Side:シグナム


正体不明の無人機が暴れたと言うトンでもない事態でありながら、犠牲者が犯人グループの1人だけだと言うのは大したモノなのかも知れないが、手放しでは喜べん
と言うのが正直なところだな。

戦乱期のベルカでは、死傷者を数で割り切る事も有ったが、平穏なこの世界に於いては、命を数で数える事は出来ん。寧ろ、平穏な世ではしてはならない事だ。


だからこそ、なのはも犠牲者が犯罪者であっても、命の灯を消してしまった事を悔やんでいるのだろうな……マッタク持って、優しいお方だ。
いや、ともすれば優しすぎるとも言えるかも知れないが、其れだけに、この機械兵の蛮行は断じて許す事が出来ん――!コイツ等の蛮行が、なのはの心に、深い後
悔と悲しみを生み出したのだからな……!


何れにしても、先ずはこの機械兵が何処から出て来た物なのかを調べねばならないだろう。
ザフィーラの嗅覚が嗅ぎ分けたのだから間違いないだろうが、地球の魔導企業の何処かが独自開発した可能性が万に一つもないとは言いきれんからな。



「其れに関してはパパにお任せかしらね~~~?
 かな~~~り高度な技術で作られた物みたいだけど、パパの手に掛かれば、構造から何から、全部解明してくれるから、期待してくれてもいいわよ~~~ん?」

「お父さんの技術力は世界一ですからね!!」

「其れについては、誰も疑いを持ってないから大丈夫だよ、アミタさん、キリエさん。
 でも、難を言うなら、この機械兵が何処から来たのかも知りたい所なんだけど、其れも解析する事は可能なのかな?」

「大雑把ではありますが、少なくとも地球の物か否かくらいは分かると思います。
 お父さん曰く『同じような素材を使っていても、地球製と他世界性では微妙に素材の構造が異なる』って言う事ですから。レイジングハート何かを解析したからこそ分
 かった事みたいなんですけどね?」

「何それ、グランツ博士凄すぎるの………」



マッタク持って同感ですよなのは。
一体、プロフェッサー・グランツは、ドレだけの頭脳を有しているのか……まぁ、彼のおかげで私達も随分と助かっているのは事実故に、強く突っ込めないのですがね。













魔法少女リリカルなのは~夜天のなのは~  夜天105
『六課の胎動、或は未来への鼓動』












Side:なのは


で、事件から数十分。
警察の人と話を付けて、何とか機械兵はグランツ博士の研究所で解析する事が可能になった。――尤も、警察の人達も形式的に対応してたから、形だけでも整えて
おかないと、報告書とか何かが面倒な事になるのかもしれないけど。


ともあれ、最重要証拠品である機械兵の解析が出来るって言うのは大きいよ。
この解析結果で分かる事は、決して少なくない――寧ろ、ザフィーラの嗅覚が捉えた最高評議会の手先って言う事が、可能性から確定になるかも知れないしね。



「最高評議会と言う連中ならば、此れ位の事は仕出かすかもしれないとは言え、そう考えると些かやり方が単純なように感じませんか?
 AMF搭載の機械兵を送り込んできたとはいえ、その機械兵は我等の前では塵芥に等しい雑魚……レヴァンティンの錆にすらならないような下の下の戦闘員でしか
 なかった…無論、相手が我等の力を見くびっていた可能性も無きにしも非ずですが、其れを考えても、この機械兵の暴走的襲撃は矢張り解せない事の方が多い。」



シグナム……流石は、守護騎士の将だけあって鋭いね?
確かに其れは私も気になってはいたの――本気で攻めるにしては、機械兵の性能が低いんじゃないかってね。

確かに厄介なAMFを搭載してはいたけど、只それだけで、装甲その物が分厚い訳でもなく、魔力なしの物理攻撃だったら、割と簡単に装甲は割る事が出来たでしょ?



「余裕極まりねぇ。
 アイゼンで、思いっきりブッ飛ばしてやったら、外部装甲がバラバラになって、文字通りぶっ飛んでっちまったからな?幾ら何でも、脆すぎだぜアイツ等は!!」



……ヴィータなら、大概の装甲は粉砕できると思うけどね。
まぁ、其れは兎も角として、オカシイ事はまだ有るの。

あの機械の襲撃が、私達をあそこに誘き出す為だったって言うのはまだ良いとして、何故その場にいた強盗犯を殺害したのか……其れが如何しても解せないんだよ
ね?もしも、最高評議会って言うのが、私達を攻めて来るんだとしたら、ターゲットは私達に設定されていてもオカシクない筈でしょ?



