Side:グランツ


まさか、君から連絡が来るとは流石に驚いたよ、ジェイル・スカリエッティ博士……その口調だと、先刻のなのは君達の模擬戦の様子も見ていたようだね?
まぁ、君ならば僕の研究所内部で行われている事を、モニターやら何やらをハッキングしてみる事は難しくないだろうから、其れに関しては其れほど驚いては居ないけ
れど、マッタク持って何が目的で現れたんだ、ジェイル・スカリエッティ博士?


『知れた事……私の最終目標である『世界征服』を成し遂げるために決まってるじゃないかグランツ・フローリアン博士。
 終ぞ分かり合う事は無かったが、其れだけに君は誰よりも私の夢を理解し、そして協力はせずとも共感してくれると思っているからね!!』



成程……マッタク持って、相も変わらず爽やかな笑顔で『世界征服』とか言う辺り、余り変わっていない様で安心したが――悪ふざけはこの辺にしておこうジェイル。


『ふむ、確かにやり過ぎては興醒めだからね。』

「そう言う事だね……と言うか、本当に唐突だなジェイル?大学卒業以来だから、大体15年ぶりじゃないか?
 マッタク、毎年暑中見舞いと年賀状を送っているというのに、この15年間に只の一度も君から返事が来る事は無かったからねぇ?少しは心配していたんだよ?」

『其れは失敬……だが、知っての通り、私は究極の筆不精でね――返事を書かねばと思いながらも如何にもね。
 ――だがグランツ、今日連絡したのは伊達でも気紛れでもないのだよ。――君が魔法を世界に知らしめた事で、間違いなく世界は大きく動き出すだろうからね。』



其れは、確かにそうだろうね。
此れまでファンタジーの世界の物だと思われていた魔法が、現実の物となれば否が応でも世界は動く……動かざるを得ないだろう。其れは分かっていた事だよ僕も。


『だが、その変化は地球だけでは済まないんだよグランツ。』

「……其れは、如何言う事かなジェイル?地球以外にも影響があると?」

『ふ、愚問だなグランツ……あるに決まってるじゃないか。
 地球外の多くの世界には関係ないだろうが、管理外世界で魔法が認知されたなどと言う事を、時空管理局が放っておくはずがないじゃないか……管理局からしたら
 管理外世界で魔法の文化が花開いたと言う事は、驚天動地の事態だからね。』



時空管理局が?いや、だがしかしそんな事があるのかも知れないね?
アースラのスタッフは真面な人達で構成されているが、其れの裏返しの様にヴォクシーの様な局員だって存在して居る訳だから……此れは、雑談では終わらないね。













魔法少女リリカルなのは~夜天のなのは~  夜天100
『Kurs um zu StS fuhren』












しかし、君は一体何処で管理局の事を知ったんだいジェイル?
たしか君は大学卒業後、ロボット工学の方に進んだと記憶しているから、管理局の何かを知る機会なんて言うのは無かったんじゃないかと思うんだけれど……………


『其れについては、私の研究が評価されたって言う所だね。私が学生時代に研究して居たモノを覚えているかいグランツ?』


ん?確か、肉体に合わせて成長する金属を使った義肢を研究して居たね?
君の理論だと、其れを使えば事故で身体の一部を失った人に腕や足を与える事が出来るって言う事だったが、其れが何か関係して来るのかい?


『私の研究を覚えていてくれるとは有り難い。うむ、正直言うと弩ストレートに関係して来るね。
 管理局とはパイプがあるようだから、既にご存知かもしれないが、管理局と言うのは万年人手不足の状態に陥ってるのは知っているね?』


うん、其れはリンディ提督から聞いたよ?
リンカーコアを持つ人間は少なくないけど、高ランクの魔導師は極めて少ないって言う事をね――おかげで人手不足の状態が長年続いているらしいが……


『その通りだよグランツ。
 今の今まで、管理局は新しい血を外部から取り込む事を拒絶して来た、ある意味で究極の封鎖社会を作り上げようとしてた訳だ。
 そしてその要となるのが、管理局が魔導師に設定した魔力ランクと魔導師ランク――其れが高ければ高いほど、利用価値があるって言う事なんだが、其れが逆に
 管理局の人手不足を誘発する直接の原因になったのさ。』



と言うと?


