Side:雪奈


な~んか世間が浮足立ってると思ったら、そう言えばバレンタインとやらが近づいてたか……菓子業界の陰謀とも思える此のイベントに乗る
気は更々ねぇから関係ねぇけどよ。



「本当に関係ありませんか?」

「関係ねえだろマユ?其れすら分からなくなるとは、脳ミソ大丈夫かお前?」

「お陰様で大丈夫です。
 ですが、本当に関係ないのかを今一度考えては如何でしょうか雪女さん――メユさんは、まず間違いなく雪女さんへのバレンタインチョコを
 用意してると思いますよ?」

「……その可能性は全然考えてなかったぜ。」

バレンタインなんて、理由付けてテキトーにチョコ食ってりゃ良いと思ってたからな。
となったら、アタシがお返ししないとか有り得ないから、手作りチョコにチャレンジしてみっか!――幸いにして、手作りトリュフは其処まで難易
度が高くはないから材料だけ揃えれば後は簡単だからな。



「私も帰ったらバレンタインチョコとやらを作ってみる事にしましょうか?」

「やるのは勝手だが、家吹っ飛ばしたりすんなよ?
 おめーのポンコツ力と、大凶10連続を考えっとマジで家が吹っ飛びかねぇ……いや、オメェんちだけなら未だしも、3軒両隣まで巻き込み
 そうだから怖い。」

「火の出ない電気調理器使えば大丈夫でしょう。」



其れでも安心できねぇんだよなオメェの場合は。
頼むから、ニュース速報で入ってくるような大惨事だけは起こしてくれるなよ?……途中の神社に寄って神頼みしてくか。










ヤンキー少女とポンコツ少女とロリッ娘とEpisode34
『不良とココアとバニラエッセンス(芳醇)』










ちゅー訳で、家に帰ってから早速手作りトリュフ製作開始!
つっても、湯煎したチョコに生クリームとかを混ぜて適当な固さになったら丸めて粉付けて完成なんだが、其れじゃあなんの芸もねぇから少し
ばかり凝ってみるか。
親父にやるのには……やっぱラムが香りが良いよな。で、丸める時に中にラムレーズン入れて、ココアパウダーの代わりに砕いたアーモンド
をラムでフランベしたモンをまぶして完成。
で、メユにやるのには、子供に酒は不味いから、オレンジブランデーのアルコールを飛ばして混ぜて、細かく刻んだオレンジピールを入れて、
ココアパウダーを振った後で、パウダーシュガーを薄くかけて完成ってな。
後は入れモンだが、親父には1日早いが飯の後のデザートで出すから良いとして、メユのは……アタシがガキの頃に使ってた弁当箱にする
か。
アレはキレイに保存されてるし、猫の顔の形で見た目も可愛いからな。耳の部分をリボンで縛れば体裁も良いし。

よっしゃこれで完成だ。
後は明日の朝、迎えに行った時に渡して、そんでもって汐さんに冷蔵庫で保管して貰うように言えば良いか。アタシみたいな不良なら、学校
に菓子もってこうが何しようが構わねぇが、小学生が学校にチョコ持ってったら大問題だからな。


んでだ、親父に夕食後のデザートとして『1日早いけど』って前置きしてチョコやったらなんか物スゲェ感動されちまった。
余程嬉しかったのか、若干マジ泣き入ってたからなぁ……実の娘からバレンタインのチョコ貰うってのがそんなに嬉しいもんかねぇ?お袋や
会社の女性社員からも貰ってるだろうから、アタシのなんぞ今更だと思うんだがな?



「娘からのバレンタインチョコは、お父さんの憧れなのよユキちゃん♪」

「お袋、若干理解出来ねぇ。」

ま、取り敢えずは喜んでくれたから良いとするか。



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でもって翌日!
今日もアタシが到着する前にモンの前に出て待ってたなメユ?迎えに来た相手を待たせない、その心掛けはとっても良いと思うぜアタシは。

「おはようさんメユ!」

「おはよう、雪女のお姉ちゃん!」


「「ハッピーバレンタイン!!」」



おぉっと、タイミングが一緒だったな?
マユの予想通り、メユはアタシへのバレンタインチョコを用意してたみたいだな……アタシも用意しといてよかったぜ。――マユには今日の昼
飯奢ってやるか。



「わぁ、雪女のお姉ちゃんも用意してたんだ!」

「バレンタインなんざ関係ねぇって思ってたんだが、マユの奴が、メユがアタシに用意してると思うとか言いやがるから、貰いっぱなしってのは
 良くねぇと思ってよ。
 まぁ、なんだ、少々不出来かも知れないが受け取ってくれや。」

「ううん、ありがとう!
 入れ物も、猫ちゃんで可愛い!」

「そうかい、気に入ってくれたなら良かったぜ。」

だが、其れは汐さんに冷蔵庫に入れて貰ってきな。学校に持ってっちまったら大問題、最悪の場合は先公に没収されちまうかもだからな。
でもって、放課後まで没収されるだけなら未だしも、喰われちまったら笑う事も出来ねぇぜ……



「だね、そうする。
 アレ?でもそうなると雪女のお姉ちゃんも……」

「いや、アタシは大丈夫だ。
 高校だと、校則で禁止されてる事でも義務教育程厳しかねぇんだわ。アタシの銀髪は天然だから未だしも、頭染めてる奴は少なくねぇし、ピ
 アス空けてる奴もいるからな?
 チョコレート持ち込んだくらいで取り上げられる事はねぇって――そもそもにして、アタシは普通にタバコ持ち込んでるし。」

