Side:シグナム
クソ……幾ら何でも多勢に無勢……私と姉さん達の力を合わせても、この物量には対処しきれんぞ……!
其処までして、父上が作った『○○の魔導書』の力が欲しいのか!!……大体にして此れはまだ未完成――貴様等の欲する力などないと言うのに……!!
「大丈夫かシグナム!!……その血は!!」
「掠り傷だ、ナハト姉さん……だが……何とか最深部のシェルターに辿り着いたとは言え、最早どうにもならん……
流石に私と姉さん達だけで100近い敵を倒すなど現実的ではない……其れに、如何に強固と言えどこのシェルターの防壁だって何時かは破られてしまう。」
そうなれば間違いなく父上は連中に殺され、魔導書も奪われる……そんな事は絶対に認められるモノか…!!
なにか……何にかないのか、現状を打開する方法が何か……!!
「最早これまでか……だが、私が生涯を掛けて作りだした魔導書と、愛する娘達が外道の慰み物になるのは我慢できん……!!
……○○○○○、ナハトヴァール、そしてシグナムよ……お前達をプログラム生命体として此れより書の中に封印する!!さすればお前達は無事だ!!」
父上!!ですが其れでは父上は!!
「私はもうダメだ……腹に致命傷を受けてしまったよ……もう如何足掻こうと助かりはしまい。
ならば、残された命で出来る事をするのみ!!お前達のリンカーコアを書に移し替え、そして魔導書を完成させて何処かに転移させる……!!
私に出来るのは此れ位だ……せめて、心優しき主の下で平和な世界を生きてくれ……其れが父の願いだ……」
そんな……嫌だ……私はまだ一切の親孝行をしていない!!其れをせずに終わるなど!!
「シグナム!……父さんの遺志を汲め……私達に出来るのは、父さんの願いを果たす事だ……もう、其れしかないんだ!!!!」
「姉さん………何故こんな事になってしまうのか……なぜ、こんな―――」
「……親孝行か……其処まで私の事を思ってくれてる事が何よりも親孝行だよシグナム……其れでも足りないと言うのならば、書の一部として生きてくれ。
○○○○○は書の管制を司る者、ナハトヴァールは書の防衛を成す者。
そしてシグナム、お前は書の守護騎士達の将となり、万が一2人の姉が不具合を起こした時に其れを止める調停者となる……頼むぞ…!!」
父上………分かりました、その務め必ずや果たして見せましょう!!
――もう時間はない……父上!!
「うむ……せめてお前達が心優しき主と巡り合える事を心から願っているよ……ではな……愛する娘達よ………」
父上……
魔法少女リリカルなのは〜夜天のなのは〜 夜天45
『書の真実――調停者と夜天』
…………夢、か……また、一つ過去を思い出したな。
そうだ、私はシャマル達とは違い、元々は生身の人間だった……其れが闇の書の力を欲したモノとの戦いの最中で守護騎士の将にして調停者になった。
恐らくは父上は、我等が書の一部となった後に、突入して来た者達によって殺されてしまったのだろうな……矢張り思い出すとやりきれん。
だが、得るモノもあったのは間違いない……特に私の真の力である『調停者』は、主との絆の深さによって無限に力を上げるようだからな……
成れば尚の事、今代の闇の書の主たる主なのはの事は命に代えて……否、命を賭して、その上で生き抜いて護り通さねばなるまい。
永き時を生き、無限転生を経た末の此度の主……なのはは絶対に死なせん!
そして○○○○○とナハトヴァール……お前達にも、此度の優しき主を喰らわせるような事は絶対にしないから安心しておけ……
だが、夢として過去を思い出すなどと言う事は今までには無かったことだ……此れもまた、或は此度の主がなのはであるが故の事なのか………
何れにしても過去を思い出すと言うのは悪い事では無い。
過去に何があったのかを知る事が出来れば、闇の書の真実が分かるやも知れぬし、所謂『呪い』を超える手段もまた見つかるかも知れんからな。
まぁ、だからと言って我等が出来る事は、現状では主なのはをお守りする事だけなのだがな……
だが、必ず護り通して見せるぞ……我等に心を下さった主なのは……その御身をお守りする事は騎士としての絶対の務めであるからな………!!
