Side:闇の書の意志


まさか、本当に織田信長がこの時代に時空転移していたとは幾ら何でも驚きだな――歴史研究者が見たら仰天してひっくり返るかも知れない。
如何やら我が主と一騎打ちを行うようだが…君は如何する市?

蒐集されたと同然の君を完全に表に出してやる事は出来ないが、少しばかり顕現させる事と話す事くらいならばなんとかできると思うが?


「ううん、今はまだ良いわ。
 戦いの前に私が出て行ったら、兄様はきっと戦いに集中できなくなるし、集中力を欠いて負けたとなったら、其れこそ兄様には悔いしか残らないから。」

「成程…では、君を疑似顕現するのは我が主と信長公の戦いが終わってからにしよう。」

だが、お前には酷だろうが宣言するぞ?
我が主が負ける事など有り得ん…悪いがこの一騎打ちを制するのは我が主『高町なのは』だ。


「そうでしょうか?兄様だって負けませんよ?」


そう言うと思ったよ――なら、私達は互いに大切な人の勝利を信じて、この一騎打ちを見守るとしようじゃないか。


「そうですね。あ、夜天さんお茶飲みますか?」

「……実に不思議なんだが、君はこの魔導書の中に居て、一体何処からそう言ったモノを持ってくるんだ?まぁ折角だから頂くが…

「え?何となく『お茶飲みたいな〜〜』って思ったら出て来たんですけど…」


……我ながら、どうなってるんだこの魔導書の機能は…?













魔法少女リリカルなのは〜夜天のなのは〜  夜天25
『闇の書の主vs第六天魔王』











Side:なのは


本当に夢みたい…戦国時代屈指の武将である織田信長さんが目の前にいるなんて。
うん、流石は戦国時代を天下統一に向かって駆け抜けた英傑……感じる力がハンパじゃないの……此れは、本気を出したシグナムに匹敵するかも。

だけど、不思議と『怖い』とは思わないの。
多分それは―――


「ふむ…高町なのはよ、先ずは此方へ来い、お前の顔と目を見せてくれ。」

「良いですよ、其れ位なら。」

信長さんの瞳の奥には『優しさ』が宿っているから……一見すると厳しい人に見えるだろうけど、信長さんは伝えられてるよりもずっと優しい人なんだ。
だから私も怖いとは思わずに信長さんと対峙出来たんだと思う。

それに、シグナム達の闘気が静かなのも其れを肯定してるのかも……信長さんの本質を見抜いたんだろうね。


「うむ…実に良い目をしているな…それでこそワシが戦いたいと思った相手よ。」

「其れは光栄ですね…戦国時代屈指の名将のお眼鏡に適うなんて、私は少し自信持っちゃっても良いんでしょうか?」

「少しではない、大いに自信を持つがよい。
 ワシと対峙しながらも、一切怯む事なく視線を逸らさずワシを見るなど…その幼さで大したモノだ。
 戦国の世に在っても、ワシと対峙して視線を逸らさなかった大名などは美濃の蝮を含めて数えるほどしか居らん……真に見事な胆力よ。」


結構色んな体験してますから大概の事には動じなくなってるのかもしれません。
其れに、魔法と出会って、魔法の力を手にしてからは普通じゃ体験出来ないような事まで経験してますから、早々驚く事もないですよ。


「経験が人を成長させるとはよく言ったモノよ。
 人生五十年と謳った身だが、お前やお前の仲間達の様な者と出会った今は、もっと長く生きても良いかもしれんと思っておる。
 ……さて、なのはよ『約束』は覚えているな?」

「はい――私が勝ったら信長さんのジュエルシードは私達に渡して貰って、アースラの武装隊員も全員解放。
 信長さんが勝ったら、私達の持つ魔力を持ったジュエルシードを渡して、私達は信長さんの配下になる……ですよね?」

「うむ……だが、アレはあくまで口約束に過ぎぬ――ワシは勿論、お前もそんな事はしないだろうが、土壇場で『言ってない』と言う奴も居る。
 其処で、戦う前に破る事の出来ぬ誓約を交わそうと思うのだが、如何だ?」


ん〜〜〜…確かにアースラのブリッジでのアレは口約束ですね。
破る気はないですけど、確かにもっとちゃんとした形で決めておいた方が良いかも知れませんね。


「うむ……では、此れだな?」

「小刀ですか?」

「先ずは此れで…」


――チッ


!!親指を!!……少しだけ切って血を出して……若しかして私も…?


「親指を。」

「……はい。」

やっぱりそうだよね……大丈夫、斬り落とされる訳じゃないんだから………!


