Side:ヴィータ
よう。ヴォルケンリッターが1人『鉄槌の騎士』ことヴィータだ。
ジュエルシードを巡るゴタゴタも一応の解決を見せて、アタシは今までは謳歌する事もなかった『平穏な日常』ってのを送らせてもらってる。
まぁ、闇の書の守護騎士として言うなら、こんな平穏は如何なんだ?と思わなくもないけど、自分が望んでない戦いをしなくていいのは正直ありがたい。
勿論、闇の書の主に害をなす奴がいるってんなら、其れは全力でぶっ潰すけど。
だけど、其れも今までは守護騎士としての『義務』って事でやってただけだ。
アタシが、アタシ達が心から護りたいって思ったのは、今回の主のなのはが初めてかも知れねぇ。
あぁ、何があろうともなのはの事はアタシが全力で護ってやるさ!シグナムの言葉を借りりゃ騎士の名に誓ってってやつだ。
そう、思っちまうほどなのはは良い奴だった――本当の意味で。
まぁ、アタシの事を妹扱いして、やたらと世話焼きたがるのがアレだけど、此れは此れで悪い気分じゃねぇ。
「なのは、まだ終わらねぇの?」
「ん〜〜〜〜…ノーマルなツインテールも行けると思ったんだけど意外に似合わないね?
やっぱりヴィータちゃんは三つ編みのイメージが強いから、そっちでまとめた方が良いのかなぁ?…ヴィータちゃんは如何思う?」
いや、アタシに聞くなって。
でも、答えないとなのはは納得しないだろうし悩むだろうから………そうだ、一度やってみたかった髪型が有った!其れを言ってみるか!
「やっぱアタシは三つ編みがトレンドだからな。
だけど、何時もは2つに分けてるから、今日は1本の三つ編みでまとめるのも良いかも知れねぇ。」
「あ、その手が有ったね!じゃあ早速纏めるね。」
ま、なのはに髪をセットして貰うのは嫌いじゃない――寧ろなんつ〜か嬉しいからこんなのもアリだろ?
魔法少女リリカルなのは〜夜天のなのは〜 夜天27
『鉄槌の騎士のとある日常』
前置きが長くなったけど、今回はアタシの大切な人達と、アタシの日常を皆に紹介しようと思う。
アタシの朝は大抵の場合、目覚ましの5分前に目が覚めるところから始まる――闇の書が起動したばかりの頃は朝弱かったけど今は平気だ。
目が覚めたら顔を洗って、なのはとはやてを起こす。
「お〜い、朝だぜなのは、はやて〜〜〜。」
『………』(ゆさゆさ)
闇の書と一緒に。
「うみゅ…ふあぁぁあ…おはよう、ヴィータちゃん。闇の書。」
「おう、おはようなのは♪」
『♪』
なのはと朝の挨拶を交わすのが密かな楽しみになってるのは秘密だ――シャマルが知ったらぜってーからかってくるからな。
でもってもう1人、はやてなんだけど…
「間もなく道頓堀です、何方様も忘れ物が無い様にご注意ください。」
「一体何の夢を見てるの?」
「分からねぇ…」
時々はやては寝惚けて意味不明な事を言う事が有るから、どう反応して良いか迷う時がある――しかも寝惚けてるせいで無意識だから性質が悪い。
おまけに、はやてがこんな事を言うときは大抵意識は夢の中で、先ず起きてる事はないんだよなぁ……やっちゃっていいかなのは?
「加減はちゃんとね〜〜。」
「おうよ!おら、起きろはやて!此処は道頓堀じゃなくて海鳴だろ!!」
――パコーン!
目覚まし用ピコピコハンマーで一発!因みに此れは『アイゼンで打ん殴るのは危ない』と思っておもちゃ屋で買ってもらったモンだ。
此れなら多少力入れても怪我はしねーし安全だからな。……で、起きたかはやて?