『質量兵器を禁じ、市民から武力を奪った上で高ランクの魔導師を管理局が抱え込んでしまえば、管理局で世界を支配する事が可能だろう?
 故に、優秀な魔導師は全て局員にしてしまおうと考えたのさ――だが、蓋を開けて見ると、管理局が設定した魔導師ランクに於いて、ランクAを超える魔導師は一握
 りしか居なく、まぁ仕方なくランクB以下の者も集めた訳だが、其れでも魔導師となれる人物は恐ろしいほど少なかったという訳さ、人口に占める割合がね。
 だが、其れでも数々の魔導兵器の開発や、時たま現れるオーバーSランクの魔導師なんかのおかげで今まで持って居た訳だが、いよいよ人手不足は無視できる状
 態では無くなってね?――其処で、私の研究に目を付けたという訳さ。何処で知ったかは知らないけれどもね。』



魔導師に拘った挙句の人手不足という訳か……だが、其れで如何して君に行きつくのかが分からないんだが?


『幾ら人手不足と言っても、局が禁止している質量兵器を使う訳には行かないだろう?
 ならば私の研究を利用して、金属の骨格部分に魔導兵器を内蔵した人間を作り出したらどうなるかな?――其れは疑似的な魔導師として使えると思わないかい?』


「其れは!!……確かに、君の研究していた技術と併せれば可能だろうが、そんなモノは余りにも人の道を外れ過ぎている!
 大体にして君の研究だって、身体の一部を失って困って居る人達の為だった筈だろ?――そういう人達からの支持も有れば、世界征服も進めやすいとか言って居なかったかい?

『あぁ、その通りだから勿論お断りしたよ。
 最初は良い話かとも思ったけれど、如何にも話を聞いて行くときな臭い感じがしたからね……何より、モニター越しに面会した『最高評議会』の最高幹部を見た瞬間
 に、言いようのない嫌悪感を覚えてね。』


最高評議会の最高幹部?
最高評議会と言う名前自体は、リンディ提督やプレシア女史から聞いた事があるけれど、君が其処まで思うとは、相当な人達みたいだね?


『人……人か……果たしてあの状態の彼等を『人』と称して良いのか非常に悩むところだが――グランツ、君は『永遠の命』は存在すると思うい?』

「また唐突だねジェイル?……まぁ、そんなモノは存在し得ないと思うよ?
 此れから先、クローンの技術やら何やらが進めば、クローン技術で作った若い肉体に脳の記憶を移すなんて言う事も出来るようになるのかも知れないけど、其れを
 『永遠の命』と呼ぶ事は出来ないだろうからね。」

『その通り、存在しない。
 だが、最高評議会の最高幹部達は、在りもしない其れを欲しているのさ……そして、その結果、彼等は肉体のメインコンピューターである脳以外の肉体を捨てた。
 そう、彼等は既に肉体は滅びたにも拘らず、特殊な培養液の中で防腐と延命の処置を施しながら、脳髄だけで存在しているのさ!!
 人の欲と業は深いと理解しているし、私自身も己の知的好奇心に関する事ならばどこまでも欲深いと自覚しているが、彼等の其れは大凡許容出来る物じゃない。
 幾ら『世界征服』とかなんとか言ってる私でも、彼等の様な悪を通り越した邪悪で悍ましい存在に手を貸す程おろかじゃないさ。』



其れはまた……如何ともしがたい人達、もとい『脳達』が居たものだね?
でも、大体分かった――君の事だから、その僅かな接点から管理局の事を此処まで調べ上げたという事だろう?

