Side:シグナム


デート……と言うのは、些か抵抗があるが、なのはとこうして出掛けると言うのは悪くない。否、私としても嬉しい事だ。
此れまで多くの主に仕えて来たが、守護騎士の将であっても主との関係は『主従』であって、なのはとの様に『主従関係ではあるが対等な立場』ではなかったからな。

無論、戦闘ともなれば、なのはは我等の主として、そして指揮官として命を下すが、日常では我等に何かを命ずると言う事は無いからな。翠屋で働いてる時を除いて。
或はだからこそ、我等はなのはに付いて行こうと思ったのやも知れんな。

我等を道具ではなく、一個体の生命として扱ってくれたのだから。……と、此れは今考える事でもないか。



「此れは如何かなシグナム?」

「良く似合ってると思いますよなのは。
 ですが、ホワイトとエメラルドグリーンの組み合わせは、なのはのイメージではないかと……どちらかと言えば、こっちのアイスブルーとブラックの方が良いのでは?」

「言われてみれば、其れもそうかも知れないの。」



只今、ブティックで、なのはの一人ファッションショーが開幕されているからね。
まぁ、なのはの選んだ服はドレも良く似合っているのだが、カラーの組み合わせが今一な点が有るので、其処を私が巧い事フォローせなばな……まぁ、なのはがカラー
リングを、最初から私に任せる心算で服のみを選んでいる可能性は否定できないのだが。



「それじゃあ、今度は如何?」

「先程よりもずっとお似合いですよ。
 バリアジャケットのイメージが有るのは否めませんが、矢張りなのはにはブルーとブラックが良く似合います。それ以外だと、魔力光の色である桜色でしょうね。」

「なはは、やっぱりそうなんだ?」



安直かもしれませんが。
ですが、パーソナルカラーがハッキリしていると言うのは悪くない事なのですよ?――ハッキリとした、己と言う物を持って居ると言う確固たる証な訳ですからね。













魔法少女リリカルなのは~夜天のなのは~  夜天115
『休暇と思ったら、実は急転直下』












で、なのはのファッションショーが終わったと思ったら、何故か今度は私が彼是着る羽目になってしまった。
いや、なのはが何やら選んでいた時点で予想はしていたが、まさか本当に私が一種の着せ替え人形的な事になるとは、ベルカの聖王ですら予想できなかった筈だ!

私としては服など必要最低限の機能を備えていればいいと思っている故に、お洒落などと言う物にはあまり興味がないと言うのが本音だ。
今日の服だって、偶々なのはが選んでくれたものだから、こう言う機会に使っているだけであって、私的にはジーパンとTシャツが数枚あれば其れで充分何だが……
なのはが私の為に選んでくれた服を、試着もしないで突っぱねる事など出来んからな……取り敢えず着てみるか。
よくよく見てみると、選んでくれた服は、全てがパンツルックか……矢張り、なのはは良く分かって居らっしゃるようだな。制服と騎士甲冑以外でスカートなど穿けるか。

先ずは此れから行ってみるか。
ストレートタイプのブラックジーンズに、七分丈のブルーのシャツ、そしてホワイトとレッドのツートンカラーのチョッキ……うん、悪い感じはしないな。
自分で言うのもなんだが、此れは中々似合ってる気がする。――否、なのはが私の為に選んでくれたのだから、似合うのは当たり前と言っても、過言ではないだろう。

「その、如何ですか?」

「うん!良く似合ってる!!格好いいよシグナム!」

「それは、光栄ですね。」

実際に、良い評価を頂いたからな。

だが、次は如何かな?
先程度違って、7分丈のストレッチタイプのチノパンに、裾が長くて袖口が大きく開いているワインレッドのYシャツ、そして黒い短ベスト。
此れも悪くないとは思うが、如何でしょうか?



