Side:闇の書の意志


「…うにゅ?…此処は…」


はい、夢の中です――お久しぶりですね、我が主。


「闇の書……うん、久しぶりだね――其れからお市さんも……こっちははじめまして…かなぁ?」

「そう言えば面と向かって話をするのは初めてかもしれませんね?其れなら改めて……初めましてなのはさん、市と言います。
 誠に勝手ながら、この魔導書とやらに居候させて貰って居ます……以後宜しくお願いしますね?」

「高町なのはです♪
 お市さんとお会いできるとは思いませんでしたけど――うん、実際に会ってみると『戦国一の美女』の通り名は真実だったんですね?」

「戦国一の美女だなんて、そんな照れますよ〜〜〜〜♪」


うん、分かってはいたが我が主と市は速攻で仲良くなったな――実に素晴らしい事だな。
魔導書が完成した暁には、彼女も将達と同等の存在として貴女の前に現れますので、今の内に親睦を深めておくのは悪い事ではないと思いますよ?


「そうなんだけど、此処で有った事は目を覚ますと忘れちゃうんだよねぇ…
 だから、覚えてる部分だけでもノートに付けるようにしてるんだ?……特に貴女に名を送るって約束は絶対に忘れちゃいけない事だからね♪」

「私の新たな名――その時が来る事を心待ちにしています。」

闇の書と呼ばれて久しい私に、一体どのような名を送って下さるのか、今から楽しみで仕方ありません。
ですが我が主、私に名を送って下さる前に、貴女には大きな戦いが待って居るでしょう――其れは貴女にとって辛く厳しい物になるのかもしれません…


「戦いが…?」

「良く分かりますね夜天さん…」


永き時を戦いと共に生きて来たが故に、大きな戦いが近づいていると言う事は嫌でも分かってしまうのです…ある意味で利点と言える力ですが。

ともあれ、貴女にはきっと色々な事が降りかかるでしょう…闇の書の主となった今、其れは避けて通る事は不可能です。
けれど何が有っても心を強く持ってください、絶望だけはしないでください……其れが出来れば、貴女の未来には光射す道が現れるでしょう。

「さぁ、そろそろ微睡の時も終わります故、現実世界への帰還を…」

「またお話しましょうね、なのはさん♪」

「うん!!其れじゃあね、闇の書、お市さん♪」


えぇ、何時かまたこの微睡の時に相見えましょう。
そして願わくば、この微睡の時ではなく、何時かは現実世界で貴女と語り合う事が出来ますように――其れを切に願いますよ。











魔法少女リリカルなのは〜夜天のなのは〜  夜天38
『Start up A's…More Battle』











Side:なのは


2学期もあっと言う間に時が過ぎて、季節はすっかり冬に向かってまっしぐらなの。
天気予報では今年は厳冬って言ってただけあって、11月も末のこの時期でも朝の気温が氷点下になる事もしばしば……吐く息が白くなるからね。

其れでも今日は良く晴れてるからお昼は日差しが暖かくて気持ちが良いけどね♪


「夏と違って湿気がない分、冬場の晴れの日は良い感じに気持ちいいわよね〜〜〜。
 其れでもって、そんなに気持ちの良い日差しを満喫できる屋上で、気の許せる仲間と共に昼食を摂るって、此れ物凄く贅沢なんじゃないの!?」

「せやなぁ……何気ない日常かも知れへんけど、其れを普通に出来るって事は物凄く贅沢なのかも知れへんなぁ……」


「……アリサもはやても何でそんなに達観してるんだろう?」

「えっと其れは……な、何でかななのは?」


にゃはは……な、何でかなぁ?
でも、アリサちゃんとはやてちゃんの言う事には、私も諸手を上げて賛成って言うか、同じように思うかな?


