Side:なのは
最高評議会との戦いから、もう2カ月も経ったんだね――時の経つのは早いって言うけど、正にその通りだと実感しているの。
まぁ、時が経つのを早いと感じるのは、其れだけ日々が充実してるって言う事だから、悪い事じゃないけどね?――って言うか、シューの仕込みに接客にコーヒーの
ブレンドに――翠屋の二代目となるには、覚える事が多くて一日が24時間じゃ足りないって思う位だからね。
翠屋は私が継ぐ!!此れは譲れないから!
――チリンチリ~ン
っと、新たなお客さん!
ヴィータ、人数を聞いて席にご案内して――って、クロノ君?
「あの戦い以来だから2か月ぶりだななのは?……元気そうで安心したよ。」
「其れは私もだよクロノ君!
あの戦い以降、全く連絡が無かったから、何かあったのかって心配してたんだよ!――こっちから態々連絡したら面倒な事になりかねないから自重してたしね。」
「……其れは良い判断だと思うよ。
君から僕に直接連絡が来てたら、非情に面倒な事になっていたかもしれないからね――君の判断力には、本当に頭が下がるって言うモノだ。」
にゃはは……まぁ、此れも生まれ持った才能って言う事で。
取り敢えず奥の席で待っててもらっていいかなクロノ君?お母さんに事情を話して、私と守護騎士全員、そっちの席に行くから。
「あぁ、スマナイな。」
「気にしないで、此れ位はね♪」
さて、クロノ君はどんな物を持って来たのか……そっちの方が気になっちゃうの♪
魔法少女リリカルなのは~夜天のなのは~ 夜天Final
『夜天の主、その名は高町なのは』
「で、どんな用件なのクロノ君?多分、この間の事だと思うんだけど…」
お母さんから許可を貰って、私と守護騎士の皆は、店の一番奥の席でクロノ君と面会――という名の、この間の事件のあらましを聞くっていう事に事になっていた。
何か、調べて分かった事が有ったのかな?
「あると言えばあったな。
倒してしまった後だから今更なんだが、最高評議会の脳味噌は、最初からあの様な下衆では無かった――あの地位に就いた時には、本気で管理局の事を、そし
て、民の事を考えて居たらしい。
だが、ある者の甘言に惑わされ、そして肉体を捨てる決意をしたその時に、彼等の思いは歪み、ねじ曲がり、自己保全のみを考える下衆になり果ててしまった。
尤も、ドレだけの処置をしたところで、人の生体脳の寿命は150年が限界だから、其れを超えれば壊れてしまうのは然りだったんだけれどね。」
つまりは、あの脳味噌ももとは真人間だったと言う事だね?
だけど、だとしたらそれに要らない事を吹き込んだのは誰なの?其れも分かってるんでしょクロノ君?
「あぁ、最高評議会の連中に接触したのは『ランクス・エスクード』という人物だ。」
「エスクードって……まさか!!」
「そのまさかだ。
最高評議会に入れ知恵をしたのは、夜天の力を我が物としようとして失敗したヴォクシー・エスクードの祖先である、エスクード家の一員だったんだよ。」
ヴォクシー・エスクード……夜天の力を自分の物にしようとして彼是やってくれた外道……10年前に、私がミッドで演説して以降、行方知れずって事だったけど、ま
さか、其れの御先祖様が最高評議会に接触していたとは思わなかったよ。
どうやら、碌で無しは血筋みたいだね。
「其れは否定できないな――だが、ヴォクシー・エスクードは行方不明だが、恐らくはもう生きてはいないと思われる。失踪して10年も経ってる訳だからね。
加えて、エスクード家は彼以外の血筋も既に途絶えている――碌でもない血筋は、彼で終わりさ。」
「なら、少しは安心できそうだよ。」
あんなのが生きてたら、其れこそ社会にガチで悪影響を及ぼす存在になるだろうからね。――言っちゃ悪いけど、滅びて然りの一族だったって、そう言う事だよね。
因果応報、碌でもない事をし続けて来た罰が当たった、多分そう言う事なんだろうね。
「奴がな……まぁ、其れは其れとして、最高評議会と言う派閥そのものはどうなった?あの派閥に属していた局員の数は、決して少ない物ではないのだろう?」
「派閥そのものは解体されたし、幹部級の連中も、全員が裁判にかけられて有罪になるだろう。刑の重さに差はあるけれどね。
だが、そうでない者達――特に戦場に出されていた魔導師達はそうも行かないんだ。」
「あ?なんでだよ?」
「無罪放免となると、些か解せぬな?」
ヴィータとザフィーラの言うように、其れは確かに――って、若しかしてクロノ君『そう言う事』なの!?
