No Side


――西暦2015年:海鳴市・海鳴中央スタジアム



2012年に初開催された魔導戦競技会『メイガス・ヴァルキリア』も今年で3回目を迎え、その第3回大会のタッグ部門の決勝戦も大いに盛り上がっていた。


決勝戦を戦うタッグの片方は、軍服風の黒いバリアジャケットに白いマントを羽織った女性『フェイト・テスタロッサ』と、ダークブルーのバリアジャケットを纏い、大剣型の
デバイスを手にした女性『高町はやて』。

何方もクロスレンジよりのバランス型だが、はやてはパワー重視、フェイトはスピード重視で、其れが巧くかみ合って、破竹の勢いで決勝まで進んできたのだ。



「ちぃ……大体予想はしとったけど、マッタク持って通じてないやん此れ?
 って言うか、ユニゾンと集束砲と疑似固有結界を禁じ手に指定されても、此れだけの強さってドンだけよや?言っちゃ悪いけど、バグってんやないの姉やんて!?」

「そ、其れは若干否定できないかもしれないかな?姉を相手に言う事でもないと思うけど。
 でも、単体での戦闘力も当然として、やっぱりあの2人は組むとトンでもない強さだよはやて?……マッタク持って付け入る隙が見当たらないからね。」



だが、この2人であっても決勝戦の相手である黒衣の魔導師『高町なのは』と、これまた黒衣の剣士『シグナム』の夜天コンビには敵わないようだ。
現在は全能力をフルオープンにする事で、拮抗しているが、シグナムは兎も角として、なのはは禁じ手が有るにも関わらず、圧倒的な強さを発揮している事を考えると、
どうにも勝利のヴィジョンが見えてこないのは仕方ない事だろう。

更に、なのはの強さも然る事ながら、夜天の筆頭騎士であるシグナムの強さもまた相当なモノである。
歴戦の騎士の名に恥じない剣技と、フェイトに勝るとも劣らない素早さ、そして其れで居乍ら防御力も高いと言う死角のない能力は脅威そのものであり、砲撃魔導師で
あるなのはとの、典型的な前衛後衛スタイルは、オーソドックスでありながらも無敵にして最強。

現に、なのはとシグナムのタッグは、1回戦から準決勝まで、全て2分以内で試合を終わらせていると言う事から見ても、その強さは言うまでもない事だろう。


「そろそろ終わりにするよシグナム!」

「了解ですなのは。最大の一撃で、フィニッシュと行きましょう!」



さて、試合の最中、超高速の誘導弾でフェイトとはやての動きを制限したなのはは、シグナムにフィニッシュを呼びかけ、シグナムもまた其れに応える。
次の瞬間、レイジングハートの先端には魔力が集中し、レヴァンティンはボーゲンフォルムになり、其処に炎の矢がつがえられる――此れで準備は万端だ。


「終わりだよ、はやて、フェイト!ディバイィィィィィィィン……バスターーーーーーーーーーーー!!!

『マスターの連覇の為にも、此処で散って下さい。』

翔けよ隼!

『Sturmfalken.』


そして放たれた桜色の直射砲と、真紅の隼は、動きを制限されたフェイトとはやてにクリーンヒット!!
如何に高ランクの魔導師であるフェイトとはやてであっても、夜天の主従の必殺合体攻撃に耐えられるはずがなく、此れがトドメとなって完全KOされてしまった。


同時に其れは、なのはがこの大会全ての部門で三連覇を達成した瞬間でもあり、その偉業達成に、会場からは割れんばかりの歓声と拍手が沸き起こっていた。













魔法少女リリカルなのは~夜天のなのは~  夜天101
『Striker'S開幕!その序章!』












Side:なのは


ふ~~~……お疲れ様シグナム。
この大会にシグナムとタッグで出場するのは初めてだけど、やっぱりシグナムとのタッグは物凄くしっくりくる感じだったよ?コンビネーションも良い感じに決まったしね♪