「アタシもその意見には同意だな。
 心を許せる仲間と、何の変哲もない平和な日を過ごせるってのは、この上ない贅沢だろ?……当たり前すぎて気付かない奴が多いんだけどさ。」

「確かに、余りにも普通過ぎて大切さに気付かないかもしれないけど、大事な事なんだよね。」



「アリサとはやてだけじゃなくて、皆割と達観してる!?」

「……でも、言われてみれば確かにそうかも……当たり前の事が当たり前に出来るって幸せな事だよねアリシア?」

「フェイトも速攻で染まった!?……うぅ、お姉ちゃんが置いてけぼり…」

「そ、そんな事ないよ!?
 ただ、はやて達の言う事も一理有るなって思っただけで、別にアリシアを除け者にしようとしたわけじゃないから……!!」

「……本当に?」

「本当に……信じて『お姉ちゃん』。」

「ぐはぁぁ……か、カウンターは卑怯だよフェイト…」


あ〜〜〜……うん、何となくそうじゃないかとは思ってたけど、アリシアちゃんも中々に『シスコン』だよねぇ?
まぁ、フェイトちゃんもアリシアちゃんの事を普段はあんまり『お姉ちゃん』て呼ばないから、偶に呼ばれると破壊力が大きいのかもしれないの…


「間違いなく大きいと思うなぁ…
 お姉ちゃんと言えば……私のお姉ちゃんが、なのはちゃんに『お姉ちゃん』て呼んでほしいって言ってたんだけど…将来的にはそうなるからとかなんとか…

「……その時が来るまで待っていて下さいって伝えてほしいの…」

まぁ、多分遠からずその時は訪れると思うけどね。



「高町なのはさん!!」

「ほえ?」

話し込んでたら、何時の間にか見知らぬ男の子が……え〜と、確かこの人は6年生の児童会長さん?
そんな人が私に何か用ですか?


「単刀直入に言おう……僕と付き合ってくれ!!」

「あ、そう言う事はお断りしますから♪」

私はその気はないですし、今は大切なお友達と一緒に居る方が楽しいですから。
其れに非常に申し訳ないんですが、私の周りってお兄ちゃんにお父さんにザフィーラって言う極上のイケメンが揃ってるので並の上位じゃ……


「なのはちゃん、其れハードル高すぎやで…」

「恭也さんに士郎さんにザフィーラさんに勝るイケメンは早々居ないと思うよ…?」


うん、分かってるよ?
付け加えるなら、シグナムが同性でも惚れそうなくらいに極上の美人さんだもん……だからねぇ?

「そう言う事なので、お引き取り下さいなの♪」

『さっさと去りなさい下郎、貴方がMasterに交際を申し込むなど1億5千年は早いと知りなさい。』

「そ、そんな……この僕がフラれるなんて〜〜〜!!ドチクショウ〜〜〜〜!!!青春なんて嫌いだ〜〜〜〜!!!!」


……行っちゃった。
其れからサラッと止め刺したね、レイジングハート?


『Masterの交際相手はそれ相応の相手でないと……私としては矢張りシグナムを推奨したいのですがダメですか?
 それ以前にMasterと交際するならば、Masterよりも強い事は最低条件でしょう?……其れを踏まえるとあのフェレット擬きは最初から除外です。』


「其れ誰だっけ?」

「……憐ねユーノ……アンタ、なのはの記憶から抹消されてるわよ…」


ユーノ?……あ〜〜〜…確かにそんな人がいたかも――うん、誰だかさっぱり分からないの。


『酷いよなのは!?』


ん?時空を超えて何か聞こえた気が……うん、無視してお昼休みを満喫するのが一番だね♪








――――――








――時空管理局・本局大会議室



Side:グレアム



以上の様に、此度の闇の書は此れまでとは違い人々に害を与えてはいない……現状での凍結封印は見送るべきだと思うのだが?


