Side:雪奈


学園祭後の日曜日、アタシは磯野崎組のお屋敷に来てたりする――其れだけなら未だしも、ゴスロリなメイド服を着てるとは……いや、分かっ
ては居るんだ。
学園祭の時に、メユに『一日メイドやってやる』って言ったのが原因だからな。
其れ自体はアタシが言った事だから仕方ねぇんだが、此の和風のお屋敷にゴスロリメイドは如何よ?――此処は、和服なメイドさんを宛がうの
が正しいと思うんだけどな?



「雪女のお姉ちゃんは、そのメイド服が似合うから、その格好でお願い。」

「チッ……しゃーねぇなぁ?お嬢様のお願いとあっちゃ、断る事は出来ねぇっての。」

でもよぉ、このメイド服は学祭でアタシが着てたモンじゃねぇよな?この家に専属メイドが居るとも思えねぇし、何だってこんなフリフリのメイド服
があんだよ?
しかも誂えた様にサイズがアタシにピッタリだし――って、まさか!!



「家にはメイドさんの服無いから、ママに頼んで買って貰ったの♪」

「うふふ、浴衣の時のサイズでピッタリだったみたいね♪」

「やっぱりアンタか汐さん!!
 娘のお願いを聞いてやるのは良いんですけどねぇ、何だってサラッとアタシのサイズのデータ持ってんすか!学校のデータバンクにハッキング
 したんじゃないっすよね!?」

「そんな事しなくても、愛雪との対比でサイズは分かっちゃうから安心して♪」

「ウワォ、微妙にそっちの方がこえぇ!!」

メユとの対比でアタシのサイズが分かるとか、ドンだけの測量眼持ってんだこの人?……やくざの姐さんやる人は、其れ位の特技みたいなモン
がねぇと務まらねぇのかもな。
これ以上、衣装に浮いての彼是を突っ込むのは止めにして、今日は1日メユの専属メイドを務めさせて貰うとすっか……相当異色なメイドにな
るのは間違いねぇだろうがな。










ヤンキー少女とポンコツ少女とロリッ娘とEpisode26
『不良とカスタードチョコシュークリーム』











でだ、一緒に此処に来た訳だからお前が居るのは別に問題ねぇんだが、何だってアタシ向かってスマホを構えてやがるんだマユ?



「お気になさらずに。
 学園祭の時のメイドさんよりも素晴らしい出来ですので、写真に収めて委員長さんに送って差し上げようと思っただけですので――あ、山寺
 先生にも送りましょう。」

「な~~に、要らねぇ事しようとしてんだテメェは?」

勝手に写真撮って、勝手に人に送ろうとするとか何考えてんだオメーは?肖像権侵害で訴えんぞコラ。
つーかよ、普段はポンコツで普通の事を普通にやろうとして被害が出る様な事しかしねぇのに、なんでこう言う要らねぇ事する時だけは的確に
して迅速な行動が取れんだオメェは?
普段からその行動力発揮しろや、舐めとんのか?

って、何しようとしてんだマユ!!



「『舐めてるのか?』と言われましたので、実際に舐めてみようかと。」

「そう言う意味じゃねぇよタコ!!馬鹿にしてんのかって意味だボゲェ!!」

「雪女さんを馬鹿にするなんて空恐ろしい事できる訳ないじゃないですか。私はまだ死にたくありません。」

「狙ってやってんじゃなくて、素なのが余計にムカつくわ!!」

「褒め言葉、ではありませんよね?」

「当たりめぇだ。」

っと、褒め言葉じゃないって事は学んだみたいだな。
はぁ、取り敢えず写真は勝手に撮るな。ってか、アタシはメユの専属メイドだからお前には奉仕しないからな?……かと言って、お前までメイド
になるとメユに奉仕する時間が無くなりそうだから――銀ちゃん居る?



