Side:アリサ


うっわ〜〜〜……相当に気合入ってるわねなのはってば。
まぁ、前回は行き成り襲われた挙げ句に、リンカーコアまでぶっこ抜かれかけたって言う、トンでもない煮え湯を飲まされた訳だから分からなくもないけどね。


マッタク、アホな事をしたもんねコイツ等の親玉も?
なのはは確かに車椅子生活で、普段は他人を思いやる事の出来る優しい子だけど――その分本気で怒った時は、アタシ達の中で誰よりも怖いんだから。


大体にして、自分がイキナリ襲われたってだけでも業腹物なのに、よりにもよって真の狙いが闇の書って、馬鹿じゃないの!?
今やなのはの半身とも言える存在である闇の書を狙うなんて、愚の骨頂此処に極まれりだわ――なのはの怒りはアタシの比じゃないわよ絶対に。

「フレイムアイズ!!」

『任せとけアリサ!!こんな雑兵なんぞ焼き砕いてやるぜ!!!』


――ゴォォォォォォォ!!!



アンタ達は絶対に触れちゃいけない物に触れたのよ――なのはの逆鱗て言う禁忌にね……!!











魔法少女リリカルなのは〜夜天のなのは〜  夜天44
『闇の書の主、その名はなのは』











No Side


「レイジングハート、ブラスターカノンを起動。」

『All right Master。ブラスターカノン起動……一気に叩きのめしましょう!!』


戦いは続く。
なのはは2人の騎士を相手取り、しかしマッタク遅れは取って居なかった――シグナム達との日々の訓練が、なのはを予想以上に強くしていたのだ。

そして、なのは自身もまた、自分が襲われ、更に闇の書を狙う輩が居ると言う事態に心底腹を立てていた。


元よりなのはは、あまり怒るタイプではないが、その分一度怒りが爆発した時は恐ろしい事この上ない。
現実に1年生の時のアリサとの大喧嘩も、執拗にすずかを苛めるアリサに対して怒りが爆発した末の大騒動だったのだから。
しかもこの時、なのはは車椅子であるにも拘らず、下半身が動かないと言うハンデを背負いながらアリサと取っ組み合いを演じて見せたのだから恐ろしい。



そのなのはの怒りの爆発状態――考えるまでもなくトンでもない事だ。
最早『杖』とは呼べない形態に変化したレイジングハートを、左腕にマウント装着すると、右手に溜めた魔力を放って、反転騎士を攻撃する。

あくまでも此れは牽制だが、それでも騎士達は超反応して其れを避け、一直線になのはに向かってきている。


だが、此れもまたなのはの予想の範疇に過ぎない――むしろ今の小規模砲撃は見せ技にすらならないのである。


「レイジングハート、カートリッジを3発ロード!!!」

『All right.……ですが、如何に威力を上げようとも、彼等に誘導弾はあまり効果があるとは思えないのですが…?』

「大丈夫……良い事思いついたから!」

『思い付きで新魔法ですか?……流石は我がMasterです!!ではその一発をぶちかまして差し上げましょう!!!』

「勿論その心算!!
 アクセルシューター・アラウンドシフト………全てを撃ち貫け……ファイヤーーーーーーーーーーー!!!」


――キュイィィィィン……ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!


本命は此方の超広域射撃だ。
なのはを中心にして発射された無数の直射魔力弾は、正に蟻の這い出る隙間もないほどの超高密度射撃!!此れを全弾回避するなど絶対不可能だろう。

現実に、反転騎士の2人も『全回避不可・緊急離脱』の考えの元になのはから一定の距離を取った――其れ程までに、この攻撃は凄まじいのだ。

強烈な魔力弾はビルを貫通し、道路に穴をあけ、車は一撃でスクラップか爆破炎上……現実世界だったら大参事だろう。
尤も、現実に影響のない封鎖結界内部だからこそ、なのはもこの新魔法の使用に踏み切ったのだろうが……