「確かに……私の嗅ぎ分けが甘かったのでしょうか?」

「いや、恐らくはそうではないだろう。此れはあくまでも私の予想なのだが、あの機械兵は単純な命令しかプログラムされていなかったのではないだろうか?
 例えば『武器を持って居る相手を攻撃しろ』とか、『自分達を攻撃してきた相手を攻撃しろ』と言った感じのね。
 現に、避難する市民には、殆ど攻撃せずに、私達と交戦状態であった訳だし、武器を手放した犯人達には襲い掛かる事は無かったからな。」

「それは……案外良い線行ってるかもしれないよズィルバ!
 確かに、そう考えればアレが強盗犯を襲った説明が付くかもしれないし……うん、悪くない考察なの。」

「お褒めに預かり光栄です、我が主。」



なはは……9年経った今も『我が主』なんだよねズィルバは。
まぁ、ナハトヴァールとグルムも『マイスター』って呼ぶからアレなんだけど、そろそろ名前で呼んでくれても良いと思うなぁ……グルムはプライベートでは『なのはちゃん』て呼んでるけどね。


じゃなくて、それが真実だとしたら、相当にお粗末な事だよね?
其れとも或は、『自分達の目的の為なら、他の誰がどうなっても関係ない』って言う事なのかな?……だとしたら、余りにもふざけてるとしか言いようがない事なの!

事と次第によっては、こっちからミッドチルダに乗り込んで最高評議会を討つ事だって考えた方が良いのかも知れないね!



「そのような事態になった時は、我等守護騎士もお供いたしますので、大船に乗ったつもりでいて下さいなのは。」

「勿論、頼りにしてるからね♪」

さてと、グランツ博士なら、そろそろ―――



――ウィーン……




「いやぁ、待たせたねぇ?件の機械の解析が終わったよ。」

「解析に掛かった時間がおよそ35分……こんな事言ったらアレだけど、パパの脳味噌ってどうなってるのかしらね~~~?娘ながら謎だわ~~~……」

「お父さんですからと言ってしまえば其れまでですが、まさか1時間と掛からずに解析して見せるとは、お父さんの知能指数はドレだけですか!?」

「ん~~~、正確に測った事は無いけど、学生時代の友人は『180は固い』って言ったかなぁ?
 尤もそう言った彼の知能指数は250は有る感じだったけどねぇ……少々難ありな性格ではあったけど。」



IQ180以上って言う時点で、色々とおかしいと思います。
そして、そんなグランツ博士をしてIQ250は固いって言う、その学生時代のお友達は何者ですか?本当に人間ですか?実は、地球外知的生命体じゃないですよね?



「彼自身は間違いなく人間だよ?
 ただなんて言うか、悪役への憧れが強くて、事有る毎に爽やかに『世界征服』を口にしていたかな?……まぁ、分かり易く言うなら『正義のマッド』だね彼は。」

「マッド?」

「マッド。正義のマッド。」

「……マッドじゃあ仕方ないですね。」

「其れで納得して良いんですかなのは!?」



だってマッドなんだよシグナム?正義とは言えマッドなんだよ?常識なんて通じる筈がないじゃない。
其れに、正義のマッドなら、世界征服って言う野望も平和的な手段で成し得るだろうから危険は無さそうだし、博士のお友達なら悪い人じゃないと思うし。



「其れは確かにそうなのかもしれませんが……いえ、これ以上は言うべきではありませんね。
 其れよりも、プロフェッサー・グランツ、解析が完了したとの事だが――単刀直入に聞くが、アレはこの世界で作られた物であったのだろうか?」

「その問いに対する答えは『否』だよシグナム君。
 あの機械兵に使われていた金属パーツの金属は、地球の技術で作られた金属とは異なった物だったからね……どちらかと言うと、レイジングハートなんかに使われ
 てる金属に近い感じだね。
 加えて、機械兵を運用する為のプログラムも、僕の知る地球のプログラムよりも、デバイスに備わってるプログラムのそれに近かった。
 ……これらの事を総合すると、あの機械兵は、少なくともミッドチルダか、或は管理局の管理世界とやらで作られたのは間違いないだろうね。」



やっぱりそうなりますか……ザフィーラの嗅覚は、やっぱり正確だったんだね。



「加えて、リンディ女史がこんな事をするとは思えないから、やったのは最高評議会と言う連中であると見て間違いないだろうね。
 しかも、解析する中で、此の機械には映像メモリーが搭載されていたんだよ――恐らくは、なのは君へのメッセージだとは思うんだけど………見て見るかい?」

「是非お願いします。」

「では、再生するよ。」



――ジーーーー



で、光学ディスプレイに映像が現れる――今更だけど、モニター不要の光学ディスプレイって言うのも相当に凄い技術だよね此れ。
でも、其れは其れとしても……



『此れを見ていると言う事は、ガジェットは撃破されたと言う事か……流石は闇の書の主と称賛しておこう。
 さて、其れを踏まえた上で本題と行こうか?……なに、何も難しい事はない、単刀直入に言うならば、我等『最高評議会』に力を貸す気はないか?
 貴様の力は、無能な者達の居る場所で埋もれる物ではなく、管理局でこそその力を輝かせる事が出来る……稀有な才能を埋もれさせるのは余りにも惜しい。
 精々いい答えを期待しておくぞ?……今回のような事を二度と起こしたくないのならば、良く考えて答えを出す事だがね。』




此れは本気で私に喧嘩を売ってるってとってもいいのかな?
パッと見は交渉を持ちかけてるように見えるかも知れないけど、その実態は脅迫とも取れる強制的な最高評議会への加入……如何やら、撃滅されたいみたいだね?



