Side:信長


ご苦労であった皆の者――此れで願いをかなえる宝玉は6つ……ワシの望みも叶う。
此れに内包されている力は凄まじい……此れを使えば市と濃を反魂の術で蘇らせる事も出来よう。


天下統一の為に、人質同然で浅井の嫁に出した市。
浅井を滅ぼしたのちは再びワシが引き取ったが、ワシが本能寺で『死んだ』後はどうなったのやら…何れにせよそう長くは生きられなかっただろう。

そして天下統一を前に、本能寺で討ち死にした濃……愛する妻と妹を取り戻したのちで、ワシはこの時代で天下を統一する。

…第六天魔王ともあろうものが、妻と妹を取り戻したいと考えるなどはオカシイかな?


「いえ…其れが主君の望みであるならば迷わず行うべき。
 自分達は、主君の望みをかなえるために、そのジュエルシードの蒐集を行っていたのだから。」

「そうか……この時代に飛ばされ、ワシは良い臣下を持ったものよ。」

死者の魂を呼び戻すなど、邪道と言う者も居るだろうが、ワシにとっては大切なのだ。
如何に天下を統一しようとも、其れを共に喜ぶ事が出来る家族が居なければ何の意味もない事よ。

術式は既に出来上がっている。
後は此処にジュエルシードとやらを嵌め込めば…


――カッ!!


!!なんという光!そして力の奔流!!

ふふふ、良いぞ……此れだけの力があるならば、術は成功する筈!さぁ、ワシの前に戻ってきてくれ濃と市よ!!









魔法少女リリカルなのは〜夜天のなのは〜  夜天20
『The Cross Destiny』










――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……シュゥゥン…

「!?」

なに…光が消えただと?
いや、光が消えただけではない――力の奔流も治まってしまっている……まさか失敗したとでもいうのか!?
馬鹿な、ジュエルシードが6つあれば反魂の術が成功して2人を取り戻す事が出来ると言う事は何百回も計算したのだから間違いはない。

一体なぜ…


「…水差すようでワリィんだけどよ大将……大将は、此処が2人が死んじまってから100年以上たってる世界だって事は計算に入れたか?」

「む?」

「反魂の術ってのは、呼び戻す魂が死後どれくらいの時間が経過しているかで難易度が増すって聞いた事があるぜ?
 お頭の妹と奥さんが死んだのが戦国時代ってんなら200年は下らない……若しかして術に必要なエネルギーが足りてなかったとか…」

「あ…」

何と言う愚かな……2人の死後の年月をまるで計算に入れておらぬかったわ。
其れを踏まえると……成程、6つではまるで足りん――最低でも12個は必要になるようだ。

「皆の者すまぬが…」

「御意に…我等は主君の命に従う忍び――主君が更なるジュエルシードを求めるならば、自分達は其れを集めるだけ。」


そうか…ワシの馬鹿な失態で苦労を掛ける。

だが、最低あと6つとなれば、残るジュエルシードの略全てと見て間違いなかろう。
そうなった場合、果たして高町なのはなる娘とその仲間達を相手に全てを手中に収める事が出来るかどうか……得てして目的達成は楽ではないモノよ。








――――――








Side:はやて


管理局と協力体制を敷く事にした翌日の朝ごはんの席では、予想通り管理局の話題になってもうたね。
まぁ、なのはちゃんとヴォルケンズ、更には私まで係わる事やから気になるんはしゃぁない事やろな。


「それにしても驚いたねぇ…時空管理局とは。
 次元間を自由に行き来できる技術を確立しているなんて、グランツ博士も驚くんじゃないのかなぁ?」

「驚くと同時に、物凄く喜んで同じ物を作り出しそう――って言うか確実に作ると思うの。」

「やりかねませんね、博士ならば…」


ホンマにやるやろうな博士は。
ぶっちゃけアースラ内部は、博士にとっては宝箱と言うか、財宝の眠る隠し部屋と言うか、宝の山と言うか…兎に角魅力あふれる場所やろしね。

「まぁ、博士やったらどないな技術持っても、それを悪用する事だけはあらへんやろから安心やろ。
 寧ろ大問題なのは、アースラ艦長のリンディさんのセンスと味覚や!!何処で学んだか知らんけど、あの間違いまくりの感性は矯正せなあかんて!」