「此れは此れで、さっきとは違う良さがあるの。
 さっきとは違って、少し変化球な組み合わせにしてみたんだけど、此れもまたアリだね。」

「そうですか?自分でも悪くはないとは思いますが……ですが、あまり私のイメージではないようにも思います。」

「む……其れを言われると、確かにそうかも知れないね。じゃあ、次は此れ行ってみよう!」

「了解です、なのは。」

結局この後30分近く、なのはが選んだ服を試着すると言う『ミニファッションショー』が展開される事となってしまったのだが、それもまぁ今日という日の思い出だろうな。
因みに、私の事を写真に収めていた定員が、商品の近くにパネルにして展示しても良いかと聞いて来たので、丁寧に断る心算だったのだが……断るよりも早く、なの
はが了承してしまい、そして上目遣いに『良いよね?』と聞かれた事で了承せざるを得なかったのはちょっと秘密だ。

少々気恥ずかしいが、なのはが嬉しいようだから此れは此れで良かったのかも知れんがな。








――――――








Side:三月


まぁ、休日っつ~事でナカジマ六姉妹+αと街に繰り出した訳なんだが……



「グフ……グフフフフフフフフ……恋人繋ぎをして歩くなのはお姉さまとシグナムお姉さま……次の本は、お姉さま方のくんずほぐれつの濃厚な絡みで決定ですわ~!
 それにしても、シグナムお姉さまったらあんなに照れて……普段の凛とした態度とのギャップが……もう、辛抱堪りませんわ~~~~~!!」(鼻血噴出)



……何だって居やがる腐女子(四菜)
いや、居る事自体は問題ねぇんだが、堂々と隊長さんと筆頭騎士様をストーキングしてんじゃねぇよ。其れも、テメェの腐った妄想の為に!姉として恥ずかしいぜ!?
てか、周りの人間がドン引きしてる事に気付け!下手したら通報されるぞお前!?



「な、何スカあれ?見るからに怪しいっスよ?
 此処は、クロクロ提督に連絡して、警備隊を呼んでもらって逮捕して貰った方が良いっすかね!?」

「その方が良いかもな……アイツは如何考えたって普通じゃねぇ。
 マダマダ未熟なアタシにだって分かるぜ……アイツからは邪な『負のオーラ』をヒシヒシと感じ取る事が出来るからな。」



おぉっと待てや赤毛コンビ!通報は止めとけ。クロノ提督に余計な手間かけちゃいけねぇ。
それと、赤毛姉アレは負のオーラじゃなくて『腐のオーラ』だから間違えんなよ?邪なモンである事は間違いねぇけどな。



「でもあれは、如何見ても犯罪の匂いが……」

「其れは否定しねぇよティアナ嬢ちゃん。
 だけどなぁ……あんなの為に公的機関を出動させるなんざ税金の無駄遣いだからな……見つけた奴がとっちめてやりゃ良いんだよ!!……こんな風にな!!」

「あ、三月さん!?」



おらぁぁぁぁぁぁ!!何してやがんだこの腐女子がぁぁ!!!



ふえぇぇ!?三月お姉さまぁ!?」

「腐った妄想も大概にしろって言っただろうが、此の腐女子!寧ろ貴腐人!!とっておきだぜぇ!!!!」

高速タックルからマウント奪って……あとは分かってるだろうなぁ?
マウント取ったら、やる事は只一つ!!マウントポジションからのタコ殴り以外にはあり得ねぇ!!覚悟は良いな、此の腐女子!!!精々お祈りでもしとけやコラァ!



「あの、手加減とかは……」

「する訳ねぇだろボゲェ!!」

オラオラオラオラオラオラ!!殴る殴れば殴る時!!男はパンチ!!いや、俺女だけどな!!兎にも角にも殴って殴って殴りまくれば、固い壁だって何時か壊れる!
其れに、六課の総隊長であるなのはさんはこう言った!!『押して駄目ならぶちかませ。全力全壊こそが最強だ』と!!



