Side:なのは


「ありがとうございました、またどうぞ~~♪」

今日も今日とて、翠屋は大繁盛だね。
私の通ってる調理師の専門学校は土日も授業が有る代わりに、カリキュラムは午前中のみだから、午後は丸々翠屋に出れるのは大きなメリットって言えるかも。

学校の授業で学ぶものも多いけど、それ以上に翠屋で働く事で得るモノは大きいからね。



「其れは結構な事だけど、学校の授業に翠屋での労働、更には有事の際には自警団として出動って、少しばかり詰め込み過ぎじゃないかしら?
 勿論全てはなのはが選んだ事だから、彼是言う心算は無いけど、無理だけはダメよ?――やらなくちゃと思って無理したら、絶対に大変な事が起きてしまうから。」

「其処は大丈夫だよお母さん。私だって、自分の限度は分かってるから。
 其れに、もしも私が限界を超えて無茶しようとしたその時は、有無を言わずにシグナム達が止めてくれるから大丈夫だよ。」

「……其れは……確かにそうだったわね♪」



なはは……3年前に、大風邪ひいた時に、無理をして学校に行こうとした時には、シグナムに力尽くで止められちゃったからなぁ……まぁ、ある意味で当然だけどね。

って言うか、あの時のシグナムは凄かったなぁ……普段のクールな剣士の感じは吹き飛んで『良いから大人しく寝ていてください!こじらせて肺炎にでもなったら大事
でしょう!!勉学は確かに大事ですが、己の身体の不調を無視してまで行う事ではありません!』て、必死だったからね……今思おうと、正論だけど。

でも、そのおかげで『休むべき時には休む』って言う事を、すんなりと選択できるようになったのかも知れないね。



「……如何かされましたか、なのは?」

「ううん、何でもないよ。
 ただ、シグナムにはあらためて感謝しないといけないなって思ってただけ?」

「???」



いいよ、分からなくても。態々口にするのは野暮ったいしね。



――カランカラ~ン


さて、新しいお客さんが来たみたいだし、午後のお仕事も、もう一頑張りしないとだね――さて、やろうかシグナム!



「はい、頑張りましょうなのは。」

「うん!」

今日も今日とて、翠屋は大繁盛!!その大繁盛を支える為にも、夜天の主と烈火の将は、守護騎士達と共に全力で働かないとだよ!













魔法少女リリカルなのは~夜天のなのは~  夜天103
『Ein Flugel hat es gefuhrt』












「こんにちわ、なのはさん!」

「おじゃましま~す!」

「うぃ~~っす、おじゃましま~っす!」

「どもっす!シュークリームが、アタシを呼んでるっス!!」

「別に、ウェンディを呼んでる訳じゃないと思うんだけど……だけど、そう思っちゃうくらいに翠屋のシュークリームは絶品かな……」

「絶品どころではなく、至高の逸品だろう此処のシュークリームは?
 我等の母上ですら、未だに翠屋のシュークリームを完全に再現する事は出来ぬのだからな!!翠屋のシュークリームは、世界最高峰の味なのだろう!!」

「モンドセレクションに出品したら、間違いなく金賞を受賞するでしょうからね♪」



新しく来たお客さんは、ナカジマ六姉妹とティアナだったんだ。
ナカジマ六姉妹とティアナとは、小学生の時から付き合いがあるお馴染みさん。
今はウェンディ以外が高校生になって(全員中高一貫校に通ってる)、週に2回は帰りがけにこうして翠屋に立ち寄ってくれてるんだよね♪

――いらっしゃい皆、今日も学校お疲れ様♪

今日は部活はお休みなのかな?



「あ、なのはさん……えっと、休みってのは間違いないんじゃないですけど、何て言うか、ちょっと普通の部活動の休みて言うのとは異なりまして……」

「ぶっちゃけて言うと、スバル姉ちゃんとティアのコンビネーションが嵌りに嵌り過ぎて、弩派手に高等部の体育館の武道場をぶっ壊しちゃって、暫くお休みなんすよ。
 まぁ、幸いにして壊れたのは壁と天井だけなんで、今週中にも工事は終わる予定らしいんすけどね~~~♪」



ありゃりゃ、其れは大変だったね?
だけど、そんな事が起きちゃうなんて、スバルとティアナのコンビネーションて言うのは、可成り完成度が高い物と見て間違いなさそうだね、シグナム?



