Side:シグナム


「……また、全てが終わってしまった……この身の呪いは、矢張りどうあっても消えることは無いらしい……」

「まだだ…まだ終わって等いない!まだ私は蒐集されていない!」

ならば最後まで足掻かせてもらう!
ヴォルケンリッターの将として、夜天の魔導書の調停者として、何よりもお前達の妹としてこのまま終わる事など出来るか!

「もう、ドレだけお前に負けて蒐集されたか分からん……だが、今度こそはお前達を…貴女達を止めて救う!
 ×××××、ナハトヴァール!今回こそは、今度こそは……姉さん、貴女達を永劫の呪縛から解き放ってみせる!!」

暴走状態の姉さん達の力は私の数倍……だが、其れが如何した!
私は決めたのだ、ドレだけの時が掛かろうとも絶対に貴女達を呪縛から解き放つと!!

「レヴァンティン!!」

Jawohl Nachladen.(了解、カートリッジ装填。)
 だが、主よ、此れは相当に分の悪い戦いだ……今まで以上にな……其れでも挑むのか?』



分かりきった事を聞くな……此れは私の勤めであり願いだ……お前にもいつも迷惑をかけてしまうな…


『気になさるな…我は主の剣!なれば、主の為に役に立てればそれこそ本望!』

「ふ……私は良い相棒を手にれたものだ!!ならばその力、存分に使わせてもう!!
 行くぞ姉さん!今度こそ……今度こそは、貴女達の苦しみを!!覇あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………飛竜…一閃ーーーーーーーーーー!!!!!」

「将……我が妹よ……又してもお前を殺してしまう姉を、如何か許してくれ……スマナイ…撃ち貫け……ブラッディダガ―!!!!」


うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!












魔法少女リリカルなのは〜夜天のなのは〜  夜天30
『烈火の将の平和な一日』











「???」

今のは……夢?……いや、アレは私の記憶だ……もう、遠い昔の……そうだ、私は闇の書の調停者…書の暴走を止める者だったな。
……だが、恐らくは暴走を止める事はただの一度も出来なかったのだな…そうでなければ、我等が主なのはと出会う事はないのだから。

「ふぅ……願わくば、今回は調停者としての出番がない事を願いたいものだ……」

『………』


ふ…私が気になるか闇の書よ?
安心しろ、此度の優しい主をお前に喰い殺させはしないし我等の事も蒐集させたりはせん……護り抜いてみせるさ必ずな。

さて時間は……5:30か、そろそろ朝の鍛錬の時間だな。
まぁ、今日は日曜故にはやて嬢の朝練参加は望めんだろうが……主なのはとヴィータは来るだろうな。

「偶にはお前も一緒に見学してみるか?」

『♪』


ならばいっしょに来い。
……時に、巨大化してから如何してタマモは私の部屋で寝るようになったのだ?今まで通り、主なのはの部屋であっても良いと思うのだが…


『??…!!〜〜〜!!!

「この巨体だと、もし寝惚けて主達の眠るベットに乗っかったら大ダメージだから、頑丈そうな私の所にって?」

確かに私ならば早々簡単に潰されはしないが、その理屈ならザフィーラの方がより適任ではないのか?私である理由は?


『〜〜〜!!!』

「ザフィーラは男だから?……成程、それならば納得だ。」

ハネキツネに異性と共に寝る事に対する抵抗があると言う事の方に驚きだがな。
しかし、騎士の中で私だけが主と同様に闇の書と意思疎通が出来るのは『調停者』故だろうか?……そもそも私は何故調停者になったのだろうか?


……記憶が完全に戻らない状態では分かる筈もないか。


取り敢えずは朝練だ!今日こそ、無手の格闘で恭也殿からKO勝ちを奪って見せる!……判定勝ちはもう沢山だからな。



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結論だけ言うと、今日もギリギリの判定勝ちだった……だが、此れまでよりも有効打は入れられたと思う。
拳や蹴りだけではなく、何気なくテレビで見ていたプロレスや総合格闘技の試合で出て来た技を見様見真似で使ってみたら意外と効果があったな。
特に、ウェスタンラリアートとジャーマンスープレックス……アレは良い技だ、本格的に練習してみるか。


「ラリアットはタイミングが命、ジャーマンスープレックスはブリッジが命だよ♪爪先立ちの完璧ブリッジ。

「心得ています。身体能力には自身がありますので練習すればきっと出来るようになります。」

ラリアットの方は恭也殿が『合気柔術に似たような技があるから、其方の方が実戦的で良い』との事なので、そちらを練習してみますが。




今日は日曜日、そろそろ昼になる頃だが、私は主なのはと共に家の縁側で寛いでいる。
と言うか、現在この家には私と主以外は居ない。

翠屋は月一の店休日だ。

桃子殿と士郎殿は偶の休みに2人で出掛けて行った。主曰く『万年新婚』との事だが、仲良き事は実に素晴らしい事だと思う。
はやて嬢は、闇の書を連れて図書館に……闇の書よ、何故お前まで図書館に行く?まさか本が一杯あるからとかではないよな?…謎だ。
シャマルは、介護士の講座を受けに出掛けて行ったし、ヴィータは仲良くしている老人会の方達とゲートボールの大会だと言っていたな。
美由希殿も友人と出掛けていて居ない。
恭也殿とザフィーラは……朝食後に襲撃して来た(としか言いようのない訪問だった)忍殿とアルフに夫々連れて行か(拉致ら)れた。