君の手に掛かれば、管理局のデータベースから、其れこそSSSランクのプロテクトが掛けられた情報であっても、吸い出す事など造作もない事だろうからね。

で、本題として何で地球で魔法文明が発達すると管理局……と言うか最高評議会がしゃしゃり出て来るのかな?
大体にして地球は『管理外世界』なんだから、管理局が一々干渉して来るのは越権行為だと思うんだけどね。


『管理外世界の彼是など、都合の良い様に変えるに決まっているさ。『魔法文明があるならば管理すべきだ』とか言ってね。
 そして、彼等が地球に干渉して来る大きな理由は『人材確保』さ。
 管理局が管理している次元世界に於いても極少数しか存在しない、高ランクの魔導師や騎士が今の地球には合わせて20人も存在しているだろう?』



20人……アミタやなのは君達か!
しかも確かに全員がSランク以上、或はニアS(AA+~AAA+)な訳だし、極めて優秀な魔導師が一つの世界に集まっているという訳か!


『その通り。
 しかも、確か高町なのは君と言う少女は、管理局でもSSS級のロストロギアとされていた魔導書の正統な持ち主なのだろう?
 彼等としては喉から手が出るほど欲しい人材だろうさ……彼女を引き込む事が出来れば、もれなく守護騎士もついてくる訳だからねぇ?ま、無理だろうけれど。
 そして、当然君の事も狙っているんだよグランツ?略独学で魔法理論の構築を成した君の頭脳もまた、彼等にとっては魅力的な物だからね。』



プレシア女史の助力があったからこそなんだけれど、きっとそんな事は関係ないんだろうね。
ジェイルがダメなら僕を使うって所かな……まぁ、僕だってそんなふざけた、文字通り腐り切った脳味噌の連中に力を貸すなんて事をする気は更々ないよ。

其れに魔導技術が発展したからと言って、管理局に管理して貰う必要などないよ?
魔法技術は、発表と同時に特許も取得してあるから、僕の許可がないとデバイスなんかの開発は出来ないし、僕が世界に知らしめたのはあくまで『非殺傷』の魔法だ
から、戦争兵器への転用だってさせないからね。

加えて、非殺傷の魔法を使った戦闘も『競技スポーツ』の一種として申請する心算だし、魔導エネルギーを全てのエネルギー源にする心算もない。
あくまでも新たな力の一つとして提示最多に過ぎない――魔導が全てと言う社会を作る気なんて、傍からないからね。


とは言っても、何れは魔導を悪用した事件も起きるだろうから、其れに対応する事の出来る組織は作らねばならないとは思っているよ。


『流石に、魔法を公表しただけあってちゃんと考えているという訳だね?うむ、感心感心。
 しかし、魔法犯罪に対応するための組織と言うのは興味があるね?――其れは一体どんな物なんだい?』


僕の娘や、なのは君達……君の言う高ランクの魔導師や騎士達で作る私設武装魔導隊と言うか、魔導自警団みたいなものさ。
法的な力は持たないが、犯罪者の拘束位は出来る権限を持った集団――あくまでも、逮捕や護送は警察組織に頼むと言った感じになる訳だ。


『少数精鋭の自警団か……其れならば問題は無さそうだね。
 いやはや、よもや此処まで抜かりなく考えているとは、此れは何れ最高評議会が仕掛けてくるであろう『仮初の会談』も破綻して終わりになるのが目に見えるね。
 其れ以前に、日本を含め、各国のお偉いさんからしたら、彼等の提示する内容は実入りが少ない事になるだろうから、受け入れるとは思えないからねぇ?
 だがまぁ、其処まで考えているのならば大丈夫だろうから安心したよ。
 ――が、彼等は目的の為には手段を選ばないだろうから十分注意してくれたまえよ?』


あぁ、分かっているよジェイル。
何よりも『親友』からの忠告だ、無碍にする筈がないだろう?


