Side:シグナム


ん……そろそろ日が昇り切るころか?
普通ならば、まだ眠っている頃だろうが、我等の場合はそうもいくまい――如何に民間協力者とは言え、我等には尉官相当の権限が、なのはには佐官相当の権限が
与えられているのだから、その権利に見合った事をせねばなるまい。寝坊など、以ての外だ。

起きて下さいなのは、朝ですよ?



「ふにゃぁ……シグナム?」

「お早うございます、なのは。」

「お早うございます?……もう、そんな時間なんだ……?」



こうして、傍らで眠るなのはを起こすのも、私の特権だな。
――こんな事にも幸福を感じてしまうと言うのは、私も存外この世界に馴染んだと言う事か……或は、主がなのはであるからなのか……恐らくは両方だろうな。

さて、もう起きて下さいなのは?夜天の主が、寝坊などカッコ悪いにも程がありますよ?



「分かってるけど……あと5分だけこうさせて?シグナムに触れてると、温かくなるし、もう少しだけギュってしてほしいから。――ダメ?」

「ダメ――な筈がないでしょう?
 断る理由がありません。……ですが、あと5分ですよ?其れだけは、絶対に守って下さいよなのは?」

「分かってるよ、シグナム。」



ふぅ……我ながら甘いとは思うが、如何にも強く出る事が出来ないのは、惚れた弱みと言う物なのかも知れないな?
今更ながらに、トンでもない人を好きになったと思うが、きっとこんななのはだからこそ、主従の関係を超えて愛してしまったのだろうな――マッタク、私も大概な物だ。

尤も、其れで良いと思ってるのも、また事実ではあるのだけれどな。













魔法少女リリカルなのは~夜天のなのは~  夜天109
『Pause vor einem Sturm』












Side:市


なのはさん達が、ミッドチルダに行ってしまってから早半月が経ちましたね……翠屋は何時もの様に大繁盛だわ。

なのはさん達の不在も、『武者修行』と言う名目で、バッチリと誤魔化しているから、お客さんが特に混乱する事もないし。
しかも、此の『武者修行』はパティシエールとての修業とも、魔導師としての修業とも、何方としても解釈できるので便利な事極まりないものよ?常連さん達も、そう言う
風に解釈してくれて、特に問題は無かったみたいだったもの。寧ろ、応援すらしていたわ……流石はなのはさん。

流石に、当初は手が足りなくなるんじゃないかと思ったけど、其処はフェイトさんやすずかさん達が交代でお手伝いに来てくれてるから、其処も万事問題なし。



「でも、なのはとシグナムが、ドレだけこの店に貢献して居てくれたのか、居なくなると良く分かるわ。
 なのはは持ち前の天真爛漫さで、ウェイトレスとして店を明るくしてくれていたし、シグナムは私に次ぐパティシエール兼シェフとして、なくてはならない存在だったから。
 だから、ミッドチルダでの事を無事に解決して、戻ってきてほしいわ……この店は、なのはとシグナムの2人に継いでほしいのだから。」

「桃子さん…そうですね。」

其処まで考えていたとは……ならば、尚の事、今よりも一層頑張って翠屋を盛り上げなければならないわ!私に出来る事が有れば、何でも言って下さい桃子さん!!



「お市さんに頼みたい事が有れば、直ぐに言うわ。――今日も一日宜しくね?」

「はい!頑張ります!」

何よりも、なのはさん達から留守中の翠屋と、此方の世界の事は任せて貰ったんだから、全部バッチリやらないと。

と、そう言えば、なのはさん達が向こうに行ってからも、此方には何もないわね?
こう言ったらなんだけど、夜天の主と守護騎士が不在の今、如何にクロノ提督が此方に魔導師を派遣してくれたとは言え、戦力が落ち込んでいるのは間違いないのだ
から、今こそ攻める好機の筈なんだけど……その予兆がないって言うのが不気味だわ。