「昨日も少し言ってたけど、そんなに酷いの?」

「ありゃ酷いなんてもんじゃねぇ……温泉旅行の時の旅館で完璧な和装を見たから言える事なんだけどよ…
 畳と茶釜があるのは良いとして、アレなんつ〜んだっけ?旅館の庭に有った竹が『カコ〜〜ン』て鳴るやつ。」

「鹿威しの事かな?」

「そう!それが部屋の中に有んだよ!幾ら何でもオカシイだろ!!」

「アレを室内に置くとは……日本を思い切り勘違いした西洋人でもやらないだろうな…」


やっぱそう思います?
更に付け加えるなら、室内に盆栽も飾られてたんですけど――あの盆栽は、恭也さんは絶対に認められへんと思いますよ?


「…酷いのか?」

「大きな植木鉢に、松の木が無造作に突き刺さってたの。」

「其れは盆栽とは言わないぞ!!」


ですよね〜〜。
そして極めつけは、あのお茶や!なんやねん緑茶に角砂糖10個とミルクをたっぷりて!!
日本人と茶農家に喧嘩売っとるんか、おんどりゃああ!!お茶の渋さを楽しむことが出来へんのやったら緑茶なんぞ飲んだらアカンやろ!!!!


「其れは酷いわねぇ……私の知り合いの華道の先生と茶道の先生を紹介してあげた方が良いかしら?」

「其れが良いかもしれないの…
 あ、それとは別に、今日の放課後、フェイトちゃんの所に行く事になってるの……だから帰りがいつもより遅くなるかもしれないんだけど…」

「良いよ、行っておいで。
 但し、あんまり遅くなる場合には、ちゃんと連絡を入れるんだよ?流石に心配はするからね。」

「「はい。」」

「うん。」


で、今日はフェイトちゃんとアリシアちゃんにお呼ばれしとるんよね。
何でもプレシアさんが話あるとかいう事やったなぁ?


「うん…それでね、出来ればシグナムにも来てほしいって事なんだけど――良いかな?」

「私に?…まぁ、断る理由は有りませんが……宜しいですか、桃子殿?」


ん〜〜〜…まぁ、そら聞くわな。
シグナムは、今や押しも押されぬ翠屋のトップウェイトレスやからなぁ?
事実、シグナムが店に出るようになってから客足は増えとるしね………増加した内の半数以上が女性客なんは突っ込んだらアカンのやろけどね。


「良いわよ?今日は平日だからそんなに混まないし――シグナムも、なのはの頼みを断る事はしたくないでしょう?」

「…すみません。感謝します。」


ホンマ、シグナムは真面目さんやな。
ヴィータやシャマルみたいに、も少し砕けた感じでもえぇと思うんやけど……まぁ、そないなったらシグナムとちゃうわな。

なのはちゃんに忠義を尽くす凛とした騎士――其れがシグナムやからね。
まぁ、此れでシグナムも参加OKと。

はてさて、プレシアさんは一体何の話があるんやろな?








――――――








Side:クロノ


ふぅ…全くとんでもない存在だな彼女達は。
エイミィが、この間の戦闘データから彼女達の魔導師としてのレベルを測定してくれたが……正直信じられない結果だ。

なのは、はやて、すずか、アリサは魔導師ランクはAクラスで、魔力ランクは全員がSオーバー。
はやてに至っては、管理局員にも存在していないSSだと?

