Side:ザフィーラ
私の朝は早い。
と言うのも、毎朝の鍛練を欠かす事は出来ないからだ――同じ理由で、シグナムも朝が早い。そして恭也と美由希も。
主と仲間を護るが守護獣の勤め……ならば如何なる時でもその務めを果たせるように己を鍛える事を欠かしてはならぬからな。
「うおぉぉぉぉ…でぇりゃぁぁぁぁぁぁあっぁぁぁぁぁ!!!」
――バキィィィィ!!!!
「うわ…ザフィーラ凄い…」
「20枚重ねの板が見事なまでに真っ二つ……見事なまでの剛腕やね。」
お褒めに預かり至極光栄。
仲間を護る為に敵を砕く……守護の拳は其れが本質――守護と破壊と言う一種の矛盾を内包しているからこそ成り立つものであるかも知れん。
だが、守護の拳は私の誇りであり、そして魂――曇らせる事は出来んのだ。
「成程…その意気があればこそだね。――だけど、今朝は此処まで、朝ごはんの準備が出来たってお母さんからメール来たから。」
もうそんな時間か……夢中になっていると、時が経つのを忘れる事があると言うのは聞いた事が有るが、確かにその通りだな。
ふむ次の鍛練は夕食後だな。
「今日の朝食は焼き魚……この匂いはアジの開きか。」
「……はやてちゃん、お姉ちゃん、匂いする?」
「ううん全然。てか主屋の台所から道場までは幾ら何でも匂わないと思うんだけど…」
「まぁ、ザフィーラ犬やしなぁ…」
犬ではない、私は狼だ!!
魔法少女リリカルなのは〜夜天のなのは〜 夜天28
『盾の守護獣の穏やかな一日』
うむ…今日の朝食も美味だったな。
朝食が終われば、主達は学校に行き、我等は翠屋での仕事が待っている――ウェイターと言うモノにも随分慣れた…確りと勤めねばな。
「ぬぅぅぅん!!!」
「「「「おぉ〜〜〜〜〜〜……!!!」」」」
……して、何故翠屋スタッフから感嘆の声が上がるのだろうか?私は特別な事をしている訳ではないと思うが……
開店前の準備として一番大事な店内清掃を行っているだけなのだが……
「今ザフィーラが持ち上げたテーブルは物凄く重くて、普通は2〜3人で運ぶ物なんだけど…」
「む…そうだったのか?」
「其れを1人で、しかも片手で1個ずつ持ち上げれば其れは誰だって驚くわよ?」
成程……確かに普通の人間ならば、持ち上げるのには苦労するだろうな。
だが、私には問題にならない重さだ――昔は此れの10倍以上の重さの物を持ちあげた事も有る。
「「「「「「ザッフィースゲェ!!!!」」」」」」
むぅ…翠屋スタッフ(アルバイトも含む)の間で、どうやら私の愛称は『ザッフィー』で決定されているようだな?…愛称等無かった故に新鮮な気分だ。
其れは其れとして、出来るだけ広くした方が床の掃除はしやすいだろう?
「その通り〜〜〜♪さぁ、お掃除お掃除〜〜〜♪」
「……ノリノリだねシャマルさん。」
「シャマルさんて美人で気立てもよくて、洗濯と掃除は完璧なのに――如何して料理だけはダメなんだろうね?」
謎だな。
この間、シャマルが試しに味噌汁を作ったんだが……アレは最早食べ物ではなかった――恭也が『バイオウェポン』と言ったのも間違いではないな。
そもそも、何故桃子の指導を受けて一向に腕前が向上しない?…それどころか酷くなっているのだ?
シグナムの方は桃子の指導の下、着実に腕を上げ――
「桃子殿、仕込みの方が終わりましたので最終チェックを。」
「は〜〜い♪」
今や翠屋の仕込みを任される腕前にまで上り詰めたと言うのに……シャマルは何故だ?……元々料理には向かないと言う事なのだろうな。
「因みにそのバイオウェポンはどうなったの?」
「うむ…元が食材だけに肥料くらいにはなるだろうと庭に撒いたのだが……庭の雑草が全て枯れた!」
「大量殺戮兵器!?」
無害な食材を一体如何弄ったらアレほどの毒性を出す事が出来るのか…アレは最早『才能』の域かもしれんな。
近い内に桃子によって料理の道は引導が渡される事だろう……あの光景には桃子ですら顔を引き攣らせていたのだからな。
などと話している間に床掃除は終わったか。
後はグラス類を拭き上げるだけだが、此れは私の出番ではないな――前に拭こうとしてカップやグラスを砕いてしまった事があるからな。
繊細な仕事は他のスタッフに任せた方が良いだろう――さて、そろそろ開店だ。
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矢張り週末の土曜日と言うのは人が来るものだな――午前中だけで50人とは、翠屋の人気が如何程かうかがえると言うモノだ。
「あ、アレだけ動いて、如何してザッフィーさんとシグナム姐さんとシャマルさんは息切れ一つ起こしてないんですか…」
「鍛え方の違いだな。」
その通りだ。この程度でへばってはいられぬのでな。
「「「ただいま〜〜〜♪」」」
主?……あぁ、今日は土曜日だから半日授業だったのだな。
「ただいまお母さん!直ぐに着替えて午後のお店手伝うね?」
「アラ、ありがとう♪……だけど、なのはには夕方になったらお買い物頼みたいのよ〜〜…ザフィーラと一緒に♪」
主と買い物?……うむ、私は別にかまわぬが…
「ザフィーラと?晩御飯の買い出し?……うん、良いよ!ザフィーラも良いよね?」
「異論はない。」
「じゃあお願いするわね♪」
異論はないが……如何にも桃子が何かを企んでいるのではないかと思ってしまうのは、彼女の測りきれない人の器の大きさ故の事か…
兎も角、主と一緒の買い出しは楽しみではあるな。
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そして夕刻、私は主と共に商店街を巡っている――狼の姿で背に主を乗せて。
何時ぞや主から願われた事を叶える事が出来たと言うのは嬉しい事だ。商店街の人々も、私に乗って買い物をする主に温かい眼差しを向けている。
「いらっしゃい!