「そう言って頂けると光栄ですよなのは。
 私も、此れだけの観衆の前で戦うと言うのは初めての経験でしたが、殺し御法度の純粋な戦技の比べ合いと言うのは、何とも心が躍るものが在りましたからね。
 正直な所、共に出場したのは大きな収穫であったと思って居ます。」

「其れなら良かった。思い切って誘った甲斐も有ったよ♪」



グランツ博士が、世に魔法を知らしめてから早8年が経ち、今や世界中で魔導技術を使った色々な物が開発され、最近では原発に変わる新たな発電システム『魔導
発電』なるものまで開発されるように成って来た。

だけど、世界は技術改新は起こったモノの、大きな混乱も無く、平穏無事って言うのが正直な所かな?
寧ろ魔導技術が発展した事が、泥沼化してた紛争の終結や、テロの制圧に大きな成果を上げた事で、寧ろ魔法が知られる前よりも平和になったのかも知れない位。



で、私『高町なのは』はと言うと、現在は調理師の学校に通う傍ら、グランツ博士が組織した魔導自警団『ブレイブ・デュエリスト』の一員として働いてたりする。
加えて、魔導戦競技会『メイガス・ヴァルキリア』に第1回大会から出場してる、常連選手でもあるんだよ♪

そのメイガス・ヴァルキリアの第3回大会も、今のタッグの決勝を、シグナムとのコンビで制して三連覇。
シングルの部では今年もフェイトの熱戦を制して三連覇、チームではズィルバ、ナハトヴァール、ザフィーラ、ヴィータ、シャマルと組んで余裕の三連覇達成!

此れは間違いなく、明日のスポーツ紙の一面を飾っちゃうよね?



「其れは間違いないのではないでしょうか?
 と言うか、一部ではこの大会は『高町なのはの為に存在してるのか?』とまで言われているくらいですからね?……其れだけ、貴女の力が凄いと言う事でしょう。」

「本っっっっ気で、トンでもないわよねアンタの実力って!?
 第1回大会で猛威を振るったって事で、『集束砲』『ユニゾン』『疑似固有結界』が禁じ手にされてるにも関わらず、三冠王で三連覇は、流石にあり得ないわよ絶対!
 弱音を吐くのはガラじゃないけど、ハッキリ言って今のアンタと勝負しても、勝てる気が全くしないわ。」

「ホントに、魔導師になった頃は大きな差は無かったのに、今じゃすっかり実力に差が付いちゃったよね。私達だってトレーニングは欠かしてないんだけどなぁ……?

「なはは……ある意味で、禁じ手が設定されたから余計に強くなっちゃったのかもしれないよ?
 切り札全てが禁じ手にされたって言う事は、其れを使わなくても勝てるように成る必要がある訳だから――多分そう言う事だよ、アリサ、すずか。」

「どんな理屈よ其れは……」



さて、高校に上がった頃から、私は皆の事を『ちゃん付け』で呼ばなくなった。
確かはやてから『なたね姉やんの事は『なたね』って呼ぶのに、未だに私を『はやてちゃん』て呼ぶのはちょおオカシクない?』って言われたのが切っ掛けで、はやてを
『ちゃん付け』しなくなってから、自然と皆の事も名前だけで呼ぶようになったんだよね。

因みにそれを期に、アリシアちゃんの事も『アリシアさん』て呼ぼうと思ったんだけど、其れは本人から『今まで通りでお願い』って言う事で、アリシアちゃんだけは其のま
まで呼んでるんだけど。



「まぁ、良いわ。不撓不屈、無敵にして最強の『エース・オブ・エース』の親友だって言うのは、アタシの誇りであるとも言えるもの。
 ――さてと、だけどこの後の優勝者インタビューは覚悟しときなさいよなのは?多分、今回のタッグ優勝は、過去2回よりも報道陣が詰めかけて来るでしょうからね。」

