Side:クロノ


何とかギリギリで間に合ったか。
此れだけの力が集う場所にジュエルシードが存在し、更に其処で戦闘にでもなったら――正直何が起こるか分からない。

何も起こらない可能性も有るが、『有り得ない』よりも『有り得る』と思って行動した方が、結果としては良い場合が多い。
そういう意味では、戦闘行為を中断できたのは僥倖とも言えるんだが…


「クロノ!?」

「あっれ〜〜久しぶり〜〜!」


まさか、フェイトとアリシアがこの世界に居るとは。
いや、プレシア女史が管理局を止めた際に『第97管理外世界』を移住地として考えていた事を思えば、この2人が此処にいるのもある意味で納得できる。

僕としても5年ぶりの再会になるからそれを喜びたいが…今はそうも言ってられないな。


「5年ぶりだな、フェイト、アリシア……再会を喜びたいところだが、今はそうも言ってられないのは分かるだろう?
 取り敢えずデバイスを待機状態に戻してくれるとありがたいんだが――

幾ら何でも、フェイトと――こっちの得体の知れない黒装束を1人で抑えるのは結構キツイものがあるんだ。
出来ればフェイトだけでもデバイスを戻してくれるとやりやすいんだが…


「大丈夫だよクロノ。
 …私がデバイスを戻さなくても、なのは達が巧くやってくれるから♪」


?なのは…グレアム提督が言っていた現地の高ランク魔導師だったか?――それが…


「ィィィィン…バスタァァァァ!!」

「ラケーテンハンマァァァァァァ!!!!」



!!な、砲撃を推進力に突っ込んできた!?
く…だが動いたら…ええい、仕方ない!魔力の全てを注ぎ込んだプロテクションでガードするしかない!!


――ドガァァァァァァァン!!









魔法少女リリカルなのは〜夜天のなのは〜  夜天19
『その名は時空管理局』










「ぐぅ…何て威力だ――プロテクションを張っても衝撃を防ぎきる事が出来ないなんて…」

此れが直撃したら一体――考えたくないな。


「はっは〜〜!!如何だ、忍者野郎!
 なのはのバスターを推進力にしたアタシのラケーテン、名付けて『ディバインハンマー』の一撃は!!結構効いたんじゃねぇのか?」

「…実に見事…アレを推進力にするとは、正直予想外だった。
 貴殿と、高町なのは殿の信頼関係があって初めて成功する稀代の大技――素晴らしい一撃であった。」


!!今のアレを喰らって略無傷だと!?
一体どうなっているんだこの男の身体の耐久力は!?

――だが、今の一撃で拮抗が崩れた。
ジュエルシードはどうなった?


「はっは〜〜い!派手な一撃御馳走様〜〜!此れは貰って行くよ〜〜♪」


――何時の間に!!
そうはさせない!!ジュエルシードは此方で回収させてもらう……スティンガー!!


「良き攻撃だが、自分達がやられる訳に行かぬのだ…然らばゴメン!!」


――ボウン!!



け、煙玉だって!?
こんな古風なエスケープ手段を使ってくる奴がいるとは、そっちの方に驚くぞ僕は!!…まぁ、お約束的に煙が晴れたら誰もいないんだろうがな。


――シュゥゥン…


「やれやれ、予想通り煙玉を使った連中は居なくなったか……残ったのはフェイトとアリシアを含めた君達だけか…」

さて、如何したモノだろうな?
本来ならば事情聴取の為にアースラに任意同行するのが普通なんだが、アリシア達が居て、果たして応じてくれるかどうか…

まぁ、アースラの艦長はプレシア女史の友達だった母さんが務めているから、モニター越しに会えば、ある程度は警戒を解けると思うんだが…


「クロノ、リンディさんに連絡入れなくていいの?…入れる事になってるんでしょ?」

「アリシア!!……良いのか?アースラまでとは言え、同行願う事になるんだが…」

「来たのがアースラスタッフじゃなかったら応じない。
 だけど、クロノが来たって事はアースラが来てるんでしょ?だったら一応は安心できるから。」


フェイトも…スマナイな。
だが、連絡以前に君達以外の魔導師には同行を願わないとならないから、先ずはそちらから――


――チャキ


「さっきは忍者野郎の方を優先したが、テメェは管理局なんだよな?……一体何しに現れやがった?
 いや、テメェ等が何しようと知った事じゃねぇ――だが、なのはやアリサ達に害をなすってんなら容赦しねえ…問答無用でブッ飛ばす!!」

