Side:雪奈


始業式の3日後は入学式か……めんどくせぇからサボる心算だったんだが、委員長が生徒会長権限を発動して、新入生への挨拶をアタ
シに任せやがったからサボる事が出来なくなっちまったぜ。
まぁ、其れをやっても良いかもって言ったのはアタシだから、文句を言う事は出来ねぇんだけどさ。
だけどよぉ、マジで此れで良いのか委員長?



「インパクトと言う面で言えば、それ以上のモノは無いでしょう雪女さん?」

「其れはそうかもだけどよ。」

まぁ、任された以上はやるだけだってな。


さてと……先ずは入学おめでとう一年坊!
アタシは、この学園最強のヤンキーの早乙女雪奈、通称『雪女』だ。学園一の不良が新入生への挨拶ってのは如何なモンかとも思うんだ
が、抜擢されちまったモンは仕方ねぇってやつだ。
長ったらしい話は面倒だし、聞いてる方だって飽きちまうから、アタシからお前達に伝えたい事を簡潔に言わせて貰うぜ。
アタシから言える事は、テメェを偽るな。テメェを抑圧するな。テメェが決めた事は、何があっても最後までやり通せって事だけだ。
真面目に高校生活を送るもよし、不良やるも良しだが、テメェで『こうだ』って決めた道なら、どんな困難があっても、其れを貫き通せ!
中途半端ってのは一番良くねぇからな。

其れと、一年坊の不良でアタシとケンカしたいって奴は何時でも来な……気持ちよく相手になってやるからよ。



「自殺願望のある方は、是非ともおいでください。」

「オイコラ、どっから湧いたマユ?」

「湧いたとは失礼ですね?人を蟲扱いしないで下さい。」

「オメェの場合は、蟲よりも菌類の類かもだけどな。」

「では、増殖しましょう。」

「しなくていいわボケ。」

お前みたいなポンコツが増殖したとか、悪夢以外の何物でもねぇからな――まぁ、其れは其れとして、入学式でのアタシの挨拶は結構良
い感じだったみたいで安心したぜ。










ヤンキー少女とポンコツ少女とロリッ娘とEpisode38
『不良と花椒と唐辛子パウダー』










で、入学式の翌日……今日はやる気が出ないから、朝っぱらから授業ふけて、裏庭の大木で一休みってな。……この木は太くて立派な
枝ぶりだから、昼寝するには丁度なんだよ。
屋上に次いでお気に入りの場所だぜ。

さてと、ソロソロ昼飯時だから、学食に――



「しっかし驚いたぜ!まさか、この学校に伝説の雪女が居るなんて!!」

「まさか、入学式での挨拶をするとは思わなかっけどな。」



行こうと思った所で、木の下に一年坊の不良集団がやって来たんで、タイミングを逸しちまったぜ――だが、連中の話題はアタシに関して
のことみたいだな?



「だけどよぉ、アレが雪女とか、ちょっと拍子抜けしちゃったぜ俺。
 噂から察するに、どんなゴリラ女かと思ったら、銀髪蒼眼の美人さんと来たモンだ――ゴリラ女じゃなくて良かったけどよぉ、逆にあの見
 た目で本当に強いのか疑問が残るよな?」

「ま、ソコソコはやるんだろうけど、噂に尾鰭は付き物だってのが俺の考えだね。
 噂には真実も隠れてるとは言え、幾ら何でも1人でチーマー1つ潰したとか、1日で10個のグループを叩きのめしたとか、関東最強の暴
 走族の総長とマブダチとか、ヤクザ組織と繋がりがあるってのは誇張だろ。
 見た感じ、ガタイが特別良い訳でもない……まぁ、凶器使えば複数の人数相手にも戦えるだろうが、其処まで超人的な強さじゃないだ
 ろう――そうだな、条件が同じなら、タイマン張った場合は俺が勝つだろうぜ。」

「マジで?伝説の雪女に勝つとは大きく出たなお前?」

「こう見えて、俺は空手を習ってるんだ。
 有段者がケンカすると問題になるから昇段こそしてないが、実力的には黒帯レベルだ。」



オイコラ、噂だけで人の容姿を判断すんじゃねぇ。誰がメスゴリラだこの野郎。――まぁ、噂だけ聞いたらそう思う気持ちは分かるけどよ。
だが、アタシに勝つってのは聞き捨てならねぇな?
大方、中学時代は地域最強の不良で通ってて、其れがそのまま高校でも通用すると思ってんだろうが……雪女を舐め過ぎだぜお前。



「ほう、雪女さんに勝つとは大きく出ましたが、其れは聞き捨てなりませんね?」



ってマユ!?
なんでこんな所に――って、アイツはアタシが使ってるサボり場所全部把握してんだったな……昼休みになったから、昼飯を一緒に食う
為に此処に来たって事か。



「あん?アンタ誰だよ?」

「はぁ、誰かと問われれば、雪女さんの友人の西行寺真雪であると答える事になりますねぇ?」

「は?アンタが雪女のダチって……え、ギャグ?」

「いえ、ガチです。
 其れでですね、貴方が雪女さんに勝とう等と言うのは、烏滸がましいを通り越して、身の程知らずの極みであるかと――空手の有段者
 レベル程度の腕前で雪女さんに勝てる筈がないと断言します。
 何故なら、雪女さんの強さはこの世の常識が一切通じないレベルで、貴方方が耳にした噂は全て真実ですから。
 関東最強の暴走族のヘッドとは中学の頃からの親友であり、ヤクザ組織とのつながりは、そのヤクザの親分の一人娘と友達で組の若
 頭からも慕われてるんですよ。
 私の言う事が信じられないのであれば、入学式で進行を務めていた委員長、もとい生徒会長にも聞いてください。きっと同じ事を仰るで
 しょうから。
 時に、慣れない長ゼリフを話したせいで顔の筋肉が少々突っ張ってしまったのですが如何しましょう?」

