Side:N9999


クソ!クソ!!クソッタレぇぇぇえぇぇぇぇぇぇ!!!
オリジナルをぶっ殺す心算で居たのに、蓋を開けてみれば条件を対等にするなんて言う事をされた上で、しかも事実上完封されて、終いには力が暴走して終わりかよ!
まぁ、何やら転移させられて、そのお蔭で力が落ち着いた訳なんだが――何処だ此処?

薄暗い部屋で、部屋の中には――脳味噌が入った培養ポッドだと?悪趣味にも程があるんじゃねぇのか?……理科の授業でもあるまいし。
だが、何でアタシはこんな所に?



『其れは、我々が君を此処に転移したからだ、N9999――高町なのはの複製よ。』

「!?」

今のは!?――まさか、この脳味噌が念話を送って来たって言うのか!?……って事はつまり、生命活動を続けてるって事か、この脳味噌は!!……有り得ねぇだろ。
確かに技術的には不可能じゃないのかもしれねぇが、こんな状態になってまで生きていたいと思ってる奴がいるって言う事に驚愕だってんだ。

生き汚いにも程があると思うが――何の目的で、アタシを此処に転送した?下らねぇ理由だったら、ポットごとブッ飛ばして、死をくれてやるぞ?



『そう焦るな……言うなればスカウトだな。
 高町なのはには及ばないが、お前の力そのものは素晴らしい物がある故に、最高評議会が開発した魔力薬を使えば、その力を更に伸ばす事が出来るだろう。』

『そうなれば、若しかしたら高町なのはに勝つ事も出来るやもしれんぞ?お前の目的が果たせるのだから、悪い話ではないだろう?』

『奴は、我等にとっても目の上のタンコブ故に、アレを倒してくれる存在が居るに越した事はない――さて、如何するかね?』




悪魔の囁きってか?……上等だ、テメェ等の話に乗ってやるよ脳味噌共!悪魔と契約して、高町なのはをぶっ殺す事が出来るんなら、安い代償だからな!!
だがな、アタシの力を使うなら、世界を取って見せろよな?――其れ位してくれないと、使われる側として、大凡満足出来ないだろうからよぉ!!やってやろうじゃねぇか!













魔法少女リリカルなのは~夜天のなのは~  夜天122
『Die Seele die geerbt wird』












Side:シグナム


うむ……矢張り手強いなコイツは。
コイツの攻撃を防ぐ事は難しくないが、逆に私の攻撃もコイツにはクリーンヒットできない状況だからな……文字通りの一進一退と言う所だが、地力で勝る分だけ私に分
が有ると言えるかな?油断は大敵だが。

「焔の前に散れ!!」

「…………!!」



――ガキィィィィン!!!!



其れは其れとして、此れで果たして何合切り結んだのか分からないが……矢張り違和感が残るな?
何故、ユニゾン状態であるにも拘らず、融合騎の魔力を別に感じるのか――その絡繰が全く分からん。低融合率では考えられん強さ故に、余計に分からん訳なのだが…

この歪は、ノイズは一体何なんだ?何故私は、コイツから此処までの違和感を感じている!?一体何故――!!



ディバインバスター!!

「!!!」



――ドゴォォォォォォォォォン!!



む?……今の砲撃は、なのは……ではないな。――緑色の魔力光……グルムか!!



「助太刀するですよシグナム!
 その人はユニゾンしているから、実質的には一対二の状況ですから、私が参戦すれば本当の意味での対等な戦いになるですから、別に構いませんよね?」

「……言われてみれば、確かにその通りだな。」

相手がユニゾンしていると言うのならば、確かに私1人で2人を相手しているのと同義だからな………そう言う意味では、グルムの参戦は有り難いと言うべきかも知れん。
グルムが最大の力を発揮できるのは、なのはとユニゾンした時だが、それ以外の者とのユニゾンでも融合率は99%と言う凄まじさだからな……是非お願いしようか?



「了解です!行くですよ~~……ユニゾン!!」

「イン!!」



――轟!!



融合完了!