「へ?何で?」

「だって、なのはちゃんとシグナムさんのタッグって、過去2回のなのはちゃんのタッグと比べると全然凄かったから。
 フェイトちゃんやなたねちゃんと組んだ時も強かったけど、シグナムさんと組んだ今回はまるで次元が違う感じを受けたよ?――絆の強さみたいな物を、感じたんだ。」



絆の強さ……其れはそうかも知れないね。
でも、そうだとしたら嬉しいかな?私にとってシグナムは、只の筆頭守護騎士じゃなくて、主従関係を超えた最高のパートナーだからね。



「それは、私も同じですよなのは。――ですが、其れは其れとして、報道陣が其れを感じ取ったとなると些か厄介ではありませんか?
 間違いなく私達の関係について聞いてくる輩が居るでしょうが、当たり障りのない答えでは、一部のマスゴミに捏造記事を書かれかねませんよ?」

「なら正直に言えばいいだけだよシグナム。
 寧ろ、私とシグナムの関係を公表しちゃえば、学校のクラスメイトの男子と一緒に居ただけで『熱愛発覚』とか言われる事も無くなるだろうから、寧ろ万々歳なの。」

「そう言うモノですか?」

「そう言うモノだよ?」

あのバレンタインの日から、私とシグナムは、所謂『恋人同士』な訳だからね。(第68話参照)
同性カップルへの偏見が強いのは分かってるけど、だけど誰にも私とシグナムの関係は否定させないよ!私は、シグナムを選んだ事を後悔してないからね?



「其れは私もですよなのは――誰が何と言おうと、私は貴女を愛して居ます。」

「あ~~~、いちゃつくのは他所でやんなさいよ?
 つーか、来年には同性婚を認める法案も可決されるだろうから、可決され次第さっさと結婚しちまいなさいよアンタ達。盛大な結婚式を設定してあげるからさ?」



にゃはは、その時はお願いしますだよアリサ。



さてと、それじゃあインタビューに出向こうかシグナム?
私達の強さの秘訣と、私達の関係を、余すところなくマスコミの人達に教えてあげるとしよう!――良いよね?



「貴女が其れを望むのならば、私は何も言いません。――ですが、私としても、其れで良いと思って居ます。」



だったら問題なしなの。――夜天の主と、夜天の筆頭騎士が恋人同士って言うのは、流石にスキャンダルものかもしれないけど、私はシグナムとの関係を有耶無耶に
伝える心算は無いから、どんな結果になろうとも、後悔だけはしないの。




だって、シグナムは、文字通り私にとっての最高のパートナーだからね♪









――――――








Side:スカリエッティ


いやはや、3年前からこの大会はチェックしていたが、高町なのは君の強さは圧倒的だな?……否、圧倒的等と言う言葉では表現しきれない程に凄まじい物がある。
過去2回の大会は、プレシア女史の娘さん達と組んだようだが、此度の第3回大会では、チームで守護騎士達を、タッグで筆頭騎士であるシグナム君をパートナーにし
て、圧倒的な実力差を持ってして優勝を掻っ攫った訳だからね?

会場に飛ばしておいたサーチャーからの情報だと……ククク、此れはまた、何とも笑いがこみあげて来るね?
なのは君とシグナム君については予想していたが、彼女の、高町なのは君の関係者は、ほぼ全員がSランクであるとは――私でも予想し得なかった事だよ。


誰が何と言おうとも、彼女こそが『真の夜天の主』である事に変わりはないだろうね?――グランツが、特別目に掛けていた事も納得できると言うモノさ。










――だが、此れだけの力を持っているとなると、管理局の馬鹿共が黙ってはいないだろうね?



これ等の映像を入手した上で、此れだけの魔導師が存在している地球を、管理世界にしようと目論んでるのは、考えるまでも有るまい……マッタク愚かなモノだよ。
なのは君を如何にかして管理局にと考えているのかも知れないが、彼女は絶対に管理局に入る事は無いだろうね?


