Side:シャマル


此れが最後のチャンス……此れで巧く行かなかったら私は…!

「出来ました……」

焼き上がったクッキーを桃子さんの前に差し出す……今度は大丈夫、一切の分量の間違いはなしに作ったから、少なくとも失敗はしてない筈。
少し焦げたかもしれないけど、其れでも食べられるレベルにはなってる筈――


「ボツ。」

「此れはアカンわ…」


「な、なのはちゃん!?はやてちゃん!?」

桃子さんが試食するより早くダメ出し!?
な、何で〜〜?今回は結構上手にできてると思うんだけど?…た、確かにちょ〜〜〜っと焦げちゃったかもしれないけど、食べる事は出来る筈よ?


「シャマル……もし本当にそう思ってるなら一度眼科を受信して来い。」

「ちょっと焦げたとかのレベルじゃねぇよ此れ……つーか、桃子さん、このクッキーは目がついてるような…」

「…多分気のせいよ…」

「いや、メッチャ見てる…」

「無視して………はぁ〜〜…如何して私のレシピ通りに作って、クッキーが謎の生命体になるのよ〜〜〜!(涙)
 シャマル…残酷なようだけど、此処で引導を渡させてもらうわ……貴女は今後一切料理禁止!もう諦めて……私でも矯正できないわ…」


えぇ〜〜〜〜〜!?……あうぅぅ…シャマル先生しょんぼり……でも謎生命体作っちゃったら仕方ないのかしら……大反省ね…(涙)












魔法少女リリカルなのは〜夜天のなのは〜  夜天29
『湖の騎士は日常を謳歌する』











と、言う訳で私の料理の道は完全にシャットアウトされてしまいました……なんで料理だけ下手くそに設定したのよ闇の書の製作者は〜〜〜!
私の料理をなのはちゃんに食べて貰うのが今回の覚醒の最大の夢だったのに〜〜…私泣いても良いわよね…


だけど、料理の道が閉ざされたのはある意味では良いのかもしれないわ――此れに集中できるから。


「「「「「「介護士の資格?」」」」」」

「何故それを?」

「資格など取らなくとも良いのではないか?」


資格そのものはとらなくてもいいのよ――私は介護のノウハウを学びたいと思ってるの。
このまま滞りなく闇の書を完成する事が出来れば、なのはちゃんの足の麻痺は止まって、リハビリを始める事が出来るようになるでしょう?

そうなった時に正しい介護とサポートが出来る人がいた方が良いと思うの……家でのリハビリをするなら尚の事其れは必要になると思うのよ。

「そんな訳で、通信学習で資格を取ろうと思うんですけど……ダメでしょうか?」

「……俺は賛成だな、確かにシャマルの言う事は尤もだし、何よりなのはの事を考えての事だ、反対する理由がない。」

「私も恭ちゃんと一緒で賛成かな?」

「僕も賛成だね。そこまで考えてるなら、反対する理由の方が見つからないからね。」

「私も勿論賛成するわシャマル♪」


ありがとうございます……あ、でもなのはちゃんとはやてちゃんは…


「まぁ、えぇんと違う?てか、正しい知識と技術を持ってる人は必須やろ?
 なのはちゃんのリハビリが、何時から始められるかは分からんけど、備えあれば憂いなしや――やるだけやったればえぇやろ?」

「……其処まで私のことを考えてくれてたんだ……ありがとうシャマル。宜しくね。」


!!はい、頑張っちゃいます!!
はぁ……本当に良い子だわなのはちゃんもはやてちゃんも――勿論アリサちゃんとすずかちゃんもだけれど。
ふふ、優しい主様とそのお友達の為なら、シャマル先生は一生懸命になっちゃうわね♪


で、其れは其れとして……自分で生み出しておいて何なんだけど、この謎のクッキー型新種生命体如何しましょうか?