姫武将の勘て言う訳じゃないけれど、何となく『嵐の前の静けさ』って言う感じがするのは、多分間違いじゃないと思う。



………まぁ、彼是考えてもしょうがないし、事が起きたらその時に、逐一適切に対処していけばそれで大丈夫でしょう?
なのはさん達が居ない事で戦力が落ちたとは言え、クロノ提督が言うには、私達だけでも管理局の一個師団と渡り合えるだけの力が有るみたいだからね。




「おっはよーございまーす!!」

「お早うございます。」

「っはよ~~~!」



そんな事を考えてる間に、本日のお手伝いさんであるフェイトさん達が来たみたい。
フェイトさんとアリシアさん、其れにアルフさんは三者三様の魅力があるから、ウェイトレスとして意外と人気があると言うか、主にアリシアさんの明るさとノリの良さが、店
の雰囲気を良くしてるのよね。

でもって、フェイトさんの控えめな雰囲気と、アルフさんのワイルドな雰囲気もまた、お客さんには受けがいいから、スッカリ人気者。


今日は宜しくお願いしますね、3人とも!



「まっかせなさい!なのは達が不在の間は、私達が頑張らないとだから――ね、フェイト♪」

「うん、そうだねアリシア。
 何よりも、こっちの事を任されたって言うのは、其れだけなのはが私達の事を信頼してくれてるって言う事だから、其れには応えないとだよ。」

「其れこそが、アタシ達の使命だって、プレシアもリニスもそう言ってたからね?」



だったら、尚の事頑張らないとならないわ。
なのはさん達から託されたこの世界……何が有っても、絶対に守り切らないとね。








――――――








Side:なのは


私達とスバル達は正規部隊じゃないから、管理局の訓練施設を使う事は出来ない。
だったら、何処で訓練をすればいいのかと思ったけど、まさか地下に秘密の訓練施設を作っていたとは、少し驚いたと同時に、何て言うか感心したよクロノ君。

確かに地下施設なら、最高評議会の目を盗んで作る事も可能だし、地下施設内でシャマルの結界を全力で張れば、其れこそ多少派手にドンパチかましても地上で感
知される事は、先ずありえないから、思い切り訓練が出来るからね。

おかげで、今日もスバル達を鍛える事が出来た訳だし♪



「ティア……今のアタシは、部屋を暗くしてヘッドホン装着してバ○オハザードをプレイしても悲鳴上げない自信があるよ……」

「奇遇ねスバル、アタシもよ。」

「今のアタシ等は、大概の事にはビビらねぇだろうな……あぁ、ビビる筈がねぇんだよコンチクショウ!!!」



「………若干、トラウマを植え付けてしまったのではないかと思うのですが?」

「其れは其れだよシグナム。
 大体にして、今日の模擬戦で、相手に私とシグナムのタッグを指名して来たのはスバル達なんだから、圧倒的な結果だって受け入れて貰わないと困るよ?」

人は敗北を知っているからこそ強くなれる――お兄ちゃんが言っていた事だけどね。

圧倒的な敗北を知るからこそ、人は今よりも強くなれる……だから、徹底的に力の差を見せつけたんだよ、今日の訓練では。自分でもやり過ぎたとは、思ってるけど。
大体にして、シグナムだって、スバルとノーヴェの2人を相手にして楽しんでたよね?



「其れは否定しません。
 スバルもノーヴェも格闘型ゆえに、自然と相手との間合いは近くなる――だからこそ、私の出番だったのでしょうから。
 まだまだ荒削りな感は否めませんが、鍛えればナカジマ姉妹は夫々が稀有な才能を開花させるでしょう――特に、スバルとノーヴェは、その可能性が高いので。」

「其れで熱くなっちゃったか……其れも良いけどね。」

何れにしても、今回の事でスバル達に『戦場の緊迫感』を教える事は出来たんじゃないのかな?
今は訓練直後で、頭が混乱してるかもしれないけど、スッキリと目覚めた其の後は、六課における自分の役割を、きっと分かってくれてると思うから此れで良かったの。

それに、スバル達ならきっと今よりももっと強くなるだろうからね♪



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で、訓練が終わった直後に、私とシグナムはクロノ君に呼び出されて、只今提督室の真ん前なんだけど……なにか、呼び出されるような事ってしたかなシグナム?