――チッ


「んっ…」

「血が出るように表面だけとは言え、流石に僅かに顔を歪めるか……まぁ、仕方あるまい…此れは本来女子のする事ではないからな。
 さて、今切ったお前の親指とワシの親指を合わせ……此れにて『血の宣誓』が完了した。
 互いに血を交わしたこの誓約を破る事は、其れ即ち『死』であると言う事だ……故にこの誓約は絶対!良いな?」


…はい!
其れじゃあ始めましょう信長さん―――って、ちょっと待ってください、信長さんは飛べるんですか?
私は魔法の力で空を飛び回れますけど、もし飛ぶことが出来ないんじゃ、悪いですけど完封勝ちさせてもらいますよ?


「ふむ…ワシは隼人達の様な忍術は使えんが心配無用!ワシにはワシだけの術がある故な。
 其れを使えば空を飛翔するなど造作もない………むぅぅぅぅぅぅぅぅん!!!!覇ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁ!!!」


――バキィィィイン


!!なっ、信長さんの姿が変わった!?
信長さんの面影はあるけど、大きな翼に灰褐色の肌…そして真っ赤に輝く瞳――まるで『悪魔』みたいに…!

「信長さん、其れは…」

「魔神化身術……自然界に満ちている力を自らに取り込み、己を魔神とする秘術よ。
 ワシは戦国の世で天下を統一する為に、力を求めてこの術を身に付けた――今のワシは真の魔王よ!」


凄い力……だけど、私は負けません!!


「その意気や良し!第六天魔王・織田信長…参る!!」

「闇の書の主・高町なのは…行きます!!」








――――――








No Side


切って落とされた戦いの火蓋。
海鳴臨海公園から海上へと高速移動し、先ずは挨拶代りになのはがレイジングハートで、信長が太刀で攻撃。

クロスレンジは得意ではないなのはだが、『先ずはクロスレンジでご挨拶』と言う事なのだろう。

レイジングハートと太刀がかち合い、激しく火花を散らす――が、なのはと信長では腕力に圧倒的な差があるのは覆しようがない。


「ぬん!!」

押し切ってきた信長を何とか躱して距離と取り、己の得意な間合いを作り出す。

「やっぱりクロスレンジは苦手だなあ…シグナムやお兄ちゃん達の普段の訓練見てなかったら、今の一撃で落とされてたね。
 だけど、今度はこっちの番!距離が離れたロングレンジ――其れは私の間合いなの!!レイジングハート!!」

『All right.今度はMasterの真骨頂で挨拶をして差し上げましょう。』

「バスターーーー!!!」

そして反撃の高威力直射砲発射!

「ぬぅ…何と言う…だが其れも当らなければ意味は無い!!」

その直射砲を身を翻して躱し、今度は信長が斬り込んでくる。
だが、なのはも慌てずに防御魔法を発動して、その攻撃をシャットダウン!

それどころか左手てレイジングハートを構えて、カウンターの直射砲を発射!!
略ゼロ距離からのカウンターは流石の信長も避ける事は出来ず、その威力で大きく吹き飛ばされてしまう―――

「むぅ…!だが!!!」

が、吹き飛ばされながらも、改造種子島から気弾を数発同時発射!
なのはも其れを誘導弾と連射砲で相殺するが、その隙に信長が懐に入り込んで峰打ち一閃!
もしもバリアジャケットを纏っていなかったらこの一撃で落とされてたのは容易に想像できるほどの威力だ。

正に一瞬の油断が命取りとなる攻防。



「アレが織田信長……人質を取ってまで目的を果たそうとする奴とは思えんな?」

「む…先日のアレは自分の独断――主君の意志ではない。」

「そうなのか?……ならば失礼な事を言ったな、謝罪しよう。」

其れを見守るシグナム達もまた、このトップレベルの攻防を真剣に見ていた。
空を走る桜色の魔力と、空を切り裂く白刃の煌めき――手加減不要のぶつかり合いにすっかり見入ってしまっているのだ。

「ったく大したモンだぜあの嬢ちゃんは……まさか大将と互角に渡り合うたぁな。」

「我等が主を甘く見ないでもらおうか?我等が主・高町なのはは絶対に負けん!!」

「へぇ〜〜?けどな、お頭だって相当なもんだぜ?あのお嬢ちゃんが幾ら強くても勝つのは難しいんじゃねえか?」

「如何かしらね?……あんましなのはを舐めない方が良いわよ?……ハッキリ言って、なのはは世界で最も敵に回したくない相手なんだから。」


シグナム達やアリサ達はなのはの、隼人達は信長の勝利を確信しているのだろう。
互いになのはが勝つ、信長が勝つと信じて譲らない。







「シューーート!!!」

『Divine Shooter.』


「むぅぅん!!!」


――ドゴォォン!!バキィィィィ!!!!


