Side:雪奈


アフ……今日も今日とて良い陽気だ……サボるには持って来いの陽気だな。
体育は午前中で終わったし、午後は家庭科も理科もねぇから、アタシが居なくてもマユは大丈夫だ――もしも何かあった場合は委員長
が何とかすっだろうし。



「へぇ……私に丸投げする気ですか雪女さん?」

「げ、委員長何で此処バレたし?」

「貴女がサボりに使う場所は、西行寺さんから教えて貰いましたので、何処に逃げても無駄ですよ?
 あぁ、西行寺さんが貴女を売ったとかではなく、其れとなーく『雪女さんは何時も何処でサボってるんですか』って聞いたら、貴女が良
 くサボりに使う場所を教えてくれただけですから。」

「いや、サラッと人の秘密バラしてんじゃねぇよあのポンコツ!」

「そのポンコツのおかげで、私としては大助かりですけれどね?
 と言うか、今日の午後は進路調査があるんですからサボるのは不味いでしょう流石に?……ドレだけ適当だとしても、進路希望の紙
 は書いて提出しなければならない訳ですから。」

「あ~~~……そういや今日だったっけかそれ……クソめんどくせぇなオイ。」

でもまぁ、適当でもなんでも書かなきゃならねぇってんなら出るとすっか。
其れよりもよぉ委員長、今アタシは寝転んでる訳よ?んで、お前はアタシの頭の所に立ってんじゃん?……パンツ見えてっぞ。



「何を見てるんですか!?」

「いや、どっちかつーと見せられたんだけど?……取り敢えず高校3年生でクマさんは如何よ?」

「言わないで下さい!!」

「まぁ、個人の趣味だから如何でも良いけどよ?」

だが、コイツは良いネタを手に入れたぜ……言いふらす気はねぇが、偶に弄ってやるネタが手に入ったってな――にしても、進路か。
はてさて、どう書いたもんかねぇ?









ヤンキー少女とポンコツ少女とロリッ娘とEpisode45
『不良と粉チーズとオリーブオイル』










あ~~……だっりぃ。
おいマユ、お前進路希望なんて書いた?



「料理人です。」

「は?」

「ですから料理人です。
 高校を卒業したら、調理師の学校に行って、何処かの店で修業して将来的には自分の店を持とうかと思ってるんですよ。きっと独創
 的な料理屋を造れると思うのです。」

「独創的ってのは同意すっけど、オメェが料理人になんぞなれる筈ねぇだろうがボケ!
 お前は何か?就職先の街を壊滅させる気か?其れとも、不特定多数の人間を謎の腹痛で入院させる気か!?家庭科1の超絶不器
 用なオメェに料理人が務まる訳ねぇだろ!!」

「調理師の学校でみっちり勉強すればきっと大丈夫ですよ?」



だいじょばねぇんだよお前の場合は!
つーか、勉強して何とかなるなら、アタシが家庭科の授業、特に調理実習の時に必ず出席する必要はマッタクないんじゃオタンコナス。
味噌汁が爆発し、フライパンが火を噴いて、圧力釜はぶっ壊す!ドンだけ改善させようとしても全く改まらない所か、場合によっちゃ悪
化してんだろオメェの場合!
つーかな、普通に料理して失敗するなら未だしも、なんでレトルトカレーの湯銭とか失敗すんだよ!有り得ねぇだろ普通に!!



「湯銭は難しいので、袋のまま電子レンジに入れたら爆発してしまいました。」

「アホか!!袋のままレンジに入れるなって書いてあんだろ!」

「その一文が目に入りませんでした。
 そう言う重要な事は、赤字で大きく書いて欲しい物ですねぇ?」

「オメェの注意力が足りねぇだけだ!
 つーか、袋のモノを切れ目を入れるまたは器に空けるなんかをしないでレンジにかけたら袋が爆発するなんて事は、今日日小学生で
 も知っとるわ!
 そんな常識すらねぇお前が、料理人なんぞできる訳ねぇだろ!よしんば調理師学校卒業してどっかのレストランに就職したとして、お
 前の持ち前のポンコツが発動して、1週間も勤務しないで解雇だろ普通に!!」