「えぇ、可成りの物でしょう。
 偶然巧く行ったコンビネーションでは、武道場に修理の為の工事が必要になる程のダメージを与える事は出来ないと思いますので、相当な錬度かと。」

「えへへ、シグナムさんにそう言われると自信ついちゃいますね!
 顧問の先生からも、武道場を壊しちゃったことについては叱られちゃいましたけど、コンビネーションの完成度については褒められたんですよ♪」

「調子に乗らないのバカスバル。
 確かにコンビネーションそのものは悪くなかったけど、武道場を壊しちゃうなんて言うのは、マダマダ精度と出力調整が甘い証拠だから完成には程遠いわよ。」

「え~~~?其れは、ちょっと手厳し過ぎないティア?」

「過ぎないわよ。
 それに、今のままじゃメイガス・ヴァルキリアの予選を突破するのが良い所でしょう?――仮になのはさんとシグナムさんのタッグと戦ったら、瞬殺されてお終いよ?」

「え?3分くらいは持つんじゃない?」

「今年のメイガス・ヴァルキリアのタッグ部門を、決勝までの試合を全て2分以内で決着させたタッグを相手にして、何で3分持つなんて言えるのかしらアンタは!?」

「えっと、何となく?」

何となくでモノ言ってんじゃないわよ!
 アンタってば学業成績は学年トップのクセに馬鹿よね本気で!!てか、時々その脳天が本気で羨ましくも思うわよ!!」

「やだなぁティア、其れほどでもないって♪」

褒めてないわよ、このおバカ!!!!



あはは……何て言うか仲良いねスバルとティアナは。
私とシグナムとはベクトルが違うけど、スバルとティアナも互いに信頼はしてるみたいだし、二人の能力的にもタッグとしては最高の組み合わせかも知れないからね。



「まぁ、あの二人の場合はアレが普通なんで、アタシ等も慣れちまったって感じですね。
 ただ、スバルに関して言えば、曲がりなりにもアタシやウェンディの姉なんだから、もう少し落ち着きってモンを持ってくれよと思う事がない訳じゃないんですが……」

「アレがスバルだから、きっとアレで良いんだよ。……それにしても、何て言うかノーヴェは、皆の中で一番変わったんじゃないかな?
 始めた会った時は、何処か人見知りで引っ込み思案な感じがしたんだけど、今は微塵もそんなモノは感じさせなくなっちゃたからね。」

「昔の事は言わないで下さいよ。
 自分でも人見知りと引っ込み思案を何とかしたいって思って、小学校で運動系のクラブに入ったのが良かったんじゃなかったんですかね?
 頑張ろうと思って、態と男の子みたいな話し方したりしてたのが、いつの間にか地になっちゃたみたいなんですけど、此れは此れで悪くないって思ってますよ。」



良いんじゃないかな?
スバルよりも、更に短いショートカットだってよく似合ってると思うし、寧ろそっちの方がノーヴェらしいって感じすらするからね♪



「はは、あざっす。
 そう言えば、なのはさんの方は最近如何なんですか?親父の話を聞いた限りじゃ、管理局の最高評議会ってのが中々きな臭いらしいんですけど……」



あ~~~……それはもう、何て言うかうんざりする位に『管理局に入れ』って勧誘が来てるよ?
私としては、リンディさんやクロノ君に私的な協力をする事は有っても、管理局に就職する心算は無いから、勧誘は尽く蹴らせて貰ってるけどね。

って言うか、管理局の最高評議会が欲しいのは『高町なのは』じゃなくて、『夜天の魔導書の主』と『守護騎士』だって言うのが見え見えだし、何かよからん事を考えて
るのは確実で、挙げ句の果てにはシグナム達の事を『道具』としてしか見ていない……大凡、力を貸す気にはなれない相手だからね。

其れに、私の目標は管理局員になる事じゃなくて、翠屋の二代目として、この店を継ぐ事だから。



「カッコイイっすなのはさん!でも、なのはさんならきっと出来るっす!
 シュークリームの味だって、長年食べつけてない人にとっては桃子さんのシュークリームと大差ないレベルだし、間違いなく翠屋の二代目になれると思うッスよ!!」



ふふ、ありがとウェンディ。――そのためには、マダマダ精進しないとだけどね。
先ずは、シグナムみたいにシュークリームの仕込みを任されるようにならないと―――



――ビー!ビー!!



「「!?」」



って、此れは緊急警報!?
此れが鳴るって言う事は、近くで重大な魔導犯罪が起きたって言う事なんだけど――此れは、見過ごせないね!!

「お母さん、なんだか面倒な事が起きたみたいだから、一時店を空けるね?」

「魔法関係の何かよね?………なら行って来なさい。
 幸い今はラッシュ時じゃないから、お客さんも其れなりだから対応が滞る事は無いわ――だから、自分の道と言うモノを貫くためにも行って来なさいなのは。
 そしてやる以上はトコトンまでやるものよ?――中途半端にやって、こうしておけばよかったって後悔するのは、余りにもバカみたいな事だからね。」



大丈夫、何が有っても中途半端で終わらせる心算は無いし、私は私の道を貫いて行くだけだから。
それに、グランツ博士が確立した魔法技術を、犯罪に使うなんて言う事は絶対に許す事は出来ないもん――て言うか、そんな輩は夜天の名の下に撃滅上等なの!