「朝から気合入ってるねシグナム?」
「美由希殿……なに、守護騎士として気を引き締めていただけの事………其れよりも此れから鍛錬か?
もし宜しければ、私と模擬戦をお願いしたいのだが……」
「勿論OKだよ?シグナムから学ぶ事は多いからね。」
そう言って頂けると嬉しいモノですね……ですが、私は少々不器用故に手加減が下手だからな……不慮の怪我はご容赦願いたい。
無論、出来るだけそうならない様に努力はするが……
「シグナムとの模擬戦が只で済むとは思ってないから大丈夫♪怪我を恐れてたら上には行けないし。
其れに、剣での戦いでは私も恭ちゃんもシグナムには全然敵わないからね〜〜……寧ろ死なない程度に全力で相手してほしいって感じかな?」
「ならば、ベルカの騎士の剣技を篤と受けて貰うと致しましょうか?」
「うん!……あ、取り敢えず魔法は無しの方向でね!?魔法使われたら、もうどうしようもないから!!」
ふふ、分かっていますよ美由希殿。
其れに、学ぶ事が多いのは私とて同様ですので……ベルカの剣とは違う御神流の剣技もまた騎士として学ぶ物は沢山ありますからね。
「そうなんだ?……って言うかさシグナム、いい加減私や恭ちゃんに対する敬称付けや敬語は止めない?
闇の書の主のなのはには仕方ないとも思うんだけど、私達は主従関係でも何でもないでしょ?……出来れば無しにしてほしんだけどなぁ?」
「かも知れませんが、貴女が主なのはの姉君である以上は、貴女もまた我等の守護対象である事に変わりはないので。
それに、この性格は生来の物なので今更直せるとも思いません……ヴィータにもよく『シグナムは堅物だ!』って言われてしまうのですけれどね。」
「性格じゃどうしようもないか〜〜〜。
あ、でも私が学校の友達を翠屋に連れて来た時だけは、その敬語と敬称は無しにしてね?変な噂が立っても困るから!!」
変な噂?………何の事やら分かりませんが、その辺は善処しますよ。
さて、朝食前に一汗流すとするか!
――――――
Side:なのは
さてと……今日はグランツ博士に呼ばれて研究所に来てるんだけど、一体博士は何を見つけたんだろう?
メールには『闇の書に付いて色々分かったから研究所に来て欲しい』とだけ書かれてたけど……何が分かったんだろうねヴィータちゃん?
「アタシに其れ聞くか?アタシにだって皆目見当つかないって。
そもそも、アタシ等だって闇の書の事を全て知ってる訳じゃねぇ……此れまでは最終的には書に蒐集されてた訳だからさ。
だけど、多分博士が調べて分かった事ってのは悪い事じゃねぇと思うんだ。」
「だよね♪」
きっと博士だったら闇の書の事を可成り深く解析してくれてるだろうしね――そのせいで5徹とか普通にしてるかも知れないのがちょっと困りモノなんだけど。
まぁ、その辺はアミタさんとキリエさんが巧くやってくれるだろうから多分大丈夫だよね。
「ハァ〜〜イ♪待ってたわよなのはちゃん♪そして守護騎士様。」
「はやてさんと、アリサさんとすずかさん、フェイトさんとアリシアさんも良く来てくださいました!
ラボで博士が待っています……どうやら闇の書に関してとても大事な事を見つけたみたいなんです。」
「メールにも書いてあったけど其れは気になるわね?
闇の書の彼是は、なのはの此れからに直結するから、出来れば宜しくない事は起こって欲しくないのよね〜〜〜?」
にゃはは……確かに何もないに越した事はないね。
だけど、本当に博士は解析して何を見つけたんだろう?……此れは直接聞くしかないね。
「やぁ、待っていたよ皆!取り敢えず適当な場所に掛けてくれるかな?」
はい。
其れでその……何が分かったんですか博士?