「おぉ、其れはすさまじいスピード解雇ですね?」

「オメェの事を言ってんだよ、このポンコツ!!
 あんましポンコツ過ぎっと、廃品回収かチリ紙交換に叩きだすぞ!!」

「其れは嫌ですねぇ?出来れば高額で買い取ってくれるリサイクルショップの方が良いです。」

「いや、反応すべきは其処じゃねぇだろ!!」

こんにゃろう、今日は一段とポンコツ具合に磨きがかかってるじゃねぇか……突っ込みが間に合わねぇってか、アタシの突っ込みを越え
て行くってか……今日のマユは絶好調だなオイ。
ま、料理人って夢があんのは悪い事じゃねぇと思うが、現実見たら無理だろ絶対?お前の場合、特別なスキルを必要としない仕事の方
が良いと思うぜ?
お前の為にも、社会の為にもな。
つっても、夢がある時点でアタシよりゃ立派だけどよ。



「そう言えば雪女さんは何と書いたのですか?」

「一応は進学希望にしといたが、多分無理だろうな。
 アタシの内申は最悪レベルに悪いだろうから、まずそこからしてダメだろ?内申が悪けりゃ、幾ら試験でいい成績取ったって落とされ
 るのは目に見えてるしな。
 加えて悪いのは、何度か校内でケンカしちまってる事だな……アタシから売ったケンカは1つもねぇけど、其れでも相手を病院送りに
 しちまったのは流石にな。」

おまけにサボり上等な上に喫煙に、他校生やその辺のチンピラともケンカしてるしからなぁ……しかもケンカ相手は略全員病院送りにし
てるし――アタシは売られたケンカを買っただけで、アタシは一人で相手は複数だったって事で一応の正当防衛が認められてポリの世
話になった事はねぇけど、この手の話は尾鰭がついて回るのが世の常だからな。
ウチの学校の教師にだって、誇張された噂が流れてるだろうしよ……山ちゃん先生と、校長の爺さんはアタシの味方をしてくれるが、生
活指導と教頭はアタシの事目の敵にしてっからなぁ?
ぜってー内申は最悪に悪いわ。



「では、就職ならば如何でしょう?」

「そっちも厳しいだろうよ?
 やっぱ内申悪いと印象良くねぇし、就職の場合は面接でアウトだろ?内申が悪いと、この髪の色だって地毛だって信じて貰う事は出
 来ねぇだろうからな。」

「では、如何しましょうか?」



どうしたもんかねぇ?
いっそ進学も就職もしねぇで起業しちまうか?今は資本金が1円でも株式会社は設立できんだ、やって出来ねぇこたねぇよな?
アタシの場合、パチンコで結構稼いだから貯金500万位あるし……こりゃ、本気で起業するって選択肢もアリかも知れないぜ……不良
だからこそ出来るビジネスってのもあるかもだしな。



「起業ですか、其れもアリだと思います。」

「だよな?
 そうだ、アタシが起業する場合は、お前も一緒に会社の設立者になれよ!そうすりゃ、お前も職探さなくて済むだろ!!」

「おぉ、其れはとってもビッグアイデアです。凄いです、わー、ぱちぱちぱち。」



純粋に褒めてるんだろうが、何だろう、物凄く殴りてぇ。
つーか、口で擬音を言うんじゃねぇ!!



――ぶに~~~!!



「あにょ、いらいんですけど?(あの、痛いんですけど?)」

「じゃかぁしい、ムカつく事するお前が悪い。」

いや、しっかしお前ほっぺた柔らかいな?
おぉ、面白れぇ良く伸びる。何だお前、ゴムゴムの実でも食べたのか?



「たべてまひぇんよ?というかいらいのではなしてくだしゃい。(食べてませんよ?と言うか痛いので放してください。)」

「分かった。」

「ほっぺが伸びたまま戻らなくなるかと思いました……顔の筋肉固いんですから、変に刺激しないで下さい、吊ってしまいますので。」

「そういやそうだったな、悪かった。」

でも、起業は本気で考えてみっかな?
元不良が起業して一発当てたとなったら話題になるだろうしな。



「其れは面白そうですね?
 貴女が起業するその時は、私も一枚かませて貰っていいかしら雪女さん?」

「委員長?なんで?」

「実は私、大学の法学部に行こうと思ってるんですよ、将来の夢は弁護士ですので。
 なので、雪女さんが起業するなら、会社の顧問弁護士になるのも良いかなと思いまして……会社には、顧問弁護士が居た方が良い
 でしょう?」