おぉっと、今日は頼れるボディガードに乗ってお買い物かいなのはちゃん?」
「はい♪頼りになる守護獣と一緒にお買い物です♪」
「守護獣か〜〜…確かにそいつは強そうだ!チンピラ程度なら、一発吠えれば撃退できるかもしれないね!」
チンピラでなくとも、主に害をなそうとする者は守護獣の名に懸けて全力で叩き潰す心算だがな。
「撃退できますよ、私の守護獣は世界最強の誇り高い狼ですから♪」
「誇り高き狼か〜〜…カッコいいねぇ!
っと、イケねぇイケねぇ!そんでなのはちゃん、今日は何をお求めだい?」
「え〜〜〜っと……豚肉ロースを1500gお願いします。」
豚のロース肉……今夜は豚カツ――いや、他の買い物を見るとカツカレーか?……何とも抗い違い好物メニューだな。
「豚ロースを1500……3000円になりますね。」
「じゃあこれで。」
「3000円ジャスト・・・毎度アリ!!」
此れで買うべきものは全て買った……では戻りますか?
「うん……だけどその前に海鳴臨海公園に寄って貰っていいかな?」
海鳴臨海公園に?
勿論構いません……其れが主の望みであるのならば、其れを叶えるもまた守護騎士の勤め――真に使えるべき主の望みであるならば尚の事。
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そうしてやって来た海鳴臨海公園(今は人間形態で主を抱えている)だが……これは凄い、正に『絶景』と言うに相応しい景色と言える。
水平線の向こうに沈む夕日、其れによって茜色に染められた海――そして宵闇と黄昏の一瞬に現れる狭間の景色……実に素晴らしいモノだ。
「この景色を、ザフィーラにも見てほしかったの――世界にはこんなに綺麗なモノがあるって知ってほしかったんだ。」
「確かに綺麗だ……自然の営みが生み出す一瞬の『美』……其れがこんなにも心に響くとは初めての体験かも知れぬ…」
我等は此れまで、戦いありきの生活をして来た故に、このようなモノを楽しむ事はなかった。
だが、此度の覚醒は今までとは違い、我等に戦いを強要しない主の下での覚醒となった事で『日常』を楽しむ事が出来るようになった。
そして我等が主の高町なのはは我等をなによりも気遣ってくれる――守護の拳、この主の為ならば奮うことは厭わぬ!…そう思わせてくれた。
「ねぇ、ザフィーラ。」
「…何でしょうか主よ?」
「私は魔導師としては未熟だし、足も悪い――そんな私でも、貴方達は一緒に居てくれるかな?」
……愚問ですよ我が主。
我等ヴォルケンリッターは主を護りする為に存在する――主を護る事こそが我等の誇りなのです!
「そっか…なら、ヴォルケンリッターは無敵だね?――私は皆を信じてるから♪」
「そう言われては応えぬわけには行かぬ……闇の書の守護騎士、盾の守護獣ザフィーラ……千の刃が来ようともすべてを叩き潰す!!」
私の大声に道行く人が数人『ビクッ』!となるが、此れは譲れぬ誓い故に容赦してほしい。
我が主、高町なのは――貴女の進む道の障害は、全て我等が排除しますので、貴女は貴女の道を進んでください…道を誤らずに…
「うん、約束♪」
「うむ…約束ですね。」
私の守護獣としての新たな誓いは沈む行く夕日に行われた……大丈夫だ、我は迷わん!
盾の守護獣ザフィーラ……この心優しき主は、何があっても必ず護り通して見せよう――我が誇りに誓ってな。
闇の書の守護騎士として生まれて幾星霜――私は…否、我等守護騎士は、漸く真に仕えるべき主に巡り合う事が出来たようだ。
To Be Continued… 
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