「執務官、其れは……」
「なのはとシグナムは気付いたようだが、要するに彼等の『兵隊』となっていた魔導師、そしてガジェットを開発していた技術者は、一部を除いて殆どが、最高評議会
の手で操られていた――つまり洗脳されていたんだ。」
「何や其れ!!ホンマに何考えてんねん、あのアホッタレ共は!!」
「阿呆垂れですので、何も考えて居ないのでは?取り敢えず使えそうな奴だから洗脳して自分達の物にしてしまえ――その程度の短絡思考回路なのでしょう。」
『つまり、死んでも治らないバカと。』
「有体に言えば。」
なたねもレイジングハートもキッツイねぇ?――まぁ、私も否定はしないけど。
でも、そうか……確かに操られていて、自分の意思じゃない事をしていたんだとすれば『心神喪失』が適応されるから、裁判でも罪は問えないし、何よりもそんな人
達に罪を課して罰を与えるのは間違ってると思うからね。
「それで、幹部級の人達は、有罪が確定したらどれだけの刑になるのかな?」
「管理局は量刑制度だが、最低でも60年、最大だと200年は下らない――刑が確定後は軌道収容所に収監予定だが、生きて刑期を終える者は居ないだろう。
因みに、脳味噌が生きていたと仮定した場合、恐らく懲役1000年は下らないだろうな。」
「……量刑とは言え、事実上の死刑だな其れは。」
「アメリカの凶悪犯に下された判決を思い出したです……」
確かにね……で?
「ん?」
「最高評議会の関係者がどうなったかは分かったけど、其れを伝える為だけに地球に来た訳じゃないんだよね、クロノ君?」
其れを伝えるだけなら、メールや次元通信で事足りる訳だし。――事件の顛末以上に、大事な話があったんじゃないのかなぁ?違う?
「……君に隠し事は出来ないな、なのは。確かに其れだけじゃない。
この間の戦いの後、管理局では新たな局長を選出する動きが出て来てね。その候補者は、僕を含め多数いるんだが――その候補者に君が上がってるんだ。
最高評議会の思惑を真正面から粉砕し、夜天の守護騎士を従え、そして人を引き付けるカリスマ性――此れだけの人物こそが新たな局長に相応しいってね。」
「成程、確かに道理は通ってるね。
――だけど、其れはお断りだよクロノ君。私は管理局の局長になる心算は無いの。」
私が一介の魔導師だったのなら兎も角、私は夜天の主だから。
夜天の持つ力は、守護騎士の力だけを見ても、管理局の武装隊1つを此の少人数で圧倒出来るほどに凄いし、中でも調停者であるシグナムの力は一騎当千。
そして、自画自賛じゃないけど、夜天の主である私だって、並の魔導師とは比べ物にならない力が有るし、グルムとユニゾンした場合にはその力はさらに増すしね。
夜天の力は余りにも強いから、特定の陣営に収まる事は出来ないんだ――力を貸した陣営に確実な勝利を齎しちゃうからね。
この前の最高評議会みたいな、誰が見ても『悪』その物である存在を討つなら兎も角、そうでないのなら、夜天は何にも属さない自由な戦力で居るべきなんだよ。
「君ならそう言うと思ったよ。
分かった、君を局長にと考えて居る連中には、僕の口から一言一句違わずに伝えておこう――其れでも納得できない場合には、次元通信で君から伝えてもらう
事になるだろうけれどな。」
「其れ位はね。」
だけど、その理由以上に、私は此処を離れたくないんだよ。
局長になっちゃったら翠屋を続ける事は出来ないし、其れに――
「いらっしゃいませ~!ご注文をどうぞ~~!」
「「何この可愛いウェイトレスさん!!」」
今や、休日限定の看板ウェイトレスであるヴィヴィオだってミッドに行かなくちゃならない訳だから、そんなのは絶対にダメなの。ヴィヴィオも、地球での生活を楽し
んでいるし――何よりもお母さんが、私とシグナム以上にヴィヴィオを溺愛してるからね。
ヴィヴィオがミッドに行ったら、お母さんが取り戻しに来るのは確実だからね?
「……うん、桃子さんなら転送ポートとか使わずにミッドに来そうで怖いな。
だが、局長の話は蹴ったにしても、偶にはミッドに遊びに来てくれ。僕個人としても君との交流は続けたいし、エイミィも君達に会いたがっているからな。」
「其れじゃあお忍びで考えておくよ。」
「期待せずに待って居るさ。
さて、伝えるべき事は伝えたから、ここいらでお暇するとしよう――それで、悪いが持ち帰り用にシュークリームを10個ほど頼めるか?
エイミィは僕が地球に来てるのを知ってるから、地球に行って翠屋のシュークリームを買って行かなかったとなるとドヤされるのは確実だし、僕個人としても、翠屋
のシュークリームは、後世に残すべき物だと考えているからな。」
ふふふ、了解。直ぐに用意するね。
翠屋のシュークリームは世界一!お母さん特製のシュークリームの味は、どんなパティシエールにだって超える事は出来ないからね♪――はい、どうぞ!