だが、このなのはの一撃に誰よりも驚き戦慄したのは――誰であろう、プレシア・テスタロッサその人だった。

「今のなのはさんの射撃――アレはまさか『徹甲魔力弾』!?」

「徹甲魔力弾?……母さん、其れは何?」

「魔力弾の表面を、更に魔力で包み込む事で魔力弾の剛性と威力を高める高等技術よ。
 其れこそ、私でも精々10発を展開するのが精一杯だと言うのに、あの子は其れをアレだけの凄まじい数を展開するなんて――!!
 なのはさんは魔力集束の才能があると言う事だったけど、其れを踏まえても、アレだけの数が展開できるなんて言うのは驚愕物よ……末恐ろしいわ。
 しかも、あの子はアレを今この場で思いついた……完全に感覚でどんな攻撃をすれば最も有効なのかを感じ取っている……此れは凄い事よ……」

「す、凄いんだねなのはって……」

なのはが今行った攻撃が、実は魔導師にとっての超高等技術だと言う事を知って戦慄していたのだ。
しかも、其れを実戦の場で思いつき、試し撃ちもなしで此れだけの物を放つと言うのだから、恐ろしい事この上ないと思うのも道理だろう。

事実、なのはのこの攻撃は反転騎士こそ仕留めるには至らなかったが、それでも無数の雑兵を軽く3割は仕留めていたのだから。


更にこの攻撃は、仲間に火を点けた。


「派手な一発かますじゃないなのは……アタシ等も負けてられないわ!!
 はやて、すずか、アタシ達も1発派手なのぶちかますわよ!!!!」

「せやなぁ?……なのはちゃんばっかりカッコいいところ持っていくちゅ〜のは、流石にちょ〜〜〜〜っとずるいからなぁ?
 なのはちゃんが単体で弩派手な一発魅せてくれたんやったら、私等は弩派手な連携態といこか!!」

「そうだね……覇ぁぁぁぁぁ……全てを凍てつかせて!!氷の歌!!!

『良い気迫ですわよすずか!!!凍てつきなさい!!!』


弩派手連携の敢行を決め、その布石として先ずはすずかが広域氷結バインドで残った雑兵の30%の動きを完全に封じる。
特訓の中で、すずかはシャマルに師事して、徹底的にバックスとしての能力を磨いていた――故にこのアイスバインドは雑兵には絶対解けない代物だ。


「ぶちかますわよフレイムアイズ!!燃えろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!

『舐めんじゃねぇ……消し炭にしてやるぜ!!!』


「ぶっかましたるわぁ!!!バルムンク最大展開!!!

『任せな大将!纏めて貫いてやるぜ!!!』


更に追撃として、アリサの炎熱波と、はやての広域射撃が炸裂!!
動きを完全に封じられた相手に、此れを避ける術などありはしない……氷に動きを封じられた雑兵は、灼熱の熱波と白銀の短剣で跡形もなく消滅!!

同時に、他の雑兵もシグナムに切り裂かれ、ヴィータに叩き潰され、ザフィーラにブッ飛ばされ、シャマルにコアを破壊されている。



正に鎧袖一触!!
新たな力を得たなのは達には、閃光の魔導書とやらの戦力もまるで相手になって居なかった。


そして――


「此処まで魅せられたら、先輩魔導師として、そして大魔導師として黙ってられないよねお母さん、フェイト?
 此処は私達も『親子3人による弩派手な一発』をぶちかますべきだと思うんだけど如何かなぁ?」

「……悪くない提案だわアリシア……フェイトは如何かしら?」

「悪くないね……皆で最大級の一撃を放つ……最高だと思うよアリシア!」

「だったら決まりだね!!」

テスタロッサ親子もまた、超弩級の『親子合体攻撃』を放つ心算らしい。
大魔導師と謳われたプレシアと、その娘であるアリシアとフェイトが同時に放つ魔法など、正直な事を言うと怖ろしい事この上ない代物だ。

だが、今は戦闘中……敵を一気に殲滅できる可能性のある攻撃は躊躇せずに放つが得策であり上策なのだ。


「其れじゃあ行くわよアリシア、フェイト!!」

「任せてお母さん!!」

「母さん、アリシア……私達ならやれる!!!!!」


「「「サンダァァァァァ……レェェェェェェェイジ!!!!!!」」」


――ドガバァァァアァァァァァァァァァァァァン!!!