そんなこんなで、夕方までは主と2人きりなのだ今日は。

「それにしても良い陽気ですね、こうして縁側で過ごすには熱すぎず寒すぎずの心地よい気温です。」

「ほんと…こうして平和にマッタリ過ごせるってある意味で最高の贅沢だよねぇ〜〜……此れで猫でもいれば完璧なの♪」


猫は流石に……代わりに『果てしなく巨大なハネキツネ』が居ますけれどね。


「にゃはは……一時的なモノかと思ったらずっとあのままとは驚き……流石はシャマル、予想の斜め上を行くの。
 でも、まぁ此れは此れで可愛いし実害ゼロだから問題ないよ♪……それで?」

「はい?」

「シグナム、何かあった?何て言うか、少し考え事してるみたいだったから。」


ふふ、相変わらず鋭いお方だ。
えぇ、実を言うと過去の記憶の様な物を夢で見たのです……断片的にしか覚えていませんが、私と言う存在にとっては大事な事を思い出しました。

「以前にプレシア女史が、我等騎士は此れまでは書の完成の最後のピースとして蒐集されてきたと言いましたが、どうやら私は違うようで…
 夢の中で、私は暴走した闇の書と戦っていました……書が何らかの不具合を起こした場合のストッパー『調停者』として。
 ですが、恐らく止めるには至らなかったのでしょう……そうでなくては、此度我等が貴女の下に集う事は有り得ませんから……」

「調停者……」


はい……尤も、何故私がその立場に居るのかとかそう言った事は一切分からないのですが。
ですが、願わくば今回は調停者としての私の出番がない事を願っているのです……調停者の出番は書が主を喰らって暴走した時ですので。

尤も、今回の蒐集は此れまでと全く質の異なるモノ故に今のところ暴走の危険はなさそうなので安心していますが。


「そっか……やっぱりシグナムが一番騎士の中で苦労して来たんだね。なら尚の事、この平和を楽しまなきゃだめだよ?」

「えぇ、分かっています。
 平和すぎて戸惑う事もありましたが、今はこの温かい世界を存分に楽しませてもらっていますよ。」

翠屋でのウェイトレス業も大分慣れてきましたし、接客と言うのも慣れて来ると思った以上に楽しいモノですので。
毎朝の鍛錬も己の力が日々強くなってる事を実感しています――プログラム生命体ではなく『人』として生きる事が出来る世界…最高ですよ。


「にゃはは、其れなら良かったの♪
 私ね、本当に闇の書の大いなる力とかは要らないんだ、皆と一緒に日々を笑って過ごせたら其れだけで満足なんだ…可笑しいかな?」

「いえ……可笑しくありませんよ、そう言った事を迷わず口に出来る貴女は、本当に優しい人だ。」

もし、今までの書の主が貴女の様な人ばかりだったならば、アレも『呪われた闇の書』などとは呼ばれていなかったも知れません。


「うん……だけど、もう闇の書を『呪われた存在』だ何て呼ばせない……私がさせない。
 だから、私が暴走をさせないで闇の書を完成させて証明するんだ、闇の書は無害だって、シグナム達は心ある騎士だって。」

「ありがたきお言葉……ですが、貴女ならできますよ、必ず。」

不屈の心を持つ貴女ならば、例えどんな困難な事であろうとも、最終的には成し遂げてしまう筈です。


「そうかな?そうだと良いなぁ〜〜……うん、頑張る!」

「その意気です、我々も最大限頑張りますので。
 ……時に主なのは、この庭に有る大量の鉢植えは一体?特に気にも留めてはいなかったのですが、何やら増えているのではないでしょうか?」

「……それ、全部お兄ちゃんが集めて育ててる盆栽なの。
 お兄ちゃんてば盆栽が趣味で、物凄くこだわってる部分があって……例えば右から三番目の松の木なんだけど…」

「小さいながらも中々と力強い印象を受けますが…」

「あの盆栽はアレで樹齢300年……因みに値段は、1個50万円……『此れで50万は安い』って即刻買ったらしいの。」


!!……趣味が高じると凄いモノですね。
……実害はありませんし、庭に彩りを添えてると言う事で良しとしておくのが良いのではないでしょうか?――多分言っても聞かないでしょう?


「だよねぇ……まぁ、全部自分で管理してるから良いんだけどね……シグナムは鍛錬以外に趣味は無いの?」

「趣味ですか?……実を言うと最近料理に嵌っていまして。」

桃子殿の指導の下、仕込みを任されるまでになりましたが、料理と言うのもやってみると存外奥が深いモノで……やりがいがあります。
もしよろしければ、今日は私が昼食を作りましょうか?