「その通りですねなのは……私もお供いたしますよ。」

「うん、お願いねシグナム。」

恐らくは、ヴィータやズィルバ達も緊急警報は受け取っただろうから、現場に最強の戦力が集う事は間違いないと思うの。
アミタさんとキリエさんも出動するだろうから、誰が相手だろうと瞬殺して事件解決は間違いない!!!――それじゃあ、行くよシグナム!!



「御意に。――参りましょう、なのは!」

「うん!行こう、シグナム!!」





「やっぱ、なのはさんとシグナムさんのコンビは息ピッタリっすね?」

「うふふ、アレが愛の力がなせる業よ?」

「ギン姉、ちょっと意味わからない。」

「少しは理解する姿勢を見せなさいよアンタは……」

「其れには少しだけ同感かな……」




ん?ナカジマ姉妹とティアナが何か言ってたみたいだけど、此れはこの際気にしておくべきモノじゃないかな。

兎に角、魔導技術を悪用した事件が起きたって言う事は見過ごせないから、先ずは其れを何とかしないとだよ――夜天の主として、絶対に解決しないとだからね!








――――――








Side:シグナム


さてと、現場に到着した訳だが、此処は銀行だな?……典型的な銀行強盗と言った所かも知れんが、相手が魔導の力を手にしているのであれば油断は出来んな。
魔導の力は、攻撃に使えば甲冑をも貫き、防御に使えば銃弾すら防ぎきると言うモノだからな……其れが悪用されるなど、其れこそ笑えない事態だ。

其れは其れとしても、状況はどうなっている?分かり易く教えてくれんか?



「ハッ!犯人グループは銀行員と一般人の計15人を人質に取り、そして逃走用のヘリを要望して居ます。
 此方に対して要求を呑むために、一時間の猶予を持ちましたが、政府の方針は決まらず、そろそろタイムリミットと言うところです!!」

「成程な……となれば、事は一刻を争う事態である訳だ。」

テロの可能性も考えて、政府の対応は慎重になって居るのだろうが、大事な時に決断が下せぬのでは意味がない――故に、此処は我等が突入して、事態を収拾す
るのが、最もベターな方法だと愚考しますが、いかがでしょうかなのは?



「愚考だなんてトンでもない――寧ろ、其れでいいよ。其れがベスト。
 何よりも、私達が、夜天の主とヴォルケンリッターが事態の収拾に当たってる以上は仕損じなんて言う事はあり得ない。
 それに、私達だけじゃなくて、はやてやお市さんも出向いてくれてるし、直にアミタさんとキリエさんも現着するだろうから、不安要素は何処にもあり得ないからね。
 だから、此処は突撃一択だよ!!」

「ヘッ、そう来なくちゃな!
 つーか、難しい事をごちゃごちゃ考えるのは性に合わねぇ――下らねぇ事する奴等は、纏めてぶっ叩く!そんだけの事だぜ!!」



ふ、相変わらず勇ましいなヴィータ?……まぁ、その勇ましさとパワーは、戦場に於いては非常に頼りになっているけどな。


ですが、そう言う事ならば、早速行くとしましょうか!!



「うん!――先ずは突入経路の確保!!合わせてシグナム!!」

「御意に!!」


ディバイィィィィィィィン……バスターァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!

焼き貫け、飛竜一閃!!!



――ドゴバガァァァァァァァァァァァァァァァァッァン!!!



よし、此れで突入経路は確保出来た――一気に乗り込むぞ!!



「……今の一撃で、犯人グループが壊滅した可能性は無いのだろうか?……少しばかり、気になるのだが。」

「気にするなナハト姉さん。寧ろ気にしたら負けだ。
 其れ以前に、今の一撃で犯人グループが壊滅したとしても、其れは其れで結果オーライだからマッタク持って何の問題にもなりはしないさ。」

「言われてみれば、其れもそうだな。」



だろう?とにかく今は、犯人グループを――








「ああぁ……いやだ……止めろ…止めろぉぉぉぉぉぉおぉ!!!」

『ギ……ガ………ガオォォォォォォン!!』



――ドスゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!




「いぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



確保せんと思って、突入したのだが、此れは一体何だ?一体何が起きていると言うのだ!?

蜘蛛のような姿のロボットが銀行内を歩き回り、手当たり次第に破壊行為を行い、更には犯人グループの構成員まで殺害するとは――一体コイツ等は何者なのだ?



「分からない。
 だけど、このロボットを無力化しない事には、この一件を解決する事は出来ないと思うから――相手が誰であろうとも、私達の全力全壊で道を切り開くだけだよ!」

「そうでしたね……ならば、先ずはこの機械人形を殲滅するとしましょう!!」

どうにも正体が分からんが、貴様等を見ていると無性に腹立たしくなって仕方ないのでな……八つ当たりかも知れんが、纏めてくず鉄と化してくれる!!



さて、覚悟は出来ているな?

貴様等は貴様等のデッドラインを超えてしまった……精々、その身に滅びが訪れるその時まで、醜く生きているが良い。――只の機械に、心が有ればの話だがな!















 To Be Continued…