「夜天の剣聖此処に……と、言う所だな。」

うむ、力が増したのが良く分かるが……其れだけに、奴の歪さが際立ったと言う所だな?
目の前のコイツから何かを聞きだすのは略不可能故、後は融合状態の融合騎その物に聞くしかないのだろうが、融合状態の融合騎が果たして答えてくれるかどうかも確
証はないからな……



え?……ちょ、其れ本当ですか!?

「む?如何したグルム?」

シグナムと融合したら、声が聞こえて来たんです……多分、あの人と融合してる融合騎だと思うんですけど……



なに、其れは本当か!?
だが、何故グルムに?もしも融合状態で語りかけていたのだとしたら、その姿が魔力体で現れるし、そもそも私にだって声が聞こえる筈であるのに、今ままで何も聞こえ
なかったのだぞ?



……如何やら、最高評議会にばれないように、同じように融合状態である融合騎のみに聞こえるようにしてあるみたいです。
 しかも、半径5メートル以内に居るって言う条件付も付けて。



其れでは聞こえる筈もないか。
しかし『最高評議会にばれないように』と言う事は、少なくともその融合騎は最高評議会に自らの意思で手を貸している訳ではないと言う事なのだろうが……



そんな……幾ら何でも酷過ぎるです!!此れは……もう!!
 ――シグナム、彼と融合している融合騎の名は『アギト』で、騎士の名は『ゼスト』で、2人とも最高評議会に『使われている』らしいです。
 ゼストさんはマインドコントロールで自我を奪われ、アギトは特殊な装置で無理矢理融合させられているって言う事らしいです!!



なんだと!?
自我を奪った上で、己の兵士として使うと言うだけでも外道極まりない所業だが、其れに加えて自我を持って居る融合騎を無理矢理融合するとは、最高評議会の連中は
本当に人であるのかと疑いたくなるぞ!?

戦乱期のベルカにも、確かに正気を疑いたくなるような所業を働く奴は居たが、其れはあくまでも戦乱の世で生き残る為の処世術であり、生きる為の必要悪として見れた
が、最高評議会の連中はこの太平の世で、己の欲望の為に此れだけの事を平然とするのだ……最早断罪では足りぬぞ!!


其れよりも、如何にかしてマインドコントロールの解除や、アギトの強制融合解除は出来ないモノなのか?
強制融合に関しては、その特殊な装置を破壊してしまえば如何にか出来ると思うのだが……



――ッ!其れもダメみたいです!
 強制融合の為の装置は、ゼストさんの胸部に埋め込まれていて、其れを破壊したら心臓も機能を停止するようになっているって……!!

「――!!」

ふ、ふざけるな!!

自我を奪い、自由を奪い、強制的に融合しただけでは飽き足らず、更には騎士の命まで己の掌で弄ぶ心算か!!外道悪党も大概にしろ、最高評議会―――!!

「だが、逆にお前ほどの騎士が、何故奴等の手駒になっていたのかは理解が出来た……お前はお前の意思で従っていたのではなかったと言う事なのだな。
 しかし、ベルカの騎士であるのならば、忠誠を誓った主の為に戦って散るならば誉だが、外道に操られて手駒となった末に朽ちたとなっては死んでも死に切れんだろう。
 洗脳を解く術も、アギトを強制融合解除する手段も見当たらない以上、私に出来るのは、せめて騎士同士の戦いでお前を倒してやる事位しかないのだ。
 自分でも歯痒いが、お前の魂と融合騎を救う術は他に思い当たらん……この身の未熟を、如何か許してくれ。」

……そうですか。――シグナム、アギトもこれ以上ゼストさんを苦しめないでくれって言ってるです。
 これ以上自分の恩人が醜態を曝す様は見たくないって……だから、ゼストさんの為にも終わりにしてくれって…そう、言ってるです。



そうか……ならばその願い、聞き入れたぞアギト!!
私としても、これ程の騎士が、最高評議会の手駒になっている等と言う事は耐えがたい物だったからな……我が力の全てを注ぎ込んででも、騎士ゼストを倒し、そしてお
前を解放してやる!!