だが、その戦いは殆ど削り合いの泥仕合になりつつあった。
互いに有利な間合いを維持し続ける事が出来ず、最大級の一撃を喰らわす機会がない故に、根気勝負の削り合いになってしまっているのだ。



そんな削り合いの最中、先に仕掛けたのは信長だった。

「ぬん!!」

数発の気弾を放ちなのはを攻撃するが、無論なのはは其れをプロテクションで防ぐ。
だが、其れこそが信長の狙いだった――防御の為に動きを止めるその一瞬こそが狙っていた瞬間だったのだ。


――ガキィィン!!


「!!か、身体が!!!」

「ふぅ…漸く捕らえられたか……秘術『千束金縛り』よ。此れでお前はしばらく動く事は出来ぬ。
 受けてみるが良い高町なのは、ワシの最大級の攻撃を!!」

なのはの動き封じ、信長は最大の一撃を準備する。


「此れは…!!」

なのはの周りに展開されたのは、無数の刀と種子島―――恐らくは此れを一斉掃射する心算なのだろう。
幾ら何でも此れを纏めて喰らったら一溜りもない。

「我が最強の攻撃『葬送滅殺』……受けきれるか、高町なのは!!」



――ドガアバババババアバッバアババババアババアッババッバッババ!!!



瞬間、放たれた無慈悲なまでの一斉掃射!
身動きが取れないなのはは、プロテクションとバリアジャケットの防御力だけで此れを耐えなくてはならない。
如何にレイジングハートが優秀なデバイスで、なのはの為に最高にして最硬のバリアジャケットを設定したとは言え、其れにだって限界はある。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

『Master!何とか耐えきってください…此れを耐えれば貴女の勝ちです!!』

そのレイジングハートがプロテクションを張りながらもなのはを励まし、意識が飛ばないように話しかけている。
だが、無慈悲なまでに強烈な攻撃はまだ終わらない。





「あ〜〜〜…お頭がアレ使っちゃったら終わりよね〜〜……こりゃ勝ったわ。」

初穂は(恐らく隼人達もだろうが)信長の最大級の攻撃、その破壊力の凄まじさは知っているのだろう。
決まれば間違いなく相手を倒す、文字通りの『必殺技』――其れが決まった以上、勝利は確定したと思ったようだ。

「其れは如何かしら?」

「なのはちゃんを、只戦う力を持ってるだけの女の子と思ったら大間違い。TOOよ♪」

だが、シャマルとキリエがまだ終わりではないと告げる。
この2人だけではない、なのはの仲間は全員が此れで終わったとは微塵にも思っていない。



――シュゥゥゥ…



攻撃が終り、粉塵が晴れると…そこにはなのはの姿が有った。
バリアジャケットは大きく破損し、辛うじて形状を維持している状態だが、なのはは信長の攻撃を耐えきったのだ。




「マジか!?お頭のアレを受けきるとは…トンでもないお嬢ちゃんだな…」

「だから言ったろ、終わりじゃねえって!」

「主なのはの強さは、魔力の大きさでも、人並み外れた空間認識能力でも、超人的な並行思考能力でもない。
 真の強さは不屈の心……たとえどんな状況に置かれようとも決して諦めず、折れない心こそが、主なのはの強さの根幹になっているのだ。」

此れには息吹達だって驚きを隠せない。
なんせ、訓練でアレを喰らって耐えた者は仲間内では1人も居なかった――にも拘らず、僅か10歳の少女が其れを耐え抜いたのだから。





そして、それ以上に驚いたのは技を放った信長だ。

「なんと、アレを――計4000発の攻撃に耐えきるとは…!!」

勝負を賭けた最大級の一撃を、如何に強い少女とは言え耐えきるとは思わなかったようだ。


「はぁ、はぁ……こ、攻撃されちゃうと消えるんですね、その拘束術は…。
 結構きついし、一瞬意識飛びかけました……だけど耐えきりました!今度は私の番です――レイジングハート!!」

『All right Restrict Lock.』



――ガキィィン!!




「むお!…此れは拘束の力……く…外れん!!」

「必死に勉強して覚えたバインドです!そう簡単には外れませんよ。」

一転、今度はなのはが信長の動きを止め、必殺の一撃をスタンバイ!

「行きますよ信長さん!!ディバイィィィン…バスターァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!

『Divine Buster.』


――ドゴォォォォン!!!