――バキバキバキ!バコ!!ガス!!ドカドカ!!ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!



「こ、此処まで殴らなくても良くありません事…?」

「此れで済んで良かった思えや……本当だったら全然殴り足りねぇんだからな。
 本音を言うならコンボ数がカンストするまで殴ってやりたい所だが、其れは流石に疲れるし、俺の拳も痛いからやらないどいてやる。だが、もう一丁だゴルアァ!!」



――バガァァァァァアッァァァァァアァッァァアッァァァァァァァアッァン!!!



「此のままでは終わりませんわよーーーー!!」

「いや、終わっとけよ腐女子。」

俺がKOした直後に消えたって事は、強制的に親父のアジトに転送されたって事だろうが、其処で待ってるのは一架姉と、二乃姉からの説教一択。更に付け加えるな
ら、七緒からの静かかつキッツイ一言が有るかもな。

つか、七緒は普段滅多に喋らねぇから、偶に口きいた時のインパクトがハンパねぇんだよ……其れが苦言や毒舌の類だったら、破壊力は抜群だろうな絶対に。



「三月殿、今のは一体………」

「只の腐った生き物だから気にすんな眼帯娘。
 其れよりも、此の休日を楽しむとしようぜ?滅多にないって事だから、この貴重な休日を謳歌しないのは損でしかねぇからな!!」

其れにそろそろ良い時間だし、何処かで飯にするか?好い機会だから奢ってやるよ。



「「「え!?」」」

「そんなに驚くほどの事か?
 年長者が奢ってやるってのは、そんなに珍しい事じゃねぇと思うぜ?」

「いえ、そうではなくて……」

「ギンガとスバルとウェンディの食欲を甘く見ちゃいけないぜ三月さん?……あの3人の食欲はハンパじゃねぇ!其れが奢りとなったらリミッター解除は絶対だぜ!!」

「お財布・Must・Dieが否めない。」



え?そんなに食うのアイツ等って?
でも流石に財布がデストロイするってのは有り得ねぇだろ?一応親父から10万以上貰ってる訳だしな。まぁ、オメェ等も遠慮せずに頼んでくれよな?遠慮すんなよ。


何て事を言った自分を、20分後に猛烈呪う事になるなんて事になるとは思ってもみなかったけどな――誇張なしで、文字通り財布の中身が空っぽになっちまったぜ。
此れは流石に領収書を切って貰ったところで、六課の経費で落とす事は出来ねぇよなぁ……チクショウ、この大食い姉妹め!!!

ま、此れも未来への先行投資って事で納得しとくか。――コイツ等とは、おかげさまで仲良くなる事が出来た訳だからな。








――――――








Side:なのは


午前中はウィンドウショッピングと、シグナムの服選びをして……其れだけだったけど結構楽しかったかな。

シグナムのミニファッションショーが開催されちゃったのも、其れは其れで悪くないし、シグナムの魅力を披露出来たと思えば寧ろ良かったからね。シグナム無双なの!

其れが終わったらいい時間だったから、最近雑誌で取り上げられてたお店に入ってみたんだけど、此れは正解だったね。
本格的なイタリアンなのは勿論として、店内の雰囲気が凄く良かったの!
店内にはイタリア系のBGMが流れてたんだけど、其れすら掻き消す程の店員の威勢のいいモノ言いに、お客さんに対しても全く飾らずにフランクに接して来るなんての
は、普通は有り得ないからね。

加えて出てくる料理も最高!!
私は『アラビアターセット』を、シグナムは『ピッツァセット(ピザのトッピングはアンチョビとぺパロニ)』を頼んでシェアしたんだけど、パスタもピザも、凄まじいまでの美味し
さだったの……此れだけの味だったら翠屋でも提供したいくらいだからね。

まぁ、何が言いたかったのかと言うと、『全て美味かった』と言う事なの!!