「いえ、してないと思いますよなのは?
 恐らくですが、何か重要な任務が言い渡されるのではないでしょうか?――其れでしたら、六課の総隊長である貴女と、副隊長である私が呼び出されたと言う事にも
 納得できますし、寧ろそうあるべきですから。」

「其れは確かに。」

だとしたら、クロノ君は私達に何をお願いしたいんだろう?

流石に其れは本人から聞く以外に手はないだろうから、先ずは中に入らないとだね?――失礼するよクロノ君。私とシグナムだけど、入っても良いかな?



「来たか……鍵は開いてるから入って来てくれ。」


「それじゃあ、お邪魔します♪」

「失礼する。」



それで、如何したのクロノ君?
態々、私とシグナムを呼び出したなんて、其処までの何かが起きた、或は起きるって言うのかな?って言うか、そうだから私達を呼び出したんだよね、クロノ君?



「その勘の鋭さには、敬意を表するよなのは。確かに其の通りなんだ。
 実は、近々ミッド最大のホテルである『ホテル・アグスタ』で、大規模なオークションが開催されるんだが、其処に出品される物の中に、合法なロストロギアや、古代ベ
 ルカとも深い関わりのあるアンティークが多数出品されるらしいんだ。
 真贋の程は兎も角、もしも古代ベルカ時代のロストロギアが、最高評議会の手に渡ったら、合法の物とは言え面倒な事になりかねないのは火を見る よりも明らかだ
 からな……君達には、民間協力者と言う立場を理由して『一般参加者』として、オークションに参加してほしいんだ。」

「成程、我等機動六課はあくまでも『民間協力者』故に、管理局の通常の指揮系統には組み込まれていない。
 だからこそ、現場では指揮系統から外れた事も可能であり、同時に我等がオークションに参加する事で、提督が有する管理局の人員を、全て会場の警備に当てる事
 が出来る……そう言う事ですね?」

「その通りだ。
 君達を、良い様に利用している気分がするんだが――受けてくれるか?」



是非もないよクロノ君?
大体にして、如何して私達がミッドに来てるか忘れたの?――私達は、最高評議会を文字通り『叩き潰す』為に、ミッドに来たんだよ?

その目的を果たす為なら、余程の事でない限りは断るなんて言う事はあり得ないよ?何よりも、多少の無茶振りなら、応えてあげるのが『友達』って言うモノでしょう?



「……そうだったな。
 では、改めてお願いする。君達『機動六課』に、ホテル・アグスタでのオークションに参加してほしい。いや、してくれ。頼む!!」

「勿論OKだよ、クロノ君!」

「断る理由は、何処にもありませんからね。」


「……頼もしいな。だが、助かるよ。
 君達の助力がなければ、こんな大胆な作戦を張る事は出来なかっただろうからな――当日は、期待しているぞ?」

「ふふ、大船に乗った心算で居てくれていいよクロノ君♪」

確り、バッチリ役目を果たして見せるの!!



って、でもそのオークションて、所謂『セレブ』な人達が集まるんだよね?
だとしたら、服装もちゃんとしないとなんだけど……如何しよう、私達ってフォーマルな場に着て行けるようなドレスなんて持ってないよぉ!!?



「その辺は大丈夫だ、局の服飾課の方に話を通して、オークションに間に合うように、六課全員分の衣装を発注して貰ったからな。
 デザインは分からないが、少なくともサイズはピッタリだろうから、安心して使ってくれ。」



と思ってたら、既にクロノ君は手を打って居たんだね。
だったら安心したの――どんな衣装が用意されてるのかって言うのは、当日になってのお楽しみなんだろうけど、其れだけにオークションが楽しみになって来たの♪


此れは、全力全壊で行くしかないよね!













 To Be Continued…