「!!」

な、何なんだこの子の威圧感は……大凡子供が出せるモノじゃない。
いや、それ以前にこの子は何処かで見た事があるような……?


「待って、ヴィータちゃん!」

「なのは?」

「駄目だよ、イキナリ敵意を剥き出しにしたら相手だって困っちゃうの。
 先ずはお話を聞いてみよう?先ずは其れからだよ?」

「お、おう……スマネェ、ちっと興奮しちまった…」


あの黒い子は彼女と特別な関係なのか?姉妹と言う感じでもないが…
なんにせよ此れで話が――


「其れに話を聞くだけならタダだし、聞いて納得できなければその時に全力全壊で一発かませば良いと思うの♪」

おぉ!確かにそうだよな!!」


前言撤回!空恐ろしい事を言わないでくれ!!
其れは何か?任意同行には応じても、此方の出方次第では敵対行動を起こすと言う事か!?と言うか『全壊』!?『全開』じゃなくて!?


「「「「「全壊。」」」」」

「まぁ、なのは的にはOKだよね?」

「其れで良いのかなぁ…?」


………(滝汗)
若しかして、否、若しかしなくても僕はトンでもない子達と相対しているのか?……無事にアースラに連れて行くことは出来るんだろうか?
若干不安になって来たな…


『はい、其処まで。
 どうも皆さん、初めまして。次元航行艦『アースラ』の艦長、リンディ・ハラオウンです。フェイトさんとアリシアさんはお久しぶりね。』


「お久しぶりです、リンディ提督。」

「5年ぶりですね〜〜♪」


艦長……ふぅ、正直助かりました――この状況を如何したモノか悩んでいたんです。


『そうみたいね。
 さてと、皆さんには今回の事で少々お話を聞きたいのだけれど良いかしら?』

「其れは強制ですか?」

『任意よ…まぁ、協力して貰えばありがたいと言うのが本音だけれど。』

「ん〜〜〜…其れってちょお狡い言い方とちゃいます?
 強制やない言うても、そう言われて断ったら私等気分良くないですやん?……まぁ、何か企んでる訳でもないみたいやし、応じますけど。」


頭の回転も早い子達だな……いや、グレアム提督が目を付けた程の現地魔導師なら此れくらいは当然なんだろうか?
兎に角、アースラへの同行は出来るみたいだから、先ずは戻ってからだな。








――――――








Side:なのは


と言う訳で、クロノ君に案内されて『アースラ』内部にやって来た。
SF映画に出て来る宇宙船みたいなものが本当に存在していたなんて驚きなの……帰ったら博士に教えてあげようっと。

で、それとは別に新たな問題が…

「武装を解除って……この船には車椅子とか有りますか?」

「車椅子?…いや、無いが…」


だったら解除は出来ません。
レイジングハートを待機状態にしたら、私……立つ事も、歩く事も出来ないんです――魔法の力を借りないと私は…


「!!……そう言う事情なら仕方ないな…」


…覚悟はしてたけど、やっぱりそういう目になるよね……憐みの目――私は可哀想じゃないんだけど…


「オイ、なのはをそう言う目で見んじゃねぇ。
 なのはは自分の事を不幸だとは思ってねぇ…其れなのに、憐みの目を向けるのはなのはに対する最大級の侮辱じゃねぇのか?」

「う……スマナイ…其れに関しては謝罪しよう……悪かった。」


うぅん…良いよ――其れが普通の反応だと思うから。
それと、言ってくれてありがとう、ヴィータちゃん♪


「へへ、此れくらいは当然だぜ!なのはにゃ何時でも笑っててほしいからな♪」

「ふふ、本当に良い子だねヴィータちゃんは♪」



「ふぅ、君だけに例外を認めるわけにもいかないから、全員武装解除は必要ないとしよう。
 君達なら、背後から行き成り攻撃する事もないだろうからな……だが、君はそろそろ本来の姿に戻っても良いんじゃないか?」

「あ、そう言えばそうだね…魔力も戻ったし…」


ほえ?ユーノ君?