「うん……まぁ、色々さ。
先ずは前提として、実は以前に僕の元に時空管理局からの使者が来てね、その管理局のデータベースへのアクセス権を渡していったんだよ。
『闇の書とその主を救う為に』ってね……まぁ、悪意は感じなかったし彼女の態度からは真になのは君を助けたいと言う気持ちが見て取れたからね。
で、其れは其れとして、僕独自の解析と、管理局のデータベース『無限書庫』で闇の書の事を調べてみたら色々な事が出て来て吃驚したよ。」
色々な事?……何ですかそれって?
「先ず、闇の書と言うのは正しい名前じゃない……その書の本来の名は『夜天の魔導書』。
本来は持ち主と共に、数多の世界を巡り、その世界で得た技術や知識を蓄積していくと言う、一種の超小型の大容量データバンクだったのさ。
だけど、何代目かの持ち主がその力を自分の物だけにしようとして夜天の書に無理な改変を加え――結果として書は壊れて暴走してしまったんだ。」
そんな!!!
それじゃあ、闇の書って言う名前は若しかして……
「改変がなされた後、改変を行った人物と、その後の主が軒並み命を落とした事で、自然とそう呼ばれるようになってしまったんだろうね。
……本気でやる瀬ない思いだよ……ドレだけ優れた機能を持ち、人の為になる物であっても、たった1人の欲望と悪意で其れは壊れてしまうんだから。
コホン……話を戻して、書が壊れた最大の原因は後から追加された制御プログラムである『リヒティガルード』なんだ。
これで夜天の魔導書を意のままに操ろうとしたんだろうけど、その完成度が低くてね、あろう事か防衛プログラムを浸食しただけだったんだよ。
けれども防衛プログラム『ナハトヴァール』が浸食された結果、書は主に対する性質が悪性に変化してしまった……その結果が今のなのは君なんだ。」
ほぇ!?如何言う事ですか!?
「闇の書となった夜天の魔導書は、完成に他者の魔力を必要とするようになってしまった。
けれども一定期間蒐集がないと、今度は主その物から魔力を吸収し始めるんだよ……そしてその影響を受けてなのは君は足に障害を持つに至ったのさ。
だけど、更に厄介な事に、魔力を蒐集したらしたで、持ち主の負の欲望が大きければ其れに呼応してリヒティが暴走して全てを喰らい尽くすんだ。
そしてその際に主と騎士は書に喰われ……そして、書の活動限界と共に命を落とす……此れが闇の書が闇の書と呼ばれる所以だよ。」
そんな……何とか其れを止める手段はないんですか!?
「勿論あるさ――先ずはなのは君が常に心を強く持つ事だ。そうすればリヒティの暴走は起きずに済むからね。
そして、僕だって不具合を見つけて手をこまねいていた訳じゃない、既にワクチンプログラムは用意してあるさ。
尤もこのワクチンは書が完成し、管制人格が覚醒した後で打ち込まないと意味は無いんだけど、書が安全に完成する公算は高いから大丈夫さ。
ただ、一つ気になったのは、書の中に『書が暴走した際のリミッター』とも言える機構が存在してるんだけど、此れは一体何なんだろうねぇ?」
「……其れは恐らく私だ、プロフェッサー・グランツ。
私は闇の書の……夜天の魔導書の『調停者』――もしもの時の為の最終防衛ラインとして設定されて要るからな。」
シグナム……そう言えば、前に自分は調停者だって事を言っていたよね。
だけど、そうなると調停者であるシグナムが居ながら、どうして此れまで闇の書……夜天の魔導書は暴走を繰り返しちゃったんだろう?
「リヒティの影響で、私の調停者としての機能にも影響が出たからではないでしょうか?
本来ならば調停者としての力が覚醒した私は管制人格と防衛プログラムを相手にしても負ける事はない筈…が書が壊れた事でその力を失ったのならば…」
「!!幾ら調停者でも書を止めるには至らなかった言う事やな!!」
成程ね……だけど、だとしたら辛かったよね……何度も書と戦って、そして負けて滅びを遂行させてしまった……シグナム……
「……力及ばなかったのは我が身の未熟と書の不具合故に、嘆いても仕方ありません。
大事なのは、此れだけの事が分かったのですから、如何にして今回は呪いを発動させる事なく書を完成させるか。そして書を治すかです。」
其れはそうだけど……そうだ!