そして放たれた一撃必殺のトリプルサンダーレイジ!!
黄金と蒼銀と闇色の3つの雷は、反転騎士以外の雑兵を一撃のもとに全て葬り、此れで残すは反転騎士とヴォクシーのみだ。



ヴォクシーとしては追い込まれた状況だが、しかしその顔には不気味な笑みが浮かんでいた。

「素晴らしい強さだね闇の書の主……見事だよ。
 だが、君達は強過ぎる……その事がこの場に於いては僕にとっての好機となるのさ……良い頃合いだし、撤退するか。…スパーク・ゲホイル!!!」

戦闘圏外に身を置いたヴォクシーは、戦いの中心に閃光弾を設置すると、其れを炸裂させなのは達の視界を奪い、其れに乗じて離脱。


「この光は……つぅぅぅ……!!」

そして離脱する際になのはに一撃を加える事も忘れない。
閃光に怯んだなのはを魔力刃で斬り付け、一種の悪足掻きとも言える一発をお見舞いし――そして襲撃者達はその姿を消した。


「逃げたか……ご無事ですか、主なのは!!!」

「目晦ましに乗じて腕を斬られたけど、この位ならシャマルに治療して貰えばすぐに治るから問題ないよ……」

閃光が晴れればそこには襲撃者の姿は無い。
なのはが腕に軽傷を負いはしたが、結果だけを見れば、敵を退けたと言う点ではなのは達の優勢勝ちと言えるだろう。


とは言え此れで全てが決着した訳でもない。
一行は、話し合いの為に時の庭園へと転移していった……








――――――








Side:ヴォクシー


「何故、あそこで撤退を?……雑兵は兎も角、我等はまだ戦えたと言うのに!!!」

「戦の本分は相手の大将を討ち取る事だ……其れこそどんな手を使ってでもね。
 実際、君達が暴れてくれたおかげで、高町なのはに『楔』を打ち込む事には成功した――恐らく12月までにはその楔が炸裂しアイツは……楽しみだよ。」

その時には、また君達にも活躍して貰う心算さ。
あの楔が発動すれば、高町なのはの心は必ず乱れる……その上で最大級の絶望を与えて心を砕けば闇の書は暴走する。

其れを取り込めば、闇の書の力は僕の物になる……そうすれば、世界は安定するのさ。


クックック……新たな世界の幕開けの為に、君には『悲劇のヒロイン』になって貰うよ、高町なのは。
楔が炸裂するまでの時間……精々平和を謳歌すると良い――この短い期間の思い出が、君がこの世で体験できる最後の事なんだからね……








――――――








Side:なのは


「「「「「「「「「「ヴォクシー・エスクード?」」」」」」」」」」


誰なんですかその人?



「11年前に闇の書を暴走させた張本人であり、今回の襲撃の黒幕ね。
 11年前の一件の際にMIA(任務中行方不明)判定をされて、クライドと共に事実上の死亡とされていたのだけれど、執念深く生き残っていたようね。
 そして、11年の歳月を経て、闇の書に再び手を出そうとしている――その力を求めてね。」


そんな……冗談じゃないです!!
闇の書は、私の半身と言っても良い存在なの……其れを他の誰かに奪われるなんて真っ平ごめんです!!
それ以前に、11年前に暴走させたって事は、シグナム達を意図的に辛い目に遭わせたって事ですよね?……そんなのは絶対に許せないの!!