「何を言うかギル・グレアム!!
 貴方とてアレの危険性は百も承知の筈だ!!11年前、アレが暴走して優秀な局員が犠牲になったのを忘れた訳ではないだろう!!」

「忘れてなどは居ない……だが、此度の闇の書の主である少女を『ロストロギアの所持』と言う理由だけで永久凍結するわけにもいかないだろう?
 其れに、ロストロギアも管理局の許可があれば所持できるのは知って居るでしょう?
 彼女はリンディ・ハラオウン提督にその申請を行い、そして其れは受理されている……確実な犯罪行為が認定されない限り手出しは出来ぬのだよ。」

其れに彼女と守護騎士達は、先の『ジュエルシード事件』を解決に導いた立役者だ。
管理局に協力してくれた少女を、此方の都合で不当な扱いをすると言うのは、余りにも人道に反する行いだと私は考えるが?


「其れでも、アレが暴走したら取り返しがつかない事になるのだぞ!?」

「だが、暴走しても終焉までは時間がある……凍結封印は暴走が起きてからでも遅くはない。
 何よりも彼女には家族が居るのだ――彼女が永久凍結されたとなったらその家族の悲しみは如何程か……想像に難くはないでしょう?」

何よりも、11年前の悲劇を知る私達が、悲劇を与える存在となってはいけないのではないかな?
今は静観するのが上策だと思うのだよ……高町なのは君ならば、或は闇の書の呪いを超え、危険なロストロギアを無害な魔導書に戻すや知れん。

其れにだ、下手に彼女に手を出せば管理局が火傷では済まない痛手を被る事になりかねない。
彼女の周りには、多くの友人がいる……その中には『アノ』プレシア・テスタロッサの娘も含まれて居るのだ、一手間違えば管理局は消滅するだろう。


「あの『魔女』の娘までもが!!……何と言う事だ。」

「加えて、第97管理外世界には独学で魔法理論の9割を完成させた科学者まで居るとの事だ。
 其れだけの人材が集うところに、此方の独善で斬り込んだらどうなるか位は予測できないかね?……故に今は手出しは無用なのだよ。」

アリアとロッテからの報告を見ても、高町なのは君が闇の書を悪用する事は先ず無いだろう。
それどころか、彼女が主となった事で、守護騎士も此れまでとは違い『人』としての感情と心を持つに至っているからね?

老いたこの身としては、見てみたいのだよ――未来ある少女が、永劫の呪いを撃ち破ると言う『奇跡』と言うモノをね…


「ぐ……仕方あるまい。
 だが、高町なのはが少しでも闇の書の力を悪用しようとしたその時は、即座に本来の計画である凍結封印を行うからな!?」


その時は私も反対はせんよ?
ただ、管理外世界に其処まで出張って良いモノかと言う疑問は残るがね。

出は今回の議題は、以上で宜しいかな?――では、閉会としよう。




「お父様、お疲れ様です。」

「アリア……うむ、矢張り闇の書へのアレルギーは相当に強いモノだ。
 一応は静観と言う形を取れたが、最高評議会派閥の者達は何時先走った行動に出るかは予想が出来ないのが正直なところだよ……」

其れを何とか抑えるのが私の役目なのだがね。

時に地球の方はどうなっているかな?
Mr.グランツと協力関係を築いてからそれなりに時間が経ったが……


「ロッテからの報告だと、グランツ博士も流石に闇の書の彼是には手を焼いているようです。
 まだ全容の解明に至っていない事から、高町なのははおろか、自分の娘達にも闇の書の色々な事は伝えていないようですが…」

「ふむ……慎重である事に越した事はない――何せ、相手は一級封印指定を受けている代物だからね…
 ……うむ、アリアよお前も地球に行って貰っても良いかな?少々嫌な予感がするのだ……出来る事ならばなのは君の力になってやってほしい。」