「なのは?行き成り何ですか?」

「あ、御免シグナム。何か言わなくちゃダメな気がしたんだ。」

「はぁ?」



あんまり気にしなくて良いよ。


で、現在私達は、ミッド市街にある市民公園で一休み中。
特に何かをするって言う訳じゃないんだけど、こうしてシグナムと一緒にマッタリ過ごすだけでも、私は満足できるからね……ふふ、陽射しが気持ちいいねシグナム?



「えぇ、暑すぎず強過ぎず、いい塩梅の陽射しです。
 なのはでなくとも、大概の人間がそう感じる事でしょう……私自身もそう感じていますからね。」

「そうなんだ……シグナムが、そう感じてくれたって言うのは嬉しい事なの♪」

「此れ位は大した事ではありません。と言うか、此れをそう感じない奴の方が大問題なのではないでしょうか?感覚とかその他色々含めて本気の本気で。」



其れは確かになのかも。
此の陽射しは気持ちいいから、ついウトウトしちゃうの……だけど、私は実を言うと寝つきが良くないんだよシグナム。其れこそ破滅的に寝つきが悪いんだよね私は。
だから、眠れるようにおまじないして貰っても良いかな?



「おまじない?……其れは一体?」

「ぶっちゃけて言うならお休みのちゅー。」

「~~~~!?///



あ、赤くなった。
キス以上の事だってしてるのに、何だって今更照れるかなぁ?……若しかしなくてもシグナムって意外と照れ屋さんなのかなぁ?……まぁ、其れも愛してますけどね。


で、如何するのシグナム?



「……失礼いたします……少しばかり、戯れを。」

「戯れだなんて……私は何時でも全力だよ?」

「そうでしたね……では、暫しのまどろみで、如何かよい夢を。」



――ちゅ



あふあぁぁ……やっぱりシグナムとのキスは最高なの。――此れは良い夢が見れるかも知れないね。








――――――








Side:シグナム


穴があったら入りたい。誇張や比喩ではなくてそうしたい所だ。本気でマジで!!其れこそ本気と書いてマジと読むくらいの本気さだ。
如何になのはからお願いされたとは言え、公衆の面前で口付けを交わしてしまう等、我が黒歴史以外の何者でもない……過去に戻れるならば斬殺したい気分だな。

だが、なのはとのキスは珍しい事ではないから、恥ずかしがるのがオカシイのだろうか……分からんな。


にしても、先程から感じていた魔力の気配だが、近いな此れは?
上手く魔力やら気配を小さくしてるのだろうが、そんなモノは小細工に過ぎん!!1000年もの時を生きて来た守護騎士の将を舐めるな……!その正体暴いてやる!





と、そう思っていたのだが、まさかその直後に我等の前に現れたのが、ガリガリに痩せた少女だったとは、流石に誰も予想はしていなかっただろう。
加えてその少女が、見る限り重量感のたっぷりの棺の様な何かを引き摺っていたと言うのだから、誰が如何見ても異常である事は態態確認するまでも無かろうな。
余りの事態に、なのはを起こした私は悪くない筈だ。――なのはも、目の前で起きている事態に即覚醒してくれたから良かったが。



しかし、この様な幼子にこんな事をさせるとは……略間違いなくやったのは敵方であるのは間違いがないだろう。マッタク持って、外道も此処に極まれりだ。


私にその権限があるかどうかは分からないが……こんな仕打ちを普通にするような組織は、纏めてレヴァンティンの錆にしてくれる!!


ともあれ、先ずはこの少女を保護しなくてはな。――六課本部……否、聖王病院に担ぎ込んだ方が良いでしょうか?



「だね。事態は一刻を争うかもしれないから、即刻聖王病院に搬送なの!!」

「了解しました、なのは!!!」

こんな、小さな命を散らせる訳には行かぬのでな。待っていろ、直ぐに助けてやるから――だから、絶対に死ぬなよ幼き少女よ!!












 To Be Continued…