「確かに許せませんね……どんな事情があるにせよ、私情で他者を犠牲にするなんて絶対に間違っています!!」

「そうよね〜〜…まして、闇の書の主の自覚を持って、そして身体のハンデがあるにもかかわらず、こんなに頑張ってるなのはちゃんを襲うなんて論外!
 そんな奴等なんて、けっちょんけっちょんにして、生ごみの日に捨て置くが上策の、KNSよ〜〜〜ん?」


あはは……何と言うかキリエさんは容赦ないね。
だけど確かに捨て置く事は出来ないの……また、襲撃してくる可能性もあるからね。


「そうよ!!もしそうなら、こちとらおちおち寝る事も学校に行く事も出来ないじゃないの!!
 何時襲われるとも分からないのに、日常を送れってのは幾ら何でも無茶振りよ!!っていうか、少なくともアタシは絶対無理!!」

「私かて無理や〜〜〜!!狙われとって、日常生活が出来るかい〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

「……お姉ちゃんに頼んで護衛の小型ロボット作って貰えば安心かなぁ?」


アリサちゃん、はやてちゃん、すずかちゃん……まぁ、私もそうは思うけどね?
でも、実際問題として学校に行ってる時とかに襲撃されたらどうしようもないけど………何かいい考えはあるかなシグナム?


「……僭越ながら、少なくとも直ぐに敵方が最襲撃をしてくる可能性は低いと思われます。
 此度の戦闘で、我等を相手取って、最終的には閃光弾による目晦ましで逃れるより手は無かった連中が、直ぐに最襲撃を掛けて来るとは考え辛い……
 去り際に、置き土産とばかりに主なのはの腕を斬っていきましたが、其れもシャマルで治療可能なレベルの傷に過ぎませんからね。」

「よーするに、結果的は負けてたってのに、碌に戦力を整えずに直ぐに再襲撃掛けて来るってんなら、所詮はその程度の奴ってこった。
 だったら、アタシ等の敵じゃねーし、次に襲撃して来た時がアイツ等の最期だろ?……まぁ、来たら来たで粉砕するだけだけどな!!!」


ふふ………頼もしいね、皆♪
確かに状況的には、私達が勝ってたから、それを考えれば直ぐに再襲撃って言うのは考え辛いね。


だけど、だからと言ってまた襲撃して来る可能性は0じゃない。
直ぐには無いって事だけど、だけどどんなに遅くても、戦力の補強その他を考えた場合――再襲撃が来るのは何時頃って予想するシャマル?


「最短で12月の頭……遅くてもクリスマスのイブには仕掛けて来ると思うわなのはちゃん…!!」

「じゃあ実質で1ヶ月半は大丈夫って事だね……」

なら、その期間で私達は更に強くならないと……闇の書を奪われない為に……そして、シグナム達とずっと一緒に居る為にもね………!!








――――――








Side:グランツ


アミタとキリエから詳細は聞いたけれど、闇の書の力を狙う者が本格的に動き出したって言うのは見過ごせないね。
まぁ、私の娘達となのは君達、そして守護騎士の皆が力を合わせれば倒せない敵なんて存在しない気がするけれど……其れは其れだね。


むしろ問題は闇の書さ。
管理局の無限書庫とやらに行って、闇の書の事をいろいろ調べてみたけれど……まさか、闇の書って言うのは後付けの呼称だったとはね。

恐らくは、此れまでの主を喰らって来た事が影響しているのだろうけど……人の命を奪う力は受け入れられないか……



だけど、だからと言って諦める心算は無い。
数多の資料を読み漁ったお蔭で、闇の書の真実も分かったからね――後はこれらの事をなのは君達にどう説明するかさ。


「闇の書の本来の名前は『夜天の魔導書』……」

近い内に、なのは君達を家に招いて、闇の書の真実を話さないといけないね。



闇の書が、夜天の魔導書と知った時、なのは君はどんな顔をするんだろうねぇ?


………案外、それ程気にせずに受け入れるだろうね……マッタクそれが容易に想像できるんだから凄まじいよ。

だが、此れから先の戦いに於いて、事の真実を知ってるか知らないかは大きな事になるだろうから、情報収集が最優先事項だろうねぇ。


僕も、夜天の魔導書を闇の書と呼ばせた原因である後付けのプログラムを駆除するワクチンプログラムの開発を急がないとだよ……!!!
もう二度と悲劇を巻き起こさない為にも、出来る事は全てやり通さないとだね……!!!!















 To Be Continued…