「いや、知らないよ。
 取り敢えず、アンタが雪女のダチ公かどうかは兎も角として、俺が雪女に勝てないって言ったのは取り消して貰うぜ?」

「いやです。取り消す理由が見当たりませんので……取り消すと言えば、ホテルのキャンセル料って、なんであんなに高いんですかね?
 微妙にぼったくり感を感じます。」

「知らないよ。
 じゃなくて、取り消さないと痛い目見るぜ先輩?」

「私としては痛い目よりも、旨い目を見たいものですね。具体的に言うと、宝くじ5億円当たって欲しいです。」

「……奇天烈発言も体外にしろよ先輩!!」



マユが持ち前のポンコツ思考で不良軍団を相手にしたが、リーダー格をキレさせるだけだったみたいだな……まぁ、ある意味当然の結果
だったとも言えるけどよ。
だが、仮にもダチ公がやられそうになってるのを、黙って見てられるほどアタシは人間出来てねぇんだよな。
と言う訳で、てい!!



――ドスン!

――グシャァァ!!




「ゲベラ!?」

「んな!?」

「テメェ、何しやがる!!」

「あぁん?援護攻撃だ。文句あるか?」

「て、テメェは、雪女!!」



ハッ!アタシが此処に居る事も知らずに、随分と粋がった事を言ってくれたじゃねぇの一年君よお?『同じ条件でタイマン張ったら俺が勝
つ』とはな。
ま、其れだけなら未だしも、メユに手を挙げようとした事は見過ごせねぇわ流石に。
そいつは如何しようもねぇポンコツで、生きてるだけで周囲に迷惑をかける様な困った奴だが、其れでもアタシのダチである事に変わりは
ねぇんだよ――そのダチ公に手を挙げようとしたんだ、テメェ覚悟できてるよな?
つーかよ、タイマンならアタシに勝てるって言いきったんだから、其れを証明してみろや……テメェも漢だろ、ああ?



「言われずともその心算だ。
 アンタを倒して、俺が学園最強を名乗らせて貰うとしよう。」

「やってみろ。お前なら出来るかも知れないぜ。」

ってな訳で、一年坊の不良グループのリーダーと事を構える事になったが……成程、コイツは確かに結構出来るかもだぜ――空手を習
ってるだけあって構えに隙がねぇ。
有段者レベルってのはふかしじゃないないみたいだぜ。

だが、其れが如何した!
こちとら親父とお袋にやらされた稽古事で、ありとあらゆる格闘技を体得してるから、今更空手の有段者レベルの相手にビビったりはしね
ぇんだよボケ!
寧ろ、テメェの方がビビれ!この構えでな!!



「!!此れは、天地上下の構え!!……其れを会得しているとは!!」

「天地上下の構え、其れは空手に於ける攻防一体の、構えの極みの型……だからどうしたってんだ!!」

「アタシがこの構えをした以上、テメェの敗北は決まったって事だアホたれ!」

まずは一足飛びからの飛び蹴り!
其処から、胴抜き、正拳、アッパーの連続技を叩き込んで、吹っ飛びかけた所を強引に胸倉掴んで引き寄せてヘッドバッドの嵐!アタシ
の石頭の頭突きは強烈だぜ!!
更に其処から首相撲にとっての連続膝蹴りを叩き込んだ後は、ブレーンバスターの形に持ち上げた後で、肩で首をホールドして、両手で
相手の両足をホールドして、そのままジャンプ!した後に、一気に勢いをつけて着地!
これぞ48の殺人技、超人五所蹂躙絡み!またの名を『キン肉バスター』と言う!!



――ドガァァァァァァァン!!



「げぴゃぁぁぁぁぁ!?」

「ま、アタシのダチ公に手を出しちまった事を後悔するんだな。
 で?テメェ等は如何する?やるってんなら相手にはなるぜ?」

「「「「「「「「「ひぃぃぃぃ!!俺はまだ死にたくねぇ!!」」」」」」」」」



……あ~ララ、蜘蛛の子散らすように逃げて行っちまったぜ。
ったく、テメェより強い奴とはケンカする度胸もないハンパモンが不良やるんじゃねぇってんだ――んで、テメェは大丈夫かマユ?



「お陰様で五体無事です。」

「なら良かったぜ。」

んで、アタシの居場所を分かってるから此処に来たんだろうが……昼飯は如何した?



「其れに関しては大丈夫です、ちゃんと購入してありますから……此れが私が心惹かれた『ブラックカツ丼弁当』です。カツだけなく、卵と
 ゴハンまで容赦なく真っ黒になったカツ丼に、無限の可能性を感じました。」

「微塵も可能性を感じねぇよアホたれ。
 まぁ、其れは兎も角アタシの弁当も買って来てくれたんだろ?」

「はい。
 一番人気の、ワサビ庵の『マグロキムチ丼』を確保しました。」



マジで?
だとしたらよくやってくれたぜマユ――ワサビ庵のマグロキムチ丼は、人気だから中々食う事が出来なかったからな……雪女のダチ公っ
てのは伊達じゃねぇなオイ?



「私だって、此れ位はしますよ。
 時に委員長さんも呼びましょうか?」

「そうだな、呼ぶか。ランチは賑やかなほうが楽しいからな。」

その後、委員長も合流してランチタイムを満喫したんだが、今日の一件は瞬く間に、一年坊の間で拡散して、アタシはすっかり一年坊から
恐れられる存在になっちまったな。
まぁ、学園最強の不良なら、其れ位が丁度良いのかもしれねぇけどさ。










 To Be Continued… 



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