「何でしょう、雪女の姐さん?」

「今日ってさ、敵対組織をぶっ潰す予定とか有る?」

「えぇ、ウチのシマに仁義通さずに、勝手に店を出した奴が居まして、調べてみたら堅気じゃなかったんで挨拶に来いって言ってたんですが、調
 子こいてふんぞり返ってやがるんで、ちょいと教育してやろうかと……其れが如何したんで?」

「ならよ、一緒にマユの事連れてってくれ。
 コイツの戦闘力は皆無だが、持ち前のポンコツ発揮して敵に大ダメージを与える事が出来るのは、ライブハウスの一件で証明済みだから、場
 合によっちゃ弾薬消費しなくて済むかもだぜ。」

「いぃ?いや、良いんですかい?」

「殴り込み現場ですか?其れはとても面白そうですねぇ?」



大丈夫だ、コイツは一般人とは感覚がずれてるし、アタシとつるむようになってからと言うモノ、何度も乱闘現場に立ち会ってるから今更少しの
事じゃ動じねぇからよ。
加えて、コイツはポンコツだが変な加護があるのか何なのか、乱闘現場に居合わせていながら只の一度も自分が被害を受けた事はねぇんだ
わ……まぁ、コイツに飛び火する前にアタシが全部ぶっ倒してたってのもあるけど。
そんな訳で、大丈夫だから連れて行ってくれ――主に、メユの為にも!!



「了解しやした。そう言う事でした一緒に来て貰いますが……絶対に俺等の前には出ねぇで下さいよマユ嬢ちゃん?」

「はぁ、善処しましょう。」



此れで良し。……取り敢えず、磯野崎組の敵対組織1個の壊滅は確定したな。



「えっと、あのマユお姉ちゃん大丈夫?」

「大丈夫ですよお嬢様。
 マユはあぁ見えて度胸がありますし、ポンコツと強運と凶運が同居してるので、銀次郎様共々無事に帰ってきますので。」

「ふぇ、雪女のお姉ちゃん!?」

「お嬢様、本日の私はお嬢様の専属メイドです。
 ですので、私の事は雪奈、或いは雪女とお呼びください。」

……メユも驚いてるが、アタシだって驚いてるんだ。
まさか、学祭のメイド喫茶の為にやった見様見真似のメイドの作法をこんな所で使うとは思ってなかったし、それ以上に其れがサラッと出来ち
まってるアタシ自身に驚きなんだよ!!



「えっと、其れじゃあ雪女さんでも良いですか?」

「はい、其れでも構いません。
 其れではお嬢様、何か御用があればお申し付けください。」

「え~っと、其れじゃあ先ずは、宿題見て貰っても良いですか?」



宿題?あぁ、週末に出た宿題なら普段よりも量が多いからなぁ……金、土、日と3日分になるからな。
確かメイドってのは、教育係も兼任してる場合があったから、勉強を見てやるのもまた仕事の内か……まぁ、小学生の勉強程度なら楽に教え
られるから大丈夫か。

「分かりましたお嬢様。其れでは、自室に戻って勉学の時間に致しましょう。」

「はい、お願いします。」



ってな訳で、先ずはお勉強の時間からだ。
宿題其の物は殆ど終わってるみたいだが、算数のドリルで如何しても分からない所だけを教えて欲しかったって所か。

「お嬢様、此処は最初の掛け算が間違っています。4×8は36ではなく32です。掛け算九九の中でも、間違える確率が高い場所なので注意
 した方がよろしいですよ?」

「あ、そうだった!
 でも此処が32なら、一の位は2で、十の位は6×4で24で、其処に繰り上がった3を足して……68×4=272だね!」

「はい、正解ですお嬢様。」

分からなかった所も、単純なケアレスミスだから、其処をちゃんと指摘してやりゃ、即座に修正するから、教えるのは其れ程難しくはねぇな。
少なくとも、素で面白回答しちまうマユに教えるよりも遥かに楽だぜ。



