Side:闇の書の意志
我が主も、遂に夜天の業を知るに至ったか……其れでも我が主とその友人達は、私の存在を認めてくれるのだな…本当に優しい者達だ。
ならば、私も出来る範囲で暴走が起きないようにしなくてはな。
プレシア・テスタロッサ――彼女の推測も間違いではないが、それとは別にナハトを苦しめている後付けのプログラムを何とかして抑え込まねばな。
まぁ、幸いにもそのプログラムは『持ち主の心』に呼応する書の機能と密接にリンクしているから、此度の主の下ならば抑えるのは難しくないか。
「で、其れは其れとして…君は一体誰だ?」
と言うか、どうやって夜天の魔導書の中に入って来たんだ?
此処に入り込んだと言う事は、如何考えても普通の人間でない事は確実なんだが…
「すみません行き成り……何かに呼ばれたような感じがしたんですが、途中でその波動が途絶えて、私を呼んだ者の所まで行けなかったんです。
それで、冥界に戻る心算だったんですけど…その、強い力を感じたので不思議な本に近付いたら…」
「何の因果か取り込まれたと言う訳か…まぁ、居て邪魔になるものでもないから別にかまわないが…」
せめて名前くらい聞かせてくれないか?
私は、生憎と名乗る名を今はまだ持ち合わせていないのでな…まぁ、管制ユニットとか夜天の書とか好きなように呼んでくれて良い。
「では、夜天さんと呼ばせていただきます。
あ、私は『市』と言います……え〜〜と、この時代の方には『戦国武将・織田信長』の妹と言えば分かり易いでしょうか?」
織田信長?…主の学校の授業で、名前が出て来たような……確か、戦国時代に時代を先取りしていた切れ者の武将だった筈だ。
……って、ちょっと待て、その信長公の妹だと!?なぜそんな人物の…多分魂(?)が此処にいるんだ?
「だから、何かに呼ばれて……誰かが私を蘇えらせようとでもしたんでしょうか?」
「其れは…分からないな…」
何がどうなっているのやら…まぁ、お前が冥界に戻れるようになるまでは居候してくれて構わないよ…話し相手が居ると思えば悪くない。
しかし、歴史上の人物の魂が呼び寄せられたか……まさか、織田信長本人が、この時代にタイムスリップして市を呼んだ…何て事はないよな…?
魔法少女リリカルなのは〜夜天のなのは〜 夜天22
『海の上のジュエルシード』
Side:なのは
嘱託魔導師としてアースラに搭乗して、早10日が経ちました。
正確に言うなら嘱託試験をパスしていないから、『現地の民間協力者』って立場なんだけど、便宜上『嘱託』っていう事になってるとはクロノ君の弁。
何かが起きた時に迅速に対応できるように、私達は事件解決までアースラに常駐する事になった。
当然学校はお休みする事になるけど、何の問題もなく私とはやてちゃんとヴィータちゃんの長期欠席を認めさせたお父さんとお母さんて一体……?
まぁ、アリサちゃんとすずかちゃん、アミタさんとキリエさんにも同じことが言えるんだけどね。
高町家、月村家、バニングス家にフローリアン家……ドレだけの権力を持ってるのか物凄く気になる事があるの…気にしたら負けかもだけど。
因みに、お土産としてお母さんが持たせてくれたシュークリームは、予想通り大好評。
オペレーターのエイミィさんなんかは『管理局辞めて地球に移住しようかな…』なんて(若干本気入った)冗談まで言ってたし。
若しかしたら、お母さんのシュークリームは何時の日か世界を制するかもしれないの………うん、微妙に否定できない。
其れとは別に、アースラに常駐する事になった時に、思い切って闇の書の事をリンディさんとクロノ君に打ち明けた。
若しかしたら闇の書を取り上げられるかもしれないし、その場で取り押さえられていたかもしれないけど……黙って居る事なんてできなかったの。
だけど、私が闇の書の主と知っても、リンディさんとクロノ君が私を責めることは無かった。
『闇の書の業は、過去の持ち主の邪な欲望が招いた結果であり、君が負うべき責じゃない。』
『勿論、思うところはあるのだけれど……闇の書を封印してしまったら貴女は悲しむでしょう?
ましてや貴女ごと書を封印しようものなら、それこそ多くの人が悲しむのではないかしら…?
失う悲しみと辛さを知っている私達が、其れを他の誰かに与えて良い理由は何処にもないわ…寧ろ知っているからこそ与えてはいけないの。
それに貴女を、此方の都合で泣かせてしまっては、火傷ではすまない痛手を被る事にもなりかねませんもの…』
そう言って、11年前の闇の書との因縁を『気にするな』と言ってくれた。
11年前の暴走は、当時の書の持ち主が起こした事で、私と闇の書そのものには何の罪もないって…
正直に言えば嬉しかった……シグナム達が居なくならなくて良かったから。
アースラスタッフの人達もヴォルケンリッターの皆を受け入れてくれて本当によかったの。
そんな事が有り、今日もアースラでジュエルシードが発動した時の為に待機中。
常時レイジングハートを起動させてる訳にも行かないから、車椅子は持ち込ませてもらってるけどね。
「レイジングハートを起動している状態なら、立って歩く事は可能なんだろう?