――ミシィ!!!



『痛いですMaster.』


「落ち着いてくださいなのは!!レイジングハートに罅が入っていますから!!」



あ、ゴメン!大丈夫だったレイジングハート!?
つい、怒りが沸点越し掛けて、思い切り握っちゃったの!!何処か痛いところとかない!?



『其れは大丈夫ですMaster.
 其れに、Masterの手によって握り砕かれたのならば、デバイスとして悔いなし。次は罅も入らない様に、己を鍛えるだけの事ですから。』



私のデバイスは意外と脳筋でした。
じゃなくって!なんだか脱線しまくりだけど、少なくとも最高評議会が、本格的に私達に対して攻勢に出て来たって言う事だけは確かだよね?

あんなにふざけた映像メディアを、ご丁寧に機械兵――恐らくはガジェットって言うモノに搭載してくれたんだからね。


だけど、一つだけ大きな誤算が有ったかな?
確かに、今回のような事を二度と起こしたくないって単純に考えれば、彼方達の傘下に入るって言う選択肢を選ぶ事も有るかも知れないけど、今回の様な事を二度と
起こさない為には、其れを起こした彼方達を滅ぼしてしまえば其れで良い……私は、そう考えるタイプなんだよねどっちかって言うと。


物騒な考えだって言われたら其れまでかも知れないけど、綺麗ごとだけじゃ何も護る事は出来ないし、ある程度は『必要悪』って割り切らないとならないからね。









上等だよ。








自分を過剰評価する心算はないけど、夜天の主であるこの私に対して刃を向けるとは良い度胸だって褒めてあげるよ……私の闘志に火を点けたんだからね。
だけど同時に、夜天の主に刃を向けると言う事は、己の命をもベットした行為だと言う事を自覚するんだね……敵意を示した相手に手心を加える程、夜天の主は優しく
ないからね!!


攻めて来るなら、良いよ……私と、最強の守護騎士と、無敵の仲間達で迎撃してあげるから!!




「それには――」

「アタシ達も………」

「混ぜて貰えねぇッスかぁ!!」

「少しは落ち着けっての……少し頭が痛いわ本気で……」



っと、如何したのナカジマ六姉妹&ティアナ?
若しかしなくても、話を少しばかり聞いて居たりしたのかな?



「バッチリ聞かせて貰いましたなのはさん!!」

「親父から聞いちゃいたが、本気でクソだな最高評議会ってのは……そんな連中が、此処に攻め込んでくるなんて、そんなのは大凡許容出来る事じゃねぇからな!!
 来たら来た端からぶちのめしてやるぜ!!」



聞いてたんだ……それで、貴女達は何を如何する心算なのかな?
此処から先は、競技戦闘じゃなくて、命を落とすかもしれない『本物』の戦いが待ってるものなんだよ?……それでも、私達について来る心算なの?



「無論です。確かに私達はアマチュアですが、しかし弱くはないと思います。」

「それに、お父さんが危惧してた事が現実になった……だったら私達は、なのはさんに協力する――そうするように、お父さんから言われたから。」

「まぁ、姉さんから管理局がきな臭いと言う事は聞いていましたし、フェイトさん達も色々と動いて居たみたいですから……私としても協力させてください。
 其れに何より、私自身がなのはさんの力になりたいって、そう思って居るモノですから。」



……此れは、決意は固そうだねシグナム?



「えぇ、相当に固いでしょう。其れこそ並の攻撃では傷すらつかない程には。
 実戦については素人である事は否めませんが、下地が確りしているので、此れからの鍛錬如何によっては大きく化ける事は間違いないと思いますし……何よりも、
 貴女を慕って、協力を申し出てきた彼女達の思いを無碍にする事は出来ないのでしょう?」

「それは、まぁね。」

OK、貴女達の思いと覚悟は良く分かったよ。
同じ状況だったら、私だってそう言っただろうからね――貴女達の力を、貸して貰っても良いかな?



「「「「「勿論です!!」」」」」

「へっ、やってやろうじゃねぇか?腕が鳴るってモンだ!!」

「アタシもバリバリ頑張るっスよ~~~!!」



ありがとう……皆、立派に成長しているみたいだね。
だけど、此れだけは絶対に約束してね――誰一人として、死んではダメ。何が有っても、絶対に生きて戻って来る事……約束できるかな?



「「「「「「「はいっ!」」」」」」」



良い返事だね。

期せずして仲間が増えたけど、其れは何とも頼りがいの新人みたいなの――此れは、期待しても良いかもしれないね…



何にしても、此れで此方の力が増強されたのは間違いない……最高評議会が乗り込んできたところで、相手にもならないだろうから…って言うか相手にならないの!



寧ろ最高評議会に後悔させてやる心算だよ――『一体何て言うモノ』を敵に回してしまったのかって言う事を、文字通り目一杯悔やませてあげるからね!!













 To Be Continued…