『『『『『『『『『『……………』』』』』』』』』』(じ〜〜〜〜〜〜〜〜…)


「滅茶苦茶ガン見してやがるな……」

「只の失敗作ならば埋めてしまうのが良いのだろうが……此れを埋めたら呪われそうな気がするしな…」

『謎のロストロギアとしてアースラに管理して貰うのが宜しいのではないでしょうか?』


ロストロギア!?……あ、でも卵と小麦粉とお砂糖が謎の生物に変貌してるんだから、ある意味では正しいのかしら?……作ったの私だけれど…
あ、タマモちゃん、近づかない方が良いわ!生みの親が言うのもなんだけど、それは遊星からの物体Xよ!触っちゃダメ!!


「?……♪」(パクリ)

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」


た、食べちゃった!?タマモちゃん!吐き出してすぐに!!命が危険で危ないのよ〜〜〜〜!!!


「?……!!」


――ドクン…


え?…な、なに?


――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ズギャァァァァン!!


「♪」

「「「「「「「「「巨大化した!?」」」」」」」」」」


まさかまさかの超展開!?今のタマモちゃんは推定体高150p、推定全長3mの大型生物!?……此処までなるなんて私って一体…
クラールヴィント、タマモちゃんは大丈夫?


『問題ありません。……貴女のアレを食して巨大化だけで済んだのは奇跡と言うべきでしょうね…』

「クラールヴィントも何気に容赦ない!?……まぁ、私の料理の腕は認めるけど…認めざるを得ないけれど……」

だけど、巨大化しちゃったタマモちゃんは如何したモノかしら?
と言うか、如何してタマモちゃんはロストロギアレベルの物を食べて此れで済んでるのかしら?…不思議だわ。


「多分、一度はジュエルシードに取り込まれたから、其れで耐性が出来てるのかも。
 其れに巨大化程度じゃ実害はないから問題はないの♪おいでタマモ〜〜♪」

「♪」


――すりすり


ま、まぁなのはちゃんが嬉しそうだし、此れは此れで結果オーライかしら?
まさかクッキーを作ろうとして謎生物を生み出し、その挙句にタマモちゃんが巨大化するとは流石に予想外だったわ……シャマル先生ビックリ。


「他に言う事はないかしら?」

「二度と厨房には入りません…」

「宜しい。」


あう〜〜〜……闇の書の製作者に恨み言の一つでも言いたくなった私は絶対に悪くないわ!
うぅ〜〜、料理が駄目なら掃除や洗濯、将来のなのはちゃんのリハビリのサポートで活躍してみせるから!!








――――――








で、時は移って今日はなのはちゃんの病院の日。
検査は終わって、石田先生から検査結果を聞いているんだけど…


「なのはちゃんの足、改善は見られませんが麻痺の進行は止まっています。
 この状態ならば命の危険と言う事もないでしょう――後は麻痺が改善するように此方でも最善を尽くさせてもらいますね。」

「進行が……」

「止まった……!」


やったわ!
改善してなくても進行が止まったならなのはちゃんが死ぬ事だけは避けられたわね!やっぱり魔力の蒐集は間違った道じゃなかったのよ。
……それもこれも、なのはちゃんの為に魔力を差し出してくれる人がいたからこその事だけれど……本当に感謝だわ。


「僅かでも改善の兆しが出てきたら、少しずつリハビリのプログラムを考えて行こうかと思います。
 まだまだ先は長いと思いますけれど、麻痺の進行が止まったと言うのは今迄から考えれば大きな進歩です、頑張っていきましょう。」

「「はい!!」」


プレシアさん達の魔力も貰ったから、闇の書はあと100ページ位で完成する……焦らずに、でも確実に魔力を蒐集しないといけないわ。


――シグナム、一度アースラと連絡を取った方が良いわ。


――あぁ、有害な魔道生物の駆除と言った仕事が無いか聞いた方が良いだろう。
   残り100ページは其れ等から魔力を蒐集しなければならないだろうからな……有害生物駆除ならば主なのはも咎めはしないだろう?


多分ね――なのはちゃんは本当に人々の平和と安息を願ってる子だから。
そんななのはちゃんの為にも、私達ヴォルケンリッターは頑張らないと♪





「あ、シャマル、シグナム〜〜♪」

「お待たせしました主なのは。」

「朗報よなのはちゃん、なのはちゃんの足の麻痺は進行が止まったらしいわ♪」

「本当に!?」


石田先生との話を終えて、ロビーで待ってたなのはちゃんと合流。
うふふ、麻痺の進行が止まったと聞いてなのはちゃんも嬉しそう♪完全に止める為に闇の書の完成を頑張るわね?