「猛虎打線大爆発で9回裏に20点差をひっくり返しました〜〜〜…」
「「ダメだこりゃ。」」
『orz』
普段はちゃんと起きるんだけど、学校のない日のはやては極端に目覚めが悪い。
アリサやすずかも学校のない日は寝坊する事が有るって言ってたけど、はやての此れはそのレベルじゃないような気がする。
まぁ、朝ごはんまでには必ず起きて来るから、アタシとなのはは着替えて道場の方に行く事になるんだけどな。
「おはよう、お父さんお母さん!」
「おはよー!桃子さん、士郎さん!」
で、勿論道場に行く前に朝ごはんの準備をしてる桃子さんと、新聞読んでる士郎さんに挨拶するのは忘れない。
「あら、おはようなのはにヴィータちゃん。」
「おはよう2人とも……日曜だからはやてちゃんはお寝坊さんかな。」
まぁ、そのとーりです。
ピコピコハンマーシュラーク喰らわせたけど、全然堪えねーで意味不明の寝言呟いてた。
「もし起きてきたら、私とヴィータちゃんは道場の方だって…」
「はいはい♪伝えておくわよ〜〜。」
「うん、ありがとうお母さん♪」
なのはと桃子さんは本当に仲が良い親子だと思う。2人のやり取りを見てると、なんだかアタシまで嬉しくなっちまう感じだ。
挨拶交わして道場に行けば、既にシグナムが恭也さんと木刀で打ち合ってた。
道場の隅では、美由希さんがザフィーラ相手に打ち込みの練習中。
恭也さんも美由希さんも『小太刀二刀御神流』って言う剣術を使う剣士で凄く強い。
恭也さんなんか、剣術勝負でシグナムと略互角の戦いをするし、武器無しの格闘ならシグナムにも勝っちまう。
美由希さんも恭也さんには及ばないけど、シグナムと良い勝負はするし、武器無しの戦いなら時々シグナムに勝つ。
流石に2人とも格闘でザフィーラに勝つ事は出来ねーけどな。
毎朝の訓練は日課みたいなもんだから、アタシだって参加してるし、なのはとはやても魔法の練習をしてる。
但しなのはとはやては、身体が成長途中って理由で、負担をかけないために魔法の訓練は週休2日になってる。
実はこの訓練は、アタシ達守護騎士には思わぬ収穫が有った。
アタシ達の強さは闇の書の製作者によって『設定』されたもので、その『枠』を超えた力を手にする事は出来ないとずっと思ってたんだけど……
其れは違った。
毎朝訓練してたら、確実に技の威力とかが上がってた――アタシ等は設定された以上の力を身に付ける事が出来たんだ。
其れが凄く嬉しかった……なのは達を護る為の力を、今より強くする事が出来るって分かったから。
シグナムやザフィーラが訓練を欠かさないのも多分同じ理由だと思う。
シャマルが居るのだって、訓練後のシグナム達を『回復』させる事で、自分の得意分野の『癒しと補助』の力を高めてるんだと思うし。
「覇ぁ!!」
「しまった!!!」
――カキィィィン!!
お、決着ついたか?
シグナムの斬り上げが、恭也さんの木刀を弾き飛ばして勝負あり――シグナムの勝ちか。
「はぁ、はぁ……矢張りマダマダ剣では敵わないな――流石は歴戦の剣士、貴女の技は最早『神技』だなシグナム。」
「そんな…いえ、その称賛は素直に受け取っておきましょう。
ですが恭也殿、貴方とて日々強くなっている――三日前は決着までは4分掛かりましたが、今日は6分掛かりましたよ。」
2人とも汗びっしょりだけど何か楽しそうなのは、剣士として通じ合うからだってなのはは言うけどアタシにはちょっと分からねー。
まぁ、シグナムは予想外の使い手との出会いに、恭也さんは自分よりも強い剣士との出会いに喜んでるのは分かるけどな。
「「おはよう!!!!!!」」
「ぬあ!?…主なのは、ヴィータ……!!」
「び、吃驚した〜〜!!」
「打ち合いに集中しすぎて気付かないとは俺もマダマダだな…」
「…おはようございます主……ヴィータも、おはようだな。」
おうよ。
てか、毎朝結構ハードな訓練だと思うのはアタシだけか?いや、アタシも此れから其処に加わる訳だけどさ。
或は恭也さんやシグナムからしたら此れ位の方が丁度良いのかもしれないけど、アタシにはちっときついな……身体のサイズの差かも知れねーけど。
まぁ良いや、美由希さん、アタシの相手して貰って良い?
「良いわよ?