――パァァァ…


「よし。…なのは達には久しぶりかな、この姿は。」

「「「「「「「え?」」」」」」」


人間になった!?
ユーノ君て本当に人間だったの!?って言うか久しぶりも何も初めてその姿は見たよ!?


「アレ?そうだったっけ?」

「初めてよ!!…つーか、執務官、話の前にコイツ逮捕して!!
 こんにゃろう、フェレット姿の時に色々やらかしてくれたんだから!!」

アリサ!?

『I think so.アリサの言う通りです。一刻も早くこの駄フェレットもどきを捕縛してください。
 覗きに、美少女の視姦に猥褻未遂罪に痴漢未遂…叩けばまだまだ埃が出て来る筈です。』


「だから如何してレイジングハートはそう言う事言うの!?僕は無実だからね!?」

『どの口が言いやがりますかこのズべ公が。
 Masterの部屋にノック無しで入り込んで、Masterとはやてとヴィータの着替えシーンを舐めるように見ていたのを忘れたとは言わせませんよ?』

「アレは事故でしょ!?」


…そう言えばそんな事があったの。
って言うか入室前にはノックしてって言ったにも拘らず、ノック無しで入ってきたユーノ君は如何なのかなぁ?かなぁ?

……クロノ君、ユーノ君を取り合えず逮捕してなの。


「なのは!?」

「…取り敢えず詳しい事情は管理局の取調室で聞かせてもらうとしようか…」

「僕の話を聞いてね!?」


喋るフェレットだったら酌量の余地はあるけど、人間の男の子だったら余地は無いんだよユーノ君。
乙女の柔肌を幾度となくその目に焼き付けた己の罪を潔く清算して来やがれなの。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



と言う事があって応接室に。
取り敢えずユーノ君は必至の弁明で、何とか逮捕だけは免れる事が出来たの………ちょっと納得いかないの。

で、案内された応接室は…

「はやてちゃん、私は何処から突っ込めばいいのかな?」

「いや、此れはある意味で突っ込んだ方が負けとちゃうやろか?」

「でも此れは…あからさまに突っ込みを言入れてくださいと言わんばかりの内装よね?」

「うん…取り敢えず『鹿威し』は室内に置くものじゃないよ…」


「相変わらず物凄いセンスだねリンディさん。」

「…アリシア、お母さんのセンスも負けず劣らずだよ…」


取り敢えず間違いまくった『和』の知識が全開になった部屋だったの!!

なんなの、この中途半端に敷かれた畳は!良い感じで湯気を上げてる茶釜は!!なぜか室内にある鹿威しは!!
突っ込むなって言うほうが無理なの!!

そして更に…


「ん〜〜…美味しい♪」


緑茶1杯に角砂糖10個とミルク……其れは流石に認められないですリンディさん!!
そんな事したら、折角のお茶本来の甘みと、独特の香りが台無しなの!!


「だって苦いんですもの♪」

「「「「「なら、初めから別なものを飲め!」」」」」


苦いのが嫌なら、最初からココアや紅茶にしてください!
そんな飲み方は、お茶を栽培している農家の人達に対する侮辱なの!!