なら、その状態で日常生活を送れば足のリハビリに繋がるんじゃないのか?」
「其れは私も考えたんだけど、素人考えで勝手にやるのは良くないと思うの。
石田先生――私の主治医の先生なんだけど、石田先生がリハビリにゴーサイン出さない限りは、勝手な事はしちゃダメだと思うの。」
「成程…意外と難義な部分があるみたいだが――何時の日か魔法の力が無くても歩けるようになる日が来ると良いな。」
「うん♪」
闇の書の事を話した一件以来、クロノ君とはとっても仲良く成る事が出来た。
仲の良い男の子の友達って居なかったからなんか新鮮だなぁ。勿論はやてちゃん達もクロノ君とは仲良くなってるしね。
所でクロノ君、一つ聞いておきたいんだけどユーノ君はどうなったの?
「結局は君達の言っていたことも証拠不十分だから何も。
まぁ、アイツは管理局の無限書庫の司書になりたいらしいからその手伝い位はしてやるさ…そして僕の直属にして徹底的に…」
「……若しかしてクロノ君もユーノ君になにか?」
「あぁ……あのフェレットもどきが無茶をしないで、さっさと救難信号を出していれば此処まで事態が面倒な事にはならかった筈なんだ。
其れなのに救難信号を発信せずに、現地人を巻き込んで、挙句の果てには小規模次元震……公的機関の人間でも怒って当然だと思わないか?」
確かに……まぁ、そうされてたら私はレイジングハートと出会う事もなかったんだけど、其れを差し引いてもユーノ君のやった事って事態の悪化だよね?
「……クロノ君、ユーノ君の事は徹底的に扱き使ってやると良いと思うの。」
「ふふふ…どうせなら司書官になって貰わないとな…そうなって貰うためにも先ずは色々と業績を積んでもらう必要があるからな…」
『いっそのこと、栄養剤と興奮剤を投与して不眠不休で働かせればいいのでは?
過労で倒れた時には、シャマルが治癒すれば万事解決、マッタク持って無問題ではないでしょうか。』
「「ナイスアイディア、レイジングハート。」」
『僕の人権は!?』
何処かから何か聞こえたけど無視なの。
まぁ、ユーノ君の事は如何でも良いとして、私達がアースラに常駐するようになって10日も経つのに、ジュエルシードが1つも見つからないのはなんで?
発動前に、あの忍者さん達が見つけて持って行っちゃたのかな?
「可能性としてはゼロじゃないが考え辛いな。
ジュエルシードは未発動でも、発動条件を満たす『何か』が近づけば即座に発動する代物なんだ。
この前の忍者とやらが、未発動のジュエルシードを見つけても、彼等の思惑にジュエルシードが発動する可能性は充分にあるんだ。
其れを踏まえると、未発動のジュエルシードが回収された可能性はゼロじゃないが限りなくゼロに近いと考えておいた方が良い。」
成程…だけど、そうなると何処にあるんだろう?
アースラとグランツ博士が協力して海鳴全域を探したけど、只の1つも見つからなかったし…一体何処にあるんだろう?
『――――!―――?―――!!!』
「闇の書?…うん、うん……あ、確かに其れは盲点だったの。」
「?如何かしたのか?」
うん、闇の書がね、此れだけ探しても見つからないなら、若しかしたら残るジュエルシードは海に落ちたんじゃないかって言ってるの。
海中の捜査は、まだしてなかったよね?
「そう言えばそうだ……無意識の内に海の中に落ちた可能性を排除してたみたいだ。
確かに21個も有るジュエルシードのうち何個かは海に落ちていても不思議じゃない……海中を探してみる価値はあるな。
早速艦長に進言してみよう――それにしても、君は本当に闇の書との意思疎通が出来ているんだな。
君達を見ていると、闇の書が一級封印指定のロストロギアとは思えない――主従と言うより、まるで仲のいい姉妹の様に思えて来る。」
だってさ。
姉妹だと、やっぱり闇の書の方がお姉ちゃんなのかな?
『〜〜?』
まぁ、分からないよね。
だけどナイスだよ闇の書、確かに海中にあるかも知れないもん。
それにその可能性はきっと物凄く高いから……海中探索で見つけたら、速攻で封印だね!
――――――
Side:クロノ
なのは…と言うか闇の書の提案を受けて、海中の捜索を行ったらビンゴ――6つのジュエルシードを見つける事が出来た。
其れだけなら、マッタク何も問題はなかったんだが…
「なんで、回収に来た瞬間に海中生物を取り込んで暴走するんだ…?」
「まぁ、ある意味でのお約束とちゃうかなぁ?」
「簡単に封印して回収はつまらない〜〜のKHK?」
簡単に回収して終わらせたいって言うのが僕の本音なんだが……其れはこの場で言っても意味はないな。
それにしても、一体何を取り込んだんだこのジュエルシードは?