ヴィータちゃんの戦い方は、剣術にはない戦い方だから得るモノは多いしね!」
「じゃあ、お願いします!」
実は美由希さんはただ一点だけ恭也さんに勝ってるモノがある。
それは『適応能力』の高さ……剣術とはまるで違うアタシの攻撃の軌道を、美由希さんは1回見ただけで殆ど覚えて対処してきた。
まぁ、其れでもまだ負けた事はない――最初の一回以降は引き分けばっかだけどな。
そのおかげでアタシも強くなれてるようなもんだけどさ。
んで、朝の訓練後にシャワー浴びて朝ごはん。
今日は洋風のメニューだけど、桃子さんの料理は何でも美味しいからアタシは何が出てきても残さず食っちまう…アタシだけじゃなく皆だけどな。
アタシ達にとって食事がこんなに楽しくて美味しいモノだって思えるのは若しかしたら初めてかもな…今までは機械的に摂取してただけだから。
だけど、今は違う。
なのはが居て、はやてが居て、士郎さんと桃子さんと恭也さんと美由希さんが居て、そして其処にアタシ等が居る…なんつーか暖かい。
兎に角、皆で楽しく食べる食事がこんなに美味しいなんて事を、アタシ等は今回の覚醒で初めて知った気がする。
因みに今日の朝ごはんは、パンとオムレツとサラダとジャガイモ入りのコンソメスープ……ギガウマでした。
特に桃子さん特製の『イチゴジャム』の美味しさにはほっぺた落ちるかと思ったです……桃子さんスゲー…
土日の翠屋は混む、兎に角混む。
平日の倍は来てるんじゃないかってくらいお客さんが来るから、基本的にアタシとなのは達も土日は翠屋の手伝いをする事が多い。
今日はアルバイトで働いてるアミタとキリエも来てるから少しは楽かもな…この2人はバイトの中でも特出してるしな。
あ、アミタとキリエもアタシの大事な仲間だ。
2人ともグランツ研究所の所長の娘さんでジュエルシード事件を一緒に解決した。
「ミルクシフォンとエスプレッソですね?かしこまりました!」
「お待たせ〜〜〜、レモンパイと紅茶のセットで〜す。ご注文は以上でよろしいですか?GIY〜〜♪」
キリエ語は時々わからない事があるけどな。
あ、は〜〜い!ご注文はお決まりですか〜〜〜!?
土日に客が爆増する理由を桃子さんに聞いた事が有ったけど、如何やらその原因はアタシとなのはとはやてらしい。
元々土日はなのはとはやてが店の手伝いに出るって事で、近所の爺ちゃん婆ちゃんが良く訪れてたんだって。
で、其処にアタシが加わって更に客足が増えたって……桃子さん曰くアタシ等は『孫みたいなもの』だからって事だけど…まぁ、悪い気はしねーな。
アタシの存在が翠屋の売り上げに貢献してるってんなら寧ろ誇れるぜ!
ま、アタシも店に来る爺ちゃん婆ちゃんは嫌いじゃないし、それ以前にゲートボール仲間の爺ちゃん婆ちゃんが居るからな。
さて、昼休みまでもう一頑張りだ!
翠屋の手伝いが終わった夕方、日曜日の夕方は決まって、アタシ等の部屋で宿題を片付けてる――アリサとすずかも一緒だ。
アリサとすずかも大事な仲間だな――うん、親友ってやつだ。
土曜日に出る宿題は、日曜が休みなせいで多い――まぁ皆でやればすぐ終わるけどな。
「うにゅ〜〜〜…すずかちゃん此れ分かる?」
「あはは…ホントになのはちゃんは文系苦手だよねぇ…」
お互いに得意分野があるから、分からない所も直ぐに聞けるしよ。
あっと言う間に難しい問題も解決だぜ!ハッハッハ〜〜〜!アタシ等にはどんな難しい宿題も敵じゃないぜ〜〜!!!
アタシは意外に理数系に強かったみたいで、なのはと一緒にそっちを担当してる……文系はダメダメだけどな。
夕方から夜まではあっという間。
晩御飯食べてお風呂に入ったら、あっという間に『おやすみなさい』の時間だ……アタシも夜更かしは得意じゃねーから別に良いけどな。
お風呂入って、髪を乾かして、アタシはなのはとはやてと一緒のベッドに入る。
後は寝るだけで、言う言葉も決まってる。
「お休み、はやてちゃん、ヴィータちゃん。」
「お休み、なのはちゃん、ヴィータ。」
「お休みなのは、はやて!!」
此れだけだ。
でもそれで良いんだ、アタシは此れが好きだから……なのは達と一緒に過ごす時間が大好きだから。
「お前の事は何があっても必ず護るぜ……鉄槌の騎士に名に誓って!」
夢の世界に旅立ったなのはに対してアタシは告げる……絶対に護るって。
だからさ、お前は前だけ見て進め――お前の後ろはアタシ等ヴォルケンリッターが護ってやるからさ。
色々不思議な関係かもしれないけど、アタシは今の生活には満足してるし、シグナム達だって満足してる筈だ。
アタシ等は家族であり仲間なんだ……此れからも色んな事があるだろうけど、みんな笑顔できっと幸せ…アタシはそんな未来が待ってると思ってる。
――――――
Side:なのは
居間で居眠りしてるヴィータちゃんの下には数枚の原稿用紙…学校の宿題の『自分の家族』を書いてたんだね。
にゃはは、モノ凄く的確に書かれてるの……だけど魔法云々と闇の書の事は伏せさせた方が良いかもしれないね…魔法は世間に知られてないから。
「…なのは…お前の事は、何があってもアタシが護る……」
!?……あ、寝言か。
ふふ、こんなに大切に思われてるなんて、私は幸せ者だね。
うん、何時でも、どんな時でも頼りにしてるよヴィータちゃん――此れからも宜しくね、鉄槌の騎士・ヴィータちゃん♪
To Be Continued… 
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