「流石、最強の不良だね。」



ハッハッハ、加えてアタシの場合は背中の凶器入れにトンデモねぇモノが入ってたりすっからな!
そんで銀ちゃん、此れ作りすぎて出た余りモンだけど、良かったら食ってくれや。友チョコって事で。



「雪女の姐さん、有り難く頂戴いたしやす。」

「あ~~~!銀の兄貴、雪姐さんから1人だけ貰うなんてズリィっすよ!俺達にも分け前を!!」

「あぁ?ざけんなオラ!!
 テメェ等に分配したら俺の分がなくなっちまうだろうが!てかテメェは女居ただろうが!ソイツから貰えってんだ!!!」

「雪姐さんのは別格なんすよ兄貴!!」

「知るかボゲェ!欲しけりゃ力尽くで奪ってみろや!
 てかな、テメェもヤクザなら頼み込むくらいなら喧嘩吹っ掛けて奪う位の気概を見せろってんだ!!」

「上等!行くぜテメェ等!銀の兄貴から雪姐さんのチョコを奪うぞーーー!!」

「「「「「「「「「「おー!!!」」」」」」」」」」」

「良い顔してんじゃねぇかテメェ等……上等だかかってこいや!
 だが高々10人ちょっとで、此の磯野崎組の若頭、『鬼も泣き出す銀次郎』に勝とうなんざ、甘っちょろいにも程があるぜ!!」



で、そのチョコが火種となって朝っぱらから乱闘勃発ってか……つーか銀ちゃん、アンタ結構おっかない二つ名があったんだな。
なんだよ『鬼も泣き出す』って……他の組との抗争で、よっぽどヤッベー活躍したって事なんだろうなぁ――まぁ、スキンヘッドのスカーフェイ
スにグラサンって時点で見た目のおっかなさは断トツだけどさ。
……そんじゃ行くかメユ。流石にヤバくなったら源一郎さんが止めるから大丈夫だろ?



「お父さんが止める前に、銀次郎さんが全部倒しちゃうだろうけどね。」

「マジか。」

アタシが言っても説得力ねぇが、10人相手にして制圧出来るとか銀ちゃんの戦闘力も割とぶっ飛んでるよな。



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メユを送り届けて、何時も通りに登校。今日は理科の実験があるから絶対にサボれねぇしな。
そういやマユ、無事にチョコレートは出来たのか?火事のニュースはなかったから、取り敢えずは無事に出来たんだろうけどよ?



「はぁ、まぁ一応は?」

「んだよ、よく分からねぇ反応だな?」

「其れも仕方ないのですよ雪女さん。
 世の中には義理チョコなるものが存在してるのは知っているのですが、私が作って出来たモノは、義理チョコではなくギリギリチョコレートと
 言うべきモノでしたので。」

「あ?どういうこった?」

「見て貰えば早いかと。」



――うぞうぞうぞ……


『キシャァァァァァァァァァァァ!!!』




マユが取り出した箱の中に居たのは、チョコレート色の蠢いて奇声を発する謎物体……何だこれ?



「チョコレートを湯煎してトリュフを作った筈が、何故かこの様な物が出来てしまいまして……なので、ギリギリチョコレートと。」

「ギリギリじゃなくて大幅にアウトだろこの野郎。」

つーかよ、なんでトリュフを手作りしようとして謎生物が誕生すんだオイ。
お前は何か?妙な錬金術でも使ってチョコレート作ろうとしたのか?――何だって、こんな妙なモンが出来るのか説明しやがれ!!



「謎です。
 と言うか、朝の段階では蠢いているだけだったのですが、此の短時間で奇声を発するようになるとは、驚くべきスピードで進化している様
 ですね?」

「いや、進化すんなよ!!
 てか、こんな短時間で進化するとか、何処のポ○モンだオイ!!」

「ナゾノチョコと言った所ですね。」

「言い得て妙だな……で、如何するんだ其れ?」

「面倒なので委員長さんにあげてしまいましょう。」

「……お前、時々容赦ねぇよな。」

「えっへん。」



褒めてねぇっての。
だが、流石に委員長にやるのは不味いと思ったから持ち帰って処分しろって言ったんだが……まさか、放課後までに両手足が生えて普通
に動き回るようになるとは予想外だったぜ!!
謎のクリーチャーの出現に、校内が大混乱状態になっちまったから、最後はアタシが必殺の金属バットで叩き砕いたけどよ。
ったく、バレンタインデーにチョコレートで出来たクリーチャーをぶっ殺す事になるとは思わなかったぜ……取り敢えずマユ、オメェ二度とチョコ
作るな!!



「何故でしょうか?」

「今日みたいに、妙なクリーチャーを生み出されたら堪ったもんじゃねぇからだよ!!」

「あ、そう言う事ですか。」



察しろ馬鹿野郎!そしていい加減、テメェのポンコツ具合を理解しろってんだ!!
因みにぶち砕いたチョコレートクリーチャーは、砕いたら一口サイズの個包装のチョコレートに変わったから、皆で美味しく頂いたぜ。食べ物
を粗末にするのは駄目だからな。

でもってメユから貰ったチョコレートは、大きなハート形のチョコ……じゃなくて、奇しくもアタシが作ったのと同様、手作りトリュフだったぜ。
少しばかりぎこちなさが見て取れたが、メユの頑張りが目一杯詰まったトリュフは、今まで食ったどんなチョコレートよりも旨かったと感じた。

菓子業界の陰謀と思って無視してたが、バレンタインってのも、満更悪いもんじゃないのかも知れねぇな。









 To Be Continued… 



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