加えてヴィータは魔導師ランク、魔力ランク共にAAA+……


まぁ、此れは頼りになる現地協力者が居ると考えれば悪い事じゃない。




問題は高町なのはと言う存在だ。


彼女が持っていたあの本は…間違いなく闇の書でヴィータはその守護騎士だろうな。
前に見た、闇の書が関与した過去の事件の資料に彼女の姿が記されていたからな……

僕が気付いたと言う事は、艦長も……母さんも気付いているはずだが――何も言ってこないのは何故だ?
闇の書は父さんを殺した相手だ……あぁ、なのはが悪い訳じゃないのは重々承知している。

彼女は今回の主として選ばれただけで、過去の闇の書の業とは無関係だ。
だがそれでも、僕は―――割り切る事が出来ない……

闇の書を破壊したいと言う思いはあるが、それを行ったらきっとなのはは悲しむ筈だ……彼女は騎士達をとても大切に思っているからな。

闇の書を破壊すれば騎士達も消える…そうなればなのはは悲しむだろう。


そしてそれは僕が11年前に味わった悲しみと同じものだ…


奪われる悲しみを知っている僕が、果たして管理局の執務官と言う立場だけで動いていいのか…正直悩む。





「…ふぅ、悪い癖だな――一度悩み始めると止まらなくなる。」

今大事なのは、闇の書よりもジュエルシードの確保だ。
言い方は悪いが、闇の書の守護騎士は戦力としては申し分ない……それどころかお釣りが来るくらいの強さだ。

加えて、現地の魔導師は更に2人居るとの事だから回収自体は難しくないだろう。


ただ、一つ気がかりなのは、なのは達とは違う別勢力だ。
彼等からは一切の魔力を感じなかったが、それでも魔導師と互角に渡り合える力を持った者達……油断できない相手だ。

加えて彼等がジュエルシードを集めている目的は一切不明……出来れば面倒な事はあまり起きないで欲しいが――無理だろうな。


やれやれ…問題は意外と多そうだな。








…だが待てよ?あのフェレットもどきが直ぐに救難信号を送っていたら、こんな面倒な事になる前に僕達が出向く事が出来たんじゃないか?
と言うか間違いなく、今よりもめんどくさくない状況にはなっていたはずだ。


……後で一発かましておいた方が良さそうだな…あのフェレットもどきには…








――――――








Side:なのは


と、言う訳で放課後なの。
アミタさんとキリエさんにも連絡を入れて、一緒に来てもらう事にした。
シグナムは途中で合流する事になってる。



で、学校の近くまでフェイトちゃんとアリシアちゃんが迎えに来ててくれて、2人に案内されて着いた場所は海鳴でも屈指の高級分譲マンション…

はぁ〜〜〜〜…フェイトちゃんのお家はお金持ちなんだね?


「そうでもないよ?今は母さんが仕事でためた預金が生活の糧だし。」

「まぁ、そうは行っても5つの銀行に入金限度額まで貯金してあるんだけどね?」

「「「「「「預金5000万!?」」」」」」


其れって相当凄いよ!?
てか、仕事で其れだけ貯める事が出来るプレシアさんは超人なのかもしれないの…



そんなこんなで部屋に着いたけど…

「プレシアさんが居ない?」

「ったく、呼びつけといて居ないとかどうかと思うわよ?」


そうだよねぇ?そう言えば、アルフさんとリニスさんも居ないの……如何いう事なのフェイトちゃん、アリシアちゃん?


「うん、お母さん達は別の場所で待ってるんだ。」

「此れから皆をその場所に転移する。」


ほえ?別の場所?
其れで今から私達をそっちに転移させるの?……何だか不思議な感じなの。


――シュゥゥウン


で、あっという間にマンションの一室から見慣れない場所に……此処は何処なの?