――――――








No Side


そして始まった騎士同士の戦いは、正に戦乱期のベルカの白兵戦を思わせるかの様な苛烈さであり、同時にクロスレンジ戦闘の手本となるような見事な戦闘だった。


「でやぁぁぁあっぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!!」

「―――――!!」


高速の移動から、一撃必殺の攻撃、正にベルカの騎士が最も得意とする戦術を最高レベルでぶつけ合わせていたのだから。
同時にこの戦いは、略五分だ。

パワーではゼストが、スピードではシグナムが上回っているが、総じて戦えば殆ど五分と言えるだろう…融合騎の出力安定はまた別だろうが、兎に角実力は拮抗状態。
このまま戦えば泥試合だが………この状況で先に動いたのはシグナムだった。



「破!!」

「!!」


斬り合いの最中に、突如身をかがめて足払いを、所謂『水面蹴り』を繰り出したのだ。
シグナムもゼストも空中戦を行っていたのだから足払いなど意味がないと思うだろうが、実はそうでもないのである。

確かに空中戦に於いて、足払いは本来の力を発揮する事は無いが、『相手の意表を突き、咄嗟に防御行動をとらせる』事は可能なのだ――人は本能的に足元への攻撃
を嫌うのも理由の一つだが。

兎に角、この一撃でゼストがバランスを崩した事は間違いなく、其れはシグナムにとっては最大の好機になる。



「ウオォォォォォォォォォォォォォォ……」



そのシグナムは、既に全身に炎を纏って、必殺の一撃の準備が出来ているようだ。
全身と、掲げたレヴァンティンに纏った蒼炎に込められた魔力は、下手すればなのはのディバインバスターを凌駕するだろう――それ程までに凄い力が集まってるのだ。



「此れで……終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!



そして放たれた、シグナムの新技にして最強の奥義『大蛇薙』!!
その蒼炎は、容赦なくゼストを焼き、同時に胸部の強制融合の装置を一切の容赦もなく焼いて行く。――そして……



――バリィィィィィン!!



「のわぁ!?」



強制融合装置が破壊され、アギトは強制ユニゾンから解放されたのだった。
だが、強制融合装置が破壊されたと言う事は、同時にゼストに死の瞬間が訪れたと言う事でもあるのだ……強制融合装置が破壊されたら心臓が止まるのだから。



「グハ……まさか死の直前に自我を取り戻すとは、皮肉なモノだな……」

「旦那!!」



しかし、その死の間際に、洗脳は解除されたらしく、ゼストは自我を取り戻したようだ――尤も、既に身体は死に体になっているのだが……



「自我を奪われ、最高評議会の手駒と化し、生きて汚名を曝していたが……其れもようやく終わると言う事か……こう言う終わり方もまた、悪くは無かろう。」

「旦那……」

「そんな顔をするなアギト、俺は此れでも満足しているのだ、死する前に騎士として最高の相手と戦う事が出来たのだからな。
 ――さて、名を聞かせてはくれないか?この俺を倒した、強きベルカの騎士よ。」

「騎士の戦いに於いて、己の名を名乗らぬのは無礼千万故に、我が名を名乗ろう。
 我が名は『シグナム』!夜天の魔導書の守護騎士、ヴォルケンリッターの将たる『烈火の剣騎士』のシグナムだ!!」



それでも最後まで騎士であろうとするゼストに対して、シグナムまた騎士として応える。
一般人からしたら理解できなかもしれないが、ベルカの騎士は己を打ち倒した騎士の名を刻み込んで逝く事を望み、相手を打ち倒した騎士は相手の名を己に刻むのが礼
儀なのだ――故に、シグナムもゼストに己の名を、もっと言うならば立場でさえも教えたのだ。



「ヴォルケンリッター……伝説の守護騎士の将が相手とは、俺の人生も捨てた物では無かったらしい。
 しかし、守護騎士の将ならばアギトを託すに不安は無い……貴女ならばきっと、俺よりもアギトの力を引き出せるだろうからな……今もって、アギトのロードは貴女だ。」



そしてゼストもまた騎士である。
死の間際に、己と融合させられていたアギトをシグナムに託したのだ――己よりもその力を引き出す事が出来るだろうと言う事で。――何たる騎士道精神だ!!



