃうから其れは却下でしょ?
あくまで此れは仲間内での悪ふざけ……ま、こんな事が出来るのも気心が知れた仲だからなんだけど――悪くないでしょ?


「確かに悪くないかも……だけど、なのはが居ないとやっぱり物足りないと言うか、締まらないよね?」


其れは確かにそうだわね。
なのはは自覚してないだろうけど、アイツには天性の『リーダーとしての気質』がある…なのはが居た事で、クラスが纏まってたと言っても過言じゃない。

そのなのはが居ない事で、アタシ等のクラスは如何にも活気がない感じだし……なのはの存在は大きかったのね。

でもだからって何時までも意気消沈してても仕方ないでしょうが!!
寧ろ戻って来た時にクラスの雰囲気が暗かったら其れこそなのはは悩んじゃうっての!!


そんな訳だから、アンタ等は変に意気消沈しないで普段通りに過ごしなさい!!
其れがなのはの為にもなるんだから………まぁ、此れを聞いて尚意気消沈しっぱなしの馬鹿が居たら、その時は全力全壊で一発かますけれどね!


「「「「はい、明るく過ごします!!!!」」」」


宜しい!


まぁ、信長の部下たちが護衛を務めてるって事だから多分大丈夫でしょう!
其れになのはが発作を理由に何かを諦める事だけは絶対に無いって言いきれる……壁が高ければ高いほど燃えるのがなのはなんだからね。



だから大丈夫!
アタシ達はなのはが病室でも楽しめるクリスマスパーティを考える事、此れ一択だわ!!

せめて聖夜位は、煌びやかに装飾しても誰も何も言ってこないから、好きなようにやれるし、やっぱ聖夜に『華』は必要だもの。

此れは楽しくなって来た!やっぱ親友には最高の聖夜を過ごしてほしいものね♪










だけど、まさかその聖夜にこそ最後の難関が待っていたとは思わなかったわ。



最高の聖夜が、まさか史上最悪の危機的状況になるなんて事は……ね。













 To Be Continued…