「うん、ありがとう……だけど無理はしないでね?
 幾ら私の為にとは言っても、皆が傷つくのはやっぱり嫌だから――皆が無事で居て、笑って日々を過ごせる事が私の願いだから。」

「無理はしませんよ……それに、主なのはのその願いをかなえる為ならば我等は一時の苦難は受け入れますよ。」

「そうよ?なのはちゃん達と笑って暮らせる未来を手に入れる為なら、一時の苦難なんて大した事はないわ。」

漸く巡り会えた優しい主様の為ですもの、苦難も苦難とは感じないわ♪
だから安心してなのはちゃん、私達は無理はしても無茶はしないから……何があっても必ずなのはちゃんの下に戻ってくるから。


「うん……信じてるよ。」

「なのはちゃんが信じてくれている限り、私達は絶対大丈夫よ♪」

なんたって、私達はなのはちゃんの騎士なんですから♪








――――――








で、あっという間に夜。
夜は夜で私にも大事な役目がある――なのはちゃんをお風呂に入れるって言う役目が。

やっぱりなのはちゃんの入浴には介助が必要だし、騎士達の中では私じゃないと此れは出来ないモノね。
はやてちゃんとヴィータちゃんも一緒だけれど、この2人だけで入浴介助は難しいもの……今までは美由希ちゃんがやってたらしけど。

「其れじゃあ湯船に入れますね〜〜♪」

「は〜〜い♪」


このバスタイムが密かな楽しみなのは秘密♪……私の特権ですもの。


それにしても、こうして湯船に浸かってると思わず歌を口ずさみたくなるのは何でかしら?
偶には歌っても良いわよね?それじゃあ…

「In the field so green and so free Seeds gaze up.(蒼く広がる草原で 種は空を見上げる)
 The clouds keeps them from the Light And the sky cries white tears of snow.(光は雲に遮られ 空は雪の涙を降らす)

 But still... (其れでも…)

 The fragile seeds wait long for the sun to shine Dark winter away, come spring.(か弱い種はじっと待つ暗闇の季節が去り、暖かな春が訪れるのを)
 My young seeds once again will look up to the sky and I know they will grow strong.(そして幼い種は、再び空を仰ぎ見る強く雄々しい芽を出して)
 My young seeds once again will look up to the sky and I know they will grow strong.(私の幼い種達は、再び空を仰ぎ見る強く雄々しい芽を出して)」

「……優しい歌だね…」

「なんか、随分久しぶりに聞いた気がするぜ…」


ヴィータちゃんには懐かしいかも知れないわね―――此れはベルカに伝わる子守唄の一種なんです…如何ですか?


「とっても優しくて、でも力強くて……素敵な歌だと思うの。」

「ホンマにそうやな……何ていうか、こう…胸が温かくなってくるわ……」


そう言って貰えるとうれしいわ。
僅かに残ってる昔の記憶の中で、この歌だけは絶対に忘れる事はなかったから。


「ねぇシャマル、その子守歌はまた歌って貰っても良いかな?凄く、安心できるんだ…」

「勿論。なのはちゃんが望むなら何時だって…」

貴女は私の主様――貴女が望むなら、其れ位の事は喜んでさせていただきますよ――湖の騎士は、どんな時でも貴女に癒しの風を運びましょう。
貴女が貴女で居る限り、群雲の騎士は貴女に仕えます……大好きよ、なのはちゃん♪


――ちゅ♪


「!!〜〜〜不意打ちのデコチューは、流石に照れるの…」

「ふふ、親愛の証です♪」

今日も最高のバスタイムを過ごす事が出来たわ。



……あの後で、古代ベルカに伝わる歌を何曲かリクエストされて、其れを歌いきった結果、見事に皆で逆上せたのも、まぁ良い経験としておきましょう。















 To Be Continued…