「『時の庭園』て言う次元航行能力をもった移動要塞で、さっきのマンションに移るまでは私達の生活の場だった場所。」

「へ〜〜〜…素敵な場所だね♪」


すずかちゃんの言う通り、素敵な場所だとおもうの。
何処となく中国風なお庭のデザインも凝ってると思うし、何よりすごく空気が澄んでいて気持ちが良いよ。


「確かに、この場の空気は澄んでいます――大凡移動要塞の内部とは思えないくらいに。」

「其れに澄んでるだけじゃなくて、こんだけ沢山の植物が生きてる事で魔力が満ちてるみてぇだ。」


何となく体が軽い感じがするのはそのせいなのかな?
兎に角とっても心地よい感じがするの――此れを体験できただけでも此処に来た価値はあったのかも。


「それ、お母さんに言ってあげて?きっとすごく喜ぶと思うから♪」

「そうするとしようテスタロッサ姉。」

「にゃはは……シグナム、その呼び方は如何かと思うよ?
 フェイトちゃんとアリシアちゃんにはちゃんと名前があるんだから、名前で呼ばないと失礼に当たると思うの。」

「む…確かにその通りですね…スマナイ…訂正しよう――アリシア、フェイト。」


うん、其れで良いの。
名前って大事なモノだから、ちゃんと相手の名前は呼ばないとね。


「はい…以後気を付けます。」

「まぁ、私達は如何呼んでもらっても良いんだけど…やっぱり名前で呼んでもらった方が嬉しいのは事実かな〜♪
 ……さてと、この建物が以前の私達の暮らしの場だったところで、中でお母さんが待ってるんだけど…」

「衝撃的な光景が待ち受けてるから覚悟してね?」


衝撃的な光景って…リンディさんの間違い和装以上の衝撃は早々ないと思うの。


「だと良いんだけどね〜〜。」


――ギィ…



「「「「「「「「は?」」」」」」」」


思わず目が点になったの――庭は中国風だったのに玄関と廊下はヨーロッパ仕立て?
其れも中途半端な欧州風味じゃなくて完璧な―――此れはある意味凄い事なの。


「ただいま〜〜〜、なのは達を連れて来たよお母さん。」


扉を開けると――今度は和室!?
此れもリンディさんの中途半端な和装とは違って、完璧な和室なの。

廊下側から見ると普通のスライドドアだった扉も、室内から見ると衾調のデザインになってるし……プレシアさんて凝り性なのかな?

統一感は無いかもしれないけど、1つ1つのパーツは凄く完成されてるの。
一纏めにしたら違和感が出るだろうけど、庭や廊下と室内を別々に見れば見事な出来栄えだと思う…凄いよ。


「闇の書の主様にお褒め頂けるとは、私の美的センスは狂ってはいないようね。」

「狂っていないどころか、個々のパーツだけを見たら、完璧ですよプレシアさん。」

まるで違う文化が入り混じってるのに全く違和感を感じませんから。


でも、それよりも本題ですよプレシアさん。
話があるっていう事で、しかもシグナムの同席を求めるなんて余程の事なんですよね?




プレシアさんは確実に『何か』を知っていると思うの。――其れは一体何なんだろう?


「本当はもう少ししてから話す心算だったんだけれど、管理局が現れたとなれば話は別よ。
 幸い、来たのがリンディ達だったから良かったけれど、リンディとレティの傘下以外の魔導師が来ていたら正直宜しくなかったわね。
 もしもそう言う輩が来ていたら、なのはさん――貴女が持つ闇の書は有無を言わさずに封印されていたわ。」

「!!」

闇の書を封印て…其れはシグナム達を封印するって事ですか?
…冗談じゃないの――シグナムもシャマルもヴィータちゃんもザフィーラも、そして闇の書そのものも大切な私の家族なの!

其れを封印するなんて…絶対認めません!!


「そうよね……其れが普通の反応だわ。
 けれど、管理局は一枚岩の組織じゃない……それ故に派閥毎に異なる考えを持っているのよ。
 リンディとレティの派閥なら、なのはさんが闇の書の主と言うその事実だけで先走った行動をする事は無い筈よ。
 だけど、そうじゃない派閥は何をしでかすか分からないのよ――私が管理局を辞めるに至った原因も、其処にあるのだから。」


プレシアさんが管理局を辞めた理由――此れは予想していたよりも重い話になりそうだね。


「管理局が出て来た以上は知っておいた方が良いわ……管理局の闇と言うモノを。」

「管理局の闇…」

其れは一体なのかな?
クロノ君やリンディさんがやましい事をしているとは思えないけど、それでも闇がある組織…ちょっと不気味な感じ。







そして、プレシアさんは色々な事を話しはじめたけど……まさか管理局と闇の書に、そんな因縁が有るとは思ってなかったの。
ううん…管理局だけじゃない――リンディさんとクロノ君…この2人は特に闇の書への思いが強い。


だからこそ私は固まってしまった…






何故なら、11年前に、闇の書は暴走の果てにリンディさんとクロノ君から家族を奪ったって言うんだから…











 To Be Continued…