「ホント!?シグナムの手料理なんて、凄く楽しみなの!」

「とは言っても、まだ桃子殿の様に凝った物が作れる訳ではありませんが……期待に応えられるように頑張ります。」

うん、そろそろいい時間だし、今から作れば12:30には出来るだろう。
と言う訳で主なのは、昼食を作ってまいります。出来たら此方に持ってきますので、少しばかりお待ちください。


「は〜〜い♪」




さて、何を作ろうか?
食材は……ふむ、食パンにジャガイモ、それから辛子明太子があるな?……よし決まった!

ジャガイモは洗って耐熱皿に入れて電子レンジに。
辛子明太子は解してボールに入れて……パンは薄く切って耳ごとトーストにした方が香ばしさが引き立つな。

電子レンジで加熱したジャガイモは皮をむいて潰してマッシュポテトを作って解した明太子とマヨネーズで和えて、バターにはビネガーを数滴混ぜるか。

小鍋で牛乳を温めて、此れにブイヨンとトウモロコシの缶詰を加えればコーンスープの出来上がりだ。


――チン


パンが焼き上がったか。
此れにバターを塗って、特製タラモサラダを挟んで……よし、特製タラモサラダサンドイッチの完成だ……主のお口にあうといいが…


「お待たせしました、簡単なモノですが出来ましたよ。」

「待ってました!……トーストサンドとコーンスープ……とっても美味しそう♪」


そうですか?まぁ、召し上がってみてください。


「うん、いただきます♪」

「いただきます。」

………ふむ、我ながら中々良い出来だが……スープはもう少し甘めに作ってもよかったな。


「………うん、とっても美味しい!
 特にこのサンドイッチ!バターにビネガーを混ぜて風味を出してるのが最高!具のタラモサラダもジャガイモと明太子のバランスが絶妙で…
 はにゃ〜〜〜……此れはお母さんに進言して翠屋のランチメニューに加えるべきなの!」

「は?そ、其処までですか!?」

「其処までなの!少なくとも、私はこれまでこんなに美味しいタラモサラダサンドを記憶は無いの!!」


そ、そうですか……うむ、桃子殿の指導は私の想像以上にスキルアップをしてくれているようだな。
まぁ、満足していただけたのならば良かった。


「はぁ〜〜〜美味しさが疾風怒濤の様に駆け抜けて行ったの……ごちそうさまでした♪」

「おそまつさまです。」

では、片付けて食後のコーヒーを持ってきますね。
ふふふ……烈火の将が主の昼食をか……今まででは考えられん事だったな。



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そしてあっと言う間に夕刻。
3時のお茶も済ませて、相も変わらず縁側でゆったりまったり……あぁ、本当に平和だな。

「夕日が綺麗ですね主なのは…」

「うん……夕日って優しい光で、私は大好きなの。」


優しい光……確かに。
日中の照り付けるような日差しとは違い、夕日には全てを包み込むような温かさを感じますからね。



――コツン…



?……主なのは?


「ふぇ?……あ、ゴメン……何かちょっと眠くなって……居間に行かなきゃだね…」

「あ、いえ……このままで結構ですよ……私に寄りかかって寝て頂いても問題ありません。」

「ほぇ?………なら少し甘えちゃおうかな……此処から…居間…まで行くのも……楽じゃないからね……………………Zzz…」


寝てしまわれたか――この日差しの中では無理もない。
かく言う私も、少しばかりウトウトしてしまうな……主の手前、眠ってしまうなどは言語道断だが……其れでも此れは無理だろう。


「〜〜〜〜♪」(スヤスヤ)


天使の寝顔と言う以外に称しようの無い主なのはが一緒ではな……


「シグナム……」

「は、はい!なんでしょう?」

「……大好き…」


!?ね、寝言!?〜〜〜〜〜///其れは不意打ちですよ主なのは……ですが、私も同じ気持ちです。
私も貴女の事が大好きです……いや、私だけでなくシャマルにヴィータ、ザフィーラと、そして闇の書も……皆貴女に惹かれているのですよ…

「私も貴女が大好きです……この身の全てを懸けて御身をお守りすると我が剣と魂に誓いましょう…!」

……あふ……しかし、私も釣られて眠くなるとはな……まぁ、偶には良いか……








――――――








Side:はやて


……此れは起こしたらアカンよねぇ?
シグナムにもたれ掛かって寝るなのはちゃんと、そのなのはちゃんの肩を抱いて眠ってるシグナム……まるで芸術品のような光景やで。
しかも2人とも幸せそうな顔で……マッタク、ちょっと妬けるで。


けど、2人ともホンマに穏やかな顔で寝てるもんや……こら皆が戻ってくるまで起こさん方が良さそうやね。

「ほな、良い夢見や、闇の書の主様と烈火の将様……」

写真撮ろかとも思ったけど止めとこ。
此れはなのはちゃんとシグナムだけの『聖域』や……侵す事は許されへん……


なのはちゃん、シグナム……良き夢を……♪



さてと、晩御飯の仕込みくらいはしとこかな〜〜〜〜♪













 To Be Continued…