「死に行く騎士の願いは叶えるが、ベルカの騎士の務め……貴方が其れを望むのならば、喜んで彼女のロードとなろう!!」

「旦那がそう言うなら、異論はねぇ……アタシは、コイツの――シグナムの融合騎としてその力を使ってやる!!」



無論シグナムとアギトは其れを受け入れる。
シグナムもアギトも、古代ベルカから生きていたが故に、死に行く騎士の願いを拒否するなどと言う選択肢は存在しないのである!
よって、即座に新たな主従関係が出来上がったと言う訳だ――烈火の将であるシグナムと、烈火の剣聖を名乗るアギトとの、轟炎のコンビが!!



「ならば良かった……もはや思い残す事は無い……生きて汚名を曝していた俺も此れで……」

「旦那?オイ、旦那!!旦那!!!」



其れを見届けて満足したのだろう……次の瞬間にはゼストはこと切れていた。
最高評議会と言う、最悪の外道の手駒とされていた誇り高き騎士は、死の間際に自我を取り戻し、そして最後には騎士としてその命を散らしたのだった。

其れは、誰よりも潔く、美しく、そして悲しい散り方だっただろう。

だからだろうか?



「貴方の思いは受け取った……貴方の屈辱と無念を晴らすためにも、最高評議会は、必ずや我等が叩きのめす――ベルカの騎士の名に於いて、其れを誓おう!!」



シグナムは左の拳を胸に当て、そして恐らくは無自覚だろうが、涙を流しながら『最高評議会撃滅』をゼストの亡骸に誓っていた。








――――――








Side:ザフィーラ


うむ、予想通り此方にもガジェットが現れたが、この程度の鉄屑如きは私の敵ではない!!大人しくスクラップになるが良い――牙獣走破!!



――バガァァァァァァァン!!



「うわ~!!ザフィーラ凄~~~い!!」

「当然よヴィヴィオちゃん、ザフィーラはヴォルケンリッター一の防御力と、白兵格闘能力を持ってるんだから、あの程度のガジェットなんてリサイクルの為の鉄屑よ鉄屑♪」



シャマルとヴィヴィオの会話に少しばかり突っ込みを入れたい気持ちが無い訳ではないが、今は外敵の駆除を最優先にせねばな。
ヴィヴィオの事は、シャマルが最強の結界で護っているから大丈夫だろうが――物事には、得てして『想定外の事態』と言うモノが起こる故に、油断は禁物だろう。

「此れは、一体なの冗談なのだろうな?」

現実に、50体目となるであろうガジェットを破壊した私の前に現れたのは、仮面で顔を隠したサイドテールの黒衣の魔導師が十数体……考えるまでもなく、主の複製か…
顔は隠れているとは言え、そのサイドテールと黒衣の防護服と、金色のデバイスは主の象徴だからな。

如何に主本人には大きく劣るとは言え、その砲撃能力は半端ではないだろうからな……此れは覚悟を決めねばなるまい――!!



「ザフィーラ……シャマル先生――!!」

「大丈夫よヴィヴィオちゃん………大丈夫、大丈夫だから。
 相手が誰であれ、ヴィヴィオちゃんの事は、シャマル先生とザフィーラが護ってあげる……なのはちゃんと、貴女のママとそう約束したんだもの。だから、大丈夫!!」



何よりも、主から此方の守護を任された故に、相手が主の複製であっても私は退かぬ!!

ヴォルケンリッターが、蒼き狼『守護獣』のザフィーラ――我が名と、主との約束に掛け、貴様等は此処から一歩も通さんし、ヴィヴィオには指一本触れさせぬぞ!!
私の爪牙の餌食になりたい奴から、掛かってくるが良い!!













 To Be Continued…