博士、シグナムに調停者としての本来の力を取り戻させる事って出来ますか?もしそれが出来れば、万が一の場合にはシグナムが対処できると思うんです!
其れにシグナムが全開状態で、はやてちゃん達も一緒なら、仮に夜天の魔導書が暴走しても何とか止められる筈だから!!
「そう来ると思って、既に守護騎士の皆に対応したワクチンは用意してあるよ。
此れを投与すれば、現在守護騎士の皆に発生してる不具合はなくなるし、シグナム君の場合は調停者としての力を取り戻せるさ。」
ありがとうございます!
此れならきっと大丈夫……夜天の魔導書を、正しい姿に戻す事が出来る筈!此れはヤル気が出て来たの!!
「良い気迫だね〜〜。
だけど、一つ注意しておくと、書が正しく完成しようと暴走しようと、完成前には一度騎士達は書に取り込まれるのだけは避けようがないんだよ。
正しく完成する場合でも、一度書の中に戻って、そして主の覚醒と再認証によって再覚醒する機構みたいだからねぇ?まぁ、其れだけは納得してほしい。」
むぅ……結局シグナム達は書に一度は取り込まれるんですね?
だけど、正常な完成だったら其れは真なる覚醒に至る通過儀礼で仕方のない事なんだろうなぁ……その辺は割り切るしかないけど、皆は大丈夫?
「おうよ!正しく完成させりゃ取り込まれても、其れはなのはが真の主になる為の通過儀礼に過ぎねぇからな。
取り込まれたとしても直ぐにまた出て来れるんだから、そんなに気にする事じゃないぜ!」
「そうね〜〜……寧ろなのはちゃんの真なる守護騎士になれるなら、正しき蒐集は苦にならないわよ♪」
「我等は守護騎士……主の御身を護る事が第一……真に其れを遂行するためならば、一時の別離も苦にはならん……!!」
「書が正しく完成すれば、その時には私もまた取り込まれるのでしょう。
ですが、貴女が真なる主となれば、我等は我等の本来の力を持って再覚醒がなされる……貴女を信じます、主なのは!!!」
……分かった!
皆の覚悟は受け取ったし、其処まで私の事を思ってくれてるなんて、感謝感激雨霰なの。
其れに応える為にも、私は必ず夜天の魔導書を正しい形で完成させてみせる!!そして、闇の書なんて二度と呼ばせないようにしてやるの!!!!
この前襲ってきた人達の事を考えると、一筋縄ではいかないかもしれないけど、其れでも私は――私達は諦めないから!!
闇の書を、本来の姿である夜天の魔導書に戻す――恐らくそれが、私の書の主としての絶対大切な役目だろうからね…絶対に達成してやるの!!
――――――
Side:闇の書の意志
我が主とシグナムは闇の書の――夜天の魔導書の真実に辿り着いたか。
しかも将は、恐らくはグランツの手によって不具合を取り除かれ『調停者』としての真なる力を取り戻す筈だ……そうなれば暴走した私達も抑えられるだろう。
尤も、我が主の性格的に私が暴走する確率は可成り低い故に、それほど警戒する必要はなさそうだ。
だが、此れだけの状況にありながら、胸の奥に感じるこの『嫌な予感』は一体何なんだ?
一歩間違えば、其れこそ世界を無に帰しかねないこの嫌な予感は……私の思い過ごしならば其れに越した事はないが、そうでないのならば危険が大きいな。
気を付けておく必要があるだろうな……我が主とその友人達に何かあってからでは遅すぎるからな。
「夜天さん?」
「絶対に主は喰らわんようにしないとな……」
私に出来る事は多くはないが、其れでも何も出来ない訳じゃない……何よりも、主にエールを送るのは当然の事だ。
願わくば、この平穏が、書が真なる主の下で覚醒するまでの間は継続してほしいモノだ……
To Be Continued… 
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