クロノ君の所は子供が2人居るって言う事だから、1人3個あてで12個用意したよ。それと、此れは翠屋からのサービスだから、お代は要らないからね?
「良いのか?」
「良いよ。
ただし、クロノ君が新たな局長になって、管理局を健全運営する事が条件だけどね。」
「……其れは、対等な対価だな――分かった、何とか新局長になって頑張ってみるよ。――では、またななのは、そして夜天に集いし者達よ。」
うん、またね。
「…………」
「ん?どしたのシグナム?」
「本当に、此れで良かったのでしょうか?
貴女が新たな局長になれば、管理局は間違いなく健全運営がなされるでしょうし、地球とも良好な関係が気付けた筈ですし、何よりも貴女は権力に溺れるような
人ではない――ならば、局長になっても良かったのでは?」
ん~~~……だとしてもやっぱりパス。
理由はさっきクロノ君に言った通りだけど、そもそも私は此処を離れる気はないんだよ――皆と一緒に、翠屋を続けて行きたいからね。
「……そうでしたか。ならば私は何も言いません。
貴女の望み通りに、共に翠屋を続けて行きましょう――この店を途絶えさせてしまうのは、途轍もない損失になる気がしますから。」
「そんな大袈裟な。」
だけど、翠屋をずっと残していきたいのは本心だよ。――今までも、そして此れからもずっとね。
それが、夜天の主である私の、一番大きな願いであるのかもしれないね。
――――――
――数年後
No Side
「いってきまーす!」
「行ってらっしゃい♪」
「車にはくれぐれも気をつけてな?」
「は~~い!」
爽やかな朝の風景の中、高町家から海聖小学校に登校していくのは、ハニーブロンドの髪と紅と翠のオッドアイが特徴的な少女、高町ヴィヴィオであり、見送るの
は、彼女の『ママ』である高町なのはとシグナムだ。
見送る2人の左手の薬指には光る指輪が――1年前に『同性婚姻法』が可決され、なのはとシグナムは夫婦となっていたのだ。
其れと同時に、ヴィヴィオはかつてなのはが通っていた海聖小学校に編入と言う形で入学し、4年生に進級した今、結構な友達を作り、充実した日々を送っている。
そして、其れはなのはとシグナム――引いては守護騎士とはやてとなたねも同様だ。
半年前に、なのはは遂に桃子から『シュークリームの免許皆伝』を貰い、同時に翠屋の二代目に就任し、この店を切り盛りし、シグナムはチーフウェイトレス兼チーフ
パティシエールとして、店の裏方と接客を仕切っている。
守護騎士とはやてとなたねも、この店のスタッフとして、忙しくも充実した日々を過ごしているのだ。
「平和だね、シグナム?」
「えぇ。ですが、此の平和な日々は、何物にも代えがたいとても大事なモノでしょう?――ならば、護って行きましょう、私達の命尽きるその時まで、必ず。」
「そうだね。――今更だけど、彼方達に出会えてよかったよシグナム。」
「それは、私のセリフですよなのは。
私達こそ、貴女に出会えてよかった――彷徨いに彷徨って、漸く仕えるべき真の主に出会えたわけですからね――貴女の命尽きようとも、我等守護騎士は永遠
に貴女の僕であり仲間です。」
「うん、覚えとく。」
そして、なのはとシグナムの関係もまた良好だ。
だって、ヴィヴィオを見送る2人の手は確りと繋がれているし、左手の薬指の指輪が、絶対に切れない絆となっているのだから。
「さて、今日も1日頑張ろう!!」
「全力全壊で、ですね?」
「勿論♪」
嘗て呪われた魔導書と呼ばれた『闇の書』はもうない。
代わりに、呪いを超えた『夜天の魔導書』が存在し、その主と守護騎士と、夜天に集いし仲間達が存在している。
――永き時を超え、呪われし魔導書は救われたのだ。
そして、二度と道を間違える事は無いだろう。
正しい機能を取り戻した無限転生のプログラムと守護騎士が存在して居る限り、高町なのはと守護騎士は、事実上不滅であるのだから。
此れからの未来がどうなるのかを知る者はいない――だが、きっと未来は明るいモノになるだろう。
何故って?――言うだけ其れは愚問だ……何故ならば、優しき夜天の光が、進むべき未来を示しているのだから。その先に待つのは、明るい未来一択だろう。
「さて、翠屋開店!頑張って行くよ~~~!!」
「「「「「「「「Jawohl Meister NANOHA!(了解です、マイスターなのは!)」」」」」」」」
「ほな、頑張ろか~~~♪」
「務めを果たしましょう。」
そして、喫茶翠屋は、きっと今日も商売繁盛が間違いないのだろう。
Fin
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