6体の異形のモンスター……夢に出てきそうな程の生理的嫌悪感を覚える外見だ――
「まあ、そうよね…アレはタコを取り込んだんでしょうね…」
「アレは…イカかな?」
「あの頭はまるでサメだな……攻撃力は高そうだ。」
「反対にあっちは防御力が高そうだわ…ウミガメでも取り込んだわけ?」
「なんか、クラゲでも取り込んでいそうですねぇ……無数の触手が気持ち悪い事この上ありません!」
「この巨体はクジラでも取り込んだか…厄介な相手のようだな…」
加えて夫々のジュエルシードが異なる海中生物を取り込んだらしいから性質が悪い。
異なる生物を取り込んだとなると、当然個体によって強さも何もかもが異なって来るからな……まぁ、考えるよりも先にやる事は有るか。
「エイミィ、ジュエルシードの発動地点近くに転送ポートを。
会場に現れた6体のジュエルシード暴走体を纏めて片付ける――行けるな、皆?」
「勿論!全力全壊で頑張るよ!」
「なんぼジュエルシード言うても。あの暴走体は、所詮魚やろ?――ジュエルシードを回収したら刺身にしてやろうやないの!」
刺身って……まぁ、其れ位の気概はあって然るべきだな。
僕たちの仕事は遊びじゃないのだから………少しだけはやての発想の原点が何処にあるのか気にはなったが。
まぁ、そんな事は些細な問題だな。
全員転送ポートに乗り込んだな?…行くぞ!
「「「「「「「「「「おーーーーーー!!!」」」」」」」」」」
――――――
Side:はやて
でもって、あっと言う間に目的地に到着や。
あの魚族モンスター共は、生で見ると迫力が段違いやなぁ……一番小さい奴でも全長10メートルは下らないんと違うやろか?
「言えてるの…あのお化けタコの大きさは、如何見積もっても10mを超えてるの!!」
「どないなっとんねん此れ…」
「ジュエルシードが歪んだ形で願いと叶えるとは言っても此れは流石に…」
許容範囲超えとるな。
まあ、要はコイツ等を倒してジュエルシードを封印・回収すれば良いだけやから、任務そのものは難易度が高い訳やない。
「ったく…大人しくタコ焼きになってなさい!!」
「余り美味いとは思えんがな。」
シグナムとアリサちゃんの先手必勝で飛び掛かって、タコとイカのジュエルシード暴走体に一撃喰らわせてやったで!
「うらぁぁ!!テメェ等は海の中で大人しくしてろってんだ!!」
『Schwalbefliegen Claymore.』
「ヴィータちゃんナイス!…シャマル!!」
「任せてなのはちゃん!……捕まえた!!」
更にヴィータの重爆射撃から、シャマルがジュエルシードを暴走体からぶっこ抜いて先ずは2個回収や。
「大人しくしてて、アイスバインド!!」
「縛れ、鋼の軛!!」
――ガキィィン!!
残りは、すずかちゃんとザフィーラの一発で、纏めて串刺し&氷漬けや!
加えて、アミタさんとキリエさん、クロノ君のバインドまで重ね掛けしとるから此れは動けへんやろ?
ほな、一気に纏めて封印してまおうかなのはちゃん?
「うん、全力全壊でね!」
「派手に決めるで!!クラウソラス!!!」
『吹き飛ばすぜ!!』
「ディバインバスター!!!」
『ジュエルシード如きが……大人しくしていなさい!!!』
――バガァァァ!!!
惑わず直撃やね……なのはちゃんの砲撃の威力は、また上がったんとちゃうかなぁ……なのはちゃんに限界は無いのかも知れへんね。
まぁ、此れで残る4個のジュエルシードも仮停止状態や、さっさと封印してまおか。
「そうだね……ん?」
「!!此れは転移反応!?…一体何処から…」
――ギュル…
!!鎖分銅!…させるかい!!弾き返したるわ!!
「……此れをはじくか…貴殿も中々の手練れの様だ……」
そりゃどうもや……やけど、予想通り現れてくれはったね隼人さん。
其れも一団率いて――言うとくけど、このジュエルシードを渡す心算は全く持って無いからな?
「渡してもらえるなどは思っておらぬ……だが、ジュエルシードは絶対必要なモノなのでな…理不尽と言われようとも奪わせてもらう!」
「奪わせるわけないやろアホンダラ!!」
ジュエルシードが必要なのはアンタ等だけやないで?
私等かて、なのはちゃんの足を何とかする為にジュエルシードを集めとるんや、退く事なんて出来るかい!
横から掠め取ろう言うなら相手になったるで?
「なら嬢ちゃん達をブッ飛ばして、目的物貰うとするぜ!」
「やれるもんならやってみろや筋肉達磨!このジュエルシードは絶対に渡さへんからな!!」
「行き成り現れて目的物だけをってのはせこいんじゃない?…ちょ〜〜〜っときつめのお仕置きが必要みたいね〜〜ん。」
キリエさんの言う通りやな…横から掠め取るなんてせこい連中には、ちょいとキツイお仕置きが必要や。
絶対にジュエルシードは渡さへんからな?なのはちゃんとシグナム達の為にも、絶対にな!!
To Be Continued… 
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