「ご命令とあれば何なりと……」


では頼む。
年寄りの第六感と言うか、兎に角闇の書の暴走とは違う胸騒ぎを感じるのだよ……まるで悪意そのものがなのは君に襲い掛かるのではないかとね。

私の杞憂であればいい……杞憂であって欲しいのだが……一体何が起きると言うのか…








――――――








Side:なのは


更に時は進んで、いよいよ1年の最後である12月に突入。
今月はクリスマスも有るし、何より今年のクリスマスは今までとはちょっと違った物になるだろうから今から楽しみで仕方ないの♪


『恐らくはシグナム達も同じようにクリスマスを楽しみにしているのではないでしょうか?
 彼女達の過去を考えれば、そのような祝祭を楽しむ事など皆無だった筈……Masterと其れを楽しむ事を心待ちにしていると思われますよ?』

「だと良いなぁ?
 クリスマスにはお母さんも腕を揮って、御馳走を作ってくれるし、何よりも特製の『ブッシュドノエル』が毎年楽しみなの♪」

アレはきっと皆気に入ってくれると思うの。
特にシグナムは甘いもの好きだから、絶対虜になっちゃうね♪


『……♪』

「闇の書もそう思う?普段は凛としてるのに、甘いモノには目がないシグナムって何か可愛いよね♪」

『……』(コクリ)


だよねぇ♪



さてと、宿題も終わったしそろそろお風呂に入らないと――シャマルを呼んで……


『……!!Master!!!』

「え?」


――ヴォン……



な、急に景色が!!……此れってもしかして『封鎖結界』!?


『略間違いなくそうであるかと……しかもMasterだけを隔離した封鎖結界――確実にMasterを狙ったモノです!』

「私を!?」

そんな……一体誰が何の目的で私を…!



――キィィィン……



!!こ、今度は魔法陣が!?


『!!……!!!…!!』

「て、転移魔法!?……く…きゃぁぁぁぁぁ!!!」



――シュゥゥゥン……




「あん!……此処は…ビルの屋上?――何でこんな所に……若しかして私を完全に孤立させるために?」

レイジングハート、闇の書、はやてちゃんやシグナムと連絡は取れる?


『……如何やら通信妨害も張られているようですね…結界外部と連絡を取る事は不可能なようです。』

『………!!……』



無理……つまり、皆が気付いて来てくれるまでは私1人って言う事だね……此れは少しやばいかもしれないの……


『!!!……!!』

『何かが高速で接近中!此れは……誘導弾です!!防御壁を展開――Protection.』


――ガキィィィン!!!



誘導弾!?……しかもこれ……凄く強い!
プロテクションを張っても弾きかえせないなんて――だけど、防ぎきれないレベルじゃないから、何とか………ん?


「うおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「!!奇襲…!誘導弾は囮だったんだね……闇の書、お願い!!」

『!!!』


――バキィィィィン!!!



「ちぃ…とっさにベルカ式の防御陣で防ぎやがったか……一撃で沈めてやる心算だったんだが、思ったよりも腕は立つみてぇだな…!!」


ヴィータちゃん!?
ううん、よく似てるけど違う……この子は、男の子――

「行き成り襲い掛かられる覚えはないんだけど?
 貴方は誰?何処の子?……一体何が目的でこんな事をするの!?」

「答える義理はねぇ……敢えて言うなら、テメェにゃなくても、俺には…俺達にゃテメェをぶちのめす理由があるって事だ…大人しくぶっ飛べ!!」


――バガァァン!!!


「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

く…何てパワー……容姿だけじゃなくて、パワーもヴィータちゃん並なの!!
こうなったら…仕方ないね?闇の書、レイジングハート!!


『All right Master. Standby ready…Setup!無粋な襲撃者を返り討ちにしてやりましょう!!』

『!!!』



まぁ、程々に……撃破よりもシグナム達が来てくれるまで耐える事を先決にしてね。
だけど、其れよりも――

「行き成り何の説明もなしに襲うなんてのは酷すぎるよ……貴方が誰で、何の目的でこんな事をするのか……お話聞かせてもらうから!!」

行くよ、闇の書、レイジングハート!!













 To Be Continued…