なのはの代名詞とも言える、一撃必殺の直射砲――其れが身動きできない信長に炸裂!
如何に織田信長と言えど、此れだけの直射砲を喰らっては一溜りもない…ない筈だ……が、

「何と言う威力よ…だが、今のでワシを倒しきれなかったのは拙かったな?
 今の一撃はお前の本気と受け止める――よもやこれ以上の攻撃はあるまい?魔力とやらも、もう残っていないだろう?」

信長もまた無事だった。
無傷ではないが、なのはの全力のバスターを耐えきったその強さは侮れるものではないだろう――が、なのはは驚いていなかった。

「あれ?私は一言でもバスターが切り札って言いましたっけ?」

「なに?」

この土壇場で言いだしたのは更なる一撃があると言う大宣言!


「行きますよ、信長さん!これが、私の最大の攻撃です!!」



――キィイィィィィィィィン…


其れを示すかのように魔力がレイジングハートに集結している。
そして驚く事に、集結しているのはなのはの魔力だけではなく、此れまでの攻防で大気中に飛び散ったエネルギーまでも集束しているのだ。

集束し、巨大化した桜色の魔力は今にもはち切れそうなくらいだ。


「放つまでに時間が掛かるなら、その間は相手の動きを封じてしまえばいい――さっきの信長さんの攻撃からヒントを貰いました!
 受けてみてください、バスターのバリエーション!此れが私の全力全壊!!!」

『Starlight Breaker.』

スターライトォォォォ…………ブレイカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!



――キィィィン……ドガバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!



そして放たれた、星砕きの究極集束砲。
極大レベルのその一撃は、信長をいとも簡単に飲み込み――そして激しい閃光が、海上に炸裂した……








――――――








Side:信長


……ワシは何故この一撃を防ごうとしなかった?此れを喰らえばワシの負けは確実だと言うのに…

…いや、そもそもワシには防ぐ意思が無かった?
高町なのはと言う強き意志を秘めた、しかし無垢なる少女の一撃をこの身で受け止めたいと――そう思ったと言うのか…?

「見事だ、高町なのは…」

「はぁ…はぁ…そ、そんな…こ、此れでも落ちないなんて…」

「いや、落ちていないだけだ……魔神化身術も維持するのがやっとよ……この戦いは、ワシの負けだな…
 誇るが良い、高町なのはよ――お前はこの第六天魔王を打ち破ったのだ……実に見事な戦いだったぞなのはよ…」

「信長さん……はい、ありがとうございました!!」


うむ……では、陸地に戻ろう――血の宣誓は守らねばならんから――――――



――ヒィィィン…!!




「「!!!」」


な、何事だ!!?この力の高まりは!!
此れは、ワシが持っている宝玉――いや、なのはの持つ宝玉もか!!


「そんな!ちゃんと封印したのに何で!!」

『まさか…Masterと信長公の激しい戦いに呼応して、封印をぶち破って活性化しているのでは?』

「ふえぇぇ!?そんなのアリなの!?」

『有か無しかを問われれば、ロストロギアなので何でもアリと答える事になりますね。』


なんと…ワシとなのはの戦いが、封印した筈の宝玉を再び暴れさせる事になるとは。



――バリィィィ!!



く…服を破ってまで……此れは拙そうだななのはよ…


「ですね……しかもこのジュエルシードは物凄く活性化してますから……!!」



――ギュル…



!!活性化した宝玉が!!



『WRyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyy!!!』


1つになって異形の化け物に………どうやら、ワシ等の戦いだけでは終わりそうにない様だ…この化け物を片付けねばな。
行けるかなのはよ?


「ちょっと疲れてますけど…大丈夫です、行けます!!」



「「主なのは!!」」
「「「「なのはーーーー!!」」」」
「「なのはちゃん!」」
「なのはさん!!」
「なのはちゃ〜〜ん!」
「なのは!!」


「「「「お頭!!」」」」
「大将!!」
「ノブナガ=サン、大丈夫か!」


む…ワシ等の戦いを見て居た者達も来たか………見ての通りだ、ワシもなのはも派手にやり合ったが大丈夫だ。
寧ろ、問題はワシ等の戦いで活性化した宝玉が合体して生まれたこの化け物よ……此れを抑え、倒さねばならぬだろう…力を貸してくれるな?


「無論…我等は主君に命預けた身…命とあらば幾らでも我等はその力を揮いましょう。」


「シグナム…皆…アレを倒すために力を貸して!」

「無論です、主なのは……私の剣は、主の道を切り開くために存在しているのですから。」

「力位なんぼでも貸したるわ!……このトンでもバケモンをブッ飛ばして、そんで全部終わりにしたるわ!!!」



なのはの仲間達も覚悟は決めたか……では始めようではないか…宝玉を巡る戦いの最終章と言うものを!!













 To Be Continued…