『親友か……私達の場合は、何方かと言うと『悪友』と書いて『しんゆう』とルビを振る方がシックリくる気がするんだけどねぇ……まぁ、其れは良いか。
 私が伝えたかったことは、大体こんな所だよグランツ。
 だがまぁ、久しぶりに見たが元気そうで安心したよ――機会が有れば、近い内に会いたいものだね。』


確かに僕達はそっちの方が合っているかもしれないね。
まぁ、僕の方も久々に君の顔が見れて安心したよ……機会が有れば、何処かで会いたいものだね本気で。

だがジェイル、この際だから言っておくけど、如何に筆不精とは言っても、年賀状くらいは返事を寄越してくれないかな?
流石に出したのに、何にも返事がないと言うのは、如何に君が殺しても死ななそうな人物だとしても、心配になるからね――其れだけは、何とかしてくれないか?


『クククク、了解だグランツ、今度の年賀状からは返事をちゃんと書くとしよう。
 其れでは、また次の機会に邂逅しようとしようかグランツ・フローリアン博士?……君が開拓した地球の魔導文化がどうなるか、見させていただくよ!!』



是非とも、最後まで見届けてくれジェイル・スカリエッティ博士。

世界に魔法を公開した事は間違いじゃない――少なくとも僕は、そう確信しているからね。








――――――








Side:なのは


グランツ博士が魔法を世界に示してから早1ヶ月……何て言うか、目まぐるしい位に色々な事があったよ。
消防や警察組織、自衛隊にリンカーコアがなくても使えるデバイスが支給されて、災害救助なんかの能力は格段に上がったし、魔導の適性検査も行われて、リンカー
コアを持つ人達も、少なからず発見されてる。

加えて、魔導戦競技『メイガス・ヴァルキリア』が5年後から開催されるとか、本当に世界は大きく動いて来たね。

「…………」

「主なのは?」


あぁ、シグナム……如何かした?


「いえ、少しばかり主なのはが呆けている様でしたので、如何なされたのかと思いまして……」

「あぁ……うん、少しばかり、世界が大きく動いたなぁって思ってね。
 グランツ博士が魔法を世に知らしめてからと言うモノ、目に見えて世界は変化しているからね――その変化を実感してたんだよ。」

「確かに、僅か1ヶ月ですが、世界は変わったようですからね……」


でしょう?
此れだけの変化は、きっと大きなうねりと、同時に歪みも生み出すと思うの――そしてその歪みは、絶対に無視できるのもじゃない筈だから、其れが出て来た時には、
正統の、そして最後の夜天の主として、何よりも『高町なのは』として、其れを如何にかしないといけないと思うんだ。


「奇遇ですね、私も同じ事を考えていました。
 魔法が知れ渡った事で起こる歪みや不具合……烈火の将として、何よりも私個人として見過ごす事は出来ないと思っていましたから。」


そっか、シグナムも同じ思いだったんだね。
なら、きっと大丈夫!私と騎士達が、そしてはやてちゃん達が同じ思いなら、魔導を巡るどんな厄介事が起きたって、最終的に如何にか出来るって信じているの!!


そもそも、ヴォルケンリッターの皆は勿論の事、アミタさん達にフェイトちゃん達だって、超一流の魔導師なんだから、恐れる事は何も何からね!!


「その通りです主なのは。寧ろ、貴女が居て、我等が居て、貴女の周りには頼りになる仲間が、友が居る――恐れる事は何もありません。
 何よりも、我等守護騎士『ヴォルケンリッター』は、如何なる時でも、主なのはと共に居ると言う事は忘れないで下さい。――我が身は、貴女に捧げたのですから。」


う……す、ストレートに言われると流石に照れるよシグナム。

だけど、其れだけに貴女の忠誠の大きさも分かったよ!何よりも、地球での魔導の先駆者として、色々と頑張らないといけないだろうからね♪
精々『最後の夜天の主』の名に恥じない様にだけは頑張ってみるの。


「ならば私も筆頭騎士としての務めを果たすだけの事――私達ならばやれるはずですから、力の限り頑張りましょう、主なのは。」

「うん、そうだよね!!」





そして、其れからも世界は目まぐるしく変化し、気が付けばグランツ博士の魔法公表から8年の歳月が経とうとしていたの………















 To Be Continued…