Side:雪奈


起業セミナー当日……アタシは親父たちの会社に向かってスクーターを爆走中!!それも此れもマユの奴が寝坊し腐ってくれたからな
んだけどな!!
セミナーに間に合わなかったら生涯恨むぞマユ!!



「生涯恨みますか……つまり雪女さんの中に、私は永劫残ると言う事ですね?」

「そうじゃねぇよこのポンコツが!!」

「違いましたか、残念です。」



残念なら、残念らしいテンションで言えってんだ、このポンコツ娘が!!お前の場合、何処までが天然のポンコツで、何処までがガチな
のか分からねぇからな!!



「境界線不明ですか、ちょっとミステリアスですね。」

「そのミステリアスはお前自身だけどな。」

今更ながらに、生きたオーパーツじゃないよなお前?……ちょいとばかりその可能性が否定できない事に怖くなって来たぜ。









ヤンキー少女とポンコツ少女とロリッ娘とEpisode47
『不良と生醤油と下ろしにんにく』










まぁ、其れは其れとして親父とお袋の会社に無事到着して、セミナーの参加者として会場に入ったんだが、予想してた事だが、高校生の
参加者はアタシ達だけみたいだな。
高校生で起業しようって思う方がレアケースって事なのかも知れないけどな。


「いえ、私達だけではないようですよ雪女さん……あちらに委員長さんが。」

「え?マジだ。
 おーい、委員長何やってんだよ?アンタが起業セミナーに来るとは思わなかったぜ……アンタ、弁護士目指してるって言ってなかった
 っけか?」

「奇遇ですね雪女さん、西行寺さん。
 えぇ、私の目標は弁護士ですが、雪女さんが起業して会社を興した際には顧問弁護士になると言ったでしょう?なので、起業について
 少しでも知っておいた方が良いと思ったんですよ。」

「成程、アンタらしい理由だぜ。」

しかしまぁ、注目されてんねアタシ等?
参加者の殆どが大学生とか、一念発起したと思われるうだつの上がらないオッサン予備軍とかの中に、現役JKが居れば注目されるの
は仕方ねぇんだが、参加者の中には所謂『チャラ男』的な奴もいるから警戒だけはしとくか。
マユや委員長に手を出した時にゃ、問題にならねぇ程度に撃退してやる必要があるだろうしな。

さて、今回のセミナーだが、午前と午後の二部構成になってんだな。
午前中は起業に関しての基本的な説明――必要な書類とか登記の方法なんかの講義を受けて、昼休みを挟んでの午後の部では、起
業して成功した人を講師に招いての体験談ってか。
てか、社長自らが体験談を話すんじゃねぇんだな……自社のイベントで其れをやると、手前味噌になっちまうからだろうな。

何にしてもテメェの将来の為だから、気合入れて内容を頭に叩き込まねぇとな。



「その気合いを学業に向けていたら、間違いなく試験は1番になれたのではないですか?」

「やろうと思えば取れるぜ1番。
 だけど不良のアタシが1番取ったら、絶対にカンニング疑われっから、敢えて取らねぇんだよ。毎回平均点より少し上になるように調整
 するのも楽じゃねぇんだ。」

「では、高校最後の試験では1番を取って下さい。と言うか、山寺先生の英語では100点取ってあげて下さいよ。
 山寺先生ならば、貴女のカンニングを疑う事も無いでしょう?」



あ~~、山ちゃん先生ならそうだけどよ、他の教師は如何よ?特に数学の山崎とか、絶対にカンニング疑うぜ?……あの野郎、完全に
アタシの事敵視してっからなぁ。
アイツの授業をサボりまくってるアタシもアタシだが、サボりまくってるアタシを懲らしめようとして、珍しく授業に出てる時にやったら滅たら
難しい問題をぶつけてくる山崎も山崎だ――でもって、そのたんびにアッサリとアタシに問題解かれて懲らしめ損ねてっから、余計に嫌
われてんだろうな。



「他の教科は私にお任せ下さい。
 カンニング防止の為に、最後の試験では私が雪女さんの後に座りますので……真後ろと言うのは、最もカンニングに気付きやすい席
 ですからね。」

「いや、そこまでしなくてもいいだろオイ。」

「委員長さんの優しさですねぇ。」



優しさ、何だろうな此れも。
さて、雑談は此処までみたいだな……講師の人が入って来たからな。



そんな訳で始まったセミナーなんだが、起業ってのは思ってた以上に難しくないみたいだ。
起業に必要な6ステップをきちんとすれば、誰でも起業が出来ると言ってたが、其の6ステップってのが



1.起業の準備→2.事業計画書の作成→3.資金計画→4.起業計画の具体化→5.起業→6.事業開始



言っちまえばこんだけ。
だが、その中でも起業の準備ってのが一番大事みたいだ……まぁ、当然だな。準備がちゃんと出来てなきゃ、どんな事だって巧く行くは
ずがねぇからな。
起業分野の絞り方については、目に鱗だったな……利害関係抜きで自分のしたい事を考えるか。
要するに、金儲けとか有名になりたいとかは二の次にして、企業理念として成立する、テメェが本当にやりたい事、其れを考えるのが起
業の第一歩って事か。
其れは同時に、テメェに何が出来るのかってのを考えねぇとなんだが、ぶっちゃけアタシの場合はガキの頃に親父とお袋にやらされてた
稽古事のおかげで、寧ろ出来ねぇ事を探した方が早いから、そう言う意味では困りそうにねぇ。
スキルは結構あるし、必要な資格だってやろうと思えば多分取れるし、人脈は千鶴ちゃんとメユの組関連で其れなりに有るし、資産だっ
てJKにしては破格の500万だからな。
他にも、許認可や法規制のチェックや、起業資金を溜める必要があるんだが、そっちの方は何とかなる――法規制に関しては、弁護士
目指してる委員長に頼めば自分で調べるよりも確実な事が分かるだろうからな。

事業計画書の作成とか、資金計画とかもあるんだが、結局の所、起業ってのはテメェが本気でやりたい事をやる為の究極の手段だって
事はよく分かったぜ。
俄然やる気が出て来た感じだなコイツは……アタシに出来る事は多いが、その中からテメェが一番やりたい事を選択して、其れを企業と
して成立させるとか、面白いじゃねぇの!