「まぁ、そりゃそうかも知れないが、アンタが其れを申し出て来た事が意外だわ。」

「不良と委員長は、切っても切れない縁があるんですよ雪女さん。
 そして一度繋がった縁はそう簡単に切れる事は無いんですよ……其れに、私は個人的に貴女の事は嫌いではありませんので。」



おぉっと、そう来たか。
ま、アタシも個人的にはアンタの事は嫌いじゃねぇよ?少々口うるせぇとは思うけどな。



「貴女が不真面目だからでしょう?
 最低出席日数に抵触しないようにしてるとは言え、堂々とサボルのは止めてくれませんか?其れだけならばまだしも、教室内で堂々
 とタバコ吸わないで下さい。」

「教室では吸ってねぇだろ最近は。ベランダで吸ってるっての。」

「それ以前に喫煙しないで下さい未成年。タバコは身体に悪いですよ?」

「分かっちゃいるけどやめらんねー♪」

いやぁ、タバコの依存力は麻薬以上だって聞いた事があるけど納得だわ。
興味本位で手を出したけど、もうやめる事出来そうにねぇわ此れ――でもまぁ、町の健康診断では全然マッタク問題ない結果だったか
ら大丈夫だろ。
世の中にゃ1日1箱以上吸ってんのに癌にならねぇ奴だっているんだしな。
まぁ、其れは其れとして、アンタが顧問弁護士ってのはこの上なく頼りになるから、アタシが起業したその時は頼むぜ委員長?



「えぇ、その時はお任せ下さい。」

「その時は私も頑張りますよーーー。」



いや、お前は頑張らなくて良いぞマユ。お前が頑張ると、大概碌な事にならないからな。



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・・・



んで放課後。今日はマユは家族との予定が有るって事で一緒じゃなく、メユと千鶴ちゃんと一緒にボーリングなんだが……千鶴ちゃん
よ、頑張ってボール投げるメユ可愛くね?



「可愛いようん。
 だけどさ、アレだと絶対ストライク取れないだろ?……ユキちゃんが一緒に投げてストライクとらせてやったら如何?あの子も喜ぶと思
 うよ?
 あの子、ユキちゃんのこと好きみたいだしね。」

「其れも良いかもな?なら次はそうするわ。
 そういや、千鶴ちゃんは将来どうすっか考えてんのか?」

「将来?
 そうだな……今は族のリーダーやってるけど、何時までもそんな事はしてられないから、高校卒業したら親父に弟子入りして実家の
 寿司屋継ぐつもり。」



マジで?そりゃスゲェ。
千鶴ちゃん美人だから、店継いだらきっと話題になるぜ?『美人女将が切り盛りする寿司屋』ってな。そうなったらその時は、SNSで拡
散してやるぜ。



「そりゃ有難いね?そう言うユキちゃんは何か考えてんの?」

「アタシの場合進学も就職も無理っぽいから、いっそ起業しようかと思ってんだ。」

業種もまだ決まってないから、可能性の一つでしかないんだけどさ……でも、起業して会社起こしたその時は、取引先の接待とかには
千鶴ちゃんの店使わせて貰う事にするぜ。



「毎度!顧客ゲットだな!
 でもよぉ、起業して巧く行かなったらどうすんのよ?」

「あ~~……如何すっかな?」

「その時は、うちに来ると良いよ雪女のお姉ちゃん。」



メユ?其れはどういう事でしょうか?



「起業に失敗したら、うちの組に入れば良いんだよ雪女のお姉ちゃん。
 お父さんもお母さんもお姉ちゃんの事は気に入ってるし、銀次郎さんをはじめとした組の皆もお姉ちゃんの事を慕ってるし、雪女のお姉
 ちゃんなら、即幹部間違いないしね♪」

「うぇーい、ヤクザに歓迎されてたぜ。」

つーか、即幹部間違いなしって、ドンだけ期待されてんだアタシは!?
まぁ、どうしようもなくなった時の為の選択肢としては考えておくぜメユ……だが、選択肢の一つとは言っても、絶対に進路希望には書
けないよな。
つーか、書く奴は先ず居ねぇだろ……ヤクザの組員になるなんて事を書く奴はな。


だけどまぁ、アタシには其れもアリかもな――ヤクザの幹部ってのも面白そうだからよ。









 To Be Continued… 



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