彼女は誇り高き『真の夜天の主』であり、その守護騎士達は彼女に尽き従うだろう。
特に筆頭騎士である『烈火の将』は、彼女と主従と言う関係を超えた関係になっているようだし、高町なのは君の友人達だって管理局には靡かない筈だ。



まぁ、私的な交流のあるリンディ提督に協力する事くらいは有るかも知れないけどね。――取り敢えず、時が来るまでは、私は私の為すべき事をしようか。





所で、一架、四菜は一体何をしてるのかな?


「そ、其れはですね………」



「黒衣の魔導師と、黒衣の剣士が恋人同士……此れはもう、辛抱堪りませんわ~~~!!
 今年の夏の新刊は、なのはお姉さま×シグナムお姉さまで決定ですわ!!夜天の主と、夜天の筆頭守護騎士のカップル……も、妄想しただけで…ぶほわぁぁ!」



――パァン!!!



ヤレヤレ、一体何を妄想したのだろうね?……間違いなく、碌でもない事ではある事は間違いないと思うのだが……
尤も、四菜の作る『薄い本』が家計の足しになってる以上、強くは言えないのが現状だが……此れは、三女の三月が就職するのを待つしかなさそうだよ。



だが、其れは兎も角として、最高評議会の老害が暴走するまで、もう間もなくと言ったところかも知れないね?



尤も、暴走して彼女達に要らない事をした暁には、其れが倍になって返ってくると思いたまえよ?


何せ彼女達は、最強クラスの魔導師達であり、その頂点に君臨するのは、黒衣の魔導師にして真の夜天の主たる、高町なのはなのだからね。



さて私も、事が起きた際に割り込む準備をしておかないとだな。








―――――――








Side:シグナム


あの大会から数日……私となのはの関係を大っぴらにしてから数日と言う事になるのだが、何と言うか、あっさりとし過ぎる位に、私と貴女の関係は受け入れらたよう
ですねなのは?

私としては、マスコミ関係が面白おかしく書き立てて、もっと面倒な事になるのかも知れないと思ったのですが……



「多分、お母さんとお父さんがマスコミに圧力かけたんだと思うよ?……高町夫妻に盾突くべからずって言うのは、ある意味で常識みたいな物!――らしいからね。」

「今更ながら、桃子殿と士郎殿は、普通の海鳴市民ですよね?」

「だと思うんだけど、最近ちょっとだけそうじゃ無いかもって思う事があるのも事実なんだよシグナム……」



……ならば、これ以上は詮索しない方が良いかもしれませんね……主に自分の為に。






しかしなのは、恐らくこの星に魔法技術が発展した事は、管理局でも把握しているでしょうから、何れこの星を管理世界にせんとして来る事は明白だと思いますが……



「来たらその都度相手にして、返り討ちにすればいいだけの事だよ。其れに、リンディさんからも、管理局の動きがどうにもきな臭いって言う事は聞いているからね?
 ……間違いなく、そう遠くない未来に、管理局と事を構えるって事態に成ると思うけど、私達は絶対に負けない――だから、その時は頼りにしてるからねシグナム♪」

「光栄ですなのは。――その時が来たならば、その期待には応えて見せましょう。」


本音を言うならば、そんな時は来ないのが一番なのだがな。




魔法が世界に知られて8年が経ったが、寧ろ今まで何も起きなかったのが不思議なのだ――魔法が世界に知れ渡った事で生まれた歪み……其れは、何が何でも取
り除かなければな。



まぁ良い、何が来ようとも、我等に仇なす者は斬り捨てるだけの事だ。
真なる夜天の主と出会い、そして手にしたこの生活は、何人たりとも穢させはしない――この世界こそが、真に私の生きるべき世界だと、そう思っているからな。




いずれにせよ、新たな物語の幕が上がったのは間違いないだろう――A'sからStSへと移る、新たな幕が上がったと言う事はな。















 To Be Continued…