「おや、火が点いたようですね?」

「雪女と言う渾名なのに、火が点くと誰よりも熱いとは……雪女の名は返上しませんか?」

「しない。」

雪女の異名は、アタシが不良として生きて来た証でもあるし、アタシとケンカした連中がアタシにビビった事の証でもあるから雪女の名を
捨てる心算はマッタクねぇんだわ。
それによぉ、起業して成功したら、雪女の名前って結構使えそうじゃんよ?『ホリエモン』みたいなノリで。



「では、ユキエモンと言うのは如何でしょう。」

超却下(ふざけんな、馬鹿)。」

「ダメですか、残念です。」



許可する筈ねぇだろアホ。
取り敢えず午前中の部が終わって、今は昼休みで、所謂社員食堂でランチタイムだ。
NHKの『サラメシ』で、最近は社食も結構レベル高いってのは知ってたんだが、親父とお袋の会社も其れに漏れずだったぜ!
アタシはガッツリ行きたかったから、飯は大盛りのソースカツ丼で、おかずはサバの味噌煮と回鍋肉にしたんだが、ドレもめっちゃレベル
が高くてビックリだぜ。
しかも此のレベルで、定食は500円、単品価格が200~300円って良心的過ぎんだろ。アタシのセットも、これで合計900円だしな。
因みに委員長が頼んだカレーうどんと天婦羅のセットは400円で、マユが頼んだ海鮮フライ盛り合わせ定食が500円……懐に優しい事
この上ねぇな。



「其れで雪女さん、どんな業種で起業する心算ですか?」

「そうだなぁ……ネットショッピングの会社とか如何かと思ってんだ。
 主な取り扱いは服とかアクセサリーなんだけど、其処は不良らしく『アウトローファッション』ってのを入れてみようかと思ってんだ。具体
 的に言うと、暴走族の特服とかヤクザの家紋入りスーツとかを専門に取り扱う部門をさ。」

「成程、其れは新しいですね。」

「だろ?
 それに、ガチのアウトローじゃなくても、アウトローファッションにあこがれてる奴ってのは少なくないから、結構良い線行くんじゃねぇか
 と思ってんだわ此れ。」

「面白いアイディアですね……此れは、若しかしたら当たるかもしませんね。」

「へへ、アンタにそう言って貰うと自信が付くぜ委員長!」

で、ランチがてらアタシの起業に関しての話をしてたんだが……



「君達女子高生だよね?君達みたいのが、こんなセミナーに参加するなんて、珍しいね?」

「将来は女社長ってやつ?
 カッコイイね~~!俺、君達みたいな子って好みなんだよね~~?ねぇ、セミナーが終わったらちょっと付き合わない?起業って言う
 目的を持つ者同士、仲良くしようよ。」



其れをぶち壊すようにDQNなチャラ男が行き成り現れやがった……この手の輩は、アタシの一番嫌いな人種なんだよな。
悪いけど、アタシ等はアンタ等に付き合う心算は毛頭ねぇんだよ……こちとら、将来の事を真剣に考えてセミナーに参加してんだ!その
場でナンパとかしてくる輩に興味はねぇんだよ。
分かったらさっさと消えな……アタシの理性が残ってる内にな。



「強気だね彼女?そんな態度がまたそそるぅ!」



馬鹿は死ななきゃ治らないと言うが、死んでも治らない馬鹿ってのは居るみたいだな……チャラ男の1人がアタシに手を伸ばして来たん
だが、その手を掴んでガッチリ握りしめてやる。
アタシの握力は余裕で100kg超えるから、効くだろあぁ?
此のままテメェの手首を粉々に砕いてやってもいいんだぜ?……選べ、手首を粉々にされるか、其れともこの場から去るかをな。



「あ、あっちで大人しくしてますから、腕だけは!!」

「そうか、ならさっさと立ち去れ。
 そして、二度とこんな事をするんじゃねぇ……もしも今度同じ事をしてるのを見たらその時は、テメェ等の男としての選手生命を完全に断
 ってやるからその心算で居ろや。」

「は、はひ。」

「声がちいせぇぞ!舐めてんのかテメェ等!!」

「「ハイィィィィィィ!!!」」



んだよ、やればできるじゃねぇか。最初っからやれってんだ。
其の後で拍手喝采浴びちまったんだが、まぁ、悪い気はしなかったな。少しばかり恥ずかしかったけどよ。



そして午後の部で、起業で成功した人の話を聞いて、俄然起業に意欲が湧いて来たぜ。
当たれば長者、外れりゃ乞食のオールオアナッシングの起業ってのは、アタシに合ってる事この上ねぇだろ!!――こりゃ、遣り甲斐が
有るってモンだ。
絶対に起業して成功してやろうじゃねぇか!!



「そうですね成功しましょう。私も全力で頑張りますので。」

「いや、お前は頑張らなくて良いってば……お前が頑張ると、割と本気で碌な結果にならないからな?」

「何故そうなってしまうのでしょうか?」

「テメェが救いようのないポンコツだからじゃね?」

「其れが否定できないのが悲しい所ですね……」



だな。
取り敢えず起業のノウハウは分かったから、本格的にやってみっか!!










 To Be Continued… 



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