「あら…なら改めないといけないわね。
 …コホン、改めまして『アースラ』の艦長、リンディ・ハラオウンです。
 この度は、此方の任意同行に応じてくれたことを、先ずは感謝しますね――けれど、貴女達の事は何も分からない。
 同時にジュエルシードを巡る様々な事と、あの場から離脱した謎の勢力についても私達は知る必要があるの。
 …本来なら、此処は管理外世界だから管理局が出張る事ではないのだけれど、危険なロストロギアが関わっているならば話は別だわ。」


分かってくれればいいです。
其れとジュエルシードの事も、私達の持っている知識で良ければ全て話します。


「協力感謝するわ…」








――――――








Side:シグナム


「管理局と協力体制か…」

主なのはの帰りを待っていた我等に、戻ってきたヴィータが言った事が此れだった。
正直、昔の事を考えると管理局とは接触したくないのが本音なんだがな。


「あんまし乗り気はしねーんだけどな……なのはがそうするって決めたからな。
 だけどなのはも、連中が妙な動きを見せたら速攻で切る心算で入るみてぇだから、その辺は大丈夫だと思うんだけよ…」


まぁ、主なのはがそうだと決めたのならば、騎士たる我等は其れに従うのみ。
無論、主が間違った道を歩もうとしているなら、それを正すが騎士の役目だが、今回に限ってはそう言う事も有るまい?

其れに、主なのはが――あの優しき主が、早々道を踏み外すとも思えんからな。

管理局と言うのは些か気になるが、リンディ提督とクロノ執務官と言うのは、お前の目から見ても信頼に足る人物なのだろう?


「まぁな…少なくともなのは達を利用するって事だけは無いみてぇだが……」

「敵対行動さえ取らなければいい。
 其れに、もし我等に敵対する道を選んだのなら――その時は正面からぶつかって叩きのめしてやれば良い。」

「うむ、それが良いだろう。」


我等が主に仇成すモノに、情け容赦など不要だからな。

ん?そう言えばユーノは如何した?
お前達が戻ってきてから姿を見ないが…


「んあ?…アイツならアースラに残ったよ…あっちの方が身の安全を確保できると思ったみてぇだ。」


成程な。
まぁ、アイツの場合は全ての件に関して自業自得としか言えない事だらけなのだが…まぁ、精々頑張ると良いさ。


其れは兎も角、管理局以上に気になるのは、隼人達の動向だ。

奴等が、何故ジュエルシードを集めているのかは、今尚不明のままだからな――一体何のためにジュエルシードを集めているんだ、アイツ等は…








――――――








Side:リンディ


ふぅ……取り敢えずなのはさん達と協力関係を築く事が出来て良かったわ。
クロノには悪いけれど、あの子達の魔力ランクは、アースラスタッフ全員を上回っていますもの。

特になのはさんとはやてさんは特出した力の持ち主だわ……管理外世界に此れだけの魔導師が居ると言うのは正直に驚きね。
アリサさんとすずかさんも相当な実力の持ち主だし、本音を言うなら、今すぐにでも管理局にスカウトしたいところだわ。

だけど今は其れは出来ない。

今ここであの子達を管理局に引き入れたら、最高評議会が何をしてくるか分かったものじゃないわ。

あくまで今は協力体制――其れも私の独断での現地魔導師との協力体制と言う事にしておいた方が良いわね。




そうじゃないと面倒な事になりそうですもの。

なのはさんにやたらと懐いていたあの赤毛の女の子……あの子は闇の書の守護騎士『ヴォルケンリッター』の1人だった筈ですもの。

其れを踏まえると、なのはさんは闇の書の主と言う事になるわね。



――其れを最高評議会に知られる訳には行かないわ…闇の書の力を手に入れるために、なのはさんに何をするか分からないから。






それにしても闇の書とはね……如何にも因縁は消えてくれないらしいわ。

私は、まだ割り切る事が出来るけれど、クロノに割り切れと言うのは無理でしょうね…
けれど、だからと言ってなのはさんを敵として討つ事は出来ないわ……彼女は、此れまでの闇の書の業とは関係ないのだから。



ふぅ……どの道が正しいのか、正直分からないわ。

…クライド、私は如何するべきなのかしら?…貴方の敵を討つべき?それとも次代の可能性を信じて放置する?



貴方なら、同じ状況に立たされたとき、どんな判断をするのかしら?
答えのない事だとしても、私は其れを本気で知りたいわ……クライド…











 To Be Continued…