「ありがとう雪女さん、お陰で宿題全部出来たよ。」

「いえ、お役に立てたならば私としても嬉しい限りですよお嬢様。
 其れでは、勉強を頑張られましたので、ここらでお茶を入れて一息つきましょうか?」

「うん、賛成!」

「では、お茶を入れて参ります。お嬢様はレモンとミルク、何方が宜しいでしょうか。」

「んとね、ミルクで!」

「畏まりました。」

まぁ、本場のイギリス人に言わせると、レモンは紅茶の香りを消すから外道らしいから、ミルクってのは正しいのかもしれねぇな……まぁ、アタシ
に言わせて貰えば、完璧な味覚を1とした場合、0.2しかなって言わてる連中が何を偉そうな事言ってやがるって感じだけどよ。
其れは兎も角、只のミルクティーってのも味気ねぇよな?……よし、少しサプライズ仕掛けてみっか!




「お待たせいたしましたお嬢様、お茶とスコーンをお持ちしました。」

「うん、待ってました。其れじゃあ、早速いただいまーす。」



可愛い。そう思ったアタシは悪くねぇと思う。
何つーか、メユは最近のガキにしては珍しい位にスレてねぇんだよなぁ……変に大人びてもいねぇから、等身大の小学生って感じだぜ。スコー
ン片手に紅茶を飲む姿が可愛くて仕方ないぜ。



「アレ、此れ普通のミルクティーじゃない?」

「流石はお嬢様、お気づきになられましたか。
 此れは砂糖の代わりに、砂糖を焦がして作ったキャラメルを甘味に使用したキャラメルミルクティーです。普通のミルクティーよりも深い味わい
 のある一品です。
 本日のお茶菓子であるスコーンには、普通のミルクティーよりも此方の方が良いと思いましたので、勝手ながら此方にさせて頂きました。」

「其れで正解だったよ雪女さん!此れ、スッゴクおいしい!!」

「お褒めに預かり、光栄です。」

「でも、私1人じゃつまらないから、雪女さんも一緒に楽しもうよ?」

「え?」

いや、其れは如何なんだ?
メイドってのは、主に付き従うモノであって、一緒に3時のお茶をする存在じゃねぇよな?……だがしかしだ、仮にそうだとしても、メユに上目遣
いで言われたら断る事なんて出来ねぇよな……ったく、アタシはトコトンガキンチョには甘いみたいだぜ。

「お嬢様が其れをお望みであるのならば、僭越ながら御一緒させて頂きます。」

「うん、一緒に楽しもう雪女さん♪」



……あぁ、本当に可愛いなもう!!
ずっと妹が欲しいと思ってたが、思わぬ縁で手に入れた妹分は破壊力抜群の可愛さだったぜ!!

「時にお嬢様、お茶の後は如何いたしましょう?何かご予定はあるのでしょうか?」

「んっとね、お母さんから晩御飯のお使い頼まれてるから一緒に来てくれるかな?」

「え?」

お使いに同行するって事は、この格好で外出するって事だよな?……ぬぁんだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?
此れは完全に予想外だったぜ!!どれくらい予想外だったかった言うと、某有名カードゲームで、攻撃した途端に発動された伏せカードが『攻
撃モンスターを全滅させる』効果を持った罠だった位予想外だぜ!!
だがしかし、今日のアタシはメユの専属メイド……お嬢様のお願いを断る事は出来ねぇ!!

「お使いですか……承知いたしました、御一緒させて頂きます。」

「うん、宜しくね♪」



正直、この格好で商店街に繰り出すとか、何の罰ゲームだって気持ちなんだが、メユが其れを望むなら、一日専属メイドとしては其れを叶えて
やらねぇとだからな。
せめて、見知った奴等に会わねぇ事を願うしかねぇんだが、多分願うだけ徒労だよな……取り敢えず、トラブルが起きない事だけは願うぜ。











 To Be Continued… 



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